シナリオ詳細
<漆黒のAspire>財宝巡りは日出の後
オープニング
●
最近になって、幻想の各所で古代遺跡が発見された……らしい。
うん、幻想じゃその話で持ち切りだ。
何なら、既にそこに眠っている財宝とやらを持って帰って来ている冒険者だっている。
「……そうだ、武器もそろそろ新調しないと」
だからと言って、終焉獣が居なくなった訳じゃない。
むしろ、目撃情報は以前より増している気もする。
何だか変だなぁ、とは思った。
だって、目撃情報は多数有るけど被害状況はあまり増えていないからだ。
こういうのって比例していくものじゃないの?
終焉獣達は街や村を襲っている様子は無い。
天義の一件からも少し経ち、仲間の励ましもあって徐々に落ち着いて来たアタシは、少しのリハビリも兼ねて簡単そうな依頼から請け負う事にしてみた。
ここまで一緒だった奴とは離れて。
大体からしてあの男に関わってから碌な目に遭っていない。
再現性東京に行くと言っていたから、良い機会だとは思った。
思った、のだけど。
「げっ……」
「おや、どうも」
今の段階では誰より見覚えの有る顔と鉢合わせて、少女は市街のど真ん中で固まってしまった。
そんな馬鹿な。と言わんばかりの顔でショートスカートを揺らす。
「何でアンタがここに居るのよ……!」
全体が真っ黒で、口元を隠した特徴的な外套。
顔の半分しか見えていないからか、無表情がより際立つ。
正直、自分でもこんな胡散臭い奴と今まで一緒に居たのは謎だし、顔を合わせるくらいなら仲間の看病にでも行った方が良かった気がする。
「そりゃ、私の依頼人がこの街に居るからです」
と平然とした態度で返されれば、ちょっとくらい私の気持ちも理解して貰えないだろうか。
少しぐらい動揺とかしろよ。顔の筋肉動かせ。
別に仕事仲間に嫌いの感情は無いし、持たない。でもどうしたって苦手というのは存在する訳で。
「何故、私と同じ方向に……?」
アタシにとってのそれが、コイツな訳だ。
「アタシも! この街に!」
言葉を交わせば何か腹が立つ。
「依頼人が! 居るから!」
何か言いたげに男は息を吐いている。
これだ。
この大人らしからぬ牽引力の欠片も見えない空気を出しておきながら、凜華に対する妙に余裕ぶった態度が気に食わないのだ。
それでいて仲間の助け有ってこそと言えど依頼はちゃんとこなせているのが、ますます気に入らない。
いや、言い過ぎた。今のは完全な私情だ。
でも腹は立つ。今も一緒の方向に向かっているというだけで。
ここはさっさと依頼を聞きに行ってこの街から出よう。
確か、周辺で一番大きな家だった筈だ。
(じゃ、ここか……)
それは、凜華の目にはすぐに留まった。いや、誰であっても早々に見つけられたと思う。
二つの家が同じ敷地の中でくっ付いている。
手前には大きな門扉。間違いない。
凜華は、早速その門の片方に手を掛けた。
と同時に、逆の門にも違う手が添えられる。
「あの……?」
恐々とした男の声音が聞こえた。
ちょっと待ってよ。この家に用が有るの、アタシの方なんだけど。その手何?
