PandoraPartyProject

シナリオ詳細

いい苗ば分けてもらってな。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 自分があと10分もしないうちに死ぬだろうことを理解しながら、人間の口って案外大きく開くんだな。と、考えられるんだから、まだ正気なんだろう、たぶん。ということは、その口からずるずると女がはい出してきてべろりとついさっきまで明日の昼間はいつもの店で煮込みを食おうと約束していた男を脱ぎ捨てて出てくるのは現実に起きていることなのだ。
 女だ。まごうことなき柔らかい肉を持った女だ。たっぷり乳を飲んで、四六時中眠りこけ、母親をやつれさせるほど健やかに太った赤子のようだ。つやつやとした肌は匂い立つようでぴかぴかと内側からきれいな血の赤が透けて光るようだし、きょときょととよく動く目は空から星を取ってはめ込んだみたいな赤茶色だ。
 愛らしい唇とふっくら膨れてバラ色の頬が動いている。んぐんぐと咀嚼しているのだ。ああ、あんな噛み煙草を愛用しているような男の肉を食って大丈夫だろうか。腹を壊したりしないだろうか。どうせ食うならもっといいものを食えばいいのに。自分の心配をよそに女はやがて口の中のものをゴクリと飲みこんだ。柔らかな肉に包まれた喉が動くのが見て取れた。肉に『Mars』とナイフで刻みつけられているのが痛々しい。傷ついていい訳がない。この女は美しいのだ。傷ついてはいけないくらい美しく柔らかくふっくらしている。女は握りしめていた手を開いた。丸々と太った手の中に小瓶がある。甘い砂糖菓子が詰まっているように見えた。連れの肉よりよっぽど女が食うにふさわしい食べ物に思えた。ざらあと女が口の中にそれを流し込むのを微笑ましく見守ってしまう程度には正気だ。ビンの中身を飲みこみ、女が自分を見ているのがわかるくらいに正気だ。裸の女のすべてがはちきれんばかりに充実し、目を離すことと死は同義に思われた。これから目を背けたら明日から死なないために生きるのと一緒のように思われた。今このツレの男を食って生まれた女のようなものとでこぼこ道で見つめ合うためだけに生まれたのだと確信できる程度に自分は正気だと思った。
 女の喉がびくびくっとひきつった。既視感がする。さっき、ツレの男の喉もこういう風にひきつったのだ。
 女がえづきながら口を開けた。悲鳴が勝手に自分の口から出るのがわかる程度には自分は正気なのだと思った。女は連れの男のように皮袋になってはいけないと思った。この女は皮袋から出てくる方で皮袋になっていいものじゃない。間違っている。義憤と言ってもいいような勢いで口から抗議の悲鳴がほとばしる。突き出る腕は女の腕のように福々しかった。でろり、でろりと、美しい女と寸分たがわず美しい女が二人出てきた。首には『Juppiter』『Saturnus』と刻まれている。見えるはずがない大きさなのに、見ろ。と、目玉の奥の視神経経由で脳みそにねじ込まれるような視覚情報だった。女は口から娘を産んだのだと理解することができる程度には正気なのだと思った。丸々と太ったあどけなく美しい女が二人キュルキュルとかわいらしく腹を鳴かせながらこちらに近づいてくる。あどけない顔は空腹を満たすこと以外考えていないように見えた。動かないのは義務だと思った。連れの男より立派な栄養にならなくてはいけないと思った。足をつかまれた。もう一人が腰骨をつかんだ。生命力にあふれた力強さだと思った。顔中から流れ出るものがみな流れ出ていると思った。そばに寄ってきた女の肌はかぐわしかった。たまさか触れる肌はびっくりするほどすべらかで温かだった。口から声がほとばしった。女は思いついたとばかりに自分の顔の上に座った。尋常ではない重量に頭の骨がびきびききしむ。舌を伸ばした。なめた。うまかった。だが歯は立てなかった。傷を残していいものではなかった。鼻の下が生暖かい。舐めると鉄の味がした。口の中に自分の上あごの肉と唇が垂れ下がってくる上に女の肉がのしかかってくる。窒息する。なめた。うまかった。バキバキンと骨に響く音がすると考えられるまでは正気だった。
 暗転。


