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シナリオ詳細

再現性東京202X:裏紳士倶楽部

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どこにでもニッチな需要というものはあるもので
「裏紳士倶楽部、というものがあるのをご存じでしょうか?」
 カフェ『ローレット』を訪れたスーツ姿の若い男性は、情報屋の男を前にして神妙な顔でそう切り出した。
 顔が整った情報屋の男は僅かに眉根を寄せるだけ。隣に座る『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)はあからさまに嫌な顔をしていたが。
 ジト目で睨みつけるほむらの視線に、依頼人らしき男は顔を変えない。
「何、それ。いかがわしいのはやめてほしいんだけど」
「これは失敬。誤解を与えたようだ。
 いえ、裏紳士倶楽部とは言いますが、実態は何の事はない。ただ高校生以上の女性を眺める事に特化した、所謂骨なしチキンの野郎共の集まりです」
「ほ、骨なしチキン……。ええと、続けて」
 サラリと言われた毒舌に口の端が引きつるのを覚えつつ、話を続けるよう促す。
「はい。週末の夜、彼らの倶楽部の使いが女性達を呼び込んで引き入れ、とある部屋に誘導し、そこで行なわれる事をマジックミラーで眺めるという、所謂覗き、というやつでしてね」
「……確認の為に聞くけど、どう言って勧誘したの?」
「『ダイエットの為の運動モニターを十万で引き受けてくれる人を探している』というような謳い文句ですね。モニターのバイト、という体で呼び込んでいるようで」
「はぁ……」
「そして、彼女達が連れ込まれた先は、とあるビルでのトレーニングルームでしてね。そこにはルームランナーやエアロバイクなどの機器がありまして」
「待って? 比喩でもなんでもなく、本当に運動をさせてるの?」
「だから言ったでしょう? 所謂骨なしチキンの野郎共の集まりだって」
「え、えぇぇ……?」
 言葉に偽りなしという事態に頭を抱えそうになる。
 今まで黙っていた情報屋の男が「なるほど」と呟いた。
「最初にサクラの女性達を混ぜて体験させ、口コミで広ませたって所かな?
 それで、多分合言葉的なものを用意して、それと合致した客を呼び込んでいる。似たような条件を持った本当に危ないものと区別を付けるためにだろうねえ」
「なんで詳しいの」
「噂なんてものはどこにでもあるものだよ?」
「…………それはそれとして、解せない事が一つあるんだけど」
「何だい?」
「どうして女性達が運動する様を見たがるわけ?」
 ほむらの尤もな疑問に答えてくれたのは依頼人の男だった。
「ああ、女性達には、今はもう無き文化のブルマを穿かせたり、少し小さめの体操服を着せたりしておりまして。所謂身体的特徴を強調させた姿で運動している様が見たい、というニッチ需要でして」
「ただの変態の集まりじゃないか!」
「だから『裏紳士倶楽部』なんですよ」
「うわぁ」
 ほむら、ドン引き。
「モニター対象にしているのは女性が多いですが、中には少年も混ざっているようで。ただ、こちらの年齢は幼く見える事が条件らしく、成人以上というか高校生以上はお断りされてますね」
「本当に需要がニッチ」
「大半は彼女達が二、三時間ほど運動している姿を見るだけで満足するんですが、中には更に金を積んで女性を別室で一晩中トレーニングさせる事もあると。そしてまたその様をカメラ越しに覗くと」
「……そっちも本当の意味でトレーニングを?」
「ええ。なんでも輪っかを持ってトレーニングしたり、ボクシングでのトレーニングをさせたり、だそうで。それらを間に二時間のインターバルを挟んで一時間ずつさせているそうで。あと、ちゃんと最後にお風呂やシャワーとか入れてますよ」
「変態っていうか、鬼じゃん?!」
 キツい。それは絶対にキツい。翌日筋肉痛で死んじゃうやつ。
「で、本題を言ってもらおうか。
 その裏紳士倶楽部とやらをどうしてほしいんだい?」
「潰していただきたく。こんな変態的行為をする倶楽部など、許しがたいのです」
「えーと、差し支えなければ、理由を聞いてもいい?」
「単純な話です。自分の嫁がそのモニターに参加しまして。
 嫁の運動してるあんな姿やこんな姿を自分以外に見られるなんて! 許せません! 自分のような被害者をこれ以上出すわけにはいきませんので、どうか、お願いいたします!」
 頭を下げられては、無下にも出来ない。
 仕方なく、承諾するほか無かった。

