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シナリオ詳細

<ラケシスの紡ぎ糸>ソラキシャンシキの砂となりて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「また……商隊が行方不明になった、か」
 金色のカップをテーブルに置き、男はため息をついた。
 彼はザハリア・サラフィン。ラサの商人であり、ソラキシャンシキ地区を管理する商人頭でもある。大きな力を持つ一方、大きな責任もまた彼の両肩にのしかかっている。
 今現在で言えば、行方不明になった商隊の積荷や、人員に対するケアといった仕事が降りかかった所だ。重責、という言葉がそのままの意味を発揮する瞬間である。
「これで何件目だ」
「お答え致しましょうか?」
 側仕えの老人が片眉をあげて応えると、ザハリアはハアアアとより一層深いため息をついて机に突っ伏した。
「一体何が起こっているというのだ。あのあたりにはモンスターも盗賊も出なかったはずではなかったのか」
「未知の魔物……噂によれば『終焉獣』なる獣であると」
「それは聞いているが……一体どこから来たというんだ、その獣は」
「それはもう」
 老人が太い眉を動かして言う。
「終焉で御座いましょう」

「そんなわけで、今回は君たちに来て貰ったわけだ。『終焉獣』というものに詳しく、交戦経験もあると聞いているが」
 ソラキシャンシキ地区の中でも会合などが行われる部屋。巨大なテーブルについたザハリアは、同じくテーブルについたローレットのイレギュラーズたちの顔ぶれを確認した。
「とにかく、話は彼から聞いてくれ」
 ザハリアが手を上げると、後ろに控えていた老人がスッと前に出てきた。
 手にしているのはローレットの酒場に張り出されているのと同じ依頼書だ。
 依頼書の内容はざっくりとしていて、『商人の護衛。終焉獣の可能性あり』というものだったが老人の手にある依頼書にはどうやらもっと細かいことが書かれているらしい。
「これまで、ソラキシャンシキ地区を移動する商隊が幾度も行方不明となっております。
 原因は移動中にモンスターに襲われた、とのこと。
 生き残りから話を聞いたところ、『翼をもった砂の蛇らしき存在が商隊のパカダクラ馬車を破壊するところを見た』と証言しております」
 ならばその翼を持った砂の蛇とやらが今回のモンスターとみて間違い無いだろう。
「昨今、ラサでは終焉獣による被害が相継いでおります。今回の事件もおそらく、終焉獣によるものかと。この翼を持った砂の蛇というのも、終焉獣の一種でございましょう」
 老人の話にローレットのイレギュラーズたちもこくりと頷き合う。実際ラサでの終焉獣事件は後を絶たないのだ。
 他に情報は無いのかと尋ねてみると、老人はこくりと頷いて続けた。
「生存者が何分少ないもので、情報もまた少ないのですが……この『翼を持った砂の蛇』の他に、大量の空飛ぶ蛇の姿があったとも言われております。証言が曖昧なのは、出現と同時に砂嵐に見舞われたためで、生存者も死に物狂いでパカダクラに乗って逃げたためになんとか助かったとのことでございます」
 翼を持った砂の蛇と、大量の空飛ぶ蛇。
 それだけを聞いてもなかなか厄介な存在だ。しかも現れると同時に砂嵐を起こす可能性もあるときた。
 これは、充分な対策をとって戦いに挑む必要があるだろう。
 ……と、ここまでが情報のすべてであったらしく、老人は頭をひとつさげて後ろへさがった。
 コツンとテーブルを叩き、ザハリアが声をあげる。
「情報は以上だ。少なくて済まないが、どうにか次の商隊が無事に目的地へたどり着けるよう、護衛を頼みたい。よろしく、お願いする」
 深く頭を下げ、ザハリアは老人に報酬となるコイン袋を持ってこさせたのだった。

GMコメント

●シチュエーション
 商人を護衛し、現れるであろう終焉獣たちを退治しましょう。
 フィールド効果の砂嵐に注意!

