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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>終焉に侵されし幻想

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 昏く淀んだ澱のようなそれはなおも蠢く。自らの命が脅かされる不愉快な感覚がようやく落ち着き始めたが、それでもうぞうぞと不気味に蠕動を繰り返す。
 そうしているうちに、何かが繋がった。そんな感覚が黒い泥濘に伝わった。細くか弱い小さな縁の糸だ。しかし、繋がった先が強大過ぎたようだ。
 糸を伝わってくる、激しく燃え上がるかのような激情は瞬く間に黒い泥を染め上げると、暴れるように大きくうねり始める。それが”憤怒”という感情であることも知らないまま。
 強い感情を初めて知ったそれは、湧き上がる想いをどのように処理していいのかも分からないまま暴れ続けていると、近くに小さな”穴”が開いていることに気付く。
 その先にいる何か。か細い縁の糸が繋がる者に導かれるように、黒き泥濘はその穴を目指して這っていく。

 ――ごきげんよう、皆さん。
   ルクレツィアがお世話になったようですけど、もう冠位では力不足。
   これより先は私、『聖女』マリアベルとBad end 8がお相手いたしますわ。
   どうぞ、手加減等なさらぬよう。ラスト・ダンスまでそのステップは後悔のないように!

 終焉勢力からそのような声明が全世界に伝えられて間もなくだった。
 混沌各地で終焉の本拠地である影の領域と繋がるワームホールが開き、そこから終焉獣と呼ばれる尖兵たちが大量に送りこまれ始めたのだ。
 そしてそれはこの深緑も例外ではない。森林警備を担うレンジャーの一団が今まさに森の中を駆けていた。
「次、二時の方向! 数は三!」
 その一団の中にアルリア・レ・ルマールの姿はあった。
 類い稀なテイマーの資質を持つ彼女は、中でも栗鼠や小鳥といった小動物を使用した偵察を得意としており、得られた情報でレンジャー仲間の戦いを支えていたのだ。
「この辺りはひとまず大丈夫そうかな。みんなお疲れ」
 戦闘が一段落すると、長時間自分を乗せて森の中を走っていくれたパカラクダのメルメルを始めとして動物たちを労い、餌をあげたり体を撫でてあげたりしていく。
 しかし、こうして落ち着いていられる時間は少ない。終焉の侵略は苛烈であり、とてもではないがレンジャーだけでは手が足りないのだ。
 ローレットに連絡を入れて救援を求めてはいるが、イレギュラーズが到着するまでは自分たちでどうにか耐えるしかない。
 疲労の抜けきらない体に鞭を打ち、もう少し頑張ろうと動物たちに声を掛けて再びアルリアが所属する一団が移動を始めようとしたその時だった。
「なに、これ……」
 アルリアだけではない。レンジャー仲間の一部も違和感を覚えたようだ。
 しかし、疲労していた心身ではそれに抵抗することは出来ず、どこかぼーっとした様子を見せるとふらりと歩きはじめる。
「おい、お前たち! どこに行くんだ!?」
 仲間の制止を振り切って足を向けた先は深緑の中心に聳える大樹ファルカウであった。


 終焉勢力の侵略はすぐにローレットの耳にも入っており、ローレット内は張り詰めた空気に包まれていた。
 各地の情報屋から次々届くあらたな情報と依頼。それらを受けてイレギュラーズが各地へと散っていく。その中心にいたのは、行方不明となったレオンの代わりを務める『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)だった。
 日々の激務に忙殺されて疲労の色が濃いユリーカだが、レオンが戻ってくるまでは自分がローレットを支えるのだと働き続けているのだ。
「今度は深緑からの依頼なのです!」
 深緑から届いた報告書に目を通すと、まだ依頼を受けていないイレギュラーズを集めてユリーカは依頼の概要を説明する。
「深緑にファルカウを名乗る魔女が出現。その後、大樹ファルカウの上空にワームホールが出現し、終焉獣がそこから溢れ出ている。とのことなのです。
 皆さんには大樹ファルカウ内部を通って上層へと向かい、出現した終焉獣の討伐を依頼するです。
 また、深緑に住まう人々の一部が、その上層を陣取って近づくと攻撃を受けるとのことなのです。
 その人たちとの交戦も予想されますが、どうやら正気ではないようなのです。その人たちの開放も同時にお願いするです!」
「報告によると、私の親戚もその一人となってしまったらしい……。すまないが、皆の力を貸して貰えないだろうか」
 ユリーカの説明に続いたのは『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)だった。
 終焉の侵略が始まってすぐに、実家のジグリ商会が親戚筋の無事を確認しようと混沌各地に連絡を取ったのだが、深緑にいるはずの親戚の一人と連絡が取れなくなったという。
 詳しく調べてみれば、どうやらその正気を失ってしまった者の中にその親戚が含まれていたとのこと。
 ラダと直接の面識があるわけではないが、やはり血の繋がった者がそうして巻き込まれているのならば救いたいと願うのが人情だろう。
 ラダの願いを聞いたイレギュラーズは、依頼の受注を決めるとラダと共にすぐに深緑へと向かうのだった。

