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シナリオ詳細

<ラケシスの紡ぎ糸>憎き炎歌の追想鏡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは、置いてきた筈だろう?
 誰だって、主人公になり得る物語が在る。
 例えば、人知れず誰かに滅ぼされた里の生き残りだったり。
 例えば、生き別れの家族を探していたり。
 何処かの騎士だったりするだろう。或いは、元々平凡だった者もいるのかもしれない。
 誰だって、主人公になり得る物語が在る。
「馬鹿な……」
 呆然と佇んでいる青年、リシュトーだってそうだ。
 彼の周囲は燃えている。
 燃えて。爛れて。
 業火に包まれた町並みが、リシュトーの周りを取り囲んでいる。
 今、リシュトーの目の前に広がるのは、この世界に来る前の光景だ。忘れもしない。
 平穏だった彼の町に襲来したのは、その国の騎士団だった。
 騎士達は町に到着するなり直ちに虐殺を開始した。理由なんて、当然のように教えてはくれなかった。
 女も子供も居た。老人も、旅の観光客も居た。
 それを、あいつらは、容赦も無く。
「いい……思い出すな……俺が来たのは『塔』だった筈だ……!」
 自分に言い聞かせるように、記憶の先に起こった事を脳裏から取っ払うようにリシュトーは力いっぱい瞼を閉じる。
 鉄帝に突如として現れた奇妙な塔。
 リシュトーはイレギュラーズとして、この塔の攻略に臨んだ。鉄帝の軍人と、他のイレギュラーズも一緒だった。
 先行偵察も兼ねていたリシュトーが訪れた先、それは紛れもなく、成人直前まで彼がこの世界に来る前に住んでいた町。
 後ろを振り返ると来たばかりの出入り口が見当たらない。
 どうやら、この階層に住まう敵によって隔離されたようだ。敵の術か、この塔の特徴かは判らないが。
 問題は、この光景。
 誰にも話してはいない。自分一人しか知らない筈の、確かな町並み。
 自分一人しか知らない。つまりはリシュトー以外に生き残った者も、居ない。
 これも敵の術だろうか。だとすると、人の記憶に干渉する類、なのだろう。
 人の最も捨て去りたい過去を呼び起こし、それを塔の一つの階の中に具現化させている。そんなところか。
 ただ、完全な再現とはいかないようだ。
 あの時殺された町の人々は誰も見当たらない。
 女も子供も。旅の人間も老人も。
 彼の、妹も。
「お兄ちゃん」
 リシュトーの眼が、呼び掛けられた声に見開かれる。
 そんな筈は無い。これが自分の記憶だと言うなら、そんな事は有り得ない。
 ゆっくりとリシュトーは振り返る。
 有り得ないと自分を嗜めつつも、希望という力は強いものだと今この場で実感した。
 彼の先に居たのは。あの日無惨に殺された……。
「お兄ちゃん?」
 彼の妹だった。
 成人直前の彼の妹、ルミイ。ブロンドの長い髪と青い瞳。二歳下で花が好きな少女。
 あの時の姿のままだ。いや、正確には違う。容姿はそのままだが、軽装の鎧を身に付け槍を手に持っている。
 生きていたのか、などという戯言は口にはしなかった。
 ルミイはまるで生前のように、何の気無くリシュトーへと歩み寄って行く。
 あれは幻だ。
(待て、来るな)
 敵が見せた記憶の幻だ。
(来るなら斬る)
 剣を構える。自分でも気付かない苦い顔が刀身に映り込んだ。
(味方の可能性……いや、無いな)
 そうだ。それは解っている。あの殺気は無視して良いものじゃない。
 だが、それなら何故ここまで近付かれている?
 何故、俺は間合いを取ろうとしない?
「ねぇ、憧れてた騎士になったんだよね」
「喋るな」
 俺は今から、この子を殺さなければならない。
 剣を持ち上げる。彼女の顔を隠すように、刀身を真っ直ぐ向ける。
「お仕事、頑張ってね」
 あぁ、ついに二度と聞けなかった言葉と笑顔。
 途端、自分の中から何かが抜け落ちた気がした。
「……あぁ」
 その穴を埋める様に、腹に刺さった彼女の槍。
 構えていた剣が手から離れていく。
 燃え盛る町の中にリシュトーの血が落ちる。
 ぼやける視界に映ったのは、彼女の背後に現れたあの時の騎士達だった。
「あぁ……やっぱり……敵だったか、よ」
 誰にだって、主人公になり得る物語が在る。
 だが、誰だって主人公のようには、強い訳ではないのだ。
「ククッ……やはり、俺の幻術は素晴らしい!」
 騎士達の背後で、黒いローブに包まれた男が怪しく笑っている。
 猫背気味なその男は、眼前の光景を見ると更に口角を上げた。
 穴の空いた腹を押さえ、落ちた剣を取って後退するリシュトーに両手を広げて男は告げた。
「おぉ……逃げるか、その傷で。良いぞ。じっくり時間を掛けてやろう。お前の記憶がどういう結末を迎えるか、この俺の実験に付きあわせてやる」


