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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>焦燥と嫉妬を焚べ道を標し、魔は謡う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 終焉の足音は遠ざかる事なく、少しずつ確実に近づいている。
 ローレット・イレギュラーズという英雄たちの活躍でそれは少しばかり緩やかなものになっていた。
 天義の北、強き地脈に姿を見せた白亜の神殿。その名を『滅堕神殿マダグレス』と呼ぶ。
 白く美しい柱と彫刻の意匠に彩られたこの地こそが『Bad end 8』が一、『咎の黒眼』オーグロブの座す場所だ。
「ようこそ、ディラン・クラウザー……貴方の名前はよく聞いておりますよ」
 微笑を零すのは純白のシスター服に身を包む金髪の女だった。
 彼女は青色の瞳の少年ディランへと近づいて、その柔らかな手で少年の頬を優しく撫でる。
「俺……俺の名前を知ってるのか?」
「えぇ、もちろん。冠位傲慢と戦うために貴方が東奔西走し、叶うことなく虚妄に呑まれたこともね」
「……そうだ、俺は何もできなかった。何もできず、気付いたら全部終わっていたんだ。
 それなのに、セシルが……あんな子供が英雄の一人になっていた……ぁぁぁ」
 頭を抑えて崩れ落ちたディランを見下ろすまま、シスターはその頭を優しく撫でていた。
「シルヴィ、貴女も良く頑張ってくれました。終焉獣である貴女には私の力は意味もないでしょうけれど」
「世界が滅びるのなら、終焉獣の身だろうと魔種だろうと同じ。中でもレティシア様は私達のことを比較的に上手く使ってくださるから」
 応じたシルヴィへレティシアは柔らかに微笑むばかりだった。
「オーグロブ様のお力は素晴らしいものです。あの方の逞しい肉体、圧倒的な実力に裏付けされた笑み。
 あの瞳が私を見てくださるのなら、それで充分……私はあの方のためになることをしたいだけです。
 貴女達のような終焉獣であっても、あの方の為になるのなら、上手くだって使いますよ」
 柔らかな微笑のまま、瞳だけとろりと蕩かせて彼女は応じた。
 その表情がオーグロブへの心酔っぷりを如実に示していた。
「あら……アリーゼも戻って来たのですね」
 蕩かせた瞳が瞬きと一緒に無くなり、柔らかな穏やかな物へと切り替わる。
「破鎧が砕けてしまった……もう、私は全剣王の下へ恥ずかしくて帰れない」
「ふふ、それは仕方ありません――ですが、大丈夫。
 貴女のように異分子(イレギュラーズ)に敗れた者は多い。
 無力感に打ちひしがれる貴方達へ、神に代わり私が祝福を与えましょう」
 そう告げるまま、レティシアはアリーゼの耳元で何かを呟いた。
「ディラン、貴方もそうですよ。私が祝福を差し上げます。
 だからどうか――聞こえてくる声に耳を傾けて、受け入れるのですよ」
「ありがとう、ございます……シスターレティシア」
 膝を着いたアリーゼとディランがそう小さく言葉を残す。
「さぁ、行きましょうか。『英雄たちに敗れ、その存在価値を失った弱き者』よ。
 響き渡る声を聞きなさい、神に代わり私が与える祝福に身を委ねてください。
 ――そして。英雄へと自分たちの力を見せつけてやるのですよ」
 くすりと笑みを浮かべたレティシアが視線を移す。
 白亜の神殿、その一角に設けられたスペースで神への祈りを捧げる者達はレティシアの言葉に応じて各々の武器を取る。
 虚ろな瞳を浮かべた彼らの周囲に漂う滅びの気配と、響き渡る原罪の呼び声。
(貴方達が反転、魔種となったところで――イレギュラーズに比べれば大したことにはならないでしょう)
 ですが、とレティシアは笑みを作る。
(それでも滅びの因子は広まり、世界を冒す。オーグロブ様の力となる下僕が増えていく。
 あの方には不要な物でしょうけれど――あぁ、愛しております。どうか一瞥でも見てくださいましね、オーグロブ様)
 戦場の奥、自らの獲物を握りしめた冒涜の修道女は英雄たちを待ち望んでいた。
 彼らと戦って、この場に集う者達の心に最後の一刺しをくれる英雄達を。


