PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あなたという未来が生まれた日

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●滅びの福音
 世界各地に出現した通称『バグホール』――それは世界を崩壊に導くブラックホールそのものだった。更に魔種を中心に強まった『滅びのアーク』により、大量に発生した『終焉獣』が各地を脅かす。混乱に陥る人々は、滅びゆく未来の訪れを感じた。
 状況が示すのは、まさに神託の到来。

『明日、世界が滅亡しますです。
 あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます』

 もしも、明日にでも世界が滅亡を迎えるとしたら──この子が生まれてくる意味は、一体何なのだろう。

●護送対象
 どこか思い詰めた様子の『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、馬のいななきを聞いて顔を上げた。
 フラーゴラを含めたイレギュラーズ一同は、村から鉄帝の医療施設に続く街道を幌馬車と共に進んでいた。後輪がぬかるみにはまった馬車は、フラーゴラの目の前で停止していた。
 比較的整備された街道ではあるが、馬車は雪原に囲まれた悪路によって度々停止した。皆で車体を押し出そうとする中、ぐずり始めた赤ん坊の鳴き声が馬車の中から聞こえてくる。
 イレギュラーズが護送する馬車の中には、まだ乳飲み子の赤ん坊を抱える母子2組と、大きく丸みを帯びた腹を抱えた妊婦の姿があった。

「フラーゴラさん、ご相談があるのですが」
 人道支援団体『オリーブのしずく』のリーダー――クラウディア・フィーニーは、【星月を掬うひと】 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)にある依頼を持ちかけた。
 充分な医療設備がない村の母子たちを保護してほしい。それがローレットを通じて、『オリーブのしずく』に要請された案件であった。『弱い者の味方』であることをモットーに掲げる医師団として、『オリーブのしずく』が母子の保護を拒む理由はなかった。しかし、問題は昨今のままならぬ情勢、終焉獣などの魔物による混乱や被害である。それを避けては通れない。
 クラウディアは団体の支援者としても信頼のおけるフラーゴラに、村から赴く母子の護送を頼めないかと打診したのだ。
「3組の母子の内、御ひとりは間もなく臨月を迎えるそうです――」
 護送対象に妊婦が含まれることを告げられ、フラーゴラの表情にはわずかに緊張が走った。
「こちらも万全の態勢で受け入れる準備は整っています。どうか母子の安全を確保していただけないでしょうか?」
 クラウディアからの依頼は二つ返事で快諾された。