ふざけて添えてるんなら張っ倒したい。
でも、横目で見た男の顔は無表情ながらに戸惑っていたようで。
『……何で?』
二人して、アタシの方は多分ちょっとの哀しみを含んで、そんな問いをぶつけてしまった。
●
実際に依頼人と対面するのは初めてだ。緊張する。
直接話を聞きに来て欲しいというから来たは良いものの、やはり慣れた者に任せるべきだったんじゃないだろうか。
隣に黒宮の姿は無い。門扉を潜った後に、お互い左右別々の家に入る事となった。
くねくねしたよく解らない埴輪のような置物に目をやってから、凜華は請けた依頼を確認するべく、再度口を開いた。
「ええと、魔物の討伐……という事で良いんでしょうか……?」
「そう! 見つかった遺跡内部の魔物の粛清! 頼むよー? あんなの相手に出来るの、君達ローレットくらいなんだから!」
苦笑して凜華は依頼を整理した。
場所はこの街近くで発見された遺跡。
その内部に眠るであろうお宝を回収するべく、このベーマー家で雇われた冒険者が派遣されている。
遺跡の内部は非常に簡単な構造となっており、様子を見たところ冒険初心者の人間でも進めそうなくらいであって複雑な仕掛けも存在しない。
しかし、入り口近くの場所に周辺の魔物が入り込んでしまったらしい。
ただの魔物なら良いのだが、と凜華は不安を予測した。
思い出すのは遺跡と共に何度も発見、報告される終焉獣の情報。
考えたくはない。が、事態はより悪い方を想定しておくべきかもしれない。
目の前のベーマー弟も言っていた。
『魔物は蒼白くて身体が透き通っている獣だ』
変容する獣。
ローレットの記録と照らし合わせれば、その特徴がピッタリ当て嵌まる。
財宝回収の為に使われるのは何だか癪な気もしたが、終焉獣となれば放っていく訳にもいかない。
数は八匹。
特異な行動は見られていないとはいえ、流石に凜華一人では荷が勝ち過ぎている。
これは一度ローレットに戻った方が良さそうだな、と家を後にしようとした凜華へ、重ねる様に依頼人は懇願した。
「頼むよー? 兄さんより先に遺跡を踏破したいからねー?」
何の事だろう。
もう片方の家に入った黒宮の側と何か関係が有るのだろうか?
凜華は訝し気に玄関扉を開け。
そして、時を同じくして出て来た奴を見ると、少し息を吐いた。
「……アンタのとこも終わったんだ」
「ええ、遺跡の調査とその護衛、らしいです」
どうやら、偶然にも同じ内容の様子だ。
ここまで似て来ると妙な空気も感じるが、取り敢えずはこの街を……この男の前から離れられる事に一息も吐きたくなる。
「そう、アタシも」
「最近、多いみたいですからね」
確かにそうだな、とそれは凜華も感じた。
今の情勢に対して異質であると言えばある。
まぁ、疲弊した国が潤うのは良いのだろうが。
ともかく、今はこの依頼だ。
取り敢えずは皆に相談する前に、一度現場を見ておいた方が良いかも。
そんな様子を察してかそうじゃないのか、黒宮も徐に足を街の外へと向けた。
「私は依頼前に様子見して来ますので、これで」
「え……」
ただ、向けた先が凜華と同じ方向なのだが。
「……アタシも、そっちなんだけど」
遺跡、そっちにもまだ在るんだ。
おかしいな、アタシが聞いたのは……。
凜華は出て来た家を振り返る。
繋がった二つの家。二人の依頼者。そして先程の依頼人の台詞。
まさか、と思いながらも凜華はある想定が頭を過ぎる。
口は、黒宮の方から開かれた。
「……街を出て東の街道沿いに半刻」
「新しい立て看板が見えたら更に東」
凜華も続く。
もしかして。いや、多分、やっぱり。
「二本の高い木の真ん中に細い道が在るので」
「それを真っ直ぐ進んで林を抜けた奥……」
「ここですか」
取り出した地図に、黒宮はペンを走らせる。
向かいからそれを覗き込んだ自分の口から、盛大な溜め息が出た。
●
「一つの遺跡に、二人の依頼人?」
ローレットに帰還した凜華は、そう問うたイレギュラーズの前で頭を抱えていた。
「うん、おんなじ場所……」
あの後にもう一度家に訪れてみたところ、あの家は左右それぞれで双子の兄弟が住んでいるという事が判明した。
貴族とまではいかずとも、街一番の裕福な家。ベーマー家。
凜華が話を聞いたのがベーマー弟。黒宮が行った方がベーマー兄。
二人は街近くに噂の遺跡が発見された事から、それぞれそこに眠る財宝を求めて雇いの冒険者達を派遣した。
何故ベーマー家としてではなく、二人が別々に動いているのかというと。
「何か、兄弟で昔から競い合ってるんだってさ」
凜華は兄の方の家には入っていない。が、その内装は大体予想出来た。
多分、弟側と同じように珍妙な物品が並べられているに違いない。
家が繋がっている事関係が悪いという訳では無さそうだが、とにかくどちらかがどちらかの上に立たなければ気が済まない性格の様子だ。
それで、今回近くで発見された遺跡にも、兄と弟で別々に依頼をしたという訳だ。
「……で、凜華ちゃんは何でそんなに怒ってるの?」
言われて、凜華は自分の指がひっきりなしに机を叩いている事に気付いた。
「あ、いや……」
理由は解っている。黒宮だ。
ローレットに戻って来た直後の事。
そいつは頭を悩ませる凜華に対してこう告げた。
『相手が六刀さんなら楽出来そうで良かったです』
あぁ、思い出したら腹が立つ。
宣戦布告か何かか?