「世界各国に影の領域が出現したとの報告が来ているのです」
 正確には影の領域に繋がった端末というか、影の領域の蛇口というか……」
 ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の歯切れの悪さは即ち彼女――人類が持ち合わせる情報量の少なさを示すものと言えるだろう。
 何れにせよ彼女の説明によれば、世界各国に出現した『影の領域』は魔種達の本拠と繋がるワームホールであり、橋頭保であるらしい。
 そんなものを放置すれば魔種陣営の戦力は各地へと無限に供給され、やがて人類圏は疲弊し崩壊するだろう。
 世界中がそれぞれに追い詰められれば、イレギュラーズの力で勝ち得た各国が辛くも見せ続ける『人間の連携』も崩壊しえる。
「ボク達の理想は各地の橋頭保の破壊なのです。
 ですが、それが出来なかったとしてもせめても侵食を食い止めないと皆が……」
 悲痛な顔をするユリーカは今回の事件には声明があると続ける。

――ごきげんよう、皆さん。
   ルクレツィアがお世話になったようですけど、もう冠位では力不足。
   これより先は私、『聖女』マリアベルとBad end 8がお相手いたしますわ。
   どうぞ、手加減等なさらぬよう。ラスト・ダンスまでそのステップは後悔のないように!

 シャイネンナハトに語られる伝承の『聖女』マリアベル・スノウから齎された宣戦布告。
 物語は遂に風雲急を告げていた。


「天義に開いたワームホールは、ここにあるらしいんです。
 突然、ここに白亜の神殿が現れました。滅堕神殿マダグレスっていうらしいです」
 そう語るの黒衣を羽織った少女――フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)が示したのは天義の北に位置する場所だった。
 天義の北――それは即ち『鉄帝の南』ともいうべき場所。
 時を同じくして動き出したというヴィーザルの神『バロルグ』が南下しているという。
 それはまるで、本体へと欠片が呼び寄せられていくかのように。
「もっと悪いことを言うと、ここは天義中を巡る強い地脈の上だそうです。
 私はそういうのよく分からないんですが、敵は『ここから天義全土に向けて地脈を通じて力を取り込み、代わりに毒を流しこもう』としている可能性があるんだとか」
 そう告げたフラヴィアはきゅっと拳を握りしめた。
「……せっかく、冠位との戦いが終わってやっと穏やかに暮らせるはずだったのに、二度と住めなくなるかもしれない。
 それ以前に、このままではその過程で沢山の人達が死んでしまうでしょう。そんなこと、許せるはずがありません」
 落ち着こうと深呼吸を繰り返した少女は瞼を開けて真っすぐに見据えてくる。
「――世界とか、よく分かりません。それでも、私の知っている人たちを守るために私は戦いたいんです。お手伝いをさせてください」
 ぎゅっと少女は自らの胸元を握りしめた。そこには一粒の黒いペンダントが輝いている。
 『巡礼の聖女』と謳われた同名の遠祖が持っていたパンドラ収集器にはもう何も残っていない。
(……だそうですよ、オルタンシア)
 目を伏せたマリエッタ・エーレイン(p3p010534)は胸の内にある友へとそう声をかける。
(……そうですね、貴女の代わりに背中を押してあげましょうか)
 答えを返さぬ友人にそう告げ、マリエッタはフラヴィアとその傍にいる少年へ視線を巡らせた。
「……ディランは、そこにいるのかな」
 セシル・アーネット(p3p010940)は小さく言葉に漏らす。
 アポロトスと名乗った者たちと一緒に消えた大切な幼馴染の様子は変だった。
「ディランさんは終焉獣と一緒に消えたから……多分、いると思う」
 そう告げるフラヴィアに、セシルはぎゅっと拳を握りしめた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 さっそく始めましょう。