GMコメント

●ご挨拶
今回は深緑での依頼です。よろしくお願いします。
なお、オープニングに登場したアルリア・レ・ルマールは『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)さんの関係者ですので、優先を発行させて頂きました。
それでは、奮ってご参加ください。

●目標
1.アルリア及びレンジャー部隊の救出
※死亡させてしまった場合も含め、1を達成できなかった場合はシナリオ失敗となります。
2.終焉獣の全滅

●副次目標(達成しなくても失敗にはならないが、可能ならば対処してほしいもの)
 『滅びの種』から生まれた魔法樹や『滅石花(ほうせき)』の可能な限りの駆逐

●ロケーションなど
 今回の舞台は大樹ファルカウの上層です。
 通常、この場所は禁足地として限られた者しか立ち入ることを許されませんが、緊急事態ですのでイレギュラーズが入ることには何も問題はありません。
 上層に突入すると、大樹の幹をくりぬいて作られた荘厳な神殿が建っていて、その内外に終焉獣や正気を失った深緑の住民がいます。
 禁足地全体はかなり広くなっており神殿も非常に大きなものですが、皆さんが侵入するのはその一画となっています。
 幾つかある神殿への入り口のひとつ。その手前にある開けた場所で、神殿を守るように待ち受けているアルリアたちとの交戦が行われます。
 また、神殿内外には後述する『滅石花』を咲き誇らせる魔法樹が無数に生えているようです。

 さらに、大樹ファルカウを中心として、霊樹や霊脈を介して深緑全体に特殊な『古代魔法』が起動しようとしているようです。
 魔法的な要素に親和性の高い幻想種はこの『古代魔法』に魅入られやすく、アルリア及び幻想種のレンジャーは古代魔法に魅入られた事で認識がすり替えられ、救出に来たイレギュラーズを「大樹ファルカウを脅かす者」として攻撃してきます。
 なお、イレギュラーズであれば、幻想種であっても強く意思を保つことでこれに抵抗することが可能です。

●エネミー
・アルリア・レ・ルマール&メルメル×1
 ラダさんの従姉妹にあたる幻想種の少女と、その相棒のパカラクダ「メルメル」です。
 元々は大樹ファルカウの守護者となるため、レンジャー部隊に入って森林警備を行っていましたが、終焉獣との戦いの中で仲間の幻想種レンジャーたちと共に前述の古代魔法に魅入られてしまいました。
 その後、ファルカウ上層へと至るとワームホールを通じて出現した、アメーバ状の寄生型終焉獣に寄生されてしまったようです。

 戦闘スタイルはビーストテイマーとしてワームホールから出現した終焉獣を使役し、それらにイレギュラーズを襲わせます。
 また、自身は終焉獣に寄生されたパカラクダのメルメルに騎乗し戦います。
 ステータス傾向としては、AP、神攻、抵抗、反応が高くFBは低い、回復や強化といった支援を得意とするサポートタイプですが、後方から弓や魔法での遠距離攻撃を行うほか、接近されてもナイフで対応できるなど直接戦闘も可能なようです。
 終焉獣に寄生された影響で、各種能力が魔種相当まで引き上げられ、種族スキルであるマナプールが拡張されて強力な【賦活】と【奇跡】を持つようです。

