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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>星降る獣と怒れる碧岳龍

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 うららかなる陽射しが木々の間を射していた。
「なるほどねぇ」
 亜竜種を思わす緑髪の美女は石の上に座り、長い脚を組んでぼんやりとぼやく。
 その周囲には大小さまざまな生き物を思わす存在が寝転がっていた。
「外はそんなことになってるのねぇ……終焉獣に星界獣、滅気竜……それに、ふぅん?」
 腕を組めば、片方の手を頬についてぼんやりと声に漏らす。
 混沌全土で生じたバグ・ホールは当然の如く覇竜領域でも発生していた。
「人の子らの集落にも出てるなんて、厄介ねぇ……まぁ、我の関知するところではないけれど」
 ゆらりと尻尾を揺らして、鹿かなにかを思わす動物の持ってきた果実を拾い上げれば、ぱくりと食らいつく。
「……ふぅん? 我の領域にも出来てるのね? それは困るわねぇ……
 我も個人的に守ってやるということはないから精々、触れないようになさい」
 緩やかに、美女はそう呟きを漏らす。
 世界に近づく終わりに対してもどこか穏やかにさえ見える。
「フリアノンだったかしら、その近くでは星が落ち始めているのね?
 それに……砂漠では災厄とやらが起き上がったと。
 ふふ、おもしろいわねぇ、人の子らが頑張ったのかしら」
 そう首を傾げる亜竜種の女――否。
 それがただの亜竜種ではないことは今更か。
 ただの亜竜種が、周囲に亜竜が存在する場所で暢気に果物を貰っているはずがない。
 ここは覇竜領域の一角、ヘスペリデスや帰らずの森からもやや離れたある龍の縄張り――そして。
 緑の髪を靡かせ尾を揺らすこの女こそがその龍である。
「我が棲み処に住まう眷属らよ、よく外のことを教えてくれた」
 そう言って、龍は柔らかく眷属たる亜竜たちを撫でてから動き出した。

 『碧岳龍』トレランシア(p3n000331)は己を『山麓の化身』と定義している龍である。
 どちらこといえば穏健派であり、今は無き彼の竜王『冠位暴食』ベルゼーの意志に従ってきた。
 彼自身が優しく眠れるようにベルゼー討滅に協力したこともあるが、基本的には引き籠りの竜である。
 人との関わり合いを己から比較的に避け、竜の尺度から見れば貧弱な人を守るというスタンス。
 それはいわば『山の恩恵を享受するか弱い子ら、触れれば飛ぶ子ら』として一括りに見ているという証。
「で、お前らが滅気竜とかいう連中かしら?
 なるほどねぇ、これが滅びの気配とやらかしら……ふふ、気分が悪いわねぇ」
 ゆらりと尻尾を揺らして、トレランシアは視線を送る。
「『山も時には荒れ狂い揺れ動くもの』とは、どこかの人の子が言ってたかしら」
 声こそ穏やかに――けれど魔術の素養がある者であれば、その龍が発する魔力にぞわりとしたものを感じ取っただろう。
「山はそう容易く動くモノではないけれど、動くときは人など呑み干してしまうものよ」
 トレランシアの周囲に浮かぶ滅気竜たちが咆哮を上げる。
 その口腔へと魔力を帯びて――互いに向けてその暴威を打ち付けていく。
「我はね、今ようやく起きたばかりなの。ゆっくりと眠っている時間だったのよ?
 ――わかるかしら……いえ、分からないのでしょうねぇ。
 んふふ、こんなにも『不愉快』だと思ったのは、『苛立つ』ような気分になったのは、いつ以来かしら」
 大山が鳴動する様を彷彿とさせる地滑りの如き衝撃が、瞬く間に滅気竜を呑み干していった。
「……わぁ、こっわ」
 跡形もなく消し飛んだ滅気竜の向こう、そう声をあげた者がいた。
「お前は?」
「俺の個体名はエダシク。星界獣ってアンタ達に呼ばれるようになったよ」
「ふぅん、人型もなれるのね、まぁどうでもいいわ。
 それより、なにかしら? 我はこう見えて途轍もなく不機嫌なのよ」
「わーわー勘弁してよ! まだアンタを食えると思ってない!
 滅気竜も吹き飛ばされちゃったし。日を改めるから許して!」
 おどけてみせる様と対称的に、その言葉には勝てるという確信めいたものを感じさせる。
 そのおちゃらけた仕草は、不機嫌な龍の神経を逆撫でするには充分だった。
「また来るから、ばいばーい!」
 それだけ言い捨て、その星界獣はどこかへと消えて行った。
「また来る気なの……不愉快ねぇ」
 頬に手を突いて、龍はゆらゆらと尻尾を揺らす。
「本当に……不快だわ、人の子らに任せましょう」


