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シナリオ詳細

再現性東京202X:喰えぬ異端の探索者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「さて、何処から話したものかな」
 彼はカフェ・ローレットの角際の席でそう切り出した。
 照明に当ててみればその髪は銀より灰色に近く、腰程に至る長髪であり、それを首の後ろで一つ結びにして垂らしている。
 声色はやけに落ち着いていた。
 訪れた彼を見て、先の調査を提案したローレットの女性が感じた事は『被害者って顔じゃないな』という素直なものだった。
 再現性東京、つまりは日本という国の現代におけるごく一般的な服装。
 カジュアルなジャケットとスラックスはどちらも色が暗く濃ゆく、より彼の印象を落ち着いたものへと感じさせている。
 表情は女性が感じた通りそのもので、あの会社からここに着席するまでもずっと貼り付けたような微笑を崩さないままでいた。
『取り敢えず、カフェにでも行こうか』
 邂逅した直後の彼の言葉。自分が事件というものに巻き込まれている自覚が無いように伺える。
 まるで以前からの友人のような台詞には、想定していた彼とは掛け離れた印象を持った者もいるかもしれない。
 落ち着いてこれまでの情報を整理し、鏡也からも話を聞くべく、我々は一旦彼の後に続く他には無かった。
 鷹のような鋭い橙色の瞳。細く尖った鼻と薄い唇。
 顔の輪郭は小さく、日の下に出れば瞬く間に焼けそうな白味の強い肌。
 見た目は二十代の前半、いやもっと若くも見える。
 この世界に置いて言語の言及は意味を成さないが、出身世界で言うところの日本語を流暢に喋るハーフ顔の美青年、と言えば、対面している二人の女性には伝わるだろうか。
 端整な顔立ちと体格だけを切り取れば、高校生か卒業したての大学生と言われても違和感は無い。
 だが、それに反して何処にも未成年らしさが感じられない落ち着いた言動は、明確に歪な印象を与える。
 弥奈月鏡也は、似顔絵の顔そのままで二人の女性の瞳を交互に見た。
「うん、そうだね。まずは……」
 背もたれに軽く背中を押し当てる。
「僕が何者なのか。金城君とはどういう関係か。それに尽きると思う」
 少し、長くなるかもしれない。
 そう感じた者を後押しするように、彼らの座るテーブルには三つのカップが運ばれる。
「有難う」
 と微笑を運んだ人間へ向けて、弥奈月鏡也は再度テーブル越しに『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)の瞳へ問うた。
「イレギュラーズである事は間違いない。僕の名前は……知ってるんだっけ? 弥奈月鏡也」
 一口、彼はカップに口を付ける。
 珠緒と並んで座る『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は既に違和感を感じていたかもしれない。
 何故なら先の調査の際、パスワードを入力するイレギュラーズ達に弥奈月鏡也はこう言った。
『僕の名前と生年月日だね』
 蛍が入力した際、使用したのは証明書の情報だった。
 一件目の依頼の際に入手した証明書、つまり身分証明書だ。当然、名前の他にも生年月日だって記載されている。
 それが全て違ったという事は、あのパソコンに設定されていたこの男の名前と生まれの月日。
「そう、偽名だ」
 弥奈月鏡也は平然とした態度でカップを置いた。
「正確に言うなら、この世界で活動する名前、というのが正しいかな。イレギュラーズである事を除けば、本職は探偵が一番近い」
 彼の机から出て来た多数の名刺。
 この様子からしてこの男は、珠緒達が見つけた時点で隠そうともしなかった、という事か。
「僕と金城君は、ほぼ同時にこの世界に召喚された。僕が彼女の少し後。来たのはごく最近だ。去年の……秋頃だったかな。出会ったのは、ほんの偶然だったよ」
 酷く、奇妙な感じはした。
 鏡也の延々と続く微笑からは恐れも不安も一切が感じられない。
「僕と金城君は召喚後、少しの間一緒に行動してたんだ。表立った依頼には入らなかった。それより、この世界を調べて周る事に興味を持ってね。金城君も同じだったのかな、文献やこれまでの歴史なんかを読み漁っていたよ」
