シナリオ詳細
<Je te veux>parfum dangereux
オープニング
●
「ハァイ、アラーイスちゃん♪」
明るく挨拶をしながら香りに満ちたそこへと顔を覗かせたジルーシャ・グレイ(p3p002246)は、彼女が接客中と知ると眉を跳ねさせて口を手で塞いだ。
金色の瞳が少しだけ向けられ、元より笑みの形が蕩けるように和まされたのを見、ひいらりと手を振り返す。自然と足を新商品のコーナーへと運ばせながら、肩越しにチラと見るのはアラーイス・アル・ニール(p3n000321)と話している黒髪の男の姿。
(……初めて見るお客さん、ね。旅行者かしら)
ラサでは日常的に様々な香を焚くため、アラーイスの店には常連客が多い。また、男の格好はラサ風ではないため、ジルーシャはそう思ったのだ。
「……よろしくね」
「はい、承りました」
どうやら会話は終わったらしい。何かを両手で受け取ったアラーイスが頭を垂れて見送り、軽く手を上げた男は彼女へと背を向け出入り口へと向かう。ジルーシャの傍らを通り過ぎ――ようとしたところで、ふと男が歩みを止めた。
「何か?」
「いいや、何も」
男は薄い笑みを浮かべ、そのまま退店した。
少し不思議に思いながらも、気持ちを切り替えて。ジルーシャはアラーイスの元へと向かい、改めて挨拶をした。
「……ソレ、さっきのお客さんの?」
「ええ。この香を調べて欲しいそうで」
「変わった依頼ね」
「『苦しみや悲しみを忘れられる』効果があるのだとかで、何やら最近流行っているのだそうです」
「……『いるのだそう』ということはアラーイスちゃんは初耳だったのね」
ジルーシャの声に、アラーイスは幼い見目に思慮深い色を滲ませた。商人であり、闇の世界にも通じているアラーイス。けれども『彼女の耳に入っていない香』とは――どうにもきな臭い。
けれどまだ憶測故かアラーイスはそれをジルーシャへは告げず、作り手は解っているのだと話した。
「オーギュストという方が作られた香らしく……」
「オージェ!?」
忘れられるはずもないその名に反応して叫べば、アラーイスの金眼の瞳孔が開いた。
「……あっ、ごめんなさい。ビックリさせちゃったわよね。アタシったら……」
「ジルーシャ様」
酷く心が乱れていた。震える声に察したのだろう、アラーイスが気分を落ち着ける香を焚き、お気になさらずと微笑んだ。
「……お知り合いの方、でしょうか?」
「動揺しちゃってごめんなさい。……兄弟子なの」
「まあ」
「本人じゃないかもしれない。でも本人なら……」
ジルーシャは旅人(ウォーカー)だ。同郷の者に会うのは奇跡にも等しい。
「ねえ、アラーイスちゃん」
「『何か解ったら教えて欲しい』ですか?」
「ええ」
話が早い。
「その香もかがせてもらいたいのだけれど」
「それはいけません。どうにも怪しい触れ込みの香ですもの」
調べて問題が無いと判断してから。
それだけはアラーイスは譲られなかった。
●
ラサでのやり取りがあった数日後、今日も今日とてベルディグリの彩を瞳に映しに来ていた(暇な訳では無い)ジルーシャへと劉・雨泽(p3n000218)が声をかけてきた。
「ジルーシャ、君が推薦されている依頼があるんだ」
「アタシ?」
「うん。依頼人は君の友人、アラーイス。ラサで調査を行って来て欲しい」
アラーイスのローレットを通した依頼。
それはきっと先日の香に関するものだとピンときた。
ひとつ、それは『香り』に関するもの。
ひとつ、それは『苦しみや悲しみを忘れられる』らしい。
ひとつ、けれどもそれは、『非合法』のもの。
「まあ調査ではあるんだけど……」
彼女はほとんど掴んでいるみたいだよ。
小さく笑った雨泽の説明を聞いてから、ジルーシャは依頼へと挙手をしたイレギュラーズ等とともにラサへと向か――
「あ、僕も行く。シーシャがあるって聞いたから」
同行者を増やし、ラサへと向かった。
――――
――
「此方ですわ」
半地下へと向かう階段の前で歩みを止めたアラーイスが振り返る。
どうやらそこは店舗らしく、ラサの言葉が書かれた看板もあった。
「シーシャ屋?」
「ええ。水煙草の店です」
わたくしひとりではこういった場所に出入りをするのは難しくて。
現地に到着したイレギュラーズたちは、詳しい話をアラーイスから聞いている。
件の香りが使われているのは『とある店』であること。その店の所在は、家の者が帰ってこないと悩んでいる家族たちの訴えで明らかとなった。――中毒性があるのでしょうと、何処か大人びた表情でアラーイスが告げていた。
「わたくしが知りたいことは二点」
ひとつは、本当にこの店で使われているのか。
ひとつは、本当に『苦しみや悲しみを忘れられる』のか。