「……というわけだから、お前達にあの星界獣を任せるわ。
 いつかは我を食えると言わんばかりだったけれど、今ならまだお前達でどうにかできるでしょう。
 まぁ、一応は、手を貸してあげるわ」
 あらかたの事情を説明した亜竜種の美女――の体をしたトレランシアはそう言い切った。
「具体的には?」
「我を食えるという自信があるようだし、権能で奴の動きをある程度止めましょう。
 それから、周囲の滅気竜だったかしら? あれの相手もしてあげる。
 あぁ、滅気竜の方は寧ろあまり手を出さないでくれるかしら? 憂さ晴らしがしたいのよね」
 穏やかに頬杖を突き微笑んで言うには随分と物騒な台詞で、その龍は笑った。
「我もねぇ、こう見えて機嫌が悪いのよ。
 お前達も病み上がり――起き抜けに五月蠅くされたら不快でしょう?」
 起き抜けに己が縄張りを飛び交う外からの獣へ不快感を露わにして、龍は笑う。
 龍は人を守らない――これも結局、己の縄張りに降りかかる火の粉を払うためにすぎないのだろう。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。

●オーダー
【1】『星界獣』エダシクの撃破

●フィールドデータ
 覇竜領域の一角に存在する山麓です。
 穏やかな陽の射す裾野から少し離れた平野部。
 山の中まで入っていくとトレランシアの縄張りになります。
 視界は大変良好です。

●エネミーデータ
・『星界獣』エダシク
 巨大な尻尾と頭頂部に生やした1本角が特徴的な、亜竜種の少年を思わせる姿をした星界獣です。
 快活なショタっ子といった雰囲気を持ち、非常に食欲旺盛で同時に傲慢なまでの自信を持ちます。

 目的を問えば『全てを喰らいつくすため』と答えるでしょう。
 今回ならば特にトレランシアやその縄張りその物が持つ龍脈のような物が標的な様子。

 指揮官クラスの個体です。
 高いフィジカルと神秘性能を駆使した高火力のアタッカータイプ。

 トレランシアの権能によりかなり弱体化しているとはいえHARD相当のエネミーです。
 くれぐれもお気を付けください。

・滅気竜×4
 ワイバーンが滅びのアークに触れて変化した存在です。
 濃い滅びの気配を纏い、全身を黒いオーラに包まれています。
 基本的にはトレランシアにぼこぼこにされてます。
 賑やかし程度に考えてもいいでしょう。

●友軍データ
・『碧岳龍』トレランシア
 自らを山麓の化身と自負する竜種、種別は将星種。
 覇竜編ではイレギュラーズと比較的友好的な関係を築きました。
 <フイユモールの終>では『ベルゼーがこれ以上大切なものを自ら壊す前に彼に終わりが与えられること』を望み、ベルゼーの胎の中に自ら飛び込んでいました。
 戦後は消化されていた分を治癒するために休養に務めていました。

 比較的に穏健派で荒されない限りは亜竜や人類にも敵意を見せません。
 曰く、山は普段は動かないものでしょう? とのこと。
 一方で若い頃にはバリバリの武闘派でもありました。

