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シナリオ詳細

バーデン・スミスの“呪われた”銃。或いは、世捨て人の三角地帯…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バーデン・スミスの“呪われた”銃
 バーデン・スミス。
 かつてラサにいた銃鍛冶……つまり、ガン・スミスの名前である。
「バーデン銃と呼ばれたそれは性能が高く、結果として大勢の命を奪ってしまった。それゆえ今では“呪われた”バーデン銃として扱われている……で、合ってるっすか?」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が問いかけたのは、浅黒い肌色をした1人の女性である。ラサの住人らしく腹部や肩を露出した格好で、髪などは太陽光に焼かれてパサついていた。
 その腕、腹部、太ももに至るまでひと目でそうと分かるほどに、筋肉が発達している。
 その筋肉は、毎日のように鉄を鍛える中で身に付けたものだ。
「あぁ、その認識で問題ない。そして、今回はそのバーデン銃の回収を依頼したい」
 彼女の名は“3代目”バーデン・スミス。
 かつてラサで名の知れた銃鍛冶、バーデン・スミスの孫にあたる女性である。
 日頃は遺跡の工房で、俗世から離れて銃の手入れや、部品の製造などをしながら暮らしているような厭世家だ。
 そんな彼女の工房には、ラサの各地から回収したバーデン銃が無数に飾られている。
「結局、銃なんてものは使い手次第で“救う”ことにも、“奪う”ことにも使えるものだ。“呪われた”なんて言うけどな……私から言わせれば、呪われているのは“奪うこと”しか知らない人の方だよ」
「まぁ……武器は使い手を選べないってことっすかね。さて、それで回収したいバーデン銃はどこに?」
 少し暗い顔をしたバーデンを宥め、イフタフは問いを重ねた。
 バーデンは砂漠の地図を取り出して、その一角を指し示す。
 そこにあるのは、3つの小さな遺跡群。
「ここは?」
「“世捨て人の三角地帯”と呼ばれる区画だ。3つの遺跡をこう線で繋げると、ちょうど三角形を描くように見えるだろう」
「……はぁ。なんか、嫌な予感がする名前っすね」
「その感想は正しい。三角地帯に迷い込めば、二度と生きては帰れないとそんな伝説があるからな。実際、この辺りは砂塵が頻繁に巻き起こるんで、遭難者も多いんだ」
「あぁ、なるほど。危険な場所だから、自分で立ち入るのは避けたいと?」
 得心がいった、という風にイフタフは深く頷いた。
 だが、バーデンはそんなイフタフを揶揄うように、にやりとした笑みを浮かべる。
「それだけじゃないぞ。バーデン銃を持っているのは、三角地帯を彷徨う銃兵隊の隊長だ」
「銃兵隊?」
「いかにも。既に死人のようだがね。部隊丸ごと、三角地帯で遭難して命を落として……未だにアンデッドとして、彷徨い歩いているそうだ」
 “世捨て人の三角地帯”が危険とされる理由の1つだ。
 頻発する砂塵と、砂塵の中を彷徨い歩くアンデッドの群れ。
 足を踏み入れれば、二度と生きては帰れない。
 そんな噂が流行るのも当然の危険地帯であるらしい。
「砂漠の旅は慣れているか? もしそうなら、ぜひ銃の回収をお願いしたい」
 バーデンの話を聞いたイフタフは、顎に手をやり視線を頭上へと向けた。
 砂漠を旅する仕事であれば、誰に持っていくのがいいか。
 そんなことを考えているのだろう。

GMコメント

●ミッション
バーデン・スミスの銃を回収する

●エネミー?
・アンデッドの銃兵隊
10~20名ほどの銃兵隊。
かつて“世捨て人の三角地帯”で遭難し、命を落としてアンデッドと化した者たちの成れの果て。
バーデン銃を所持しているのは、その隊長を務める人物であるようだ。

