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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>わるいこだれだ?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●前置き
 海洋のどこぞの屋敷の奥、ソファへ腰掛けたままの女は、豊満な肉体と蛇のような目つきをしていた。
「こちらが今回お納めする銃でございます。ドンナ・マッダレーナ」
 武器商人の男は、長いドレスに身を包んだ女へ慇懃に一礼する。机の上では、アタッシュケースへ入れられた拳銃の数々が、物騒な美しさを競い合っている。女は腰を浮かせてひとつ手に取ると、ふいに銃口を男へ向けた。
 破裂音。
 倒れる男から、すっと赤い液体が流れ出す。物言わぬ死体となった男は、メイドたちが片付ける。ドンナと呼ばれた女は、またもソファへ深く腰を据えた。
「たしかに、いい銃のようね」
 忍び笑いがそれに続く。

●バグホール
 混沌各地に、絶対的破滅、通称『Case-D』接近による異常が現れた。
 それはここ、辻岡 真(p3p004665)の領地、ラ・ヴェリタ領も同じだ。
【領地執政官】霧崎春告は報告を取りまとめ、領主である真とその内縁の妻、【ラ・ヴェリタ夫人】アリア=ラ・ヴェリタへ情報をもたらした。
「結局、何もわかっていない、ということかな?」
「……おっしゃるとおりです。我ながら不甲斐ないですが」
 くやしげな春告の返事に、真は憂いを秘めたまなざしを報告書へ落とした。アリアは自分のクッキーを半分に割って、春告へさしだす。
「周辺住民の避難は完了。この点は高く評価するわ。まずはおつかれさま」
「夫人……ありがとうございます」
 クッキーを押しいただいた春告が、それを口へ運ぶ。そこへ鋭い声が跳んだ。
「のんびりしている場合か」
「チェチーリア、貴様、この非常時に勝手に動くな!」
「落ち着いて、春告。仮にも客人よ」
 アリアにたしなめられた春告が不満そうに唇を尖らせる。部屋へ入ってきたのは、コーザノストラ、元幹部チェチーリア。長かった金髪をざっくり切り落とし、男のような振る舞いをしている。どれだけ拷問しても、けして口を割らない意志の強さへ、逆に惚れ込んだ真は、彼女を客人として迎え入れたのだ。
 すこし、説明をしなくてはならないだろう。旅人、辻岡真は、マフィア「Vialatte Family」へ所属している。義理を重んじる昔気質のマフィアで、周囲から一目置かれている。そしてコーザノストラは敵対しているマフィアだ。主に非合法の薬を売買することでのし上がってきた新興勢力であり、その悪辣なやり口は人非人とそしられている。先日、コーザノストラが真の領地を強襲した。しかして勇気あるイレギュラーズたちの助力の前に敗北し、幹部チェチーリアを見捨てたのだ。捕虜となったチェチーリアは、客人として扱われるようになってからも、あくまで自分は部外者だという立場を崩さなかった。だが、バグホールの噂を聞き及んだ彼女の心境に変化があったらしい。
 チェチーリアは厳しい顔のまま続けた。
「この機に乗じて、コーザノストラが新たな手を打ってくる。あの女ならそうする」
「あの女……首領マッダレーナのことかい?」
 真の声にひとつうなずき、チェチーリアは攻撃される前に、こちらから打ってでるべきだと主張した。真はしばらく瞑目して考えていたが、やがて深く首肯した。

