シナリオ詳細
復讐のセクシー大根。或いは、リベンジャー大根…。
オープニング
●忍び寄るリベンジャー大根
ある寒い夜のことだ。
森の洋館に、静かなノックの音が響いた。
「おう。“来た”かよ」
扉を開けて、客人を出迎えたのは館の主、クウハ (p3p010695)である。
「やぁ。まるで我が来るのが分かっていたかのような口ぶりだねぇ」
客人は武器商人 (p3p001107)。
いつも通りの飄々とした雰囲気で、口元にはにやりとした薄ら笑い。だが、その意識は時折、背後へ向いている。
まるで底に“目には見えない何者か”がいるかのようである。
「まぁな。ま、入ってくれよ」
問いに明確な答えを返すことは無く、クウハは武器商人を館内へと招き入れた。
いつもであれば、霊や怪異の類で少し騒がしい屋敷が、今日に限っては静かであった。まるで、何かから身を隠して息を潜めているかのようだ。
「6人目ダ」
談話室に入るなり、赤羽・大地 (p3p004151)がそう言った。
室内には既に大地の他にも、既に3人が集まっている。
フーガ・リリオ (p3p010595)、佐倉・望乃 (p3p010720)、火野・彩陽 (p3p010663)の3人が、顔を見合わせ溜め息を零した。
「あぁ、やっぱりか。この顔ぶれを見る限りじゃ、どうやら間違いなさそうだ」
「やはり、アレでしょうか。でも……」
フーガの方に身を寄せながら、望乃は不安そうな表情を浮かべた。
クウハに武器商人、大地、フーガ、望乃、そして彩陽。
この6人には“共通点”が存在する。
「セクシー大根の呪いってやつかなぁ? でも、全部捕まえて、料理したんとちゃいますのん?」
代表するように彩陽が言った。
一行の視線がクウハに向いて、思わず彼は「ぐぅ」と唸った。
セクシー大根。
先だって森の洋館を騒がせた、トンチキ極まる大根である。
自走し、逃げる、やたらめったらセクシーな風体の大根だ。そこそこ自衛が出来る程度の戦闘力と、イレギュラーズを相手に逃げられる程度の移動速度を有しているのが特徴で、まぁこう言ってはあれだが根野菜として見るのなら破格に面倒な手合いである。
だが、幸いなことに事態は既に収束している。
クウハたちが総がかりで、逃げ出したセクシー大根を収獲。調理して食べたからである。
なお、食べきれなかった分は友人や知人に配っている。御裾分けである。
「実は喰いきれなかった分を畑に植え直しちまった……いつの間にか消えててよォ、てっきり野生の動物か何かに喰われたもんだと思っていたが」
視線を伏せたクウハが、唸るようにそう言った。
1度は動かなくなったセクシー大根を植え直すぐらい、何も問題ないと考えたのである。自分で動いて逃げない限りは、ただ少しだけ色っぽいだけの大根でしかないからだ。
だが、そうでは無かった。
「そいつかなぁ。それにしては、随分と気味が悪かったけどね」
肩を竦めて、武器商人はそう呟いた。
●セクシーな徘徊者
視線を感じる。
家にいても、外を歩いていても、イレギュラーズの仕事をしていても、常に視線を感じていた。最初は気のせいだと思った。
だが、何日も視線は途切れない。
それどころか、視線は徐々に強く……近くで視られているかのような感覚を覚え始めたのである。
そして、つい先日だ。
とうとう、ペタペタと言う足音が聞こえた。
姿は見えない。だが、足音だけが背後をずっと付いて来ていた。
「Remember me……Remember me……」
声が聞こえた。
視線と足音、そして声に追われるように6人は森の洋館に集まったのである。
「恨まれたんかなぁ。まぁ、ありったけ喰ったもんねぇ」
そう言って彩陽は窓の外へ視線を向ける。
瞬間、彩陽が目を見開いた。
その頬には冷や汗が伝う。
「? どうかしたんですか?」
彩陽の異変に気付いたのか、望乃がそう問いかける。彩陽は言葉を返す代わりに、無言で窓の外を指差した。
「なにが……っ!?」
望乃が口を押えて、後ろへ下がる。
その背中を支えるようにして、フーガが「何か?」と首を傾げた。
そして、フーガも窓を覗き込む。
そこにいたのは、身の丈5メートルはあるであろう黒い怪物であった。