・レンジャー×2
 アルリアと同じ部隊に所属していた幻想種のレンジャーです。
 アルリア同様に寄生型終焉獣に寄生されており、大きく能力を引き上げられています。
 ステータス傾向としてはAP、神攻、命中が高く、【火炎系統】や【氷結系統】といったBSを付与する強力な魔法や、その力を込めた弓矢を使用して戦うようです。

・終焉獣×多数
 アルリアが直接使役する終焉獣です。
 大別して、【飛行】して上から強襲してくる大鷲型、鈍重だが一撃の破壊力が高い羆型、素早く動き回る狼型の三種がいるようです。
 個としての強さは、熟練のイレギュラーズであれば容易に勝てる程度ですが、数が多い上にアルリアによって群れとして連携するため非常に厄介な存在となっています。

●特記事項
・『滅びへの種』
 滅びのアークを土地に植付けて、魔法樹を急速に育てます。
 その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なものです。大地のマナを吸いあげて、滅びの魔法樹を育て、その土地を枯らし尽くすだけでなく、バグ・ホールが開きやすいように調整する役割も担っているようです。
 大樹ファルカウ上層の神殿にはこの種が成長した魔法樹が乱立し、蔦を伸ばして神殿の内外を覆っています。

・『滅石花(ほうせき)』
 滅びへの種で育った魔法樹に咲く花です。所謂、滅びのアークを蔓延させるための花粉を出す役割を担っています。
 神殿内部では、『滅石花』の蒔く花粉の影響によって非常に濃い滅びが蔓延しているため、侵入したイレギュラーズには2~3ターンに1度BSが付与される可能性があります。
 付与されるBSは【毒系列】【痺れ系列】【窒息系列】【不調系列】【麻痺系列】の中からランダムで1種が選択されます。
 これらは特殊抵抗やBS無効などで予防出来るほか、BS回復での治療は可能となります。

・魅了状態の解除
 古代魔法に魅入られた状態は不殺で対象者を倒すことで解除可能です。

・寄生の解除
 寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。
 なお、『死せる星のエイドス』は対象者1名につき1つ必要となります。
 また、『願う星のアレーティア』を使用する場合も対象者1名につき最低1つですが、2つ以上を同時に使用することで寄生解除の確率を高める事が可能です。

●サポート参加
 解放してあります。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <漆黒のAspire>終焉に侵されし幻想完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ


 大樹ファルカウの上層部へと足を踏み入れたイレギュラーズは、その瞬間にむっと漂ってきた滅びの気配に思わず口元を押さえて眉を顰めた。
「本来はとても神秘的な光景だったのでしょうけど……」
「へ、へ、ヴェックショィ! オレ花粉症なんだヨ……。」
  中央に見える神殿とその周囲を取り囲むように乱立する木々は明らかに自然のものではなく、見るも無残な姿に『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が心を痛めていると、その隣で『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)が盛大にくしゃみをしていた。
 咲き誇る花から漂う花粉は凝縮された滅びの結晶。花粉症程度で済んでいるのは、イレギュラーズが滅びに耐性を持つからだが、長時間いればそれ以上の不調が出てもおかしくはない。
「ラダ、大丈夫か?」
「問題ない。それよりも、私の身内へ手を出させたことを後悔させてやる」
「アルリアさん、でしたっけ。必ず助けましょうね!」
 心配そうに『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)へ声を掛けたのは『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だった。
 滅びの影響もそうではあるが、一番の心配は深緑全体を奔っている古代魔法の影響だ。ラダ自身は獣種であるが、幻想種の血も入っているため何か影響が出ているのでは、と考えたようだがどうやら杞憂で済んだようだ。
 ラダが強い闘志を燃やして神殿の方へ視線を向けると、『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が拳を握って声を掛ける。
 終焉に捕らわれた人の中にはラダの親戚がいたのだ。数年前に一度顔を合わせただけだが、それでも血の繋がった大切な身内。必ず取り戻さなければならない。
「安心しろ。我が死なせん。汝らも、そして捕らわれた者らもな」
 そう言って『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)が万年筆を宙に走らせると、ラダの纏う空気が一変し激しい闘争心が近くにいる者にも伝わるほどに高まっていった。
「あいつらに見せてやろう。本物の終焉ってのをな」
「終焉獣を倒してアルリアさん達を助けるぞ!」
 終焉獣に滅石花。深緑への侵食は到底許せるものではなく、『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)も闘志を燃やして正面を見据えると、大切なものを取り返すためにイレギュラーズは一丸となって前へと進む。