●依頼
「前門のバグホール、後門のコーザノストラ、といったところでしょうか」
 旧知の仲であるバルガル・ミフィスト(p3p007978)の寸評に、真はうんと笑った。
「バグホールの方は詳細不明でどうしようもない、だからコーザノストラのほうから叩いて事態をシンプルにするってわけか?」
 かつてあのワダツミにいたという、十夜 縁(p3p000099)が混ぜっ返す。
「そのとおりだ。バグホールへの対処に手を割かれて、コーザノストラに後ろから撃たれるのだけは阻止したい」
「世界の終わりが近づいても、人間ってのはとことんまで争うんだな」
 因果なことだと縁は軽く首を振った。
「コーザノストラの本拠地はもう割れてる。そこを少数精鋭で切り込み、後の掃討を春告の軍に任せる。あなたにも、ぜひ来てほしい」
 真はあなたを振り向いた。
「俺たちはコーザノストラの首領マッダレーナを討とう。一刻も早く。それがこの不毛な戦いを終わらせる合図になるはずだから」
 それと、と真はあなたをうながした。あなたがそちらを向くと、男装をした金髪ショートカットの美人がたっていた。
「彼女、チェチーリアを連れて行くよ。道案内役だ。嘘はつかない、俺が保証する、ただ……」
 マッダレーナを前にして、彼女が裏切らないかは、保証できないな。

GMコメント

みどりです。続いたんじゃよ。
このシナリオは「いないこだれだ?」の続きですが、前作を読まなくても問題はありません。

やること
1)マッダレーナの討伐
オプション)元幹部チェチーリアをどうするか
A>説得して味方にする
B>裏切られる前に殺害

●戦場
 洋館の入り口、大きなシャンデリアが煌く玄関ホールです。ホールには武装メイドたちが多数います。
 正面に階段があり、二階へ続いています。二階正面の扉を開けると、マッダレーナがいます。
 特にペナルティはありません。

●エネミー
首領マッダレーナ
銃で武装したコーザノストラを仕切るカリスマ。美人なのですが、目つきが蛇のようでしゃらくさい感じがします。彼女の死をもって、戦闘終了となります。コーザノストラを立ち上げ、あらゆる方法を用いて組織を大きくしてきた人物。自己中心的な性格で、手柄は全て自分のもの、不出来は全て他人のせいと思いこんでいます。
 二階正面の部屋で待ち構えています。部屋へ踏み入る時に、先制攻撃を受けるかもしれません。
 物理と神秘の両面攻撃力に長け、ブレイク・致命・滂沱・必殺などのBSを使ってきます。

武装メイド✕たくさん
 主に玄関ホールにいます。
 物至単・神貫超の両方を使用してきます。
 問題はその数。マーク・ブロックを使用して、皆さんの足止めを狙ってくるのがメインのようです。

●友軍?
元幹部チェチーリア
ストリートチルドレンから成り上がり、コーザノストラの立ち上げにも関わった重要幹部ですが、前回の強襲事件で足切りされました。義理堅く、人情を理解する、コーザノストラの良心でしたが、マッダレーナからは白眼視されていました。
 石化を付与する単体神秘攻撃が得意で、域識別HP回復を持ちます。
 マッダレーナへの忠誠と、真さんから受けた恩の間で揺れています。裏切るかも知れないし、そうではない未来があるかも知れません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


