シナリオ詳細
<漆黒のAspire>危機の兆し、闇より出ずる
オープニング
●影の中へ
人類の未踏領域、『影の領域』。それはラサの北西、深緑の遥か西に存在した魔種の本拠地とも言うべき場所である。
それが今、世界中に顕現している。性格には、世界中に発生したバグホールが蛇口のように影の領域を吐き出している……という表現になろうか。
臨時的にローレットを取りまとめるユリーカでさえも言葉少なに説明することからも、未知の存在であることは充分に伝わってくるだろう。
世界各国を同時多発的に侵食することで各国の綻びを突き、以て人々の連携や絆を潰し、世界崩壊への抵抗を奪う……それが魔種達の世界終焉への総仕上げであろうと考えられた。
「皆さんには、鉄帝。『全剣王』ドゥマの居城、『コロッセウム=ドムス・アウレア』の攻略に動いて貰います」
日高 三弦 (p3n000097)は集まった一同にそう告げると、極めて簡略的に書かれた城らしきもの、その入口を指示棒で指し示した。
「入口付近になりますが、こちらに過去、ヴィーザルで確認されたアポロトスが確認されています。かなり厄介なタイプの個体で、軍勢を三十ほど従えて向かってくると想定されます。それと……」
三弦はぐるりと一同の顔を見て、カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)が居たならば、後で来るように一言付け加えただろう。因縁ある相手の予感に顔を顰める日向 葵(p3p000366)をよそに。
●人類既踏の心の闇
「こいつらは俺と『契約』を結んだ。くれぐれも簡単に死なせてくれるなよ」
「知るかよ。死んでも補充できる連中を大事にするなんて冗談ポイだぜ。『全剣王』のために命を捨てて死に飛び込むならコイツラも本望だろ。そもそも殺しても死にやしねえんだ、こいつらは」
「確実に殺せば死ぬだろ? ここまで踏み込んでくるような馬鹿が無策だったら、それこそ俺が殺してやる。いいよな?」
「馬鹿言え。死ぬほど酷い目に遭わせて追い返して、『僕ちゃん何もできないでちゅ~』って泣き喚いた方が楽しいじゃねえか」
城の入口に居並ぶ軍勢の一部に順繰りに手を触れた男は、獣の集合体のような異形に警告の弁を告げる。釘を差された異形は不満げに鼻を鳴らすが、かといって全面的に不支持というわけではなさそうだ。苦しませて苦しませて絶望の中で殺す。それが彼の、アポロトスのやり方なのだろう。
「なあ優男」
「バランカだ。いい加減に覚えろ」
「じゃあその、バランカよぉ。お前は指揮者気取りであちこち悪さしてきたくせに、今更俺達についたのはどういうワケだ?」
「最高に面白い兆しが見えたからだ。どこを見回しても、死、死、死。『アイツ』とは別の意味で俺の鼻が利かないなんて最高だろ?」
「……わかんねえなあ、人間ってやつは」
「もう俺はとっくに魔種だ、一緒にするなよ」
- <漆黒のAspire>危機の兆し、闇より出ずるLv:40以上完了
- ずっと――たかった。
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年03月04日 23時25分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「また会ったなフレトニクス、そんなに名無しって呼ばれたのがシャクに障ったか?」
「他人の名を聞きも、自分から名乗りもしねェ無礼者には、体で理解らせてやらねえと……そう思っちまうと、どうにもよ。放っといてもいつか捻り潰さなきゃいけねえ」
「知るかよ、自分から名乗れよそういうのは」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はヴィーザルでの戦いの際、フレトニクスから非ぬ因縁をつけられた。故に、アレは彼を付け狙う。葵にとっては迷惑千万でしかないが、異形は本気で言っている。
「身勝手な理屈、不合理な手順。およそアポロトスとして不出来だな。有り難い限りだ」
