シナリオ詳細
<悠久残夢>英雄譚の裏の裏
オープニング
●歴史の分水嶺
混沌世界の過去をベースに生まれた平行世界『プーレルジール』は、魔王『イルドゼギア』とその軍勢によって滅びの危機に瀕している。
しかしかつて混沌世界において魔王が『勇者王アイオン』によって討伐されたと伝承されているように。
この平行世界においても、何者でも無かった青年アイオンはイレギュラーズ達との旅路を通じて冒険者として大きく成長し、遂に魔王の居城『サハイェル城』へと辿り付いた。
イレギュラーズ達は関わったこの世界の人々を守り、ひいては混沌へと及ぶ滅びを打ち払うため剣を取る。
だがそれは、魔王の軍勢とて同様に備えイレギュラーズ達へ牙を向けることを意味するだろう。
平行した世界の行く末は、元なる世界の歴史を繰り返すことができるのか。
それとも新たな歴史として、滅びの結末を迎えることになるのか。
命運を分ける決戦の火蓋は、今切って落とされた。
●滅びは湯水の如く
決戦の舞台となった魔王城では、あちこちで勇ましい叫び声やけたたましい奇声がこだまする。
そんな激しい戦いの音色の中にぽつり、小さな呻き声が無数に蠢く場所があった。
建築目的から言えば数ある廊下やホールの一角と称されるであろうが、この魔王城の大きさ故にさながら大劇場の舞台をも思わせるそこは魔王城の奥も奥。
主たる光源のシャンデリアが薄暗く照らし出す内装や所々に設置された甲冑は、黒を基調としており、見えづらい影となる部分を更に目立たなくしている。
「さぁ、どんどんおいきなさいな」
滅びの気配を纏った何者かがそう言って手を振るう。
すると舞台の中央、幅広の巨大階段を登り切った先にある光輝く魔法陣から、様々な姿をした終焉獣やゼロ・クールが湧き出てくるではないか。
滅びの者共はそのまま僅かな呻き声に加わると、手近なドアからホールや廊下を抜け戦いが激しさを増す区画へ静かに向かっていく。
「イレギュラーズといえど所詮その可能性は有限にして矮小。ましてこの境界においては尚更。
魔王様の仔と一緒にじっくりと滅びを蔓延らせてあげなさい」
ほほほと妖艶な笑みを浮かべていた何者かであったが、遠くに気配を感じて一瞥する。
「こんなところにまで入り込むなんて……厄介な鼠だこと」
そのまま何者かは姿を消すと、置き土産と言わんばかりに無数の魔を配置する。
「強い仔は粗方出払っているけれど……仕方ないねぇ。主(ぬし)様の為、せいぜいお勤めに精を出すとしましょうね」
迫る足音を前に、何者かはその姿をそっと影に溶かして消えた。
- <悠久残夢>英雄譚の裏の裏完了
- GM名pnkjynp
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年12月04日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●果ての扉の向こう側へ
遂に訪れた魔王軍との決戦の時。
集った戦士達の中には混沌世界にて勇者として名を馳せた『アイオン』の姿もあった。
ここにいる彼は名もなき冒険者でありながら、やはり勇者の行路を歩む。
(魔王との決戦……か。まさに一世一代の晴れ舞台! ってところだろうが、あっちはアイオン達に任せるとするさ)
かの勇者とよく似た顔立ちをした『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は、決意を胸に妙な静けさを保った通路を仲間達と進む。
(義賊を目指して勇者と袂を分かち、そのまま歴史の闇に埋もれたのがサンディ。だから)
勇者が引き返さなくて良いよう。勇者が振り返りたいと思う事すら無くせるよう。
自分もまた道を選ぶ。彼に迫る魔の手を影ながら廃してみせる。そう心で誓う。
「皆、ちょっと止まって欲しいのにゃ」
そんな時、耳を澄ましていた『見習い情報屋』杜里 ちぐさ(p3p010035)が警戒を促す。
「ドアの向こうに一杯いるにゃ」
「おっと、やっぱりか。大抵歴史に残るような輝かしい戦いの裏には、行間に葬られた闇があるもんだが」
サンディが武器を構えるのに続き、『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)も剣を握る力を強めた。
「ここが題なき一幕だろうと重要な局面なのは変わりありません! 私達は全身全霊で駆け抜けるのみ!」
「そうじゃな。敵の策が待つなら、ワシらはその裏をかけば済む事。気を引き締めていけば良かろう!」