チェチーリアをどうするか
相談で大体の意見を決めてください。割れた場合は多数決です。

【1】説得して味方にする
戦力は多いほうがいいですよね。

【2】裏切られる前に殺害
不穏分子は少ないほうがいいですよね。

  • <グレート・カタストロフ>わるいこだれだ?完了
  • 名乗り口上と麻痺耐性が輝く話
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月20日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
武器商人(p3p001107)
闇之雲
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 その日、武装メイドたちは殺気立っていた。
 コーザノストラの情報網が、襲撃を事前に察知したのだ。『Vialatte Family』は必ず報復に来る。それが彼女たちの肌感だった。ドンナ・マッダレーナは、腰抜け相手だ、恐れる必要はない、と息巻いているが、そうではないだろうと薄々メイドたちはわかっていた。それにしても、と、ひとりが思った。
 随分と今日は冷える。
 手がかじかんで、彼女は仲間に悟られないように手へ息を吹きかけた。そんなことをしていると知れたら、臆病者だとそしられてしまう。それにしても、と、ひとりが思った。
 随分と、心が騒がしい。
 なにやら言葉にするのもはばかられるような何かが、扉の外に存在している気がする。ひとり、またひとりと、そのおぞましさは伝わり、膨れ上がり、ついに若い娘が扉を開けた。誰もがあっけにとられた。
 扉の外は、壁のように、黒より暗い漆黒で塗りつぶされていた。メイドの一人が、おそるおそる銃口で壁をつついた。次の瞬間、彼女は壁から出てきた黒い腕に頭をつかまれた。めきゅ、めきゅごり、と、助かりようのない音を立てて、彼女は頭から壁に食われていく。
「笑うな」
 ぬるりと壁が動き、赤い三日月が灯る。痩身で背の高い、化け物としか表現できないものが現れた。『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)と呼ばれていることなど、メイドたちは知らない。ロジャーズは隣に誰かがいるかのように言葉を吐いた。
「笑うな。断片に過ぎない分際で、くすくすと、くつくつと、鍋が煮えるように笑うな。ため息の一つでも吐いて居ればまだ可愛げが有ったものを。其れで貴様自身は、出来得る限りとはいえ、可能な限りとはいえ、私が喇叭を吹く時も共に在りたいと、そう抜かすか。成程。――HA!」
 ロジャーズが短く嗤った。
「唖々、確かに此の世の理とやらは、此の期に及んで冷たく頑なだ。其れでもなお、私に恭順を示すと言うなら、態度で証明して魅せろ」
 開け放した扉から吹雪がどうと押し寄せてきた。冷気を浴びた武装メイドたちがひるむ。
 そこへ、かろやかで、獰猛な笑い声が響いた。
「おうおう、雁首揃えて突っ立ってるだけかよ。アンタらの代わりに、木偶人形でも置いといたらどうだ?」
『祝呪反魂』ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は、両手を広げたまま威嚇するように口角を上げる。そして金の瞳の目尻へ人差し指を置き、軽く叩く。瞳が怪しくきらめいた。体がかっと熱くなる。指先から、つま先から始まった力の逆流が、ヨハンナの紋様を伝って、一気に解放される。武装メイドたちは短い悲鳴を漏らした。ヨハンナの背に、三対六枚の鷲の翼が顕現していた。上の二枚はつつましやかに、中央の二枚は力強く、下の二枚は重々しく。それぞれの羽音を鳴らすと、ヨハンナはぽっと口から火の粉を吐いた。
「それじゃ、蹂躙させてもらおうか。手を鳴らせ、歓喜しろ。救いは来た。最悪の形でな」
 かかげた右腕へ火の粉が集っていく。熱い空気をぐるりとかき回し、押し出すように、前へ。まるで塔が崩れるように、崩壊するように、雪崩れていくように、熱風がメイドを襲う。まともに浴びたメイドが握っていたショットガンを放り捨てた。焼けた銃身に耐えられなかったのだ。
「さて、たっぷりもてなししてもらうとしようかね。あァ、なにも緊張する必要はない。素のままのキミでいいんだ。いいんだよ?」
 ヒヒと、涼し気な声が場に満ちる。ひたひたと、潮が満ちるように、奇妙なやさしさと隠しようもない不吉を添えて。『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、おいでと手を延べる。その両の手は、破滅の呼び声だ。その紫紺の瞳は、死への誘いだ。にもかかわらず、目を奪われる。心がはやる。圧倒的な上位を前にして、美を感じずにいるものがいようか。真名すらないそのモノは、それゆえに誰の心へもしのびこむことができ、誰をも魅了してのける。メイドたちがぐらりと揺れる。
「波に乗るべきだな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がステップを踏むように優雅に床を蹴り、武器商人を飛び越えた。空中で回し蹴りを一閃。風圧がメイドたちへ襲いかかり、その細身を弾き飛ばした。ドミノ倒しになるメイドたちに、失礼、と着地と同時に会釈。