「Remember me……Remember me……」
【魔凶】、【狂気】、【呪い】の渦巻く、悍ましい声だ。禍々しいオーラが、その身を覆っているかのようにさえ思う。
地面を掴む2本の腕は、黒く長く、そして太い。
あのような腕で殴られたのなら、【必殺】は免れないだろう。
「だ、大根? 大根じゃないか? あれ、あの形は」
慄いた風にフーガが呟く。
森の樹々を掻き分けて、窓の下に現れたのは大根だった。
黒く、不気味な、巨大な大根。
「Remember me……Remember me……I,m revenger」
大根が唸る。
地の底から響くような、低く、悍ましい声で。
「revenger……でぇぇぇもん!!」
「……でーもんって言ったぞ? 大根じゃないのか?」
おや、と大地が首を傾げた。
影の中に溶けるように、大根が……リベンジャー大根の姿が掻き消える。
けれど、ずっと視線を感じる。
殺意の込められた不気味な視線を。
お前たちを殺してやるぞ。
そんな声が聞こえた気がした。
- 復讐のセクシー大根。或いは、リベンジャー大根…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2024年02月26日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●Remember me
セクシー大根というものがある。
その名の通り、妙にセクシーな大根だ。白く艶のある色は、まるで白磁の肌のよう。くびれた腰に、肉感的な2本の足。
時折発する微かな声は、まるで花香りがするかのようだ。
「いやァ、流石にこういう方向の進化は予想外だね。もっと生存に特化するかと思ったが、大根が復讐に『走る』とは」
森の洋館の談話室。『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、ふと視線を窓へと向ける。
窓の外で影が揺らいだ。
姿ははっきりと把握できない。だが、それが“悍ましい存在”であることは理解できる。武器商人の背筋にも、確かに悪寒が走ったのだから。
「……で、こっちやと大根すら進化するの普通なん? これ普通なん?」
居心地が悪そうにしながら『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が肩を竦める。
一応、問うただけである。セクシー大根……今となってはリベンジャー大根であるが……のような奇怪奇天烈な野菜が、他にそう多く存在するはずもない。
「……いやあ。見えないだけで視線だけってのも慣れてるつもりやけど、なんかこうぞわぞわする……いややねえ。さっさと片付けたい気分」
両手で腕を抱きしめるようにして、彩陽は窓から視線を外した。
リベンジャー大根が襲って来ない以上、その姿を視認することができない。であれば、窓の外を眺め続けていることに何の意味も無いのである。
「だねぇ。なんにせよ、我(アタシ)の猫の安寧の邪魔になるのであれば駆除もやむなしさ」
姿は見えぬが、視線は感じる。
憎悪と殺意が、泥濘のように混じり合った悍ましい視線を。そのような視線を向けているのだ。いずれ、向こうから襲い掛かって来るだろう。
その時が来るのを……じっと待っていればいい。
「ったく、悍ましいモンになっちまって。食いモンの恨みってのは怖ェなァ?」
暗い森。地面には畑が広がっている。
対して広い畑ではないが、丁寧に手入れされているのか土の状態は上々だ。畑を見下ろし『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は呟く。
畑には何も植えられていない。
正しくは、消えたのだ。少し前まで、そこにはセクシー大根が植えられていたのだが……悲しいかな、それは既にリベンジャー大根と化して、どこかに姿を晦ませていた。
「……くそっ」
良かれと思い、セクシー大根の余りを植え直したのはクウハだ。口惜しさからか、クウハの眉間には深い皺が刻まれている。
「クウハは悪くねぇ」
