シナリオ詳細
<美徳の不幸/悪徳の栄え>色欲に抗う騎士
オープニング
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冠位色欲ルクレツィア。
長らく、幻想……レガド・イルシオンで長らく暗躍していた魔種だ。
淑女を自称するルクレツィアだが、キィィィと手にするハンカチを破りかねないくらいに憤っていた。
元々、原罪イノリを交えた冠位達の取り決めによって、ルクレツィアは幻想を『担当』としていた。
ただ、幻想はローレットイレギュラーズにとっても活動の中心。
彼女が動く度にその計画の悉くをくじかれていた。
それだけでなく、兄妹の敗退にCase-Dの接近。
終焉の魔種が本格的に動き出したことで、ルクレツィアも怒りは最高潮にまで高まっていたのだ。
(忌々しい……本当気に入りませんわ)
その魔種の一人……マリアベルを特に敵視するルクレツィアだが、さすがにイノリの部下とあらば手の出しようもない。
――ならば。
激高していても、ルクレツィアの思考は思った以上に冷静だ。
依然として色欲麾下の魔種達は自分の手駒のまま。
終焉の魔種が混沌全土を襲撃しているのなら、幻想だけ見れば比較的手薄になる。
「なら、今打つべき手は……」
彼女が狙うのは、王都メフ・メフィート。
直接攻撃で中核を破壊し、今度こそ冠位ここにありを見せつけるのだ。
愛しいオニーサマの為に……。
●
幻想、ローレット。
混沌の各地を巡るイレギュラーズに安息の時はない。
そう思わせるような事件が起きると『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は話す。
「場合によっては、ここ、ローレットが戦場になりかねません」
混沌の滅亡というのが間近に迫っており、あの手この手で攻め来る終焉の手勢を叩くのに奔走するメンバー達だ。
ほっと一息つくこの場すらも襲撃される危険があるというのは黙っていられない。
アクアベルが言うには、今回の襲撃は冠位色欲ルクレツィアによるもの。
どうやら、今回は彼女本人が前線に出てくるというから穏やかではない。
「相手は、かなり追い込まれているとみられます」
だが、これまで幾重にも策を巡らしてきた相手だ。
それだけに本気でこの王都を、幻想を潰しにきているともとれる。
ローレットとしても、本腰を入れて迎え撃つ必要があるだろう。
さて、アクアベルはそのルクレツィアの配下の一人を撃破してほしいという依頼へと話を移す。
「王宮騎士団の兵舎が色欲の手のものに狙われます」
襲撃してくるのはいずれも女性。
なんでも、白昼堂々襲い掛かってくるという。
「比較的多くの騎士が出入りしている状況のはずですが、色欲の魔種は女性型のモンスターを引き連れ、その騎士を魅了して現場を混乱させるようです」
魔種の名はオルエ。
元は人間種で、幻想貴族の令嬢だった娘だ。
ルクレツィアに魅了された彼女は家族、親族を手にかけていく。
結局、その貴族の関係者は皆いなくなった。
こうした行いを、ルクレツィアは重ね、幻想の国力を削いでいたのだろう。
「話を戻して、兵舎には数十名の騎士が詰めているようですが、やはりあちらこちらから襲ってくる色欲の手勢への対処に追われるようです」
その為、現場の兵舎内には20名ほどの騎士がいる。
すでに魅了された騎士もいる中で、魔種オルエ以下女性型モンスターを掃討する必要がある。
「現地へと突入した際の現状把握が大切です。数名の騎士達が魅了されているはずですので」
多少は予知の力を持つアクアベルだが、不確定要素も大きい今回の戦い。
手早く状況を確認した後、色欲の手勢の掃討に当たってほしいとアクアベルはメンバー達へと願うのだった。
●
「うわあああああああっ!」
「早く取り押さえろ!!」
「こっちもだ、応援頼む!!」
幻想の王宮騎士団も数々の戦いを潜り抜けてきた騎士が多い。
だが、今回は相手が悪いというべきかもしれない。
何せ、現れた敵が貴族令嬢。
引き連れてきたのも甘い香りを漂わせる女性型モンスター、リリムというのだから。
フフフ……。
ウフフ、フフフ……。
妖艶に笑う女性達の声が兵舎に響く。