 先行して偵察に出たイレギュラーズが戻って来ていない。
 その情報は、リシュトーが居なくなったその日の内にローレットに伝えられた。
 場所は鉄帝に現れた謎の塔。コロッセウム=ドムス・アウレアの低階層。
 彼の生死は不明。待てども待てども戻って来る気配が無いので、監視の為の数人をリシュトーの入った入り口前に残し、改めて人数を編成し調査を依頼したい為、ローレットへ一度帰還したという訳だ。
「突入しようにも、中の様子が判らない事には迂闊に踏み込めないみたいでね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は受け取った情報を伝えながら、ふむ、と考えを巡らす。
 塔の内部はこれまでに体験したイレギュラーズも多いだろう。
 中の構造は複雑だ。複雑と言っても一言に迷宮みたくなっているとかそんな話ではない。
 塔だと思ったら青空が広がっていたり。光が差し込むドームになっていたり。
 荒唐無稽なダンジョン。それがあの塔を現すのに相応しい言葉ではないだろうか。
 兎も角、リシュトーが消えたのはそんな塔の内部だ。そこら辺で行方不明になったのとは訳が違う。
 もし中に罠が仕掛けられていたとしたら、少ない人数、一般の軍人では攻略は難しいだろう。
 改めて人数を再編成するのにも時間は掛かる。
 しかし、そうしなければ突破も救助も難しいのもまた事実。
「彼を見つけたら保護をお願いしたい。即、敵に遭遇した可能性も有る。充分に注意してくれ」
 リシュトーもイレギュラーズとして、危険に晒された際に撤退する事も視野には入れていた筈だ。
 そう出来なかった理由。
 もしかしたら、彼が向かった階にはそんな罠が有るかもしれない。
 ショウはそれを示唆して、現場に向かう者達を募った。

GMコメント

●目標
不毀の軍勢『幻術使い・ホライド』の撃破。
リシュトーの救出。

●敵情報

・『不毀の軍勢』ホライド
黒いローブに身を包んだ猫背の男。
直接的な攻撃よりも術を使い離れた位置から攻撃する。
幻術を得意とし、狙いを付けた者のトラウマとなっている記憶を呼び起こし、それを具現化させて戦闘に用いる。
塔内部の滅茶苦茶な構造を利用し、リシュトーの記憶からから呼び起こした出来事をそのまま塔の一部として具現化させた。
幻覚はホライドの意思によって多少改変され、実体を持ち、物理的な攻撃手段として命令する事が出来る。
性格的にはマッドサイエンティスト。

・ルミイ
リシュトーの妹。齢十八にして既に他界している。
ホライドの幻術によって生み出された彼女は、生前では身に付けた事すら無かった軽装の鎧と槍を手にしている。
際立った能力は無いが、イレギュラーズ達に対しては敵対的な態度を取るだろう。

・幻覚の騎士(剣)×2
      (弓)×2
かつて、リシュトーの町を焼き払った甲冑騎士。
何を想ってその蛮行を行ったか、喋らぬ彼らからは何も判らない。
唯一判っているのは、彼らはこの塔の中では殺したルミイと共にリシュトーを追い詰めているという事だ。

●NPC
・リシュトー
塔の内部偵察を行った際、階層に閉じ込められ深手を負ってしまった。
逃げる事は出来たようだが、まともに戦闘を出来る状態ではないだろう。
幻術によって再現された燃え盛る町の中で、徐々に体力を削られている。
せめて身を隠すためにその場からは逃れたが、もう一度妹に剣を向けられるかと問われれば自信は持てない。

