シナリオ詳細
<悠久残夢>葬られし人形に尊厳の鉄槌を。
オープニング
●
荒涼とした平坦な地にうずたかく積まれているゼロ・クールの山。それが大小点在している。
『ゼロ・グレイグヤード』はなんらかの事情により廃棄されたゼロ・クール達が遺棄される場所だ。
役目を終えたもの。破損したもの。
そこは創造主である魔法使いから解き放たれた人形たちの静謐な領域だった。
そのうつろな器が寄生型の終焉獣にとっては大量の餌になるまでは。
ガン! ゴン! バキ! ベキ!
五体満足ではないゼロ・クールの集団が、転がっているゼロ・クールの残骸を振り回して棺を破壊しようとしている。
それは、「棺」だった。
ほかの、投棄されたゼロ・クールとは別格の「埋葬」されたドール。
創造主である魔法使いは変わり者だったのだろう。
その棺を、打ち捨てられたゼロ・クールが破壊しようと執拗に打ち据えている。
壊すための道具などない。むき出しの軽量骨格をくさびにして。転がった頭部を槌にして。
蓋をたたき割り、きれいに整えられて安置されたゼロ・クールをひび割れた顔のゼロ・クール達が覗き込む。何体も、何体も。押し合い、へし合い、耐えきれず潰れるモノにかまいもせずに。
ほかのゼロ・クールがむき出しの素体であるのにもかかわらず、そのゼロ・クールは上等のドレスが着せられていた。
ごぶ、がぶ、げぶっ!
壊れかけの人形達の中から機械油で濁った粘液が噴き出し、愛された人形に降り注ぐ。
動かなくなったはずの人形の中から不協和音がした。ノイズ。耳をふさぎたくなるほど不快な金属がこすれ合わされる音だ。
「ごぉきげええええんょおよよよおよおおおおおおおお!」
棺からはね起きて、バッファに残った言葉を意味もなく吐き出しながら手足を振り回す。
見開かれた目は高速で振動している。光彩に識別番号。粘液に溶かされてもうなんとかいてあったか読めない。
●
電脳廃棄都市ORphanから境界図書館を経て、果ての迷宮であった場所に辿り着けば、そこは、美しい商店街だった。
「アトリエ・コンフィーのゼロ・クール『Guide05』がご案内いたします。お気軽にギーコとお呼び下さい。ようこそ、ギャルリ・ド・プリエへ」」
魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形・ゼロクール。笑顔はプログラミング。チャーミングだ。魔法使いの腕がよかったらしい。
目の前にスクリーンが下りてくる。
「僭越ながら、状況のご説明。お願いしたき状況の説明をさせていただきます」
魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』
密接に混沌とリンクし、混沌の有り得たかも知れない世界として分離されたその地は、気付いた頃には混沌に飲み込まれて仕舞うであろう。
でも、それは今ではない。
「この世界は滅びに面しています。異世界からの来訪者様の世界よりも、もっと早く、ずっと早く」
愁いを帯びた表情。魔法使いの思いを込められたゼロ・クールが訴える。
「……ですが、この世界でも生きている者は居ります。廃棄された世界であれど、私達は存在しております――どうか、マスターをお助け下さい。来訪者様」
「私たちゼロ・クールは耐用年数を超え役目を終えれば、回収され『ゼロ・グレイグヤード』でやがては還元されます」
死体の山と同義なのではないかと思われるが、ギーコの表情は軽く笑顔だ。その場所に対してのマイナス感情を付与されていないらしい。
「処分の順番待ちのため、機体が多数放棄されており――寄生型の終焉獣にとっては大量の餌があるに等しい地と言えます」
想定外の事態で大変憂慮されます。と、ゼロ・クールは眉根を寄せた。遺憾の意を表しているようだ。
「廃棄ゼロ・クール達は既に『死んだ』と言える者達ですので、異世界からの来訪者様の世界に照らし合わせますと――いわばアンデッドの様に襲い掛かってきます。私も稼働中のゼロ・クールは尊重するよう行動しますが廃棄後はその限りではありません。ですが――」
棺に入れられたゼロ・クール。手を組み合わされて眠っているようだ。
「とある魔法使い様が大事になさっていたゼロ・クールを埋葬した区域で廃棄ゼロ・クールが多数異常稼働し始めたとのことです。該当機体が破壊活動を始めているそうで――埋葬された魔法使い様はひどくお嘆きとマスターから言付かっております」
ゼロ・クールは神妙な顔をしている。
「状況より、寄生終焉獣による汚染と考えられます。終焉獣にはコアがありますのでその破壊によって無害化が可能となります。ゼロ・クールはすでに廃棄されておりますし、機体限界の枠を超えて酷使されるので期待は自壊域に達すると想定されます。ですので、機体の保持にお気遣いなく。と、お伝えせよと言付かっております」
ゼロ・クールは戦闘用データを配布いたします。と言って、いったん動きを止めた。
「私は、マスターにプログラミングされたとおりに稼働し廃棄されることを第一義とするよう運用されています。そのために自己を保全いたするよう努めます。当該機体に起きた事象は、マスターの中に保存された私のデータが不当に破壊されている事態と類推いたします。私はそれを由々しき事態と認識します。当該機体が稼働中ならば全力で回避したと共通プログラムから類推いたします」
よろしくお願いいたします。そういって、ギーコは一般案内プロトコルに戻り、かわいらしい笑顔を浮かべた。
情けは人の為ならず。
混沌と密接な関係を持つプーレルジールが滅びるのは必然である。
その時にもしも『滅びのアーク』が限界まで凝縮されていたら?
