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シナリオ詳細

<再現性奈良>修学旅行と鹿と夜妖

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●修学旅行 in 奈良
「よし、では記念撮影をしよう」
 と、クロエ=クローズがそういうのへ、イレギュラーズたちは並んでにっこり笑って見せた。
 全員が、希望ヶ浜学園の制服を着ている。歳の近い彼らは、厳密には同年代ではなかったとしても、今は同じクラスの仲良しグループ……ということになっている。
 パシャリ、と写真を撮って見れば、どこか緊張した面持ちの少年たちの笑顔がある。クロエはそれを確認してから、台本通りの言葉を紡いだ。
「データで送るほか、専用サイトで申請すれば印刷して購入もできるので、あとでしておくように」
「うぃー、クロエ先生」
 シラス (p3p004421)が返事をしながら、自身のaPhoneを覗いた。さっそく送られてきた写真データを覗けば、なんというか、奇妙なむずがゆさが胸に浮かぶようだった。
「……なんだかね。こういうことはしたことなかったからな」
「……そうだな。不思議な気分だ」
 シュロット (p3p009930)がうなづく。修学旅行、という行事は、彼らには無縁のものだっただろう。学校に通い、同年代の友達と、だらだらと貴重な青春を消費する。そのたまらないほどに贅沢な経験は、彼らには欠けていたものだ。
 そのようなウェットな感傷はさておき、先ほども言ったとおりに、彼らは修学旅行に参加して、ここ、再現性奈良へと訪れていた。
「地球のネオ・ナラにはいったことがありますが」
 ムサシ・セルブライト (p3p010126)が、ふむん、と息を吐いた。
「旧時代の『奈良』は、落ち着きというか、風情があるでありますね。
 シカ・ドロイドがいるのは変わりはないようでありますが」
「いや、ちゃんとした鹿だろ、あれ」
 と、公園の端っこで観光客に襲い掛かっているシカを見やる囲 飛呂 (p3p010030)が声を上げた。
「……いや、シカ、だよな? 再現性シカ、とかじゃなくて?」
「一応、混沌世界の野生のシカを品種改良して、日本のシカに近づけたものらしいですね」
 ルーキス・ファウン (p3p008870)が、ほっこりとしたように言う。
「カムイグラのシカなどは、もうちょっと険しい顔をしていますよ。人殺してそうな顔といいますか」
「其れも一部のシカじゃないの?」
 飛呂が肩を落とした。まぁ、イレギュラーズが依頼で戦うシカなどは、たしかに人殺してそうなシカであり、普通のシカは、いくら混沌のシカでも人殺してないタイプのシカだろう。
「其れよりも――なんだか普通に修学旅行を楽しんじゃったけど」
 三國・誠司 (p3p008563)が声を上げる。
「仕事、ではあるんだろ? 夜妖退治の」
「うむ。とはいえ、君たちが修学旅行を楽しむのも、仕事だ」
 と、クロエが言った。
 さて、そもそもの発端は、ここ、再現性奈良で頻発しているという『夜妖』の件である。
 なんでも、修学旅行に行けなかった者たちの負の怨念が蓄積され、やがて簡単には解きほぐすことのできなくなったころに、混沌の魔の気などと融合して生まれてしまったのが、今回対処すべき『夜妖』なのである。
 夜妖は、シカや大仏の姿を取って、ここ、再現性奈良で暴れ出したのだという。その夜妖の対処のためには、そもそもの発端である『修学旅行を楽しめなかった無念』を晴らす必要があり、つまり疑似的とはいえ、修学旅行を開催し、楽しむ、必要があるのだ。
 実際に、今回の修学旅行に参加している希望ヶ浜学園の生徒は、シラスたちローレット・イレギュラーズだけではない。加えて、その中にも『夜妖』がいるのだ。これは無害なタイプの『修学旅行を楽しみたいだけの夜妖』であって、彼らに修学旅行を満喫させてやること、加えてシラスたちが修学旅行を満喫することが重要なことであるのは間違いなかった。
 そんなわけだから、学園関係者であるクロエも引率の先生として参加し、シラスたちローレット・イレギュラーズは『戦闘要員兼修学旅行楽しむ係』として参加している……というわけである。
「まぁ……確かに、なんだかんだ楽しんでんだよな」
 シラスがそういうのへ、シュロットがわずかに口元をほころばせた。
「ああ……なんだかんだ、な」
 楽しい、のだろう。こういった催しが。それはとても良いことだ。仕事のことはさておき、楽しんでもらいたい。
 ……が。
 突如として、あたりに地響きが走った。いや、これは『何か巨大なものが動いている足音』だと気づいた瞬間、イレギュラーズたちはいっせいに戦闘態勢をとった。
「……あれは!」
 ムサシが指さす。その先には、巨大な大仏が、ずしんずしんと歩いてくるではないか!
「……ダイブツ・ドロイドでありますか!?」
「いや、普通に夜妖だとおもうよ?」
 飛呂がつっこむ。そう、夜妖、『ダイブツ』である! その足元には、無数の「人殺してそうなシカ」が闊歩しているではないか。
「ああ、カムイグラでよく見かけたシカはああいう感じで」
 ルーキスが言うのへ、
「いや、あんなシカ、夜妖じゃなければそうそう見かけないだろ!」
 誠司がつっこむ。まぁ、ああいうシカはそうそういないだろう。
「ふむ……やはり、夜妖も一枚岩ではないというか。妨害が入ったようだな!」
 クロエがいいつつ、ほかの生徒に目配せする。念のための避難誘導を開始した生徒たちに指示を出しながら、
「戦闘の方は頼むぞ! その他の処理は此方でやっておく。
 あ、この後はホテルで食事とお風呂と部屋で休む流れだから、時間には遅れるなよ!」
『はーい、せんせー』
 と、イレギュラーズたちが返事をした。
 かくして、修学旅行続行のための戦いが、始まる!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 修学旅行! ですね!

