PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔女の子は嗤う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カウェロ司祭の告解
「よくいらっしゃいましたね。なるほど君達が――
 さぁ、そちらのソファへ。腰を据えてお話致しましょう」
 天義東部のはずれ、ヒルトの街の中央に立つ大教会。その司祭を担うカウェロは柔和な笑みを浮かべ貴方達を向かい入れた。
「話は粗方お伝えしておりますが――ええ、今一度直接お話しましょう。
 貴方達にお願いしたいのは、忌まわしき魔女の子、その殺害になります」
 そこまで告げて、カウェロ司祭は自身を嘲るように顔を歪めた。
「……いえ、訂正しましょう。
 殺害して欲しいのは……我が愛する娘。メルティーナです」
 そこまで言ってカウェロ司祭は乾いた口を潤すように水を口に含んだ。
「神に仕える身でありながら、このような悪しき願いを口にすること、軽蔑したでしょう。
 ですが、もうあの娘を放置するわけにはいかないのです。
 私は、私の全てを賭けて、全てを正しき道に戻そうと言うのです。理解して貰おうとは思いません。ですが、これは私が――不義を行い罪を背負った私の罰であり最後の善行なのです」
 カウェロ司祭は目を細め、たどたどしく罪を懺悔する。
「それは十年以上前の出来事です。
 私は巡礼の旅の中、或る女性に拐かされ不義を働いてしまいました。
 大きな過ちです。それ故に私は誰に懺悔することも出来ず一人抱え込んで生きていました。
 その罪を洗い流すように善行に努め、悔い改めようとしました。その結果司祭へと上り詰めることが出来たのです。
 そうして、過ちの記憶が薄れてきた頃――その女が現れたのです」
 カウェロ司祭は額を押さえ項垂れる。脳裏にこびり付いた薄ら寒い女の笑みを思い出していた。
「その女は魔女だったのです。悪魔を崇拝し人を拐かすのを生業とする魔女だったのです。
 女は言いました。”これ”が貴方のパパよ、と。
 女は娘を連れていました。そうです、私の不義によって生まれた子でした。
 女は言いました。さあ、どうするの? と」
 目を閉じたカウェロ司祭は重く息を吐き出した。
「結局私は罪を濯ぐこともできず、新たな罪を重ねてしまいました。司祭という職を失うわけにはいかない――つまらない欲に負けたのです。
 私は魔女の言葉に従い娘に部屋を貸し与え修道女として教会へ招き入れました。
 ――魔女ですか? さあ娘を教会に入れたあとは消えて居なくなってましたよ。
 そうして娘――魔女の子を教育しながらの生活が始まりました」
 視線を上げたカウェロ司祭の表情は、複雑だ。その後の生活を思い出しのか、つかみ所のない表情を浮かべる。
「魔女の子とはいえ、実の娘です。情も湧くというものでしょう。
 それに娘は礼儀正しく、明るく、利発的な娘でした。
 正しく育てれば、きっと上手くいくと信じておりました。
 ――それは、間違いでした。
 一年ほど前から娘は行動を開始したのです。
 この教会を――いえ神の導きよって栄えるこの街を破壊しかねない、行動を。
 人心を掴み操るのが得意な子です。また人の弱みを握るのも上手い。次々に教会に常駐する者はその人心術に心を奪われるか――または身体を餌に拐かされていきました」
 今や街に常駐する神官や教会騎士すらもその手中に収め、操っていると言う。
「全ては私の不徳、罪に端を発する出来事です。
 全ての事が片付けば――私も神の御許へと向かいましょう。それが私のけじめなのです。
 どうか、あの悪しき災いを起こす魔女の子を――私の娘を殺して下さい」
 娘を殺し、自らも命を絶つことで、全ての流れを正常に戻すというカウェロ司祭。その瞳は信心し決意を固めた瞳だ。
 カウェロ司祭は居住まいを正すと、得心したように笑みを浮かべた。
「……恐らくこの部屋の会話も聞かれているでしょう。そういう魔術を心得ている節があります。
 ええ、大丈夫です。私のこの気持ちも、あの娘には筒抜けでしょうから。
 それにお気づきですか? 私は貴方達のことは一言も喋っていない。その容姿、振る舞い、それに仕える場所もね。
 おっと、心配しないでください、私財の整理は終わっていますので、その中から報酬を支払う手はずはできております。
 ……さぁ、それでは始めましょうか。
 どんな手はずで、あの子を殺すのか、その作戦会議を――」
 カウェロ司祭は今一度柔和な笑みを浮かべるのだった。