混沌世界は万象の上に座す上位世界だ。下位の世界を飲み喰らう程に強い。
プーレルジールを飲み込んだ夥しい滅びの結晶が、混沌世界を内側から侵食していくことになる。
それこそが終焉に属する者達の狙い。混沌世界を支えるシステムそのものを攻撃せんとする計画。
プーレルジールの行く末は混沌世界にも確実な影響を齎すだろう。
見過ごせぬ。七罪達を撃滅し、滅びから遠ざけてきたというのに、一気に盤面をひっくり返されぬ事態など。
抗えるのは希望の可能性を持つイレギュラーズのみ。
ヒトはいつか死ぬ。世界はいつか滅びる。
だが、努力してどうにかできるのならば、それは今でなくていい。滅びに食い尽くされるような無残なものでなくていい。
葬られた後、尊厳を蹂躙される必要もない。
- <悠久残夢>葬られし人形に尊厳の鉄槌を。完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年12月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
商店街で生き生きと働いているゼロ・クール達を見た後では、なおさら。
「……ここまでの数のゼロ・クールが破損し、廃棄されているとはギーコさんは事務的に仰られていましたが、余り気分の良いモノではありませんね」
積みあがったゼロ・クールのパーツが崩れる音で周囲の様子を把握する。
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は、改めて辺りを見回した。転がる腕にはたるんだ人工被膜とはげたマニキュア。
「ゼロ・クールの生死は、あまりにも難しい問題だわね……当のギーコさん自身が人の亡骸に対するそれとは違う反応をする……人として扱えば現実に沢山の問題を孕む事は確かなのだわよ」
『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は小さく唸った。
「個人の感情に依るところがあるとは言っても、人と物の線引きが難しいわね……」
『Joker』城火 綾花(p3p007140)は積み上がったゼロ・クールの素体を観察する。
素体の脆弱な箇所の特定はコアの破壊に直結する。
今回ドレスの撃破を最優先する綾花としては、今の内に情報が欲しい。
(見つけた予測箇所は多い方がいいわ、数ある内から当てればいいだけだもの)
「確かに、ゼロ・クール達は人間とは異なる存在かもしれないが……」
『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、慎重に言葉を選んだ。
ヒトとモノの区別はつけなくてはならない。
なんでも同じに扱えばいいというものではない。ヒトにはヒトの、モノにはモノのシアワセのカタチがある。あるのだろう。ギーコの語った通りなのだとすれば。
「その亡骸を操り、破壊行動を起こすなど『死者に対する冒涜』以外の何者でもあるまい
静謐の地を荒らす不届き者――寄生終焉獣――は成敗する!」
だが、それでも心を痛める誰かがいるならば、暴挙を止めなくてはならない。
「まぁぁぁすたーぁ。なぁんなりと、ごよぉおおおおをぉおいーつけっくううううださぁぁぁいまあああああああっせえええええええええっ!?」
かわいらしく小首をかしげ、瞬きが異常に多い。
不意に、大音声。ヒトが不快に思わない声量はゼロ・クールの留意メモリーには残っていない――あるいは寄生型終焉獣がわざとそんな「声」を出させているのかもしれない。悪意のままに。
ノイズだらけの発声の奥底にかわいらしさがにじんでいるのが余計痛々しかった。
着せられていたドレスは何色だったのだろう。
寄生終焉獣の体液で変色しているドレスがまだ形を伴っているのは奇跡だ。あるいはそれすらもわざとかもしれない。
それを攻撃し、切り刻み、破損させるのはイレギュラーズだとうそぶきたいのかもしれない。。
寄生型終焉獣の器にされたゼロ・クール。
棺に入れられ埋葬されるまではいかなかったにしても、使命を全うして新たな資材となり再び新たなゼロ・クールになることを待っていたのだ。
少なくともギーコは、それが自然なサイクルだとプログラミングされていた。
「何とも冒涜的であり、悍ましい光景ですね……ヒトの遺体を弄んでいるのと同じことです」