●成功条件
 修学旅行を楽しむ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 修学旅行のメッカ、再現性奈良。昨今、ここでは修学旅行を妨害する夜妖が現れるようです。
 その根源は、修学旅行を楽しめなかった人たちの負の思念。楽しみたい、でも楽しんでいる人たちが恨めしい。その様なアンビバレンツは、『修学旅行を楽しみたい夜妖』と、『修学旅行を妨害したい夜妖』を生み出しました。
 その両方に対処するため、ローレット・イレギュラーズの皆さんは、修学旅行を楽しみながら、邪魔すする夜妖を倒す、という仕事にとりくむことになります。
 というわけで、さっそく戦闘です! 敵は大仏と鹿。奈良なので!
 これを蹴散らし、この後の予定は、ホテルに戻って夕食とお風呂、みんなでお部屋で遊ぶ、という形になります。

●エネミーデータ
 大仏夜妖 ×1
  巨大な大仏。でっかくてパワーがあってタフです。
  とはいえ、このシナリオのメインは、修学旅行を楽しむ男子たちを接種することですので、そうまじめに戦闘プレイングに文章を割く必要はありません。かっこよくキメましょう。

 シカ夜妖 ×8
  シカの夜妖。シカは軽自動車位ならひっくり返します。怖。
  反応や回避に特化していますが、防御性能は高くありません。
  とはいえ、このシナリオのメインは、修学旅行を楽しむ男子たちを接種することですので……かっこよくキメましょう!

●リプレイの流れ
 基本的には戦闘描写を行い、残りはホテルでの描写になるかと思います。
 とはいえ、戦闘後に奈良を観光したい……ということがありましたら、ご相談の上そのむねプレイングにご記載ください。
 洗井落雲は奈良エアプなので、行きたいところを教えてくれれば頑張って調べます!

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!