 思えば一連の依頼ではずっとこの感じが付き纏っている。
 だが、この男からはそのどれとも違う、もっと不確かな空気というのが漂っている。
 何を考えているのか解らない。
 一言で表すなら、それが最も良く当て嵌まった。
「別々に行動し始めたのはそんな折さ。『生まれ故郷に近い場所がきっとやり易い』。聞いたのはそれだけ。うん、実はあんまり喋った事も無い。友人には達していないと思うよ。知り合いか顔見知り……精々、その程度。僕は彼女が何を成そうとしているのか気になって、彼女の後を密かに追った」
「今までどちらに?」
 そう訊いた珠緒に、鏡也は見つめてから返す。
「金城君の行方を追って、彼女の自宅付近で『帳』に紛れながら様子を見ていた。冠位……だったっけ。世界の戦いに巻き込まれたくなかったっていうのも、有るけどね。再現性東京にはずっと居たよ。僕のデスクで住所を見つけただろう? そこだよ」
 彼の言葉で、疑問の一つが朧気に見えて来た。
 彼のデスクから見つかった内容の一部は金城美弥子の個人情報。
 探していたのだ。弥奈月鏡也の方が。
 だが、その真意が未だに解らず、席近くに居たローレットの女性は問う。
「隠れなきゃ都合が悪かったって事?」
「あぁ、調べている僕の方が狙われていると感じてね。でも戦うにしろ何にしろ、今の僕じゃどうしようもなかった」
 その理由を説明すると、珠緒と蛍の二人も思い当たる節が有るかもしれない。
『混沌肯定』。
 つまり、この世界の法則。
「いやぁ、すっかり忘れててね。苦労したよ。最初に彼女を追って路地裏に入った時に襲われてさ。いつもの調子で戦おうとしたのに、魔術がほとんど効いてなかった。まともにローレットの依頼を請けてなくて成長してないのが響いたね。おかげで」
 鏡也が袖を捲る。
 まだ癒え切っていない切り傷が、その細腕に残っていた。
「……このザマさ。逃げきれたのは幸運だった。財布も落としたままだったし。後で取りに戻る事も出来たけど、敢えてそれはしなかった。運が良ければ金城君が僕の生死を確かめに来る、そう踏んでね。まぁ、中の身分証明自体も」
「本物じゃない」
 言葉の続きを蛍が継ぐ。鏡也は微笑を浮かべたまま頷いた。
「正解。拝借して名前だけ偽造した。薬品会社の地下へ侵入した時に見つけた、って言えば『弥奈月鏡也』の本物がどうなったかは、敢えて語るまでも無いだろう」
「よく、素性を詮索されませんでしたね?」
 珠緒がそう問うたのは、デスクのパソコンは鏡也のパスワードに置き換わっていたからだ。
 それは鏡也が実際にあの会社に居た事に他ならず、身分証明の顔は最初の調査で皆が見た通り、本人とは掛け離れている。
「あの会社、今社長が失踪しているらしいんだ。知ってたかい? 同時に現れた怪奇な部屋と多発した行方不明者。ゴタゴタしている所に紛れるのは訳無かった。僕も、人を言いくるめるのは戦いより得意だったし」
 それにね、と彼は付け加える。
「別に、真面目に仕事をしようと思って入ったんじゃあない。僕が会社の中に入ったのも二回だけ、あのパソコンを使ったのも一度きり」
 この理由も先と同じものだ、と彼は言う。
 弥奈月鏡也は、会社で金城美弥子の個人情報を探る為に一人潜入したのだと。
「そこに、会社を調べているイレギュラーズ達が居ると聞いて戻って来た。あの地下を開けたなら、そこに金城君も居る可能性が有る。そう思ってね」
 結果は、彼の思惑通りとはいかなかった。だが、それでも鏡也は姿を現した。
 金城美弥子が何をしようとしているのか。
 それを弥奈月鏡也は知っているのか。
 そう問うたなら、彼は迷わずこう答える。
「知ってる。だけどまだ確証は無い。だから、これからそれを確定させに行こう」
「何処へ?」
「勿論」
 鏡也は二人に対して不敵な笑みを続ける。
「彼女の『自宅』さ」
 住所は既に入手済みだ。
 まともに在宅しているとも思い難いが。
「フフ……久し振りに誰かと話したからか、つい喋り過ぎてしまったね。混乱していないかい?」
 纏めよう。と言って鏡也は顎を軽く引いた。
「続きは行きながら、ね」
 彼のコップは既に空になっている。


