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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>海賊と魔の矜持

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シレンツィオの海賊
 かつて、豊穣-シレンツィオラインで海賊行為を働いていた者たちがいる。
 ダガヌ海域の事件により顕在化した『海乱鬼衆』と呼ばれた海賊たちは、ダガヌ海域での戦いでそのほとんどをイレギュラーズ、たちに撃退され、今は少数の残兵を残すのみである。
 さて、そんな海賊たちにも、ダガヌ海域の異変による不漁によって海賊に身を堕とさざるを得なかった漁師たちもいた。漁火海軍と呼ばれる海賊たちは、そんな漁師たちの集まりであり、頭領の漁牙の下、生活のためにやむなく、とはいえ海賊行為を働いていたのだが、ローレット・イレギュラーズたちの活躍により今は元の漁師としての生活を取り戻していた――。
 だが、世界崩壊の異変は、平和に戻った彼らを、また戦場に引き戻す結果となっていたのだ。

「まったく、厄介な連中だな!」
 漁牙が鬱陶しそうに吠える。豊穣近海の海上である。無数の和船の姿が見えるが、それらは見た目通りに『海戦』を行っていた。
「奴ら、世界が滅ぶかもってんでやけを起こしたんだろうぜ!」
 屈強な漁師が叫ぶ。かつて漁火海軍という海賊だった男は、付近の海乱鬼衆残党が活発化したのに合わせて、民を守るために再び武器を取ったのだ。
「あの海での、みんなの働きを見たってのにな! 心を改めろってんだ!」
 叫ぶ漁師に、しかし破滅に心犯された悪党どもは答えまい。簡易な大筒や銃から放たれる攻撃をよけながら、モリやら弓矢やらで、漁師たちは応戦する。
「しかも、あいつらが連れてるのは……」
「ああ、あのかにみてぇなのは、確か星海獣とかいう連中だ!」
 漁牙が叫ぶ。空より降ってきた、とされる怪物たちは、確かにこのあたりでも暴れているらしい。しかも、海乱鬼衆の海賊たちは、怪物たちと共同して暴れているようにも見えた。
「やっぱり、あたらしい頭領って奴のせいか?」
「あの頭の悪そうな、不毀の軍勢とかいうやつか……!」
「いかにも、いかにも!」
 雄たけびが響いた。船の先頭に立ち、大笑いを上げるのは、豊穣風の鎧武者である。
「破鎧闘士、革太郎である!
 さぁさぁ、我が最強の鎧を貫ける者はいるか!
 この鎧は、我が刃をさらに鋭くさせるものなり!
 この刃、受け止められずしてこの鎧を破壊することはできぬぞ!」
 ざぁ、と刀を振るえば、まるで海が裂けんばかりに斬撃痕を残す。どうやら、それほどの強烈な威力を、あの革太郎とやらは持ち合わせているようだ。
「妙な鎧をつけてはしゃぎおってからに……おい! ローレットへの連絡はどうなった!?」
「へい、使いをよこしましたが、おそらく合流まではもう少し時間がかかるはずです……!」
「となると、しばし時間を稼がねば、か」
 漁牙が、奥歯をかみしめた。敵は大軍勢である。加えて、頭は悪そうでも破鎧闘士なる怪物もおり、そうなれば、いくら屈強とはいえ一般の海賊たちである、漁牙たちでは耐えられそうもない……。
 万事休すか。しかし、そんなとき、涼やかな二つの声が響いた。
「――相変わらず、この海域は騒がしいのね」
「あれの声は不愉快だ。サキはいらない」
 同時――いくつかの敵海賊の船が、一撃のもとに沈められた。
「なんだ!?」
 叫ぶ革太郎へ、現れた二人の少女が、漁牙の船に飛び乗り、声を上げる。
「せっかく静かな海に戻したっていうのに、無粋よ」
「お前の声は収集に値しない。きんきんで、耳が痛くなる」
「嬢ちゃん……確か、モガミ、っつったか!」
 漁牙の言葉に、眼帯の女性――モガミ、がほほ笑む。
「お久しぶり、漁牙さん。
 竜宮での戦い依頼かしら」
「おう、元気そうだな。そっちの嬢ちゃんは、お仲間かい?」
「たまたまモガミに捕まった。サキはサキだ」
 もう一人の眼帯の女性――サキ、がうなづく。
「同郷の子でね。まぁ、いろいろあって、最近であったところ」
「モガミにせがまれた。このあたりが大変だから、見に行きたいと」
「それは言わない約束でしょう?」
 少しだけ、モガミが口をとがらせる。
「さて、漁牙さん。状況は解っているわ。
 ローレットの皆が来るまで、少し足止めと行きましょうか」
「面倒だ。倒してしまってもいいのだろう?」
「だめよ、サキ。みんなを守ることを優先して」
 モガミが言うのへ、サキが口を尖らせた。
「……まぁ、いいだろう。サキは少し良い子になった。よいこにならないと、ミサキから声をもらえないし、ヒィロに怒られる」
「まぁ、それはよかった。じゃあ、お手伝いお願いね?
 さて、漁牙さん、作戦指揮、よろしく」
「おう! ローレットの連中が来るまで、オレの言うことを聞いてくれよ!
 被害を抑えるのを最優先にしてくれ! 本命は、ローレットの連中だ!」
 叫ぶのへモガミとサキはうなづいた。果たして、海上での戦いは、ここに幕を開けた――。