 今回、縄張りが星界獣や滅気竜の襲撃を受けたことで
『もうそろそろ復帰戦と行きましょうか』と起き上がりました。
 病み上がりというか、寝起きのような状態なのでかなりご機嫌斜め。

 滅気竜を相手に(憂さ晴らしに)ちょっぴり全力で戦ったり、権能を用いて星界獣対策の支援を行なってくれます。
 皆さん相手には話しかければ穏やかにお話してくれますが、戦闘面ではあまり言うことは聞いてくれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <グレート・カタストロフ>星降る獣と怒れる碧岳龍完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月25日 23時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

サポートNPC一覧(1人)

トレランシア(p3n000331)
碧岳龍

リプレイ


「わぁ、美味しそうな人がたくさん!
 ねえねえ、もしかしてこれ、俺の為に料理してくれたの?
 うわぁ! ありがとう、ドラゴンのおばさん!」
 目を輝かせるは少年のように見える星界獣――名をエダシクというのだったか。
 話しかけられた碧龍の表情は穏やかだ。
 それがただ表面上に過ぎぬのは不快そうに揺れる尻尾の動きで目に見えて分かる。
 その場にいるはずのトレランシア(p3n000331)がどこか遠くに感じるのもそのせいだ。
(自信と傲慢さは表裏一体。優れた将が過剰な自信からくる油断で敗死する、そんな話は世の中にたくさん。
 貴方もいつかそれを知るときが来ます……ですが、まだ)
 エダシクの様子を見ながら『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はトレランシアの方を見た。
「……あら」
 トレランシアが自分の身体をちらりと見る。ココロがかけた術式に気付いたらしい。
「復帰戦とのことですので、気持ちよく戦っていただきたいのです」
「ふふ、そういうことなら受け取っておきましょうか」
 意図を告げればトレランシアは流し目程度にこちらを見てから短く笑って答えてくれた。
(マジモンのドラゴンが不機嫌とか結構おっかないっスね……
 亜竜がキレて騒ぐのとは別モノだぞこりゃ)
 直ぐ近く、けれどどこか別の場所に居るかのような感覚を覚え、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はその源泉たる龍から星界獣へと視線を移す。
「さーて、これ以上気を悪くさせねぇためにも邪魔な連中はここでブッ潰しておかないといけないっスね」
 サッカーボールを転がしながらエダシクを見やれば。
「えーもしかして俺に勝つつもり? 出来るとでも思ってるの?」
 少年のような風情の星の獣は白々しく驚いてみせた。
「竜種すら食べようとしている相手を捨て置くことはできないよ。
 それにトレランシアさんの期待に応えないといけないしね!」
「なんだか貴女達の方が好みのみたいよ?」
「私達も食べられたりしないから!」
 蒼き光を携えた聖杖を手に『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はトレランシアの言葉に応じるものだ。
「そうでなくちゃね」
 応じた言葉にトレランシアが優しい笑みを浮かべてそう頷いていた。
「星界獣にも感情豊かな連中が居るんだね。
 ただまあ、仲良く話し合いが出来そうなフンイキはしないね!」
「えー俺もアンタらと仲良く話し合いをしたかったのに!
 どうせ全部食うんだからさ、食われるってどんな気持ちか知りたいじゃん!」