「人を小馬鹿にしやがってぇ……!」
あの何とも思ってないような目!
と、台詞! あと態度!
凜華の手元で紙が握り締められた。
「良い機会よ! ぜぇっ対、アイツの鼻を明かしてやる!」
目指すのは黒宮の口から出る『ごめんなさい、参りました』。
それを言わせる為に、凜華は勢い良く立ち上がり。
「アイツに負けないように準備する!」
そう言って、部屋を飛び出して行った。
と思えばその大きな足音は戻って来て、また扉が開かれる。
「ねぇ! 魔物を速攻で倒して宝をメッチャ持って帰るの、何準備したら良い!?」
顔は大変怒っている。
多分、二、三隣の部屋に居るいらん事言った奴にも聞こえているだろう。
次々に発見される遺跡。目撃が増える終焉獣。
凜華自身、今回の件に疑問が無い訳ではないのだろうが、それより先に依頼諸々を解決せねば気が収まらないようだ。
遺跡内部がどのようになっているかは判らない。
もしお互いに鉢合う構造では無かった場合、弟側が満足するなら宝の量になるだろう。
「正面からギャフンと言わせてやるわ!」
あらかたの支度をしにまた部屋を飛び出して行った凜華の見えなくなる背に、女性のイレギュラーズは苦笑しながら小さく声を掛けた。
「凜華ちゃーん……? これ終焉獣絡みの依頼だって事、忘れちゃダメよー……?」
- <漆黒のAspire>財宝巡りは日出の後完了
- GM名夜影 鈴
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
- 参加人数7/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 7 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(7人)
リプレイ
●
「なぁ凜華。黒宮は言葉足らずなだけだったんじゃないか?」
落ちついた声音で、『アネモネの花束』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は黙々と新調した刀を磨き続ける六刀凜華の背中に声を掛けた。
そうして磨……いや磨き過ぎだ。磨き過ぎだろう。
小一時間はずっと刀と向かい合ってる気がする。
それ程集中しているのか。ここまでくると、もう執念じみたものさえ感じられる。
一つ小さな息を吐いて、ベルナルドはこの場に居ない男の心内を訳すように言葉を重ねた。
「色々な依頼を共にこなしたお前さんが相手なら、ブッキングしても荒事にはならねぇって」
ローレット的にもその考え方で合っている筈だ。合ってないと困る。
終焉獣相手に内輪揉めなどしている場合では無いというのに。
「ベルナルドさん」
凜華の手がピタリと止まった。
刀身を包む右手の布を鍔から刃先まで流し、顔だけがゆっくりとこちらを振り向く。
「アタシ、いざとなれば斬りますから」
何をだ。
まぁ彼女もローレットの一員。目は座りきっているが軽率に物騒な真似はしないだろう。
言葉は怒りの現れ具合といったところか。
「競い合い、切磋琢磨する」
突然抑揚の無い声が振り掛かったもので、凜華は身体を跳ねさせ刀を落としかけた。
「良いな……我はそういう人間を応援する」
振り返れば『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)が頷いている。
いるのだが、何故棒読みなのだろう。
もしかして何処か別の依頼から息つく間もなくこっちに来たのだろうか。