『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)もまた、そう言って豪胆に笑うと、部隊の先頭に躍り出る。
「ああ。全員で突破してみせよう」
その隣についた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が扉に手をかけた。
「準備はいいか?」
その声から体感にして僅か0.1秒。
一行の後方で小柄な少女の身体を眩い光が包み込んだかと思えば、一瞬にして全身に多数の兵装が装備される。
「『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)――起動完了。いつでも良いよ」
「私も大丈夫です」
その間に『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の髪や瞳の色も、魔女の力を解き放つに相応しいものへと変化していた。
「おや、変身する流れかい? なら私も一応乗っておこうか」
特段意味は無いが、験担ぎとして『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)もその豊満なバストをすぼめてみせた。
全員の準備を確認したイズマが扉を押し開けると。
僅かな隙間が開いた直後、狼に似た終焉獣達が飛びかかり彼の腕や足に嚙みついた。
一歩後ずさるイズマ。
「待ち伏せか。だが……!」
鋼たる者、強く在れ。鉄騎種として生まれた事に持つ誇り。
それが彼の肉体に幻想として宿ることで、青き鋼はより冴え渡り強くなる。
痛みをものともせず、狼達を扉に叩き付けるようにしながら振り払い。
「この程度で俺達は止められないぞ!」
細剣を指揮棒のように操り、ぶつかった箇所から生じた音に魔力を込め形作ると目の前に集約させる。
「響奏撃・波っ!」
それを波のように解き放ち、扉ごと狼達を押し飛ばすのであった。
開けた先に広がるホールには、滅びの気配を纏った騎士やゴーレム、狼達が蠢く。
彼らは続々と、侵入者たる一行へと襲い掛かる。
「イズマさん流石ですね! 私も負けてられません!」
迎え撃つべく先陣をきるトール。
その軽やかな身のこなしは美しさを感じさせるほどしなやか。
だが『本当の彼女』を知るイズマには、勇者達を影ながら支える戦いの幕開け。
という男心をくすぐる状況に内心興奮しているようにも思えた。
「これ、陣形を乱すでないぞ!」
遅れを取るまいと、オウェードも追従。
「なんて言ったはいいが、若いもんが頑張っとると、ワシも一層気合い入るというもの。
後世のため、境界世界のため。ワシらの綴られぬ生き様を、せめてお前さん達に刻んでやるとしようかね!」
眼前に迫る騎士を、竜の鱗すら引き裂かんとする一撃で鎧共々切り捨てれば。
柱の裏から矢を放つ兵士を、暴力的なまでの斧撃で柱ごと切り刻む。
「ワシを倒せるものはおらんのかッ!」
なおも戦場に轟くような雄叫びで敵を誘い出す。
当然彼を狙う存在は増え、終焉獣達は夥しい数のヒルのような形態に変化すると、彼の生気を吸い尽くすべく纏わりつく。
「ぐぅ、姑息な手じゃな。だがむしろ好機到来! 屈強を力でねじ伏せてこそ、脳筋騎士の誉よな!」
次の瞬間。
彼は見るも筋肉。語るも筋肉な斧殺法で、終焉獣達を次々にないないしていった。
剥がれ落ち、床をはじけ飛ぶ様は、破れた袋から零れるゴールドにも似ていて。
だが決して後ろに控える仲間達の元へは通さない。
これぞ数多のブレイブメダリオンを貰い受けた男が境界の夜明けを守る姿なのだ。
「終焉獣共よ、かかってくるがいい! ワシに勇者の称号は無くとも。
平和のために戦い、青き薔薇に誓い、どんな困難にも挫けぬ魂がある。
それが黒鉄守護を名乗る我が矜持! 今ならそこにお前さん達を屠ったという歴史を、価値や栄光として加えようぞ!」
「オウェードさん、張り切ってるな。ともかく、こんな奥地にこれだけの伏兵だ。
何があるか分からないが、近づく敵は俺達が受け持つ。援護と分析は頼んだ」
最後にイズマを加えた三人を最前線とし、英雄譚の裏に秘められた物語が動き始めた。
●滅びの濁流の関となれ
爪や牙。剣や弓矢。ありとあらゆる攻撃が一行を出迎える。
そんな中トールはできる限り空間の猶予を持てるように意識しながら、近衛騎士として鍛え上げた身のこなしで右へ左へと躱しながら徐々に前へと進んでいく。
(今回のオウェードさんとイズマさんは敢えて分類するなら防御反撃型。
動きで敵を翻弄する僕は、少しでも前の敵を片付けないとね!)