 こぶしを握る『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)にエダシクは拗ねたように答える。
「うん、やっぱり話し合いは出来なさそうだ!」
「お話を聞くに、寝床に害獣が出たような感じなのかしら。確かに不快そうなの」
 そう『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が言えば、エダシクは「むー失礼だなぁ!」と口をとがらせる。
「トレランシアさんにおかれてはお久しぶりなの。お元気かしら~」
「……あぁ、そういえば森であって以来かしら? ふふ、おかげさまで元気にしているわ」
 胡桃の姿を見て首を傾げていたトレランシアは暫くしてからそう頷くものだ。
「それはなによりなの。お手伝いに来ましたの」
「ふふ、期待してるわね」
 柔らかく微笑んだ龍に「お任せあれ~」と残してから胡桃は前を見た。
「あらやだ、あの竜のおねーさん、おこじゃない?
 おこだよね?? ほっといた方が良い雰囲気???」
 龍の姿を見やり『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は思わず呟く。
 こちらにこそ穏やかな表情で対応しているものの、静かな怒りはひしひしと感じとる。
「……まー、やる気があるのは結構よね! アタシも気張っていくわよー!
 終焉がどうしたってのよ、気合いでぶっ飛ばせばオールオッケー!」
「ふふ、頼もしいわね」
「それにアタシの明るい未来は誰にも邪魔させないわ!
 ギルオスさんと野球チーム作るまで、くたばってる暇無いの」
「野球チームとやらはよく分からないけれど、元気ねえ」
 しれっととんでもないことをぶちまけた京に龍は首を傾げている。
 龍が野球をする光景は想像しにくい。その反応もあろうか。
「そりゃあね! 毎年1人ペースで産んでも10年くらい掛かるもんね!
 でも10年で行けちゃうのかー、ならサッカーチームでも……?」
「……本当に元気ねえ、お前」
 不思議そうに首を傾げながらも何となくの察しを付けたのか龍が呟いていた。
「休みに呼び出し受けたら気分いいもんじゃないっスよねー……
 ま、トレランシア氏が休んでいる間に私は呼び出し受ける職場をクビになったわけスけど」
「あら、そうなの。人の子は仕事っていうのが必要なのではなかったかしら?」
 そう『無職』佐藤 美咲(p3p009818)が言えば、トレランシアは不思議そうに首を傾げる。
「まぁ、その辺はおいといて。どっすか? 調子は。私もちょっと色々ありましたが、まあ元気でス」
「見ての通り。あの日の疲れも取れたし、元気な物よ」
「それはなにより……あぁ、それから」
 そう応じながら美咲はトレランシアへと術式を展開する。
「まぁ……」
 トレランシアが不思議そうに声をあげる。
「必要とは思いませんが、同じ場所にいるんでスし許してください」
「ふふ、お前もなのね」
「あと、一応保護結界も使っときまス。縄張りは荒れないほうがトレランシア氏も気分いいでしょ」
「元より通す気はないけれど、感謝はしておきましょうか」
 念のために張り巡らせた結界にトレランシアが微笑んだ。
「トレランシアを食うって? そりゃ許せねェな。
 デザートを取られた気分になっちまうだろうが。
 逆にオマエらが食われてくれよ。なあ?」
「えー嫌だよ! トレランシアが駄目ならアンタでもいいよ!」
 鎌を手にした『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)の言葉にエダシクはそう声をあげた。
「食えるもんならな」
「じゃあ遠慮なく!」
 ゆらりと尻尾を揺らし、星界の獣が笑みを作る。
「――じゃあ、初めましょうか」
 ごく自然な仕草でトレランシアが手をエダシクと滅気竜に向けた。
 不可視の何かを受けてエダシクが声をあげた。