『世界で一番幸せな旦那さん』フーガ・リリオ(p3p010595)が、クウハの肩に手を置いた。悔しい思いをしているのは、フーガも同じだ。
否、クウハやフーガがそう感じているように、リベンジャー大根も同じ想いを抱いているのだろう。
「死闘の末食べることでケリをつけたかと思っていたが……けど今度は逆の立場になっている」
「消化に良い食べ物のはずの大根が、消化しきれない程の想いを抱えてしまっていたなんて……」
『世界で一番幸せなお嫁さん』佐倉・望乃(p3p010720)が、フーガの言葉に頷いた。
あの日に食べたセクシー大根の味は良かった。大根を喰らうことに、罪悪感など抱かない。そういうものであるからだ。
けれど、しかし……セクシー大根は、ただの意思無き大根ではない。
「実は大根を食った後もモヤモヤしてた。似たように大根にも消化しきれない感情があった訳だ」
目の前で仲間を喰われたのだ。
焼いて食われた。
炊いて食われた。
煮て食われた。
だから、セクシー大根は憎悪した。仲間を喰ったイレギュラーズを憎悪した。仲間の仇を取らねばならない。恨みを晴らさねばならない。
復讐することだけが、もはやリベンジャー大根の存在意義と化したのだ。
狂気と、人はその感情をそう呼んだ。
「……今度こそ、ケリをつける」
強く、フーガは拳を握る。
暗い廊下に声が響いた。
『……キタ』
地の底から響くような陰鬱な声だ。
温度の無い冷たい声だ。
『来た』『来る』『クルゾ……クルゾ』
『復讐者が来る』
『リベンジャー大根がここに来る!』
それは霊の声である。
森の洋館に住み憑いた、数多の霊がざわついている。
ざわざわ、ざわざわ……。
洋館全体が震えるほどの霊の騒めきが最高潮に達し……そして、唐突に消え去った。
『Remember me……Remember me……I,m revengeraaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
代わりに、それが。
影か闇に似た不吉なオーラを全身に纏った、巨大な大根が現れた。
「やはりな。燃えるような復讐心を抱いたまマ、ただただ息を潜めて大人しくしてられるはずはあるまイ」
『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が跳び退る。
音も無く、背後に姿を現した大質量を警戒したのだ。
リベンジャー大根である。
「……っ!?」
確かに、大地は大根の射程から逃れたはずだ。
だが、後退途中でその身体は急制止した。姿勢を崩して、廊下に倒れた。
「逃がさない……とでも言いたげだナ」
大地の足首には、黒い影が巻き付いていた。
●I,m revenger
大地が腕をひと振りすれば、暗い廊下を白い光が明るく照らした。
足首に絡んでいた影が、光に焼かれて霧か霞のように掻き消える。その影……禍々しいオーラも、リベンジャー大根の一部なのだろう。
『gugyaaaaaaaaaaa!!』
影を消されたリベンジャー大根が、苦し気な絶叫を上げた。
「まったク……あのまますくすく栄養を吸ってふっとり美味そうな大根になっときゃあいいものヲ」
開放された大地が床を転がる。
轟音が響いた。廊下が揺れる。床板が破壊されなかったのは、大地が“保護結界”を展開していたからだ。それが無ければ、床板は粉々に砕けていただろう。
リベンジャー大根の膂力は、それほどの威力を誇る。
筋肉など無いのにかなりの怪力だと言えよう。
「まあいいサ、何度でも料理して果てにはもみじおろしにしてやるヨ。青首大根洗ってナ!!」
「さっきからずっと何いってんの赤羽」
眩い光が、リベンジャー大根の指先を焼く。
構うことなく、リベンジャー大根はその黒く禍々しい巨腕を振るった。大上段からの叩きつけが洋館を揺らし、大地の姿勢を僅かに崩す。
殺意と憎悪に全てを任せた力任せの連撃が、大地に向かって降りかかる。
叩き落される、と言った方が正しいか。
まるで地上に降り注ぐ流星のようだった。
暗闇に、よい濃い黒の軌跡を描いて降る流星だ。
「ぐっ……ぉ!」
リベンジャー大根の攻撃は単純だ。