●オーダー
【1】エネミーの撃破または撃退

●フィールドデータ
 天義の北、強い地脈の上に出現した神殿の一角です。
 白く美しい柱と彫刻の意匠が並んでいます。

●エネミーデータ
・『信じる者は冒すべし』レティシア
 オーグロブの力に心酔している魔種です。
 当人はシスター服に身を包んだ大剣使いといった雰囲気。
 柔らかな笑みを湛え、擽るような心地よい声で歌うように話します。

「居場所のない者、哀れな者達へ神に代わり私が祝福を与えましょう」と語ります。
 祝福とは名ばかりのそれは原罪の呼び声であり、反転です。
 集った冒険者や騎士の心を揺さぶり、ただでさえメンタルが崩れている彼らから多くの魔種を生み出そうと目論んでいます。

・『忘却の騎士』シルヴィ
 自らの名前をシルヴィと名乗ります。
 体の中身が透き通っている蒼白い聖騎士の女性を思わせる姿をしています。
 終焉獣のうち、アポロトスと呼ばれる分類の存在です。
 かつて戦いに敗れて屈辱と憤怒の中に死んだ聖騎士の女性の魂(残滓)が滅びと結びついた存在です。

 人語を介し、どこか嘲弄するような台詞を放ちます。
 終わりは遁れざる者であると告げ、滅びのアークを周囲にばら撒いています。
 滅びの気配を纏い、蒼白い焔と根深い呪いを振り撒いています。

 聖騎士らしく剣技に優れます。
 その姿から【火炎】系列、【呪い】などを用いることが想定されます。

・『狂刃』アリーゼ
 自らの名前をアリーゼと名乗る刀使いの女の子です。
『不毀の軍勢』に属していた冒険者の少女、破鎧を砕かれ帰る場所を失いオーグロブ陣営に下っています。
 【変幻】、【堅実】、【邪道】を主に用いるほか、【凍結】系列のBSを用います。

・『空虚な』ディラン・クラウザー
 セシルさんの関係者で、天義貴族クラウザー家の三男坊。
 狂気に満ちた瞳で敵陣営に立っています。
 戦闘能力が向上し、どこまでも冷たい雰囲気があります。

 分かりやすい剣士タイプの冒険者です。
 天義流の【堅実】、【防無】、【乱れ】系列の剣、
 我流と思しき【スプラッシュ】、【痺れ】系列、【凍結】系列のBSを用います。
 その他、格闘能力も優れ【飛】なども多用するようです。

・虚眼の冒険者たち×10
 虚ろな目をした冒険者風の衣装を身に纏う者たちです。
 皆一様に狂暴でイレギュラーズへの敵意を見せます。
 彼らはレティシアに心酔しているようで、彼女の語る言葉をとてもよく聞いてくれます。
 クロスボウや剣を装備している軽装戦士が多く、そのほかヒーラーなどの姿も見えます。

・虚眼の騎士×10
 虚ろな目をした聖騎士風の衣装を身に纏う者たちです。
 皆一様に狂暴でイレギュラーズへの敵意を見せます。
 彼らはレティシアに心酔しているようで、彼女の語る言葉をとてもよく聞いてくれます。
 重装甲の聖騎士が多く、タンクやアタッカーがまばらです。

・変容する獣×10
 体の中身が透き通っている蒼白い終焉獣、完全に人型と化しています。雑魚枠。
 シルヴィと同様にレティシアへの協力をしています。
 曰く『使い捨てるのではなく、上手く使ってくれる』とのこと。

●友軍データ
・『夜闇の聖騎士』フラヴィア・ペレグリーノ
 元はアドラステイアで『オンネリネンの子供達』の部隊長を務めていた少女。
 傲慢編での経験を経て、聖騎士になりました。イレギュラーズと同等程度の実力を持ちます。
 比較的タンク寄りの物理バランス型。

・『黒銀の烈鎗』セヴェリン・ペレグリーノ
 天義の聖騎士。パルチザンを獲物とします。
『夜闇の聖騎士』フラヴィアから見て大叔父(父親の叔父)にあたる人物。
 正式にフラヴィアの養父になりました。