●その他
・“3代目”バーデン・スミス
浅黒い肌をした筋肉質な女性。
“呪われた”バーデン銃の制作者、バーデン・スミスの孫にあたる人物。
厭世家であり、普段は人と関わろうとしない。
祖父の汚名を晴らすためか、バーデン銃を回収している。

・バーデン銃
バーデン・スミスの制作したライフルの総称。
非常に精度が高く、多くの命を奪うことに使われた。
それゆえ“呪われた”バーデン銃と呼ばれている。

●フィールド
ラサ。
“世捨て人の三角地帯”と呼ばれる区画。
砂塵が起こりやすい地形らしく、目印となる看板や岩は砂に埋もれたり、現れたりするし、地形なども頻繁に変わる。
そのため遭難者が後をたたない。
アンデッドの銃兵隊は、かつて遭難して命を落とした一団の成れの果てである。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフに雇われた
正式な依頼として“世捨て人の三角地帯”を訪れました。基本的には銃兵隊の捜索を優先します。

【2】遭難していた
“世捨て人の三角地帯”で遭難しています。基本的には、三角地帯からの脱出を目指します。

【3】“世捨て人の三角地帯”を見物に来た
物見遊山です。危険な場所に興味本位で立ち寄ったのだから、それはもう危険な目に逢います。


心情
“世捨て人の三角地帯”を歩き回るにあたっての心情です。

【1】銃兵隊と戦いたい
バーデン銃を有する銃兵隊と戦ってみたいと考えています。バーデン銃を壊してしまわないよう注意しましょう。

【2】危険を回避したい
できるだけ危険な目に逢いたくありません。慎重に行動し、目的の達成を目指します。

【3】観光気分でいる
何だか賑やかになって来ました。見物客気分でいますが、見物客がトラブルに巻き込まれないとも限りません。
砂漠は厳しいところです。

  • バーデン・スミスの“呪われた”銃。或いは、世捨て人の三角地帯…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月26日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
芍灼(p3p011289)
忍者人形
オセロット(p3p011327)
譲れぬ宝を胸に秘め

リプレイ

●砂漠の風に運ばれて
 “世捨て人の三角地帯”。
 ラサの砂漠に存在している3つの遺跡。地図上でそれを線で繋げば、ちょうど描かれる三角地帯の別名である。
 砂嵐が頻発する地域で、古くから旅人や商人からは忌避されていた。なにしろ地形さえも頻繁に形を変えるせいで、尋常でないほどに遭難しやすいためである。
 ラサの旅人は強靭で、多少の苦難をものともしない。
 だが、それは決して“命知らず”と言うことではないのだ。
 当然、誰だって命は惜しい。
 それゆえ、いつしか自然とそこには人が近づかなくなった。
 そんな“世捨て人の三角地帯”を、よろよろと彷徨う人影が1つ。
「ここはドコ? 砂嵐に飛ばされて迷子になったデス」
『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)である。
 タンブルウィードよろしく、砂嵐に吹き飛ばされてすっかり遭難していたらしい。

 イフタフ・ヤー・シムシムを先頭とした5人の集団。
 目的は、“呪われた銃”と名高いバーデン銃の回収であった。
「バーデン・スミスか! いい腕って聞いてるぜ!」
『譲れぬ宝を胸に秘め』オセロット(p3p011327)が砂漠を見渡しそう言った。
 バーデン・スミス。
 知る者ぞ知るラサの銃鍛冶である。
 腕のいい銃鍛冶。けれど、バーデンの作った銃は多くの命を奪って行った。
 ゆえに“呪われたバーデン銃”。
「武器なんてなァただの道具だ。多くの命を奪えるから呪われるんなら、最も呪われてるのは人間様のお手々だぜ!」
 呆れたように『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が吐き捨てた。
「どいつもこいつも道具に意味を持たせ過ぎるんだよ。なあ?」
 腰に下げた水筒をキドーが手にした、その瞬間だ。
 ごう、と強い風が吹き、数キロ先で砂嵐が巻き起こる。
 まるでキドーの吐いた言葉が合図であったかのように。
「……精霊もそうだそうだと言っております」
「砂嵐のようだが。まいったな、このままだとかち合うぞ?」
 地図へ視線を落としながら『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)がそう言った。
 それから周囲をぐるりと見まわし……悲しいかな、身を隠せそうな場所は近くにないようだった。