  • <再現性奈良>修学旅行と鹿と夜妖完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2024年03月02日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

シラス(p3p004421)
超える者
三國・誠司(p3p008563)
一般人
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
シュロット(p3p009930)
青眼の灰狼
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

サポートNPC一覧(1人)

クロエ=クローズ(p3n000162)
練達の科学者

リプレイ

●修学旅行の夜妖
 さて、これまで修学旅行の旅を楽しんでいた一行。
 そこに強襲する、巨大な大仏!
「ダイブツ・ドロイド!?!?
 まさか……トウダイジ星以外にも存在していたとは……!」
 びしぃ、と指さす『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)に、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)はツッコミを入れる!
「いや、夜妖だからな、あれ!」
「夜妖……!? ドロイドを使ったナラのエンターテイメントかと……!」
「いや、奈良はそういうことしないから! しないないよな、みんな!?」
 一応確認する飛呂へ、仲間たちは力強くうなづいた。
(わからないけど、多分そういうことやらないだろ……)
 『竜剣』シラス(p3p004421)は視線をそらし、
(しらないけど、多分そういうことはやらないだろ……)
 『青眼の灰狼』シュロット(p3p009930)は静かに目を閉じ、
(奈良の大仏も人を殺してそうな顔をしているんだな……)
 『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は少し親近感を抱き、
(いや、みんな奈良をなんだと思っているんだ……?)
 『一般人』三國・誠司(p3p008563)は強くうなづいた。
「ほら!」
 少し疑問を感じたが、飛呂がそういうのへ、ムサシは「むむむ」とうなる。
「では……あれは倒すべき敵ですね!
 修学旅行を妨害する夜妖! ゆるざんッ!!」
 ぐい、と力を込めて、ムサシが言う。
「いや、待つんだみんな」
 ルーキスが指さす!
「足元にシカが! 助けないと!」
 そこには、いかにも『人を殺します!』と表情で雄たけびを上げているタイプのシカが!
「いや、あれも夜妖だから!」
 飛呂が叫ぶ。
「なんだって!? カムイグラって実質奈良みたいなものだから、奈良にいるシカも人を殺しているタイプのシカなのでは……!?」
 ルーキスが目を丸くするのへ、飛呂がツッコンだ!
「再現性都市は何気ない日常を再現した都市です! そうだろう、みんな!」
 飛呂の言葉に、仲間たちは力強くうなづいた。
(そうだな……シカといえばよく命がけで狩ったもんだ……)
 シラスは視線をそらし、
(シカか……いや、依頼で討伐を頼まれるんだから人を殺すのでは……?)
 シュロットは静かに目を閉じ、
(シカ・ドロイドは角の先端からビームを撃つんだよな……)
 ムサシは懐かし気に想いを馳せ、
(いや、みんな奈良をなんだと思っているんだ……?)
 誠司は強くうなづいた。
「ほら!」
 少し疑問を感じたが、飛呂がそういうのへ、ルーキスが
「いや、これ全員分やる気か?」
 シラスが声を上げた。
「とにかく状況ははっきりしてるだろ。
 あれは倒すべき敵。排除すべき目標だ。
 そしたら、変わらんだろ?」
 ふ、と笑って見せる。些か殺伐とした剣呑な空気は、先ほどまでの楽しいそれとは違っていた。
 優しく笑っていた大仏も、いささか厄介なシカたちも、今は遠く。
 明確に、此方へと害意を持った『敵』の存在は、まるでいつもの慣れた日常のようで。
 そうなれば――誰かの再現された日常は、シラスにとっては非日常で。シラスの日常は、誰かにとっては目をそらしたくなるくらいの非現実だったのかもしれない。
 なんてな、と苦笑する。そんなシリアスな話じゃあないさ。鹿と、大仏だぜ? 笑って始まって、笑って終わろう。
「今日は楽しい修学旅行だ。
 この後はホテルでこっそり持ち込んだ酒をぺろりと舐めて、朝まで恋バナすんだろうが!」
「ふふ……そうだな」
 シュロットが、少しだけ柔らかく笑った。