 白髪交じりの闇色の髪と暗めの金色の瞳をした武人。
 理性的で執務に忠実、武人としての力量と経験も豊富な騎士らしい騎士。
 部下の聖騎士と比べれば『虚眼』エネミーにも普段通りの戦闘を期待できます。

 物理型のタンク寄りアタッカーです。
 イレギュラーズと同等程度の実力を持ち、戦力としては十分期待できる戦力です。

・聖騎士隊×30
 セヴェリン指揮下の聖騎士隊です。
 全員がイレギュラーズの皆さんの事を救国の英雄と慕ってくれています。
 士気は高く、今回も皆さんと一緒に勝ってみせようと意気込んでいます。

 ただし、戦場では虚ろな目をした冒険者や聖騎士も相手となります。
 動揺は隠せないかもしれません。

●【寄生】の解除
 寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能ですが、確実ではない為、より強く願うことが必要となります。
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <漆黒のAspire>焦燥と嫉妬を焚べ道を標し、魔は謡う完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

サポートNPC一覧(1人)

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士

リプレイ


 白亜の神殿の一角、教会を思わすその部屋の中、天井から差す陽の光が降りている。
「うふふ、こんにちは、英雄の皆様……私はレティシア。この聖堂を管理している者です。せっかくですから、神への祈りでもいかがですか?」
 響き渡る悍ましき呼び声は柔らかく笑う金髪の修道女のものだ。
「君のいう神様が何かは知らない。けれど、生憎とその神に願う物は持ってないんだ」
 人当たりよく、けれど明確な拒絶を以て『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は告げる。
「それは残念。ですがオーグロブ様を見ればきっと皆様もあの方の偉大さを理解することでしょう」
 陶然と笑うレティシアを含め、白髪の下に見える邪眼は広域を睥睨するように敵陣を捉えている。
「世界に毒を巻かせたりはしない!」
 散らすように放つ呪血が渦を巻き、堕天の誘いに満ちた宝冠が敵陣へと呪いを振りまいた。
「原罪の呼び声は断固拒否して! 敵側に人がいるけどひるまないで!」
 響き渡る呼び声を振り払い『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は叫ぶ。
「反転は呪いだ、祝福じゃない! これ以上災厄を広げるな!」
 白々しく首を傾げる修道女を睨み、ヨゾラはそう叫ぶ。
「呪いと祝いは同じものです。それに勝手な良し悪しを決めるなど、エゴでしかありませんよ」
 そう静かな言葉と共に修道女はヨゾラを見てきた。
 その表情に溜まらなく怒りを覚えて、ヨゾラは星空の泥を掴む。
 戦場を包む輝きが数多の敵の宿命を塗りつぶす。
「……セシル」
 険しい表情を見せるディラン・クラウザーの姿はレティシアの傍にある。
「ディラン! どうして! 僕達は友達でしょ! 争う事なんか何も無いよ! いつものディランに戻ってよ! ねえ、ディラン!」
「いつもの俺だって? 俺は、何も変わっちゃいない! 代わったのはお前だよ、セシル」
 目を瞠る『雪花の星剣』セシル・アーネット(p3p010940)は剣を握りしめた。
 激情に振れるディランをそっとレティシアが抱き寄せ、何事かを囁いた。
「……その人達がディランをそんな風にしてしまったの?
 ……だったら。行こうフラヴィアちゃん! 僕と一緒にディランを止めてほしい!」
「――うん、行こう、セシル君!」
 瞬く雪の斬光がディランを体を包み込む。
「聞いてくれ、聖騎士団の諸君!」
 ぴりつく戦場、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は高らかに声をあげる。
「同胞と戦う事に心揺れている者も多いだろう。
 だが目の前にいる彼らは残念ながら、人ならざる者……人類の敵に心を魅入られてしまった!
 我々は人類を、世界を救うために、あえて同胞殺しの罪を犯す!」
 自らに多数に掛けた強化術式は安定している。
「私たちローレット・イレギュラーズは、強敵を相手する。そちらはあなたたちに任せるぞ!」
 その言葉を証明するように、モカは戦場を翔け抜ける。