 海上で、戦いが始まった。
 『あなた』はそのような知らせを受け、豊穣の近海へと向かう。
 そこでは、漁火海軍の面々が海賊、そして星海獣たちと戦っており、さらに最前線では、頭領の漁牙、そしてモガミ、サキという二人の旅人が、破鎧闘士と激しい戦いを繰り広げているところだった。
「きたか」
 サキがそう言って、船の先端へと飛び降りる。
「待ちくたびれた。サキも少し疲れたが、あのへんなのはそれなりに強そうだ」
「破鎧闘士か」
 仲間が言うのへ、『あなた』はうなづく。
「全剣王の部下も、いろいろなところに出張させられて大変ね」
 仲間の軽口に、漁牙が笑った。
「土産でも持ってくりゃあ歓迎してやるのによ。
 まぁ、本命はオヌシらだ! 頼むぞ、一気にやってしまえ!」
「援護は任せて頂戴」
 モガミが言う。
「厄介なお客様にはお帰り願って。
 静かな海を取り戻しましょう」
 モガミの言葉に、『あなた』はうなづく。
 そうして、『あなた』は戦場へと躍り出た――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 海上での死闘です。

●成功条件
 すべての敵の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●竜宮海域
 このシナリオは、竜宮の近辺海域での戦いとして判定されます。
 竜宮の近辺海域で効果を発揮する携行品は効果を発揮します。

●状況
 豊穣近海。ダガヌ海域の近辺で、海乱鬼衆という海賊たちが再び暴れだしました。
 かれらは、世界崩壊のあおりを受け、自暴自棄になり再び略奪に走ったようです。
 かつてのシレンツィオの戦いでローレット・イレギュラーズたちに救われた、元海賊の漁火海軍は、再び武器を取って彼らを止めるために戦い始めます。
 しかし、星海獣や、不毀の軍勢の破鎧闘士まで現れはじめ、彼らだけでは戦力不足。かつて竜宮で共闘した旅人(ウォーカー)、モガミとサキも参戦し、押しとどめますが、決定打にかけている状況です。
 そこに駆け付けたのが、依頼を受けたあなたたちです。皆さんは、この状況を変えるエースとして、敵の首領を打ち取るのです!
 作戦決行エリアは、海上。エリア内は無数の和船が浮いており、飛び移ったりして移動することになります。そのため、飛行能力や、水中行動、自前の船などを持ち込むと、より有利に立ち回れるでしょう。

●エネミーデータ
 海乱鬼衆・海賊兵 ×10
  海乱鬼衆の海賊雑兵たちです。和銃や刀などで武装しています。
  特筆すべき能力はなく、戦場のにぎやかし程度ですが、数が多いのがネックです。
  味方NPCにある程度任せても対応してくれますので、彼らの力も借りて倒してしまいましょう。