 斥候、偵察、捜索などは『忍者人形』芍灼(p3p011289)の得手である。
 砂嵐発生の直後、オセロットの指示を受けた芍灼が砂漠をまっすぐ駆け出した。
「バーデン殿のためにも頑張るでござるよー!」
 芍灼が探しているのは“安全な隠れ家”。つまり、砂嵐が過ぎるまで、身を隠しておける場所を発見しようとしているのだ。
 一見すると、広い砂漠には身を隠せそうな場所は無かった。
 だが、それは“目に見える範囲”に限ってのことだ。視認できない位置……例えば、砂の中にまで観測範囲を広げれば、すっかり埋もれた遺跡であったり、馬車の残骸であったり、巨大な生物の白骨死体であったりが見つかるものだ。
 それらを見つけて、簡易の拠点とすることが芍灼に与えられた任務である。
 けれど、しかし……。
「やや? 遺跡らしきもの……が……あるぇ?」
 芍灼が砂に埋もれた遺跡を発掘するのに大した時間はかからなかった。
 だが、遺跡には先客がいた。
 青白い肌の遺体が1つ、砂と遺跡の間に埋もれていたのである。

●三角地帯の銃兵隊
 ごうごうと風が渦巻き、辺りを砂が舞っている。
 もうしばらくすれば、この辺りも砂嵐に飲まれることだろう。
 だが、問題ない。
 遺跡の影に隠れて、頭から布でも被っていれば砂嵐はやり過ごせるはずだ。
 もっとも、時間的にはかなりギリギリだったけれど。
 砂に埋もれた遺跡を掘って、どうにか数人が身を潜ませるだけの空間を確保した。すぐそこにまで砂嵐が迫っている状況で、よく間に合わせたものである。
「イフタフ様デスネ、これで無事に帰れそうデス」
 ペコリと頭を下げるアオゾラ。
 だが、イフタフはというと苦虫を噛み潰したみたいな顔をしている。
「無事に帰れそうっすかね。今まさに、砂嵐に飲まれそうになってるんっすっけど」
「まぁ、帰り道は分かるからな。三角地帯脱出は容易だろうが……目的があってな。すぐに帰還とはいかないんだ」
「……?」
 首を傾げるアオゾラに、ラダは事の次第を話した。
 イフタフをリーダーとした一行が三角地帯を訪れたのは、バーデン銃を回収するためであること。そして、回収目標のバーデン銃は、三角地帯を彷徨うアンデッドの軍勢……通称、銃兵隊が所有していること。
 話を聞き終えたアオゾラは、うんと深く頷いた。
「砂漠を彷徨うアンデッド、デスカ。ではあてもなくずっと彷徨うのは辛いでしょうから一思いに成仏して貰うデス」
「……ところで、アンタは何でこんなところに?」
「遭難して、砂漠を彷徨っていたのデス」
 オセロットの問いにアオゾラは答えた。
 銃兵隊と同じように、アオゾラもまた砂漠を彷徨う者の1人であったらしい。アンデッドの仲間入りを果たさずに済んで何よりだ。
「何て言うか、よく遭難してるっすね」
 イフタフが言った。
 人のことをどうこう言える立場でも無いが。