 金城美弥子と弥奈月鏡也は召喚当初からの知り合いだった。
 美弥子は何かをしに再現性東京へ向かい、鏡也はその後を追った。
 そこで彼女が会社に所属している事を知り、美弥子の住所等を調べる為に鏡也もそこへ潜入した。
 最初に地下を発見して『弥奈月鏡也』の身分証を入手。その後、美弥子のデスクを調べる為にそれを偽造し、二階へ。
 そして彼女を色々と追う際に、鏡也はあの路地裏で実際に襲われていたのだ。
 その時に落とした財布を拾い上げたのがイレギュラーズ達。
 その間の弥奈月鏡也は、金城美弥子の自宅付近で潜んでいた。
 その後、イレギュラーズ達は依頼を請けて薬品会社へ。
 調査の最中に、鏡也も後から会社に再び侵入した。
「これが君達の行動と合わせてみた今までの経緯。ここまでは良いかな?」
 少し寒い夜空の下、鏡也は二人の前を歩いている。
 イレギュラーズ達と遭遇して焦っている様子も無い。
「金城君が僕を探しているのは想定したけど、まさか君達を介して行方不明扱いにされるなんてね。正直、驚いたよ」
 恐らく、鏡也自身は被害者、ましてや行方不明者などとは全く思っていないのだろう。
 何せ、彼からすれば一人で勝手にやっている事だ。他のイレギュラーズと偶発的以外に接触する事は予定していなかった。
「あっちが僕が居た廃ビル。で、反対側の目の前が」
 目の前には住宅街。一軒の古びたマンション。
「金城君の『自宅』だ」
 そこは、自宅と言うにはあまりにも不思議な一軒家だった。
 外装では無い。その中だ。
 庭に入って一周すると、たった一か所を除いてカーテンすら掛かっていない。部屋の中の壁が綺麗にぶち抜かれている。
 一人で住むには広すぎる部屋。一カ所だけ掛かったカーテンは、より怪しさを際立たせていた。
「北……」
 蛍が振り返る。その後ろ。
 真っ直ぐ北へ赴いた道程に、あの路地裏と薬品会社。
 二度の占いの結果は、ずっとここを示していたのだろうか。
「やや安直ではある……とも思いますが」
「占いというのも不確かなものだからね」
 答えたのは、前の彼だ。
「でも、自発的に行った探索はきっと実を結ぶ。僕はそう思う」
 不思議な言い回しだ。それではまるで、まだ……。
「管理者は船藤勇夫。金城君の知り合いで、商店街の店主」
 そう切り替えて、鏡也はカーテンの掛かったリビング部分に目を向ける。
 明かりは点いていない。
 外から見える部屋の中は実にシンプルで、置かれている物だけで見れば一人暮らしの物とそう変わりはない。
 ソファ。本棚。キッチン。押し入れ。ローテーブル。ベッド。
 誰も居ないのか。断定するには、外からでは少し遠い。
「隣家は全て空き家になってるんだ。その理由があれさ」
 カーテンの隙間に蠢く白い影が見える。
「気を付けて。家の中に入ると襲われるよ」
 不思議なのは、カーテンの隙間以外には出て来ないという事。
 おおよそ人型の白い影を指して、弥奈月鏡也はこう言った。
「亡霊、だね。この地域で言うなら夜妖と言ったら良いかな。あれのせいで怪奇現象の実害が出てるんだ。ああいったのを許容しない練達の人間からしたら、近辺に住むなんて到底我慢出来なかったんだろう」
 それを示すかのように、周辺の家は全て暗く閉ざされている。
 そして白い影を再び指して鏡也は問う。
「あの顔に見覚えは?」
 そうだ。珠緒も蛍も、記憶が確かなら覚えが有る。
 一件目の依頼。金城美弥子と繋がりを感じさせた人物。
 加えてこの家の管理者でもあり、つい今しがた鏡也が口にした男。
 船藤勇夫。
 まさしくその顔が、虚ろに顔を俯かせて部屋に立ち尽くしていた。
「もしや、珠緒達と接触したのは……」
 鏡也は頷きもせず、珠緒に淡々と答える。
「うん、あれから少しは強くなったとはいえ、僕一人じゃ碌に探索出来そうになかったから」
 この家に何かが有る。彼の言葉にはそんな確信が見える。
 一体それは何なのか?
 外側に佇む現在では、その全ては判らない。
「あぁ、そうだ」
 鏡也は、徐に声を出した。
「あの会社で見つけた書物について、言及していなかったね」
 彼の言っているのは、社長室で見つけた日誌と書類も含まれているのだろう。
「内容に関しては、別の人に声を掛けておいた。この再現性東京を調べやすそうな人にね」
 誰、だろうか。
「手分けをする必要が有ると判断した。早くしないと、この世界の方に置いていかれそうだしね」
 言葉からして、現代日本という場所に通ずる人かもしれない。或いは、練達の者か。
「じゃあ、それはそれとして決めておこうか」
「何を?」
 蛍の問いに、鏡也はやっと二人に身体ごと振り返る。
「僕が、この調査に一緒に行って良いか、どうか」
 耳を疑う言葉だ。
 この男、ここまで連れて来ておいて。
「もし一緒に行って良いなら、勿論調査には協力する。居なくて良いなら、僕は他に調べたい場所が在る。フフ……どちらも」
 弥奈月鏡也は、顎を引きながら続けた。
「魅力的だ。僕にとってはね」
 金城美弥子。
 弥奈月鏡也。
 三回目の調査にして、解決どころか迷路に入り込んだようだ。
 だが、着実に解決には向かっている筈。
 もしかしたら、調査の仕方によっては意外な急展開も訪れるかもしれない。
「それじゃ、調べてみるとしよう。意外な掘り出し物とか……」
 この笑みを浮かべ続ける男の言葉が。
「……見つかる、かもよ」
 全て真実、なら。

