シナリオ詳細
集落を作ろう。或いは、砂漠の蛮族と理解しがたい女の浪漫…。
オープニング
●故郷を作ろう
「私の故郷は、砂嵐を超えた先にある。小さく、貧しく、そして文明を知らない集落だ」
そう言ったのは、褐色の肌に、灰色の髪、2本の曲がった角を備えた獣種の女性だ。
名をヘイズルという、砂漠の国の旅人である。
「はぁ……そうっすか。えっと、バロ……何とかって言う」
「バロメッツだな。私の故郷では、部族のことをそう呼んでいる」
「あぁ、そう。バロメッツっすね。それで、そのバロメッツがどうしたんっすか?」
そう尋ねるイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の声は揺れていた。
ヘイズルの脇に抱えられた状態で、砂漠を運ばれているからだ。
ヘイズルが歩くたびに、イフタフの声が揺れるのだ。
「自分のバロメッツを作るのが目標だったんっすよね?」
「うん。そうだとも。そしてここが候補地だ」
そう言ってヘイズルは、イフタフの身体を地面に降ろした。
両手を広げたヘイズルは、まるで子供が自分の宝物を自慢するみたいな顔をしている。
「はぁ……っすか」
見渡す限りの乾燥した土地。
痩せた樹々と、少しの草が疎らに生えている。少し遠くの方には牛や、猫に似た獣の影が見えた。アレが何なのかは知らないが、警戒したような視線をヘイズルの方に向けていることだけは理解できる。
人を見たことが無いのかもしれない。
「危険は無いんっすか?」
「あるとも。危険を侵さずに手に入れられる者など無い」
「なんでそんなところに連れて来たんっすか?」
乾いた土地に連れて来られたのはイフタフだけではない。
何人かのイレギュラーズも、ヘイズルに……正確にはヘイズルの依頼を受けたイフタフに……呼ばれてこの土地にやって来ている。
今は拠点となる簡易テントの設営中だ。
「何度もお前たちと関わるうちに確信したのだ。お前たちは皆、強く気高い戦士であると」
「……はぁ」
「つまり、お前たちなら私は心からバロメットとして迎えいられられる」
バロメット。
ヘイズルの故郷の言葉で“部族の民”を意味している。
バロメッツが“故郷”や“集落”で、そこに住まう者たちが“バロメット”だ。
「えっと……つまり?」
「ここに私たちのバロメッツを作ろう! ここから全てを始めよう!」
どうやらイフタフたち一行は、ヘイズルの村造りに巻き込まれたらしい。
●理由がある
ラサの南端にある街から、馬車に乗って丸2日。
交易路から大きく外れた場所にヘイズルの“バロメッツ”候補地はあった。
見たところ、資源の類はあまりに乏しく、渇いた地面の様子から水も手に入れにくい土地であることが分かる。
おまけに交易路から外れているとなれば、なるほど砂漠の民にとってこの土地はあまり“魅力的”な風には思えないのだろう。
「さらに言うなら、アレ……アレ、なんっすかね?」
そう言ってイフタフが指差したのは、半ばほど地面に埋もれた鉄や木材の塊であった。近くに行って調べてみないことには何も言えないが、どうも巨大な馬車か何かの類に見える。
だが、明らかに様子がおかしいのだ。
巨大な何かに踏みつぶされでもしたかのように、破損し、折れ曲がっているのだ。
「ヘイズルさんは、アレから資材を取ればいいって言ってましたけど」
たしかに資材は取れるだろう。
資材の状態に目を瞑れば、まぁ、幾つかの家屋や柵を用意するだけの資材は確保できるだろう。
「問題があるとすれば、これを踏みつぶした何かっすよね。見たところ【必殺】と【致命】が付いてそうな感じっす」
加えて、的確に“巨大な馬車か何か”だけが踏み潰されている点も気にかかる。
実行犯……その胡椒が正しいかどうかは別として……は、正しく“人の手により造られたもの”だけを狙って、破壊行動に及んだ節があるのである。
「そこら辺をうろついている獣の類も、【流血】ぐらいは持ってそうですし……ヘイズルさんは“いい土地だ”って言ってましたけど、正直、砂漠の蛮族の価値観とか浪漫は理解できないっすね」