「単純で、しかも強い! 相手のし甲斐があるってもんだろ!」
「……そういうものだろうか。暑苦しいだけだろう」
フレトニクスから立ち上る負の感情を、『目的第一』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は無感情に見る。冷めた、とかつまらなげに、とか。そういう通り一遍の感情はその身にはもうない。目的を達成するにあたって、感情に左右されて本来のポテンシャルを出せない相手がいるなら、楽だ……としか考えてないのは間違いなくあるだろう。
『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)はむしろ、直情的で力のかぎりを叩きつけてくる相手なら望むところといった様子。まっすぐぶつかってくる相手に、自分もまた全力を傾ける。相手が葵の側を向いているなら、こちらに向き直らせればいいだけだ。
「ははっ、敵さんは自称不死身だってよ! そんな相手を負かすのも面白そうだよなぁ?」
「敵方多勢、お味方小勢! 逃げ打つ気はなく唯討つが気概! 四辻の果てより雲霞のごとく、津波のごとく敵の来る! ……くぅ~燃えますねこのシチュエーション! この至東、こういうのホント大好きです!」
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)、『虚』と名乗る側の人格は死から円遠い能力を得た軍勢に対し、嘲りすら含んだ笑みを見せた。不死を名乗る連中というのは、総じて命を大事にしないものだ。痛みがないから恐怖がない。そんな連中をひざまづかせるのも一興と。無論、内奥の『稔』の人格はその無軌道な敵の姿に不快感を覚えているようだが。
『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)は相も変わらず、迫る敵を何も考えず滅多切りにできる事実に喜びをあらわにしていた。彼我戦力差は三倍程、強敵が二人。仲間が因縁の清算に動くなら、自分は好きに振る舞っていい。喜ばしい話だ。
「僕には帰らなきゃいけない場所があるんだ。急に呼ばれたから、鍋、火にかけたまま出てきちゃってさ。店長きっとめちゃめちゃ怒ってる……」
「恨みがましくこっちを見てくる相手より、鍋が優先か。それくらい肩の力を抜いた方が何かと楽なのかもな。悪事をして『指揮』を気取る相手なんて、それくらい片手間じゃないとやってられない」
「魔種になるべくしてなった相手ってことだ。悲しい背景もなにもない、一番やりやすいタイプじゃないか」
『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)は己に突き刺さる敵意を、服に張り付いた雑草の種よろしく無視する姿勢を見せた。何事か因縁を持ち合わせるバランカ・ボッシュの表情は形容し難い感情が垣間見えるが、その余裕のなさ、相手にされなさは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の張り詰めた感情を僅かばかりに解くことに成功したらしい。敵は明らかに因縁や過去を見せびらかしているが、所詮は指揮者気取りなんだ、と。同時に、哀しき魔種のあり方を数多見たであろう『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)にとってはこの上なく後腐れなく倒せる、というのは有り難い限りだった。倒すにしたって、心を傷めず済むならそれが一番だ。禍根が微塵も残らないのだから。
「フレトニクス、『とっておき』を簡単に死なせやがったら……わかってるな?」
「本当に神経質なやつだぜ、冗談じゃねえって言ったろ? 大事ならお前がケアしろよ、バランカ」
「……イラつくぜ、本当に」
フレトニクスの全身から吹き出した悪意が突風となって一同を撫でつける。純種の面々は心の奥底で強烈な嫌悪感が湧き上がるのを確かに感じたはずだ。アポロトスの有する『呼び声』の亢進が、バランカとの相乗効果を発揮したのはどうやら間違いなさそうだ。イレギュラーズが臨戦態勢を整える暇に編まれた強化術式は、遍く軍勢を覆うかのような規模感を見せた。が、直後にバランカ自身の全身を覆ったことで、その強大さが明らかとなる。