GMコメント

※プレイヤー様へ
オープニングが長めでありますので、少し補足をさせて下さい。
オープニング一章はこれまでの情報開示部分、本依頼の内容は二章から始まります。
一章の内容は『薄色黙思の訪ね人』『存在剥離の証明書』という依頼の内容に関わるものです。

●弥奈月鏡也について
この依頼では、最初に二つのどちらかを選択して下さい。
・弥奈月鏡也を『この依頼に同行させる』
・弥奈月鏡也を『依頼に同行させない』

同行させる場合、戦闘にも微力ながら参戦させて頂きます。
探索も協力し、何かを発見する可能性も有るでしょう。
探索に自信が無い場合、またオープニング中でこれまでの疑問に上手く答えられていなかった場合など、同行させて訊いてみても良いかもしれません。

同行させない場合、彼は別の場所を捜索しに離れます。
この家では見つからない意外な情報を持ち帰る可能性も有りますが、それを開示してくれるかは判りません。

どちらの場合も交渉系の技能、または対人に仕えるギフトを所有していれば使ってみるのも良いかもしれません。
同行させる、しないはどなたかお一人でも書いて下されば大丈夫です。
プレイングに該当の記載が無い場合、どちらも書かれている場合は『同行しない』として処理させて頂きます。
また、同行はさせないが依頼に入る前、解決後(リプレイの最初か最後)に質問だけしてみるというのでも大丈夫です。

●目標
船藤勇夫の亡霊(夜妖)の撃退。
及び金城美弥子の行方を探る。

●敵情報
・船藤勇夫(フナフジ イサオ)

亡霊の夜妖と化した金城美弥子の知り合い。
人間種の男性、外見は四十代後半。

家の中にはこの男一体だけだが、戦闘に入ると合計三体の周囲の亡霊を呼び集める。
戦いは、船藤勇夫と合わせて計四体の亡霊相手となるだろう。
亡霊にも個別に攻撃可能で、倒せば霧散して消えていく。
船藤勇夫よりかは簡単に倒せるが、勇夫は再び亡霊を呼ぶ可能性も有る。
どうやら勇夫によって延々と繰り返されるようだ。

彼自身の攻撃は発狂した声による【狂気】を含んだ範囲攻撃である。
亡霊は呼ぶが、直接の指示は下さない。

・亡霊(人型)
船藤勇夫によって戦闘に加えられる。
老若男女、様々な姿の人間が呼ばれるが、戦闘には常に三体までしか存在しない。
攻撃方法は相手に飛び掛かって精神を蝕む纏わりつき。
イレギュラーズ達に纏わりつくと【不運】や【狂気】を与える可能性が有る。

●金城美弥子の自宅
玄関から中に入ると、家の設備が殆ど取り払われたぶち抜きの一室になっている事がすぐに解る。
残されているのはキッチンとリビングだけであり、申し訳程度に並べられた家財道具が部屋の中央に寄っているだけだ。
ベッド、ローテーブル、大きな本棚、ソファ。
押し入れも見えるが、扉は閉ざされている。
外から見えたのは以上の四点だ。これ以外にも、実際に入れば指定出来る物が有るかもしれない。一人暮らしの部屋、または家に在りそうな物を指定してみるのも良いだろう。

●ロケーション
再現性東京、夜。
金城美弥子の自宅。一階建ての一軒家。

戦闘は自宅の内部となり、家の中に侵入すれば船藤勇夫の亡霊に襲われる事となる。
彼は一度だけ、金城美弥子の依頼結果を聞く為にカフェ・ローレットに来た筈だ。
一体あの後に何が起こったのか。
虚ろに傾く彼の顔は、その一切を黙している。

部屋の全てがぶち抜かれている事もあり、戦闘場所としては広く使えるだろう。
但し家自体は普通の物なので、暴れ回ったら崩壊しかねない。

●弥奈月鏡也(NPC)
前回の依頼『存在剥離の証明書』にてイレギュラーズ達の探索の結果、邂逅した人物。
元々は、この男の行方を捜す依頼であった。

二十代前半の人間種、鷹のような鋭く細い釣り目と灰色の長髪が特徴。
終始貼り付けたような微笑を浮かべ、言動は穏やかである。
もし戦闘に参加するなら、彼は魔術を用いて遠距離から攻撃するだろう。

あまりにも平然とし過ぎてはいやしないだろうか。
元々がこういった事件に慣れた人物、と言えばそれまでだが。
調査を進めるためには、一旦話に沿うしかない。

本当に、この男の全てを信用しても良いのだろうか?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

----用語説明----

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京202X:喰えぬ異端の探索者完了
  • 弥奈月鏡也の情報開示シナリオです。
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