怒りと殺意と憎悪に任せた、力づくの連撃だ。
だが、速い。
速く、そして強力だった。
そこには一切の思考が無い。
リベンジャー大根の殴打を受けて、大地の身体が何度か床を跳ねまわる。骨の1本程度は折れたか。
その口から血を吐きながら、大地は自身の胸に手を押し当てた。
燐光が舞う。
傷を癒しているのだろう。
それを見たリベンジャー大根が、きっと笑った。
“すぐに死んではつまらない”
そんなことを考えているような目をして、笑った。
復讐がすぐに終わっては面白くない。
死んだ方がマシだと言うほどの苦痛と絶望を味わわせなければ、リベンジャー大根の復讐は終わらない。
苦しめて、傷めつけて、そして頭から貪り食ってやるのだと。
リベンジャー大根は、そんなことを考えているのだ。
リベンジャー大根の鋭い爪が空気を裂いた。
その爪が狙っているのは、大地の喉だ。
だが、黒い爪によって大地の喉が抉られることは無かった。
「やぁ、赤羽の旦那。平気かい?」
その爪が斬り裂いたのは、武器商人の喉だった。
裂けた喉を手で押さえ、武器商人は微笑んでいる。その口からは赤い血が滂沱と溢れていた。
ぼたぼたと零れる血が、暗い廊下を朱色に濡らす。
零れた血を靴で踏みつけながら、武器商人は1歩、前へと踏み出した。
瞬間、リベンジャー大根が姿を消した。闇の中に溶けて消えるみたいにして、リベンジャー大根は見えなくなった。
リベンジャー大根の特性だ。
攻撃している状態でしか、その姿は確認できない。
「っと、おらんようになってもうたね」
周囲に視線を巡らせながら彩陽は言った。
姿は見えなくとも視線は感じる。リベンジャー大根は、確かにまだ近くにいる。
「相手の殺気攻撃の瞬間にこっちも火力叩き込むしかないわなあ」
携えた弓に矢を番えた。
キリリ、と弦が張り詰める。だが、張り詰めた弦を解放するわけにはいかない。姿の見えない敵を相手に、無駄な矢を失うのは愚策だ。
適当に矢を射って、まぐれ当たりの期待できる相手ならまだいい。
リベンジャー大根はそうじゃない。姿が見えないというのは、ただ透明化しているということじゃないのだ。
実態ごと消失している。
いわば怨念の集合体、或いは、セクシー大根の怨霊とでも呼ぶべき存在であろうか。
「なに、憎悪に狂って直に向こうから襲って来るだろ」
警戒心を緩めるわけにはいかないけどな。
そう言って大地が肩を竦める。
果たして、大地の言う通り。
「そら、来た」
闇が蠢く。
辺りの気温が、数度ほども一気に低下したような錯覚。0であった気配が膨れ上がる。
大質量の急激な発生に押しやられた空気が、3人の身体を打ちのめす。
『I,m revengeraaaaaaaaa!!!』
出現と同時に、リベンジャー大根が殴打を放った。
「……お前らにも狂気与えてやるわ」
いち早く、リベンジャー大根の出現を察知したのは彩陽だ。矢は既に番えられている。後は狙いを定め、弦から指を離すだけでいい。
ひゅん、と風を切る音がした。
大上段より振り下ろされる黒い拳を矢が貫いた。
影が飛び散る。
少しだけ、拳の速度が減じた。だが、止まらない。
まっすぐに叩きつけられる拳の前に、武器商人が歩み出た。
「すまんねえ。その命、“いただきます”」
後方に下がりながら彩陽は告げる。
拳を迎え入れるかのように、武器商人は両手を広げた。
ぐしゃり、と。
血が飛び散って、武器商人の身体が潰れる。床にじわりと血が広がる。
『……I,m revenger』
復讐はここに果たされた。
リベンジャー大根が醜悪に笑った。
けれど、しかし……。
「復讐のお手本というやつを見せてあげよう。この様にするんだよ?」
音も無く。
蒼い槍が、リベンジャー大根の腕から頭部にかけてを貫き、粉砕したのだ。
片腕を失ったリベンジャー大根は、這う這うの体で逃げ出した。
屈辱であった。
復讐も果たせず、怨敵を目前に撤退するなど、屈辱の極みであった。
だが、復讐を果たす前に討たれるわけにはいかなかった。
だから、リベンジャー大根は逃げた。
闇に溶けるように姿を消して、屋敷の外へ。
まずは1人を殺したいのだ。