●不穏な影
 ――そんなクラウディアからの依頼だったが、出産までのタイムリミットは、思った以上に差し迫っていた。
「大変!! 破水してるわ!」
 馬車に乗った母親の1人は、叫ぶように声をあげた。
 悠々と進んではいられないが、他の母子の安全も確保しなければならない。飛ばし過ぎて事故を起こすなどあってはならない。
 最低限のスピードを維持する馬車の中から、うめくような妊婦の声が訴えてきた。
「じ、陣痛が……」
 他の母親2人は我が子を抱えながらも若い妊婦に寄り添い、なだめるように必死に体をさする。
 差し迫った状況が続く中、とうとう限界を迎えた馬車からバキッという音が響いた。後方の片輪に亀裂が走り、車体が斜めに傾いた瞬間、馬車の中からは悲鳴が聞こえた。そして、2人分の赤ん坊の泣き声が響き渡る。
「大丈夫ですか?!」
 フラーゴラは即座に幌の下を覗き込んで声をかけた。
 母子たちに怪我はなく、目的地まであと数百メートルのところまでたどり着く。一行は、馬車での護送に限界を感じざるを得なかった。
 馬車が傾いた衝撃に驚いた赤ん坊2人は、まだ泣き止まない。母親は金切り声をあげる我が子を懸命にあやし続け、妊婦の容態にも逐一注意を払った。
 出産間近にも関わらず馬車が壊れるという、今以上に悪化するような事態は誰もが避けたかった。しかし、まるで数珠つなぎのように不運なタイミングというのは重なる。
 不穏な影が馬車へと接近しつつあった。一行はその気配に気づき、視界に映り込んだものを見て身構える。
 3メートルほどもある巨体は遠くからでも目立つ。が、目を引く特徴はそれだけではない。氷の彫像のように透き通った体で動くそれは、トナカイのような四肢、悪魔のような角と形相の上半身が合わさった魔物の姿だった。魔物からは確かに滅びの気配が感じられ、終焉獣の変体の一種と考えられた。
 赤ん坊の声に気づいて誘き寄せられたのか、終焉獣は明らかに馬車を凝視している。とにかく馬車に近づけさせる訳にはいかない。誰もが攻撃に踏み切ろうとしたその時、雪が積もっている終焉獣の周囲で何かが動いた。
 雪の中から這い出すように現れたのは、終焉獣のけん属と思われる魔物の群れだった。終焉獣の能力によって出現した魔物は、狼のような胴体でありながら、頭部は鋭いツララの塊そのものだった。突進されれば、剣山のように鋭いツララで貫かれることは予想できる。
 終焉獣らは臨戦状態を見せ、馬車を守るイレギュラーズらとじりじり距離を詰めようとする。
 馬車を背にした状態のフラーゴラは、幌の向こうから聞こえてくる妊婦の苦しむ声を気にかける。
 ――このままだと……もうすぐ産まれてもおかしくない。
 母子たちを危険にさらす訳にはいかない。どうにかしてこの状況を打破しなくては――。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 『オリーブのしずく』直轄の病院まで、3組の母子を無事に送り届けること。

●戦闘場所について
(※地形に関するペナルティは特にありません)
 日中の時間帯、天気は曇り。
 (挿絵のような感じで)周囲には積雪がありますが、街道は地面が見えている状態です。

●護送対象者について
 乳幼児を抱えた母子2組と、出産間近の妊婦。
 妊婦は走行不能になった馬車の中で産気づいている状態。馬車の中で産まれてしまう恐れもある……。

●終焉獣について
 動く氷の彫像のようで、トナカイの四肢と悪魔の姿を足したような見た目。
 1ターンを消費することで、新たなけん属5体を召喚することができる。
 氷の槍を振り回す(物近単攻撃に加え、物近自範攻撃)だけでなく、
鋭い氷柱を出現させ、対象を貫くために自在に撃ち出す(神超単【氷結】)。
 すでにでそろっているけん属は10体。突進攻撃(物至単)だけでなく、けん属は主に自爆攻撃を行う。ボスである終焉獣を攻撃する者を狙い、強力な爆発と共に冷気を発散させて四散する(神近自範【飛】【氷漬】【崩れ】)。

●Q:飛行できるから、抱えて連れて行ってもいい?
 抱えてはいけるでしょうが、運ぶだけの負荷(ペナルティ)がかかります。
 護送対象は飛行での移動を怖がる恐れもあるので、説得に時間がかかるかもしれません。また、飛行する魔物が出現しないとは限りません……。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしております。

  • あなたという未来が生まれた日完了
  • 護送対象者は、臨月を迎える妊婦だったが――。
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年02月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