●というわけで、潜入しましょう
 ほむらに呼ばれて集まったイレギュラーズは、話を聞いて呆れるやら怒るやら、である。
「何、その、変態的な、うん、変態的なのは……」
「二回も繰り返さないでよ。変態的なのは認めるけど。
 とにかく、そういう事だから、『裏紳士倶楽部』を潰すしかないよ」
 溜息交じりに返された言葉に、誰もが深いため息を零す。
「で、どうやって潜入するんだ?」
「そこは情報屋さんと依頼人の助力のおかげだね。
 男性は倶楽部の客もしくはスタッフとして潜入、女性や少年などはモニターとして勧誘された体で潜入だよ。
 女性側の方は、最初は一般人の女性達と一緒に運動してくれればいい。途中で男性側でアクションを起こすから、一般人女性達の避難誘導とかをしてくれれば助かるよ。その後で男性達をとっちめるのに参加してくれれば。
 ああ、そうそう。トレーニングを指示してくれるトレーナーさんも女性だってさ」
「変なこだわり……。で、男性側の方で頃合いを見て騒ぎを起こしてもらうのでいいの?」
「そうだね。どんな騒ぎを起こすかは任せるよ。偽のボヤ騒ぎでもいいし、何かあった体にしてくれれば。そのどさくさに客を締め上げて裏紳士倶楽部を解散させる、というのが今回の作戦かな」
「随分曖昧な……」
「急な依頼だったからね。作戦もそんなに細かく詰められなかったんだよ」
 肩をすくめてみせるほむらに、「仕方ない」と、同じように肩をすくめるイレギュラーズ。
「でも、そんな簡単に解散できるものなの?」
「私達が潜入する日に、裏紳士倶楽部のボスというか設立者が居るんだって。そいつを締め上げれば一発だと思うよ」
「ふぅん、ところでほむらはどっちにつくの?」
 見た目は女の子に見える男の子、ほむら。
 彼は果たしてどちらにつくのかと思っていたが。
「残念ながら、私はいざって時の連絡係なので、外に待機だよ」
「ずるい!」
 イレギュラーズの抗議の声に、舌を出して笑うほむらだった。
 に、憎らしい!

GMコメント

 なんか突然降ってきました。一応コメディシナリオです。コメディ……コメディかな。うん!!!!
 健全な肉体に健全な魂は宿ると言いますが、果たして今回の場合は……。
 何はともあれ、『裏紳士倶楽部』をぶっ潰してしまいましょう!
 ちなみに、古里兎はルームランナーをやったら絶対途中でバテて動けなくなります。体力ゲージが増えません。
 あと、ブルマの裾を直す仕草のイラストはへっちだと思いませんかあなた。

●成功条件
 裏紳士倶楽部を潰す

●男女の潜入役割
 男性:スタッフ、もしくは客として潜入。頃合いを見て男性側から事件を起こしてください。
 女性:モニター役として潜入。最初は普通に運動してください。事件が起きたら避難誘導後、男性側と合流して裏紳士倶楽部の人達をとっちめましょう。

●裏紳士倶楽部
 マジックミラー越し、あるいはモニター越しに女性が運動している様子を覗き見る、という目的で集った変態達。汗だくになる姿が美しいと考える人達です。
 鼻の下を伸ばすぐらいしか出来ず、女性達や美少年に触れようという気概も無いです。
 ただ、とっちめる際に女性達からお仕置きを受けるとご褒美と感じる可能性はあります。
 今回は裏紳士倶楽部のボスが同席している為、お仕置きすれば解散に応じてくれるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度は「H(ENTAI)」です。

 それでは、皆様、全力でぶっ潰して参りましょう!