「殺す気はないんだ。甘いかもしれないが。だが、歯向かうというなら容赦はしない」
 立ち上がったイズマ。凛と張られた声には強者が持つ余裕がある。すなわち、不殺の心得と、今の一撃はほんの挨拶に過ぎないという気迫。その両方がメイドたちにはわかる。わかってしまう。彼女らは血なまぐさい道を歩んできたものであり、それゆえに敵の力量を見分けることに長けていた。彼女らが武器を取るのは、勝つためではない。自分がそしりを受けないためだ。
「投降した者へは悪いようにはしない。安心してほしい」
 イズマの揺さぶりに、目を合わせる娘たちが複数。それ以上にこちらを狙う銃口の数よ。
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、苦い笑みを口元へ浮かべる。
(バグホールとやり合うか、コーザノストラとやり合うか……なら、後者を選ぶしかねぇな。数だけをそろえた烏合の衆とはいえ、その数ってやつが脅威だ。命の取り合いにおいて、象は軍隊蟻に骨にされる)
 目の色を変えて武器商人へ襲いかかっているメイドたちを狙い、縁は手を広げた。一見すると、脱力したかのように見えたが、それはまちがいというものだ。縁は術に長けていた。気の流れへ干渉し、竜脈を御する、かの血筋の術に。ゆっくりと利き手をかかげながら、薄く唇を開き空気を吸う。縁の中へ場を流れる気を招き入れ、彼のもつ内なる気と調和させる。ふたつの波紋がぶつかりあって、大きな波となる、その絶妙な瞬間を狙って、縁は鋭く息を吐いた。引き潮のように一気に場の気が動き、巻き込まれたメイドたちの肢体がねじれて血を吹き出す。それをみたメイドたちの一部がついに武器を捨てた。がたがたと命乞いをする彼女らへの興味を失い、縁は手を引く。
 残った頑固者たちの前に『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が立った。
「ここまでして逃げ出す者がいないのは、見事と称するべきか。馬鹿と罵るべきか」
 モカは、切れ長の瞳から黒曜石のようなまなざしでねめつけた。
「私にとってマフィア同士のゴタゴタは、関心がない。関与もしない。だが、私の店の大多数の顧客である庶民に被害が及ぶとなると話は別だ。未来の客を、こんなつまらないことで失いたくはない。さて、キミたちは、私の店の客たりえるだろうか。表なら歓迎しよう、裏なら……」
 モカが金のメダルでコイントスをする。左の手の甲でコインを受け、見せつけるように謎めいた笑みを浮かべると、結果を披露した。
「残念、裏だ」
 モカが左手のコインを右手ではじいた。同時に光が弾け、誘導弾が残ったメイドたちを襲う。物理法則に反した動きをして、誘導弾はメイドたちの関節を正確に狙撃する。アンドロイドであるがゆえに、モカは人体の構造を熟知しており、どこを狙えば良いのかよくわかっていた。
 逆上して引き金に手をかけたメイドが、白目をむいて倒れた。唐突に。どさりと。あまりに突然だったので、残党たちは呆然とした。その意識の裏をかき、『シャドウウォーカー』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は動く。
(真さん関連の話でもありますが、Familyとしても討っておいた方がよさそうですしねぇ。個人的には?)
 唇の端を歪め、バルガルはあくまで一定の歩みを崩さない。絢爛さも、豪華さも、その身には不要だ。けれども彼は確かに、奇跡とも言える力を行使する豪運の者であり、彼の歩みは血しぶきと共にある。裏世界の勘で、重要度の高い者を一瞬にして識別、のち戦闘不能に追い込む。少しずつ、確実に、残党の力を削いでいく。
(さて、裏方働きもいいものですが、舞台には華というものが必要ですね。そうでしょう?)
 視線をやった先には、『静かなる独裁者』辻岡 真(p3p004665)。チェチーリアと春告を率い、月明かりを背にして立つその姿は、美しくも冷たい。
「落とし前をつけに来た、理由はそれで充分だ!」
 怒りに身悶えしていたメイドたちですら、真の存在に畏怖し、本能的に銃を向け乱射する。床や壁を流れ弾が削り、跳弾が耳障りな音とともに明後日の方向へ跳んでいく。
「無駄なんだよなあ。弾幕ごとき、こっちは見慣れてるんだよ」
 旅人の鞄と化したアタッシュケースを一旦閉じ、真は乱雑にそれを開いた。勢いよくガラガラとおちていく鉛玉の数々。アタッシュケースひとつで春告とチェチーリアの身を守り抜いた真は、大きく跳んだ。天上のシャンデリアに乗り、それを蹴って残党のまとめ役を強襲する。意図を察したまとめ役は身をかわそうとしたが、真のほうが速かった。彼女の胸板へ蹴りを突き刺し、その反動でもって一回転。対処しきれずにいたメイドのひとりの頭へアタッシュケースを叩きつける。
 ふたりのメイドを床へ沈め、徒手空拳の距離へ残った相手をもつれこませて、真は拳一つで理解させていく。彼女らにとって、勝利はもはや月よりも遠いのだということを。