凜華は散々返す言葉を考えて。
「結構……余裕、有りますね?」
あまり気の利いた台詞が浮かばなかった自分に気落ちした。
「なにせぇ」
多分、ビスコッティも元気が無い訳ではないのだろうが。
「我はそういうのはどっちも守りたくなっちまうタイプじゃから!」
棒読みのまま、そんなドヤ顔をされても。
困る。
「何やら折り合いが悪い相手と競い合う事になったという事かのう?」
大きな影が被さって、凜華はその人物の顔を見る為に首を上に傾けた。
というより、凜華でなくとも顔は上げなければならなかっただろう。
人間種と同じ測り方であれば身長三メートル程のホホジロザメの海種。『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)。
「怒りは瞬発力を生むかもしれんが、頭に血が上った状態では不覚を取るかもしれんぞ」
見た目の怖さとは裏腹に、彼はとても丁寧に諭す言葉を凜華に与えた。
理知的だ。鮫に対する恐怖感なんて人間種が持つイメージに過ぎないのかもしれない。
目の前の潮からは、何というか。
「ほれ、これでも食べなさい」
おじいちゃん味を感じるなぁ。なんて思いながら、凜華は手渡された冒険者セットの保存食に視線を落とした。
(まぁ……確かに?)
ちょっと気張り過ぎた部分は有るかもかしれない。
「一度思い切り声を出してから深呼吸~」
潮が穏やかにそう言うので、凜華は最初、キョトンとしながらも目一杯の息を吸い込んで。
「首洗って待ってろおおぉぉぉ!!!」
言葉通りに、腹から渾身の雄叫びを上げた。
「終焉獣……寄って来るっすよ」
「ごっ……ごめんなさい……!」
傍から掛けられた怠目の声に、凜華は赤面する。
身体もちょっと縮こまった。その声の主、『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)の猫背程では無かったが。
「凜華さん、思ったより元気そうで少し安心しました」
「うん、八重さんも」
顔を合わせたのは、依頼でのほんの一時。
それでも、状況が状況だっただけに慧としても気に掛かってはいたのだ。
「だからってワケでもないですが、今回の依頼もしっかり済ませてみせますよ」
「頼りにしてます! アタシは直接見られなかったけど……あの時、凄い人数差を抑え込んだ前衛の方って聞いてますから!」
こちらの依頼では、既に遺跡内部に終焉獣、変容する獣が入り込んでいるとの事。
「少しは落ち着いたかのう?」
潮の問いに、凜華も改めて頷いた。
場所は幻想王国、街道。
太陽の光が、ちょっと眩しい。
●
索敵と警戒。
両方を繰り返しながら慎重に進んだ先に、それは蓋も無く口を開けて待っていた。
「さて、冒険といこうか」
入り口の壁に添えられた手は漆黒。手袋の上からでも遺跡の冷たい感触が伝わって来そうだ。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は目標との距離がまだ充分に在る事を透視の視覚で感知すると、人差し指だけで皆を招く。
遺跡は、思ったより静かだった。
「依頼のダブルブッキングとは困った物……だけど」
そう言いながら、『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は頑丈な作りのランタンに火を灯す。
「……僕達の仕事に変わりはないしね」
光源が入り口付近を照らす。
カインがランタンを前に動かす。と、自分の腰辺りに何かが触れた気がして、目線を下げると白い髪。