  • 再現性東京202X:裏紳士倶楽部完了
  • ニッチ?
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
ケドウィン(p3p006698)
不死身のやられ役
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

サポートNPC一覧(1人)

暁月・ほむら(p3n000145)
性別に偽りなし

リプレイ

●いざ! トレーニング!
 女性トレーナーに案内されて通されたのは、様々な筋トレグッズや機械が設置されたトレーニングルームだ。
 更衣室は若干手狭だったのものの、着替える分には申し分なく。少し小さめの体操着を着て、女性イレギュラーズと一般人女性達はトレーニングルームに足を踏み入れた。
 『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は自分に出来そうな物を探る。スピードさえ気をつければ、使えそうなのはルームランナー辺りだろうか。
「吐血しないように気をつけませんと」
 小さく呟いた言葉は、トレーニングルームを見て感嘆の声を上げた女性達の黄色い悲鳴にかき消された。
 その中で、『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)が、ほんの小さな呻き声を上げる。
「これ、ちょっとキツすぎるわね。
 食い込みもヤバいけど、なんていうか、色々はみ出しちゃうんだけど! 小さめを渡すにしたってもう少しサイズ無いワケ?」
 悲鳴の理由は着ている体操着ことブルマである。何がとは言わないが、色々とでっかい彼女には少しキツい。
「実はそれが一番大きいサイズでして……」
「そうなの? ……仕方ないわね」
 はぁ、と溜息をつく京の近くで詩織の目が妖しく輝く。落ち着いて詩織さん。ラスボス認定にはまだ早いよ!
 似たような理由で詩織から一種の感情を向けられそうな発言が、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)から発される。
「ん、少しキツいな……」
 体操着をブルマにインした為に、ギフトで一部を大きくしたお山が強調されている。あっ、詩織さん、髪をうねらせるのはもう少し待って、落ち着いて!
 天の助けか天然か。『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)が明るい声で「トレーニング頑張るのですよ!」と叫ぶ。
「えい、えい、おー! なのですよ! メイは早速ルームランナーというものにいくのです!」
 そう言ってルームランナーの路面に上がり、操作部分を確認する。なんとなく、この部分を押せばこう動くのだろう、という勘は働く。
 ただ、悲しいかな。人間の普通の速度がどんなものかを知らない彼女は、当然此処でもその天然ぶりを発揮する事になる。
「んー……とりあえず、レベルMAXでやるのですよ!」
「えっ?」
 素っ頓狂な声を上げたのは女性トレーナーだ。
 見た目は高校生だと主張する美少女がレベルMAXのルームランナーをやると聞いて、慌てて止めようとする。しかし、間に合わなかった。そして、みるみる内に目を瞠る。
 レベルMAXの速度に負ける事なく走る姿を見て絶句した様子の彼女。
 目の前の事が信じられない彼女に、『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)が「あの……」と声をかける。
「このエアロバイクなのですが、負荷とやらがよくわからなくて……」
「あぁ、こちらはですね」
 半分くらい現実逃避に走っているトレーナーがエアロバイクの説明をする。
 乗りながらふんふんと聞き、実際に漕いでみるリディア。
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は、周りを見回してから、筋力トレーニングをしている京に視線を向けた。
「京さん! トレーニングのやり方教えてくれるかな?!」
「いいよ! じゃあまずはスクワットから!」
 バーベルを持ったスクワットをしようとして、初心者でいきなりはやめるようにと止められた。自重でのスクワットを教わる事になり、呼吸の仕方を教わりながらゆっくりと腰を落とす。
 京も手本として自分も腰を落として――――びりっ
「えっ、まって、どこ! どこ破けた?! ちょっと力んだだけなのにー!?!!」
 彼女が上げた悲鳴を聞きつけて、トレーナーが慌てて替えを用意しにいくのだった。
 その騒ぎに紛れるように、詩織がするりとトレーニングルームを出た事を、一般人女性達には気付かれなかった。