「ここまでだ、マッダレーナ!」
 イズマの声が響く。続けて扉が、派手に押し開けられる。
 ドンナと呼ばれる女は片手を上げた。脇へ控えていた精鋭武装メイドたちがあらんかぎりの弾丸を撃ち込む。硝煙の香りが広がる中、幻影をかき分け、ぬっとロジャーズが姿を表す。顔をひきつらせながらトリガーをひいたままのメイドたちに、ロジャーズは堂々と肢体を晒した。ありえない吹雪が首領の部屋へ吹き込み、氷の障壁が弾丸を弾き返す。
「生憎と合挽き肉の気分では無いのだよ。ナイフとフォークを此れへ。私へ迫りたいのなら、然るべきマナーを痴れ」
「モノガタリ、我(アタシ)のぶんもとっておいておくれよ」
 小さく笑いながら、武器商人が登場する。攻撃がそのモノの肌を裂くが、次の瞬間には何事もなかったかのようにもとに戻っている。まるで弾丸がすり抜けているかのようだ。ロジャーズと武器商人の後ろから、縁が姿を表す。幻蒼海龍、と、おびえたささやきが広がった。
「ノックもしねぇで悪いな。悪いついでに――お前さんのタマ、取らせて貰うぜ」
 縁が刀を振り下ろす。メイドたちに自分をかばわせ、マッダレーナは平然としている。その瞳はただ一点を見ていた。
「チェル、帰っておいで、かわいいチェル」
 縁は視線を、うっそりとほほえみかけるマッダレーナから、背後のチェチーリアへ移した。
「なるほど。お前さん、あの女のイロだったのかい。そりゃ逆らえねえなあ」
 顔をしかめたままうつむいているチェチーリア。マッダレーナは歌うように言う。
「どうしてあなた達の襲撃を知ってるか教えてあげる。チェルには盗聴魔術をかけてあるの。ね、チェル。あなたは最後まで、私のそばにいてくれるわよね?」
 青い顔をしているチェチーリアへ向けて、ロジャーズが頭を下げ、顔を近づける。
「腮鼠じみて車輪を回すのは勝手だが」
 ぐるぐるとチェチーリアの目が回りだす。
「嗚呼、貴様、裏切るにしてもだ、最初に私を殴ってから、改めて現状を咀嚼するのは如何だ」
 回った目が正気に戻ると、チェチーリアは口元を抑えた。
「うぷ……」
 青い顔のままの彼女を、春告とバルガルがさりげなく挟む。
「チェル!」
 いらだつマッダレーナが椅子から立ち上がる。その背後へ、落ちてくる影。
「……後ろ、ガラ空きだぜ?」
 天井裏へひそんでいたヨハンナがマッダレーナの背後へ飛び降りたのだ。
「禁術解放、焔華展開、飲め、苦痛を、歌えよ、絶叫を」
 燃え上がる炎がリング状になり、マッダレーナの動きを阻害する。マッダレーナがハンドガンのグリップを叩きつけるが、びくともしない。攻撃を受けるたびに、炎の輪が分裂して彼女を閉じ込めていく。
「獅子は兎を食らうにも全力を尽くす。マッダレーナ、檻の中で焼かれていけ」
 ヨハンナのオッドアイが魔術的な輝きを帯びる。身を翻そうとしたマッダレーナの視界を、鋼が遮った。
「年貢の納め時だ、悪業の報いを受けろ」
 メロディア・コンダクターで正確に眉間を突かれ、マッダレーナは叫び声を上げた。秘孔から走った痛みは全身へ行き渡り、もはや彼女は逃げることも敵わない。額を抑え、にらみつけるマッダレーナへ、イズマは語りかける。
「貴女は何故組織を作った? 一人では出来ないことを成すためじゃないか? それを忘れたなら、この結末は当然だ」
「おためごかしね、生きるために手段を選べない時だってあるのよ!」