「競争……に勝てるかわからないけど、全力で頑張るよ」
聖樹の効力により、通常の倍の広さを保護のする結界を張り終えた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が、ランタンの真下から顔を覗かせる。
「終焉獣を早く倒して、財宝巡りもやりきる……!」
「仕掛けは有りそうか?」
ビスコッティが質問を投げた先に、長い銀色の髪が揺れる。
「見当たらないね……ヒヒ。少なくとも、入り口付近には」
武器商人は照らされた暗闇の中を覗きながら怪しく笑ってみせた。
呼応するように、内部から複数の息遣いが聞こえる。
「……居るね」
静かに、カインが片手剣を抜く。
「周囲はどうだ?」
ベルナルドの耳に聞こえたその数は八。
問いは、このまま入って挟み撃ちにされる恐れを考慮してのものだ。
「問題は無さそうだね」
視覚、感覚の情報から代表してカインが答える。
まだ何も整備されていない石造りの内部は、一歩ごとに自然物に近い古さを足裏に感じさせた。
「途中、分かれ道は無さそうだ」
前寄りの位置でベルナルドは呟く。
最近発見された事もあり、資料での有益な情報は殆ど無かった。故に、作成する内部地図の情報は現地調達。
光源はカインの他に、潮、ベルナルド自身の身体もそれを果たしている。
聴覚で先の音を拾い上げるのは困難かと思われたが、今は幸か不幸か常に唸り声を上げている獣が居る。
「反響具合からして行き止まりになっていそうだが……気になるか?」
言われて、ベルナルドの手元を覗き込んでいた凜華は慌てて身を引いた。
「す、済みません! 綺麗に描くなぁ……って」
非常に見やすいマッピングに、素直に関心していたようだ。
「近いよ」
カインが足を止める。
言葉通りの距離では無い。単純に接敵するならもう少し先。
考慮すべきはこちらの光源と音。
つまり、奇襲を仕掛けるならここが境界線、だ。
●
暗闇に混じって足音が駆ける。
最初に到達したのは絵筆の神秘。
放ったベルナルドに合わせ、カインが更に一歩を詰める。
「陣形、縦!」
簡潔な敵陣形の見極め、同時に相手後衛へ向けて放つ魔空間が獣の身体を飲み込んでいく。
そのまま魔力の充填を図る横から飛び出したのは祝音。
護符の加護が慌てふためく獣の姿を金の瞳に映し出すと、両手を地面に押し付けた。
形成される気の糸達が獣に向かって走る。
それが串刺しにされたばかりの獣に絡みつくと、前衛の獣に向けて前へ出た慧が魔力の敵意を差し向けた。
獣の顔がやっとこちらを向く。向くだけで臨戦態勢には移行出来ておらず、そこへ凜華が斬り込む。
その後方で淡く灯っていた戦場が一瞬大きく照らされた。
潮の生命力をそのまま味方の力に。
膨れ上がる光の加護を受け、武器商人は悠々とした振る舞いで前面へ闊歩する。
その傍らに躍り出、足を踏み込ませたと同時に高周波を打ち込んだのはビスコッティ。
「何を引きこもろうとしておるんじゃ! 我と遊ぶぞ!」
これが侵略者に蹂躙される気分だろうか。
「恨みは無いけども、ここを住処に選んだ自分達とその生態、後は僕らを恨むんだね!」
カインの言葉のその通り、見つかったのが運の尽き。だったのだ。
地面を蹴り、一息にベルナルドが慧、ビスコッティ、武器商人の後ろへ退いて己の瞬発力を爆発させる負荷を掛ける。
共に攻撃範囲の適切位置に跳んだ祝音は再び傀儡の斬撃糸を敵中衛より後ろへと展開、今度は巻き付くより先にその身体を刻み付ける。