「正確な情報を提供できないことを謝罪するわね。そう、状況はシルバー・ミスティなの」
 五里霧中ってやつですね。
「概要から行けば、田舎で散発的に起きている集団殺人事件。被害者は複数で食い散らかされているわ。食べ残しを隠そうともしない輩の犯行ね」
 目撃者は少ない。と言うか、大半の目撃者は食われているのではないか。と言うのが、関わった情報屋の共通した見解だ。
「目撃証言によると、村の二人連れの男の片割れの口から女が出てきて、その女がビンの中のお菓子をぼりぼりやったら、今度は女の口からそっくりな女が二人出てきて、その二人の女が、腰抜かしてたと思われる二人連れの片方をむしゃむしゃしだしたから見つからないうちに逃げた――という話なの」
 食われたのは、村の男が二人と、男を食った女が一人。
「儀式殺人って言う線が一番濃厚ね。キーワードは、親殺し、共食い、禁忌破り。食人は禁忌破りにはいるのかしら。ミッドナイトブルーにスカーレットをちりばめるような所業よ」
 暗澹とした中、食人と言う動かしがたい証拠が点在しているという状況ですね。
「それで、食い散らかしがある場所をつないだら次はここじゃないかしらってところにちょうど村があるのよね」
 地図の上、指し示られた村。
 夜空に大きな星が瞬くとき、裸の女が現れる。

GMコメント

田奈です。
 yakigoteGMと、つながっているような、いないようなお話です。
 
 目標:よくわからない人を食う女のようなものを倒す。
<注意>
 この依頼は、残酷表現多めの不条理ホラー系です。
 耐性がない方は、逃げてください。夜中、怖い夢見ても田奈は責任を負いかねます。

*攻撃対象
太った美しい裸の女 『Juppiter』と『Saturnus』
 すでに一人男が食われ、『Mars』と刻まれた女から生まれたばかりの二人の女です。
 ばぶ味を感じるほうが『Juppiter』、いたわりたくなる方が『Saturnus』。
 どちらも戦闘スキルらしいものは使いません。力任せに、つかみ、握りつぶし、引きちぎり、捕食します。ホールドされたら食われる可能性があります。
 ばるんばるんに太ってますが、動きが鈍いわけではありません。

*場所:村の夜道。
 夜半過ぎ。星が見える夜です。
 荷馬車がごとごと通る道ですので、かなりでこぼこです。幅五メートル。延々と両側に柵があり、柵の向こうは野原が広がっています。横に広がるとか、円陣で取り囲むのは難しいでしょう。
 明かりはありません。
 『Mars』の口から二人が這い出し、立ち上がりかけているところからスタートです。
 彼我の距離は、20メートル。
 OPに出てくる、腰を抜かした男の命はまだ無事です。女たちとイレギュラーズのちょうど中間地点にいます。彼の生死は依頼の成功・失敗に含まれません。

  • いい苗ば分けてもらってな。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月03日 00時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手
リナリナ(p3p006258)
白薊 小夜(p3p006668)
永夜

リプレイ


 美しい赤ん坊がいる。
 かぐわしい甘い匂い。丸々太ってすべすべした肌の目鼻立ちのはっきりした赤ん坊だ。それがそのまま大人になったらどれほど愛らしいだろう。
 本能のまま、乳の代わりに血肉をすする、美しい赤ん坊のような女たち。
 無邪気たれ。無辜であれ。
 一切の善悪を知らず、損得を知らず、ただあるがままにあれぞかし。
 満ちよ。満たせよ。満たされよ。
 混沌は豊穣であり農場である。