さらに、2人目を、3人目を……最後には全員を殺したいのだ。
だから、まずは“彼女”から殺めることにした。
闇に紛れて、背後に迫る。
黒い腕を実体化させた。鋭い爪が、その白く細い首を狙う。
望乃の首に凶刃が迫る。
「えぇ、分かりますよ。消化不良でもやもやしたままでは、心と身体に良くないですもの」
憎悪の視線に気づいていた。
望乃は既に、リベンジャー大根の襲撃を察知していた。
「しっかりスッキリさせちゃいましょう!」
振り返った望乃の顔には、少しだけ悲しそうな笑みが浮いていた。
刹那、“チリン”と。
鈴の音が鳴る。
リベンジャー大根が踏んだ糸。
その先には、鈴が繋がれていた。
「そこか!」
怒れる男の声がする。
「ここです! わたしの後ろに!」
呼応するように望乃が叫んだ。その喉元には、既にリベンジャー大根の禍々しい爪が届いている。
ぷつり、と薄皮の1枚が裂けて血が滲む。
刹那、夜闇を閃光が引き裂いた。
白く眩い光である。
夜の闇を焼き払い、閃光はリベンジャー大根の左半身を眩く照らす。怯んだリベンジャー大根の眼前に、土砂を撒き散らし滑り込む1人の男がいた。
両手を広げ、望乃を庇うような姿勢を取る彼の名はフーガ。
愛する者を、守る1人の英雄である。
『Remember me……Remember me……!』
怒り狂い、唸り声を撒き散らす。
殴打、殴打、殴打の雨がフーガを打った。打って、打って、打ちのめした。
裂けた額から血が滴る。
肉が潰れ、胸骨には亀裂が走った。
口の端から、鼻から血を滴らせながら、けれどフーガは下がらない。
その後ろに愛する者がいるから。
愛する者が、その背中を支えてくれるから。
フーガの背中に小さな手が添えられた。白く、儚い女性の手である。
燐光がフーガの身体を淡く包んだ。
痛みが遠ざかり、傷が癒える。失われていた活力を取り戻したフーガは、畑の地面を両の足で一層強く踏み締めた。
衝撃で脳が揺れたのか。一瞬だが、フーガの意識が遠のいた。
「……アンタらを忘れたつもりもねえ」
歯を食いしばり、意識を繋ぐ。
ここで倒れるわけにはいかない。ここで倒れては、何をしに来たのか分からない。
「色んな保存方法を試してまで最後まで責任をもって食うつもりだったんだ。だが、アンタらの気持ちに気づかなかった事は、謝る」
仁王立ちするフーガの手には、トランペットが握られていた。
「だからと言って易々とやられる訳にはいかない。今度こそしっかり“いただきます”と“ごちそうさま”をするぜ!」
吸い込んだ空気を、トランペットに吹き込めば、高らかな音色が夜の静寂に木霊する。
●Don't forget me
これは贖罪のための戦いなのだ。
或いは、食材のための戦いと言ってもいいかもしれない。
『……I,m revenger……I,m revenger』
復讐に狂った大根と。
「俺が仕込んだミイラはどうだ? いい塩梅に仕上がってんだろ?」
悪辣な笑みで切り干し大根を掲げたクウハが睨み合う。
「仲間外れにして悪かったな! 今にオマエもコイツらと同じ姿にしてやるよ!」
5メートルを超える巨躯の大根。
仇討ちに狂うセクシー大根の成れの果て。
もはや、セクシーさの欠片も無く。
ただ、悍ましさだけがそこにある。
右の腕は武器商人が。
左の腕はフーガの手により、既に失われている。
だが、憎悪だけは未だに顕在。否、当初よりもさらに暗く、恐ろしい。
両の腕を失ってなお、その威圧感は本物だった。
「食うために育ててるとはいえ、食われる側からしたら知ったことじゃねェよな……恨みたいだけ恨めばいいさ」
大鎌を手に、クウハが駆けた。
地面を薙ぎ払うような大振り一閃。土砂を撒き散らしながら、闇色の刃がリベンジャー大根へと襲い掛かる。
『I,m revengeraaaaaaaaa!!!』
迎え討つように、リベンジャー大根が吠えた。
身の毛のよだつ大音声がクウハを襲う。一瞬、クウハの足が止まった。
「行け!」
「行って!」
クウハの背中を、フーガと望乃の声援が押した。
その声に背中を押されるように、クウハが1歩、前へ踏み出す。怨念渦巻く大音声を真正面から浴びたせいか、その目から、鼻から、口から耳から、だくだくと血が溢れていた。