全くもって、手抜きをする気はないらしい。絶対的な殺意が『全剣王の塔』への闖入者を排除するという意思のもとに叩きつけられていた。
●
「先ずは、」
「オレが相手になるが、邪魔だったか? バランカとやら」
「当然すぎる問いを彼の方に問うな、鬱陶しいデカブツが!」
「……ってコトだ。あんまり縋り付くなよ、ベタベタって砂糖水か?」
カティアは憎い。だが自らの駒でしかないアレと歴戦の同胞かのように振る舞う連中は見苦しい。相手を苦しめる為には誰を殺そうか、と品定めにはいったバランカに、プリンの一撃が襲いかかる。が、未然に『最硬』が一体が割って入り、大槌でその一撃を受け止めた。自らも大概だろうに、プリンをデカブツと呼ぶその姿勢はなんとも言えぬ冒涜感を漂わせた。
近付いてきたのだから味見がてら、カティアを潰す試金石にしてやろう……ギラついた視線に沿うように放たれた光条は、『最硬』の肩越しにプリンの胸板を貫きにかかるが、体表を削り血を滲ませこそすれ、本来の威力の一割も発揮できていなかった。甘く見すぎた? 否、プリンの肉体、擦り切れきった感情をよそに練り上げられた肉体がこそ為せる業だ。
「行くぞオラァ食い放題だーーーー♡」
『遅い』
眼の前の状況への歓喜そのままに飛び出した至東の剣の冴えは、間違いなく最高の初動だった。冴えも、角度も、狙いもよかった。『最速』を前にして先手を取られるという事実は重いが、それでもカウンターとして機能した斬撃は、一合で受けるには手酷い傷を齎したのは確かだ。当然、それは彼女にも言えることだが、多少の向こう傷は望むところ。まだ戦える、より軽やかに、舞える。
複数の攻撃を受けた至東の姿に虚は表情を固くしたが、余裕が交じる目を見て「まだだ」と己に言い聞かせる。機を逸せば倒れる、細やかすぎても全力を引き出せない。なんとピーキーな仲間だろうか。
「来いよフレトニクス! オレが相手してやる!」
「生意気な女が彷徨いてやがるな。少しくらい相手して――」
「悪い悪い、取込み中だったか? でもオレは止めねえっスけど!」
牡丹の挑発を受けたフレトニクスの目には、敵意に染まった直情的な輝きはない。相手を確実に見据えている理性の光……絶対精度の挑発に、根底にある怒りが勝ったとでもいうのか。或いは受け止めたように見せて、強引に避けたのか。何れにせよ、フレトニクスは牡丹の側を向いた。そしてその側頭部を、葵の一発が撃ち抜いた。何れを先に潰してやろうか、と感情が沸き立つのが傍目にも分かる。だから、か。牡丹に伸ばした腕が空を切ったように見えた瞬間、背後にいた葵の膝が無意識に震え、姿勢を崩したのは間違いなく異常な光景だった。
……フェイントを交えたのか、獣の如きこの難敵が。
「なら、ここから先はオレが通さねえよ!」
「いいのか? あのメッシュのガキはお前が止めたって『射程内』だぞ?」
牡丹は即座に足を止め、フレトニクスを前進させまいと抑えに入る。だが、狙い、狙われる状況をソレは楽しむように手を握り、そして開いた。
その動きに敏感に反応したカティアは葵に治癒術を向け、プリン、そして向かい合うバランカを見た。
(攻撃が苦手なのは、傷つけたくないからで、傷つけたくないのは傷つけられたくないからで、そう思うのは、きっとそうなる切っ掛けがあったから……)
「……あいつなの?」
知らず声が漏れたカティアの脳裏を翻った、余りに色彩豊かな記憶はその身を震わせたが、それを差し引いてもバランカの姿から放散される毒気は激しく精神を蝕みもした。
「そこの小煩い刀持ちの羽虫は全員で包んで囲め、殺せ。癒し手がいれば最硬が押しつぶして殺せ。『二人までなら許す』。カティにはまだ、手を出すなよ」
(至東さんが狙われてる……! なんとか止めなければ、でも、術式がまだ……!)
(契約してる奴を見抜かなければ、どうにも……!)