「あは、お父様ったら、娘のことを魔女だなんてひどいわ」
 教会内、暗がりの一室でメルティーナが目を細めた。
 父親が自身を殺す算段を付けているというのに、まるで気にした様子はない。
「さあ、どんな手段でくるのか……楽しみね。
 あは、あははは――」
 側に控える騎士達が傅く中、魔女の子が嗤った。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 笑み浮かべる少女は魔女か、はたまた――
 化かし合いの始まりです。

●依頼達成条件
 メルティーナの殺害の確認

■失敗条件
 特異運命座標(ローレット所属)であることの発覚
 メルティーナの逃亡を許す

●情報確度
 情報確度はBです。
 依頼人の言葉に嘘はないが不確かです。
 想定外の事態も考慮にいれましょう。

●この依頼について
 カウェロ司祭との会話により、各自一つの情報をメルティーナへと聞かせることができます(プレイングに記載してください)。
 それは相談して決めた事柄で良く、真実でも嘘でも構いません。
 メルティーナはその情報を元に貴方達を向かい打ちます。
 ただし、大きな嘘は当然メルティーナに看過されます(ダイスロール判定)。
 真実と嘘を織り交ぜ、依頼を達成へと導いてください。

 ローレット所属の人間であることを隠すため、全員覆面を装着することが義務づけられます。
 ダメージによって覆面は破れ、戦闘不能で覆面を剥がされます。
 覆面を剥がされた人数や、参加者の天義名声値でばれる確率が高まります。

●戦闘地域
 ヒルトの街その中央大教会内になります。
 教会内は一階、二階、そして灯台の三区画にわかれています。
 メルティーナの寝室は二階の奥となり、その側には灯台への通路があります。
 一階から二階へと上がる階段は二カ所あり、それぞれフロアの端になります。
 灯台へは二階からしか上がれません。
 各フロアは広く戦闘に支障はでないでしょう。

●敵構成
 神官二十人、教会騎士十五人、その他メルティーナに協力する者が十名います。
 大教会内で侵入者の警戒を行っています。
 特に二階は教会騎士が厳重に警戒しています。

 ・神官 神秘魔法を行使する。そんなに強くない。
 ・教会騎士 物理攻撃を主体とする。結構強い。
 ・協力者 とりあえず武器を持ってる一般人。弱い。

●メルティーナについて
 魔女と呼ばれた女とカウェロ司祭の娘。十五歳。
 物理的な戦闘力は皆無だが、悪魔的な秘薬や術法を扱え、年齢以上に大人びた妖艶な雰囲気を持つ。
 人心把握に優れ口が上手い。精神操作を行っている節もある。
 母親に似た月の光で朱に染まる黒赤の髪を靡かせている。


 有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 魔女の子は嗤う完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月04日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
主人=公(p3p000578)
ハム子
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
狩金・玖累(p3p001743)
PSIcho
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