 撃ちだした脚はレティシアに傷をつけることこそ出来ずとも、動きを塞ぐには充分だ。
「こりゃオレの出る幕ねえか? 熱い演説じゃねえか、モカ!」
 モカの言葉とそれを証明する動きを見た『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は片翼を燃やすように広げる。
「ま、そういうわけだ。思い出したか、てめえら。自分がどうしてこの戦場にいるのかを。
 敵が魔種だからじゃねえ。終焉獣だからじゃねえ。てめえらの大事なものを護るためだろうが! 頼りにしてる。行くぞ、てめえら! 背中は任せたぜ!」
 聖騎士たちからの短い肯定の言葉を背に受けるまま、牡丹は走る。
「我が拳、あまたの星、宝冠のごとく!」
 爆ぜる星のように輝かんばかりに跳び出した牡丹が肉薄したのは刀使いの少女。
 輝く片翼より滾る炎を以て少女を打ち据える。
 2人の言葉にパチパチと手を打って拍手をしながらレティシアが笑う。
「本当に立派な言葉ね、英雄さん」
 2人の言葉を継ぐように――あるいは、利用でもするようにその声は続く。
「結局、弱い方は斬り捨てられるのね。人類の敵に魅入られてた? 人類の敵なら殺しても構わない、なんて。素敵な言葉でしょう」
 柔らかく笑いながら、彼女は動き出す。
「英雄さん達は仰いました。私達は『殺されていい存在』なのだと。
 でも仕方ないわ、私達はか弱く愚かな存在で、人類を敵に回した消されていい側だから――なんて! そんな屈辱、凌辱、侮辱がありますか」
 それは彼女の信者たちを諭す言葉だった。
「でもそれも仕方のないこと。天義という国はずっとそうだった。
 罪を犯した者を殺し、罪なき者を断罪し、罪に塗れて生き汚く続いてきたのだから。
 私達のような、か弱く愚かな者達が認められる日など、遥か未来までこないのでしょう」
 続けるまま、魔種はディランへ囁きかける。まるでお気に入りの玩具のように。
「まったくもって素敵なお言葉ね、シスター」
 今度はシスターの言葉を遮るように声が響き、吐息が漏れる。
 呆れと不快を載せた吐息は喧騒の只中にあってなお、脳裏にこびりつくようだった。
「行き場を失い、迷い、悩む者たちには確かに素敵な言葉……けれどね、それは人を蝕む毒なのよ。
 信仰という支えと、居場所という檻と、祝福という呪いで貴方がいなければ歩むことすらままならなくなる。だから気に食わないのよ」
 進みゆく『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は多数の術式を展開する。
「まぁ、魔女さんはよく分かっておいでのようですね」
 白々しくも目を瞠ったレティシアは興味をマリエッタに移したように見える。
(フラヴィアが頑張っているのです。負けられませんね、オルタンシア。かっこいい背中ぐらいみせてやりましょう)
 マリエッタは未だ反応を見せぬ友人へと声をかける。
 返事はなく、けれど気付けば握る血剣に黒炎が燈っていた。
「あの女が親玉みたいだね」
 直感に頼るまでもなく、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はそう結論付ける。
「ボクの獲物はあれに決めた……他の人も言ってたけど、あの人たちは任せるね!」
「期待に応えよう。諸君らに示された道をむざむざ壊すわけには行かない」
「なら、ボクも少しだけお手伝いするね!」
 頷くままに応じたセヴェリンに小さく笑みをこぼし、ソアは雷霆を纏う。
「――さあ、退いてもらうよ」
 纏う雷霆を天井へ放てば、炸裂と同時に無数に散らばり雷光と共に降り注ぐ。
 的確に敵だけを撃ち抜く雷光が神殿を焼いて焦げ臭さを呼ぶ。
(また会ったわね、シルヴィ、アリーゼ。それにディランと……もう一人)
 レティシアと名乗った修道女はマリエッタの攻勢を受けてなお余裕を見せている。
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は箒へと跨うまま、修道女を見やる。
「……あなたね、原因はきっと。だって、凄くヤな臭いがするもの……見過ごす訳にはいかないわ」
「何のことでしょう? そんな臭いますか? ちゃんと清潔にしているのですが」
「えぇ、どれだけ綺麗にしても隠しきれるものじゃないわ!」
 愉悦交じりに笑うレティシアへと応じる一方でセレナは魔力を籠めた。
「炎も呪いもわたしには効かないわ。簡単に抜けると思わない事ね!」
「私でよろしいのですか? それは光栄ですね、魔女さん」
 蒼白い炎を纏うシルヴィの剣が彗星と化したセレナ衝突すれば、烈しく火花が散った。