最も早く立ち直った前衛三匹の獣の牙が向かう先は慧、ビスコッティ。
「ほぉら。こっちにも居るよ? 皆で仲良く遊ぼうじゃないか……ヒヒヒヒ!」
内一体を武器商人が引き受け組み合いに。
獣が飛び掛かった入れ違いの足元を凜華がスライディングで通り抜け、一気に中衛部分へ滑り込んだ。
身体に纏う聖光に獣が弾かれる傍ら、牙の傷跡を確認し、ビスコッティは振り向かずに呼び掛けた。
「……潮ッ!」
この感じ、ただの攻撃ではない。
すぐに潮が応対の治癒術を組み上げる。
対象は誰だ。ビスコッティは自力でも修復出来る。そも、あのような出血など受け付けない。
慧も元より頑丈。武器商人はその『特性上』、後に回した方が良いだろう。
一番マズいのは、それと知らず中衛位置まで斬り込んでしまった凜華だ。
「有り難う……!」
御座います、までが続かない。
後衛の獣の咆哮を受けて、潮の祝福を受けながら凜華は急停止した。
ビスコッティが気付いてくれなかったらそのまま後衛まで突っ込んでしまっただろう。
祝音の糸が奴らの足を止めてくれていた事も大きい。でなければ、追い付かれていた筈だ。
凜華が地面を後ろに蹴る、同時、彼女の頭上からベルナルドから蹂躙の弾幕が降り注ぐ。
更にもう一歩後退した背後で、慧による闇夜の輝きに包まれた彼女はしかし、その闇に取り残された敵を置き去りにして空間を抜け出した。
凜華が一度離れた事により、見えた直線。
ほんの僅かな時間の射線上に、カインの照準は合わさった。
放たれたのは魔神の如き極光の魔力砲。
臆したか、獣の足がやや後ろへ退いたその間際に祝音が更に詰め寄った。
外へ逃げ出さないだけマシか。だが、何処へ行こうとしようとも。
「逃がさない……絶対にここで倒す!」
●
中央に、皆への視線が届く場所に、大きな鮫の身体が陣取っている。
唱えた光は仲間ではなく敵へのもの。
「追撃、いくぞい!」
潮が敢えて神聖の裁きを獣へと放ったのは、単に盾となる者が優れていたというのもある。
そして、攻撃と回復を補うもう一人と上手く分担出来ていたという事もあった。
「この後もやる事があるんだ。誰も倒れさせないよ……!」
然り。祝音の言葉には誰もが同意するだろう。ここで、今更こんな獣に道を塞がれるイレギュラーズ達ではない。
祝音の歌声が皆の傷を癒して包む。
その中に置いて、ただ一人だけは他と比べて傷口が塞がり切らないままに妖しく嗤った。
「回復役から潰すのが定石だが、なぁに」
傷は災禍。流れる血で祝祭を催そう。
受けろ、纏えよ報復の業火を。
「最悪、回復できぬほどぶちのめせば一緒さ。ヒヒヒヒヒ!」
武器商人の手から放たれた蒼槍の一射が慧とビスコッティ、ベルナルド、凜華と祝音の合間を通して最も遠方の獣を貫き燃やす。
その槍から外れた獣を、慧の両眼はその全てを瞬時に追った。
右に一、左に二……攻撃をするに最も最適な位置は。
「ここ、っすね」
やや前面に出て足を踏み鳴らす。
顕現したのはその足元ではなく真上から。
不吉を知らせる終焉の帳が獣の頭上に降り注ぐ。
その帳を開くように、光の魔力が獣を穿った。
この高火力は先程見せたカインの砲撃……違う、光撃の元に見えたのは絵筆だ。
カインはまだ、『構えている』。
通路奥に逃げようとする獣に向け、祝音は軽い足音で接近、放つ光が獣を襲う。
「無限の光の先へ、消え去れ……みゃー!」
その獣の足を止める為に、ビスコッティのガトリング砲が乱射された。
「カイン! 今じゃー! 我ごとはまずいが撃てー!」
……それはフリという事で良いのかな!