しかし敵が多い内はその軌道も限られてしまう。
彼女の着地点を狙うように、ゴーレム状の終焉獣が両腕を振り上げる。
だが、そんな状況においてもトールは笑っていた。
「遅いですよ!」
当たれば普通ぺしゃんこになってしまうほどの拳を見切りひらりと回避。
そしてすぐさま極光の輝きを伸ばすと魔を一刀のもとに両断した。
(ハイパーオーロラ斬り! ……決まったー!)
「トールさん、まだです!」
心地よくなるほどの命中ぶりに小さくガッツポーズ。
僅かな気の緩みが生じたトールを狙う、終焉騎士の剣。
あと少しというところまで迫るが、声と共に放たれたマリエッタの血の魔術が一足早く敵を串刺しにする。
「あ、ありがとうございます! マリエッタさん!」
気を引き締め直したトールは、再び敵に対峙していく。
「折角とても素敵でしたのに、油断してはだめですよ。……あっ」
そんな勇ましい姿を称賛するマリエッタであったが、ふと天井を確認する。
(流石にたらいなんて……落ちて来ませんよね。
女の子だって格好良さを他者に感じさせたっていいはずですものね。ええ)
そもそも戦闘のまっただ中で、敵も味方も彼女の様子を深く気にかける余力はないであろう。
だが『トールくんを救う会』のメンバーとしては。
彼女が彼になれるその日まで、女装バレとたらいへの警戒を怠るわけにはいかないのだ。
(とはいえ、こちらの問題に集中しませんと)
真剣な面持ちを取り戻すと、マリエッタは自身に施した二つの魔術式による行動加速を利用。
血の巡りに習った循環魔術回路を形成すると、前線を張る味方の援護を優先しつつ、圧倒的な魔力と手数で手当たり次第に蹂躙していく。
「はて」
にも関わらず、一向に終わりが見えない敵の波。
「勝利は掴めずとも、こちらを消耗させられれば良いと言わんばかりの人海戦術。
何かあるように思いませんか?」
彼女の問いかけに、情報屋としての一面も持つちぐさも頷いた。
「前に見た依頼報告書の中に、似たようなのがあったと思うにゃ。確かこういう時は……」
敵に明確な補給線があるものだ。
「近くに不審な物はないかにゃ?」
「あるとすれば……あそこだな。オニキスさん、すまないが敵に狙われづらい高さで飛んでくれないか?」
「うん、分かった」
軍勢達がひしめくその先。大階段の上に何があるのか。
モカは近くの柱を駆け上がると宙返りの要領で反転。
浮かび上がったオニキスを土台として、さらに高く跳ね上がる。
(敵が守る絡繰りはあれか!)