リリム達が一人、また一人と騎士を魅了し、彼らが仲間の騎士へと襲い掛かる。
そんな光景を、魔種となった貴族令嬢オルエがくすくすと笑いながら眺めて。
「いいわ。潰し合いなさいな」
所詮、騎士なんて私達の前では虫けらも同然と、オルエは見下す。
理性を保つ騎士が応援を呼ぼうとするも、他の場所でも色欲の手勢の襲撃を受けているらしく、駆けつける様子はない。
騎士達が同士討ちする中、リリム達は楽しそうに彼らへと触れ、その体力気力を奪う。
リリムにとっても、騎士など餌に過ぎない。
心行くまで彼女達はその全てを吸い尽くしてしまうことだろう。
だが、そうはさせじと駆け込んできたのはローレット、イレギュラーズだ。
「「おお、ローレット……!!」」
騎士達はこれ以上なく心強く救援に感謝し、態勢の立て直しに当たる。
一方で、オルエの表情は険しくなって。
「ローレット……ルクレツィア様の怨敵……!」
オルエは主と同様に、直接前線へと躍り出てイレギュラーズへと向かってきたのだった。
- <美徳の不幸/悪徳の栄え>色欲に抗う騎士完了
- 本気の色欲が王都を襲う
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年01月26日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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幻想、王都メフ・メフィート。
イレギュラーズの活動中心であるこの地にて、またも新たな戦乱が起ころうとしていて。
「幻想の危機と聞いて、久しぶりに出陣!」
『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)のように、ここにきて、再度参戦を決めたメンバーの姿もちらほら。
襲撃された王宮騎士団の兵舎へとイレギュラーズは突入する。
「「おお、ローレット……!!」」
騎士達が救援に歓喜を声を上げる中、メンバーは兵舎内を見回す。
すでに、この場の騎士は半数近くが魅了されて同士討ちしている。
フフフ……。
ウフフ、フフフ……。
それを、女性型の魔物リリム5体とそれらを従えたオルエという元幻想令嬢が妖艶に笑って眺めていた。
この状況で頑張っていた騎士達に、心からすごいと感じる『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は、そのおかげで間に合ったと少しだけ安堵して。
「……助けに来たよ」
「やれやれ……」
今回の敵はこの場で応戦していた騎士達に対し、敵は最小限の労力で騎士達の士気をダダ下がりにし、被害を最大限にしている。
『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)はずいぶんと面倒そうな手合いで間違いないと、大儀そうに嘆息する。
「冠位色欲相手は、基本的に後手に回っているのが解っていたとはいえ……」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)は実際にこのような事態が起き、被害が防げなかった事に忸怩たる思いを抱く。
「ふーん、コイツらが色欲の手勢ってワケね?」
『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)はこの状況にも冷静に敵を見つめ、強気な笑みを浮かべる。
「冠位色欲の他人を洗脳し操る能力は本当に危険ですね」
一方で、リースリットは今回のオルエを見て感じていたのは冠位色欲の恐ろしき力。
ただの令嬢でも魅了し反転させれば、これだけの戦力に仕立て上げられるのだから。
「彼女が魔種になった経緯も。魔種となった彼女の言葉がどこまで真実かも。私にはわかりません」
実際、『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)が言うように、その経緯には不明点もある。
ただ、グリーフにわかるのは、自身の護るべき『愛』があること。
「皆、彼女が護ろうとした者だから」
幻想も、混沌も。そこに生きる人々も。護ろうと戦うイレギュラーズの皆さんも。