とにもかくにも、今回の依頼は既に受けた後である。
受けた以上は達成しなければならない。
「とりあえず、どうにか夜になる前に柵と拠点ぐらいは準備してしまいたいっすね」
夜になれば、どんな危険が訪れるか分からない。
有り体に言えば、イフタフはさっさと帰りたいのだ。
- 集落を作ろう。或いは、砂漠の蛮族と理解しがたい女の浪漫…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年12月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●バロメッツ
「ここにバロメッツ(集落)を作ろうと思う!」
大仰な仕草で両手を広げ、ヘイズルは声も高らかに告げた。
乾いた土地だ。辺りには埃っぽい風が吹いている。周囲にあるのは下草と、幾らかの木。それから野生の獣ばかりと、とてもじゃないが人が住むのに向いているとは思えない。
「お、いよいよ土地を見つけたか。また何かありそうな所だがここが気に入ったんだな?」
辺りの様子を見まわして、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)はそう言った。ヘイズルとは何度か顔を合わせた仲だ。彼女が自分の集落を作ろうとしていることは知っていたし、これまで何度か集落を作ろうとして失敗していることも知っている。
「土地がやせているのはまだいいですが、危険な生き物の生息域を拠点にするのは、正直お勧めできません。休息する場所であって、修行のための場ではないんですから」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)の言葉を受けて、ヘイズルは深く頷いた。この見渡す限りの痩せた土地が、人の住処に不向きなことはヘイズルとて理解している。
「過酷であるだろう。困難は幾つも私の前に立ちはだかる。だが……集落とはそう言うものなんだ。人の住める地には、もう誰かが住んでいるだろう? そこに間借りするんじゃ、わざわざ故郷を出てきた意味が無いじゃないか」
西の方へ視線を向けて、ヘイズルはそう呟いた。
おそらく、そちらの方角に彼女の故郷が……家族や仲間の住まう土地があるのだろう。
「それに、見ろ。ちゃんとあなた達が、いい方法を考えて来てくれたじゃないか」
ヘイズルが指差した先には、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)と『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)がいた。
「ざっくざっく~~♪」
「どんな部落になるかわからないけど、構築に一生懸命頑張るのネ」
ソアは爪で地面に穴を掘っていて、エステットは木材を運んでいる。既にヘイズルの住処を用意し始めているのだ。迅速な対応に、ヘイズルも大変満足そうである。
「……なるほど」
上機嫌に砂を掻き出すソアの方を一瞥して、『黄昏の影』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が溜め息を零す。
なるほど確かに、身を隠す場所が無いのなら“身を隠せる場所”を作ればいいというのは道理にかなっているように思われた。
「砂漠に斯様な地があるとは……現地の旅人の嗅覚には舌を巻くものです」
地下に隠れ家や、寝床を用意しておけば、就寝中に獣の襲撃を受けるリスクも減らせるだろう。
「しかしながら不穏なる気配もまた、感じます。さて……この地は吉凶、どちらを指し示しているのでしょうか」
だが、身を隠す場所、住まう場所を用意するなど、幾つもある問題の1つに過ぎない。
「まったく、今度はどこから仕入れた情報なんだか……これは現地調査も必要になるか?」
『バロメット・長い旅路の同行者』アルトゥライネル(p3p008166)が気にしているのは、バロメッツ予定地から少し離れた位置にある巨大な何かの残骸であった。