 アルリアたちもまた、イレギュラーズの接近に気付いていたのだろう。多数の終焉獣がまるで一個の獣のように立ち塞がっていた。
「僕が道を開きます!」
 開戦直後、真っ先に動いたのはジョシュアだった。
 力いっぱいに引き絞った弓で狙いを定めると、その翠の瞳が仄かに光る。
 終焉獣の数や配置を素早く認識すると、どのように撃てばもっとも効率的かを即座に導き出し、息をも吐かせぬ連続射によって巨大な獣の顎を食い破り、僅かながら奥へ続く道筋を作り出す。
「アルリアは俺に任せな!」
「すまない、ルナ! 頼んだぞ!」
 飛び出したルナはジョシュアから支援を受けつつ、終焉獣の群れを跳び越え宙を駆けながら敵陣を突破すると、最後方で弓を構えていたアルリアへと肉薄した。
「くっ! ファルカウを侵す不届き者め!!」
「そんなんじゃねぇ! ……って言っても今は通じないか」
 すかさず鋭い刃となった風を纏わせたナイフで迎撃するアルリアだが、それがルナに届くよりも先に強固な結界によって塞がれ、硬質な音を立てて弾かれる。
 ならば、とパカダクラのメルメルに付けた手綱を引いたアルリアは、レンジャー二名が放った矢がルナを押し留めている間に一旦距離を置いて、最も得意な弓での攻撃に切り替えた。
 だが、レンジャーの矢も無効化したルナはその間に攻撃を整えている。使い古された、しかし細部まで丁寧に手入れされたライフルで狙うのはアルリア――ではなく、その下のメルメルだ。
 放たれた弾丸は特別強力という訳ではないが、敢えて足元などをわずらわしさを感じさせる場所を撃つことで挑発を仕掛けたのだ。
「メルメル!? 落ち着いて!!」
 かかった、とルナはにやりと笑う。これで暫くは、アルリアたちは自分の相手をせざるを得ないだろう。その間に、仲間たちが終焉獣を倒してくれるはずだ。