リプレイ

●偽か真か
 時はカウェロ司祭との作戦会議のその時に遡る。
 カウェロ司祭と対面したイレギュラーズはカウェロ司祭の話を聞き、そしてこの会話の重要性を理解した。
 互いに視線を交わし、何を言うか考え――筆談による相談もあったことだろう――そして、考え抜いた情報の提示を行う。
「……」
 『影刃赫灼』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)と『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)の二人は無言を貫き通し、自分達の戦力を欺瞞することとした。
 この考えに『桜花五分咲』サクラ(p3p005004)が便乗する。
「我々五人にお任せ下さい」
 明るくハッキリとした少女の声色を隠さず言う。このとき合わせて筆談で神官服や教会騎士の制服を用意してもらうよう頼んだ。唇を結んだカウェロ司祭が頷く。
 続けて具体的な方法をカウェロ司祭が求めると、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が幼い少女の声色で、”盗聴”しているであろう魔女の子メルティーナに向けるように言葉を発する。
「『妾達』の中には心を操る技やそういうギフトを使える者がおる。
 例えば普段は忠実な部下であっても合図一つで暗殺を慣行する者なども作ることが出来るかも知れぬの」
 既に目標の部下の中に”そういった操作”を受けた『協力者』を幾人か潜り込ませているという欺瞞を添える。
 これにカウェロ司祭が頷いて「それは心強い」と話に乗り、信じるように言う。
 『協力者』と聞いて、『ハム男』主人=公(p3p000578)も言葉を発する。
「現場に詰めている一般人と協会騎士の中にこちら側の協力者が居て
当日に襲撃の手引きをしてくれる手はずになっている」
 これはデイジーの言う”忠実な部下”以外にも協力者がいると、付け加えた形だ。カウェロ司祭は喜色の声色でこれに頷いた。
 デイジーが言った心を操る技を持つのは『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)だ。ミスティカはメルティーナが精神操作の類いを使用していると考えていた。
「彼女の精神操作を解除する術を知っているわ」
「ほう貴方が。それは素晴らしい」カウェロ司祭が応えた。
 相手側に警戒を促す情報もいくつかあがる。まずは『PSIcho』狩金・玖累(p3p001743)の言葉だ。
「魔女に与する者には容赦はしない。当然全滅させる。
 そうだね具体的には吸引摂取で効果が出る毒煙を撒くとしようか。きっと一息に死ねるはずさ。ああ、心配しないでよ。”自分”たちは顔を覆って対策するさ」
 あえて一人称を変えて恐るべき暗殺者のように語る。フェイカーであり演技派である玖累の言葉は力強く聞く者に説得力を与える。
 続く『世界喰らう竜<ワールドイーター>』ヨルムンガンド(p3p002370)は自身の得意とする技能を欺瞞し語る。
「私は『小動物に変身する事が出来る』……。
 聞かれようが対策は簡単ではないだろうから問題ない……。
 他の作戦と同時に機を見て忍び込むよ……」
 人以外のものに警戒を向けさせる作戦にカウェロ司祭も唸る。
 そうして、言葉を発した者、敢えてその存在を隠した者のいる中、作戦会議は終わりを告げる。
「貴方達ならきっと娘を殺してくれることでしょう。
 ……神の教えに反する身ながら、上手くいくことを神に祈りましょう」
 カウェロ司祭の祈りの言葉を聞き、イレギュラーズは席を立った。
 そして、作戦が実行の時を迎える。
 果たして、メルティーナは何を信じ、何を信じなかったか。
 ――勝負の時である。