襲いかかるプリン、すんでのところで凌ぐプリン。双方を見やりながらバランカは声を張り、軍勢を指揮するように統率する。彼が何をしようとしているのかは分かる。だが、イズマは手が届く限りに術式を分け与えようとして、却って大きく出遅れている。錬は契約を交わした個体がわからずとも、確実に軍勢を削るべく動く……が、数が数だ。明確な指標無く攻勢を繰り返しても上手く立ち回れぬことくらいわかりきっている。無理を承知で倒し切るか、強敵を退けることを優先するか。焦りは確実に、その思考を塗りつぶさんとしていた。
数的差異を差し置いても、戦力は拮抗を保つに値した。「不純物さえなければ」、それを押し返すだけの実力はイレギュラーズにもあったのだ。
……その「不純物」の最たるもの、バランカはプリンの実力の程を見抜いたのか、左手を掲げごく小威力の衝撃波を連続して叩き込む。大きく後退を余儀なくされたプリンをよそに、バランカはカティアに向けて踏み出した。にじみ出る『呼び声』の密度は身震いするほどに濃く、濁っている。
●
「久しぶりだなァ、カティ。覚えてないか? ……悲しいこと言うなよ。お前と俺の仲だろ、違うか?」
「…あまり『覚えて』はいないけど、『知って』るよ。元気そうだね?」
バランカはカティアを値踏みするように見やると、いまだ心根が折れている様子を見せない姿に舌打ちする。同じだ、と感じた。裏切られたあの日に見た目だ。『覚えていない』という言葉に、一瞬だけ鼻白む様子を見せたバランカは、しかし獰猛な皺を鼻面に寄せて、それでも不敵に笑う。
「別に、お前を『誘い』に来たつもりは無えんだ。当たり前だろ、裏切った奴を自分の傍になんて置いちゃおけねえ。……傍には置いてやらねえ。お前は一生、自分の過去に追い立てられて謝りながら走り続ける人生しか残してやらねえんだ」
背後ではイレギュラーズ、そしてフレトニクスの激戦が続いている。話を切り出しながらも油断なく術式を行使し、苛烈な攻めを向けてくる彼を止めるべく立ちはだかるプリン肉体には相当な無理が祟っている様子だが、それもカティアの支えあってのこと。ここでどちらかが欠けるのは不味い。
「いい事教えてやるよ。俺はお前みたいな『使い易い道具』が欲しかった。そのためにお前から何もかも奪ったんだ。わかるか? 『何もかもをだ』」
「でも、キミには僕の全ては奪えなかった。僕がキミをよく覚えていないのは、キミが記憶を奪ったからじゃない。でしょ?」
「――――口が回るようになったなぁお前」
バランカの殺気と、それに伴う邪な気配が膨れ上がる。魔種という存在、その最大の脅威は『呼び声』を行使しての増殖にあるといっていい。反転させ、それに至らずとも狂気を引き出すそれは、心弱い純種であれば耐えられない。
不毀の軍勢の連携はことここに至って最高水準を叩き出し、四十秒の最高速を駆け抜けた至東へと襲いかかり、イズマやカティアの治療すら許さない。そも、フレトニクスを止めに入った三人は、ともすれば彼の首に届きうる戦術を行使できているが、仲間達が押され始めている事実に意識が逸れる。
「耳元でキンキン喚き散らしやがって! 聞くわけねえだろ『呼び声』なんて!」
牡丹の強い言葉に後押しされるように襲いかかるワイルドゲイルを、健在だった『最硬』が顔面で押し留め、血飛沫とともに弾き飛ばす。首筋の契約印が輝きを増す有様、ぎらつく目。雑魚の威圧に押される弱卒はこの戦場に立つことすら敵わぬだろうが、さりとて倒しきれない事実が葵の舌打ちを招いた。それでも深追いせず後退を選択した判断の速さは褒められて然るべきだ。
戦力は拮抗……否、膝をついた者等をカウントすれば劣勢が見えてくる。
「お前が俺の首に手をかけられたのは、裏切った時だけだ。分かるだろ? もう一度裏切ってみるか? そこで転がってる情けない仲間と仲良く手を繋いで勝てると思うか? 無理だろうなあ!」
哄笑まじりの爆発術式がカティアを襲うが、やはりそれを止めたのはプリン。言葉を挟むまいと口を噤んでいるし、その堅牢性は語るべくもないが……あれこれと尽くされた術式の余波は、確実にその肉体に歪みを生んでいる。