 壊れた馬車に護送対象、出産間近の妊婦、終焉獣との遭遇――。
 緊迫した空気を感じ取っているのか、馬車の中の赤ん坊は泣き続けている。
 「安心しな。オレ達が護る」と意気込む『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は保護結界を展開し、馬車を背にしながら母子たちに言い聞かせた。
「──だからてめえらは、ガキ共と生まれてくる命を守りな」
 赤ん坊の泣き声を背に受けながら、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は眉間に寄せたシワを深めた。追い詰められたこの状況を「割に合わない」と考えつつも、オリーブは長期戦を避けるため、攻撃に徹しようとする。
 ――1体も、1発でも通す訳にはいきません。何とか頑張ってみましょう。
 氷の槍を手にした終焉獣が一歩踏み出したのと同時に、オリーブはクロスボウを構えた。即座に掃射された矢にも怯まず、終焉獣はオリーブの方へ突っ込む動きを見せる。その勢いを削ぐために、イレギュラーズは全力で攻撃を仕掛けていく。
 母子たちの安全を確保するためにも、イレギュラーズは終焉獣の排除に専心する。一方で、母子たちのいる馬車の中では、もう1つの戦いが繰り広げられていた。
 特に妊婦の容体が気がかりだったクラウディア・フィーニーは、馬車に同乗することを決断していた。
 大量に積まれた藁(わら)がシーツで覆われ、妊婦はそれをクッション代わりにして上半身を預けている。その妊婦のワンピースの下に両手を差し入れ、クラウディアは下腹部に触れて状態を確認する。その間にも、イレギュラーズは全力で終焉獣を引きつける役目を担う。
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は周囲に自身の魔力を発散させることで、終焉獣のけん属たちの注意を引きつけた。『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)もけん属たちを誘導することに専心する。周囲のけん属は、ユイユのあふれ出る闘気に引きつけられるように注意を傾ける。
 馬車に最も接近しているけん属に対し、
「ここは絶対通さないぞー!」
 ユイユは前進を妨害するように目の前に立ち入る。ユイユが身を挺して母子たちを守ろうとする一方で、『温もりと約束』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)や『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)はその援護に回る。
 複数の弓矢をつがえることで、ジョシュアは神がかり的な掃射を繰り返す。
 ──子どもたちの未来……必ず守り抜かなくては。
 ジョシュアはその強い意志と共に、弓を引く手に力を込めた。
 けん属の注意がユイユらに向けられている隙を狙い、エステットも魔導式拳銃の狙いを定める。エステットは容赦なく弾丸の雨を降らせ、被弾した複数のけん属を怯ませる。
 銃声などの戦闘の気配に脅えているのか、赤ん坊の泣き声が止む気配はなかった。馬車から聞こえてくる声が、守るべきものの存在、己の役割をエステットに強く認識させた。
 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はその手に力を集中させ、光輝を放つ。ココロが放つ力は終焉獣らを迎え撃つ者らに向けて注がれ、対象の生命力を引き出していく。支援に徹する中、ココロはけん属をけん制するフラーゴラの姿を一瞥する。
 ――フラーゴラちゃん、わたしの気持ちはあなたと同じよ。
 エールを込めてフラーゴラに視線を送ったココロは、改めて気を引き締めつぶやいた。
「……まずは速やかに敵を片付けないと」