それを、グリーフは護る……自身の心も含めて。
「ローレット……」
「さて、ボク達が駆け付けたからには、これ以上の狼藉は許さないよ?」
「魅了された騎士達を助けないとね」
憎々しげに睨みつけてくるオルエにラムダが呼びかけると、ムスティスラーフも同士討ちを続ける騎士達へと視線を走らせてから告げる。
「魅了した駒を有効活用しようとすると敵である駒を殺しにくくなる。……そういう意味では頭のいい敵で助かりました」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は魔種になったオルエを人には還せはしないが、魅了された騎士達は癒して元に戻せると指摘する。
「どれだけ策を弄しようとも関係ない。圧倒的な暴力によって正面からねじ伏せる。それだけだ」
「僕も頑張るから……これ以上、敵以外は誰も死なせない!」
身構える『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)に、祝音が同調して武器を抜く。
「……ルクレツィア様の怨敵……!」
敵意を向けてくるオルエ。
ラムダはもう少し開けた場所だとやりやすかったんだけど……と室内の戦いに難色を示すが。
「それじゃあ、始めようか。お仕事の時間だ」
贅沢は言っていられないかとラムダは討伐すべき敵を注視し、仲間と共に飛び出していくのである。
●
魅了された騎士が武器を振り回し、正気な騎士が止めにかかる。
そちらの対処へと当たるメンバーもいるが、おそらくオルエや魔物は黙ってはおかないだろう。
それもあって、グリーフがオルエらを引き付けすべく自らを囮とし、魔光を発して誘引に当たる。
「あらあら、貴方なかなかいいですわね」
オルエが興味を抱いて、グリーフへと近寄ってくる。
それを待っていたラムダがすかさず動いて。
(まぁ、オルエ達を庇わんと魅了された騎士達も此方へ向かってくるだろうからな)
まず、ラムダは激しく光を瞬かせ、敵陣を灼く。
続き、機械の如き判断力で魔物から1体ずつその力を封じていく。
「ああん!」
「ハッ、何よ、別に大したことないじゃない、とんだ名前負けだわ!」
力が使えずリリムが少し顔を歪ませる様子に、京が鼻で笑う。
すでに、自身を戦いに最適化させ、熱エネルギーを循環させて身体機能を高めていた京。
彼女は色欲の手勢を煽り、入り口から遠い部屋の隅へと移動する。
この兵舎は騎士が訓練にも使うほどのスペースはあるが、これだけの数での実践となると、乱戦は必至。
それもあって、京は広範囲の技が使えるよう移動していたのだ。
彼女達へと、魔物らは妖艶なポーズをとり、色気を振りまくが、京は意にも介さず。
「そもそも論なんだけど、アタシの方が可愛くてスタイルも良いのに魅了されるとかなくなーい???」
そんな京の一言に、魔物どもも顔を引きつらせていた。
その間に、残るメンバーで騎士達の救援、救出に当たる。
祝音は真っ先に号令を発し、騎士達へと聞かせる。
「魅了されてる人達、正気に戻って……!」
彼の発した声は力を持ち、騎士らを正気に戻していく。
最悪、魅了されたままの状況も想定していたが、祝音は攻撃せずに済みそうだと安堵の域を漏らす。
(これなら、治せそうだね)
とはいえ、かけても確実に治せるとは限らない。
まずはできる限り正気に戻そうと、瑠璃も同様に呼びかける。
また数名が自我を取り戻したが、仲間へと剣を振り上げていた状況に、戸惑っていた。
「落ち着きましょう。強敵を前に仲違いする要因など作るべきではありません」
少しずつ、態勢を整え直す騎士達に、ムスティスラーフが熱視線を送る。
「男ばっかりで良いね! 誰か僕の方が良いって子いないかな?」
若い騎士達に興味津々の彼だが、まだ魅了されたままのメンバーもいる。
ムスティスラーフは背に光翼を生やし、それを羽ばたかせて色欲の手勢を舞い散る光刃で切り刻まんとする。
それと同時に、光によって騎士一人が目を覚ます。
「回復しやすい場所で援護をお願いするよ」
そして、リースリットもまた騎士達へと声を上げて呼びかける。
「騎士団、意識を確り持って態勢を立て直しなさい! 巻き返します!」