「とっておきの酒がある。
 とっておきの話もな。
 クロエ先生には秘密だぞ」
「おっけーおっけー。先生から隠れて遊ぶのは、学生の特権だ」
 誠司が笑う。
「あ、でも飛呂君はお酒駄目な。もっとやばい先生に怒られちゃうから」
「さすがにその辺はなぁ」
 飛呂が苦笑する。さておき。
「では、行きましょうか、皆さん!
 人々の楽しみである修学旅行を邪魔する夜妖ッ! この宇宙保安官ムサシ・セルブライトが許さんっ!」
 びしっ、とムサシが指さすのへ、仲間たちも笑いながら、武器を構えた。
 こんな剣呑な時間も、修学旅行のためだと思えば、楽しいのかもしれない。
「それじゃあ、さっさと片付けるか!」
 シュロットが弓を構える。合わせるように、ムサシもレーザー・ブレードを輝かせた。
「ムサシ! 一気に打ち込む――まとめてなぎはらってくれ!」
 シュロットが、その弓から禍矢を一気に浮き放つ! それは鋼の驟雨のとなりて、雄たけびを上げて突撃する夜妖のシカを撃ち貫く! ぎゅぎゃ、と悲鳴を上げるシカたちがたたらを踏むのへ、そこへ一息にムサシが踏み込み、炎のレーザー・ブレードを振るった!
「爆散ッ!」
 雄たけびが、強烈な炎の爆発を引き起こす! 宇宙保安官必殺の一撃が、シカたちを一気に吹き飛ばした! ヒョォォォン、と甲高いその鳴き声は悲鳴か。夜の山から聞こえてきたら怖いその鳴き声を挙げつつ、夜妖が黒木蔭へと消えていく!
「みんな! 大仏は解体してしまうであります!」
「うーん、罰当たりな気がする……」
「別に特別な信仰心はないけど、なんというかなぁ」
 飛呂と誠司が思わず苦笑する。さておき、飛呂が狙撃銃を構え、死神のごとき狙撃を披露して見せた。放たれた銃弾が、大仏の左腕を貫いた。ばぎゃん、と、木か、なにかが砕けるような音が聞こえる。夜妖なれど、その性質は木製に近いのだろうか? 妙なところも『再現』したものであるが。
「なぁ、ムサシさん。ダイブツ・ドロイドって歩き回ってるの?」
 尋ねる飛呂へ、ムサシがうなづいた。
「はい! 元気に!」
「なんかやだな……」
 誠司が改めて苦笑した。気を取り直し、大筒からトリモチ弾を発射する。ばしゃっ、と大仏の体にたたきつけられたそれが、足止めとともにその巨体を吹き飛ばす。ぐわり、と体勢を崩した大仏へ、ルーキスがゆっくりと立ちはだかった。
「好い軌道です。打ち返し甲斐がある!」
 刃を構え、ふるう。現にして虚ろなる、刃。さん、と、刃が空気を薙いだ。ルーキスの刃が、大仏の体を走る。表面、肉、内腑、肉、そして表面。ずばん、と振るわれた刃が、大仏を切り裂いた。
「……しまった。打ち返したというか、斬り捨ててしまったというか」
 ルーキスが苦笑する。ぼ、と傷口から影や闇を吐き出しながら、しかし大仏は最後の断末魔のごとく、その腕を振るった。ルーキスが飛びずさった刹那、ずん、と巨大な拳が奈良の公園の大地をえぐる。しかし、ダメージの蓄積されたた大仏は、すでにその動きを鈍らせていた。
「じゃ、こいつでしまいだ」
 シラスが言う――跳躍。そして、大仏の頭に。
「その額の……ほくろみたいなやつ。
 弱点か?」
 小首をかしげつつ――その拳をたたきつけた。その手にまとう魔力が、爆発的に膨れ上がる。
 竜の剣。その如く――。
 叩きつけられたその一撃が、大仏の体中に強烈にひびをいれた。するとどうだろう、注ぎ込まれた魔力はその内部で一気に膨れ上がり、まるで内から光のように噴き出してあたりを照らす。すぐに体中のヒビは大きく、広範囲に走り、次の瞬間には巨大な破砕音とともに、粉々に砕け散って爆散した――!
 シラスが着地する。あたりは静けさを取り戻している。当たり前で、『誰かの日常』である、『再現性奈良の日常』が、取り戻されていたのだ。
「ちなみに。
 その額のやつ、毛の塊で、悟った証らしい」
 飛呂が言うのへ、シラスが、へぇ、と声を上げた。
「毛なんだ、あれ。
 よくわかんねーけどすごいな」
「さて、目標は半分達成でありますね」
 と、ムサシが笑う。
「邪魔する夜妖は倒しましたし、あとは思う存分、修学旅行を満喫すれば、残りの無害な夜妖も消え去るのでしょう」
「そうだな。この後は、どうするんだっけ?」
 ルーキスが言うのへ、シュロットがうなづいた。
「ホテルで夕食、お風呂、お休み。
 まぁ、まだ時間はあるけれど」
「じゃあ、ほかの寺とも回ってみる?
 クロエ先生も呼べば戻ってくるだろうし。
 解説とかしてもらおう」
 誠司が言うのへ、皆は笑って頷いた。
「さぁて、あとは――」
 シラスが笑った。
 思う存分、青春すればいいだけさ!