「最近暴れ足りなくてな。星界獣だかなんだか知らねーが、ストレス発散に付き合って貰うぜ」
 その身に主人から借り受けた権能を齎し、応じるままにクウハは言う。
「ストレス発散はこっちの台詞だよ!」
 振るわれた鎌が放つ紫紺の茨が無数に分裂しながらエダシクの身体を絡めとる。
「……硬いな。人型だけど、まるで蟹か何かを攻撃したみたいだ」
 眉を潜めて思わず呟く。
 人型の成りをしても星界獣。
 幼体が甲殻類であると考えれば、寧ろそれが当然なのだろうか。
「何でも食べるみたいだけど好みはあったりするの?」
 スティアはエダシクに視線を向け静かに問うた。
 天穹は弧を描く。照準は既に少年を思わす星の獣へ定まっている。
「そりゃあもちろん! やっぱり美味しいのがいいよねぇ!」
 目を輝かせて笑う様はまさしく少年のようで、射出された意志の魔弾が確かに星の獣の意識を絡めとる。
「そうなんだ。具体的には?
 星界獣ってどんな個体なのかわからないし、できたら教えて欲しいなって。
 食の好みくらいは大した情報じゃないでしょ?」
「そりゃあ、もちろん! 希望だよ! 明日への夢に満ちた希望の光!
 お前達なんかは特にそんな匂いがするよね! なんだっけ? イレギュラーズとかっていうんだろ!
 お前達からは特に美味しそうな匂いがする。希望に満ちた、美味しそうな香りだ!」
「それは君だけのお話?」
「さぁね! でも嫌いな奴なんかいないだろ! だから――お前らを食わせろよ!」
 放たれた暴風が戦場を迸り。
「もういっちょ!」
 続けざまに撃たれた魔法陣から放たれた風の刃が戦場を切り刻む。
「なんて強さ……このような強大な相手にわたし達で太刀打ちできるのでしょうか……」
 ココロが意図して聞こえるように漏らした言葉にエダシクがどや顔を決める。
 ぎゅっと握り締めた掌に集めた魔力は優しい青。輝く光が攻撃を受けたばかりのスティアの傷を癒していく。
(エダシク……あなたはきっとまだ『幼い』のですね。恐らく、あなたは『強い人』を知らない。
 成体になってまだ時間が経ってないのではありませんか)
 絶対の自信ともいえる傲慢さも、大人になったばかりの幼さから来るものと考えれば分かりやすい。
「わぁ、なんだか動きづらくなったんだけど!」
「なーんか、わからせが似合いそうな感じしてまスが星界獣だから簡単にはいかなさそうスね」
 白々しいセリフを吐くエダシクを見る美咲は完全なる逸脱を果たす。
 世界へ干渉し展開した魔法陣から放たれた四象の権能がエダシクの身体へ烈しく炸裂する。
「うげぇ! 何これ!? あつ! つめたっ!? 何か動きにくいし! お姉さんのせいだよね!」
(そんな反応をする余裕はあるみたいでスね……なら次は――)
 美咲は一つ息を吐いた。
「滅気竜はほっといても大丈夫そうだなアレ」
 範囲攻撃を警戒する葵は後退の過程に広域俯瞰で見た滅気竜の様子に小さく呟く。
「……ちょっと可哀想まであるぞ」
 4匹のうち2匹は互いを攻撃、残る2匹の片方はトレランシアに首を掴まれて武器のように振り回されていた。
「……っと、この辺りでいいか」
 生成される絶対零度の氷杭。白い冷気を平野に揺らめかせたそれに自慢の脚を撃ち込んだ。
 放たれる杭は白い冷気と空気中の塵を凍らせながら空を飛翔する。
 美しく引かれた尾のままに氷杭はエダシクを貫いた。
「いたいいたい! うわ、しかもこれ凍ってるじゃん!?」
「山は動かざるもの、火は侵掠するものという事で、暴れるのは得意なわたしなの。
 わたしの火を以て燃やし尽くしにいくのよ」
 そう言葉を漏らすままに胡桃はその手に炎を纏う。
「ふふ、盛大にやってあげて。風向き的に後ろは大丈夫みたいよ」
「そう言われたのなら遠慮は不要なの!」
 トレランシアがそう笑ったのを聞くや、蒼炎は周囲も効率も度外視した炎を胡桃に齎す。
 燃え盛る蒼炎を手に、狐火は星降る獣を焼き尽くすべく一斉に放たれた。
 狐火に含まれた数多の呪性が一斉にエダシクを蝕んでいく。
「うわ、アッツ!? え、なにこれ! めちゃめちゃ動きづらいんだけど!
 なんか息苦しいし、気持ち悪いなぁ!」
「子供は可愛いけど、そりゃ本当に子供だったらの話よね。
 どうせアタシより年上でしょ、合法ショタってやつ?」
 その様子を眺めていた京はその手に白炎を纏う。
「今からでもガキらしい態度取って大人しくしてたら、優しく仕留めてあげるわよ。
 ま、それが嫌だってんなら……燃え滓も残さないわよ、アンタ?」
「べぇ! っだ! やってみろよ!」
「――ガキはガキでもクソガキってならお灸を据える必要があるわね!」
 横薙ぎに払った手がから放たれた炎がエダシクの周囲を焼き払う。
「一応ね? 言葉が通じるみたいだから聞いてみるけれど、トレランシアに謝って家に帰るのはどう?」
 イグナートは肉薄するままにそう問いかけるものだ。
「そんなわけないじゃん! アイツを食いに来たのに!」
「あのお姉さんはオレたちの100倍くらいコワイよ? 本気で怒る前に謝っておくのがイイと思うなぁ」
「俺だって、お前らに怒るぞ! せっかく美味しそうなのに邪魔してくれて!
 まぁでも、お前らも美味しそうだから怒らないでいてやるけどさ!」
「交渉決裂ってことだね。なら出し惜しみナシで行くよ!」
 むくれる少年のような姿をした星界の獣へ、踏み込むままに打ち出した拳から伝わる感触は硬い。
「硬いなら何度でも殴って叩き割るまでだね!」
 踏み込むままに打ち出す本命たる覇竜穿撃。
 激しい衝撃はエダシクの身体に確かに撃ち込まれ、その身体を崩す。