 ごうごうと渦巻く砂嵐。
 耳が痛くなるほどの暴風と轟音。
「む? 何か音……足音が」
 それに混じって、足音が聞こえた。
 芍灼がその足音を聞きつけた。唇に指を当てて、仲間たちに「静かに」と合図を送る。
 それから、頭から被った布に耳を押し付けると、芍灼は目を閉じる。
 耳を澄ませて、砂嵐に紛れる何かの足音を聴き取ろうとしているのだ。
「人……10数人。武器を持っているようでござるな」
 芍灼が背後を……砂嵐が来た方向を指し示した。
 足音の主は、砂嵐と共に移動しているのだろう。
 しかし、なぜこれほどの暴風の中、吹き飛ばされずに進軍を続けられているのか。
「……もしかして、砂嵐と共に移動しているんじゃなくて、そいつらが移動するから砂嵐が起きているんじゃないか?」
 ふと、思いついたようにラダは言う。

 砂嵐が勢いを弱めた。
 一行の近くを、すっかり通過したのである。砂まみれになった布を押し退けながら、芍灼とキドーが遺跡の影から這い出した。
 周囲の景色は一変している。
 砂嵐が通過したことで、地形の一部が変わっているし、一行の足跡も消えていた。
 遺跡から数十メートルほど離れた場所には、今まさに遠ざかろうとする砂嵐が見えた。それから、砂嵐に紛れて進軍を続ける10数体の人影も。
 アンデッド、銃兵隊だ。
「っし、やるか」
「で、ござるな」
 軽く拳を打ち合わせ、2人は砂漠を駆けて行く。

 銃兵隊というだけあって、銃の扱いやチームワークは抜群だ。
 足音を聞きつけるなり、半数ほどが地面に膝を突いて銃を構えて見せた。残る半数は、警戒した様子で隊列を横へと伸ばしていく。
 集中攻撃を受けて、隊が一瞬で潰滅するのを避けるためだろう。
 砂嵐に紛れるように展開した部隊の右翼と左翼の数人が、徐々に前進を開始する。睨み合いと同時に、イレギュラーズを包囲する心算なのだろう。
 それを指揮しているのは、中央に立つ1体のアンデッド。頭に被った帽子には、すっかり砂に塗れた幾つかの勲章がある。
 彼が銃兵隊の隊長だ。
 そして、その手にある古めかしいライフルこそが今回の目的である“呪われた”バーデン銃であろう。
「刀にしろ銃にしろ、人の命を奪った程度で呪われてるとはナンセンスだよな。“そうできる”だけだってのによ」
 銃口を向けられているにも関わらず、オセロットはへらりと笑った。
「まったくだ。人を大勢殺せるからってんなら、そこらの石ころだって十分に呪われてらぁ」
 銃口から身を隠すようにオセロットが盾を構えた。
 オセロットの影に隠れるようにして、キドーが肩を震わせて笑う。
 これだから“人”というのは始末が悪い。
 何にだって“意味”と“理由”を持たせたがるのだ。そして、その“意味”や“理由”から、己らだけは遠ざけようとするのである。
 人を殺したのは誰だ?
 バーデン銃が、己の意思で銃弾を撃ったことがただの1度だってあるものか。
 銃を撃ったのは人だ。
 人が人の命を奪っただけの話だ。
 つまり、悪いのは人だ。

 ピリピリとした空気。
 それを言葉にするのなら、一種即発が相応しい。
 しわぶき一つで血が流れそうな緊張感を破ったのは、ラダが手を打つ音だった。
「少し、話をさせてほしい」
 キドーやオセロット、アオゾラにそう告げて、ゆっくりと前へ歩いていく。その両手は顔の横に上げられていた。
 敵意が無いことの表明だ。
 ラダの傍に控える芍灼も同じように手を頭の上へと挙げている。
 銃兵隊が引き金を引くことは無かった。
 だが、警戒を緩めるようなことも無い。
「……この辺りが限界か」
 銃兵隊の射程距離からほんの1メートルほど手前で、ラダは足を止めた。吹いている風の強さや、銃兵隊の持つライフルの種類から、安全距離を正しく割り出したのだろう。
「ここのところ、死者との縁が続くな。お前たち、砂漠から帰還したいんじゃないか?」
 ラダが声を張り上げる。
 その視線は、まっすぐに隊長の方を向いていた。
「帰り道の方向なら分かる。嘘じゃない」
 返答はない。
 だが、発砲も無い。
 干からびたアンデッドが相手では、顔色を窺うことも出来ない。だが、ラダはさらに言葉を重ねるべきであると判断した。
「成功報酬はその銃だ。試すだけならタダさ、乗ってみないか?」
 そう言って、ラダが隊長の持つバーデン銃を指差した。
 その瞬間だ。
 銃声が鳴り響いたのは。