 星海獣・星蟹 ×10
  星海獣のうち、幼体に分類される怪物です。見た目は蟹のような形をしており、高い防御力と、出血系列を付与するハサミ攻撃を持ちます。
  雑兵的な立ち位置ですが、やはり数が多く、油断してよい相手ではありません。
  味方NPCをうまく利用し、速やかに倒してしまいましょう。

 破鎧闘士・革太郎 ×1
  この戦場のボス的存在。不既の軍勢のうち、破鎧という特殊装備を与えられたエリートです。
  彼は破鎧の力を受けて、強力な攻撃能力を獲得しています。そのため、一撃一撃が重い強力なアタッカーになっています。
  それ以外のパラメータはさほど高くありませんが、とにかく攻撃力に特化しているため、思わぬダメージを受けてしまうかもしれません。しっかりと攻撃をひきつけたりして、ダメージを最小限にとどめましょう。

●味方NPC
 漁牙
  裂(p3p009967)さんの関係者。先の竜宮での戦いで、ローレットに力を貸してくれました。
  モリのような武器を持ったアタッカー。タフなので、雑魚敵の相手位ならある程度は受け持てます。

 【指輪の悪魔:陽】モガミ
   美咲・マクスウェル(p3p005192)さんの関係者。先の竜宮の戦いで、ローレットに力を貸してくれました。
   強力な術師タイプ。回復などもこなせるため、援護方面でも頼っていいでしょう。

 【首輪の踊魔】サキ
   美咲・マクスウェル(p3p005192)さんの関係者。美咲さんとはトラブルがありましたが、今はひとまず友好関係を築けた模様です。
   素早さを利用した盾役としてふるまいます。主にモガミを守って動くようです。
   指示を受ければ、割と素直に聞いてくれます。雑魚などの相手を任せるといいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <グレート・カタストロフ>海賊と魔の矜持完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月05日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
一条 夢心地(p3p008344)
殿
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
雪風(p3p010891)
幸運艦