その手に溜めた魔力が迸る。更に閃光の瞬きを上乗せし、神秘の重量に抗いながらゆっくりと。
ゆっくりと。皆が作り出した獣の直線に、カインは腕を差し向けた。
「薙ぎ払う!」
放たれた魔力は先の比では無く。勿論ビスコッティを含む仲間を確実に避け。
残された獣を、奔流する力の渦の向こうへと消し飛ばした。
●
「……ふぅ!」
刀を鞘に納めて凜華が汗を拭う。
獣がやや逃げ腰であったのはビスコッティも気にはなったかもしれないが、それにしては遺跡の罠などを利用する素振りもなかった。
仲間の光以外には、暗闇と沈黙が場を支配している。
道程の主な光源は潮。発光しながら浮遊する様は動く巨大なランタンといったところか。
その巨体も相まって、背中に付いていくには充分な頼もしさも感じる。
窪んだ道の先に、それは貴方達の前に現れた。
「壁じゃの」
「壁だな」
「壁っすね」
ビスコッティ、ベルナルド、慧がそれぞれ目の前のそれを見上げて呟く。
行き止まり。
ここが最終地点という印。
辺りを見回すと確かに宝は有る。が、その量はどうしても聞いていた話とは程遠い気がする。
勿論、だからといって引き返す真似はしない。
「あの……」
凜華の声に裾を軽く引っ張られた気がして、武器商人は軽く目線だけ下げた。
「隠されてたりとか……しないですか?」
おずおず、といった様子なのは、雰囲気が少し奴に似ていたからだろうか。
それでも問うたのは奴より余裕を感じさせる立ち振る舞いとここまでの信頼、そして問うた相手の呼称なのだろうと推測出来る。
「はい、はい。そう焦らずとも逃げはしないよ。お代はこの先で頂こうかね……ヒヒ」
言うと、武器商人は足元の破片に手を添えた。
淡い光が宿ったかと思えば、破片だったそれは探知機の形をした簡易な箱のような物に生まれ変わる。
そして、生まれたと同時に遺跡の中に発見を示す音が響く。方向は間違い無くこの先。
ただ、それが無くとも武器商人には確信が有っただろう。
何故なら、武器商人の目には『その先』が見えていたからだ。
「……皆」
立ち止まったタイミングで祝音が戦闘後の回復を施す中、カインは壁際のそれを見ながら呼び掛けた。
撫で……たいなぁ! なんて祝音の白い髪を見ていた凜華も、その声に向く。
「多分、これだね」
カインは言いながら、へこんだ壁の一部へ更に力を込めた。
途端、目の前の壁が崩れていく。
その八人の前に現れたのは。
「うわ、すご……!」
金、銀、その財宝が寄せられた山だった。
一歩、誰かが踏み出す足を、武器商人は上げた片手だけで制止させる。
「見え辛いっすけど、部屋の中に膜が張ってるっすね」
それを慧も確認出来たのは、恐らくこれが魔術によるものだからであり、自身の知識と合致出来たからであろう。
潮がその膜に対して疎通を図る。
すぐに、その首は左右に振られた。
近くのそれらしい紋様を破壊すると、緑色の煙が霧散していく。
「……毒、っすか」
「ヒヒ……周到、周到」
この罠だけでは大した事は無さそうだが、魔物の住処になっていた可能性も考えると、何とも嫌らしい。
その中へ迷いなく踏み込んだのはベルナルドと武器商人の二人。
潮が背後に目配せすると、カインと慧の二人から『もう罠らしいものは見えない』というジェスチャーを受け取った。
「触っても……大丈夫……?」
宝の一つを持ち上げた武器商人に祝音が訊ねる。
「これでも鑑定眼はあるほうだからねぇ。ヒヒ」
と、その本人が言うのであれば問題は無さそうだ。
実際、これらは換金鑑賞の物にはなれど、呪いが掛けられたものではない。
「装飾も意匠も様々……か」
芸術家視点、ベルナルドから見ても、不思議ではあろうが不審には至らなかった。
作成した地図を見てもこれ以上の部屋は無いだろう。
もう片方の入り口からも同じ構造なら、不審な点も見当たらない。
「……取り敢えず、全部運びだすか?」
「あっ、アタシ、馬車の準備して来ます……ね!」
慌てて振り返ったもので、ビスコッティとぶつかりそうになって会釈をし、凜華は外へ。
それにしても、一体何の遺跡だったのだろう。
「も、も、も……」
帰還後、ベーマー家での事。
「もう既に終わってるぅ!?」
凜華は大層驚いた様子で、兄側の連絡を受けていた。
後から思えば、武器商人とビスコッティがここに居る時点で察するべきだったかもしれない。
折角、折角だ。
「僅差で勝ってたらしいっす」
慧は、そう皆へ告げた。
正直マジで凄いと思う。無念なのはその相手の顔を拝めなかった事。
既にここを離れたらしい。
(六刀さんと黒宮さんも、仲直りできるといいんだけど……)
祝音が見た彼女の元に、慧は声を掛けた。
競い合っていたのは飽くまでこの兄弟だ。自分達ではないのだから。
「凜華さんは黒宮さんと、一応もっかい話しとくといいっすよ」
「くっ……!」
正直面を合わせるのは癪だ。でも慧と慧の言葉を蔑ろにしたくはない。
葛藤。
ベルナルドの言葉が、握り拳の彼女にトドメを刺した。
「ちゃんと話し合っておけよ」
「……はい」
何だか父親に諭されている娘の図みたいだ。と後のベーマー弟は言ったらしい。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼完了、お疲れ様でした! お待たせ致しました!