見たところ、巨大な生物により踏みつぶされた馬車か何かのようである。つまり、姿こそ見えないが、この土地にはそれを仕出かすことの出来る何かが生息しているということになる。
友好的な生物であればいいのだが……。
「あの感じじゃ、どうもそう言う風じゃなさそうだ」
無事に拠点を構築できればいいのだが。どうにも事はそう上手く運びそうにない。
同時刻、『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)と『譲れぬ宝を胸に秘め』オセロット(p3p011327)は、集落建築予定地から遠く離れた場所にいた。
「また面倒事かよ、あの女は」
「こんな辺鄙な土地に村を作ろうってんだから相当根性があるな、あの姐さん」
ルナが周囲を警戒している。そのすぐ後ろでは、ドレイクチャリオットに騎乗したオセロット。現在2人は、オセロットのドレイクチャリオットで大量の木材を運んでいた。
もちろん、集落の建築材料とするためだ。
「まさかここにも例の怪しい月刊誌の情報があったりすんじゃねぇだろうな? 人が住んでない土地を探してたらしいが、まぁ、人が住まないのにはそれなりの理由があるってことなんだろうぜ」
「それで寝床と獣避けか? 必要な物はごまんとあるがとりあえず寝床と獣避けってのは賛成だな」
そう言ってオセロットは額に滲んだ汗を拭った。
ラサの土地は、どこに行っても日差しが強い。なるべく早く、安心して休める場所を用意しなければ、どうにも体力が持ちそうになかった。
資材の搬入が終われば、次は獣対策の罠を張ったり、危険な獣を排除したりする予定だ。まだまだ仕事は山積みなのである。
●乾燥地帯への進出
積み上がった廃材の山。
巨大な馬車のような何かの残骸から回収してきた“比較的、状態の良い部品”である。大半はすっかり破損し、もはや焚き火の薪ぐらいにしかならなかったが、何しろ元が巨大なのだ。母数が大きいだけに、使えそうな廃材もそれなりの量が回収できた。
「しかしこの馬車のよう奴、こんな所に何の用事だったのやら」
残骸の山を睥睨しつつ、ラダが言う。
ヘイズルがバロメッツを作ろうとしているこの土地は、交易路にも掠っていない辺鄙な場所だ。このようなところに用事がある者などおらず、ラサに長く住むラダでさえ、今日、この日に初めて訪れたほどである。
そんな辺鄙な土地に、巨大な馬車を走らせるなど、一体何の目的があったのか。
「これ……」
悩むラダのすぐ隣で、瑠璃が何かを見つけたようだ。
廃材の山から瑠璃が引っ張り出したのは、少し歪んだ鉄の棒らしき部品である。
「檻か何かの部品ではないでしょうか」
「檻? となると、アレは動物を運んでいたのか?」
「運んでいたというか、運ぶ予定だった……のかもしれませんね」
そう言って瑠璃は周囲を見渡す。遠く離れた場所には、大型の猫科動物がいた。
「捕まえて売れば、幾らぐらいになりますか?」
「……なるほど。金持ちには高く売れそうだ」
「ずぅっと穴を掘っているけど、退屈じゃないノネ?」
穴を掘っているソアへ向かって、エステットがそう問うた。作業の開始から既に1時間ほど経っているが、その間、ソアは一心不乱に地面に穴を掘っている。
乾燥した硬い地面だ。ソアの爪があれば、穴を掘る程度は雑作も無いが、それでもやはり大変だろう。しかし、エステットから手渡された水筒を手に取りソアは笑った。
「ヘイズルさんは『安心して眠れる家屋』が欲しいと言っていたから地下室はどうかしらと思ったの」
「確かに安らげる場所は大事デス」
「うん。そうしたらラダさんもいい案だと言ってくれたんだ。こういうことで褒められるのあんまり無いからとても嬉しくて」
水筒の中身を半分ほど飲み干すと、ソアはそれをエステットへと返した。
それから、泥だらけになった自分の手を見て、ソアは笑う。
「だから、力仕事も退屈も少しも辛くないよ!」
そうして再び、上機嫌に穴を掘り始めるのであった。