リプレイ

●海上戦闘
「ふぅむ、ふぅむ!」
 和装には似合わぬ派手な鎧を装着した男――革太郎、が声を上げる。
 その視線の先には、ローレット・イレギュラーズたちの姿がある。無数の和船、その上に立つのは、革太郎、そして海賊たちだ。さらには、蟹のような人間サイズほどの怪物たちもおり、それは星海獣であることは見ればわかる。
 革太郎は不毀の軍勢という全剣王の手下であるため、つまり悪党の寄せ集め、ということであった。
「サキは学んだ。これは不協和音というんだろう?」
 サキがそう言いながら、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)へと声をかける。
「なんとも、耳がきんきんする。嫌な音だ。サキは欲しくはない」
「……あれをせがまれてたとしたら、私もちょっとショックを受けていたかもね」
 美咲が苦笑する。
「二人とも、久しぶり。漁牙さんも。
 皆元気そうで何より」
「ええ。なにより」
 モガミがくすりと笑いながらそういう。
「まさか、もう一度会うことになるなんてね。
 ……なんだか、あれが捨て台詞みたいになっちゃったわね」
「もう会いたくない、ってやつ?」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)はにこにこと笑いながら言う。
「ボクは悪くないって、思ってるよ。
 静かな海を取り戻しましょう、なんてね。
 ふふん、ボクはいま、かなり機嫌がいい!」
「相変わらず、頼りになりそうな嬢ちゃんたちだな!」
 漁牙が笑う。そのまま、『幸運艦』雪風(p3p010891)へと視線を移す。
「おう、裂のところのお嬢ちゃんだったか。やつぁ忙しかったかね」
 そういうのへ、雪風は、わずかにその表情を曇らせた。
「……そのことで、お話があります」
 意を決するように、そういう。
「この戦いが終わったら、その時に。今は」
「ええ、皆様、積もる話もありましょうが、ここは神威神楽の民のため」
 『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)が、その瞳を細め、悪党どもをにらみつけた。
「早々にお帰り願いましょう。陛下の民にゃ、一人たりとも手を出させるわけにいきません」
「ハ――結構結構! だが、この最強に生まれ変わった海乱鬼衆、果たして倒せるものかな!?」
 革太郎がそういうのへ、支佐手が鋭くねめつける。
「力はつけても頭は子供のままじゃ。殴って解らせるしかあるまい」
「ああ、同感だね」
 『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)が、うなづく。
「せっかく平穏を取り戻した場所なんだ。多くの人の願いも眠るこの海を、また荒らさせるわけにはいかない。
 お前が扇動でもしたのか? 革太郎だっけ?
 まぁ――それでも動かせたのは少数。最強の名が廃るものだね」
 挑発の言葉に、革太郎は露骨に不機嫌そうな顔をして見せる。見た目通り、頭はよろしくないらしい、と史之はひとりごちる。
「まぁ、蟹と小悪党を侍らせて、良い気になるなど小物のすることよ!」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)が、にか、とわらう。
「うむ、うむ。海賊の鎮圧も殿的存在の役目じゃからな。
 この一条夢心地に任せておくが良いぞ。
 なーーーっはっはっは!」
 さん、と夢心地が刀を抜き放つ。合わせるように、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)、そして仲間たちも身構えた。
「足場は良くないね。みんなは大丈夫?」
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)がそういうのへ、雪風がうなづいた。
「はい。世界と形は違えど、わたしも船です」
「ボクは船じゃないけど、問題ないよ! 美咲さんもね!」
 ヒィロがそう答えて、美咲もうなづく。他の仲間たちも同様。この程度は障害にはなるまい。
「ふふーん、じゃあ、さっそく始めようか。
 敵の数は多いからね! もたもたして時間をかけるのもばかみたいだから!」
「生意気な虎っこめ」
 革太郎がぐぬ、とうなる。
「だが、その威勢、何時まで続くかな?
 我ら最強の海賊衆、お相手しよう!
 さぁ、我が最強の海賊どもよ! 星蟹どもよ! この愚か者どもと食い散らかし、海賊事業の幕開けと行こう!」
 その言葉に、おう、おう、と海賊たち、そしてうごうごと星蟹たちがうごめく。
「不愉快な連中ね」
 ルチアがそういうのへ、支佐手がうなづいた。
「ほんに子供なら苦笑で済むものを、ナリが大人なら不愉快というものです」
「頭が子供の馬鹿達には、現実というものを教えてあげればよいわ」
 モガミが言うのへ、サキがうなづく。
「ローレットは怒ると怖いからな」
「あら、冗談が言えるようになった?」
 美咲がくす、と笑う。好ましいものだ、と思った。モガミも、サキも、どちらの変化も。とはいえ、それをいえば一斉に憎まれ口でも叩かれそうなので、心の内にとどめておくが。
「漁牙も、お手伝いをよろしく!
 漁牙は、海賊に切り込んで!
 モガミは、後衛に陣取って援護射撃!
 サキは後衛に迫ってきそうな敵を優先して撃破。後ろを守る! 大丈夫?」
「おう、任せな、お嬢ちゃん!」
 漁牙が笑う。
「モガミのお嬢ちゃんに、サキのお嬢ちゃん! オヌシらも頼むぞ!」
「任せて。さっさと片付けましょう」
「ああ。サキはまだまだ、この世界でいい声を探すつもりだからな」
「……また勝手に声をとっちゃだめだよ?」
 ヒィロがからかう様に言うのへ、サキが肩を落とす。
「約束した。それを破る気はない。信じろ」
「ふふ、もちろん、信じてるって! じゃ、サキ! 一緒に頑張ろうか!」
 ヒィロの言葉に、サキはうなづく。
 果たして――海上の決戦が、今、始まる!