「そうだろうか。貧しくも清く正しく美しい人々を俺は知っている。貴女は好き好んで悪事へ手を染めたんだ、マッダレーナさん」
 モカが接近し、拳を叩き込んだ。遠慮も容赦もなく、胸へ、腹へ、最後の一撃が左肩を砕く。
 奇襲するつもりが、やりかえされたのだと、ようやく事態を飲みこんだメイドたちがモカへマズルを向けた。しかし彼女の深みのある厳しい声がそれを諫める。
「思い返してほしい、マッダレーナは、あなたたち部下の命を大切にしたことはあるか?」
 困惑ととまどいが走ったのを、モカはたしかに見た。
「マッダレーナは夕日だ。コーザノストラは今宵潰える。だが、あなたたちには、また違う未来がある。この女と心中したいというのなら、止めはしないが」
 弾幕が薄くなっていく。銃を下ろす娘たちが増えていく。そろそろ仕上げどきかと、真は前へ出た。鋭い攻撃がマッダレーナへ叩き込まれ、彼女がくずおれる。
「ここ、まで? そん、な、チェル、あなただけ、でも……!」
 全身から血を流し、自ら描いた赤い絨毯へ倒れ込んだマッダレーナが、隠し持っていたリベレーターを突き出す。ざっくりと、その手首が切り落とされた。
「ダメですよドンナ、往生際が悪いのは」
 ナイフをひらめかせたバルガルが、落ちた手首ごと単発銃を持ち上げ、銃口をマッダレーナへ向けた。そして銀色のアタッシュケースを開いてみせる。
「ヤクの取引の証拠は、さっさと始末しておくべきでしたねぇ。そう思いませんか? こんな風に我々に奪われてしまう前に、とねぇ」
 バルガルは空いた手で書面をぱらぱらとめくってみせる。紙切れそのものに意味はない。そこに書かれていることが重要なのだ。そして、何が書いてあるかを、バルガルの鋭い頭脳は確実に記録していく。
「チェチーリアさんと違って覚悟も信念もない御様子。死ぬ前の貴重な時間を拷問による苦痛で塗りつぶしてほしいなら、ぜひ自分にお任せを」
 研いだ刃物のような視線が、マッダレーナを撫でる。絶望に染まる顔。
「たのむ……そこまでにしてくれ」
 バルガルの腕が掴まれた。バルガルは自分を止めるチェチーリアを振り返る。
「頼みごとをしたいなら、私ではなく真さんへお願いしますよ」
「真、殿」
「なにかな、チェチーリア」
「ドンナを見逃してはくれないだろうか」
 真は目を細め、鮮やかな笑顔のまま、首を振った。
「さすがにそれは虫がいいというものだよ。俺はコーザノストラを跡形もなく潰す気でいるんだから」
 あえて強い言い回しを用い、真はチェチーリアへ揺さぶりをかける。彼女の行動が、マッダレーナ側へ転ぶなら転べばいい、そのときはバルガルの出番だ。彼女に気づかれないようにアイコンタクトをとると、バルガルはわかっていると小さくうなずいた。影はいつでも、付き纏うものだ。
「私は喧嘩に巻き込まれて死にかけていたところを、マッダレーナに拾われた。命を救われたんだ。あんなでも、私にとっては、命の恩人なんだ……」
「あんなって」
 真は苦笑した。いたずらっぽく目をしばたかせる。
「わかってるんじゃないか、自分が、どういう扱いを受けているのか」
「チェチーリアの方、キミはもうすこし冷静になった方がいい。キミは前回の件で切られてしまってるんだよ? わかっているかな?」
 武器商人が優しく諭す。イズマが続けた。