仲間も一人一人騎士を正気に戻しており、リースリットもまた魅了を振り払ってみせた。
その状況を見ていた昴は、正気に戻せないのなら最悪乱撃を浴びせて気絶させようかと思っていたが、ほとんどが元に戻ったこともあり、一旦攻撃を控える。
そこで、昴は別の事に気を回して。
(敵味方含めると、それなりの数になるか)
人数が多くなっても動き難い。
そう考えた昴は正気の騎士達へと外で待機するよう呼びかける。
イレギュラーズの要請が分かれている部分もあり、しばしどうするべきかと悩む騎士達。
だが、ぼやぼやしていれば、また魔物らに魅了されてしまいかねない。
結局、彼らは少し下がった位置からイレギュラーズの支援をすることに決めたようだ。
瑠璃は騎士達の前に立ち、皆に号令が届くよう位置取る。
彼女としては、背後からの誤射を気に掛けていたこともあるが、騎士……特に魅了されていた者が責任を感じて自ら決着をつけようと飛び込むことも警戒していた。
ただ、彼らも幾度も戦乱を潜り抜けてきた騎士だ。
「一番近場の魔物から集中攻撃しましょう」
向こう見ずな戦いをしようとする者がいないことを確認し、瑠璃は彼らの支援を気がけつつ攻撃の為に詠唱を始めるのである。
●
騎士達を魅了から救えば、後は色欲の手勢を倒すのみ。
だが、相手は魔種を含んでおり、一筋縄ではいかない。
京は全員を一ヵ所に纏めようと、内より出でし炎を浴びせかけて注意を引く。
オルエだけはグリーフが引き付けたままだが、魔物が纏まっているなら、京にとって好都合だ。
仲間を巻き込んでいないか確認し、京は超々高温の炎を宿した腕を振るう。
「焔獄、疾れ」
燃え上がる白炎は激しく渦巻き、魔物リリムの柔肌を焼いていく。
「「あああああん!!」」
そこで、艶めかしい声を上げるのが魔物のまた悪趣味なところというべきか。
それだけで、攻撃を躊躇う者もいるかもしれないが、イレギュラーズは魔物にかける手心など存在しない。
(オルエとかいう魔種との戦いに横槍は入れさせん)
昴も魔物相手に専念する。
敵は地上、低空と分かれはするも、纏まる5体全てを捕捉した昴。
魔物どもは彼女目掛けて腕を伸ばし、体力気力を奪う。
何を言われようが、全て吸い尽くせば問題ないと言わんばかりの態度をする魔物達だが、昴は気にもかけずにそれらに纏めて直接闘氣を叩き込んでいく。
荒々しいまでの彼女の闘氣に、さすがの魔物達からも笑みが引いていた。
その間も瑠璃が号令をかけて。
「今です」
「撃てえええ!」
瑠璃の合図を受け、騎士達が狙った1体へと次々に神聖術を撃ち込む。
数もあり、一点集中して攻撃を浴びる魔物は光に灼かれて苦しむ。
ここぞと、ムスティスラーフが飛び出す。
低空飛行していた彼は射角をつけ、味方を巻き込まぬよう気を付けてから力を溜めていた。
「チャンスは逃さない!」
反動も大きい技だが、ムスティスラーフが口から放つ緑の閃光。
連撃を受けていたリリム1体が対応できずに打ち貫かれて果てていき、その後方の1体も直撃を受けて顔を引きつらせる。
「ふん……」
手下1体が倒れても、オルエは涼しい顔。
「遊ぶのは大概になさいな」
その一言は非常に冷え切っており、それでいて鋭い棘のように感じさせる。
魔物達も刹那身震いし、本気の表情でイレギュラーズと対し始める。
これ以上自由にさせぬと、グリーフがオルエへと近づく。
(私には性別はありません。自我については女性に近いものがあるかと思いますが)
相手は魔種、魔物の違いはあれ、いずれも女性型。
特に、人間を辞めたオルエから発せられる色気は、吸い込まれてしまいそうになるほど。
一般人なら、抵抗すら考えることなく虜になることだろう。
だが、男性ばかりの騎士とは違い、グリーフは簡単には魅了などされぬと気を強く持つ。
続けざまに繰り出される掌に鋭い爪。
グリーフは機械仕掛けの神による『解決的救済』に、混沌との調和によって借り受けた魔素を重ねがけし、魔種の猛攻に耐え、時間を稼ぐ。
さて、リリムどもは真顔になってメンバーへと近づく。
ポージングや色仕掛けと騎士を含めて魅了してこようとする彼女らの攻撃は、耐えるだけでもかなりの体力を持っていかれる。
「「魔種とモンスター以外は誰も死なせない……僕が皆を癒すから……!」