●シチュエーション
コロッセウム=ドムス・アウレア、低階層。
燃え盛る町。
町は建物が軒並み火に包まれている。
火の手が無い場所は大通り、路地裏など、道となっている部分。
イレギュラーズ達に調査して貰う階は、現在ホライドがリシュトーの記憶から呼び起こした燃え盛る町へと変貌している。
幻術ではあるのだが、確かな実体として物理的に干渉する事が可能になっている。
町は民家の他、リシュトーが住んでいた家、道具屋や宿屋など、イレギュラーズ達が想定出来る町の施設は一通り揃っている。

この内部までは鉄帝軍人が案内し、その場で監視している者も居る為入る事は容易いだろう。
ただし、一度中に入ると、ホライドを倒して幻術を破るかこちらがやられてホライドが満足するまでは抜け出す事が出来ない。出入口が閉ざされてしまうのだ。

戦闘範囲は小さな町であり、町の外に出ようとすると謎の空気の壁に阻まれてしまう。
力技で町の外に出る事は出来ないだろう。
また、町は燃え盛っている為、迂闊な行動は『火炎』のBSを受けてしまう可能性が有る。
例えば、燃える建物の中に留まったり。
路上で戦うだけなら問題は無い。

リシュトーが逃げた先によっては、彼も火炎BS状態になっている可能性は有る。

●オープニング後のNPC達の行動
ホライド達は逃げたリシュトーをジワジワ追い詰めるように捜索している。
腹部の傷から垂れた血痕から行く先を想定するのは容易いが、ホライドは自分の幻術の出来に歓喜し、もっと今を味わいたいと思っている。
要するに舐めているのだ。

対して、リシュトーは深手を負いながら彼らの前から立ち去った。
まとも動ける傷ではない。せめて身を隠す為に動いたが、居場所は不明。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ラケシスの紡ぎ糸>憎き炎歌の追想鏡完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月21日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ
Haru=Clematis=Lord(p3p011359)

リプレイ


「成程な」
 『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)は、その中へ入ると何処か納得したように周囲を見渡した。
 話には聞いていたかもしれないが、天高く聳え立っていると思えば目の前に広がるは燃える街並み。
「初めて入ったが塔って中身じゃねえ。しかも……」
 後ろに手を添えれば見えない僅かな反発力。
 軽く押しただけで拒まれているのが解る。恐らく、貴道の精悍な体格を用いても容易に外には出られない仕組みになっているのだろう。
「どっ、ど、どうやら外から内に入る事だけ許可されているみたいですね」
 『探索者』安藤 優(p3p011313)は言いながら街を見遣る。
 燃える街。何時までも消える様子の無い炎。
 救出対象のリシュトーが、心の奥底に眠らせた筈の光景。
「はぁ……人間は本当に町を焼くのが好きなんだね」
 それを大きな溜息で見るのは『無尽虎爪』ソア(p3p007025)。
 虎の精霊として人間の姿を借りるくらいには人間の事を愛する彼女も、こればかりはどうしても理解する気にならない。
 理解、しようとも思わないが。
 そも、これを引き起こしたのは人間なれどこの光景を再び呼び起こした不毀の軍勢の存在も気になるところだ。
 正確に言えば、不毀の軍勢、その能力に。
「相手のトラウマを呼び起こすなんて質が悪い……」
 『慟哭中和』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は、出立前に予測されたその能力を思い起こして顔をしかめる。
 ジョシュア自身、ソアと同じく精霊の身ではある。但し、それは決して万人が受け入れてくれる存在では無かった。
 必要時以外は決して、自らの口からは明かさないその精霊としての在り方は毒。
 それ故、思い出したくない日々も秘める。
「う~ん……トラウマかぁ」
 妙に悩ましい顔を見せる『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)。
「うん、まあ無い事は無いですけど……」
 レイテの脳裏に漂うのは、どうやら皆が想定しているものとは違うらしい。
 例えばガチャの爆死。実物と見本が大きく異なった商品。それでも口コミを信じて買って後に判る、性能不足を隠したサクラのレビュー群。
 そんな小さな不幸の詰め合わせ、それもまたトラウマと呼べるのだろう。
 それ以上も思い当たる事は有るには有るが、とレイテは優と顔を見合わせる。
 二人の頭に浮かぶ再現性何某……あれは、まぁトラウマとは別のカテゴリーに当たるのかもしれない。
 優はむしろ平和な世界で生きて来た者だ。トラウマなどとは程遠い。筈だ。筈なのだ。
 優が自身の腹部を擦る。何故かふと頭を過ぎるのは、槍を持った名状し難いヒキガエルのような化け物。
 いや、まさか、気のせいだろう。人間の舌でコロンビアネクタイをするような怪物に遭遇したなどと。
 対して、『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は飛空探索艇の三輪に跨り、いつもの涼やかな表情を崩さずにいた。
 人を人として生きて来た者ならば、其処に至る体験や記憶は幾らでもあるのだろう。
 そう出来なかった詩織にとっては、トラウマ、そのものが『普通の日常』と言っても過言では無かった。
 此度の相手とは天敵の関係になり得るかもしれない。
「兎に角、内部が燃えているのならリシュトーさんを早急に見付けたいところです」
 大柄な全身鎧を鳴らし、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は皆へ進言する。
 この内部、現実的には思えないが実際に質感や熱も確かに伝わって来る。
 リシュトーが手傷を負っているとして、こんな中ではまともに休息も出来ない筈だ。
 Haru=Clematis=Lord(p3p011359)も同意するように頷き、一同は足を踏み入れる。
 最悪に災厄を経験した、炎の街の中へと。