「さっきのはちょっと痛かったよ! 次は私の最強の一撃を受けてみよ!」
 スティアはネフシュタンへと魔力を注ぎ込む。
「なんだよ! 俺がやるたびに全部回復するくせに!」
 強すぎる警戒心を露わに、スティアだけを見る少年には確かに天穹の効果が続いている。
「はぁ、なんだよそれ、こわい……!」
 世界の戒めより解き放たれた神滅の刃はヴァークライトの聖杖を核に剣へと姿を変える。
 壮絶極まる聖なる刃は甲殻類を思わせる少年の皮膚を深く深く斬り裂いた。
「うそだ! 俺が俺が死ぬわけないんだ! そうだ、アイツ、アイツを食えば!」
 ハッと我に返った様子を見せるエダシクの視線がトレランシアを見た。
 飛び出さんとしたエダシクの眼前に影が躍る――それは葵の姿だった。
「邪魔すんなよ!」
「どこ行こうってんだ? 試合放棄とは随分情けねぇ事するっスね」
 割り込んだ葵は肉薄の刹那、拳を作る。
 全てを置き去りにして、刹那に撃ち抜く拳打はボロボロの甲殻類の身体を強烈に打ち付けた。
「こやぁ~ 近づいてこられたのなら、こっちも近づくの」
 胡桃はそれに続く。
「お前もかよ!」
 その身に纏う蒼炎が掌へと集約する。
 それは収束火炎輻射術式。赫奕たる蒼火。
「ぶれいじんぐぶらすた~」
 本来なれば超長距離より進路上を燃やし尽くす蒼き焔がゼロ距離から星界獣を焼き尽くす。
 飲み込まれたかと思えば、ぶるぶると炎が揺れる。
 まるで犬か何かが水を振り払うような仕草だった。
「なに、何なのお前ら! さっきから! うっざい!」
 地団太を踏むいじけっぷりを見せるエダシクへ、ココロは静かに視線を向ける。
「完全な人型とはいえ弱点まで人と同じかは不明……少なくとも、そういう失敗をするのは人のようでした」
「なにそれ! まるで俺が負けるみたいに言うじゃん!」
 ムッとした様子のエダシクと視線が重なる。
「エダシク、わたしは十分な強さがありながらも傲慢さが仇となった人……いえ、『竜』を知っています」
「はぁ?」
「傲慢を自分の中で飼えなければかえって弱さとなる。
 わたしは、彼に教えてもらった。一線を越える覚悟がなければ心の弱さに打ち克てないと――黒黥!」
 咄嗟に跳躍したエダシクを追うのは黒い闇のような身体をした悪しき竜が星界獣を呑み込んだ。
「言ったでしょ、大人しくしてたら優しく仕留めてあげるって。
 宣言通り燃え滓も残さないから覚悟なさい!」
 京は腰を落とし、人体炉心へと火を灯す。滾る炎の熱を脚へと集約していく。
 迂闊にも近づいてきた可哀想な獲物へと放たれる蹴撃が峻烈にエダシクへと突き刺さる。
 酷く硬い、どこかチクチクとする甲殻類のような肌触り。
 炎熱は人体をパイルバンカーのようにして幾重にも爆裂する。
「今度は変なことされないように確実にぶっ飛ばす!」
 応じるままに続くイグナートが腰を落として構える。
 エダシクの反応へのけん制として打ち出した栄光の一刺し。
 イグナートの呪腕に黒き闘志は宿る。
 極限の闘争心に委ねられた拳が星界獣の心臓があるであろう辺りを捉えていた。
 少年の姿をした星の獣の表情が、ぎょっとしたものに変わっていく。
 無限の如く引き延ばされた刹那の拳打が断末魔をも言わせぬ前にそれを貫いた。
「げふげふ……く、くそ……なんでこんな目に!」
「お前は本当にお人よしねぇ」
 念のためにトレランシアの前に立ったクウハへと、龍が小さく呟いた。
「山にとっちゃそよ風みたいなもんだろうが、一応病み上がりだからな。
 俺が心配症なのは知ってるだろ?」
「そうね……だから何も言わないわ」
 微笑むばかりに柔らかく言った龍の手には滅気竜が1匹。
 首根っこを掴まれた滅気竜はそのまま放り投げられ、別の1匹ともつれ合って崩れ落ちた。
 起き上がる前、物理的な衝撃が2匹を諸共に呑みこんで消し飛ばす。
「そっちは終わりみたいだな」
「あ……面倒になって消し飛ばしてしまったわ」
 事も無げに消え去った滅気竜の方を見て龍が呟く。
「じゃあ、こっちも終わらせるか!」
 くるりと鎌を握りなおして、それを大地へと突き立てた。
 それは主人より借り受けた権能が一、緋色の罪杖。
 紫紺の影はエダシクの身体に絡みつき、その身体を貫いていく。
「ぎゃぁぁあ!! いたいいたい!」
 エダシクは断末魔の悲鳴を奏でながら今度こそ死を得た。