 銃声。
 そして、漂う硝煙の香り。
「っ……突然でござるな」
 弾丸は、芍灼が剣で弾いて見せた。
 発砲したのは銃兵隊の隊長だ。心なしか、その顔には憤怒の感情が窺える。
「バーデン銃を渡すつもりは無いか。いや……違うな。奪われまいとしているのか」
 芍灼を引き摺るようにして、ラダは急いで後退を始めた。
 隊長の発砲を皮切りに、銃兵隊が一斉に銃の引き金を引いたからである。
 降り注ぐ弾丸の雨を掻い潜るようにして、ラダと芍灼が後退していく。それをカバーするべく、オセロットとキドーが前進を開始。
 2人を押し返すように、砂嵐が勢いを増した。
 けれど、しかし。
 パチン、と。
 キドーが指を鳴らした瞬間、砂嵐が掻き消えた。
「精霊さんがこう言ってます。しばらくお休みいただきます、ってなぁ」

 銃声が鳴り響く前衛。
 対して、後方は静かなものだ。十数人の部隊を相手に、キドーとアオゾラ、オセロットの3人は互角に渡り合っているらしい。
「残念でございましたな」
 残念そうな顔をして芍灼が言った。
「ん? あぁ……まぁな」
 対してラダの方はと言えば、困ったような苦笑い。交渉が決裂したにしては飄々としたものである。
「こう言う事もあるし、まぁ、向こうにも事情がありそうだ。それに、互いに実力を認め合って、はじめて交渉の舞台に立てると言うケースもある」
 そう言う意味では、今回の交渉は性急に過ぎたのかもしれない。
 或いは、タイミングが悪かったか。
 もしくは、そもそも交渉の余地が無い相手だった可能性もある。
「反省点があるのかもしれないが、それは後で……だな」
 担いでいたライフルを降ろし、安全装置を人差指で弾いて外した。ガチャンとレバーを後ろに引いて、弾倉から砲身へと弾丸を送り込む。
「うぅん。理性が無いようにも見えなかったのですが」
 本当に交渉の余地は無いのか。
 剣を構えながら芍灼は、そんな疑問を抱くのだった。

 ゴォン、と鈍い音がした。
 オセロットの盾が、銃兵隊の1人を打ち据えたのだ。顔面がへしゃげた銃兵が、砂の上を転がった。
 仲間がやられたことに激高したらしい。数発の弾丸が、四方からオセロットに向け放たれる。オセロットは盾を担いで地面に伏せた。
 まるで亀か何かのような姿勢だが、弾丸のほとんどは盾に弾かれオセロットを傷つけない。そのまま地面を這うように……或いは、滑るようにしてオセロットは疾走を開始した。
「そいつがバーデン銃かっ! 俺が買い取りてえくらいだが依頼人の意向とありゃしかたねえ!」
 盾を投げ捨て、オセロットが跳んだ。
 隊長の手からバーデン銃を奪うべく、オセロットが手を伸ばす。