 ルナがアルリアやレンジャーの注意を引きつけている間に、イレギュラーズはとにかく数の多い終焉獣を一掃するための作戦を敢行していた。
「はぁああああ!」
 髪が白銀に、瞳も紅に染まったクロバは黒炎を噴き上げながら敵陣へと鋭く踏み込んだ。
 加速と共に遅く感じるようになった時の流れのなかで、素早く視線を動かし狙うべき敵を選定すると、人の枠を超えた脅威の手数で刀と銃剣を乱舞させ、進路上の悉くを焼き尽くしていく。
 そして一息で駆け抜けた直後、素早く転進しさらにもう一度の突撃。終焉獣の陣形へと穴を開けていく。
「お前たちさえ来なければ……! エアリアル!」
 闘志を燃やすラダは後方で長大なライフルを構えていた。
 黒い銃身と対照的な白い銃床。そしてそれらを彩る金の装飾。美しき銃の口から放たれるのは冷徹なる殺意。ラダが叫んだのはこの銃に搭載されている――とされているAIの名だ。
 AIによる補助なのか、効率化された射撃は一部の隙もなく、驚異的な連射とリロードによってラサの砂漠を覆う砂嵐の如く。終焉獣の体に次々と風穴を開けていった。
「お前たちの相手は俺だ!」
 すらりと抜いた星の瞬きを宿した黒き細剣を指揮棒のように振るい魔法陣を描くのはイズマ。描かれた魔法陣から溢れる魔力がイズマへと注がれ、体の奥底から力が湧いてくる実感を覚えると、声に魔力を乗せて近くにいた終焉獣の注意を引き、自分自身へと引き付ける。
 多数の終焉獣に襲われることとなるイズマだが、その頑健さは折り紙付き。牙や爪といった攻撃に傷つきながらも決して倒れることは無く、逆に反撃して見せる余裕まで見せたのだ。
 放出された高密度の魔力が衝撃となって終焉獣を打ちのめし、更にその精神を侵食していく。
「さぁて、こっちもやるかナ……」
 地上で激しい戦いが繰り広げられているのと時を同じくして、空中でも同じように戦いが起きていた。
 背中に現れた羽を広げてふわりと宙に浮いた壱和は、自身がねこと呼ぶ眷属の力を使って大鷲型の終焉獣相手に立ち回っていたのだ。
 大きく歪曲したに体に弦が張られた白いねこが奏でる音色によって、自分を含めた仲間たちの精神的なリミッターを解除した壱和は、その昂りのままに力を行使する。
 突撃してくる大鷲型の嘴や爪で体中に傷が刻まれていくが、それに耐えながら伸ばした手より放たれるのは、暗黒に染まった泥濘。
 粘性の高いその泥に蓄えられた穢れが終焉獣の体を蝕むと同時に、不運を呼び込む強力な呪いとなって刻み込まれていく。
「……ちょっと厄介ですね」
「あぁ。数が多いのもあるが、戦場を広く”使わされている”感がある」
 敵の武器は圧倒的な物量だ。
 広い戦場でそれを上手く使い連携することで、イレギュラーズ一人ひとりの距離を引き離し、互いにフォローしにくいように動かされている。
 それに気付いたのは後方で有事に備えていたリスェンと幸潮の二人だ。
「我は右、汝は左で行こう」
「分かりました」
 交わす言葉は短いがそれだけで意図は伝わった。
 互いに範囲の広い回復手段を持つため、二人で分担して全域をカバーしようということだ。
 左右二手に分かれると、リスェンは朽ちかけてなお強い力を帯びた杖を両手に握りしめて魔力を込めながら掲げると、その先端より輝く光が溢れていく。
 リスェンを中心に広がる柔らかくも温かい光は、仲間たちの傷を癒すだけでなく滅石花の花粉によって引き起こされていた不調さえも取り除いていった。
 一方で幸潮も万年筆を宙に走らせる。空中へと描かれた文字たちは溶けるように消えていくと、現実を書き換えこの場が幸潮の描く物語の一部だと偽りの定義がつけられる。
 時間は限られるが、自分の物語の中であるならば内容の改変も自由自在だ。続けて文字を綴るとそれらが仲間の体へと張り付き、書かれた内容に従って傷や不調が消えていく。
 そう。まるで、最初から”何事もなかった”かのように。


 群体生物のように統率のとれた動きを見せた終焉獣は、その物量を武器にイレギュラーズは苦しめたが、指揮官であるアルリアが抑えられ最低限の指示しか出せていなかったこともあり、次第にその数を減らしていき今では数えるほどしか残されていない。
「このままではファルカウが……! 二人とも、お願い! あたしは手が離せない!」
「承知した!」
「ファルカウには手を出させん!」
「チッ! そっちに二人行ったぞ!」
 ルナの相手だけをしてはいられないというアルリアの指示で、レンジャー仲間の二人が他のイレギュラーズへと攻撃を仕掛け始めた。
 放たれた矢はそれぞれに炎と氷の魔法が付与されていたのだろう。地面へ突き刺さるとその場所を起点に激しい炎の渦や猛吹雪が襲い掛かった。
「クッ! 流石は精鋭揃いのレンジャーだけはある……! だけど今は邪魔な終焉獣が先だ!」
 数が少なくなったとはいえ、完全にゼロにしない限りは邪魔であることに変わりはない。イズマが頭上に巨大な魔法陣を描くと、そこから現れたのは神の軍勢を思わせる壮麗な騎士たち。
 数には数を。イズマの召喚した軍勢と終焉獣の群れがぶつかり合い、互いにその数をすり減らしていくが、間を置かずイズマが再召喚を行うため優勢なのは間違いなくイズマだ。
 火炎と氷雪に耐えながらも終焉獣の数を減らしていくと、遂に最後の一体を黄金の閃光で貫き討ち果たす。
「これであちらに集中できるね!」
「早く正気に戻してあげよう!」
 終焉獣の横槍を心配しなくてもよくなったイレギュラーズは、勝機を逃すまいと一気に畳みかけた。
「そこぉっ!」
「くっ!?」
 クロバの心臓が激しく脈打ち全身の体温が上昇する。瞳は紅く輝き、全身に力が漲る。空気が爆ぜるような音と共にクロバ消えると、次の瞬間には一方のレンジャーの懐にまで迫っていた。
 あらゆるもの置き去りにする加速した世界の中でクロバが刃を乱舞させていく。精鋭のレンジャーの体を乗っ取った終焉獣は、それでもなお食い下がり魔法によって赤熱したナイフを振るって打ち合う。
「これで終わらせるっ!」
「舐めるなよ!!」
 が、速度と手数ではクロバに軍配が上がる。頬や脇腹を斬られ焼けつくような痛みを感じながらも、怯むことなく攻め続けたクロバは遂に峰打ちでレンジャーの片割れを気絶させるに至ったのだ。