血を吐き散らし、クウハが吠える。
「所詮この世は弱肉強食、“食うか食われるか”だ!」
跳んだ。
跳んで、大鎌を大上段に振り上げた。
リベンジャー大根の頭部を目掛け、鈍く光る刃を叩きつけるのだ。
サクリ、と。
まっすぐに、クウハの鎌は大根を建てに2つに斬り裂いた。
「……忘れるなも何も、忘れやしねェよ。今まで食った大根の中で一番美味かったからな!」
闇が、解ける。
霧のように、怨念の渦が掻き消える。
畑の土に塗れるように、1本の大根が転がっていた。
真っ二つに割られた、干からびた黒い大根である。元はセクシー大根だったはずなのに、もはやセクシーさの欠片も無い。
リベンジャー大根の哀れな遺体だ。
復讐のために、アイデンティティさえ代償にして、けれど無念のうちに死に絶えた1本の大根……哀れだと、その生は無意味であったのだと、嘲笑う者もいるだろう。
「Remember me……わたしを、忘れないで。誰にも気にも留められず、誰からも忘れられて朽ちていくのは悲しいですよね」
だが、彼女だけは笑わない。
彼女たちだけは、笑わない。
雨が降り始めていた。干からびた大根に雨粒が落ちて、まるで泣いているように見えた。
泥の中に膝を突き、望乃は大根を抱き上げる。
「大丈夫。わたし達はあなたを忘れていません。だから、ここにいるのです」
囁くように、望乃は言った。
雨の降る中、森の洋館の畑には都合6つの人影があった。
雨に濡れてなお、直立不動。
死者を、誇り高き戦士を弔う葬列のようでさえあった。
クウハが静かに目を閉じた。
フーガが、望乃の肩に手を置いた。
大地が胸に手を置いた。それは祈りの姿勢であった。
彩陽は少し悲しそうな顔をしていた。
武器商人は、ただ黙したまま何も語らない。けれど、干からびた大根から目を逸らすこともしなかった。
『……Don't forget me』
静かに降る雨の音に、しわがれた声が混じって聞こえた。
きっと、それは気のせいだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
リベンジャー大根は無事に討伐されました。結果的に、森の洋館は平穏を取り戻しました。
依頼は成功となります。
この度はシナリオのリクエスト、ありがとうございました。
セクシー大根を栽培する際は、最新の注意を払ってください。
GMコメント
●ミッション
リベンジャー大根の討伐
●エネミー
・リベンジャー大根
リベンジャー大根の姿は見えない。リベンジャー大根が攻撃に転じる際にのみ、その姿は視認できる。だが、常にターゲットの様子を監視しているらしく視線は感じるし、時々、声や足音もする。
ターゲットを襲う機会を、虎視眈々とうかがっているのだろう。
全長五メートルほどもある巨躯の大根。
全身は禍々しいオーラに覆われており、太く長い両腕で地面を叩くようにして歩く。
接近することで【魔凶】、【狂気】、【呪い】の状態異常を付与される。
リベンジャー大根の攻撃には【必殺】が付与されている。
「Remember me……Remember me……I,m revenger」
●フィールド
幻想。森の洋館。
https://rev1.reversion.jp/guild/1335
森の洋館周辺は、鬱蒼と樹々が生い茂っている。
森の洋館およびその周辺は、大まかに分けて以下3つの区画に分けられる。
① 畑 広い畑です。見通しは良好ですが、白菜などが植えられているため踏まないように注意しましょう。
② 森 鬱蒼と樹々の生い茂った森です。視界や足場が悪く、死角も多くなるため注意が必要です。
③ 洋館内 森の洋館内です。部屋数が多く、また家具などの障害物も存在します。
セクシー大根……もとい、リベンジャー大根との戦いに終止符を打ちましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります
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