 共に馬車を守る『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は大太刀を振り回し、確実にけん属を排除しようと攻撃を仕掛ける。イナリのスピードにけん属の反応は追いつかず、一刀両断された身体は氷のように砕け散っては消えていく。
 牡丹の片翼は銀河のような煌めき、燃え盛る炎のような奔流を宿し、牡丹の闘気を示すようにその輝きを増していく。
 馬車の方へ接近しようとするけん属を、牡丹はがむしゃらに打ち据える。我流に等しい拳法を炸裂させる牡丹に対し、けん属の1体──けん属Aはけいれんを起こしたように全身を震わせ始めた。それは自爆の前触れであり、けん属Aは牡丹の目の前で爆発四散する。肌を刺すような冷気が一気に押し寄せ、牡丹の全身は爆発の衝撃に包まれる。それでもなお耐え抜く牡丹は、雄叫びに近い声を上げた。
「オレは硬い。オレは無敵だ!」
 敵を威圧し、仲間を鼓舞するように気勢をあげたのも束の間、けん属たちは連鎖反応を起こしたかのように、次々と震え出す様子を見せた。
 けん属の注意を引きつけていたフラーゴラも、自爆の前兆を見せるけん属たちに包囲されかける。馬車の防衛に支障が出ないようにすることだけを考え、フラーゴラは爆発の範囲から転がるように退いた。
 フラーゴラは髪を振り乱しながら、漂う白塵となったけん属の向こうにいる終焉獣を睨み付ける。即座に態勢を整えるフラーゴラは、余裕を示すように終焉獣を挑発した。
「弱い者狙いなんて獣のやる事。プライドがあるなら、ワタシたちを倒してからにしなさい……!」
 まるでその挑発に応えるように、フラーゴラは強烈な冷気が流れてくるのを感じた。
 攻撃の予兆を示した終焉獣は、瞬時に杭のように鋭い氷柱を生み出す。空中から飛び出した氷柱はフラーゴラに向かっていくが、すばやく身をそらしたフラーゴラに到達することはなかった。続け様にフラーゴラに突進する終焉獣を狙い、ユイユやジョシュアは攻撃の構えを見せた。次の瞬間、一筋の稲光が終焉獣を穿ち、終焉獣の氷の体を砕いた。雷撃を操るユイユに続き、ジョシュアは瞬く間に引き絞った弓を放つ。
 無数の氷の欠片を散らす終焉獣だったが、攻撃を物ともせずに槍を振り回す。巨体が振り回す長大な氷の槍は、地面に突き刺さったままの氷柱を打ち砕き、相対する者を威圧する。
 槍さばきだけでなく、トナカイの四肢によって相手を踏み潰そうとする終焉獣の動きも脅威となる。しかし、イレギュラーズは果敢に挑み、終焉獣が新たなけん属を召喚する前に決着をつける勢いで攻勢を強めていく。
 援護射撃に徹していたエステットは、いち早くこちらに近づいてくる影に気づくことができた。その影は馬車であり、馬車をけん引する亜竜──ドレイクを駆るのは、見た目は狐の獣種のイナリの式神であった。
 イナリの式神はより充実した医薬品を届けるため、牡丹から馬車を借り受けてやって来たのだった。式神は衛生兵としての手腕を発揮しようと、率先してクラウディアを手助けしようとする。
「出血してるわ……! 薬液の準備をしてください」
 クラウディアは、早速馬車を横付けした式神に指示を出した。
 妊婦の容態を気にかける間もなく、戦況は目まぐるしく変化する。
 終焉獣はイレギュラーズの攻勢を抑え込もうとするかのように、新たにけん属の群れを召喚した。
 馬車へ接近しようとする終焉獣は、妨害するイレギュラーズを退けようとけん属を差し向ける。イレギュラーズを仕留めようと特攻を仕掛けてくるけん属たちは、冷気を帯びた衝撃と爆風によって多くの者を苛んだ。しかし、ユイユは冷気を物ともせずに終焉獣の動きを捉え、
「ボクたちの相手が先だよ。絶対に邪魔はさせないよー!」
 そう言って目の前に立ち塞がる。
 終焉獣に正面から見下ろされるユイユ、更に馬車との距離を縮めた終焉獣に対し、イナリは即座に術式を展開する。自らの存在を変質させることで、イナリは終焉獣を脅かす怪異を発現させる。