「もう一回拾ってやる。それから二度と、傍には居ねえ。傍には行かねえ。俺を忘れたいなら、今のお前に俺が殺せないなら、『こっち』に来るしか無いってことだ、理解(ワカ)れ!」
今のイレギュラーズ達がこの苦境を覆す可能性があるならば、魔種となって前後不覚になったカティアが暴威を振るうことでバランカ諸共に姿を消すこと。敵も味方も裏切る無法をしてしか成せない、と彼は言っているのだ。凄まじい自負、そして冒涜。その言葉は確かな指向性を伴い、カティアを魔種の道へと『呼ぶ』。
「キミのことはもう覚えてない。わかる? キミの言ってる事は滅茶苦茶で、全然わからないよ。ゴメンね?」
が、カティアは強烈な呼び声にそれでも抗った。抗った……というより『流した』のか。嘗ての、物を知らぬ白い精神なら或いは己好みに染め上げられたかもしれないが、今のカティアは、汎ゆる色彩を纏った姿だ。バランカではあまりに、相性が悪かったのかもしれない。バランカは盛大に舌打ちすると、興味を失ったように軍勢に排除を指示した。悲しいかな、真っ先に倒れたのが最前線を張る至東ではなく、状況を冷静に見ていたが故に足取りが遅れたイズマであったのは最大級の皮肉ですらあった。
「こんな所で死ぬつもりはハナからねぇっスよ! どうしてもっつーなら先に地獄あたりで待ってな!」
「なら、ここでは命を拾わせてやる。『お前は』だがな!」
「……っ、オレが簡単に殺されてやるワケないだろ! どっち向いてんだ!」
葵はフレトニクスから大きく距離を取ることで狙いを散らし、或いは仲間から視線を逸らして被害を分散させ、もって生存力を高めようとした。盾として立ちはだかるのは誰あろう牡丹だ。軽々に倒されることはない……敵の数さえ削れていれば。
各個撃破を目標とした軍勢の動きによって『何番目か』に狙われた牡丹は、襲いかかる敵勢を跳ね除け、避けてなお押されつつあった。彼女の実力を知る仲間なら驚くべき状況だ。
驚くべき、忌むべき、しかし、喜ばしい計算外だった。錬にとってしてみれば、仲間の窮地からの救出と、フレトニクスの抑えをスイッチする絶好のタイミングが転がってきたのだから。
「死ににくいからって、失敗しない訳じゃないだろ。そういう奴に限って、想定外には弱いんだ」
「チ、次から次へと煩い連中だ!」
「そこの余裕綽々って感じのお前! よそ見してると死んじまうぞ!!」
式符による『想定外』で膝をついた軍勢の頭越しに強烈な一撃を叩き込んだ錬の顔を、フレトニクスはまじまじと見た。苛立たしげに反撃に出ようとしたその身に襲いかかったのは、『虚』の放った術式だ。被害は兎も角、不意をつかれた表情には改めて怒りの色が滲む。
状況は最悪だというのに、敗北を認めない。死が背中に張り付いても、それに抗う。
カティア共々しぶとい連中だ、とバランカは不快感の極みへと至り。ついには己の魔力の粋をして、決着をつけるべく身構えた。
それが隙だった。それだけが好機だった。
勝敗を脇に置いてなお、カティアに拒否されても、プリンが御しきれなかった敵の警戒。その先の気の緩みがそこに凝縮されたのだ。
「お前を撃退する為にも、軍勢を潰すためにも、その杖が邪魔だ」
「――糞がッ!」
プリンの一撃は……結果だけいえば、コアの破壊には至らなかった。
しかし、直前で髑髏を砕き、コアを投げ捨てたバランカの焦りとともにその左手首から先を一瞬なり奪い取った功績は間違いなく多大だった。
イレギュラーズは満身創痍、されどバランカ、フレトニクス双方の被害は甚大。このまま攻めれば或いは軍勢を掃討できるが、被害は許容量を超えた。
……後一歩が届かない。
嘗てよりも遥かに強くなってなお。否、『なったからこそ』、彼等は敗北を喫したのだ。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
全体的な流れとしては、まあまあ理想的な運用ができていたとは思います。
それはそれとして、個々の意思の強さ、決意のほどに乖離が大きければ大きいほど足並みは乱れます。
『万全にしたい』、その一心で一人で受け持つリソースを見誤るのも、時間を度外視するのも、まあ……。
因縁を大事にしろ、とかそういうシチュエーションの人を何が何でも守れ、とかそういうのではなく、それよりずっと手前の話になります。