そして、そうでないのならば――。
「香りで悪さをするだなんて言語道断ですわ。皆様、よろしくお願いいたします」
ローレットでは荒事もなさるのでしょう? 頬に手を当てたアラーイスが微笑んだ。
- <Je te veux>parfum dangereux完了
- ラサ、シーシャ屋にて調査を。
- GM名壱花
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2024年02月15日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●ふわり
(まあそういうものがないとやっていけない人もいるよね)
縋りたくなる気持ちも解る『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)は、ふらりと訪れた客を装い入店した。
「初めてでね、勝手が解らないのだけれど……ご教示願えないかな」
「初めての方もよくいらっしゃいますよ」
笑顔で応じた男が他の店員を呼んで史之につかせ、初心者が吸いやすいフレーバー等を教えてくれる。
「なんでも他の店にはない楽しいのが入ってるって聞いたんだけれど」
「うちは他店よりも多くのフレーバーを揃えてますけど、そういったものは初心者には向きませんよ」
一通り説明と準備を終え、店員は離れていった。
店内の客の入りは『繁盛している』と言って良い感じだろう。客が歩き回るような店でもないし、のんびりと吸ったり会話を楽しんでいる客が視界に入る。仲間の――先に入店したイレギュラーズたちの姿もあるようだ。
(悲しい思い出か……)
噂の香は『悲しいことを忘れさせる』。それならば悲しいことを考えてみようと『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は悲しい記憶を手繰り寄せてみた。
(死んだって噂で聞いたんだっけ)
噂だけ。事実は知らないし、知ったら真実になるから知りたくない。けれどその噂だけでも矢張り想像して、悲しい気持ちを抱いてしまうのだ。
膨らんだ悲しい気持ちは、膨らんだまま。此処にはその香りは満ちていないのだろうと視線を彷徨わせる。ただのシーシャ屋だ。此処で亡くなっている者は居ないから霊魂も居らず、ランドウェラは慣れないながらもそっとシーシャを吸って吐いてみた。悲しい気持ちを思い起こしていたからか、それとも慣れないせいか。甘いフレーバーを選んだはずなのにその煙はとても苦かった。
「よければ店内を見渡せるような見晴らしの良い席への案内は頼めると嬉しいよ」
商談の接待や贈答品の手配によい店を探しているのだと店主と挨拶を交わした『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は壁際の、けれども一段段差のある席へと案内された。
メジャーなフレーバーを選んで、ひと吸い。一応口に溜めるだけに止めたけれど――うん、これは大丈夫そうだ。普通の客には普通の対応なのだろうと思いながらぐるりと店内を見渡す。みな、ひとりで楽しんだり、隣の客との会話を楽しんだりとそれぞれのペースで楽しんでおり、『噂』を知らなければラサでなら何処にでもありそうな普通のシーシャ屋だ。
「ハァイ。予約してないけれど、大丈夫かしら?」
新しく入店した『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が微笑めば、勿論ですと返事が返る。
「『苦しみや悲しみを忘れられる』ようなフレーバーはない?」
「そんなものがあれば私が知りたいですよ」
「それもそうね」
「アタシ、初めてなのだけれど……話し相手になってくれそうなお客さんはいないかしら?」
それでしたらと店長が視線を巡らせ、店員が老齢の客へと声をかけにいく。良い返事が貰えたのだろう、両手で大きく丸を作った店員へ付いていくようにと店長が告げた。
ジルーシャが店員についていくと、入り口の扉からひょっこりと顔をのぞかせていた『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が「ボクも初めてなんだけど」と入ってきた。さっきのお兄さんも初めてって言ってたし、勇気が出た、のていだ。
香水を纏いメイクもしている今日のソアは少し大人っぽい。アラーイスも「とてもお似合いですわ」と耳を立てていたから、満足とわくわくで胸がいっぱいだ。
「軽いのだとこれなんてどうですか?」
新しいことに挑戦したいのだろうと思える年頃に店員にも見えているのか、ソアの好みを聞いてフルーティーなフレーバーを選んでくれた。
(うーん?)