 イナリが歌う『通りゃんせ』の童謡が不気味なほどに響き渡り、終焉獣の背後には突如として、蜃気楼のように揺らめく大きな鳥居が現れる。
「ここまで近づいて──」
 異質な空気を感じさせるイナリの歌に気を取られ、終焉獣はイナリの術に捉えられた。イナリがかざした手で終焉獣を払い除ける仕草を見せると、終焉獣は不可思議な引力によって、たちまち鳥居の方へ引きずられていく。
「──無事に元の場所まで戻ってこれると思うのかしら……?」
 そうつぶやくイナリの能力によって、終焉獣の身体は苛烈な金縛りのようなプレッシャーを味わう。
 終焉獣は、イナリの力を跳ね除けようと必死にもがき続けた。オリーブは剣を構え、更に終焉獣を追い詰めようと攻撃を仕掛ける。
 至近距離に終焉獣を捉えたオリーブの刃は、その氷の身体を切り崩そうと迫った。しかし、終焉獣はオリーブごと突き飛ばす勢いで槍による一突きを放った。
 オリーブは咄嗟の判断で、槍をかわすことに全力を向ける。かわした拍子にオリーブの剣が終焉獣の腕を削ったが、終焉獣は反撃の流れを止めることなく槍を振り回す。薙ぎ払われそうになる寸前、オリーブは終焉獣の槍を刃で受け止めた。衝撃を受け止めるのと同時に、踏み込んだオリーブの両脚は地面を滑った。
 耐えて立ち続けるオリーブを執拗に狙おうとする終焉獣だったが、イレギュラーズの攻撃は入れ代わり立ち代わり続く。また、ココロは治癒の力を皆に注ぐことに尽力し、攻勢を強めることを促していく。フラーゴラもまた、ココロと共に戦線の維持に努める。
「絶対に、ワタシたちで守り抜こう……!」
 終焉獣に向けて稲妻を落とすのと同時に、力を引き出すフラーゴラの号令は、凍える者の冷気を解かすような心地にさせた。
 勢いの衰えない終焉獣を弱体化させようと、ジョシュアはつがえた矢に仕掛けを施した。エステットからの射撃にさらされたことで、終焉獣は弓を引くジョシュアの動きを捉え損なう。終焉獣の気がそれた瞬間を狙い、ジョシュアは一撃を命中させる。その瞬間、終焉獣の肩口からは色鮮やかな毒粉が舞い上がり、しばらく終焉獣の顔周りを覆った。
 特に終焉獣の行動を制限するように前線で立ち回るフラーゴラ、ユイユ、牡丹たちは、毒の効き目が現れ始めた終焉獣の異変を感じ取る。自爆しては増減を繰り返すけん属たちに煩わされてきたが、頻繁に補充、召喚されてきたペースは落ちてきている。
 オリーブの攻撃に遂には押し負けた終焉獣は、一瞬でも膝を着く。すでにすべてのけん属が排除され、多くの亀裂が氷像の体に刻まれている状態だが、なおも終焉獣は馬車に近づこうとする素振りを見せる。滅びそのものの存在が、希望の象徴に吸い寄せられるかのような動きには、倒錯的なものを感じられた。
 一際大きく聞こえてくる苦悶する妊婦の声が、窮地に立つ感覚を強く呼び覚まさせる。また同時に、終焉獣は最後の気力を振り絞るかのように、一層鋭い槍さばきでイレギュラーズを圧倒した。終焉獣は、その勢いのままに馬車へ迫ろうとする。
 ユイユは捨て身の覚悟で終焉獣の進路上に踏み込みかけたが、牡丹はそれを上回るスピードを発揮した。片翼を生かした変則的な動きで宙へと舞い踊った牡丹は、終焉獣の虚をついて顔の側面を蹴り上げた。
 大きく欠けた顔面がどれだけの痛手を負ったかを物語るようであったが、よろめく終焉獣は槍を突いて体を支える。次で仕留めようと、フラーゴラは全力を引き出すために精神を研ぎ澄ます。
「ワタシたちを狙ったのが運の尽き。ここで終わりだよ……!」
 その一言と共に、フラーゴラの周囲には桜吹雪のように炎が舞い始めた。爪を立てるように掲げられた右手に、フラーゴラは禍々しい力を凝縮させる。変容する魔力は爪撃となって放たれ、終焉獣は槍を掲げる間もなくその身に受け止めた。
 終焉獣の身体からはバキバキと鈍い音が響き、大粒の氷片が周囲に散らばっていく。終焉獣はしばらく形を保っていただけで、ただの氷塊と化してバラバラに崩れ去った。