「やはり、街一個分となると一筋縄ではいきませんね」
 リシュトー、及びホライドの痕跡を探すべく、街の大通りに出たところでジョシュアはふとそんな言葉を口にした。
 それに、と続ける彼は、街の外に視線を向ける。
 外は薄ぼんやりとした平原が広がっている。ただ、その平原は街を境にしてハッキリと曖昧に渦巻いていた。
「まるで結界、ですね。逃げようにも、そう遠くへ行けないように出来ている」
 それを聞けば、隣で豪快に笑う男の声。
「HAHAHA、ノープロブレム! こんな事は今までに何度もあった!」
 道端に落ちていた鉄の混じった瓦礫を拾い上げ、貴道は続ける。
「ミーがこれを投げれば落ちていくように、結果には必ず原因が存在する、そうだろう?」
 言わんとする事を探る為に、ジョシュアは首を傾げた。
「つまり」
 彼の自信に満ちた顔は揺るがない。この結末を示すように、貴道は片手に持った鉄混じりの瓦礫をそのまま、握り潰した。
「そいつを殴り殺せば全部解決するって訳だ……!」
 言い方は野蛮ではある。だが、元を断つといった意味では確かにこの方法が最も確実であろう。
『見つけました! ちっ……』
 捜索を開始して早々、七人の脳内に少しばかり不安そうな声が響いた。
 発信源である優は皆からそう離れてはおらず、振り返れば彼の姿は目の届く範囲に位置している。
 わざわざ念話で送った理由が、こちらがリシュトーの痕跡を先に発見した場合相手に気取られない為だと察すれば、誰かが『どうした』といった返事をするのもそう難しくはないだろう。
 驚くべきは優の捜索範囲能力。
 上空から見渡す為に召喚した鳥、それを望遠鏡並みの視界で共有し広く深く街を見下ろす。
『血の跡ですっ! レイテさん、右手側を!』
『ええ、確認しました。リシュトーさん本人のものかは、見当たらないので何とも』
 上空からレイテが、地上からはソアが、念話によって送られた位置へ駆ける。
「……お店?」
 ソアが目にしたのは、血が続く先に在った二階建ての建物。
 ソアが一階を、空中のレイテが二階の透視を試みる。不幸中の幸いと言うべきか、炎で崩れ掛けた壁は容易くその中を見せてくれた。
 物が散乱しているが、床にぶちまけられた物の中に薬品のような物も見える。道具屋か。
 貴道も顎に手を当てて彼の行動を推し量った。
「ファーストエイド。応急手当だけ済ませて、また移動したって訳か」
 しかし、また一体何故。
 答えを模索するのを中断させたのはジョシュア。
 鼻孔に反応する僅かな違いを嗅ぎ分けると、道具屋の脇に伸びる細長の路地に目を向けた。
「……どうやら、簡易的な手当ては出来ても傷を塞ぎ切るには至らなかったようですね」
 感じる。一切の凄惨な現場が取り除かれた幻の空間だからこそ、現在傷を負っているであろう者の血の臭いを。
「自分達より探す時間の有った不毀の軍勢は、とっくに気付いている可能性もある……」
 これまでの情報を纏めながら、オリーブが呟く。
 言葉の続きを紡ぐかのように、上空のレイテが一点へ視線を釘付けにしていた。
 一、二……捜索の為に飛ばした音の反響が、動く何かを捉えと高度を下げ地面に近寄る。
「ジョシュアさんを北にして、北西の方角。数六つです!」
『みみみ皆さん、そのまま直進すると……!』
 慌てた優の念話が送られた、その時だった。
「クヒッ、墓場は『そこ』か」
 たった一音の不快な笑い声が、道端に通った。
 黒いローブに隠れた目元は実に陰鬱。先頭には虚ろ気な戦乙女、その後ろに鎧の騎士を連れ、更にその奥。
「さて、お前を殺した後にこの場所はどうなる? 消えるのか? それとも俺のモノとなるのか? 俺はそこにも興味が有るッ!」
 両手を掲げた黒ローブ、ホライドはそうした後で、やっと目の前の脅威達に気が付いた。
「テメェが親玉だな」
 愉悦に浸っていたローブの顔が突如、疑問と困惑に満ちた。
「そうだな?」
 続け様に問いを投げ掛けられ、ホライドはその精悍な男に目を向け口を開く。
「……なんだ? ネズミが入り込んだのか?」
 答える気の無い応え。
 その様子を正答として、貴道は悠然と歩み寄る。
 体内の電気信号のタガを外し、広げる両手には青白い炎のような闘気。
「オーケオーケー、別に答えなくていい」
 貴道は落ち着いた様子で、ゆっくりと、これから起こる事柄を奴へ告げた。
「間違いなら、別の奴を殺せばいいだけだ」