●海戦・開戦
「殿というものが、こういう時にどういう態度でいるべきかを知っておるか?」
 夢心地が、どしり、と、腰を下ろす。
「泰然自若。常のようにあり、決して心動かされずに戦局を読む。
 殿とは最後の砦。そして戦の頭脳。
 つまり――」
「しんがりでどっしり構える!」
 ソアがの言葉に、殿はにんまりと笑った。
「そう、そう!
 殿はどっしりと構える故に、虎の子よ、そなたは縦横無尽に飛ぶがよい!」
「言われなくても!」
 ソアが、たん、と船を踏み出して、宙を飛んだ。低空を滑るように飛ぶソアが、
「はーい! ボクに試させてよ? とうっ!」
 と、一気に革太郎へと接敵する! そのまま、わずかに高度を上げて踏みつけるような一撃! ばぢり、と音を立てて、革太郎に鋭い爪のが叩き込まれる!
「その意気や、よし!」
 革太郎が大仰に笑い、その刃を振るった。ずああん、と音が聞こえるような、強烈な、斬。それは空気を割くような一撃だ。ソアが体をそらしてそれを回避すると、衝撃波のようなものが中空にぶっ飛んでいくのが、かすかに見えた。
「へぇ、そういう手品なんだ」
 ソアがペロリ、と舌なめずり。その一方、漁牙とともに海賊衆へと対応を行うのが、雪風である。
「ここは……この海は……!」
 思い出が、心に浮かんでは消える。出会った人。別れた人。その人の記憶。
 もし、昔のままであったならば、その思い出に心引きずられ、あるいはこの海に沈むことを望んだかもしれない。
 だが、多くの人が、友が、敵が、出会いが、雪風に少しずつ、この世界で生きる意味をくれた。
 本当の、幸運という言葉の意味を。呪いならぬ、祝福の意味を。
「裂さん……わたしは、必ず……!」
 手にした艦砲を、一気に発射する。乱撃のごとく放たれるそれが、海賊たちを爆風と衝撃に吹き飛ばした。ぎゃあ、と悲鳴を上げた海賊が海の上に落下しようとするのを、漁牙が手にした杜で打ち上げて、船に叩き落す。
「嬢ちゃんは、殺したいわけじゃあなかろう」
 ふふ、と笑う漁牙に、雪風も優しく笑った。
「戦いながら聞いとくれ。返事もしなくていい。
 裂な……死んだか、堕ちたかしたんだろう」
 その言葉に、雪風がぎくりと肩を震わせる。
「……あの、海の底の決戦の場で……濁羅の言葉に、オレは一抹の不安を感じていたのは本当だ。
 だが……オレは、信頼や期待という綺麗ごとを隠れ蓑に、アヤツの脆いところを見ようとはしなかったのかもしれん……」
「それは……!」
 雪風が、声を上げる。「いいのだ」と、漁牙は笑った。
「オレは、もう奴には会えんのだろう。
 もし、オヌシが奴と会えたのならば……オレの分まで、謝っておいてくれ。それから、一発殴っておいてくれ。
 返事は、いい。すまぬな。戦いに集中してくれ」
 そう言葉を残すと、漁牙は、その思いを八つ当たりするかのように、豪烈にその銛を振るい始める。雪風には、今は言葉はなかった。
 さて、戦いは続いていく。敵の数は多く、イレギュラーズたちの傷も、その手数に応じるかのように増えていった。ルチアが回復手を担い、サポートを行うが、それでもダメージが蓄積するのは事実である。
「さすがに数がおおい、けど……!」
 雑兵から放たれた銃弾を刃で叩き落とし、史之が言う。革太郎と激しい戦いを繰り広げるソアに視線を移しつつ、しかし星蟹、海賊衆を放っておくわけにもいかず、史之はその攻撃を一手に引き受ける形となっていた。
「まったく、海賊どもは久しぶりの出番だからって気合が入っているね!」
「俺だ。史之。力を貸そう」
 ミサキからの声が聞こえる。それを拒否することなく受けながら、史之はその刃を振るい、飛び込んできた星蟹を切り伏せた。そこへ夢心地の放った混沌の泥が押し寄せ、近くにいた星蟹もろとも、豊穣海域の海の底へと引きずり込む。
「無事であるか!」
「問題なし!」
「で、あるか!」
 ふふん、と笑いあいつつ、攻撃を続行する。些か劣勢だろうと、傷が増えようと、どうでもいい。泥臭かろうがなんだろうが、最終的に勝てばよいのだ。そして、最終的に勝つという自信とプライドだけは、間違いなく、この場に参加しているイレギュラーズたち、その全員が持ち合わせているものに間違いなかった。