 イレギュラーズの作戦は概ね問題はなかった。
 初手に繰り広げられた攻撃が終焉獣や虚ろな眼の人々へと齎した傷は浅くない。
 聖騎士隊の奮闘はモカや牡丹の鼓舞もあって申し分ない。
 それでも戦いは膠着よりもずっと悪い方向になっていきつつある。
 その原因の1つは狙い、特にネームド相手の狙いがばらついていたことにある。
 激情に駆られるディランの斬撃へ割り込んだフラヴィアが蹴り飛ばされ、セシルと強かにぶつかった。
「フラヴィアちゃん! ごめん……!」
「……こいつか? この子がお前を奮い立たせてるのか?」
 ぎらつく切っ先がフラヴィアに向く。
「――それだけは! いくらディランだって、フラヴィアちゃんを傷つけるのは許せない!」
 咄嗟に氷刃を撃ちだせば、微かな傷を入れると共にディランが舌を打つ。

 戦場を奔る黒炎と血の斬撃を両断したレティシアの視線はマリエッタに注がれていた。
「貴方はとてもつまらない……自ら歩き始める人こそ、面白いのです」
 撃ちだした斬撃に合わせ飛び込めば、肉薄と同時に修道女の憐れむような目が見えた。
「……あぁ、なんと哀れな魔女なのでしょう。エゴがため、人の生を『面白い』で測るだなんて!」
 芝居がかった声で嘆くように笑う女に向け、続けざまに雷霆が迸る。
「どうして皆を惑わすの?」
 遠きから爆ぜる雷光の内側、ソアはレティシアへと問うた。
 飛び掛かるように蹴りだした脚は魔種の剣によって防がれるが、そんなことは気にも留めない。
 逆に押し込んでやれば、魔種の身体がバランスを崩す。
「惑わすなんてそんな人聞きの悪いことをおっしゃらないで……これは神の祝福なのですから」
 聞くに堪えぬその答えを無視して、剣を壁代わりに大きく跳躍して背後へと回り込む。
「人の弱さを受け入れず、傲慢にも斬り捨てるそんな愚かさなら……もういっそ滅びてしまえばいいとは思いませんか?」
「滅びたいなら勝手に滅んで! 死にたいなら一人で死んで!」
 強襲を止めず、ソアは連鎖するように魔種へと奔る。
 モカは飛び込むままに蹴撃の乱打を叩きこんだ。終局の舞曲は終わりを感じさせぬほど軽やかに舞台の上で織りなされる。
「地脈とは人間に例えれば血管のような物だ。そこに毒を流せば、それで死ぬのはあなたのいう『弱い者』からだろう!」
 告げる言葉は脚と同じく――あるいはそれ以上に鋭い刃として突きつける。
「結局は同じことでしょう? 全てがあの方々の御力により滅び去り、消し飛ぶのです。
 強き者も弱き者も等しく、世界と共に滅びてしまう。そこには一切の不平等はありません」
 頑迷ともいえるほどシンプルに、ただ心酔する誰かを想い慕う答えが返る。