『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)が表情を曇らせる。
「……何度見てもなんとなく気分がざわざわとするでござるな。怒りなのか哀しみなのか、未熟なそれがしには判断がつきませぬ」
『忍者人形』芍灼(p3p011289)のメモリーの欠落部分。そこに寄生される怖気は察するに余りある。
「埋葬シタ魔法使イ 嘆イテル 聞イタ。丁寧二埋葬シテ終ワリデハナク 今尚想イ続ケテイタトイウコト」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は、この廃棄場が『墓』としても機能していたことを認知した。
静かに朽ちることで古き個をなくし、やがて新しいものに還元される場所だ。
「これ以上尊厳が汚されてしまう前に、私達の手でしっかりと終わらせてやろう」
『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の繭が寄せられたのは、治りきらない傷が痛んだからではない。ひたとした決意の表れだ。
「でも、どの道勝手にリサイクルした上に悪用するのは良くないわ。マナーの悪いお客様には退店していただかないと」
排除されるべきは規制終焉獣。イレギュラーズは心を一つにした。
●
うず高く積まれた三つのゼロ・クールで出来た山。
「これで足元の崩壊を防げないか試すだけ試してみましょう」
それらが不慮の事態で崩壊しないよう、シルフォイデアが大規模な結界をかけ、さらに強固になるよう上書きをする。
意図的に破壊されなければ大分耐性を見込める術式だ。少なくともまだ規制されていない素体が戦闘の余波で崩れる事態は避けられるだろう。
「少し動きやすくするのだわ」
花蓮の千早が瑠璃色を帯びてふわりとそよぐ。いずこから彼の追い風。涼やかな空気がイレギュラーズの背中をやさしく押す。
ルーキスと芍灼はうなずき合った。違いの挙動を同期している感覚。挙動の無駄を極限まで減らす。
「
「――それがしのやれることは速やかにまた眠らせることのみ。御免!」
ひび割れた高音でしゃべり続ける『ドレス』と呼ぶことにしたゼロ・クールとの距離を一気に詰める。
綾花が語る過去の英雄譚が、前衛達の技を更に磨き上げる。手ごたえを感じ、すぐさま二人を追う。綾花の間合いはミドルからロング。高額チップを積むタイミングをつかむまで撒くべきところに魔光という名のチップを撒く。
ドラマは、進軍を助けるため壊れかけのゼロ・クールの注意をひこうと、偽翼を駆使して人形達の鼻先をかすめるように飛ぶ。
ドラマの髪をつかんで地面にたたきつけようとする無数の手指が、通り過ぎる影の刃に触れた途端バラバラと音を立てて地面に落ちる。
その様子に、ゲオルグは大きくうなずいた。
(とはいえ、地面に転がってる個体に組みつかれれば、その場から動くことは難しいだろう)
誇るべき最良の時の――それは昨日より前かもしれないし、まだ見ぬ明日より先かもしれない――自分を「今」に呼び起こし、ありうべくもない偽りの月を天蓋も見えない閉鎖空間に想起させる。
装甲に芽生えた草花をそのまま残したフリークライはタイニーワイバーンに地面すれすれで飛ぶよう指示した。歩くには足場が悪すぎる。
ぐぶ、ごぶっ。
斜め下に見下ろすゼロ・クール達の発声回路に入り込んだ寄生終焉獣がうごめくたびに咽喉から嗚咽が漏れ聞こえる。乾いた眼球を潤ませているのは涙滴ではなく、体内に入りきらなかった終焉獣の一部だ。
芍灼の繰り出す明鏡雪綱の切っ先から滴るそれは雪解け水ではなく、死に至る毒なのだ。ゼロ・クールが侵されずとも終焉獣の細胞膜を容赦なく破壊し内部に浸透する。
更なる毒をルーキスの刀から打ち込まれる。可憐な瑠璃雛菊の意匠がしっとりと艶めいた。
ドレスの体が不自然にはねた。体の中に巣くった終焉獣が暴れているのだ。
「しばらくは俺のことしか目に入らないし、まともに動けないはずです」
芍灼に向けて素早く告げる。
「その間に、コアの場所を探ります。闇雲に攻撃するよりもコアの箇所を直接狙った方が良さそうですからね」
「承った」
「それに機体の損傷は最小限にしたいので。習得した情報は共有します」
芍灼は、半身の構えを取り、ドレスの周囲に集まったゼロ・クール達と対した。