「おとなしくまっとうな職についておけばいいものを……!」
 支佐手が、火明の剣に仕込まれた巫術を展開し、その力を以て海賊をたたき切る。支佐手もまた、最前線で敵の攻撃を受け止め続けるロールを背負っている。
「うるせぇ! どうせ世界が滅ぶなら、その瞬間まで好き放題したほうがいいだろうが!」
 叫ぶ海賊に、忌々し気な瞳を向ける、支佐手。
「つくづく、頭が悪いものか! おんしらに希望を見せられぬ、己の身を嘆くべきか!」
 横なぎにふるった刃が、巫術を展開し、炎の斬撃と残渣を残す。うぎゃあ、と悲鳴を上げた海賊が海へと落下する。
「わしゃぁ別に優しくはせん。命惜しければ尻尾をまきんさい」
「うるせぇ! てめぇを殺したとあらば拍がつく!」
 襲い掛かる海賊たちに、憐れみと嫌悪の視線を向けながら支佐手が刃を振るうのへ、モガミの強烈な援護術式が解き放たれ、海賊討伐に一つ役買って見せた。
「……同情するわ。ああいうやつらは、どうもね」
「きにしなさんな。あの手合いはよっく見てきました」
 支佐手が息を吐く。どこの世にも、ああいう手合いはいるのである。それを嘆いていては始まるまい。守るべきは、そうでない、まっとうな人たちだ。
「でも、いい報告が一つあるわ。戦局は、順調にこっちに傾いているわよ」
「ほんに、いい報告ですね」
 ふ、と支佐手が笑う。その言葉通りに、なるほど、勢力図は確実にこちら有利へと塗り替わっていっているようだ。
「では、この仕事も、終わらせましょうか。
 引き続き、敵方の誘引はお任せを。大丈夫です、この手のことは慣れとりますけえ」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた。
 さて、戦場の最奥へと視線を移してみれば、革太郎と相対する、三名のイレギュラーズの姿がある。一名はソア。そしての残る二名は、ヒィロと美咲のコンビである。
「ぬ、う! ちょこまかと!」
 革太郎が忌々し気に声を上げる。ヒィロは翻弄するがごとく革太郎の攻撃をひきつけ、美咲とソアによる打撃が、確実に革太郎の体力を削っていた。
「ふふん、今日のボクは機嫌がいいんだよね! なんでかわかる?」
「昼飯が美味かった――」
「はずれ! アハッ、教えてあげないっ!」
 防衛武装でもある刃を振るう。革太郎の鎧に傷をつけたそれに、彼は吠えた。
「おのれ! 図に乗るなよ!」
 革太郎が、強烈な横なぎの斬撃をふるう。衆一帯を切り裂かんばかりの、豪烈なそれが、ソア、ヒィロ、美咲を襲った。
「おっと」
 美咲がとっさに武器を構えて、その衝撃を受け止める。それでも、体をたたく強烈な痛みは、なるほど、最強を騙るにふさわしい威力を誇っていた。
「なかなか、ってところね」
 それでも、美咲は不敵に笑って見せる。
「ソア、ヒィロ、今のでやられたりなんてしてないよね?」
「もちろん!」
 ソアも笑ってみせる。
「ふふん、確かに当たると痛いけど――でも、その程度!」
「バカい闘士、バカ太郎だっけ?
 かすりもしない刀振り回す間抜けな踊り、バカにはちょうどお似合いだよ!
 海だけにタコ踊りだけは得意ですーって?
 アハハハハハハ!」
 こちらは明確かつストレートな挑発の言葉である――ソア、そしてヒィロのそれに、革太郎はもはや、筆舌に尽くしがたいほどの怒りを抱いていることが、その赤だの青だのに変わる顔色から、明確に見て取れるものだった。
「殺す……!」
 革太郎が、獰猛にほえる。
「ぶち殺す!!!!」
 ぐうぃ、と革太郎が体をひねった。全力全開の一撃。
 ――だが。その隙こそ、ヒィロが、美咲が、ソアが、狙った瞬間。
「もらーいっ!」
 その隙をついて、ソアが一気にとびかかる。鋭い爪の一撃が、革太郎の気勢を欠いた。
「そんな大ぶりの攻撃、隙だらけですって言ってるようなものだよ」
 美咲が手にしたその包丁を振るった。
 それだけで、世界は千々に切り裂かれる。
 同時に――彼のプライドの由来であった、破鎧も!
「な――ッ!?」
 革太郎が叫んだ。その身を包んでいた鎧はみじんに砕け、魔術の粒子に溶けてきていく。