 焦っていたのは、ここに辿り着きたかったからだ。
 懐かしい街並み。何処で死んでも悪くはない。
 だが、やっぱり最期とするならここが良い。
「ダメ。向こうへは行かせない」
 帳に紛れたジョシュアまで巻き込むように、青い瞳の幻覚戦乙女が槍を振るって躍り出た。
「それは」
 刹那、二人の頭上に影と声が被さる。
 咄嗟に、ブロンドの長髪を揺らしてルミイがその場を離れる。
「こちらも同じです」
 間を割って降って来たのはレイテ。
 自身を聖域と同格まで押し上げた強化を施し、見遣るは眼前の幻騎士達。
 横目でジョシュアに先を促す。そのまま、レイテは言葉を続けた。
「さぁ、何処からでもどうぞ」
 先に接敵した場合も想定済み。
 ジョシュアは駆けた先で詩織と顔を合わせると、詩織は跨る探査艇のアクセルを目いっぱい回した。
「さあ、腕の見せ所です! 使い魔さん」
 町中に響き渡る駆動音。この時の場合に優から預けられる鳥が肩へ舞い降りる。
「振り落とされないで下さいね?」
 と同時に、峠でも攻める勢いで探査艇が初動から全開で疾走した。
「だ、大丈夫でしょうか」
 見送る優が心配するのは、むしろ自分の使い魔の方かもしれない。
 そして心配すべきは自身の方もだ。
 レイテに振り下ろされる騎士の剣。ただし、遠くから放たれる矢が狙うのは彼ばかりではない。
 優とHaru。その両名にも攻撃の手が向けられる。
「ヒェッ!? ぼ、ぼくを倒してもなんの得にもなりませんよ!?」
 端々から滲み出る命乞いのような台詞に、矢は更に優へと集中する。
 その後方、ホライドの手前でルミイと相対するのはオリーブ。
 長槍を剣で押さえつけ、オリーブはやはり、と彼女を推察する。
 元は全て幻影。彼女もまた記憶の幻。
 ホライドは術師であり、武器には精通していない。彼女を生み出したリシュトーにしても、ルミイが戦士である記憶など無かったのだろう。そしてリシュトーの本分は剣。『槍騎士の扱いは想定出来ないのではないか?』
 つまり彼女の攻撃は想像に過ぎず、実に単調なものになる。
「そこっ」
 不意に聞こえた声に、ルミイは咄嗟に剣を打ち払った。
 身体を逸らす、その鎧に楔による破壊の一撃が傷を付ける。
 着地した相手、ソアに目を向けると彼女はそのまま後ろへ跳び、波状となって再度オリーブが両手剣の連閃を仕掛けた。
 一撃離脱。
 ソアは虎の精霊。いつだって狩る側だ。
 嫌な思い出も特に無し。精霊としてか、誰の幻影であっても倒す事に遠慮など無い。
「よーし、ボクの精霊らしいところ見せちゃおう」
 振り返り、ソアが発現させるは超常の軍馬の如き速さ。
 その身に宿せばレイテと優が相手取る騎士にも一撃を加え、一気に捜索隊の元へと加速する。
「ぐぅ……邪魔立てをしおって……!」
 唸る、ホライドの元にも詰め寄る影が在る。他がそれぞれ引き付けられている故に、至近距離まで詰め寄られた影が。
「おいおい、暇そうだな。リングの準備は出来てるぜ」
 貴道の掌がホライドの顔面を鷲掴みにする。
「当の昔にな!」
 一対一の強制タイマン。これこそ貴道の領域。
 前面に騎士、中間にルミイ、そして離れてホライド。
 中衛以前がレイテ達に引き付けられている事を合わせ、彼のリングに引き摺り込まれた時点でホライドの助けに行ける者が居なくなってしまっている。
 戦火の消えぬ街中、新たな火蓋は切って落とされた。
 一方。
『もう少し手心を……!』
 とでも言いた気に風に煽られる鳥を肩に乗せ、縦横無尽に三輪バイクで疾走するのは詩織の姿。
「敵があそこに居たという事は、近いという事でしょうか」
 駆けるバイクから見渡す街の外に対象の姿は見当たらない。
 すぴーどの向こう側へと至る速度、でも見つからないとなれば屋内か。
 向かう先は何処も火の手が覆っている。
 自慢の胸元まで靡く金髪がチリチリになってしまいそうだ。と一息に二人の元へ駆けたソアは透視の瞳で建物を次々に目視した。
 しかしそんな事も言ってられない。今気にするのは髪よりリシュトー。
 と、ジョシュアの視界に何かが映る。
 路陰に咲いていたのか、はたまたそれもまた幻か。
 宙を舞うハナニラの花弁。
 風など感じてはいないのに、花弁は導くように建物の隙間に吹いていく。
「……こっちです!」
 こればかりは花言葉通りにはさせてなるものか、と花弁を掴み取らん速さで道標へ踏み込む。
 ソアの耳が何かにピクリと反応したのはそこからすぐだった。
「居る! 姿は見えないけど……」
 焦りの感情。
「ソア様、そこから三軒先を!」
 ジョシュアの言葉を受け、ソアが更に加速する。
 向かいの路地から詩織が飛び出し、二人の姿を見つけ急旋回。
 三人の前に在り、ソアの瞳が目にしたその中に。
「……もう少し、ゆっくり逝けると思ったんだがな」
 焼け落ちたただの一軒家の中に、彼は背を持たれて座り込んでいた。
 閉めた扉の外が慌ただしい。
 せめて、一矢報いるか。
 そう、地面に横たわらせた剣を握った彼が聞いたのは。
「ここ、リシュトーさんの家?」
 扉を開けると同時、光を差し込んだ精霊の言葉だった。
「もう大丈夫だからね、よく頑張って生き延びた。偉いよ」


 攻撃の手は更に増える。
 イレギュラーズの側だ。
 理由はレイテと優、二人の盾が引き付ける事により、一人の負担が軽減出来た事。
 もう一つにルミイにオリーブとHaru、ホライドに貴道が他所へ行く隙を与えていない事。
 故に、レイテは防御の姿勢を解き、強化装甲の戦闘服で相手が剣を振り下ろし様に強烈な掌底を叩き込む。
 横で震えているのは優。ただ震えているだけではない。彼の感情を具現するように凍てつく魔氷の渦が騎士達を襲い続ける。
 二人を相手取っているルミイの槍は、それでも挑発を仕掛けたレイテと優へ向かう。
 巻き込む為のそれぞれの距離を考えれば、その槍が向かうのはレイテか。
 そして単調ながらに振り回される槍の切っ先が容赦なくHaruにも直撃する。
 後退、入れ違いで前に出たオリーブが放つ虚空を斬り裂く一閃。
 受けてよろめく背後では、貴道がホライドへ拳での一刺しを穿つ瞬間であった。
 大きく動いた事で多少の炎が振り掛かるが、その肉体で炎をまるで無視した貴道は続けて無数の拳打を叩き込んだ。
「な……ナメやがって……!」
 ホライドが口元の血を拭う。怒りに我を忘れたか、今の奴の頭に術の行使という選択肢が残っていない。
「ナメてたのはそっちの方だろう?」
 貴道は構えを崩さずに返した。
 そして、鳥を介して信号を察知した優が言葉を続ける。
「だ、だから……あ、足元を掬われるんです」
 瞬間、ホライドが浮き上がった。
 正確に言えば、黒のキューブに包まれたのだ。
「確か、首謀者の方はトラウマを抉り、ゆっくりと嬲り殺すのが御好みでしたでしょうか?」
 駆動音と共に戻り、術を行使したのは詩織。
 そのバイクの背に背負っていたリシュトーを乗せたソアは、一直線にホライドへ駆けた。
 その真横を、強化済みの身体、ジョシュアの聖弓から放たれた矢の弾幕が剣と弓騎士達の頭を撃ち貫く。
「対象、保護完了です」
 ジョシュアと詩織、二人によって応急手当は処置済み。
 とは言えど、喋るのがやっとではある。
 戦闘に巻き込まないように、詩織はそのまま安全地帯までリシュトーを移動させると、瞳を再びホライドへ向け神の呪いを受け与えた。
「ル……」
 朧な視界の中、リシュトーは彼女の姿に微かに声を出す。
 映ったのは、懐かしさは隠せない妹の姿。
「ミ、イ……」
 そして、オリーブの対人剣の連閃によって沈む、儚い少女の姿。
 散り際に、少女は何かを想ったのだろうか。
 黒キューブから顔を出したホライドが驚愕する。
「ば、馬鹿な! 俺の幻が……」
「がお」
「ひっ!?」
 突如として目の前に飛び出したのはソア。
 解放した本能。ホライドが反応しきる前より早く、痛烈な連打をその身に浴びせる。
 これまでずっと耐えて来た優が力を解き放ったのは、この時の為か。
「ぼ、ぼくだって……! やる時はやるんですからあああ!」
 一気にホライドまで接近すると、放つのは赤き鷹の魔力弾。
「幾つも異常に侵され、呪われ」
 静かに、詩織が歩む。
「私の髪に絡められ、逃げる事もできず死に至る御感想は如何ですか?」
 斬糸と化した髪を巻きつかせながら。
 必死にもがく。もがく。
 それを拒むのは、不幸を呼ぶジョシュアの秘薬。
「人の苦しみを弄ぶのなら、あなたにも味わってもらいますよ」
「それではさようなら」
「待っ……」
 残穢『死切髪』。
 命を乞う暇も与えず、その斬糸は、その命を澱みへと落としたのだった。
 視界が薄らいでいく。
 燃える街も、幻影の騎士の亡骸も。
 彼の妹の姿も。
 きっと、声を掛けるならもっと何かあったかもしれない。
 しかし、これで良かったと彼はほんの少しの寂しさをそのまま胸に秘めた。
 そうだ、良かったのだ。
 だって、消えゆく前にリシュトーと目を合わせたルミイの顔は。
「じゃあ……な……」
 優しく笑っていた。
 そんな気が、したから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

Haru=Clematis=Lord(p3p011359)[重傷]

あとがき

大変お待たせ致しました!
依頼完了、お疲れ様でした!
捜索と戦闘の分担、お見事です。
限られたプレイング文字数の中でいつも綺麗にまとまってるなぁ、と毎度毎度感服しております!
収めるの難しいですよね。期間限られてるし。
まぁ、私はどんなのが来てもまとめ上げてみせますけれども!

それはそれとして、私もまだ全部のリプレイを把握してる訳ではないのですが、皆さん再現性薩摩に何かトラウマでも残されてます……?

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