●フィールド
 砂漠地帯ですが、終焉獣のおこすフィールド効果によって特殊な砂嵐が発生しています。
 視界が遮られ、命中・回避などにペナルティがかかります。
 視界に頼らない探知方法をとるなどすることでこのペナルティを軽減することができます。

●エネミー
・有翼砂蛇
 巨大で翼をもった砂の蛇です。砂嵐を起こしている張本人でもあります。
 この砂嵐の中を泳ぐように飛び、牙や砂の魔法によって攻撃を仕掛けてきます。
 特に砂の魔法は未知の領域なのでどんな攻撃方法になるか不明です。注意しましょう。

・砂蛇×多数
 大量にいたといわれる砂の蛇です。身体に巻き付いたり噛みついたりといった攻撃を仕掛けてくると予想され、こちらの動きを鈍らせ戦闘を邪魔してくるでしょう。
 できるだけ早く蹴散らしてしまいたい相手です。

●補足
 依頼は商隊護衛ですが、戦闘中は商隊の人々は逃げてくれるので戦闘に支障はありません。
 ちなみに商隊のリーダーはアミールという男性です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ラケシスの紡ぎ糸>ソラキシャンシキの砂となりて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
プエリーリス(p3p010932)

リプレイ


 パカダクラのひく馬車が、砂をさらさらと踏んでゆく。
 馬車に揺られライフルを肩に立てかけるように持った『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、そろそろだと言ってゴーグルを取り出した。
「それは?」
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)が問いかけると、ラダはゴーグルを被ってみせる。
「砂嵐対策だ。地味だが、効果的だろう」
「あ、たしかにー」
「それにしても……南部の商人への襲撃は一向に収まる気配がないな。
 どれ程の人と荷が失われたことか……そう豊かな国でもないのだから、いい加減にして欲しい所だ」
「だなあ」
 と、『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は黒く長い前髪をかきあげて笑う。
「ラサで流通が潰れんのは、マジできちぃからな。それでなくたって、ラダの商売にも影響すんだろ。さっさと片づけちまおうぜ」
「ああ、本当にそうしたいところだ」

(砂嵐の中…本来であれば自然災害の中での戦闘など自殺行為でしょうが、それが終焉獣の引き起こしているものであれば対処のしようもありましょう。
 さて、本日の天気をひとつ占ってみましょうか。我々の作戦が、吉と出るか凶と出るか……)
 カードで天気を占う『黄昏の影』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。
 今日の天気もからっからの晴れだと出ていた。
 個人的に雨の一番降りそうな日を狙ってきたつもりなのだが、それでもこの結果。実際空を見上げてみれば雲こそあれど晴れた空だ。
「普通の砂嵐なら日常的にありそうなものだけど。中に終焉獣が潜んでいるのか。
 視界を奪われた挙句強襲されるんじゃ困るよねえ。
 あんまり商隊が襲われて流通が滞ると致命的だろうし、さっさと片付けて安全確保しようか」
 『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はハアとため息をついて周囲を見回した。
 砂嵐の気配は、なし。出現と同時に起こすつもりなのだろうか。
「翼のある蛇というと、砂漠より熱帯雨林の方が似合いそうなイメージがありますが、それはともかく。
 出来れば亡骸や荷物、遺品くらいは回収したいものですが、どう考えても砂嵐が邪魔ですね」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)も砂嵐が起きている場所がないか、ファミリアーで鳥を高く飛ばして観察してくれている。
「どうだ、砂嵐だの竜巻だのはあったか?」
 問いかけてくる『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)に、瑠璃は首を横に振る。
 どうやら砂嵐は見えないようだ。
「なら敵が来る前に、雨乞いでもしましょうか」
 『母たる矜持』プエリーリス(p3p010932)が『祈雨術』の準備を始めていた。
 火をたいてその周りをぐるぐる踊りながら歌ったり鐘を鳴らしたりという、なんとも原始的な技である。実際『雨が降ったらいいなあ』という程度の技なのでやり方も人それぞれ、効果もまちまち。その上偶然便りなのである。
 ソアや貴道が一緒になって踊ったり鐘を鳴らし始め、他の面々もたき火を囲むなりして雨乞い(?)を見守っている。
「そいや、前に見た砂の巨人は、冗談半分で言った雨乞いをマジで実行した奴がいて、しかも成功させやがって、弱体化に成功してたぁな。毎度成功するたぁ限らねぇが」
「そんなことが……?」
 ルナの言葉にルーキスが首をかしげる。それこそ偶然の勝利というやつである。
 が、雨乞いはすぐにおわりを告げた。なぜならプエリーリスを始めエネミーサーチをもった仲間たち全員が、『敵の襲来』を感知したのである。
「敵意? それも全方位――」
「おっと、こいつはやべえな」
 プエリーリスとルナがそれそれ背を向け合って構え、ルーキスもまた『星灯の書』を取り出す。
「なるほど、こういう風に襲われたわけか」
 突如――砂嵐が巻き起こる。