あの、勝ちました! 僅差ですけれども!
敵が隊列組んでた方が攻撃当てやすかったですかね?
人数的には向こうより一人足りない状態だったはずなんですが……。
まぁ、競争の勝ち負けはプレイングでも書いて頂いた通り、大した話では御座いませんが。
勝ったからといって特に何も有りませんし。
取り敢えず、凜華……NPCもこの依頼を終えて少しは熱も下がったみたいですし、宥めて下さって有難う御座いました。
今回の詳細欄に書き忘れてるんですが一応二十歳なので、お兄ちゃんお父さんお爺ちゃんに落ち着かせられてる感じになるかなぁ、という雰囲気になっております。
では、今回も有り難う御座いました!
またの機会にお会い致しましょう!
GMコメント
●目標
遺跡内部、終焉獣(変容する獣)の討伐。
黒宮側と競争のような内容ですが、依頼の成否には関わりません。フレーバー程度です。
また、二人は出発時間に多少の差が有りますので、PC、NPCの描写の流れは黒宮側からの凜華側、という形になります。
二組が鉢合わせになる事はありません。
●敵情報
変容する獣×8
蒼白く、身体が透き通っている四足歩行の獣。
変容する獣はその名の通り様々な形態を模すとされているが、ローレットの情報と照らし合わせるとかなり初期段階である事が伺える。
見た目は人間の背丈ほどもある体長の狼型ではあるが、特異な点は見当たらない。
前衛3体、中衛3体、後衛2体とバランスの取れた陣形で敵対者を迎え討つ。
中衛の獣は攻撃強化の術を、後衛の獣は単体回復の術を行う。
舐めて掛からない方が、身の為ではあるだろう。
●ロケーション
幻想王国、昼。遺跡内部。
変容する獣達は遺跡内部の入り口近くに位置している。
警戒しているのか、イレギュラーズと遭遇しても直ちには襲って来ない。
それどころか、睨み合ったままなら遺跡の中か外に退くような素振りも見せる。
中の財宝を目指すなら、まずは相対する事にはなるだろう。
遺跡内部へ行く入り口は二ヶ所在り、凜華側と黒宮側はそれぞれ別の入り口から入る事になる。
中はどちらも袋小路になっており、お互いが中で顔を合わせる事は無い。
●財宝について
この依頼では、目標の終焉獣を全滅させたターン数に応じて依頼後にベーマー弟に届けられる財宝の数が変わります。
もう片方の依頼を請けた黒宮も同様のようで、依頼自体は勝負ではなく討伐が目標ですが、凜華は向こうより大きな成果を狙っています。
超個人的に。
●NPC
六刀凜華(ロクトウ リンカ)
ショートヘアーの黒髪に刀を持った、人間種の少女。
オープニング中に登場した男、黒宮とは何回か依頼を共にしているが、根本的な性格の差からかどうにも相容れない。
何やかんやで文句を言いながら一緒に依頼をこなしてはいるが。
天義の際に少々精神的な負荷を高めてしまったが、イレギュラーズの励ましにより前を向いて歩いている。今回はそんなリハビリも兼ねて。
戦闘では、刀を使った前衛に位置する。
今回は久々にやる気一杯である。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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