巨大な馬車のような何かの残骸は、それ以上に巨大な何かによって踏みつぶされているようにも見えた。
「先ずはこの地を脅かす存在について知る所からでしょう」
「それなんだが、精霊たちの話では、この周辺にそこまで大型の獣は住んでいないそうだ」
脅威となる“巨大な何か”の調査に出向いたヴァイオレットとアルトゥライネルが、顔を見合わせ首を傾げる。
「ですが……いますよね?」
「あぁ、いるな。そこらの獣に、これほどの破壊は不可能だ」
周囲を見た限りでは、破壊されているのは巨大馬車だけだ。つまり、それを破壊した何かは、馬車だけを……人の操る乗り物だけを、狙って襲ったということになる。
「運んでいた物や者はどうなったか、破壊された当時の痕跡を探るか」
「それと足跡などの痕跡も。このサイズの生物がいるのなら、少なからず地形に影響を与えている筈です」
近くに人の遺体や骨は見当たらない。
何かの痕跡が残っていないか、ヴァイオレットとアルトゥライネルは手分けして周囲の調査を始めた。
「それ、防衛用か?」
オセロットが指差したのは、瑠璃が地面に突き立てている木杭であった。先端は鋭く尖っているし、一部には巨大馬車の廃材を利用した鉄杭も使用されている。
「えぇ。二重に囲めば、中まで容易く攻め込んでは来れないでしょう。そちらは?」
「見ての通り、獣用の罠だ。この辺の獣はあまり人間を知らない顔をしていたから、罠もかけやすそうだな」
下草に紛れ込ませるように、トラバサミなどの罠を幾つか設置している。
もちろん、人の目からは「そこに罠がある」と分かるように目印も付けてある。
「獣を捕獲できるタイプの罠にしておけば有益な獣は手元に残したり害獣を食糧にしたりもできるだろ」
乾燥地帯は、食料となるものがどうしても不足している。
事が進めば、乾燥に強い作物も植えるつもりだが、まずは目先の食糧を得なければ話は始まらない。人と言うのは、数日間も飲まず食わずではいられないのだ。
「ついでに柵にも、カモフラージュの様な隠蔽工作を施すノネ」
暫くオセロットの作業を観察していたエステットが、徐にそこらの枯草を集め始めた。オセロットの作業を参考に、瑠璃の打った木杭の柵を隠すつもりのようである。
「わらわもまちがえない様に、デス」
小さな身体で枯草を運ぶエステットの様子を、瑠璃とオセロットは微笑まし気に眺めるのだった。
「なんか見つかったっすか?」
そう問うたのはイフタフだった。アルトゥライネルたちと一緒に周囲の捜索をしていたのだが、どうにも巨大な生物なんて影も形も見当たらない。
問われたルナもそれは同じだ。
小一時間ほど、集落予定地の周辺を走り回っていたのだが、巨大生物の影は愚か、足跡のひとつも発見できなかったのである。
「んなでかぶつが動いてりゃわかりそうなもんだが」
足跡が無い。姿が見えない。住処らしき場所も無い。
「となると、現時点で考えられる可能性は3つあるっす」
そう言ってイフタフは3本の指を立ててみせる。
「1つは、地面の下に巣がある可能性。2つ目は、そもそもそんな生物なんていない可能性。それから、3つ目は……」
「ぶっちゃけ、曰く付きの土地の守り神だとかの可能性もある」
「……っすねぇ。超常の存在だとすると、手に負えないっすよ?」
「あっちからすりゃこっちが侵略者かもしんねぇからな」
苦笑を堪えるような顔をしてルナは大げさに肩を竦めた。
異変が起きたのは、昼を少し過ぎたころのことだった。
「ヘイズル、小屋や柵ってどの位の広さがいい? 寝床用のハンモックも……ん?」
「なんだ? 今、揺れなかったか?」
ラダの問いかけに答えるべく、ソアを手伝っていたヘイズルが穴の中から顔を覗かせる。その瞬間だ。まるで、地震でも来たみたいに地面が激しく揺れたのは。
「どうにも……良くない結果ですね」
タロットを手繰っていたヴァイオレットが顔を顰める。小川の傍だ。近くには水質を調査しているアルトゥライネルの姿もある。
「よく当たるのか?」
「えぇ、もちろん」