 『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)は、ハチの巣にする勢いであっけらかんと引き金をひきつつ、サイバーゴーグルの下の目を細めてヒャッハッハと笑った。
「いやぁ、嫌なヤツを思い出すねぇ。気分はサイアクって感じだ」
 むぐむぐと肉を咀嚼している太った美しい女――のようにみえるのが二人。
 口から胸、腹にかけて、食べこぼしている。体中に穴が開いているのに、食べるのをやめない。
「うわぁ、なんだあれ。あれが美しいって? 黒幕の美的センスを疑うね」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は、声を上げた。
 逆に言えば、あれを美しいと感じるモノがこの混沌に混ぜ込まれようとしているのだ。美味なるスープに新たな一滴を。それでスープの味がどう変わるかはわからないし、感想は食ったものの主観だ。
「ヒトが魚を締めたそばからそのまま喰うように、ヒトの形をしたモノがヒトを喰うさまはおぞましいねェ」
『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)は口調がドライだ。
「確かに食事のマナーがなってねぇなぁ。俺だってあんなグロい食いかたはし……しな……ぃョ?」
「そうかい」
「うん」
 背後に止めた馬車のカンテラで視界はぎりぎり女たちが見える程度には保てている。後はサイバーゴーグルをつければ支障はない。
「ま、その代わりに気兼ねなく吹っ飛ばせそうで良かった良かった」
 すでにぶっ飛ばしているが、弾丸でさらに太らせる気満々だ。シルヴィアはようやく笑いを喉の奥にしまった。
 目の前にいるのはカオスシードを食うようなやつなので少なくとも世界の半分以上の敵だ。ぶっ飛ばしてOK。素晴らしい!
実際、『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が視認早々ぶっ放した。
 何処からとも無く対象に砲弾が降り注ぎ、裸の女たちの上で炸裂、爆裂、もうもうたる噴煙が上がる。
「――――――――っ!!」
 咆哮とも違う、空気の振動。 泣いている? 鳴いている? 手に握っていた肉がなくなっている。
 反応やダメージの通り具合から回避、防技等の高さを図ろうとしたエクスマリアは真顔になった。
 地面の血だまりの大きさは変わっていない。女たちに穴は開いている。そこに被弾したのだということがよくわかる。
 ブルンブルンと体を大きくゆすると、あふれた肉にみえるものが寄せ集まって穴が視認できなくなった。表面の皮膚も傷に応じて浮くくなって血の色をすかしているが。まるで柔らかな粘土人形の亀裂をこねて直したようだ。
「ふふ、なんとも不思議なものだね。意味があるのかないのか判らない。道理の通らなさが奇妙だね」
『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)は、メカ子ロリババアとファミリアーで操った鳥にカンテラを持たせて周囲を照らし出す。
「暗い夜道での戦闘……なにもなければいいのだけれど」
浅からぬ傷を負ったままの『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、念のために飛ばす鳥と視覚と聴覚半分づつを共有させた。
 鼎の超感覚集合分析では、目の前の人に見えるモノは、少なくともカオスシードと同じ組成をしていないことは分かった。
 血は流れていないし、穿たれた穴から骨は見えなかったし、関節での骨がこすれる音や筋肉の収縮音すらしない。
「お肉、お肉ダンゴの女。人食べるお肉女! 人食べてお腹壊さないのか?」
『輝く太陽の息吹』リナリナ(p3p006258)の疑問は自身を鼓舞する踊りに飲み込まれる。
「あれ? 敵、三人? 食いしん坊ギャル! 『ジュースビター』と『砂糖茄子』と『不味い』!」
 「不味い」が食われて、「ジュースビター」と「佐藤茄子」が出てきたので、敵は二人だ。崩れぬバビロンは健在だが、リナリナには惑星という概念がないのかもしれない。遠い異世界の宇宙規模辺境にある星だ。
「ヒトではないみたいです。形がヒトってだけみたいですよ」
 鼎としても違うというなら何なのかまではわからない。
 共食いじゃなくてよかったと胸をなでおろすべきなのか、人が食われるという現象を重視し、憂うべきなのか。
「得体の知れない相手」
 白薊 小夜(p3p006668)も、相手がまともな生物でないことを聴覚で知る。あるべき鼓動はなく、聞いたことのない音がする。
「魔術と言うからには術者がいるんでしょうけれど、まずは目の前の敵に集中しないと」
 至近に来ればなおわかる。呼吸していない。でも生きている。そこに命はあるが、臓器があるかどうかもわからない。
 女達とへたりこんだままの男の間に陣取る小夜の黒いセーラーのスカーフが揺れる。
 一歩踏み込み半身、片籠手で守りを固め、背後を守る。
「ふふ、これ以上は通行止めだよ――なんてね」
 盾とナイフを手に鼎も前に陣取る。
 救出が終わるまで、一歩も退かぬ覚悟。
「速やかに回収するのだわ。そのあとは後方に下がらせて。狂乱した場合は取り押さえていて。引きずっても構わないわ」
 略礼装をまとった腰の低い男――「執事」を召喚したレジーナは矢継ぎ早に指示した。
「くれぐれも仲間の射線に入らないように姿勢は低く!」
 「執事」はその通りに自分の「順番」を薄ら笑いを浮かべて待ちわびていた男に手を差し伸べた。その手を男は払いのけた。
「俺の番なんだ」
 喜色。食われる喜び。いや、それは手段だ。喜びはもっと別のところにある。
「俺が食われてあの女をもっといいおんなにするんだもっともっといいおんなになるんだこれからおれもあんたらもみんなあのおんなたちにたべられてあのおんなたちもはらのそこからたべられてきれいなおんながふえるんだきれいなおんながいっぱいいっぱいふえるんだ。一が二、四になって八になって十六になるんだ」
 増えよ満たせよなにかに影響を及ぼす喜びそれに価値があると見出される喜び献身が報いられる喜び喜び喜びを!
「速やかにと言ったのだわ!」
 執事は男を羽交い絞めにすると、全速力で後方に下がる。