 雲雀は周囲に巡る禁呪の血に指向性を持たせた。
「そんな平等はお断りだよ。君達を倒して、ここに住む人たちに少しでも気持ちを落ち着ける時間をあげないと」
 放たれたるは紅の矢。絶対零度の矢は蒼き怨讐の焔を抱いて魔種へ向かう。
「頑迷ですね……」
 あらぬ方角からの攻勢に艶めかしく吐息を漏らしてレティシアが首を振った。
「私を、見ろよ! なんで、私を見ない! 私は、最強の一角になったはずなのに!
 あぁ、そうだ――こんなものじゃ……こんなものじゃ、足りないのか?」
 そう独り言ちる少女へ雲雀は術式を展開する。
「言われずとも、直ぐに倒してみせる」
 呪血により放たれる蹂躙の魔弾は重なり、少女の身体を幾重にも傷つけていく。
「オレは硬い。オレは無敵だ!」
 絶叫を上げる少女の斬撃を受け止め、牡丹はそう応じるものだ。
 真っすぐに少女と視線を交え、そう宣言すると共に仲間たちへと宣言するように。
 万雷の舞台へ自らの存在を証明するようにスポットライトは我がものだと叫ぶように。
 向かい合う娘の顔が苛立つように歪んだ。

「呑み込め、泥よ。混沌揺蕩う星空の海よ……敵を飲み干せ!」
 ヨゾラは魔導書の魔力を循環させていく。
 混沌に揺蕩う根源的な力へと接続し、煌く星空のような泥に作り変える。
 輝く泥の魔術はシルヴィの身体に纏わりつき、その宿命を作り変える。
「強情ね、滅びは遁れざるものというのに」
「その台詞も聞き飽きたわ!」
 シルヴィの振るう剣を結界で弾き、セレナは応じる。
「わたしは、信じてる。わたし達なら出来る!
 彼らだってきっと、助けられる。
 未来は、希望は、わたし達自身の手で掴み、取り戻すんだから!」
 それは夜の輝き。詠唱も無く、何ら特別な動作も無く。
 ただ純粋な魔力の爆発が夜に輝く彗星の如くシルヴィの身体に炸裂する。


 戦いを続ける中で、少しずつセシルは今のディランの気持ちが分かってきた。
「セシル君、私が抑えてるから」
 その姿に勇気をもらえた気がして、セシルはディランを見た。
「何度だっていうよ! 今のディランはおかしいよ! だから、無様にぶん殴ってでも、引き摺って連れて帰る!! ディランだって僕には必要なんだよ!」
「羨ましい……恨めしいよ! お前が先に行っちまったのがさ! これって俺がおかしいのか!?」
 激情を露わにそう叫んだディランの一撃は、今までよりもずっと強くなっていた。
「……確かに、僕は変わったのかも。でもね、そんなのディランがちゃんと僕を見てなかったからだ! 僕は血の滲むような努力をしてここまで強くなった。それを、傍で見ていてくれなかったのはディランの方じゃないか!」
「はは……そうさ、俺だって強くなれるはずなんだ! なぁ、見てくれよ!」
 そう叫ぶ少年の声は狂気へ呑まれて消える。

 代わって、新たなる呼び声が1つ、戦場に響き渡る。

「……やってくれましたね」
 戦場に増えたその声を聞きながら、マリエッタはレティシアへと視線を向けた。
「あら、それを願ったのは彼自身ですよ。鬱屈した感情を曝け出した子供というのはかわいらしい」
 ちろりと唇を舐めて笑む女がなぜ魔に堕ちたのか、分かったような気がした。
 飛び込むままに繰り出す血の閃光は魔種の身体を強烈に穿つ。
「あなただけは必ず殺す――!」
 続けざまにモカは飛び込んだ。
 流星の如く飛び出したモカは、蹴撃を叩きこむ。
「はぁ、乱暴な方ですね……」
 艶めかしく吐息を漏らすレティシアへと繰り出す蹴撃の全てが彼女を確かに殺すための脚だ。
 数多の残影その全てが実態を持つが如き神速の乱打を受け止めるレティシアが少しばかり眉を潜める。
「……やっぱり、貴女は気に喰わない」
 ソアは稲光を放ちながらレティシアを見る。
「手負いの獣の怖さを教えてあげる」
 手持ちにある黒き祝福の結晶を握りつぶして、その内側に籠められたマナを力に。
「ふふ、教えてくださらなくても、よくよく存じておりますよ」
「その澄ました笑顔のまま引き攣らせてあげる!」
 荒ぶるままに振るわれる死の雷光を受け、魔種の笑顔が引き攣ったのが確かに見えた。