●ホテルでの夜
 いくつもの場所を巡って、いくつもの説明を聞き流した。健全な男子学生が、先生の話なんて聞くわけがない。先生もそんなことは解っているので、解説はしつつも、むしろ学生たちの行動の方に目を光らせている。
 学生たちは、ことさらに暴れることはないが、しかしいささか自由に動いてしまうことも事実だ。先生と生徒のせめぎあい。それも修学旅行の『再現』であって、楽しみであるのだろう。
 それから、いくつもの写真も撮った。変な景色の写真、何となくとったよくわからない写真。友達の笑顔。ふと見た絶景。おいしい食べ物。それから、仲間たち。それをaPhoneに、あるいは物好きはフィルムカメラに収めながら、たくさんの思い出を積み重ねていく。
 長い人生の、ほんの短い時間。同じ学校に、同じクラスに属した、不思議な縁の友達。
 いつか思い出さなくなるかもしれないし、一生の友達になるのかもしれない。
 そんな思い出の一ページを確かに刻みながら、それでも日は暮れていく。一行はホテルに到着すると、奈良ならではの夕食を食べてから、ホテルの大浴場でぎゃあぎゃあと騒ぎながら体を休める。
 やがて自室に戻れば、もう一つのお楽しみがやってくるわけだ――。
「……こういう雑魚寝って、野営を除くと始めてやったかもしれない」
 シラスの言う通りだろうか。畳敷きの和室には、今は複数の和布団が敷かれていて、三つ並びを二列、頭を突き合わせるような形だ。
 すでに消灯時間であり、つまり速やかに眠らなければならない。が、健全な学生男子が、消灯時間などを守るわけがないのである。これはルール違反か? いや、これも『修学旅行の楽しみ』に間違いないのだ!
「とりあえず、先生に隠れてお酒を飲もう」
 シュロットが、鉄帝の良い酒を取り出した。
「……飛呂は。その、すまないが」
「そうだな。法律は先生より怖いからな……」
 法律は怖いからな……。
 こっそりとコップに次いで、乾杯をする。飛呂はジュースだったけれど、充分『雰囲気』に酔うことはできるだろう。
「でさー、こういう時の話」
 シュロットが言う。
「ここには男しかないんだ、男同士だから出来る話というのもあるだろう。
 ……恋バナとか、猥談的な奴」
「分かる」
 うんうん、とムサシがうなづいた。
「宇宙保安官としてはそんな破廉恥な……破廉恥な! となるところでありますが。
 今はいち学生ですので。
 話しましょう……誠司さんはカノジョいるんですよね!!!!」
「お、おう……いや、声は潜めて。先生くる」
 こほん、と咳払い。
「それで、誠司クンはさぁ、どんな女の人が好みなの」
 シラスが言うのへ、
「やっぱりさー、可愛くて胸大きくて……。
 そうなぁ、セミロングとかロングとかの綺麗な髪でさ。
 振り返るとサラサラすんの。
 絶対いい匂いするやん?
 いやー、それで清楚な感じだったら最&高だよね……。
 お嬢様系みたいなあんなかんじ」
「わかるー」
 ルーキスがうんうんとうなづいた。
「大名家のお嬢様のような……」
「大名……?」
「いとおかし……」
「いと……?」
「飛呂くんはどんな感じでありますか。
 いや、聞くまでもありません。情報屋の~~~~?」
 ムサシが言うのへ、飛呂が慌てた様子を見せる。
「お、おい! そりゃ、その、さぁ!」
「まぁ、それはさておいてだ、飛呂君、女の子のどういうところが好きなの」