 自分たちを死地へと追いやった役人の顔を、1度たりとも忘れたことは無い。
 次々と戦果をあげる銃兵隊が邪魔だったのだ。
 だからこそ、碌な準備も整わないままあの男は銃兵隊を三角地帯へと向かわせた。役人の命令には逆らえない。きっと自分たちはここで死ぬのだろう。
 それを理解していたが、銃兵隊は全員が隊長に従った。
 彼らに帰る家は無く、帰りを待つ家族も無く、隊の仲間だけが寄る辺であった。だから、ここで隊長に従い、仲間と共に死ぬのであれば、それでいいと思ったのだ。
 最後の夜に、隊の全員で酒を飲んで言ったのだ。
『俺たちはここで死ぬ。帰還することは二度とない』
 友との、家族との約束だ。
 そして、約束は果たされなければならない。
「貴方の憎い相手は誰デスカ?」
 そんな声が聞こえた気がした。
 気づけばそこに、憎き役人が立っていた。

 銃弾の雨が降る。
 細剣で弾丸を斬り払いながら、アオゾラは徐々に後退していく。その後を追って、銃兵隊が駆けていく。奇麗に整っていた隊列が、少しずつだが崩壊していく。
 薄くなった弾幕の間を、オセロットが駆けていく。
「行けっ! 獲って来やがれ!」
 銃兵隊を蹴飛ばしながらキドーが叫ぶ。
 オセロットが盾を投げ捨てる。
 そして、まっすぐに伸ばしたその手が、隊長の手からバーデン銃を叩き落した。

●帰るべき場所は無い
 地面に落ちたバーデン銃を拾い上げたのは芍灼だった。
 銃を拾い上げようとする隊長の首には、アオゾラの剣が添えられている。
『首を刎ねたいのなら、そうすればいい』
 両手を降ろし、隊長は告げる。
 しゃがれて、掠れた声である。
「……?」
 何を言っているのかと、アオゾラは首を傾げた。
 その様子を訝しんだ隊長もまた、何かがおかしいと首を傾げる。
『我々を連れ戻しに来たんじゃないのか? 命令違反者として、さらし首にでもするつもりなのだろう?』
「……?」
「待て。何の話をしている? というか……まさか、自分たちが死者だと気付いていないのか?」
 会話の成立しない隊長とアオゾラの間にラダが割り込む。
 隊長の虚ろな眼窩がラダの方を向いていた。

『つまり、私たちは既に死んでいると?』
 交渉……と言う名の事情説明の末に、銃兵隊はやっと自分たちが死者であることを知った。死後、数十年もの間、彼らは砂嵐の中、時間の経過さえも分からず砂漠を彷徨い歩いていたのである。
 その事実を知り、銃兵隊はざわついた。
 自分たちが死者であると聞かされては、まぁ、冷静ではいられないだろう。
『静まれ!』
 だが、ざわつきは隊長の一括により終わりを迎える。
 部下たちが静かになったのを確認し、隊長は深く頷いた。
『つまり、目的はこのバーデン銃というわけだな? で、あればこれは君たちに託そう』
 そして、あっさりと隊長はバーデン銃をラダへと渡す。
「いいのか?」
『死人に銃などいるものか。だが、譲るのはそれだけだ。我らの遺体や、この勲章、そして身に付けたいかなるものであっても持ち帰ることは許せない』
 このまま砂漠に眠らせてくれ。
 隊長はそう言っているのだ。

 かくして、銃兵隊の魂はあの世へ渡って行ったのである。
 残された遺体は、イフタフを含めた6人で地面に穴を掘って埋めた。
 詳しい事情は知れないが、死人の最後の頼みを無碍にすることは、どうにもできなかったのである。
「……人間ってのは、どうも面倒くさいっすよね」
 “呪われた”バーデン銃も。
 砂漠を彷徨う銃兵隊も。
 全ての元凶は“人”である。
「まぁ、いい奴もいれば悪い奴もいるのが人だ。あんま考え過ぎんなよ」
 そう言ってキドーは、イフタフの肩に手を回す。
 ゴブリンに慰められるのは何か違うなぁ、とそんなことを思いながらも、イフタフはもう余計なことを考えるのを止めたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
バーデン銃は無事に回収されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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