「あー、しかしまあ、めちゃくちゃ鬱陶しい砂嵐だな?
 パンツの中まで余す場所なく砂まみれだぜ、嫌にもなるってんだ
 さっさと蛇退治を終わらせて、熱いシャワーを浴びたいところだな!
 所詮は隠れ潜むのが取り柄の爬虫類どもだ、敵じゃねえよHAHAHAごほっ!? 口ん中に砂が!?」
 ぺっと吐き出し、拳を構える貴道。そして目を瞑り、音の反響を確かめる。
 微細だが、砂の蛇が周囲をぐるぐると巻くように飛んでいるのがわかった。それ以上に、大量の空飛ぶ砂の蛇が自分達を取り囲んでいるのを。
「囲まれてるな」
 『理外のインパルス』『十拳大蛇、罷り通る』『殲滅使徒』と付与スキルを連続発動させる貴道。
 そのまま砂の上でザッと鋭く足を踏み出すと、自分めがけて襲いかかってきていた砂蛇をパンチで迎撃した。
「よぉ、小物ども! ゴキゲンかい!?
 てめーら多すぎだ、増えすぎてんじゃねえか?
 ちょっと間引きに来てやったぜ!」
 更に踏み込んで拳を繰り出すと無数の砂蛇を巻き込んで破壊する。
「砂蛇どもが邪魔過ぎる。どうだ、見えてるか?」
「砂嵐に紛れてだが、かろうじてな」
 ゴーグルを装着したラダが『デザート・ファニングSS』で砂蛇を射撃する。連続発射の勢いで銃身が動くが、それを器用に抑えて無数の砂蛇めがけ射撃を実行するラダ。
 そんなラダの動きを封じるべく襲いかかる砂蛇を、ラダは懐から取り出したナイフで切り伏せた。
「いっそ食いでがあるのなら新しい特産にもできるだろうに。
 なんとなく体に悪そうに思えるんだよな。終焉から来た奴だからだろうか」
 倒した蛇を手に取ってみると、さらさらと砂になって崩れていく。これはまったく食いでが無い。文字通り砂をはむような気持ちでそれを払い捨てる。
「敵が散りすぎてる。プエリーリス、誘導できるか?」
「任せて頂戴」
 プエリーリスは砂に足を取られないように注意しながら、『母の呼ぶ声』を発動させる。
 帰巣本能や郷愁を誘い自らの元へと引き寄せるというこの技によって、数匹の砂蛇がプエリーリスへと密集した。
 密集した、その瞬間――有翼の砂蛇がプエリーリスめがけ突進。その鋭い牙をむき出しにして食らいついた。
「っ――!」
 プエリーリスの高い防御能力をもってしても防ぎきれない凄まじいダメージが走る。が、むしろそれは望むところだ。
「有翼砂蛇を見つけたわ。私達押さえ込むから、その間に砂蛇をお願い! ソア、来て!」
「わかった!」
 目を閉じて音の反響と臭いだけで蛇たちの様子を探っていたソアが、有翼砂蛇の位置を正確に割り出して襲いかかった。
「がァーーッ!!」
 有翼砂蛇に咆哮を浴びせ、自分の元へと引き寄せるソア。
 プエリーリスを狙っていた有翼砂蛇はソアに狙いを変更して襲いかかってきた。
 羽ばたき一つで急加速し、ソアの腕に食らいつく。
 防御するソアはその防御力ゆえに多少の牙は通さないが、有翼砂蛇の鋭い牙はそれを貫通してソアにダメージを与えてくる。ぶしゅんと血が吹き出るのを、ソアは自覚しつつも耐えた。
「こいつ! これが砂嵐の原因、きっとそう!」
 反撃とばかりに爪で切り裂くと、砂嵐が若干ゆらいだように見えた。