「さぁて、弱ってるのはどっちかなぁ?」
 ペッカートは、より穴の跡が大きいサトゥルヌスに呪いをかけた。その身に降りかかる害の数だけ傷が増えていく。
「一体を全員で集中攻撃し撃破、残る一体へ取り掛かる!」
 タタン、タタン、と矢継ぎ早の速射にサウザンド・ワンの銃身の冷える暇もない。
「二度と何も食べれないところにご招待だよ?」
 のとのとと、新たな獲物の気配を感じたか、意外にも四つん這いのままこちらに向かってくる様は、熊あるいはサイ。大熊に変じた乙女は、ジュピターの衛星だ。ジュピターと刻まれた女ならそう見えてもいいかもしれない。
(まず掴まれないように気をつけるわ、食べられたくはないもの)
丸々と太った愛らしい手。だが、見えない小夜が空気の流れから読み取った感触は遠くから丸太が飛んでくる感覚が一番近い。まともに食らったら吹っ飛ばされる。
 万全の体制を持って臨んでも、衝撃を殺しきれず舌に血の味がしぶく。体をぶつけられただけでこちらの筋肉がゆがみ、内臓が悲鳴を上げる。
 つかむための指を切りとばせればと思っていた。だが、それでは間に合わない。指ななくなったら掌底で、掌がなくなったら手首をこん棒のようにして襲ってくるだろう。
 食われる。情報屋の話が本当なら、腹の中から食われて口から出てくる。そして残されるのは一枚の皮袋だ。
 こんなにだぶだぶと肉をつけているというのに、鼻先に突き付けられた焦点の合わない瞳の色が美しい。
 籠手を着けた左手をつかませた小夜は、自分の腕を犠牲にする覚悟でジュピターの腕を切り払う。切った後でもその握力は変わらず小夜の腕を籠手ごと握り潰す勢い。
 腕の中で硬いものが砕ける痛みに意識が遠のく。千切れる。諦めるか? それは断じて否だと心のどこかで何かが叫んで世界に代償を投げ入れた。
「少々手荒だけどすまないね?」
 鼎が衝術で残った手指を中空に跳ね飛ばした。後方からの銃撃にあっという間に形を失い四散する。
「いいえ。多少の誤射は承知済みよ」
 背後から白い毛玉が飛んできてぐちゃぐちゃにつぶされ籠手の破片がめり込んだ小夜の腕の上を跳ね回る。破片が地面に落ち、傷口がある程度ふさがった。
 後衛火力がサトゥルヌスを文字通りただの肉団子にし終えるまでは意地でもジュピターを押しとどめておかなくてはならない。
「るらら~!!」
 闇の向こうから明るい声がこだましてくる。
「急がば回れ右左! リナリナやっぱり柵を越えて反対側から来たゾッ!!」
 ひゃっほーと歓声を上げ、「さわっちゃだめ」を振りかぶる。
「柵越える。夜陰に紛れられる。敵の邪魔無理。挟み撃ちで状況好転! おーるOK!!」
 地面すれすれから背後迄切っ先を回し、対円を描くようにサトゥルヌスの右の尻かな分厚い背中肉を切り、左の肩まで斬りあげる。
「背骨当たってないぞ。変なの。ほんとに肉団子か? 骨ないか?」
 サイバーゴーグルつけてジェットパック背負ってぼろぼろの服着た娘が、斬った反動で体の位置を反転させ、左肩を支点にそのまま斜めに斬り下ろす。
「斬り心地が変だぞっ! 気持ち悪いぞっ! むずむずする!」
 リナリナの腕や足が総毛だっている。虫唾が走るが一番近い。
 切られたサトゥルヌスの上体が斜めにかしぐ。
 地面に崩れ落ちるサトゥルヌスの口がわずかに開き、リナリナの左のふくらはぎに吸い付いた。
 激しい吸引に皮膚がはぜる。んぐんぐとサトゥルヌスの口が動く。乳飲み子のような一心不乱。
 自分の足に吸い付いている化け物の頭をつかみ、リナリナ渾身の頭突き。おびえてのたうち回る性質ではない。
 距離をとっていたエクスマリアが一気に間合いを詰め、下半身とサヨナラしたサトゥルヌスの上半身に更なる別れの言葉を刻む。
 イーフォの放つ艶やかな黒がサトゥルヌスの頭を直撃してもう何も呑み込めないようにした。
「活動限界はヒトと同じではないようだな」
「骨ないぞ!」
 リナリナは動けないでいる。体の底から戦いの気配は失せてしまった。レジーナの癒しが形になった毛玉がぼふぼふと粉を振りまいているのを、エクスマリアが担ぎ上げた。上背が足りずに髪の毛も使い、一目散に後方に離脱させる。
「一撃の被害が大きすぎる。とっとと済ませないと前衛がもたない」
 情報共有にイーフォもうなずいた。
 後衛の照準の向きが変わる。二人がかりで押さえていた鼎と小夜の顔色が悪い。
 傷もさることながら、少しづつ憔悴して手の内が減っていくのだ。呼吸が浅い。
「この彼女も情熱的だよ。生憎君に食べさせる肉はない――よっ!」
 吹き飛ばした後の指先に気力が乗らない。
 あちこちからの光源で照らし出される女の血濡れた髪が美しい。
「前の二人、今のうちちょっと下がれ! 位置取り難しいんだ!」
 敵味方の別なく癒し励まし正気を与える天蓋に入れてやるには、人食いジュピターはペッカート的にアウトだ。
「よし。俺の審美眼はまだ大丈夫だ!」
 一歩も引かずに、スロットマシーンにコインを入れるようにジュピターに銃弾を叩き込み続けるシルヴィアは、ジュピターが前衛を突破して来るのも十分ありうると思いつつ引き金を引いていた。
シルヴィアの背後では、「俺を食わせろ」と息継ぎもせず泡を吹きながら喚き散らす男と足の肉を文字通り吸い取られたリナリナが転がっているのだ。
(流石のアタシも生きたまま喰われた経験は無くて、勘弁してほしい部分はあるんだが)
 ぶちぶちと皮膚の表面がずれているのは、ペッカートの見えない糸で切り刻まれているから。
 なんか動きが鈍っているのは、イーフォがダルイ感じになるもので包み込んで内側からむしばんでいるから。
 それでもまだ動いている。
「有機生物としての仁義ってモンを弁えないの」
 銃で撃たれたら速やかに死にくされ。魔法が当たったら爆発しやがれ。
「最近の若いモノは――嫌ぁねぇ!」
 本日マガジンいくつからにしたか数えてみないとわからないが、今の一撃はベストショットだった。いい感じに殺す弾だった。気持ちよく殺意が乗った。
 実際、そこでジュピターは止まった。
「あ、生後数分でしたか、ごめんあそばせ」
 メイド服の裾をつまんで会釈した。
 食ってくれる女が死んだのを感じてか、保護した男が絶叫した。レジーナの毛玉が男を速やかに粉まみれにし始めた。
 