「マッダレーナに恩を感じているんだな。別にそれを否定する必要はないよ。でも貴女が義理人情を尊ぶ人なら、同じように考える人との縁を選んだほうがいい。世界は危機に瀕している。そんな時、人を守る力は、信頼に宿る」
 モカもまた悲しげに首を振ってみせた。
「マッダレーナは組織の長に向いていない。このままマッダレーナにコーザノストラを治め続けさせて良いのだろうか?」
 そしてチェチーリアを見据える。
「そこでチェチーリアさん、あなたがコーザノストラの首領になるのはどうだろう」
 目を見開いたチェチーリア、そして武装メイドたち。モカは誠意をこめて語る。
「真さんたちから聞いている。あなたは義理堅く人情を理解し部下を大切にしている人物だと。私はあなたこそが首領に相応しい人物だと見込んでいる」
 大きく両手を広げ、モカは宣言した。
「コーザノストラが生まれ変わる時が来た。チェチーリアさん、あなたがマッダレーナを裏切るのではない。既にマッダレーナがあなたを裏切っているんだ。……もうそれは頭では理解しているだろう」
 ヨハンナが一歩、チェチーリアへ近づいた。
「……自分の受けた仕打ちと、真からの恩、思い出せ、比較しろ。どちらが『人間』として扱ってくれた?」
 縁が青刀をおろし、チェチーリアの肩をぽんと叩いた。
「お前さんのそれは、ほんとうに忠誠か? よくよく考えろ。選ぶのはお前さんだ。それは自由だ。……ただまぁ、そうさな。俺から言えることがあるとすりゃぁ。――どっちを選んでも、後悔することを後悔しなさんな、くらいかね」
「チェチーリア」
 胸を抑えて固まっているチェチーリアへ、真は顔を向けた。そのとなりでは、バルガルがマッダレーナの頭へ銃を押し当てている。
「言うんだ、撃て、と」
「……無理だ」
 モカがチェチーリアの頬をはたいた。
「いいや、言うんだ。自分で始末をつけるんだ」
 真もうなずく。
「俺はね、やるといったらとことんやる男だ。草の根を分けてでも、残党を皆殺しにする。でも」
 真のきれいな顔からは、否を言わせないほどの威厳と畏怖が感じられた。
「あなたさえその気なら、『Vialatte Family』はコーザノストラと同盟を結ぶ」
 どうする? 真は意地悪く微笑む。多数の構成員の命と、首領ひとりの命、どちらをとる? と。苦悶するチェチーリアが拳を目元へ押し付けた。震える唇が音を紡ぐ。
「……撃て」
 マッダレーナが最後のひとりから、見放された瞬間だった。
「チェル、そんな、ひとりに、しな……」
 無機質な発砲音が、マッダレーナの最後を看取った。チェチーリアがマッダレーナの死体へ取りすがる。
「マディ……すまない。たとえそれが飼い犬に向けられたものでしか無いとわかっていても、私も、貴女を……」

 突然の首領の交代に、コーザノストラは混乱を極めたが、一週間もせずに沈静化した。真とバルガルが裏から手を引き、情報統制を徹底したのだ。コーザノストラはチェチーリアを首領と認め、『Vialatte Family』の傘下に入った。これが事の顛末である。

成否

成功

MVP

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

みなさんかっこよかった……!

またのご利用をお待ちしてます!

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