「なれば、それがし、探査の邪魔を払うべく、なるべく多くの敵を巻き込める様に攻撃するでござる」
馬手に雪綱、弓手にバングル。目にもとまらぬ乱撃は周囲に集まったゼロ・クールをことごとく砕いた。流れる血こそないが、素体からあふれる寄生型終焉獣の体液が四方八方へ飛び散る。
それを踏みしだいて新たなゼロ・クールが迫ってくる。
「どうぞ、ご存分に!」
●
飛竜の背から、墓守は祈る。
引き合う力を数理的に感じつつ、森番は歌う。
そして、巫女は窮地の仲間の仲間に寄り添い、かばう。
少数精鋭の部隊にとって烏合の衆であってもリビングデッドの群れが恐ろしいのは、倒し斬れない徒労感と一向に減らない数の暴力。多勢に無勢。戦線のバランスが崩れた時に畳みかけられ蹂躙されることへの恐怖。体の傷よりまず心が折れて負ける。
ならば、こちらも死にぞこないに負けないだけの不屈を。
痛みを和らげ、心の平らかを保ち、その背にかばう。柔らかな空気のうねりがイレギュラーズ達を一騎当千にし続ける。
「……ここまで壊れてしまっていたらもう、助かりませんか」
答えは、ドラマが一番よくわかっていた。そもそも壊れていたから廃棄されたのだと思いたい。ここにある素体の「魂」みたいなものはもうどこか違うところに言っているのだと。ここは、新しい魂を注ぐための新たな器に加工されるまでの待合所だ。
「寄生されたコアを破壊して無力化しましょう」
そうしたら、大丈夫だから。きっと、次の新たな生が待っているから。
「時間がかかろうと、倒れなければ簡単なお仕事ですし」
シルフォイデアは、フフッと笑った。
●
「さて、ドレスの方のコアは果たしてどこにあるのかしら」
綾花は、荒くなった呼吸の隙間に廃棄され、幸運にも寄生終焉獣の器にされなかった素体に目を配る。
(コアがあったとすれば、空洞か破損のどちらかの状態にはなってるはず終焉獣のせいで隠されても動かせは出来ない、あのゼロ・クールも数ある一つだとすれば……)
「鎖骨の突起は違った!」
実際にドレスと切り結びながら走査を試みているルーキスが選択肢を減らしてくれる。
「コアの破壊が先か、私が倒れるのが先か……さぁ賭けに出るとしましょうか」
精神力を練り上げた弾丸の着弾点を試しながら打ち込んでいく。
「味方に巻き込まないなら、アイゼン・シュテルンで楽しい楽しい大博打に出るのだけど――この広さじゃ天井の隅で縮こまってもらわないと無理ね」
ほぼ逃げ場がない。全てが降り注ぐ鉄の星で穴だらけになるだろう。
「だからって訳じゃないけど、振りまくならこっちかしらね」
宙に輝く蒼いスリーセブン。降り注ぐは数えきれないコインの概念。イレギュラーをもれなく奮い立たせる恵みが降り注いだ。
「そして結果もJack pot! 探り当てたわ、おおよそここってコアの位置を!」
動くゼロ・クールが減るほどに、イレギュラーズは地固めを忘れない。
ゲオルグは常に床に転がる廃棄体に目を配り、起き上がるものを端から赤い陶器をたたきつけていく。
その数も、柔らかな癒しの技にとってかわられる。
確実に。一人動けなくなったらそこから瓦解する。
ドレスのゼロ・クールを蹂躙すれば決着はもっと早く着く。しかし、尊厳を守るためなら戦い方はおのずと変わる。
だからこれは命のやり取りだけではなく、その過程においても完全に勝たねばならない戦いだ。
ドレスの関心が他に移りそうなら毒空木を。自分を見つめるなら鬼百合を。
ルーキスが繰り出す血濡れの花を受け取り続けていく内に命運が尽きていく。
破損は避けたい。
ルーキスをかばうため、至近によってきていた花蓮にもようやく余裕ができた。
(服の無い場所だけでも【透視】で特別仕様のゼロ・クールを確認したいだわね。それでコアが見えなければ、少なくとも服の下にあるという絞り込みは可能になるのだわよ)
出来る限り、最小限の破損で勝ちたいのは。花蓮も同じだ。
そして、透視の結果、少なくとも服の下にはない。
おそらく頭部。だが、位置が不確かだ。ここだと断言できない。
ちらちらと見えたり見えなかったり――。
ルーキスと花蓮は視線を交わした。異常に多い瞬き。
「――そういうことだわね!」
綾花の声に、花蓮の透視結果、自分が探っていた結果を照らし合わせて、ここという点を見極めた。