彼女が見たもの。
それは自身の狙う矢の雨と、大階段の先で光輝く魔法陣。
そこから湧き出す終焉獣達の姿であった。
モカは得意のアクロバティックで身をよじって矢をやり過ごすと着地。
「おおっ、かっこいいにゃ!」
ちぐさの感嘆に手を振り答えると、見たものを共有する。
「敵が湧く魔法陣……転送ゲートみたいなものだよね。
このままじゃ長期戦になりそうだし、破壊できないと他の戦場にも影響が出ちゃうかも」
「オニキスさんの言う通りだな。なら為すべきはあの階段まで全力前進! 急ごうぜ!」
「待ってにゃ!」
「っとと。今度は何だ?」
「前に本で読んだにゃ。こういう時は釣り野伏せって作戦があるのにゃ。あの辺とか怪しいのにゃ!」
ちぐさが指さす先は、柱の影となる暗所。
よく見れば一行を囲い込めるような形で黒い甲冑達が並べられていた。
「なら、確認しないとね!」
オニキスは狙いを定めると、魔力を込めた弾丸を解き放つ。
「矢のお返しだよ! マジカル迫撃砲、発射!」
錯乱や凍結の魔術が施された弾は次々と着弾。甲冑達をなぎ倒す。
すると割れた鎧の中から、これまでの敵とは違う生々しい人型が現れた。
「あれは人間……いや、ゼロ・クールか!」
既にこと切れたような表情と、オニキスの砲撃にも一切動じず迫る動き。
罠のように配置されていたことといい、廃棄された者達を操っているのは明白であった。
その事実に、モカは拳を握りしめる。
「こんな形でゼロ・クール達の眠りを妨げるとは。魔の王と称されるだけの事はあるな」
「ああ。確かに稼働時には地味で辛い役目を課されたり、廃棄した主にすら既に忘れ去られてしまっているかもしれないさ。
けどそれは、役目を終えた者を雑に扱っていい理由にはならない!」
サンディは仲間達に癒しの力を届けていく。
「この戦い絶対負けられねぇ……。回復は任せな! 皆は全弾打ち尽くす勢いで構わないぜ!」
魔力を無尽蔵と思えるほど供給できるマリエッタにも、彼の心は染みていた。
「そうですね。私も彼らを利用する存在へ見せつけるとしましょう。
私達の未来を掴み取るという決意を、ここにいる全てを切り捨てることで」
イズマやトール達が終焉獣を引き付けることで空いた隙間に、モカとマリエッタは入り込むべく動き出す。
二人を阻むため何体かの終焉騎士も対応するが、ちぐさの放つ漆黒がそれを許さんと帳を降ろした。
「こう見えても僕は妖怪猫又! 不吉な攻撃もお手の物なのにゃ!」
(可愛い人だと思っていたが、情報提供に的確な援護……キミも十二分にカッコイイじゃないか)
闇がまとわりついた騎士達の攻撃は、狙い通りには届かない。
その結果として無事に目的の距離にまで入り込めたモカは笑みを浮かべると、
マリエッタと二手に分かれ外周を確保。ゼロ・クール達を駆り立てる。
「駆けよ黒豹、敵を屠れ!」
「今度はこちらが囲い、圧搾する番です!」
二人の攻撃は多くの人形を砕き。
未だ動ける者は激しい攻撃から逃れるため一か所に集まる形となる。
「ごめんね、皆」
しかしそこは、飛行し狙いを定めていたオニキスのビームキャノンの射程内。
銃口が捉えたゼロ・クール達は、機動魔法少女たる彼女からは同胞ともいえよう。
そんな同胞が操られることに高まる怒りと悲しみの感情は、侵略者に対抗する強大な力となる。
「助けられないなら。せめてもう二度とこんな目に合わないように……ゆっくり、おやすみ」
破式魔砲。
哀しみが込められた光は眠りの鎮魂歌となり骸を消し去った。
●奇跡か必然か
「まったくもう。入り込むに飽き足らずこうも散らかして」
前線を守る三名を中心に終焉獣達は圧倒され、オニキス達によってゼロ・クールは消し炭となった。