祝音は騎士を含め、力の限り号令を上げ、愛を振りまく。
瞬く間に皆の体力が削がれる状況もあり、祝音も息つく暇なく体力回復に当たり続けていた。
ただ、騎士からの全面バックアップが得られる状況となったこともあり、風向きは大きくイレギュラーズへと向く。
「これ以上の被害が増えられても困るからね……」
ラムダは機械の如く立案した勝利へと作戦を自ら展開し、騎士の集中攻撃を浴びる魔物の力を封じてしまう。
相手の掌握術を封じたリリムは僅かに焦っていたが、ラムダは虚空ごとその体を切り裂き、仕留めてみせた。
その後も、メンバーは確実に1体ずつリリムを狙っていく。
精霊の吐息を発して騎士を援護するリースリットは残るリリムを纏めて楽園追放……神聖秘奥の術式を発動する。
そうして、リースリットは魔物の全身を徹底的に破壊し、滅していく。
さすがに、夢魔とも同等の存在であるリリムには、邪と悪を打ち祓うリースリットの攻撃に耐えられなかったようだ。
続く1体はここでもラムダの技が冴えて。
「キミ達みたいな悪女? ……はどちらにせよ趣味じゃないなぁ……丁重にお断りだよ……」
至近にまで迫ってから繰り出す魔力斬撃によって、緋の花びらを咲かせて果てていた。
最後の1体は昴が相手の翼をつかみ取り、引きちぎって見せる。
彼女が展開するのは、城すら落とすほどの武技。
なんとか逃れようとするリリムだが、昴はその尻尾をつかみ取って振り回して壁へと叩きつける。
もはや笑う事すらできず、そいつもまた仲間と同じ末路を辿っていた。
「魔物といっても、所詮この程度よね……」
けだるげに溜息をつくオルエ。
それまで押さえつけられていた彼女の全身から寒気すら感じられるオーラが放たれる。
グリーフを振り切り、オルエはイレギュラーズに対して目にも止まらぬ速さで爪を振るう。
瑠璃が背後から接近して閃く月光の剣で切りかかるが、まるで反応する素振りすらない。
「咎人共に情状酌量の余地は無し。悉く滅してあげるよ」
そんな敵へ、自身に魔神を降ろしたラムダが魔力砲撃を浴びせかけるが、振るわれたオルエの爪がラムダの体へと深く食い込む。
それだけで敵は止まらず、突撃姿勢をとっていた京の足先蹴りをまともに食らってなお動じず、激しいビンタで彼女を張り倒す。
一瞬の隙をついて距離をとられたグリーフが倒れかけた2人に魔素による癒しを与えるが、オルエはその彼女にも直接オーラを浴びせてから爪を薙ぎ払って大きく切り裂いた。
腕から滴る血をなめとるオルエ。
その攻撃を受けた3人はいずれもパンドラを砕き、戦場に立ち続けることを選ぶ。
「イレギュラーズ……貴方達が私を先に助けていたなら、私はどうなっていたかしらね」
小さな声で呟いたオルエ。
貴族令嬢だった彼女は、少なくとも生活に不自由などなかったはず。
……いや、だからこそ、格式や家柄等に縛られ、オルエに自由はなかったのかもしれない。
「自由を与えてくれたルクレツィア様……あの方の為に、私は……!!」
その血走った目はもはや狂気すら感じさせる。
纏うオーラごと、ムスティスラーフが渾身の超むっち砲を浴びせかけるが、オルエがすぐさま彼へと迫ってビンタで地面へと叩きつける。
パンドラを砕き、よろよろと起き上がるムスティスラーフ。
彼は横目で後方入り口を見やり、騎士達に増援が来ないことを確認した後、オルエを直視して。
「例え僕の好みの見た目だったとしても、家族を自分の手で殺すようなやつを好きにはなれないや」
「黙りなさい」
全ての枷を解き放ったルクレツィアに心酔すらするオルエに、もはや人の心など残っていないのは明白。
仲間の攻撃に反応こそしないが、その体にはしっかりと傷は刻まれており、血が滴り落ちているのをリースリットは視認する。
「「ひっ……」」
数名の騎士より漏れる悲鳴。
もはや人を辞めた彼女は、リリムなどよりも恐ろしい怪物でしかない。
「貴様等の魅了なんてお断り。無限光の彼方に、消えて……!」
騎士と共闘する祝音がすかさず無限の光でオルエを包み込もうとする。
「う、うう……」
嗚咽を漏らすオルエだが、魔種の抵抗は続く。
「……まだ、まだよ。あの方に必要とされたのだから……!」
だが、オルエは知らない。