鼻の良いソアは店内の香りを探る。けれど聞いていた香りがしないことに首を傾げた。おかしいな、全然その特徴の香りがしない。
「フレーバーはお任せで頼む。嫌な事を忘れられるヤツなら何でもいい」
スモーキー殿はと傍らの同行者へと問うのは『終音』冬越 弾正(p3p007105)。今日の相棒は彼で、彼とハードボイルドな探偵と探偵助手コンビなのである。
「では濃いめのご用意をさせていただきますね」
かなり体格の良いふたりの雰囲気から初心者ではないのだろうと思った店員は準備のために離れていく。
「スモーキー殿、これを」
弾正は予めケミストリーで空気を浄化するフィルターを生成し、マウスピースに仕込んだものを持参している。カチャカチャとシーシャを鳴らしながら運んできた店員は彼の手元を見るとオヤという表情をした。矢張り彼等は『ツウ』なのだと思ったのだろう。
「自前のものを使いたいのだが、構わないか?」
「ええ、勿論」
衛生関係に細かい性分だとか、慣れたものが良いだとか。様々な理由でそう言い出す客はいるから気にはされない。
「スモーキー殿、違和感を感じることは出来るか?」
店員が去った後、シーシャを吸うフリをして問うてみる。口から吐き出す煙はスモーキーに拠る偽装だ。問われたスモーキーは周囲を見回してみたが、彼からの回答は「解らない」であった。薬物の配合等に詳しい者ならば別だろうが、専門外だ。
「『苦しみや悲しみを忘れられる』ような香りがあると聞いたのですが」
成人したばかりで初めてなのだと入店した『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)が店員へ問いかけると、店員はあからさまに困惑の表情を浮かべた。
これは、と鏡禍が少し心を浮上させたところ、店員は溜息を零した。
「あの。何か今日、そう聞いてくる新規のお客さんばかりくるのですが……その話って誰から聞いたんですか? 誰かが変な噂を流してるんですか? そういうの本当に困るんですよね……」
情報源のアラーイスの言葉を振り返ってみよう。彼女はこの店で使われている噂が流れているだなんてことは言っていない。彼女がこの店を突き止めたのは個人の調査によるものであり、噂を辿って来た客はいないのだろう。
業務妨害かななんてぼやきながら離れていく店員は、鏡禍の目から見てもどこにでも居そうな店員であった。
(悪そうには見えません。けど、人は……)
悪い人ほど平気で嘘を吐くし、甘い汁を吸えるならと平気で他人を貶める。
妖怪故に人の倫理には疎いけれど、鏡禍の最愛の人が清く正しい人なのだ。
だから、過ちが行われているのなら正すべきだと思っている。
●もくもく
「メイメイ様のお手まで借りてしまい、すみません」
お茶でもしていましょうかと問うた『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)の言葉に「それでは入店しようとする人を止められません」とふるりと首を振ったアラーイスは申し訳無さそうに眉を下げた。勿論、約束の時間よりも随分と早くメイメイが訪ったことが原因だからとメイメイは元より気にしていない。
「アラーイスさまの力になれて、わたしはうれしいです、よ?」