「…………」
「…………」
 一方でジョシュアの方も激しく撃ち合っていた。互いに得物は弓。そうなるのは必然だったといえるだろう。
 滅石花の咲き誇る魔法樹の森の中を駆け、互いに隙を伺いながら矢を射かけ合う。肩に刺さった矢の傷から氷が広がり痛みを感じるが、相手のレンジャーに傷の治癒を防ぐ毒を含ませた矢と、太腿を貫く一矢を当てている。体力的に優位なのは間違いなくジョシュアだ。
 荒くなる呼吸を必死に抑えながら周囲の気配を探ると、後ろの方でがさりと音がした。
「っ!」
 素早く振り向いて矢を構えるジョシュアだがそこには何もない。罠だ。恐らく、戦いの中で仕掛けていたのだろう。
「騙されたな!」
「いえ、それは貴方の方です」
「なっ!?」
 音で気を引いたところで血の匂いはごまかせない。おおよその位置を血の匂いで把握していたジョシュアは、決定的な隙を探るために敢えて誘いに乗っていたのだ。
 匂いの動きからレンジャーの場所を見抜くと、その優れた視力を活かした精密な狙撃で迎え撃つ。
 ジョシュアの放った矢はレンジャーの矢と正面からぶつかり、そして打ち砕くとその勢いのままにレンジャーへと突き刺さった。
 どさりと倒れるレンジャーだが、急所は外してあるため命に関わることは無いだろう。

「もうお前だけだぜ!」
「二人とも……! ならば!」
 残すはアルリアただ一人。
 その攻撃を結界で弾きつつ、その身を雷へと変えて突撃し距離を詰めて一撃を叩き込むことで、ルナはアルリアに距離を取ることを許さない。
 しかし、アルリアはまだ鬼札を隠し持っていたようだ。懐から取り出した短剣を投げつけると、ルナはそれをこれまでのように結界で防ぐ。
 が、短剣に触れた瞬間にその結界が崩れ去っていった。
「しまっ!!」
「メルメル!」
 そこへすかさずメルメルが突進を仕掛けてルナの体勢を崩し、アルリアはメルメルの背から後方に宙返りしながら大きく跳躍すると、膨大な魔力が込められた一射を放つ。
 炎と氷、相反する二つの属性が同時に付与された矢はルナの体を容易く貫通して見せるほどの威力を持っていた。
「直ぐに治療します!」
「すまねぇ!」
 パンドラという奇跡によって一命を取り留めたルナに、リスェンが治療を開始した。ルナの頭上に現れた円環から降り注ぐ光が傷を瞬く間に癒していく。
「もう一度力を貸せ、エアリアル! 行くぞ、アルリアァッ!」
「ラダ! まさかあんたがファルカウを手にかけようとするとはね!」
 反転したメルメルに飛び乗りルナへと追撃しようとしたアルリアにラダが仕掛ける。
 宙を行きかう矢と弾丸はまさしく嵐のようで、時間の経過と共にその激しさを増していった。
 一方は大樹ファルカウを守るため。もう一方はその間違いを正し救うため。曲げられない互いの意志をぶつけ合いながら撃ち合っているのだ。
 アルリアの放った矢が馬の下半身へと突き刺さり痛みに歯を噛みしめるが、それでも引き金を引くこと止めずお返しとばかりに胴へ直撃する一発をお見舞いする。
 ラダは既に弾丸をゴム弾に換装しており、多少やり過ぎたとしても命に関わることはないと遠慮なく撃っていく。
 その銃撃戦は互角であり互いに一歩も譲らないかに思えたが、やはり殺す気で襲ってくるアルリアの方に勢いがあった。
 均衡が少しずつ崩れ、勝負の天秤がアルリアに傾き始めたその時だった。
「いつまでもラダん従姉妹の体を好きにしてんじゃねぇぞ……!」
「しまった!? メルメル!」
 アルリアがラダに強く意識を向けていたその隙を突いてルナが引き金を引く。
 まだ体力が回復しきっておらず、治療が続く中で体の自由はほとんど効かず一発撃つのが精一杯であったが、勝負の流れを変えるには十分な一発だった。
 銃撃を受けてメルメルが僅かに意識を逸らし、これまで人騎一体だったアルリアとメルメルの連携に僅かながらズレが生じたのだ。
「これで目を覚ませ、アルリア!」
「っ!?」
 その僅かな隙を見逃さずラダが引き金を引くと、放たれた弾丸がアルリアの額に直撃した。
「安心しろ。ゴム弾だから死ぬことは無い。死ぬほど痛いがな」
 衝撃で意識を失ったアルリアにラダのそんな言葉は届いていないだろう。