ヴァイオレットの占いは当たる。平時であれば頼もしいことだが、今日ばかりは“外れてほしい”と思わずにはいられなかった。
先ほどの大きな地震といい、ヴァイオレットの占いといい、嫌な予感が拭えない。そして、嫌な予感とは得てしてよく当たるものなのだ。
「敵襲! 敵襲デス! 目視できたノネ!」
空高くでエステットが叫ぶ。
「突然、出て来たのデス! いや……向こうから来た牛が、急に大きくなったノネ!?」
見上げるほどの巨躯の怪物。
たしかに形は牛ではあるが、その大きさは小山のようだ。出現と同時に、アルトゥライネルが持って来ていた馬車を足で踏み壊し、現在はヘイズルの集落跡地に向けて進行中である。
「わらわの力で足りることを信じて……ナノ」
表情を強張らせるエステット。その足元を、猛スピードで黒い風が吹き抜ける。
否、戦旋風と見間違うほどの勢いで疾走したのはルナだった。
「巨大化の魔法か何かか!? 先に戻って体勢を整えさせろ!」
ルナは1人で、巨大牛の足止めを行うつもりなのだ。
「じゃぁ、こっちは鬼ごっこと洒落込もうぜ!」
鋭い爪が、巨牛の脛を深く抉った。
●乾燥地帯の守護者
それはもう、死にかけていた。
生まれてから数十年。それは乾燥地帯を人の侵略から守り続けていた。
乾燥地帯に住まう生き物の中で、最も力の強い者の務めだからだ。故に、戦って、戦って、戦い続けた。生涯の戦いの証か、角には無数の傷がある。
今日、新たな傷が刻まれた。
何度、弾き飛ばしても、血と土に塗れても起き上がって来る黒き獅子の仕業である。
「敵対する気はねぇんだ。ここに新しく住もうとしているってだけで、無駄に戦うつもりはない」
黒き獅子……ルナを地面に叩きつければ、空いた隙を埋めるかのようにオセロットが巨牛の足元に駆け込んだ。斬り裂かれた脚から侵食する瘴気が、巨牛の歩みを狂わせる。
よろけた拍子に、小さな影がそれの足元へ駆け込んだ。
アルトゥライネが、布を巻いた拳を巨牛の足首へと叩き込む。地震にも似た衝撃が、それの前脚を後方へと弾いた。
「安住の地を見つけたいのなら、土地選びの基準はもう少し考えた方が良いな」
「こうも大きいと、避け続けるのも一苦労ですね」
転倒しながら、巨牛が角を振り回す。
地面が抉れ、粉塵が舞った。粉塵を避けるように、アルトゥライネルとヴァイオレットが左右へ散開。巨牛の視線が左右に揺れた。どちらのを狙うべきか、一瞬、判断に迷ったのだ。
巨牛が狙いをヴァイオレットの方へと向けた。
その刹那。
巨牛の額に激痛が走る。落雷……否、巨牛の注意が逸れた隙を突き、粉塵の中を突っ切って来たソアである。
「並の相手ならこれでズッタズタなんだけど……」
鋭い爪が、巨牛の額を引き裂いた。
巨牛の姿勢が崩れる。オセロットとソアが仕掛けた落とし穴に前脚を捕らわれたのである。
零れた血が、地面を赤色に濡らす。ソアは巨牛の額を蹴って後方へと退避すると、挑発するかのように獰猛な笑みを浮かべた。
「こっちこっちー!」
地面に倒れた姿勢のまま、巨牛の赤い瞳がソアを睨みつける。
挑発だ。だが、ソアからは乾燥地帯の肉食獣によく似た野生の気配を感じる。
先のルナといい、ソアといい、乾燥地帯の獣はどれも生きる力が強く、狩りが上手いのだ。巨牛はソアやルナを無視できない存在であると認識した。
巨牛が暴れる様を横目に、その背後へと気配を消して回り込もうとする者がいた。
「降りてきた頭部や腹部などに追撃しましょう。体勢を立て直す前に」
「折角建てたのを壊されたくはない。遠ざけるのは難しいにせよ、これ以上、集落予定地に近づけたくはないな」
「農作物用の畑も耕してしまいましたからね……また作り直すのは手間です」
瑠璃とラダ、それから2人に先導されるヘイズルだ。
なお、イフタフはソアの掘った穴に避難済である。
「討つしかあるまい。だが、角が邪魔だ」
巨牛の動きは、目に見えて鈍くなっていた。その白色の体毛から察するに、きっとかなりの高齢なのだろう。
放置しておいても、そう長くは生きられないものと思われる。