微笑むメイメイはファミリアーのネズミで店内の様子も探っている。大きな問題は起きていないようで、仲間たちや客たちの過ごす姿に少し楽しそうだと思った。
「……心を安らげてくれる香りが、その実、使う人を蝕む……」
そうしたいだけの理由がその人にはあって、縋らないと生きていけないのだろう。けれどもそれが身を蝕むのなら――。
「ねえ、アラーイスさま。被害者は……その、元の身体に戻れるのでしょう、か?」
「どう、でしょう。分野は薬の類でしょう。まずは毒となるものを抜くことが肝要かと」
中毒性で精神が高ぶるのであれば、断って安静にさせる必要があるだろう。
けれどそれも本人の頑張り次第だとアラーイスは瞳を伏した。
『――店長、おかしいですよ』
従業員用の扉の向こうから聞こえる声をランドウェラが拾った。店員の声だ。
今日は初心者や新規の客ばかりが来る。それなのにこぞって欲しがるものが同じだ。そう店長へと困惑の声で告げる店員の言葉はもっともなことだろう。店長も同じ思いのようで、警戒している声音が「客前で態度に出さないように気をつけろよ」と続いていた。
(警戒されている、か)
中毒性のあるものという認識が店側にあれば、新規の客に出すわけがない。客と店の間での信用がゼロだからだ。そして香についての話も極一部の人間しかしらないはずだ。広く広まっていれば警邏や自治体が動いている。
聞いてくる人間が多すぎる。それは店からすれば『異変』であった。新規の客たちは何か裏があるのだろう、警戒するに越したことはない、と店主と店員の間で話は纏まったようだ。
『――何かあれば』
店長らしき男の声が低くなり、それ以降は声が聞こえなくなった。
「お隣、いいですか? ひとりに飽きちゃって。見た感じ、喫するの初めて仲間、ですよね?」
ランドウェラへと鏡禍が声を掛けた。勿論、演技である。
「いいよ。僕もひとりが寂しくなってきていたところ」
ポンと隣のクッションを叩けば鏡禍が自身のシーシャの移動を願おうと店員を呼び、ふたりは静かに楽しんでいる素振りで情報を交わし合う。ランドウェラは先刻聞こえた会話を、鏡禍は他にも部屋があることを。
ふたりの背の隙間をテコトコとネズミが歩いていく。隠れながら動き回るネズミはきっと、情報を他のイレギュラーズたちの元へと届けてくれることだろう。
見晴らしの良い席へとついたラダの視界からでも、ラサの店内ではよくある垂れ布が視界を妨げている。他人の目を嫌がる客も少ないことや店内を広く思わせるための上手い導線遮断だ。
(個室があるのだろうな)
そして特殊な香であるのなら、他の一般客が吸わないようにする細工も当然あるだろうと考えるのが自然だろう。
彼女の足元を駆けていったネズミはジルーシャの元へと向かい、ジルーシャはチラと雨泽を見た。雨泽は店側からの違和感を減らすための『普通の客』に徹するために訪れているから動かないだろう。
(オージェ……まだ調香を続けているの?)
この室内におかしな点はない。けれどネズミを介してメイメイが情報を運んでいる。そしてメイメイのネズミが動き回っているということは外にいるアラーイスとメイメイに危険が及んでいないと知ることが出来るため、自分の近くに来なくともジルーシャは不自然にならない程度に目で追っていた。
(どうして――あの時、禁忌なんかに手を出してしまったの?)