「はっ!! ここは!?」
「お、目ぇ覚めたか?」
 暫くしてアルリアが目を覚ますと、それにルナが気付いてラダを呼ぶ。
「あれ、ラダ? どうしてこんなところに……?」
「よかった、正気に戻ったみたいだな。まぁ、細かいことは後で話すから、今は体を休めていてくれ」
 どうやら、正気を失っていた間の事は記憶にないようだが、寄生していた終焉獣は完全に取り除かれ、後遺症のようなものもなくラダはほっと胸を撫でおろす。
 二年ぶりの再会は予期せぬものとなってしまったが、こうして無事に事件も解決出来たのだから、終わりよければ全てよしといったところだろうか。
「いつつ……」
「我々は一体……」
「こっちも目を覚ましたようだね」
「まだ傷は治りきっていないので安静にしていてください」
 アルリアが目を覚ますと、二人のレンジャーも目を覚ました。
 こちらもどうやら正気を取り戻しているようだが、アルリアよりも傷が深いようでまだ辛そうだ。
「痛みますか? 治しますので少しじっとしていてくださいね」
 そんな彼らの治療を行うのはリスェン。
 医学の心得があるリスェンは、その知識と照らし合わせながら治療の魔法を使い、レンジャーたちの手当をしていく。
 終焉獣から解放されたメルメルも同様に治療していくが、ついでにその柔らかな毛皮の心地よい触感も楽しませてもらっておく。

 さて、こうしてアルリアたちを介抱している時、別の目的で動いている者たちがいた。
「汚物は消毒だぜぇーっ! ヒャッハァーっ!!」
「花粉滅べヤァァァァ!!!」
 滅石花を咲かせて乱立する魔法樹を、壱和と幸潮の二人掛かりで潰して回っていたのだ。
 今回の原因ではないが、放置しておいては滅びを蔓延させて様々な悪影響を周囲に及ぼす。今のうちに潰せるだけ潰しておかねばならない。
 何か私怨めいたものを感じなくもないが、それで魔法樹を減らせるのならば問題ないだろう。
 壱和が本領発揮とも言える広範囲攻撃で一気に薙ぎ払い、その結果飛び散った花粉の影響を幸潮がすかさず治して魔法樹の数を減らしていく。
 やがて手の空いている者も手伝って近場の魔法樹を一層させたイレギュラーズは、救助したアルリアたちを連れてその場を後にするのだった。

成否

成功

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

状態異常

ラダ・ジグリ(p3p000271)[重傷]
灼けつく太陽
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)[重傷]
ヴァルハラより帰還す

あとがき

要救助者の救出に成功しました。
また、寄生型終焉獣の影響も完全に取り除かれています。
傷と疲労が癒えたら、三人はまた元気に森林の警備を行う事でしょう
お疲れさまでした。

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