傷はなるたけつけたくないのだ。見える位置ならなおさら。
だから、狙いは過たずに。以上に多い瞬きの隙間。刹那のためらいで顔に傷がつく。
そくりと、長いまつ毛の隙間に深々と。大きな眼窩のさらに奥。
ゼロ・クールの制御コアとそこに巣くう寄生終焉獣のコアが見事に刺し貫かれ、すとんと床に座り込むようにして、ドレスを着たゼロ・クールは動きを止めた。
●
「ここにはあまり長居するべきじゃないわね、早いとこ戻……あれちょっと待ってガラクタに足を取られて思うように進めない!」
綾花は飛行出来る者たちに助力を求めた。先ほどまですっくと立って掃射していたとは思えないよたよたぶりである。しっかりするのだわ。と、花蓮が手を差し伸べた。ママ。
寄生されたゼロクールがはいでてきた為、三つあった山が幾分崩れて境目があいまいになったのは否めない。足の踏み場がない。
「無造作に廃棄するから、こうして利用されてしまうのです」
付け入るスキがないようにするのが埋葬の基本。
ドラマは、せめて綺麗な形で弔いましょう。と提案し、それに否を唱える者はいなかった。
ばらばらに砕かれた棺をできうるかぎり組み合わせ、ルーキスが持ち込んだ洗浄スプレーでぴかぴかに磨かれ、破損部分は見えないように整えて、再び安置した。
「…せめて亡骸を、綺麗に集めてお手入れする位は……」
埋葬……まで勝手にすると迷惑になるだろうから――と言いつつも、花蓮は人形の髪を指で丁寧にすいてやった。
「この上等な衣装は、きっと創造主の思い入れの証なのでしょう。大切にされていたんですね」
できる限り、手の届く限りのゼロ・クールの素体を整えて、せめて見苦しくないように瞼を閉じてやる。
「こんな光景の中、こういう風に大事に葬られたゼロ・クールを見ると少し安心するでござるな」
芍灼のつぶやきに、フリークライは応えを返した。
「埋葬スルハ 我二アラズ。君モ フリック達デハナク 主二弔ワレタイダロウ」
「……どうかまた、安らかに。人間はこう言って別れを告げるのでしたよね?」
そうだ。と、イレギュラーズ達は芍灼に頷いて見せる。
そのまっさらなメモリーに今日のことと一緒に末永く刻まれますように。
「モウスグ プーレルジール 決戦 終ワル。フリック達 終ワラセル」
フリークライの声は、すっかり静かになった空間に響く。
「君ノ死 二度ト 奪ワレルコト無シ」
君の死、二度と奪われること無し。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。とても丁寧に扱ってもらえて、かつての持ち主も感謝していることでしょう。ゆっくり休んでいる暇はありませんが次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
田奈です。
壊れかけのゼロ・クールの山と無茶苦茶動くゼロ・クールを酷使する寄生終焉獣のコアを潰してもらいます。
場所:『ゼロ・グレイグヤード 該当区画』
20×20×10メートルの石造りの空間です。
開始時点で入り口から左右と正面奥に直径8メートル、高さ7メートル強の円錐状のゼロ・クールの放棄機体でできた山が合計三つあります。
射線は通りづらいです。
戦闘中一定ダメージで崩れますので、足場はどんどん悪くなります。足場不安定。態勢が崩れないよう対策はしていた方がいいでしょう。
敵・寄生終焉獣入りゼロ・クール(廃棄)×多数。
すでに壊れているので耐久性に関しては雑魚です。ですが非常に邪魔です。
転がっているようで足元に組み付いてきたりします。
壊れた機体を武器にして振り回しますので、間合いは人間より広い場合があります。
寄生終焉獣入りゼロ・クール(特別仕様・ドレス)×1
他のゼロ・クールは素体ですが、この機体はドレスを着ているので識別が容易です。
このゼロ・クールは破損していない上、終焉獣にコーティングされているので耐久性が上がっています。コアはとりあえず体表にはないように見えます。
寄生終焉獣に強制稼働されているので非常に早く膂力も強いです。
機体を完膚なきまでに叩き潰すか、規制終焉獣のコアを破壊すれば成功です。
●サハイェル城攻略度
フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。
Tweet