●襲撃
 神官服と教会騎士の制服に着替えたイレギュラーズが襲撃を開始する。
 時刻は深夜。
 普通なら誰もが寝静まってる頃合いだが、教会内は物々しい雰囲気を漂わせていた。
 総勢四十五名の神官、教会騎士、そしてメルティーナに協力する一般人が重苦しそうなマスクを付けて教会内に常駐する。
 玖累の言った毒煙に対する対策だろう。この点メルティーナは信用したに見える。
 異常は他にもあった。
 空を飛ぶ鳥、教会内をたむろする小動物が発見次第有無を言わさずに射殺し、斬り殺されていた。ヨルムンガンドの言葉に警戒を寄せた結果だろう。身も蓋もないやり口だが、確かな効果を上げていると言って良かった。
「みんな、ごめんなぁ……」
 ヨルムンガンドは動物疎通による偵察を行っていたが、この身も蓋もない対抗策によって、精度の高い情報を得ることが難しかった。
 簡単な混乱が起これば成果は違っていたかもしれないが、ここまで極端な対策を講じられた場合のことを失念していたと言えるだろう。
 この時点でわかったことは、メルティーナの姿を直接確認できていないこと。そしてメルティーナの寝室内に教会騎士が多く居残っているということだ。
 メルティーナが教会内にいることは間違いない。だが、その存在を直接――あるいは使い魔などで間接的に――確認することが出来ていない。
 イレギュラーズはあやふやな情報を頼りに襲撃を行うしかなかった。少しずつ情報を集めたヨルムンガンドが口を開く。
「……二階と寝室にほとんどの教会騎士が集まってるな」
「灯台にいるならもう逃げ道がないはずだよね。さすがに守りなしで灯台に行くとは思えないかな」
「だとすると、やはり寝室か?」
 威降の推察を聞いたクロバが問い返す。威降は一つ頷いた。他の仲間達もこれに同意する。
 灯台から侵入する手もあるが、二階にメルティーナがいた場合の逃亡リスクが高い。二階から灯台へのルートならば――飛行手段でも無い限り――逃亡のリスクは少ないはずだ。
「なら、決まりね。――始めようか」
 サクラの合図で、全員がマスクを被る。このマスクを死守し、メルティーナの殺害を確認する。全員の意思統一がされた中で、イレギュラーズが動き出した。
 行動は迅速に行われる。
「さあ、毒煙に耽るとしようか」
 玖累の仕掛けた複数の狼煙が風上から教会を覆っていく。同時、ミスティカのファミリアーの鴉が騒ぎ立てれば、すぐさま教会内で騒ぎが起こり始める。
 その混乱に乗じて、陽動班である五人が教会内へと侵入する。
 玖累の仕掛ける煙が建物内でも上がり、その視界を覆う中、玖累は集まる敵対者を欺き、時に精神を操作しながら静かに処理していった。
 だが、幾人と倒す中、敵が対抗策を講じる。彼等はメルティーナ配下である”印”を首から提げていた。視界が悪くなり、仲間が減ってることに気づくとすぐさま”印”を取り出し声を上げた。
 この動きに備えのないイレギュラーズは対応できない。すぐさま行動を”存在が露見した場合”の対処に切り替える。
 デイジーとサクラが毒煙を仄めかす香水の香りを漂わせながら、声を上げる。
「我らは邪悪なる魔女の子に鉄槌を下す者なり!
 魔女に拐かされし哀れなる羊どもよ。汝らを殺す罪は神によって許された!
 神の御名の元これより神罰を代行する!」
 免罪符を掲げるデイジーに幾人かは動揺するが、そのほとんどが武器を抜き放つ。
「正義に背く悪しき魔女の下僕! 神の鉄槌を受けよ!」
 叫びながらサクラが間近の敵を先祖伝来の刀で斬りつける。
「さあ、私の目を見なさい。そして思い出すのよ」
 マスク越しに視線を合わせるミスティカが、神官の意識を取り込んでいく。精神操作に類するもので操られているのならば、多少は変化が起きるかもしれなかった。果たして、神官の男は夢遊に彷徨うように、なにか取り返しの付かないことをしているのではと、頭を抱えだした。
「さあ、こっちだよ!」
 二階へと向かうそぶりを見せながら、敵を引きつける公。近づかれれば攻防自在のビーム盾に魔力を纏わせ叩きつける。
 陽動は見事に成功したと言って良かった。
 戦力的に弱い協力者や、数の多い神官を相手取り、引けを取らない活躍で次々と撃破していく陽動班。
 業を煮やした教会騎士の大半が、二階の廊下より一階へと降りる。陽動にかかったのだ。
 戦い慣れた教会騎士だ。そしてなによりイレギュラーズより数が多い。わかっていたことだが、抑えるだけでも精一杯だ。
 そしてこの頃になると、敵はマスクを脱ぎ捨て視界を確保しはじめる。イレギュラーズはそれをすることが出来ない。
 教会騎士が死角を狙い攻め入る。
「くっ……この――!」
 一合、二合と打ち合う剣戟の最中、一瞬の隙を突いて放つサクラの居合い抜きが教会騎士の腹部を切り裂く。だが、倒れる教会騎士が、絶命ままに剣を振り下ろしサクラの肌を朱に染めあげる。
「結構、きついね……!」
「無理して捕まってしまっては意味ないのじゃ、頃合いを見て引き上げるしかないかの」
 公とデイジーが互いにだけ聞こえる声で話す。
 状況は陽動班の全員が理解していた。十分に時間は稼げているはずだが……未だ暗殺班からの合図がない。
「想定通りとは行かないものね……捕まる前に引きましょう」
「それもそうだね――なら、退路を作らないとね!」
 ミスティカの判断に同意して、スマイリーを被る玖累が幾度目かになる無数の有刺鉄線を張り巡らせ、退路を築こうとする。
 教会騎士達の判断も速い。撤退を始めるイレギュラーズを追い詰める。
 公とサクラが教会騎士を抑えながら下がるが、二人だけで全ての数を抑えることはできない。攻撃は全員へと容赦なく叩きつけられる。
 パンドラの輝きを宿さなかったミスティカが倒れ、それをパンドラに縋ったサクラと公、そして玖累と、その戦闘経験の高さから余力を残せたデイジーが、担ぎ、投げ、運び出す。
 もし、ヒールを重要視して戦う者がいれば、拮抗した戦い、或いは制圧の可能性もあったかもしれないが、こればかりは得意とするところが或る以上仕方のない話だ。
 陽動班は、数多くの敵を倒し、十分な陽動を行った末、辛くも戦場から撤退するのだった。