その惨状に対して、まるで児戯に頭を悩まされる母親のような息遣いで。
大階段の到達点から見下ろす声に視線が集う。
まるで豊穣の民のような装いに、口元を覆い隠す扇子。
一般的な女性の三倍はある体躯の大きさや漏れ出る狂気の気配に目をつぶれば。
人を魅了するような妖艶さを放つ佇まい。
だが終焉獣と同じ性質を感じさせ、かつ大人びた魅力を放つ存在などオウェードには何の影響もなかった。
「ほう。お前さんがこやつらの親玉かのう。ワシらに手駒を倒され、焦って出てきたのか?」
「おほほ。威勢のいい黒髭鼠だこと」
オウェードの煽りを払い返すように、女性体は扇子で一度柔らかく仰ぐ。
「ぬおっ!?」
次の瞬間、ビームのような魔力が彼の体を弾き飛ばした。
「大丈夫か、オウェードさん!」
イズマは彼の体を引きずるようにして柱の陰に身を隠すと、回復を行う。
「すまん、助かったわい。不意の攻撃に回避は叶わなんだが、なんにせよこの程度ではワシは崩れんよ!」
他の面々も同じく敵の攻撃から潜んだところで、女性体は再び語り掛けてきた。
「わざわざ異界にまで来て。勇者に組みするかと思えばこんなところに紛れ込んで。本当によく分からない存在ですねぇ」
「そっちこそにゃ! 魔王様が勇者と戦ってるのに、手下がこんなところで油売ってていいのかにゃ?」
「ふぅん。確かに仔が言う事を聞いてくれなきゃ大変ねぇ。でもねぇ……わっちの主様は魔王様じゃないんさねぇ」
会話が続く中で、魔方陣の様子を伺っていたオニキス。
(魔力が徐々に高まってる……? このままじゃマズい!)
彼女は高速で自身の兵装と魔力回路を同調させつつ飛び上がろうとする。
だが彼女が扇子を持たぬ方の手を引けば。
魔方陣内部に通じた魔力の糸に吊られた何体もの終焉獣が矢の形状を取り降り注ぐ。
その内の一体はバックパックを掠め、飛行を維持できなくなった彼女は柱の陰に着地せざるを得なかった。
「頑張ったねぇ。でも所詮あんさんらはここまで。
有限にして矮小な可能性も、この境界では役に立たんしねぇ」
その後も乱発される光線は収まる所を知らず、徐々に身を隠せる遮蔽も失われていく。
傷つき消耗しきった体。
底の見えない相手が守る、壊さねばなるまい魔方陣。
この場にいる誰もが、一気に勝負を仕掛けるしかないことは分かっていた。
あとは切っ掛けと過程と結末を。
全員で掴み取るのみ。
それぞれが視線を交わしあう。
「可能性が役に立たないと言ったな! 有限で矮小だとも!」
イズマの声に、攻撃の手が止む。
「そうねぇ」
「だがゼロでないなら実現し得るとも言えるじゃないか。
俺達は力を尽くし、勝利という可能性を引き寄せてみせる!」
「へぇー。なら……見せてもらおうじゃないさ!」
女性体がイズマを狙い扇を仰ぐ。
それに呼応するように、全員が一斉に飛び出す。
もし失敗したら体が穴だらけになるかもしれない。
けれどそんな不安彼らにはない。
なぜなら彼らは皆、混沌世界での未来を掴み取ってきた仲間達を信じているのだから。
「俺達に打ち勝つ力を!」
イズマは『死せる星のエイドス』に己の、仲間達との未来を願う。
すると彼の前に縦線型の反復記号が現れ、女性体が放った光線を集約し跳ね返した。
「つっ!?」
扇子でなんとか防ぐが、攻撃を受けきった代償として光の粒子となって消えてしまう。
「さぁ、ここからは文字通り底尽きぬ魔力の暴力を見せてあげましょう!」
生じた隙を逃すことなく、マリエッタの血の魔力を連続して刻み込み。
「戦うのは好きになれないけど、勇者も冒険者もみんな平和のために一杯頑張ってるのにゃ!