「休めたら無限に休めてしまうのは人も竜も同じなんスかねー……
 私はまあ、最近はローレットの依頼とバイトと就活でクソ忙しい感じでス」
 戦闘の終了後、美咲は何ともなしにそう問いかける。
「そうねぇ……人の子の短い命と違って我らは長命種よ。
 休眠期ならいくらでも寝てるわけだし……」
「そういうものでスか……次やることって決めたんスか?」
「そうねぇ、こうも鬱陶しいのに絡まれるとねぇ……どうしようかしらねぇ」
 そう首を傾げるばかりだった。
「少しは気が済んだかな? 私は元気そうな顔が見れて安心したよ」
「そうねぇ、多少は……お前も元気そうで何よりね」
 スティアの問いかけに首を傾げながらトレランシアが言う。
 戦闘時は憂さ晴らしとばかりに戦っていた龍も面倒くさくなったのだろう。
 最終的にブレスに相当する物理的衝撃波で消し飛ばしていた。
「また何かあったら会えたら嬉しいな!」
「ふふ、そうね。もしかしたらまた直ぐ会えるかもねぇ」
 そう微笑むトレランシアに今度はスティアの方が首を傾げる番だった。
「せっかくだしベルゼーとの昔話でも聞かせてよ! これで終わりだと少し味気ないから」
 イグナートの提案にトレランシアは「それもいいわねぇ」と短く呟いた。
「あれは我がまだ若い……いえ、幼い頃の話だけれど。
 ベルゼーが外の話を教えてくれたことがあるの」
 柔らかく、きっとその龍にとっては何気ない昔話が始まった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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