リプレイ


「路地裏さ。君達も行った」
 金城美弥子の家を前にして、彼の口から出たのはその言葉だった。
 発端は道すがら、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が彼に質問をした事から始まる。
『他に調べたい場所って?』
 弥奈月鏡也は、相変わらずの微笑で必要な分だけ返事をしたようだった。
 自信が無い、といった様子では無い。
 それはこの問答を後ろで見ていた『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の目にも明らかであった。
 己の内なる願望を隠しながら日々を生きるヤツェクの目から見た弥奈月鏡也。
 人格を演じ分ける事でその本心を外へ出さない処世術。
 その観点から見ても間違い無い。
『弥奈月鏡也は演技などしていない』
 どう捉えるかはイレギュラーズ達次第だ。事によってはその方が厄介だろうか。
 その上で、ヤツェクはこうも確信した。
『弥奈月鏡也は明らかに何かを隠している』
 しかし、と蛍の横で女性の声が出た。
「長期で調査されているのです、正体の目星くらいはついているのでしょう?」
 問うた『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)にも疑問は尽きない。
「……大体はね。予測の段階で良いなら一つ言っておこう」
 美弥子の家を見上げて、鏡也は言葉を続けた。
「彼女は恐らく、夜妖だとか、魔種だとかじゃなくて……純粋なイレギュラーズだと思う」
 鏡也は、それだけ告げると『晴夜の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)と『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)の方へ振り返った。
「まぁ、色々警戒されてるみたいだし……この家を漁ってから答えを見つけようじゃないか」
 それはそう、という息が蛍の口から漏れ出た。
「……そんなに信用無いかな? 僕」
「……お互いに、ね」
 言って、蛍は思い返す。
 そうか、この男もイレギュラーズ。探るのは良いが、『逆に探り返される可能性も有る』。
「それで、まずは夜妖退治だと思うんですが」
 冷静に、『盾役』レイテ・コロン(p3p011010)の声が場を更に静めた。
「あ……でしたら、少し待ちましょう」
 制止の声を上げたのは『君よ強くあれ』安藤 優(p3p011313)。
 その視線の先に、じっと円盤のような物を見つめる『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)の姿。
 物々しくも神秘的に見えるその円盤に、マリオンは少し首を傾げた。
「占い?」
 どうやら鏡也も問答よりも興味を惹かれた様子で、詩織の背に歩み寄る。
「捜索に、占い……か」
「易占と、星詠みを少々……」
 故にか、今度は鏡也の方から問いを投げ掛けた。
「今度は何を視てるんだい?」
「そうですね……占うのは……」
 背中越しに、詩織は占いの最中で答えた。
「捜し物についてで如何でしょうか?」
 嘘だ。
 実際のところ占うのは、この男、弥奈月鏡也について。
 確かに先刻話した内容は、概ね筋が通っている。
 かといって、我々が出会う前に金城美弥子と共謀を企てていないという確証も無い。
 そう思うのはレイテも同じく。
 何かの企みが有るにしても傍に置いておくに限る、とヤツェクも疑念を持つ事には同意するだろう。
 仮に何も無かったとして、別行動の先で知らずの内に襲われていた、とあってはマリオン的にもバツだ。
 詩織の手は円盤の上で無造作にゆっくり動いている。
 情報が必要、だ。
「さっきの続きだけど」
 口を開いたのは蛍。
「まだボク達も書物の中身を知らないんだけど……誰に、何て依頼したの?」
「あぁ。この手の探索に慣れてるっていう……日本人のイレギュラーズの三人。名前は聞きそびれたけど」
 一応、言としては合っている、とヤツェクは感じる。
 事前に別ルートで聞いたイレギュラーズの情報では、荒瀬功慈、黒宮、美船真智という名の三人がこれの調査に当たっている。
 製薬会社についても訊いてみたが、そこに不審な噂は立っていないようだった。余程上手くやったか、それもその三人が調査しているのだろう。
「まぁ、僕としては……そうだね」
 鏡也はメンバーを見回しながら、一人の女性に視線を落ち着けた。
「橋場君に頼んでも良かったかな」
「……はい、拙ですか?」
 突然のご指名だ。
 何で、というのが正直なところだろう。
「君の誕生月、僕と一緒みたいだから」
 などと、あからさまな嘘っぽい言葉を平然と述べる鏡也に蛍が乗る。
「へぇ、六月生まれなんだと思ってた」
「うん? あぁ……『弥奈月』は偽名だって言っただろう? 当て字でもない」
「じゃあ、貴方の名前は?」
 これは互いに信用を置けるかどうか、協力関係を築けるかの一問。
 鏡也はその場で動きを止め、わざと会話の流れを止める様にじっと蛍の瞳を覗き込んだ。
「内緒だ」
 鏡也は身体を反転させて続けた。
「そもそも、そんなに簡単に明かしたら偽名なんて使ってた意味が無いだろう? 僕は『弥奈月鏡也』。それ以外の何者でもないよ」
 だが、これで。
「済みません、皆様。お待たせ致しました」
 出揃った。偽名の上、生まれの月も大まかにだが。
 詩織のそれは秘術故に一般の占いとも違うが、弥奈月鏡也を表すのは『停滞』と『欠如』。『欺瞞』と『探究心』。
 信用はしても良い。だが危険もその身に孕んでいる。積極的には関わらない方が良い。
「それでは参りましょう」
 ……何か、研究者のようなワードにも思える。彼についての情報が不十分ならこの程度になるか。
「ところで」
 皆が家の前に構えたところで、鏡也はポツリと呟いた。
「星詠みって、物より人を占うんじゃないっけ?」
 詩織は、もし想定していなかった問い掛けなら少し間を開けたかもしれない。
「……秘術、ですから」
 この男。
 もしかして、鎌を掛けて来たのか。
 屋内に向かって大きく息を吸い込んだレイテを尻目に、珠緒は疑って下さいと言わんばかりの鏡也の行動を流し目で捉える。
「同行し危険への盾となるのです。誠実であられた方が互いのためと思いますよ、弥奈月さん」
「手厳しいね。でも、君の言葉にも一理有る……じゃあ、名前の代わりにもう一つ、僕の予測を」
 考えながら言っている間ではない。徐に、口は開かれた。
「この一連の依頼、放って置いても何も問題は無い。僕達にとっても、この再現性東京にとっても」