だから僕も猫又の誇りにかけて、ビシッと決めてやるのにゃー!」
ちぐさも渾身の弾幕を撃ち付ける。
「おのれ……!」
女性体も魔術の雨の中、魔力の糸を飛ばし階段を駆け上がる者達を捕らえようと試みるが。
「お生憎様、流星流格闘術は手数にも自信があってね!」
モカの素早い足技が、胡蜂の群れの如き動きで次々とそれを蹴り払う。
「オニキスさん!」
「任せて!」
モカが階段に伏せると、再び魔力を湛えた四つの砲門が今度は女性体に照準を合わせていた。
「あの子達を利用した落とし前は付けさせてもらうよ!」
超高圧縮魔力充填完了。
「マジカル☆アハトアハト・クアドラプルバースト―――発射(フォイア)!」
「ぐぅ?!」
女性体が纏う魔力の衣を、オニキスの『感情』が貫いた。
「今だよ!」
仲間達がつないだバトンを手に階段を登りきった三人。
輝く魔方陣まではあと少しだ。
「『転移航路』は……やらせないっ!!」
崩れ落ちつつある体で、女性体は腕を伸ばす。
「さっきの一撃でワシを崩せんかったのが敗因よ!」
オウェードがそれを体で抑え込む。
だが尚もと、指先から糸を放てば。
「この世界にだって、混沌だって、あの世界にだって、大切な人たちがいる!」
AURORA最大稼働。
「その人達に手を差し伸べ続けるために……今ここで、魔王に劣らぬ邪悪を私が払います!」
勇者の一撃といっても差し支えないほど美しく眩い光の一閃。
それは暗黒の糸を切り裂いた。
「お、おのれええぇぇ!!」
女性体が急速に魔力を高める中。男はただ一人、『金庫』の前にたどり着く。
ポケットには、疑似的な奇跡を起こすという星の欠片。
(俺は……)
もしかしたら、ここには『お宝』が眠っているかもしれない。
それは境界も、混沌すらも飲み込もうとする悪意の尻尾だったかもしれない。
英雄と称させる瞬間だったかもしれない。
(俺は……アイツについていけなかったんだ。
そしてここには、共に生き延びたい仲間達がいるんだ)
だから、これがせめてもの手向けさ。
「おりゃああ!!」
己の中を吹きすさぶ、行先を告げる風。
その音を信じて、魔を断つ。
義賊の風に刻まれた魔方陣は、ひび割れ、そして崩れ去っていく。
「イレギュラーズ……この借りはいずれ、必ず……!」
名も知らぬ異界の悪意と共に。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
冒険お疲れ様でした!
魔王城で闇の僕達と華麗に戦う勇者達の物語。
というのが英雄伝のあるお話において一般的に光を浴びる内容かと思いますが。
当然その裏には皆様のような縁の下での支えがあってこそ、成り立っているのだと思います。
例え世界の誰もが見ていなくとも。
pnkは皆様の想いと努力を見て、描けて、光栄で御座いました!
素晴しい戦いだったと思います!
ところで、境界世界は皆様の生きる混沌世界の過去。つまりある意味での裏側です。
今回垣間見たのは、そんな境界世界の裏に潜む怪しい影でございました。
英雄譚の裏の裏にあったのは境界世界に隠れた未知なる脅威。
では混沌世界の裏の裏は?
今度は皆様が英雄として有るべき場所で、光の輝きを守っていかれることを信じております!
全てのお話がそうだと思いますが、参加して下さったPCの皆様全員の協力があってこその成功です。
誰一人この中に欠けて良い存在はなく、劣っていたということもありません。
その上で。今回はこのシナリオにおいて、物語としての景色を深めようとして下さった貴方にMVPを。
長くなりましたが、このシナリオの成功は境界での滅びのアークを確かに削り。
他の場所で戦う仲間達の大きな手助けとなったことでしょう!
それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
●概要
魔王の動きが活発化する中、プーレルジールを守るにはここで魔王を打ち倒さねばなりせん!
全ての力を集めて魔王の居城を攻略しましょう!