「……そんな」
 セレナは戦況の変化を見て目を瞠った。
 セシルとフラヴィアは新たに生まれたばかりの魔種の抑え込みを何とか頑張っているようだ。
「――さて、隙だらけですが貴女に油断は出来ないね」
 そう呟くシルヴィの声を聞いて、セレナは結界に魔力を籠め上げた。
「耐え抜いてみせるわ!」
 撃ちだされる斬撃が少しずつセレナの結界を削っていきつつある。
「お返しよ」
 無軌道に放たれる魔弾の閃光がシルヴィへと反撃の風穴を開く。
 人の姿を取るアポロトスの1体はその身体に数多の傷を負っている。
「滅びなんてごめんだよ! これで――壊れろぉ!」
 そう叫ぶままにヨゾラはシルヴィへと肉薄する。
 全霊の魔力を籠めた星の輝き。
「――夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)!」
 撃ちだす全霊の拳は夜空に輝く星の始まりを告げるように壮絶に煌いて痛撃を穿つ。
 叩き込んだ一撃はシルヴィの身体に致命的な傷を入れた。
「滅びは遁れることなど不可能だよ――それに、私が死ぬぐらい、大した損害にもならない」
 最後、そう告げたシルヴィが笑みを刻み、罅いるように石に変わる。
 一輪の花を咲かせるままに、終焉の獣は塵となって消えた。

「そんなに相手してほしけりゃしてやるよ――それがたったひとつの冴えたやりかたかもな!」
 牡丹はその身を炎で包み込み跳び出した。
 己が身を弾丸とした突貫は何の小細工もなく、アリーゼの身体に炸裂する。
「……まだ、足りないの? まだ足りないなんて」
 痺れた様子で動きを止めたアリーゼが独り言ち始めた。
「……あ、あはは。あははは、そうだ。そうだよね……あぁ、きっとそれなら私を見てくれるはず!」
 少女は狂ったように笑う。その全身から溢れ出す気配が異質な物へと変わっていく。

 そうして、戦場にまた1つ、原罪の呼び声が響き始めた。

 戦場に円を描くように穿たれた斬撃は戦場を迸り、聖騎士隊に痛撃を刻む。
 思わぬ痛撃が生んだ隙を衝くように、終焉獣が、虚ろな瞳をした者たちが動き出す。
「原罪の呼び声の使用を牽制するためにお前にも攻撃していたのに……!」
 雲雀は小さく息を呑んだ。
「何か、勘違いをしておられたようですね。原罪の呼び声は常にあるものですよ」
 雲雀の言葉を受けたレティシアが色のある笑みと共に首を傾げる。
「ごく稀に消したり緩めたり出来る方もおられるようですけれど、私にはそんな力はありません。
 言葉は応えるよう背中を押すためのもの。決断をするのはいつも、本人ですよ。
 随分と消極的な戦い方をしてくださったおかげで、思ったよりも反転してくれなかったのは残念ですが――」
「……諸君、退却すべきだ」
 苦し気に告げるのはセヴェリンだった。老騎士の身体にも傷は多い。
「今ならまだ致命傷になる前に退却できる。殿は任せてほしい」
「……」
 全身を巡る血が沸騰したような感覚を覚えながら、雲雀は蒼怨穿紅を叩きこんだ。
 浴びせられた呪血が燃え上がり、その動きを阻害する。
「これで少しでも彼女の追撃は阻めるはずだ……退こう」
 笑う女の声が不快に耳を衝いた。

成否

失敗

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)[重傷]
Pantera Nera
セシル・アーネット(p3p010940)[重傷]
雪花の星剣
紅花 牡丹(p3p010983)[重傷]
ガイアネモネ

あとがき

申し訳ありませんが、この度は失敗となります。
理由はリプレイに記載の通りとなります。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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