 マジックミラーの向こう。つまり、客こと裏紳士クラブ会員達の殆どが集う部屋にて。
 スーツで決めて堂々と座る男――『不死身のやられ役』ケドウィン(p3p006698)は、マジックミラーの向こうで展開される女性陣のトレーニング姿を目を細めて眺めていた。
(汗だくになって運動する女の姿を見て楽しむ……だと……? くっ……がっつり見たいが、それやると後でヤバそうだからな)
 少しだけだが、彼等の嗜好に共感できなくは無い。出来る事なら細めた目をかっぴらいて網膜に焼き付けておきたいくらいだ。
 でも出来ない。なんていったって、あちらに居る殆どがイレギュラーズである。がっつり見るなんて事をして、バレたら自分も巻き込まれかねない。
 客側の部屋はいたって簡素だった。リクライニングシートが八人分程並べられており、サイドテーブルもついている。部屋の隅には飲み物を入れた冷蔵庫や食器棚などもあった。その横には飲食を提供する為のウェイターが一名。会員はそこから好きな飲食物を彼に注文して持ってきてもらい、それぞれで寛ぎならマジックミラーで女性達の運動する様子を眺めるというシステムらしい。
 集っている面子をさりげなく観察する。意外にも此処に今日集っている男性達は、皆腹を弛ませたりなどしておらず、引き締まった体躯にカッチリしたスーツを着用していた。一応『紳士』としての矜持とやらを持っている、らしい。そのせいか、どれがボスだか分からない。
 自分ともう一人のイレギュラーズを含めて、今夜の席は満席。つまり、残り六人の内どれかになるのだが。
(しかし、こいつに関してはどうしたもんかね)
 ケドウィンがやった視線の先では、他の客を二人挟んだ先のリクライニングシートにちょこんと腰掛けた、可愛らしいワンピースを着た美少女がニコニコとした顔でマジックミラーを見つめている。
 正しくは、美少女ではなく、美少女に見える男性、なのだが。
 そう、男性、である。着ている物が女性物なのは趣味という事でこの場を通し、リクライニングシートにちゃっかり座り込んでいた彼は、『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)だ。今の姿は変身中で、元の姿は初見さんには恐怖を与える事必須な衝撃的な姿である。
 変身時は男性体だが、元の姿に性別というものは無いそうで。また、その名の通り、様々な物を観測中、らしい。今回の事もそれに含まれるのだろうか。
 とはいえ、自分のように変態的な嗜好を持っている様子ではないので、恐らくこの後女性陣に見られているのを知られたとしても特には罪に問われなさそうな気がする。大変に羨m、こほん。
(まぁ、どうにかなるだろう)
 元の姿が元の姿だ。おそらく騒ぎを起こす時には彼もアクションを起こしてくれるだろうと信じて、ケドウィンはマジックミラーの向こうへと視線を戻す。京が直すブルマの食い込みに目がいきそうになるが、どうにか堪えた。
 一人奮闘しているケドウィンを余所に、観測端末は部屋の中をさりげなく見る。ざっと見てみた限りでは、どれがボスかは観測端末にもわからなかった。
(紳士が居るなら淑女も居るのでしょうかと思いましたが、全く居ませんでしたね)
 その辺りは安堵すべきなのか判断に迷うところである。
 とはいえ、マジックミラーの向こうを眺めている自称紳士達の表情のだらしなさに、「なるほど、裏紳士とはそういう……」と納得をしてしまったりもするのだが。いや、納得しないで?
 マジックミラーの向こうでは相変わらず女性達が運動を続けている。
 健気に運動を頑張るメイやソアが汗を流す姿や、エアロバイクを漕ぐモカ、恥じらうように体操服の裾でお腹を隠そうとするリディア。
 重量上げよりも腕立て伏せをする事にした京。息切れを起こし、トレーナーの助けでベンチに座っている詩織。
 イレギュラーズでも全ての女性達も、汗で衣服が肌に貼り付いている。そのせいで若干体型に予想が出来るようになってしまっているのだが。
 さておき、そんな姿にも興奮している男共が居るのだから、裏紳士倶楽部恐るべしである。
 イレギュラーズの数人がチラチラとこちらを見ていた。ブルマの食い込みを直したり容姿を確認するなどして、男性陣の様子を伺っている事を知られないように誤魔化していた。
(それにしても、ケドウィンサンはどのタイミングで事を起こすつもりなのでしょうか)
 それに合わせて自分も行動を起こすつもりでいるので、タイミングは彼頼りなのだ。
 などと考えていると、ケドウィンのいる方向から声が聞こえてきた。耳をそばだてると、どうやら「もっと近くで見せろ」などといちゃもんをつけているようだ。
 困った様子のウェイターを助けるかのように、一人の男が立ち上がり、ケドウィンの肩を叩く。ちょび髭を生やした少し渋めなオジサマだ。
「まあまあ、落ち着きなさい。紳士たるもの、駄々をこねてはいけないよ」
「……アンタ、誰だ?」
「ああ、初参加の人か。私はこの倶楽部の会長を務めさせてもらっているものだよ」
 おっと、意外と早くにボスが判明したぞ?
 ラッキーな展開にケドウィンはほくそ笑み、一度だけ視線を観測端末へと送る。目が合い、頷く観測端末。
 引き続き注意を引きつけるべく、ケドウィンはいちゃもんを再開した。
「覗いているだけじゃ飽きてきたんでね。出来ればもっと近くで見たいもんなんだがな?」
「それはこの倶楽部の理念に反する。このまま主張を続けるのであれば今すぐ退室を命じても――――」
 いいんだぞ、という言葉は、突如ボス紳士の後方からした「うわぁぁぁ!」という叫び声で遮られた。
 マジックミラーは防音ではない。こちらが騒げばあちらに聞こえる。
 一体何事か。落ち着きなさい。
 振り向きざまにそう言おうとしたボス紳士の言葉はついぞ発される事は無かった。
 その先にあったのは、縦になった単眼の眼球と、その周りにタコのような触手が生じている姿で。
「ひ、う、うわぁぁぁぁ?!?!」
 情けない悲鳴が部屋中に響き渡った。
 なお、その姿は先程まで美少女のような少年に変身していた観測端末の元の姿であるのだが、ケドウィン以外の男性達にそれが分かるはずもないのだった。