 男の嗚咽がやんだ。正気に戻ることを祈る。
「調査するんだろ。運ぶのくらいなら手伝うぜ」
 悪魔は勤勉で面倒見がよくないと務まらない。
「してみるかな。くらいの気持ちではいたよ。医療知識で人間と比べて何があるかとかね」
 鼎の顔色はさっきよりは大分いい。
 Marsと刻まれた皮と穴だらけで刻まれた肉塊と切り分けられた肉塊。
 それが、どろりと崩れた。
 もう我慢できないといった風情で、それは人体もどきであることをやめて、崩れて燃え出した。
 だろだろとうねる炎からたんぱく質が焦げる独特の臭いはしない。やけに甘ったるく胸が悪くなるような匂いが当たりに立ち込める。
「気を付けてはいたんだが」
 エクスマリアは次善の策を模索する。
「――あの辺りの地面を掘って持っていこう。ローレットへ運び、調査を頼む」
 いくらか燃えさしが残っているかもしれない。
「俺は目星やアイディアを振るつもりはないね。なんか分かったら正気の範囲内で教えてくれよ」
 ペッカートは余計なことを考えないように自らを律した。
 うっかり余計なことを思いつくと、夜中怖い夢を見て跳ね起き続けることになる。悪魔として沽券にかかわる。
「ローレットでも、詳しい情報は、一切なし。過去に類似する依頼もない、か」
 天文学的確率が低い偶然の産物。あるいは記録が残っていないくらい頻度が稀。いくらでも仮説は立てられた。
「謎が謎を呼ぶ。ケド、こうして会敵したという記録と、おれたちが得た情報は残ル」
 イーフォは、馬車に土を積み込んだ。
「ならば、今回情報が得られたならば、値千金。今後に繋がる、大きな収穫となる、な」
 エクスマリアの髪は幾分ねじれている。本人は気が付いていない。
「何も分からないよりずっとイイ。次は、もっと核心へ繋げられル」
 もし、次があるのなら、今日の記録は大きな力になるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。戦闘記録と成分がしみ込んだっぽい土がローレットにわたりました。
これで、道の真ん中で誰かがはらわた食い尽くされることもなくなるでしょう。
ゆっくり休んで次のお仕事も頑張ってくださいね。

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