●魔女の子は嗤う
 陽動班がその多くの敵――二階を守護する教会騎士をも――引きつけたところで、暗殺犯が虚を突いて侵攻する。
 空を飛ぶクロバとヨルムンガンド、そしてギフトによって大きく跳躍する威降が、教会二階はメルティーナの寝室の窓目がけて急襲する。
「いただきます……!」
 寝室の窓の鍵を”喰らう”ヨルムンガンド。鍵の仕事を果たさせず無効化すれば、開け放って侵入する。
「――! 襲撃者か!」
 三人の侵入に気づいた教会騎士が剣を抜き放つ。数は五名。廊下にいたであろう半数以上の教会騎士を陽動班が受け持ってくれたことになる。
 クロバが音も無く疾駆し二刀の刃を振り抜く。即座に反応した教会騎士が剣を打ち合い剣戟が響く。
(――メルティーナは……――いない!)
 二合、三合と打ち合いながら、目標の不在を確認した三人は、その行動を即座に次へと移行させる。
「先を急がせてもらうよ――!」
 威降が飛ぶ斬撃を放つ。剣を盾にする教会騎士の肌が切り刻まれる。動きが止まったのを確認すると、一足飛びに肉薄し、『傲慢たる左』を放つ。
「ぐお――ッ!」
 あらゆる防御を抜く一撃に教会騎士の一人がもんどり打って倒れる。浮き足だつ教会騎士の隙をついてヨルムンガンドも疾走する。
 禍々しい竜の両腕を伴って怒濤の連撃が歴戦の教会騎士を蹂躙する。この圧倒的なまでの連撃を受けながら、未だ両足で立っている教会騎士を褒めるところだろうか。
 油断できぬ強敵に、イレギュラーズは焦燥を覚えるのだった。
 然りとて、そこは戦闘経験豊富な三人だ。多少の時間はかかったものの、大きな傷を負うことなく、この教会騎士五人を倒しきる。
「急ぐぞ、目標は灯台だ――」
 最後の一人を倒すと同時にクロバを先頭に三人は走り出す。
 寝室を出て、左右を見渡せばすぐに灯台の入口と思われる階段が見つかる。
 止まること無く螺旋の階段を駆け上っていく。
 階段は続いている。だが、同時にその途中には”扉”があった。
 灯室とも思われたが、まだそれは上だろう。
「だとすれば、灯台守が住むような部屋か……?」
 何にしても――こんなところに不自然な扉がある。ならば目標であるメルティーナが潜んでいる可能性は高かった。
 扉に鍵はない。
 意を決して、三人は扉を開く。
 果たして、彼女はそこにいた。
「いらっしゃい。襲撃者の皆さん。
 案外、早かったわね――」
 そんな言葉を聞き終わるより先にずば抜けた反応を見せるクロバが闇を纏う。
「正義とやらに興味はないんだがな。――まぁ、人の意志を玩具にしたツケは重い……ぞ」
 本来ならばこれでメルティーナは絶命しているはずだった。闇に紛れ放たれる神速の居合い斬りが彼女の身体を両断するはずだった――しかし、クロバの身体は動かない。嗚呼、そうか。床下に描かれた悪魔的魔方陣が身体の自由を奪っていたのだ。
「あは、殺す事に夢中で警戒ゼロなんだから。
 私が魔女の子だって知っていたのでしょう? 戦闘なんてできなくてもこういうことはできるのよ」
「ぐ……このぉ……」
 それはヨルムンガンドと威降も同じだった。メルティーナと視線を合わせない、そういう対策はしていたが、薬品や邪法に関わる注意力が不足していたのは間違いない。
「でも、安心して。その効果はものの数分で切れるから。それに敵意を向けられないだけで、お得意のブロックとかはできるんじゃないかしら?」
 メルティーナの言うように武器――或いは武器に類する力――を使おうとすると身体が重くなる。
「何がしたい……?」
「下で貴方達を倒せなかった以上、もう逃げ場はないしね。
 ――簡単。答え合わせよ」
 そういうとメルティーナは楽しそうに今回の襲撃について語り出した。
「まず襲撃人数ね。さすがに五人は少なすぎよ。すぐに嘘だと気づいたわ。でもあれね、ひぃふぅみぃ……八人! あはは、すごいわ十五人くらいだと思ったもの。相当腕に自信があるのね。
 次は精神操作の件ね。正解。それに類する力はあるわ。でも私はその力に自信を持っていてね、やぶられるとは到底思わなかったわ。だから部下の人達が”上書き”されたっていうのは嘘だと考えた。念のため”印”も持たせたしね。
 それと協力者ね。神官とか騎士は全員覚えているけど、一般人はよく顔も覚えてないから紛れてもわからなかったかもね。だからこれは本当だと思ったわ。結果は……嘘だったみたいね」
 メルティーナは楽しそうに言葉を続ける。イレギュラーズの三名はただ――無理矢理――聞くことしかできない。
「毒と小動物は――まぁ嘘だと思ってもよかったんだけど、対処もできるだろうし真実だと考えて行動してもそうリスクは高くなかったかな。
 そんなところかしら。――どう? 化かし合いは楽しかった?」
「……お前は、なぜこんなことをする」
 それは参加したイレギュラーズの思う疑問だろう。
 父親を謀り、洗脳とも思える力で人心を掌握し――父親に殺されそうになってまでして、教会内でなにを起こそうというのか。
 或いは、あの温和そうに見えたカウェロ司祭が、彼女の母親を手に掛けていたら――
「あはは、そんな感動的な復讐劇だったら、どんなに楽しかったでしょうね。
 けれど、残念。
 私はただの道具。七人いる、ママが作った世の中を面白可笑しく滅茶苦茶にするだけの、ね」
 目を細めて笑うメルティーナ。はた、と気づく。その背後に小さな窓があり、月光が差し込んで髪が朱に染まっていることに。
「さて、終わりにしましょうか。そろそろ術の効果も切れるわ。
 ここで貴方達の顔を見てその正体を探るのも楽しそうだけれど、私、実はもっと楽しい事を考えていたの」
 幽かに微笑んで、メルティーナが後ろ手に窓を開く。
 逃げるのか。そう言おうとしたイレギュラーズを制して魔女の子は嗤った。
「あは、あはは。
 心配しないで、私は空を飛ぶ事なんてできないわ。もちろん生身の人間……ちょっと血はおかしいかも知れないけどね。
 こんな高さから落ちたらきっと死んでしまうわ。ええ、そう誰もがそう思ってる。
 でもね、人間って二十メートルの高さから落ちても半分は生き残るのよ。
 あはは、びっくりよね。
 この灯台はもうちょっと高いから――うふふ、三割くらいで生き残れるんじゃないかしら」
 狂気に歪んだその顔で、メルティーナはそんなことを言った。
「それじゃ最後の答え合わせよ。
 ――私は生き残れるでしょうか? fake or true?」
 その答えを言う前に少女が嗤いながら窓から身を躍らせ、飛び降りた。
「――待て!」
 一呼吸置いて、動けるようになる三人。そのまま追いかけるように飛び降りる。
 二人が飛行できる以上着地は心配ない。
 追いかけて――そして、血に染まり倒れ動かなくなったメルティーナを確認した。
「……fakeだ」
 笑みを張り付かせた少女に、イレギュラーズの答えが空しく散った。