最初から、ルクレツィアはオルエなど一切見ていなかったことを。
「オルエ嬢、せめてもの情けです。余り苦しむことなく、終わらせて差し上げましょう」
相手の体を鮮血乙女によって呼び起こした異空間へと閉じ込めようとしたリースリット。
すぐさまオルエは抜け出すが、全身を圧搾された彼女は初めて表情を歪ませる。
そこをリースリットは逃さず、精霊剣・風神による極撃を浴びせかけていく。
口から吐血するオルエ。
抵抗はここまでだった。
だらりと両腕を垂らした彼女の纏うドレスが見る見るうちに深紅に染まる。
「ルクレツィア様……お慕い、して……」
貴族令嬢であったオルエは心から魅了された冠位色欲の名を告げ、うな垂れたまま動かなくなったのだった。
●
魔種一隊を討伐したイレギュラーズ。
一応とムスティスラーフが警戒を続ける中、メンバーは事後処理を進める。
仮にも騎士団の居場所が襲撃され、騎士達の衝撃も小さくはないが、それでも犠牲者がいなかったのは幸いだったというべきだろう。
「騎士さん達……助かって、良かった」
祝音は仲間や騎士らを癒しつつも、敵が使う魅了に危機感を募らせる。
ところで、瑠璃は死体の残るオルエに近づき、その記憶を探る。
ルクレツィアに利用されていると知りながらも、彼女に尽くそうとしたオルエ。
一時はこれ以上なく幸せなものだったという。
ただ、当人だけでなく、周囲の人々の人生まで狂わせた冠位魔種の行いは決して是とはできない。
瑠璃は改めて、そう実感するのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは魔種となった貴族令嬢を倒した貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<美徳の不幸/悪徳の栄え>のシナリオをお届けします。
終焉の魔種が混沌全土をターゲットとして動き出す中、冠位色欲ルクレツィアも己の目的の為に王都強襲作戦を決行します。
これまで裏で糸を引くことも多かった彼女が前線に出るなど、かなり本気のようです。
彼女の企みも、彼女自身も全て潰していただきますよう願います。
●概要
昼間、幻想の王都にある王宮騎士団兵舎に詰めている騎士達を、色欲の手勢が襲います。
騎士団数名を惑わして詰所で暴れさせ、同士討ちする間に切り崩す作戦のようです。
惑わされた騎士達を抑えつつ、色欲の魔種及びその手下の殲滅を願います。
内部は腰を掛けるテーブル、装備を置く為の棚が設置されている他、武器を手入れする為の道具、鍛錬する為の木製人形、実践の為の実技場などが一体化した空間となっています。
比較的広い場所ではありますが、兵舎内とあって遠距離攻撃にはあまり向かない場所での戦いとなるでしょう。
●敵……魔種、モンスター
○魔種:オルエ
元人間種、20代前半。
ルクレツィアによって魔種へと落とされた幻想貴族の令嬢です。
有力貴族の力を削ぐのが目的で、彼女によって一族は皆命を落としています。
ビンタに鋭い爪、カリスマオーラ、号令と多彩に技を繰り出し、色欲らしく色気で相手を惑わすこともあるようです。
○リリム×5体
色欲配下の魔物のうちの一種。
人間種の成人女性のほぼ同じくらいの体格で、背に大きな翼と長い尻尾を生やしているのが特徴。
相手を魅了する術に長けており、騎士、イレギュラーズ問わず虜にしようとします。
また、触れた相手の体力気力を奪ったり、見つめた相手の動きを止めたりし、空中も利用した格闘術など、高い戦闘能力を持っています。
●NPC
〇王宮騎士団×20名
いずれも男性。10代後半から20代前半の若い騎士達。
現場となる部屋に現れるオルエらと対しますが、数名がすでに魅了されており、同士討ちをしているようです。
戦いでは、攻撃、回復に使える神聖術と合わせて、所持する長剣と大楯を使って攻撃します。
上記以外にも騎士はいますが、イレギュラーズ登場を受けて避難経路確保や新たな敵の出現に備えるなど、別の任務に当たります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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