けれど、しかし……。
「ここに住まおうというのだ。実力を見せねばならないだろうな」
ヘイズルは、両足の蹄で地面を強く踏み締めた。
エステットの視界の端で、何かが動いた。
ラダや瑠璃、ヘイズルが行動を開始したのだ。
まず、先陣を切ったのはラダと瑠璃の2人である。地面を抉る角の左右へ別れた2人は、同時に角の根元へ向かって攻撃を仕掛けた。
数発の銃声と、鞘の内を刃が滑る音が鳴る。
一瞬の静寂の後、傷だらけの角が根元からへし折れた。たまらず、巨牛が咆哮を上げる。
だが、その咆哮もそう長くは続かない。
「この土地には私のバロメッツを作らせてもらう。無論、長の務めとしてこの土地を必ず守り抜くことを誓おう」
ヘイズルの蹴りが。
ソアとルナの斬撃が。
巨牛の額を強打して、その命を刈り取った。
「この土地を必ず守り抜くことを誓おう」
そう告げた若き戦士の瞳は、湧き水のように済んでいた。
角のある獣と、2頭の猛獣の同時攻撃を受け、巨牛は自身の敗北と、命の終わりを確信した。それと同時に、自分の役目が終わったことを悟った。
乾燥地帯の新たな守護者が現れたのだ。
老いぼれの出番など、もうどこにも無いのだ。
後は任せた。
そんな想いを瞳に込めてヘイズルを見つめ、巨牛は息を引き取った。
かくして、ヘイズルは遂に集落……ヘイズルの故郷の言葉で言うなら“バロメッツ”を手に入れた。
「変な奴が来たら……そうゆうのは輩は強制退出させるのデス」
根本から切断された傷だらけの角を見据え、エステットはそう呟いた。
巨牛から採取した角は、ヘイズルの作る集落のモニュメントとする予定である。
「約束したからな。後は任せて、我が集落を見守っていてくれ」
傷だらけの角に手を触れて、ヘイズルは言った。
乾いた風が一陣吹いて、ヘイズルの吐いた言葉をどこかへ攫う。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
無事に脅威は排除され、集落予定地の基礎建築は完了しました。
ヘイズルは、乾燥地帯に自分の集落を作ることに決めたようです。
依頼は成功となります。
この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
乾いた土地に拠点を作ろう
●目的
ヘイズルの集落“バロメッツ”を準備する。
ヘイズルが求めているのは、安心して眠れる家屋と、獣の襲撃を防げる柵。
●エネミー?
・巨大な何か×?
拠点予定地近くにある“巨大な馬車か何か”を、廃材に変えたと思われる何か。
姿を確認出来てはいない。
【必殺】【致命】を備えた戦闘手段を持つ。
※“巨大な馬車か何か”だけを狙って破壊できるだけの知能や判断力は有している模様。
・乾燥地帯の獣×?
そこら辺にいる獣。
大きな牛や鹿のような獣や、巨大な猫科動物などがいる。
現在は、余所者を警戒して遠目に様子を見ているだけだが、いざ戦闘となれば【流血】を備えた攻撃手段を有していると思われる。
●同行者
・ヘイズル・アマルティア
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫。
砂漠の奥深く、砂塵を超えた先にある未開地よりやって来た。
身体能力は高いが、常識に欠ける。
また「気に入ったものがあれば持ち帰る」主義。
●フィールド
ラサの砂漠、南部にある乾燥した土地。
最寄りの街から丸日ほど離れた場所にある。
交易路から外れているため、人の出入りはほとんどない。せいぜい、世捨て人的な旅人が時々、迷い込む程度である。
痩せた樹々や、下草が疎らに生えている他、集落予定地から少し離れた場所に泉が湧いている。
現在時刻は早朝。イフタフは夜になる前に帰路に着きたいらしい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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