「ローレットです! 引き籠ってないで出て来たらどうですか!?」
 レイテの声が閑散とした道に響く。
「……ダメですね。反応有りません」
「場所に縛られているのかもしれません」
 自身に暗い帳をとっぷり落とし、珠緒は玄関の扉を引いた。
 念の為か、珠緒の召喚した鳥が既に家の上空を見張っている。
 特に怪しい影は見えない。
 警戒という点なら、優の魔力もいつでも対処出来るように刀の形を取りつつあった。
 どちらへ対しても、だ。
 話には聞いていたが、家の中はこの周辺よりも閑散とした様子だ。
 一人暮らしのワンルームマンションの方が、よっぽど風情というものが有る。
「……お手洗いやお風呂も無いなんて、どうやって生活してたのよ」
 帳の横でその身に光を灯して蛍が呟いた。
 倒壊を防ぐ結界は展開済み。
 踏み込む際に飛ばされた、レイテの音波探知で得られたものは眼前の情報と変わりは無い。
 即ち。
「……来ます」
 ステラの言葉に全員が構える。
『ミヤちゃん……』
 だらしなく開いた口から落とされた名。
『お、オ……』
 その霊は、イレギュラーズ達の姿に反応したようにこちらを緩慢な動作で振り向き。
 絶叫。
 明らかな敵意を感じ取り、最速で反応した珠緒は抜刀の構えへ。
 続き、ステラが指輪から放つ赤と青の眩い光を己の脚部へと纏わせた。
 珠緒の眼前に、おぞましい声が周囲の無念を引き寄せる。
 白い靄のようなものが家の中に漂い始めたかと思えば、それは船藤勇夫の周りで人の形を取っていく。
 珠緒の構えを見て、それが溜めが必要な攻撃だと瞬時に判断した蛍がその間に割り込んだ。
「袖すり合うも他生の縁……」
 何故、この男が。
「ちゃんと成仏させてあげるから感謝してよね!」
 自身への激励も兼ねた供養の宣言。
 加え、勇夫の霊が次の動作に移る前にレイテも前面に飛び出した。
「ボク達で恨みを晴らそうとしてるなら」
 自死か他殺か。判別は出来ないが少なくとも。
「筋違いもいいとこですが、来るというなら相手になりましょう」
 ほぼ同時に中衛位置に移動するのはマリオン。
 あの亡霊を滅する事が任務。しかしこちらの目的も別に有り。
 それを成す術を持たぬマリオンは、自分の役目もまだ先に有ると判断すると一度周囲を警戒した。
 集まって来た亡霊は三体、全て怨念の塊のようなもの。
 実に不気味な存在。対して後ろの男は……。
(異常は特に無し……)
 横目で後衛に居る鏡也を見たマリオンはそう判断する。
 ただこの男、戦闘になると解っていながら未だに得物の一つも見せていない。
 代わりに今着目しているのは。
 優だ。
「こ、こっちも居ます!」
 精一杯の声で亡霊達に呼び掛ける彼がそんなに物珍しいのか。
「こっちに……」
 亡霊の一体が優の元へ。
「……もっ!」
 抱き着いて来たそれを屈んで躱し、代わり優の頭上に跳び込んだステラが牽制代わりに亡霊の真横へ着地。
 と、そのまま迎撃には移らず、亡霊どもの中へ跳び込むと赤に染まった回転蹴りを勇夫に浴びせる。
 途端、また絶叫が家の中に響いた。
 怨嗟の圧迫感の中、聞こえたのは軽い調子の口笛。
「こりゃ根深い。一体何したんだ? アンタ達」
「この方とは、特に何も」
 軽口を冷静に返した詩織が、重力の壁を足蹴にしたヤツェクと入れ違いに勇夫に迫る。
 両手に灯すは善悪抱えた必中の一撃。
 慈悲寄りの掌が勇夫の胸部に叩き込まれる。これは、そうだ。
『亡霊の生け捕り?』
 出立前にステラが目を丸めて言った言葉。
 死人の生け捕りなど言葉遊びが過ぎるとも思うかもしれないが、皆が即座に了承、対応したのは流石の経験値というべきだろう。
 屋外から魔砲で撃ち抜く、と言い掛けたステラとは両極端でもあった。
 ならばその為にはやっておく事も有る。
 蛍が現出させた桜が、構えたままの珠緒の周囲で舞っている。
 敵を零さぬよう、レイテの身に最適化の回路と肉体強化の加護が。
 勇夫の叫声は範囲的。加えての亡霊に纏われつつある優へと、マリオンの青い爪先から癒しの魔力が伸びる。
「ン・カイに蠢く無形の落とし子よ!」
 優の呼び掛けに応え、亡霊の足元から暗黒の沼が顕現した。その時だ。
 皆の後ろから、凍てつくような魔力の矢が優の召喚した名状し難き粘着生物の間を通り抜けた。
 鏡也の両手が淡く光っている。矢は真っ直ぐに亡霊へと到達している。
 しかし、今のは何処か……?
 いや、今は考えている時ではない。
 ヤツェクの詩歌が皆へ活力を与え、勇夫を正面に捉えた詩織が再び慈悲の選択をした一撃を放つ。
 霧散する亡霊が居なくならないのは幻覚では無い。
 勇夫の声だ。この亡霊の声が、際限無く周囲の霊を集めているのだ。
 ならば優先はやはり勇夫。
 声を浴びながらそう確信したステラは、生者なら骨を折る勢いの足払いを勇夫に仕掛けた後、俯いた顎下に青から赤への二段で蹴り上げる。
 ステラの着地と共に舞い散る桜の花弁の一欠片。
 それが床に触れた時、大きな電磁場が発生した。
「やり過ぎかもですが。魔種向けに開発した新技……ぶっつけ本番ともいきませんので」
 珠緒の言葉を切っ掛けに、蛍が勇夫へ踏み込む。
 放たれたのは流れるように弧を描く、藤と桜の刀身三閃。
 そして、磁力は一際大きく火花を散らし。
「抜刀・轟駆!」
 珠緒の手元から放たれた、砲撃の一刀。
 蛍の結界が無ければ恐らくは直線一帯を灰燼と化したであろう力業。
 濛々と、煙の跡が充満する。
 不殺と呼ぶにはあまりにも強大。悪霊風情に対して、紋章の加護を付けていたのは正解だった。