 シュロットが訊ねるのへ、
「その、俺は……ヘソとか腰あたり……。
 だ、だってほらなんかこう、元気で健康な感じがしていいじゃん!?
 細いとなんか大切に扱わなきゃってドキドキするっていうか……」
「僕は脚を見てしまう。
 特にふとももは自然と目が行ってしまうな。
 女性の胸に惹かれるというのは解る。
 だが美脚・脚線美という言葉もあるように、足とはすなわち美なんだ。
 ちなみに太腿は太い方が好きか?
 僕は太い方が好ましいが、細いのもまたよし。健康的に太くなれ。太く太く太くなれ」
「シュロット君べろんべろんじゃん」
 誠司が言う。
「ムサシも彼女いるんだよな?」
 シラスが言うのへ、
「ふふ、よくぞ聞いてくれました……。
 ……誰かを思ったり、目標に向かって頑張るところを見ると気になっちゃうかな。
 俺の一番好きな人も、頑張る人だったから――」
「はぁ? そうじゃねぇだろ!」
 ルーキスが叫んだ。べろんべろんである。
「そうじゃなくてさぁ……あるだろ! あの、おっぱいとかさ……おっぱいとかさ!
 何綺麗なこと言ってごまかそうとしてるの! 俺たちは! 男子! 健全な!」
「落ち着くんだルーキス、先生が来る!」
 シラスが言った。全員、ばさ、と布団をかぶる。
「……よし、続けろ」
「みんな、太腿とかさ、おっぱいとかさ……そういうのがをさらけ出してるじゃん!
 何が頑張ってるところが素敵、だよ! なぁ、シラス!」
「俺は、声っていうか、話し方っていうか……耳に優しい感じが好きかな。
 穏やかで賢い、そういうの癒される」
「おっぱいとか太腿とか言おうよ~!」
 ルーキスが枕に突っ伏した。
「なんなの? やっぱり綺麗じゃないと彼女とか作れないのか?」
 飛呂が言うのへ、
「俺は????」
 誠司が首を傾げた。
「でもさぁ、いいよな。俺もこう、「君のまっすぐな瞳が好きだよ……」とか言ってみたい」
 飛呂が言う。
「で、実際、シラス君とムサシ君って何が好きなの?」
『おっぱい』
「だよなぁ! これはプレイングに書かれてないけど健全な男子だから確定で」
 うんうん、と誠司がうなづいた。
「いいよなぁ、彼女いるやつとかさ、好きな女の子を追っかけてるやつはさ……」
 シュロットが言う。みんなそれなりに酔っぱらってテンション上がって紅潮しているので、あけすけであることにご留意いただきたい。
「青春……だよなぁ……」
 ルーキスがうなづく。
「でも俺はさ……うなじがさ……うなじが……好きで……。
 洋服でも良いけど、やっぱり和服から覗く様が最高だと思うんだよ……。
 (ろくろを回すポーズ)
 女子はもっと着物着て? 浴衣でも良いよ!」
「わかる……俺も彼女に浴衣着てほしい……着物とか……」
「いいよな、キモノ。オリエンタルな魅力っていうかさ……俺もたくさん着てほしい……」
 ムサシとシラスがうなづき、
「彼女も修学旅行来てればな……浴衣、着てもらえてたのにな……」
 誠司がうなづく。
「クソ、世の中は不公平だ」
 シュロットが枕に突っ伏した。
「もういいよ……俺たちは負け組なんだ……寝よう……」
 ルーキスもまた、枕に突っ伏す。
「ふてくされんなよ……でも、彼女の浴衣や着物か……いいなぁ……」
 飛呂がうんうんとうなづいた。
 紆余曲折あれど。
 楽しい時間は、しばし続き――。
 先生に見つかって怒られるまで。続いたのである。