●真相は闇に消ゆ
 魔女の子は逝った。
 その報告を聞いたカウェロ司祭は幸せな笑みを浮かべ、泣いた。
 後日、カウェロ司祭が何者かの手により殺害されたという報せが届いた。
「殺された……」
 報告を受けたサクラは、依頼時より感じていた不安が、今一度蘇る。
 ――魔女の子が精神操作や話術を得意とするのなら、その親である魔女はそれをさらに上回るのではないか?
「司祭様は……私達は、魔女の掌の上なんじゃないか……?」
 真相は闇に消え、ただどこかで魔女の嗤い声が響いたような気がした――

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
楽しんで頂けたでしょうか?

オープニングとGMコメントにはメルティーナの所在はあえて確定情報を出していませんでした。
”教会内、暗がりの一室”、”メルティーナの寝室は二階の奥”、この二点だけで”メルティーナが寝室にいる”とは書いてないんですね。つまりメルティーナは最初から最後まで灯台の部屋にいたことになります。

寝室にアタリをつけているプレイングが目立ちましたね。頼みの動物疎通もリーク情報との兼ね合いがちょっと悪かったですね(動物虐殺ダメぜったい!)
これだけだと余裕で失敗だったのですが、灯台に暗がりの一室があるのはちょっとずるかったかなっていうのとプレイング自体はよかったので、メルティーナには生存確率三割でダイブしてもらいました。結果はご覧の通り。

細々とした要点は出していたのですが、ちょっと目標に集中しすぎちゃったかなって印象です。
とはいえ想定通りに行ってれば十分すぎるほどのプレイングでしたので、ドンマイ! この経験を次に活かしましょう!
僕ももう少しわかりやすい依頼を出そうと思います……反省。

MVPはだいぶ悩みましたが相談をよくまとめ、陽動部隊としても派手に立ち回ったサクラさんへ。
魔女の関与を疑っていたのも高ポイントです。司祭は果たして誰に殺されたのでしょうね。

依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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