問うても答えは返らない。返るとすれば本人に直接聞くときだろうが……答えてくれるとも限らない。大好きな兄弟子。憧れていた、家族だった兄弟子。本当に道を違えてしまった兄弟子の手に拠るものなら、ジルーシャは――。
●烟は
「あの~、店長さん」
鏡禍が席を立った。その姿を視線の端に捉えた史之も立ち上がる。
受付のカウンターのところに並ぶフレーバーの瓶の手入れをしていた店長へ仕事っぷりを見ていて良いかと問えば、店長は「初めてだと気になりますよね」とシーシャの詳しい説明をしてくれる。
――ふたりの役目は、店長の足止めだ。
ふたりが店長へ話しかけるとすぐ、ランドウェラが店員へと話しかける。
そうして店員の意識も逸れると、ラダが気配を遮断した。
忍び込むのは、鏡禍が透視で見つけ、スモーキーが煙の流れを確認した、一見スタッフルームに見えるような一室。一度室内を見渡し、眉を寄せて口と鼻を手で覆った。――これはよくないものだと、すぐにくらりとした脳が警告を発していた。
室内から一度出て、ジルーシャとソアへと視線を向ける。頷いたふたりはすぐに静かに動き出し、ふたりが視界に入らないようにと「俺たちにも聞かせてくれ」と店長へと話しかけながら動いた弾正とスモーキーが逞しいその身で隠した。
「うっ……」
室内へとするりと忍び込んだソアは鼻頭に皺を寄せた。
「なんてこと……」
ジルーシャも絶句した。史之がその室内を見ていたら、きっと阿片窟だと称していただろう。それに近いものがある。
「ふふ、ふ……」
シーシャを吸っている男が笑う。呼吸不要で息を止めたソアが傍らに膝をついても男は気にせずシーシャを吸い、楽しげな表情で煙を天へと吐いた。
「楽しい、ですか?」
「ああ、楽しいよ。ほら、隣に妻がいるんだ。彼女が居てくれさえすれば俺は」
男の隣に女性なんていない。幻覚だ。
ああ、先立たれてしまったのだろう。
ジルーシャもソアも、容易に想像が出来た。
ソアは決してシーシャを吸ってる人から取り上げようとはせずに話せそうな人たちから話を聞いていき、呼吸が必要なジルーシャは室内を辞して見張りをしてくれているラダへと「黒だ」と告げた。
「皆」
静かに、ラダの声が店内へと響く。
居合わせたイレギュラーズたちはその声に反応し、剣呑な笑みを浮かべた。
さあここからは、楽しい捕物の時間だ。
――店内のイレギュラーズたちが捕物を開始した頃。
「おや?」
幾人目かの来客が首を傾げた。
メイメイはこれまでの来客同様に適当な理由をつけて帰そうと一歩前へと出て――「メイメイ様」とアラーイスが手を引いて止めた。
「アラーイスさま?」
振り返ってアラーイスを見る。彼女が浮かべているのは常と変わらぬ笑み。けれどもメイメイは彼女が警戒をしていることが解った。
「失礼とは存じますが、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」
これまでの客へと同じようにシーシャ屋に入れない旨を告げた後、アラーイスがそう告げた。客は――白い装いの男はそんな彼女の言葉に笑みを返す。
「貴女は同業者の方、ですよね?」
ええと顎を引いた彼女に男は名を告げ、名を聞いたからとアラーイスも名を告げて。また何処かで会うことがありましたらよろしくお願いしますと互いに別れの言葉を交わした。
「……アラーイスさま、今の方は」
「ジルーシャ様の兄弟子の方ですわ」
メイメイが小さく息を飲んだ。
香の制作者が丁度訪う――その万が一に備えて、アラーイスは現場まで同行していたのだ。香りに携わる者の鼻でないと、あの男が何者かだなんてきっと解りはしないから。
ああ、とアラーイスは溜息を吐いた。
彼が店から出てきたら告げねばならない。
あの香は人の体を使用していること。
そして制作者は間違いなく、あなたの兄弟子だ、と――。
(……同じ名の別人でしょうと告げられたら、どんなに良いことか)
「メイメイ様」
「はい、アラーイス様」
視線はずっと男が立ち去った通路に向けたまま、手繰るように手を握る。
きっとメイメイは不思議そうに此方を見ているかもしれないが――アラーイスはそれでよかった。
(メイメイ様がいてくださってよかった)
彼女はきっと、彼への報告にも同行してくれるだろう。
言い辛いことを告げる勇気を、どうぞわたくしに――。
――――
――
イレギュラーズたちが店長を囲んで聞き出すと、店長からは「知らない」という言葉が多く溢れ落ちた。