 周囲の亡霊は加減をしても霧散すると知ると、レイテは防御に構えた拳を堅牢な打撃に変えて珠緒の放つ呪いの輝きと共に叩き込む。
 ステラが横っ腹に放った蹴りで吹っ飛んだ先に待ち構えていたのは、マリオンの創り出す黒の大顎。
 顎が靄を噛み砕くと、その内一体の亡霊をヤツェクの槍が貫く。
 痛みは感じていないだろう。だが敵意は残っているのか。
 反撃に向いた亡霊へ、ヤツェクは告げた。
「残念だが……そいつはちと、悪手だ」
 飛び退く、その床下から這い寄る無数の黒髪。
 亡霊の身体が髪に絡め取られる。その魂は。
 詩織の口元へ。
「……ゴチソウサマ」
 気品良く口元を隠しながら人心地つく詩織の前で、優は深淵の魔を呼び起こす。
「これこそが魔を討つ魔の力!」
 それは闇から出で、闇を絶つ剣。
「行っけえええええ!」
 強大な魔剣が一刀にして勇夫の霊を叩き伏せる。
「……なぜ貴方がこんなことになってしまったのか、必ず調べて相応の報いを与えるから」
 構える聖剣と共に、蛍は告げた。
「今は静かに瞑して、ね」
 縦に振り下ろされる刃。舞い散る桜の中、霊の瞳は幻想を視たろうか。
 ならば、背後から横に振られた一ノ太刀、不殺を宿した珠緒の刃で十字に斬られた事にも、安らかなものを感じたかもしれない。
 彼は黙した。
 その身からは、霊としての負の活力が霧散していくのが見て取れた。
「貴方達は……」
 飽くまで加減の力で斬られた為か、まだ形を残す勇夫へ優は問う。
「誰に、何のために殺されんですか?」
 これは、なんだ。と優は感じた。
 否定の意志を感じたからだ。
 達、ではない?
「本当にここに金城さんがいたんですか?」
 質問を変えてみる。彼は、力無く頷いた。
 肯定。美弥子はやはりここで何かをしていた。
 その背後では、既に鏡也は家探しへと行動を切り替えている。
 本棚に手を掛けた彼は、縁にもう一つ手が添えられたのに気付いた。
「何処を探したら良い?」
 マリオンに問われ、鏡也は彼女と一緒に本棚から書物を取り出す。
「一見して普通の部屋なら、床下か天井かな……あ、取った本は重ねといて貰えるかい」
 言葉に、ヤツェクは少し疑問を持つ。
 鏡也は金城どうこうより本の方に興味を持っているように思えたからだ。
 優に対して攻撃の意思が無いと見ると、刀を収めた蛍と珠緒もそれぞれに家の中へ。
「水道、止められたりしてないわよね」
 空っぽの屋内を伺って蛍は呟く。
 蛇口から水は出る、が水跡を見るに、使われなくなって久しい様子。
 珠緒が見る限り、ひと月かそれ以上、立ち入られた形成が無い。
 食材も保管されていない。空だ。
 察するに、家というより場所として扱われていたような、そんな感じがする。
 レイテが見上げた天井には特に不審な点は無い。
 となると、やはり下か。
 蛍とステラが家財道具へ赴く。と、ステラの鼻が書物の匂いに紛れて何かを感じ取った。
 ……腐臭。
「ここで、誰が」
 何をしていたか。隠されているものは。
 優がそれを勇夫の霊へぶつければ、霊の指先はとある箇所を示した。
 指先には、イレギュラーズ達の集まる中央部。
「……蛍さん」
 地下に着目していた珠緒の声。
 蛍が察すると、発光を伴って歩み寄る。