 マジックミラー越しに聞こえてきた悲鳴に、男性人からの合図だと理解した女性イレギュラーズが顔を見合わせて頷き合う。
 まずは女性トレーナーを含めた一般人女性達を避難させねば。
 真っ先にリディアが声を張り上げる。
「何かトラブルが起きたようです。この格好のまま外に出るのも問題がありますし、ひとまず更衣室に行きましょう」
「そうだね。逃げるにしても着替えておきたいし」
 モカが同意する事で、女性達の意識も同意する方向で傾いたようだ。女性トレーナーもやや不安げで、そんな彼女にメイが「大丈夫なのですよー」と屈託のない笑顔を見せる。
「皆さんこちらなのですよー、焦らなくても大丈夫なのですよー」
 のんびりした口調で避難を促し、更衣室へと誘導する事に成功する。
「この部屋なら大丈夫かと思いますが、私達以外の声がしても決して開けないでくださいね」
「え、でも、あなた達は……?」
「こういう非常事態の訓練を受けたプロなので、大丈夫です」
 リディアが大きく頷いたと同時に、先程まで居たトレーニング室から「どぉりゃあああ!!!!」という大声と共に、大きな物体を壊すような音がした。
 一瞬だけ振り返り、すぐに視線を戻す双方。
「……大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
 半分くらいヤケクソな返事をしたリディアだった。

 トレーニング室に戻ると、マジックミラーであったと思われる鏡のあった場所が大穴を開けるように破壊されていた。こんな馬鹿力でやったとしか思えない所業をしたのは京だろう。
 中を見れば、並んで仁王立ちするソアと京の姿。入口を見れば、しれっとトレーニングルームを出ていた詩織が美しい黒髪でドアノブを握り、微笑んで立っていた。ウェイターらしき男が床に伸びている。何があったんだろう。ケドウィンもマジックミラーの下敷きになって伸びてた。合掌。
「てめーらいいか、見ての通りアタシはちょー美人でセクシーだ、わかるな?」
 こくこく。
 無言で頷く男性一同。
「だから寛容なの、アタシに見惚れるのは仕方ない事だから!」
 ドヤァ! という顔で自分の顔を親指で指差す京。
 横ではソアがうんうんと頷いている。子分かな?
「だが見るなら正面から見ろ、こっそこそしやがってゴキブリかオノレ等は!」
 だん!
 踏み鳴らした衝撃で男性達が座ったまま跳ぶ。衝撃にか、それとも京の迫力にか、「ひぇっ」という声が聞こえた気がする。
「歯ぁ食いしばれ、一人ずつ根性叩き直してやる!」
「ふっふーっ、天国と地獄を一緒に味わわせてあげる」
 怒りの表情の京と、ニコニコ笑顔のソア。あまりにも対極な組み合わせに誰からともなく「わっ……」という声がした。かわいくてちいさきいきものかな?
 ばちーん! と大きな音を立てて男が一人吹っ飛んだ。京の右平手打ちだ。吹き飛んでいった男に近付き、胸ぐらを掴んで持ち上げると「頬出せ頬! 右頬ぶん殴られたら左頬も出すんだろうが!! ああ!??」と迫る。京さん、今あなたがひっぱたいたのは左頬です。落ち着いて。