「ば、ばかな! ばかなばかなばかなばかなぁ!!!」
 そう叫ぶその様は、先ほどまでの余裕などはみじんも見受けられない。
「馬鹿は、おんしじゃ」
 支佐手が、軽蔑するようにそう言った。
「まったく、一軍の将として見苦しいね。殿、なんか言ってあげたら?」
「うむ――。
 だめだこりゃ」
「それって殿のセリフだっけ?」
 史之の言葉に応える夢心地。それにさらに史之が応える。
「おっ! 皆、大体片付いた?」
 ソアが笑うのへ、ルチアがうなづいた。
「はい。皆さんが、力を合わせれば」
 雪風が、うなづいた。
「突破できないものなど、ありません」
「そんな……最強の鎧が! 力が!」
 革太郎がうろたえるのへ、美咲は、ふん、と鼻を鳴らした。
「自分の力でやってみたら? ワンチャン、あるかもよ?」
「ま、あげないけどね!」
 ヒィロがくすくすと笑う。革太郎が吠えた。
「おのれ……オレは! 最強の――!」
 革太郎が吠え、その刃を振るう。広範囲を切り裂く衝撃波は、なるほど、先ほどまでの威力を確実に欠いていた。
「ふーん、こんなに弱くなっちゃうんだ!」
 ソアが笑う。
「なっさけーなーい!」
 挑発の言葉に、しかしもはや革太郎には、反撃するだけの力も、指揮する軍勢も存在しない。
「まったく――何もかも失った将とは、哀れなものよなぁ。
 ぬぁーにが最強の鎧じゃ。レア装備品に頼っている内はまだまだ二流。
 よくわからぬモノを究極にまで高めてこその一流というものよ」
 夢心地が、さすがに同情の視線を向ける。モガミが肩をすくめた。
「……あとはお任せしても?」
「問題なし。さっさとやっちゃおう!」
 ヒィロが言うのへ、美咲はうなづいた。その瞳が、再び魔眼のそれに染まる。
「それじゃあ、これでおしまい」
 美咲のふるった包丁が、革太郎を微塵に切り裂いた。ばち、と音を立てて、魔術の粒子に消えていく。
「なんだ、魔法生物だったのか」
 史之がそういった。不毀の軍勢は、人間や魔種もいれば、全剣王の魔力で生み出された魔法生命もいる。どうやら、そのたぐいだったのだろう。
「小悪党に似合いの末路です」
 支佐手がその帽子を深くかぶりながらそういう。
「……神威神楽が、こんな阿呆に穢されなかったこと。それは救いです」
 ふ、と、口元をほころばせる。
「……漁牙さん」
 雪風が、漁牙へと声をかける。漁牙はうなづいた。
「オレは、やるべきことをやった。
 次はお嬢ちゃん、オヌシの番だぞ」
 はい、と、雪風はうなづく。やるべきことは、まだ残っている。
「……なんだなんか、また会っちゃったわね」
 はぁ、とモガミが肩を落とした。その視線(?)の先には、美咲とヒィロがいる。
「いやか? サキはうれしいぞ」
「ちょっとカッコつけちゃったもの。気まずいというか。
 ……まぁ、こういうご時世だから、これはノーカン、って奴よね」
 ふふ、とモガミが笑う。
「モガミ」
 美咲がそう声を上げるのへ、モガミは軽く一礼をした。
「今度こそ、もう会いませんように」
 ふ、と、モガミがその姿を消す。サキが肩を落とした。
「素直じゃないやつだ。
 美咲。ヒィロ。サキもモガミと一緒に出掛ける。
 サキとはまた会おう」
 そう言って手を振るサキが、ふわりと飛び上がり姿を消した。
「元気そうでよかったね」
 ヒィロが笑って言うのへ、美咲がうなづく。
「ええ、本当に」
「ん。これで一件落着かな」
 ん-、とソアが伸びをした。史之がうなづく。
「まだまだ、世界が救われたわけじゃないけどね。でも、ひとまずは」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた。
 世界崩壊の時は進む。
 されど――一つ一つ。抗うことは、できるはずだ。

成否

成功

MVP

物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 海は再び、静けさを取り戻せそうです――。

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