 一方、護衛していた商人たちをさっさと逃がしたルナは『ハイセンス』によって砂蛇たちの位置を把握すると、ウッドストックライフルを構えた。
「七面鳥ってわけにゃいかねえが……位置が分かってりゃ撃てる!」
 『リコシェット・フルバースト』による範囲射撃を実行。
 跳ね回る弾頭が砂蛇たちを次々と撃ち落としていく。
 プエリーリスの誘導にかからなかった砂蛇がルナめがけて食らいついてくるが、ルーンシールドで防御していたルナには全くダメージはない。どころか、噛みつく寸前のところで体表に纏った結界に弾かれ飛び退く始末である。
 そんな一瞬を狙って、ヴァイオレットが災宝石の短剣を閃かせる。
 衝撃を受けて吹き飛んでいく砂蛇。
 それまで砂嵐の中で気配を殺し『アブソリュート・ワン』を付与し、奇襲の瞬間を狙っていたのである。
「雨は……降りませんでしたか。少しでも環境がかわればよしと思っておりましたが」
 偶然便りゆえにこういうこともあるだろう、とヴァイオレットは嘆息した。
 そんなヴァイオレットの姿を見つけた砂蛇が攻撃を仕掛けてくるが、それをヴァイオレットは短剣を叩きつけることではじき返した。
「さて、視界が遮られるというのも困ったものだ。
 とはいえこれ以上やりようもないし。より羽音の多いところに照準合わせてと」
 ルーキスはケイオスタイドで砂蛇を蹴散らしつつ、有翼砂蛇の気配を音で察知すると『歪曲銀鍵』を発動させた。
 ――捩じれて曲がれ、かの運命。《クラウストラ》深淵は何時も隣にある。資格ある者よ、宿縁よ。彼方からの呼び声を聞け。
 歪曲する空間がズンと響くように有翼砂蛇たちにダメージをあたえ、それに応じてか砂嵐が僅かに歪む。
「これは……なるほどね。有翼砂蛇と砂嵐はどうやらリンクしているらしい」
「なら、有翼砂蛇を先に倒しますか?」
 それも難しいように思いますが……と瑠璃は『ソニック・インベイジョン』と『ジャミル・タクティール』を砂嵐の中でかろうじて見えた砂蛇へ叩き込んでいった。
 幸いなことに有翼砂蛇はソアが引きつけてくれている。ソアの声を頼りに位置を割り出せば、有翼砂蛇に直撃を与えることができるというわけだ。
「息の根と砂嵐を止めて差し上げます。
 数の多い砂蛇に巻きつかれるのは色々と勘弁願いたいですが、目隠し状態で戦うよりはましです」
 『忍法霞斬』を抜刀。仕込んだ単分子ワイヤーが走り、有翼砂蛇へと斬りかかる。


 戦いはまだ続いている。が、その間に邪魔な砂蛇たちは片付いていたらしい。
 残るは有翼砂蛇だけだ。
「うっ……」
 ソアが幾度も攻撃をくらったことで血にまみれ、その血に砂が付着することで体中が砂だらけになっていた。
「おいおい大丈夫かよ」
 ルナがヴァルキリーオファーをソアにかけ、治癒をする。柄じゃねえがと本人は言っていたが、ヒーラー不足の今回のチームにおいては頼もしい限りだ。
「大丈夫。それに――」
 ザザッ――と音を立て、砂が地面へと落ちていく。
「どうやら砂嵐を起こす体力が無くなってきたみたい」
 ソアの言うとおり、有翼砂蛇もまた幾度も攻撃を受けたことで身体をぼろぼろと崩しており、その身体を維持するためにか砂嵐へさくリソースが足りなくなってきていたようだ。
 その代わりにというべきだろうか、有翼砂蛇は凄まじい速さで自らの傷を回復させていく。
「このまま回復させてはだめよ。また砂嵐に逆戻りになってしまう」
 プエリーリスが『クイーンズジャッジメント』を発動。『創造礼装』クイーンオブハートを構えると、有翼砂蛇めがけその鎌を振り下ろす。
 まるで美しい彫刻のような、あるいは砂細工のような有翼砂蛇の鱗。それを切裂き鎌がボディを破壊する。
 反撃にと有翼砂蛇が自らの尾を叩きつけてくるが、プエリーリスは鎌でその攻撃をガードした。
 派手に吹き飛ばされつつも、しかしダメージは少ない。
「畳みかけろってか。了解!」
 ルナも回復から攻撃にシフト、ソアの爪と連携して射撃を打ち込んでいく。
 そんなルナと更に連携したのはラダだ。
 十字砲火になるように位置を整え、ゴーグル越しに有翼砂蛇を睨むと『KRONOS-I』を発砲した。
「余所者が我が物顔でラサの空を飛び回らないで欲しいね」
 ラダの放った銃弾は見事に有翼砂蛇のボディへと着弾。表面装甲を貫通し、内部の砂をえぐって破壊する。
 その傷を急いで治癒しようと穴を塞ぎにかかるが、ラダはそれを許さない。
 素早く飛び出しナイフを突き立てると、傷を治療できないように特殊な力を流し込んだ。
「――!?」
 自らの治癒が邪魔されたことに気付いた有翼砂蛇が攻撃へと移る。
 戦術としては正しいが、ここまでくるともうこちらのものだ。
 貴道は素早いステップで距離を詰めると、パンチの間合いへと入った。
「ユーが親玉だな、雑魚どもは片付けたぜ。
 親玉ってのは責任取るのが仕事なんだ、知ってるかよ?
 ケジメの時間だぜ、命で無能の報いを受けな!」
 貴道の拳が有翼砂蛇の装甲を破り、ボッと音を立てて砂のボディを破壊していく。
 せめて反撃だけでもと繰り出す有翼砂蛇の尾による攻撃は、しかし貴道の素早いガードによって防がれる。
 その間に適切な距離をとっていた瑠璃が『ソニック・インベイジョン』を叩き込む。
 単分子ワイヤーが有翼砂蛇へと回り込み、その身体を切裂きながら急速に距離を詰め、刀身を突き刺してえぐる。
 かと思えば、反対側からはヴァイオレットが短剣を突き刺し抉り、二人は素早く有翼砂蛇から距離をとった。
 ガアッ! と有翼砂蛇が声を上げる。
 どうやらなけなしの力を使って再び砂嵐を起こそうというのだろう。おそらくはそれに紛れて逃げるつもりか。
 が、ヴァイオレットは慌てず、そして空を見上げた。
「どうやら、私達の勝ちのようですね」
 気付けば空は黒雲がさし、突如として通り雨が降り注ぐ。
 有翼砂蛇の起こそうとした弱い砂嵐など、ただの風に変えてしまえるだけの。
「――ッ!?」
 流石にまずいと察したのだろう、有翼砂蛇が逃げようと試みる。
 だが、それを逃がすソアたちではない。
(――鱗を剥いで、肉削いで、はらわたを刻み、骨を断つ!)
 砂の身体とわかっていても、その芯を喰らうつもりで爪を立て破壊するソア。
 なんとか抵抗しようとソアにかじりつく有翼砂蛇だが、もはやそれは最後の、なけなしの抵抗でしかない。
 ソアはかじりついた有翼砂蛇の頭を押さえ込み、ルーキスに見えるように晒す。
 意図を察したルーキスが『禍剣エダークス』を解放。
「キミ達が動き回ってると迷惑だからね、容赦なく叩かせて貰うよ」
 高純度の魔力が凝縮され、宝石を核とした仮初めの剣が作り上げられる。
 それを両手でしっかりと握りしめたルーキスは、剣を暴走させながら一閃。砕け散る剣。爆発したように走る魔力が、ついに有翼砂蛇を粉々に崩したのだった。


「助かりました。俺たちも行方不明になるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ」
 護衛していた商人たちと合流すると、彼らはルナたちに礼を言って頭を下げた。
「まだ気を抜くなよ。護衛の任務はまだ終わってないんだからな」
「そうよ、途中で盗賊が出るかもしれないのだし」
 プエリーリスの言葉に商人たちは表情を引き締める。
「しかし……本当に降りましたね」
 ヴァイオレットが空を見上げると、もう空は晴れていた。
 あの通り雨は雨乞いの結果だったのだろうか。もしそうだとしたら、おまじないをかけた逆さてるてる坊主を作ってきたかいがあったというものだ。
「ねえ、護衛の任務が終わったら、行方不明になった商隊の人達を探さない? せめて遺品だけでも」
 ソアのその言葉に、ルーキスが小さく頷く。
「それも、悪くないかもしれないねえ」
「ええ、次にここへ来るときに色々と回収したいものです」
 瑠璃も同意して頷いた。
「よし、じゃあ、出発しようか」
「だな」
 ラダと貴道も商隊に加わり、そしてまた馬車は動き出す。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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