知らない白い男がある日やってきて、香りをくれたこと。
元気がない常連客に声をかけて試したところ、のめり込んでいったこと。
店長はそれがヤバイものではないかと思っていたが、正しい効果や材料を知らなかったこと。
白い男は時折やってきては安価で提供してくれるが量はくれず、けれどものめり込んだ常連客に提供する分には足りていたこと。
シーシャ屋に滞在する時間とフレーバーで客から金銭を得るシーシャ屋にとってのめり込まれることは良いことで、増えた金で店員の給料を上乗せし、彼も共犯としていたのだ。
「在庫はないの?」
問うた史之に、店長は「今日来るはずだったんだ」と応えていた。
「アラーイスさん、ただいま!」
「おかえりなさいませ、ソア様」
明るく弾むソアの表情と声とは裏腹に、バタンと店のドアは大きく開かれて。無関係の客たちが何やら文句を口にしながら出ていくが、仕方がない。これからこの店には警邏の者等が呼ばれるだろうし、残っている香の在り処等も調べられるのだろうから。
「噂通りだったよ」
何が、なんて必要がない。虜となっていた客たちは全て、ソアが安全に魔眼で制圧した。アラーイスは少し残念そうに「そうですか」と口にし、調査への協力の謝辞を紡ぐ。
それからねとソアが話すのは『預かったふたり』の近況のこと。
「すごく元気だよ」
主語を抜いた繋がらない言葉はきっとふたりにしか解らない。
けれど明るく笑ったソアへ柔らかな蜜色が蕩け、ありがとございますと慈しむような鈴音が転がった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
店長はお縄につくことになります。
アラーイスはジルーシャさんに後ほど報告をすることでしょう。
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
香りに関する依頼となります。
フィールドの問題で少々制限がありますので『シナリオについて』を参照の上、ご参加ください。
●シナリオについて
皆さんはアラーイスからの依頼でシーシャ屋へ入り込みます。
オラオラーっと行ってはいけません。まずは『普通の客』として潜入しましょう。その際、問題となる香りを吸わないよう対策も必要となりま。
シーシャ屋であるため、『見た目が未成年』である場合は門前払いされる可能性があります。煙の漂う場所なので『大人との同行』でも駄目です。無理の無い工夫が必要となるでしょう。(同理由でアラーイスは店内へと入れず、店の外で待っています。シーシャ屋内での描写がなくてOKなら、彼女の護衛という名目でアラーイスとお話ししていても大丈夫です。)(門前払いされた場合も←の扱いになります。)
件の香りを吸っている人を見つける必要があります。……簡単には見つからないかもしれません。
誰かが件の香りを吸っている人を見つけられたら、アラーイスが知りたいふたつ目の情報を探りましょう。
返答は何処かあやふやで、煙のように掴めないものが返ってくるかもしれません。「もういいだろう」「吸わせてくれ」と邪魔をするなとあしらわれるかもしれません。
彼等はその香りを吸いたくて吸いたくてたまりません。話しかけ続けると段々と苛立ちを見せ、そうして――。
●フィールド『シーシャ屋』
アラビアンな雰囲気の半地下の店。
大立ち回りには不向きです。
●香りに魅了された者たち
年齢、性別は様々。そんな香りに頼りたくなる人たちなので、何処かで疲れ果ててしまったのでしょう。
香りには中毒性があるようで、吸う邪魔をしていると苛々してしまいます。攻撃的になると暴れ出します。
【殺してしまった場合、失敗となります。】
●同行NPC
・アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
幼い見た目であり、か弱いため、終盤まで店の外に居ます。か弱いので!
・劉・雨泽(p3n000218)
シーシャを吸いに来ました。甘いフレーバーが好き。
●ご注意
未成年の喫煙は厳禁です。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい等ありましたら、可能な範囲でお応えします。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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