 もう一人にはソアがチョークスリーパーをかましている。締め上げているにもかかわらず、どこか少し嬉しそうなのはソアから漂ういい匂いに気付いたからだろう。それを見ていたメイが「あれ?」と首を傾げる。
「お兄さん、なんで笑ってるですか? 駄目ですよ、悪いことしたのですから、めっ、なのですよ」
 そう言ってふくれるメイの可愛らしさよ。男の鼻の下が更に伸びた。
 困ったような顔をして、メイはソアに聞いてみた。
「どうしましょう?」
「お仕置きすればいいと思うよ」
「わかりました。では、メイもぽかぽかするのですよ」
 宣言通りにぽかぽかと叩くメイ。えいっと振り下ろした先が鳩尾だった事が男の不幸だった。
 潰れたような声を上げて意識が刈り取られた男を見下ろす二人。それから顔を見合わせて。
「……とりあえず、置いておこっか」
「賛成なのですよ」
 そんな訳で、男は床に放置される事となったのである。可哀想に。今後放置プレイに目覚めなければいいね。

 別の男相手には、モカが対峙していた。
「ふむ、お仕置きか。一般人だし、流石に手加減しないとだね」
「一体何を……?!」
「大丈夫。ちょっと痛い思いをするだけだ。そう、こんな風にね」
 言いながらボディーブローを一発。
 至近距離からの一撃は、手加減したとしても一般人には割と気絶ものなのである。
 かくして、あっという間にお仕置きが終わってしまい、首を傾げるモカさんでしたとさ。

 逃げようとした男が居た。
 その判断は賢明だ。この場は強い女と得体の知れないものが支配してしまったという認識は概ね正しい。
 だからこそ、一刻も早くこの場から立ち去る為にこの部屋の入口へと向かったのだ。
 しかし、そこには一人の女が立っていた。射干玉の髪を持つ美しく、儚げな女。
 男は暫し彼女に見蕩れた。先程マジックミラー越しではよくわからなかったが、改めて見ると溜息をつきたくなるほどの美貌である。
 女が微笑みかける。それにほぅ、と感嘆の声を漏らすと同時に、男の視界を黒きものが覆った。
「大丈夫ですよ」
 黒い視界の奥で女の笑う声がする。
「傷つきはしても、これで死に至る事はございませんから」
 その黒き視界がその後も数度男に迫るのだが、それは詳しくは語らずとも良いだろう。
 女――――詩織は、頬を少し朱に染めながら「うふふ」と短く笑うのだった。

 残るはボス格の男のみ。
 観測端末の本来の姿を見ても気絶せずに済んでいる辺り、強靱な精神力だと思う。
 床に転がる死屍累々(生きてます)。
 人外めいた化け物達(普通のイレギュラーズです)。
 「一体何なのだ」という言葉を発する前に、後ろから羽交締めにされていた。今の今まで伸びていたケドウィンである。
「流石にここらで一役買わねえと男が廃るんでな?」
「放せ!」
「放してもいいが、約束してもらおうか。裏紳士倶楽部を解散するってな」
「な?! そ、そんな事、許可出来るはずが」
 ないだろう、という言葉を飲み込ませたのは、観測端末から伸びた触手がボスの頬を撫でたせいだ。タコのように見えて微妙に違う感触に本能的な恐怖を感じたか、「わかった!」と叫ぶ。
「解散する! するから放してくれ!」
「はいよ」
 言質を取った事を確認し、ケドウィンの両手がボス格の男から離れる。
 すぐに逃げ出した男に若干の混乱があったのだろう。彼は進行方向にリディアが居るのを見つけると、「可愛い!」と叫んで両手を広げ――――
「イヤ?! 変態止まれ!!」
 リディアの悲鳴と同時に木製の盾が男の顔を大きく打ち据えた。
 なかなかの威力を誇った一撃が、男を床に舐めさせた。

 後日、裏紳士倶楽部が正式に解散した事を依頼人から伝えられ、「ああ、良かった」と胸を撫で下ろしたのは言うまでもなく。
「……いい、んだろうな……」
「どうしたの、ほむらくん?」
「いや、だって、今回の依頼人、やけに倶楽部の内容とか協力が出来る理由とか考えると……ねっ?」
「あっ」
 きっと、それは知らぬが花。
 永遠の闇に葬るべきものなのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
無事に裏紳士倶楽部は壊滅いたしました。
もしかしら今後第二第三の裏紳士倶楽部が…………やめましょう。出ても困る。
かくして変態は成敗されたのでした。めでたしめでたし!

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