 終焉獣との戦いは終結したが、馬車の中では、新たな命を生み出す戦いが継続していた。
 痛みがピークに達しているのか、妊婦は絶叫に近い声を上げる。
 「大丈夫、がんばって!」と声を掛けるココロは、医術士として手助けせずにはいられず、真っ先に馬車の中に乗り込んだ。母体の状態を確認したココロは、即座に判断を下して皆の協力を仰いだ。
「急いでお湯を沸かして!」
 ココロが用意していたマッチや、牡丹の馬車に積んできた物資を利用し、手が空いている者たちは火を起こす準備を始めた。
「この子、見ていてください!」
 他の母親も出産に手を貸そうと、イレギュラーズに赤ん坊を預けようとする。エステットと牡丹は、咄嗟に馬車から差し出された赤ん坊2人を腕に抱いた。
 母親2人は妊婦が踏ん張れるようにと、左右から腕を組んでその体を支え合う。妊婦は各々の服を必死に握り込み、クラウディアがアドバイスするタイミングで懸命に力むことを繰り返した。
 湯をわかす焚き火のそばで、イレギュラーズは束の間の安息を得た。ユイユは警戒を怠らず、用心深く周囲の状況を把握する。ジョシュアも感覚を研ぎ澄まし、周囲に不審な動きがないかどうか、警戒を続けた。
 赤ん坊の内の1人を預かったエステットは、腕の中で不思議そうにエステットを見つめる赤ん坊の顔を覗き込む。
「命というのは、なんと不思議なのデショウ──」
 しみじみとつぶやくエステットは、生まれて間もない命の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「わらもいつか母になるのカナ?」
 赤ん坊がそんなエステットの問いに答えるはずもなかったが、心なしかエステットには微笑を向けられたように見えた。
 牡丹に抱かれるもうひとりの赤ん坊は、何が気に入らないのか顔をしかめてぐずり出す。慌てる牡丹に対し、オリーブは赤ん坊をあやしてやろうと牡丹のそばに立つ。大柄なオリーブが赤ん坊を見下ろすと、赤ん坊は火がついたように泣き出す。
 自身を怖がる赤ん坊を見たオリーブは、悲しげな表情を浮かべて引き下がった。
「お、おい! どう扱えばいいんだ? このガキは」
 イナリは牡丹の言葉遣いにわずかに眉をひそめたが、助けを求める牡丹から赤ん坊を預かる。
「どうしたの? もう大丈夫よ」
 イナリが穏やかな口調で赤ん坊をあやすと、泣き声は次第に収まる気配を見せた。
 周囲に危険がないことを確かめたジョシュアとユイユは、イナリが抱く赤ん坊の様子を気にかける。
「わー! かわいいね」
 赤ん坊を間近に見たユイユは声をあげ、そのつぶらな目を見つめ返す。ユイユとそろって赤ん坊を覗き込んでいたジョシュアは、馬車の方を顧みる。緊迫したクラウディアとココロの声が、何か言葉を交わす様子がジョシュアの耳にも届いた。
 ジョシュアは子どもたちの未来が明るいものになるよう、祈りを込めてつぶやいた。
「どうか月の導きがありますように……」
 馬車の外、焚き火の周りにいた皆の視線は、自然と静まり返る馬車の方へと集まる。幌の向こうから確かな産声が聞こえたとき、その場は歓喜の空気で満たされた。
「クラウディアさん……!」
 瞳を潤ませるフラーゴラは、真っ先に馬車の中を覗いた。顔を見せるフラーゴラに対し、クラウディアは額の汗を拭いながら笑顔を見せた。
「無事、生まれましたよ」
 クラウディアの一言をかき消す勢いで、懸命に息を吸う赤ん坊の声が馬車の中に響いていた。

 あらかた処置が終わったところで、妊婦の女性は準備された担架に乗せられ、牡丹の馬車に運び込まれた。最後に新生児を抱えたココロが、壊れた馬車から姿を見せる。慎重に新生児を運ぶココロは、外にいるフラーゴラに託そうと腕を伸ばす。
 ココロは一層表情を綻ばせながら、フラーゴラに声をかけた。
「あなたの活動の成果よ」
 そう言って差し出された新たな命をフラーゴラは慈しみを込め、丁寧に抱き上げた。

 妊婦を助けた8人が、彼女の赤ん坊の名付け親になることを望まれるのは、また別の話である──。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM