シナリオ詳細
錫鳴りエレメント
オープニング
●
王都南西部にある小さな町グレーベ。
かつて近隣の鉱山を束ね、別の街から銅を運ばせて黄銅にする。そんな都市として栄えた面影はなく、今は道行く人影もまばらになっている。
さびれてしまったのは、わずかここ数年の話だ。
その原因は鉱山からの亜鉛の供給にあった。
とはいえこれはここ数年来の事象であり、今すぐに何をどうすれば亜鉛の産出量が増えるというような話でもないのだから致し方がない。
結論として、この一帯の亜鉛は枯れてしまったのである。
だが今日も今日とて、そんな鉱山を掘り進む者が居た。
「かーちゃんの為ならえーんやこーら!!」
男の名をビルと言った。
「って、今かーちゃんはいねーんだったな! ガッハッハッハ!」
誰に聞かせるでもない陽気な歌声が、がらんとした坑道に良く響く。
ビルは「なんだか歌が上手くなった気がする」などと下らない事を考えながら、岩場に腰を下ろした。
丁度そろそろ腹が減ってきた所だったのだ。
袋の中から硬パンを出して一口かじる。少し酸っぱいライ麦の味がした。
それからチーズをかじり、革袋に詰めた水をぐびぐびと飲む。
こんな時に脳裏を過るのは、やはり家族のことなのだろう。
彼の妻は子を連れて王都へと出稼ぎに行った。ここ最近は手紙の一つもよこさない。
妻にはずいぶん苦労をかけたし、申し訳ないとも思う。子供はそろそろ十歳になるだろうか。
二人とも無事で居てくれればいいが、二年も新しい生活をしているのだから、もしかすると別の良い相手を見つけていても仕方がないだろうなとも思う。
ともかくそんな訳で、この質素な弁当も彼自身のお手製なのであった。
寂しくないと言えば嘘になるが、彼にはそれでもやり遂げたい一つの信念があった。
そんな事を考えながら、ビルはふと足元を見る。
「ん? なんだ?」
何かが見えたような気がする。
目を凝らし、みつけたソレを煤けた手に取る。
だが、ただの岩に見えた。
そうそう上手い話が転がっている筈がないと、彼はそれを放ろうとしたのだが。
砕けた岩の中に金属質の輝きが、ちらりと見えるではないか。
彼は大急ぎで岩を崩してみた。これはやはり間違いない。
「――こりゃあ」
錫であった。
ビルは錫鉱をポケットに詰め込むと、大急ぎで弁当を食らった。
大ニュースだ。
「いやあ! 信じてよかった!」
こいつは居てもたってもいられない。いそいそと採掘道具を片づけ、彼は坑道を町まで戻っていく。
だが――
目の前に居る存在に、彼は腰を抜かしてへたり込む。
それは中空に浮かぶ巨大な岩であった。
「あいや精霊様! こいつは申し訳ないことをした。こりゃ! この通りだもんだで!!」
あまりの恐怖から、下腹部が急速に脱力してゆくような感覚がするが、それでもビルは頭を下げ、地に這いつくばるようにして謝罪を繰り返す。
地響きのような音と共に、ぱらぱらと頭上から小石が落ちてくる。
「いかん、いかんいかん!」
にっちもさっちもいかないとは、まさにこのことで。
もうダメだ。
「無理無理無理無理! 無理だって!!」
立ち上がり、走った。
背中から襲い来る石礫の痛みは、不思議と感じなかった。
恐怖と興奮が彼の命を救ったと言えよう。
とにかくビルは、こうして命からがら逃げ出す他なかったのである。
●
「ノッカーって知ってるかしら?」
暖かな室内でイレギュラーズに向けて、ギルドローレットの情報屋『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が尋ねた。
「鉱山にいる妖精だっけ」
ノッカーというのは鉱山に住み着き、採掘を助けてくれるという善性の妖精だ。
「くすんだピーチパフか、ソイルカーキって所ね」
何を言ってるのかさっぱり分からないが、とりあえずイレギュラーズは曖昧に頷いておく。
「ロージーブラウンが彩度を失えば、彼等はきっと居なくなるわ」
「はぁ。左様ですか」
ノッカーは枯れた鉱山からはいなくなるという伝承があるが、ずっと居たということは、そうではなかったという事なのか。
「きっと彼はスティールブルーを信じたのね」
それからプルーはイレギュラーズ達に、現場で起こったらしい、いくらかの情報を伝えた。
「なるほど」
鉱夫は一人で、そんなノッカーの伝承を信じて採掘を続けた訳だ。
「そして錫の鉱脈を見つけた、と」
「そうなんでしょうね」
これはその町では、そこそこのニュースになるのだろう。活気付くのは良いことだ。
「それじゃ次は精霊よ」
世界に満ちるエネルギーのようなもので、人間や動物と同じように生きているようで、それとは少し違う存在だ。
「どちらも魔物と括るなら、オーキッドとヴァイオレットは混ざり合ってしまう」
少々言葉を濁したプルーが言わんとしていることは、それらがかならずしも邪悪な存在ではないということだ。
特に田舎のほうでは、そういったものと共存していることだってあったりもする。
どちらかといえば、魔物というよりは自然の驚異そのものに近いのかもしれない。
「それで結局、どんな依頼なんだ?」
「……そうだったわね」
そこからのプルーの話は、イレギュラーズ達が頑張って要約してやった限りには、比較的単純なものだった。
鉱山に現れた大地のエレメンタルを討伐――というよりも鎮めてほしい。
「要するに戦えばいいってことだな」
「そうね」
なるほど。話が早い。
町を治める領主が報酬を出すということで、ごく普通の金額になるらしく、こちらも安心だ。
「で、ノッカーとやらはどうすべきなんだ?」
「どうでもいいわ」
なんだか脱力する。ただの背景情報というやつだ。まあ、そういうものなのだろうか。
「ノッカーはレモンシフォンより、もう少しシャイよ」
なるほど。人に見られるのを嫌うということか。なら構ってやるのも野暮かもしれない。
「それじゃ、ピュアグリーンを期待しているわ」
「わかってるよ」
しかしこの魔女は、崩れないバベル(世界による自動翻訳システム)の限界にでも挑戦しているのだろうか。
まあ、それはどうでもいい事ではあるのだけれど――
- 錫鳴りエレメント完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月04日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
細い坑道の先。伝え聞く形と、崩落せぬように打ち付けられた木材を頼りに、一行は歩みを進めていた。
話に聞く現場とやらは、この細い通路の先にあるらしい。
「俺は洞窟より空や海が見えるところがいいんだけどなあ」
海洋出身のスカイウェザーで夢は大きな船の航海士なればこそ、当然の気持ちだろう。
そうは言いながらも『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、少年らしい期待に胸を高鳴らせていた。
「でも冒険してる感じでちょっと楽しいぜ!」
姿を見ればいかにも精悍な戦士であるが、話せば人の姿でいる時の勝気で腕白な少年の笑顔と重なるから不思議なものだ。
そんなカイトにこけっと頷いたのは『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)。
大人びた体躯のカイトと比べると。いや単純に鳥要素があるからといって無暗な比較も少々難しい所だが、こちらはふくふくと愛らしいニワトリそのものに見える。
だが良く見て欲しい。つややかな白い毛並み。ちっちゃくて愛らしいトサカ。なんかまるっこくてかわいい。やはり聖鳥である。そう。聖鳥である。
それにしても洞窟でカンテラや松明を頼りに歩くなんて、ちょっとわくわくするものだ。
見つけてはいないが、どこかに妖精も居ると聞く。まさに冒険て感じではないか。
無論、彼女もイレギュラーズであり、喋れない等という訳ではない。というかせっかく喋れるようになったのだ。むしろ喋るのは楽しくて好きなのだ。けど一生懸命にくわえているカンテラがあるのだ。なにしろ落とす訳にはいかないのだ。
トリーネの受難はさておき、今回の冒険にあたりイレギュラーズ達は光源の手配にかなりの労力を割いていた。
ゆくゆくは金で解決出来る問題なのかもしれないが、致し方ない面はある。
ともかく良く樹脂を馴染ませた布を、木の棒に巻き付ける。それを針金等でしっかしと固定すれば簡単な松明が出来上がる。
「ここを、こうすればいい……」
なるほど『銀血』白銀 雪(p3p004124)の仕事は手際が良かった。もしかすると当人としては面倒を厭うているだけなのかもしれないが、無駄がないものだ。
ともかく麓の街で物資が調達できたのは幸運だった。
毎度こうした調達を時間が許すとは限らないが、どこで見つけてきたのか『魔法のお人形』ツクモ・リオネット(p3p003643)の情報網なんかも役立ったに違いない。
こうして即席にしては上出来な物が三つほど。それから各々が事前に準備していたランプに、カンテラが二つ。貸与品が一つ。
そんな灯りの数々に真冬の薄暗く寒い坑道は、ふわりと暖かく照らされている。もうなんというか、これだけ準備すれば仮に万が一の事故が二度三度あったとしても、どうとでもなろう。
実際にいくつ必要なのかは、情報の他、勘と経験にも頼る他ない。手練れの冒険者ならばそういった物に基づいて細密に役割分担を行い、作戦効率を向上させてゆくものではあるが、駆け出し冒険者であれば入念な準備こそ安心出来るというものだ。
ここまでくれば流石に『銀翼は蒼天に舞う』エルヴィール・ツィルニトラ(p3p002885)が、あえて火を噴く必要もないであろう。
さて。この辺りに精霊が住んでいたとして、それを広げて崩すというのは、家を荒らされるようなものではないか。
ならば彼等が人間に対して良くない感情を抱き、敵対行動に出ても『怪盗狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)は仕方がないとも思うのだ。
とはいえ依頼は依頼なのだから、倒して鎮めてやらなければならない。ヒトと自然の共存というのは、時にそういった事態も招いてしまう。
そんなことを考えながら、ふとルルリアが何かに気付いた。
「この辺りから、新しいですねっ」
何がかと問えば、それは壁である。
「ほらっ」
指された所から、壁そのものを崩し掘り進めた時期が大きく違うのだろう。壁や天井を支える木材の様子が変わったのだ。
「あそこからは、支えがなくなっている」
そんな雪に向けてエルヴィールが視線を送る。
「ならば予定では、そろそろであります!」
奥へ続く道は、そこから真っ暗に広がっているように見えるが。
「さすがに厳しい……」
雪はその先の先。広間と思しき場所を見つめるが、こちら側が明るく向こうが非常に暗い状況では何も見えそうにない。とはいえ消せば良いというものでもなく、悩ましい所だ。
どこにでも居るような人間が相手であれば、彼女は魔眼一つで。向こうに光源さえあればその超常的な視力で、それぞれどうにか出来そうなものだが。
だが情報ではアースエレメンタルだけは光を放っている筈で、それならば遠くても彼女であれば見る事が出来る。
そもそも相手の気配すらまるでよく分からないが。
そのまま踏み込むか、踏み込まざるか。
だが突如、遠くの岩陰が動いた。
雪はその一点を決して見逃さない。
「……見えた」
ならば上々だ。一行に緊張が走る。
「どう? 夜鷹」
端的な『Liberator』エリニュス(p3p004146)の言葉に、『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)が頷いた。
怒り、驚嘆、嘆き、悲しみ――
前方全域から『心聴』に流れ込むのは、友人達の強烈な負の感情。少女は僅かな震えを隠し通す。
夜鷹と名乗り、闇を纏い。本名も、性別も、種族さえ隠す事に彼女は慣れている。
――だいじょうぶ、やってみせる
生命を育む全てを司る彼等だけが、エーリカにとって唯一の友だった。
ヒトと精霊。手を取り合う手助けが出来るなら――
「……居る」
だから確かに答えた。
「手筈通りに」
そんなエリニュスの言葉に、イレギュラーズ達が頷く。
後は要するに戦えばいいのだ。情報屋である『色彩の魔女』の言葉は難解で困り物だった訳ではあるが。
寂れた場所。
物言わぬ石達。
そんな光景にツクモは作るだけ作られ、動けぬ人形だった頃を思い出す。
ならば、そうであればこそ。『素敵な人助け人形』を演じ切る心算だ。
巨大なハンマーを担いだツクモがポーズを決める。
「参りましょうっ」
それが作戦開始の合図となった。
●
轟と宙を舞う三つの火球が暗闇を切り裂いた。
辺りを俄に照らす光と交差するように、岩や土、金属の塊――精霊達が殺到する。
それは視界を覆わんばかりの数の暴力であり――
突如、カイトの視界から全ての光が消える。
「――っぶね!」
闇精だ。だが。空間を漆黒に塗りつぶすように迫る存在へ向けて、カイトは咄嗟に盾を叩きつける。
漆黒の球体は霧散し、ぐずぐずとした澱となって漂った。
初撃はどうにか避ける事に成功したが、土精等も含めてあれらが全て向かってくるとすれば、たまったものではない。
咥えていたカンテラをぱたたっと壁にかけたトリーネがふくふくと胸を張る。やっと喋れるのだから、やっとやっと聖鳥の本領発揮である。
イレギュラーズ達へ向けて、次々と闇精が迫り来る。
「させないわー!」
トリーネが翼を広げ、放たれた聖なる術が闇の一つを打ち払った。
闇精による全ての自爆攻撃を食らえば、傷こそ負わぬとは言え相当な痛手となるだろう。そんなことをやらせる訳にはいかない。
イレギュラーズ等としは、可能であれば事前にでも。あるいは戦いながらであっても地均しをしたかったが、この分では時間が許してくれそうになかった。
各々は陣を展開するに当たり、出来得る限り足元の石ころ程度は蹴飛ばすようにした。精々がそれで限界といった所だ。
「いきますよー」
だがツクモが振り下ろすハンマーに、闇精の一体が足元の岩諸共粉砕される。
これはもしかして、結果オーライという奴ではないだろうか。なんとなくツクモのてへぺろ顔が浮かぶ成果だ。
イレギュラーズ達は松明を投げ入れて突入するなり、壁を背とするように陣を形成。それから壁の杭に灯りを設置することには成功していた。
だが無い袖は振れず、二兎は追えないのもまた事実である。
致し方ないこととは言え、それは攻撃に関しては敵に先手を許す結果に繋がった。
真っ先に殺到する闇精を三体まで叩き伏せたが、残り三体はバラバラにイレギュラーズを襲って消滅する。
そして。
「――痛ッ!」
「ってーな! 鳥に石を投げるんじゃねーよ!」
以後も散弾のように降り注ぐ精霊達の怒りが、イレギュラーズ達の体力を削っていく。
苦しい局面にも見えるが。
「問題ないでありますよ!」
エルヴィールは己の額を滑る血を拭い、断言した。
灯りを十二分に確保し、壁を背に乱戦を避け、敵を引き寄せることで得たものは大きい筈だ。
敵の数が多い状態で囲まれれば最悪の自体すら考えねばならなくなる。それを避けるための策なのだ。
「それでは反撃でありますっ!」
大地を蹴りつけ翼を広げるエルヴィールが、錫精に大剣を叩きつける。
眩い火花が散り、きりきりと食い込む刃が鉱石のような身体を切り裂いた。
岩が崩れ、石が砕け、土煙が舞う
カイトはその身に風を纏い、雪は服を汚す石と銀血を払って、おぞましい死霊の『なりそこない』を呼び出す。
エルヴィールとカイト、そのすぐ後ろ――陣の中心に控える雪等が、このパ―ティにおける飛行遊撃隊とでも呼べるだろうか。
「この調子なら、足場の問題は直ぐに片付きそうね」
長弓を引き絞るエリニュスの視線は、戦いの最中にも敵を怜悧に観察している。
「――問題ないわ」
直観が告げた。弓弦の音色と共に、美しい髪がふわりと靡く。
「これは――」
糸のように細い筈の矢影をなぞるように駆け抜け、ルルリアは錫精に短剣を突き立てる。
「――どうですかっ?」
狙いたがわず突き立ったエリニュスの矢は、硬質な錫精を完全に貫通する形で突き刺さっていた。
その横に深々と刺さる短剣と矢の間に亀裂が走り、錫精が真っ二つに割れた。ルルリアが飛び退る。
眼前の存在も、やはりヒトに虐げられていると言えてしまうのだろうか。
それでも今はこうする他ない――それは分かっている。
●
長く感じ――しかして短いであろう幾ばくかの時が流れた。
未だ一進一退の攻防が続いている。
それでも徐々に戦う力を残した精霊達の数は減ってゆき、対するイレギュラーズ達は未だ膝を折っていない。
敵は数を頼りに縦横無尽に動いていたのだが、堅実な各個撃破を遂行しながらも、こだわりすぎないことが功を奏しているのだろう。
要は邪魔になった分の石精の排除も役立っているという事だ。
個々の行動には、上手くいった部分も、そうでなかった部分もある。更には幸不幸も付き物で予断は許さない。
しかし戦いである以上、無傷は望むべくもないのだから、総体としては上々な案配であると言えた。
「こけっこヒール!」
暖かな光がエルヴィールの傷を包み込む。
「皆、頑張ってぶっとばすのよー!」
懸命に声を上げるトリーネも、その表情は――よく見れば――苦しげだ。
「……大丈夫」
呟くエーリカがふわりと投げかける光が、トリーネに癒しと活力を与え。戦況は少しづつ、ほんの少しづつ。イレギュラーズ達にとって有利な方向へ傾き続けていた。
後は心身を決着まで保つことが出来るか否か。それだけでしかない。
「ぶち込んでやるぜ!」
得物は短剣。素早さを高めたカイトが鋭い多段攻撃を打ち込んでゆく。
次々と散る光と金属の破片。硬質な手ごたえを感じる。
「カッたい……」
あえて得手の長槍ではなく短剣の取り回しを、強烈な一撃よりも牽制を選んだ。
「けど、いけそうだぜ!」
それでもカイトは持ち前の元気を失わない。
エルヴィールは横合いから迫り来る石刃を大剣で切り裂き、翼で全身の向きを整えて錫精へ肉薄する。
至近距離から横凪に払う、一刀両断。
金属を横一文字に切り裂き、衝撃の余波が周囲の岩を粉々に粉砕する。
「いよいよ正念場でありますね!」
「そろそろ畳み込まないとですねっ」
マントを翻し、ルルリアが懸命に戦場を駆ける。
この戦いで敵に突き立てた刃は数知れず、受けた傷も増えてきた。
それでも持ち前の愛らしい笑顔を支えているのは、最早矜持ですらあるのかもしれない。
イレギュラーズ達が果敢な攻撃を続けることで、敵の数は減った。
だが反面エーリカやトリーネが癒し手として支えなければならない場面も散見されるようになってきている。
そうして火力が落ちれば殲滅速度も低下するが、怠って倒れてしまえば状況は加速度的に悪くなってしまうのだから、そうもいかない。
難しい局面ではあったが、イレギュラーズ達が作戦をしっかりと共有出来ていることが、集中攻撃の維持に繋がっているのだろう。
数枚の鋭い石刃が、大地のすぐ上を滑るように舞う雪を襲う。
肩を切り裂き、大地が禍々しくも美しい銀色に染まった。
だが、だから何だと言うのか。所詮これまで数度避け、数度受けた痛みだ。
「私はただ――」
表情一つ変えず、雪は術紋が刻まれた薬莢を放る。
再装填、撃鉄を起こし。
「――尽力するだけだ」
血のように赤いマフラーを、銀色のしずくが流れて往く。
だが狙いは外さない。
轟音と共に魔弾が大地の精を貫き、光の欠片が飛び散った。
そして――
言葉もなく弦と矢が風を切る。エリニュスの矢がアースエレメンタルの光輝くコアを突き抜ける度に、地響きのような轟音が響いてくる。大地の精の苦悶だろうか。見る見る間にその輪郭が吹き飛ばされるように削がれてゆく。
何を隠そう、後衛に立つ彼女こそパーティの最大火力であるのだ。
球体関節が軋みを上げる。
だが今更人形であることを思い知らされるようなツクモではない。
「もう一度いきますっ!」
軽やかな幻惑のステップと共に、ハンマーがアースエレメンタルに打ち付けられ、彼女はそのまま振りぬく。
強烈な手ごたえを感じた直後、石刃が彼女を貫いた。
体が動かない。それはまるで人形だった頃のような――
「やらせてほしい」
エーリカの切なる願いを。
「そう」
淡泊に答えたエリニュスは矢をつがえる手を止める。それ以上を述べる必要はなかった。
この時、彼女には決着が見えていたのである。
単純にこれまでの趨勢と敵の様子、そして観察から至る直観があれば分かることである。
このまま戦い続ければ勝てる。それはこの時に疑いようもなくなったということだ。
敵を倒してしまった所で、別に相手が死ぬというものでもない。
だが勝利までの間に幾人かはより傷付くであろう。もしかしたら重症を負うかもしれない。
けれど、それよりほんの少しだけマシな結果を出したいと願う者が居るのであれば。
そういった意味でも、今がまさに潮目であった。
――
――おねがい
――――きかせて。
あなたたちのこころのおと。
ヒトに虐げられてもヒトを助けたい己自身と。
懸命に戦いながらも、願わずにはいられない心と。
ヒトは精霊の祝福無しでは生きられないことを、彼女は知っている。
こうして傷つけ、傷つき、それでも対話は辞めない。辞めるつもりはない。
どうか、どうか――
知恵を、ちからを貸してほしい。
ニンゲンは、あなたたちの敵じゃない
その身に数多の傷を負い、尚。少女は懸命に手を伸ばす。
伸ばして、伸ばして――届くならば。
「あなたたちの領域を侵して、ごめんね。
こわかったよね。
みんなにも、あなたたちの声を必ず届けるから――」
それでも彼女はそっと抱きしめようとし、精霊が鋭い石槍を放つ。
それは少女の体に深々と突き立ち――
「こけー!」
そんなありきたりの悲劇を、聖鳥トリーネが許す筈はない。
暖かな光がエーリカの痛みをそっと和らげて往く。
「もう……大丈夫」
眼前の土くれ――大切な友人から、暖かな感情が流れ込んでくる。
――よかった――
岩肌を叩く微かな音は、どこか嬉しそうだった。
安堵と共にエーリカは目を細め崩れ落ち――戦いは終わりを告げた。
●
石が、砂が、土が、ぱらぱらと崩れ落ちていく。
土煙が止んだ頃、ふわりとした暖かな力が鉱山全体にゆっくりと広がっていった。
もう怒りは感じない。そこには優しげな気配だけが漂っていた。
「やったであります!」
エルヴィールが勝利を告げ、エーリカを支える。
「やるじゃねーか!」
こんなこともあるものだとカイトも感心する。しかし羽の間が砂ぼこりっぽくていけない。それでいて潮風は平気なのだから、やはり根っからの海の男なのであろうか。
くたくたなエーリカは言葉も出ずに。
「傷が癒えるまで、そうしているといいわ」
その淡泊な口調はいつもの通り愛想こそないが、エリニュスの言葉はどこか優しく感じられる。
「ノッカーちゃん、応援してくれてありがとー!」
きっとどこかに居る妖精に向けて、トリーネがお礼の言葉を述べた。
だって聞こえなくても、見えなくても、きっと彼女等の力になった筈なのだから。
もしかしたら今頃、見えない場所で照れているだろうか。
満身創痍のツクモだが流石に今日はもう戦えそうにない。だが動いて見せることに関しては伊達ではない。
「わたくし、ちょっぴり調べものをしたのです」
そう言って取り出したのはミートパイであった。
まだほんの少し暖かく、美味しそうな香りが漂ってくる。
ルルリアが耳をぴんと動かす。
ふりふりっと落ち着かない尻尾が、ノッカーへの興味をしっかりと示していた。
非常に見てみたい。
けれどきっと最後まで姿を見せることはないのだろう。
彼等は再び来た道へ歩き出した。
殿は冷静沈着な雪が勤め上げる。ことこんな世界で生き抜いてきた彼女にとって、最後まで油断は禁物なのだから。
後ろからとんてんかんと、音がする。
その音はリズミカルで、どこかユーモラスで、きっとレギュラーズ達に感謝を伝えていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
純戦の勝利、お疲れ様です。
MVPは、友達思いの方へ。
またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。
GMコメント
pipiです。ストレートなハック&スラッシュです。
がんばってみてください。
●目的
エレメンタル達の撃破。
とにかくやっつければ、鎮められます。
●貸与品
ギルドからパーティに一つだけ、カンテラが貸し出されています。
油とかマッチとかもあります。
●情報確度
Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。
●ロケーション
炭鉱の中にある広場です。
壁にはカンテラをかける杭が出ていますが、現状では何もかけられていません。
広さや高さは問題ありません。
足場は石ころが多く、やや不安定です。対策なしでは若干のペナルティがあります。
また非常に暗いため、何らかの対策がなければ大きなペナルティがあります。
丁度現場に到着した所で、敵と遭遇します。
敵はまとまった場所から、こちらに襲い掛かってきます。
●敵
精霊です。通常の言語による意思疎通は行えません。
それ以外の交流でも、怒り狂った彼等を直ちに鎮めるのは難しい所でしょう。
総じて反応が非常に遅いです。
またHPも多くありませんが、ダメージそのものが通りにくい相手です(防御技術が高いです)。
敵の攻撃は神秘に非常に偏っています。
〇アースエレメンタル×1体
浮遊して黄色くぼーっと光っています。
暗くてもこいつだけは見えます。
最も強力な個体です。
・アースグレイヴ(A):神中単、ダメージ、出血
・ストーンカッター(A):神近単、ダメージ
〇ストーンエレメンタル×8体
浮遊する石のような存在です。
・石つぶて(A):神中単、ダメージ
・ストーンカッター(A):神近単、ダメージ
〇ソイルエレメンタル×2体
浮遊する土の塊のような存在です。
・スネア(A):神中単、乱れ、足止、ダメージ小
〇ダークエレメンタル×6体
浮遊する闇のような存在です。
あたりが暗いと全く見えません。
・体当たり(A):神至単、不吉、暗闇、Mアタック80、無、反動1
・極低耐久(P):HPが1である。
〇ティンエレメンタル×2体
浮遊する金属のような存在です。
・メタルカッター(A):神近単、ダメージ
・クライ(A):神中範、不吉、ダメージ小
●ノッカー
姿は見えませんが、どこかで応援してくれているでしょう。
以上。ご参加を心待ちにしております。pipiでした。
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