 切れ目だ。床に僅かな切れ目。
 但し上を家財が塞いでいる。レイテの音波に引っ掛からなかった訳だ。
「退かしましょう」
 そのまま、レイテは埃に塗れたソファに力を込めた。
 思ったより軽く動く。そして、それは現れた。
「……地下、か」
 ヤツェクが隠された窪みに手を掛ける。鍵などは無い。
 引き上げると、今度は誰の鼻にも感じる異臭が漂った。
「うっ……」
 光の先で、それは照らされた。
 かつて、船藤勇夫……だった、六つに分けられた身体の残骸。
 思わず目を背向けたくなる、が、その残骸の下に何かの陣と線が引かれているのを見て、珠緒は感付いた。
 線が、壁の向こうまで伸びている。
 もしかしたら、予想は的中していたのだろうか。
「今までにこの件で遭った夜妖、覚えてる?」
 階上から鏡也の声。
 マリオンは、彼から一冊の書物を手渡された。
「不自然な不完全さ……恐らく、それは失敗したからだ」
 開くと、そこには文字と共に陣と奇怪な怪物達の挿絵が描かれている。
 見覚えは、有る。
 それは先ほど優が見せた攻撃の一つであり、路地裏で遭遇した影の塊にも見える。
 もう一つは、製薬会社で遭遇した赤目の鬼。
 但し、挿絵の方はより残忍な姿形をしている。
「彼女は完全なものを召喚しようとして失敗した。それが、君達の戦ってきた夜妖の正体」
 言いつつも、更に鏡也は本棚を見る。
「何を探しているんです?」
 レイテの問いに、本棚を見つめたまま鏡也は答えた。
「うん……僕は僕で、ちょっと本を探してたんだけど……彼女じゃなかったかな」
 並べられているのは数々の黒魔術の書物。
 その中で、優は他とは違う雰囲気の本が目に入った。
 タイトルの文字に見える『終末論』。
 何故、金城美弥子はこれらを召喚しようとしたのか。
 マリオンが手に取った本の中に、こう走り書きされていた。
『世界の始まりを、見てみたいのです』
 金城美弥子は、今の混沌世界に適していた……のだろうか。
 鏡也はゆっくり顔を上げる。
 彼の目にした書物にも、似た言葉の羅列が書かれていた。
 美弥子は、終末を見たいが為に、自ら終末を導かんとしていた。
「正しく狂った終末論者……それが、金城美弥子君の正体だ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大変遅くなりまして申し訳御座いません、お待たせ致しました!
依頼完了となります、お疲れ様でした!

流れと致しましては、この件に関しては大詰めとなって参りました。
今回の探索では金城美弥子についての言及パートのような感じになっております。
情報としましてそこまで増えていないのですが、一度詳細かあとがきで纏められたら良いなと思いつつ、今回のリプレイでも冒頭に情報が出てました、そうでした。
製薬会社の書物関連で出て来た三人の名前は、別依頼でも登場しているNPCです。信用に足るかはそちらをご覧頂いてからでも構いません。
三人共イレギュラーズです。

では、金城美弥子の一連はどう結末を迎えるのか?
混沌世界の小さな怪綺談、次の機会にお会い致しましょう。

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