最終盤に差し掛かったのを機に、色々と過去を振り返るのもいいかもしれませんね。
……という指摘が今回の呼び声に関しても全部自分に返ってくるので痛し痒しといいますか。被害は少なくありませんので、ご自愛ください。
GMコメント
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●成功条件
・アポロトス『フレトニクス』の撃退
・『黒犬の兆し』バランカ・ボッシュの撃退
・その他敵勢力の殲滅
●失敗条件
・(参加が確認できた場合)カティア・ルーデ・サスティンの反転、日向 葵の死亡
・成功条件達成率8割未満、かつ戦闘不能が過半数に達した場合
●アポロトス『フレトニクス』
吹雪の名を冠するアポロトス。ヴィーザル地方に滞留した負の感情を糧に発生した。
外見は兎をベースに、汎ゆる獣種の特徴をまぜこぜにしたキメラ然とした姿をしている。得物は大型のハルバード。
滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有り、バランカと併せて『呼び声』を亢進させます。
非常に動きが素早く、低空飛行を常時行う。また、複数の【不吉系列】BSや【麻痺系列】をガンガンばら撒き、行動阻害主体に立ち回っていく……が、前回戦闘時、準備が不十分なイレギュラーズ単騎で抑えに入った際、当該人物は重篤な負傷を負っていることが確認された。
撹乱目的で参戦した際で『それ』なので、半端な覚悟で単騎抑えに入った日には命の保証はできかねる。
前回戦闘時との変更点:特定対象への敵意増(参加時のみ)、CT増、超射程の【怒り】付与スキル追加。
●『黒犬の兆し』バランカ・ボッシュ
もと獣種の魔種。裏稼業を行う舞踏団『シルク・ド・リュス』を率いていた魔術師。『コンダクター』を名乗っていたが、最終的に囚われ断頭台送りにされかけている。
カティアさんにとっては兄貴分であったが、その実自分の駒にするためにかなりの非道を働いており、所有物として認識していたし、自分の手によってカティアさんが曇るのを楽しんでいたフシがある。
各地で悪事を繰り返し、その才覚で危機から逃げ回ってきたことで実力を着実につけ、最終的に『全剣王』ドゥマの配下に就いた。
後方主体の射撃魔術や爆発魔術、治癒などをマルチにこなす魔術師であるが、近付かれても相応の戦闘は可能な模様。曲がりなりにも経験を積んだ魔種なので、実力の伴わない単騎ブロックは著しい生命の危険が懸念されます。
不毀の軍勢の一部を自らと契約させることで大きく強化させており、また、10T以上持続させることにより、バランカ自身にも若干の強化が発生します。
『不毀の軍勢(契約術)』が早期撃破された場合、魔術のフィードバックによりFBがほんの少し上がる可能性があります。
『不毀なる暗黒の海(エミュレート・ラ・レーテ)』のコアは彼が持っており、髑髏の杖の右眼窩部分に該当します。
●不毀の軍勢(通常×20、契約術×10)
『全剣王』ドゥマ配下の兵隊達。フレトニクスとバランカの周りを『最硬』を自称する大型個体が固め、『最速』を名乗る個体群が攻めに回ります。
基本的には剣や槍、大槌などを用います。戦闘能力は中の上といったところでしょうか。付与してくるBSがあるとすれば【出血系列】ぐらい。
また、バランカと『契約術』を交わした10体は特にCTなどが大きく向上しています。
●戦場:『コロッセウム=ドムス・アウレア』内部(フィールド情報『不毀なる暗黒の海(エミュレート・ラ・レーテ)』)
『全剣王の塔』内部であり、『玉座の間』にワームホールが発生しています。
『不毀なる暗黒の海』の効果で、全ての敵性個体が非常に死にづらく(EXFが尋常でなく高く)なっています。また、【必殺】付きの攻撃を一度でも使えばその人物への当たりは滅茶苦茶に強くなります。この戦闘のみに言えることですが、軍勢は深層意識を共有しているので、脅威にとても敏感なのです。
コアを破壊することで、暗黒の海は消失します。
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