●出発の日
 修学旅行は終わり。
 もうすぐ、帰りのバスが出発しようとしている。
「お土産、お土産かぁ」
 ううん、と、ホテルのお土産コーナーで、ムサシが唸る。
「……やっぱり、ウッドブレードにジッテソードだよな……。
 特にトーヤレイクのウッドブレード……。
 彼女にも買っていこうかな……」
「彼女に木刀買ってったら一発でフラれるぞ」
 そう、シラスが、丸く黒いお菓子、例えるなら「シカのはなくそ」みたいなデザインのお菓子を抱えながら言う。
「それ買ってったらシラスも一発でフラれない?」
 誠司が言う。
「いや、これはレイガルテに……」
「大丈夫? 手打ちにされないか?」
 誠司が改めて確認するのへ、シラスはうなづいた。
「いや、意外とノリよく食ってくれたりするんだよなぁ。甘党だし。
 そういう誠司は何買うの?」
「これ。竜のまきついた剣のキーホルダー」
「最高」
 ぐ、とシラスが親指を立てた。
「みんなで買おうぜ……男の子の憧れだよ……」
「待ってくれ、このクソださTシャツも買おう。奈良、って書いてあってシカの顔が書いてあるやつ」
 ルーキスが言う。クソださいTシャツを抱えながら。
「いいかもしれない……」
 シュロットがうなづく。これが修学旅行テンションである。
「あとは、このわらび餅……これはおいしいな。清涼な味というか……これを買って帰ろう。
 あと、その竜の剣のキーホルダーも」
「みんなで買って帰ろうかぁ」
 飛呂がうんうんとうなづく。
「というか、みんなで剣買って三銃士しようぜ。六人いるけど」
「2グループ出来るでありますね。最強か?」
 ムサシがうなづいた。
「あとは、普通にシカのクッキーとか。
 変なお菓子はさぁ、帰りのバスで食べよう」
 飛呂が言うのへ、皆はうなづいた。
「おーい、そろそろ会計を済ませたまえ!」
 先生の声が聞こえたので、各々は『はーい、センセ』と返事をすると、思い思いのお土産物を購入して、袋に詰める。
 はたして、それからすぐに、送迎用のバスに乗り込んだ。絶妙に振動するバスのシートの感覚も、これから出発する気持ちを反映するかのように、どこか心地よい。それと同時に、なにか一抹の寂しさが、心の内に浮かんでくるものだ。楽しかった日々の終わり。修学旅行という非日常の、終わり。
「……学び舎集う大勢で旅をし、普段いかないような場所や施設を楽しみ、夜は皆で食卓を囲んで眠る。
 ……なるほど修学旅行を楽しみにし、それを行えない未練が夜妖という形になるのは納得のいく話だったよ。
 ……楽しかった。とても。
 そして今は、すこし、寂しい」
「そんなシリアスな依頼じゃないぜ、これは」
 シラスが言うのへ、皆はうなづいた。
「笑って帰りましょう! ほら、家に着くまでが修学旅行でありますから!」
「そうそう。ほら、帰りのバスでカラオケでもやる?」
 飛呂が言うのへ、シュロットは、少し微笑んだ頷いた。
「では……奇妙な話だけれど。
 また、修学旅行に行きたいな」
 ルーキスの言葉に、誠司は笑う。
「混沌世界なら、またいけそうな気がしてきたよ。
 それじゃあ、帰ろうか」
 その言葉に応じたみたいに、バスはゆっくりと動き出した。
 様々な『楽しかった』という思いを乗せて、バスは日常に向けて出発する。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト有難うございました。
 得難い思い出。

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