●目標
・『サハイェル城』内部『転移航路』の制圧
●NPC詳細
今回リプレイ内においてネームドNPCの登場はありません。
ですが世界の危機に立ち向かうべく、皆様同様この地に集った名も無き冒険者達も多く居ますので、
シナリオ人数が定員に満たない場合には援護に駆けつけてくれます。
各種能力は基本的に参加された皆様の平均値程度ですが、回復やタンク、等、
特定の役割一つくらいであれば、皆様の援護があればそれを真っ当できるような能力値になっています。
●エリア詳細
・『サハイェル城』内部『転移航路』と呼ばれるものがある場所が舞台となります。
薄暗く暗所からの不意打ちなどはあるかも知れませんが、
戦闘それ自体は問題なく行える光源です。足場も特に問題はありません。
巨大な柱や甲冑、シャンデリアに蝋燭台など、それっぽいものが大体あるので、
咄嗟の隠れ場所やギミック攻撃などもある程度できそうです。
PC達のスタート場所の対面(300mくらい先)に位置するエリア最奥には大階段があり、
登り切った先に「転移航路」と名付けられた敵が出現する魔法陣があります。
これを直接攻撃し破壊するか、魔法陣を維持する存在を退ければ敵の増援は無くなります。
・『転移航路』
いわゆるワープスポットでこれを何とかしないと城中に敵が沸き続ける事になります。
『ゼロ・グレイグヤード』と呼ばれる廃棄された『ゼロ・クール』のたまり場や、
謎の空間に繋がっているようで、滅びのアークを宿した敵対勢力が次々湧き出てきます。
転移航路は1つだけですが、魔力を多く蓄えているシナリオ開始時には、直接攻撃しても
弾かれてしまうでしょう。
転移航路の魔力は敵を召喚する程、召喚する敵が強力である程減少します。
転移航路が危機に瀕すると、魔法陣を管理する者が出現します。
●敵詳細
【終焉獣】
ラグナヴァイスとも呼ばれる、滅びのアークによって創り上げられたモンスターです。
犬や熊といった動物、騎士や侍のような人型、ゴーレムやオークといった巨大型等、
多様な姿形で登場し、攻撃方法もそれに準じます。
もしPCの皆様が「終焉獣といえばアイツ!」と思い描くような物がいれば、
他の個体より強い状態でそれが出てくるかも知れません。
ステータスは素早さが高い、CTや防御技術が高い、HP攻撃力が高い、等、
概ね見た目から推測できるようなステータスが少々高いですが、
通常個体は一対一であればさほど脅威ではない強さです。
【ゼロ・クール】
魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形。
見た目は人なので少し斬りづらいかも知れません。
ゼログレイヤードに廃棄された個体が、終焉獣が寄生することで稼働しているようで、魔法陣からどんどん出てきます。
もしPCの皆様が「こんな人と戦いたくない!」と思い描くような存在がいれば、
終焉獣がそれを察知して嫌な姿を取るかも知れません。
通常個体は壊れた操り人形のような動きと爪で攻撃します。
特殊個体は姿に準じた攻撃をします。強さ指標は終焉獣同様です。
【???】
魔法陣を管理する存在です。
魔力には自信があるようですが、意図が分からないので行動原理や方針は不明です。
●PC状況
基本的に、
「大きなドアを開けエリア内に侵入した瞬間」からスタートします。
敵は既に準備万端待ち構えており、PCとしてはエリア状況が不明なタイミングから
スタートで若干不利ではありますが、
エリアの見通し自体は比較的よく、敵の本拠地につき相応準備はされているでしょうから、
不測の事態を警戒するよりは、純粋な戦いを繰り広げる事が主になりそうです。
●PL向け情報
【戦闘】
基本純戦です。
終焉獣は倒すべき敵ですし、ゼロ・クールも既に廃棄された個体が操られている形ですので、
再び眠りにつかせてあげるのが優しさになるでしょう。
皆様が想定した形や想定する攻撃があれば、敵は恐らくその見た目や動きを取りますので、
安心して全力で戦って下さい!
【???】
件の存在がどう動くかは一切不明ですが、目の前敵を倒し転移航路を塞がなければ、全体の勝敗に影響します。
とにかくまずは目標の達成を目指しましょう。
【PCの心持ち】
細かく戦闘方針をプレイングされても構いませんが、この戦闘はプーレルジールの明暗を分ける決戦です。
魔王の配下と言ったネームドとの戦いに比べれば地味に思えるかも知れませんが、
英雄譚の裏の裏だからこそ輝く皆様の活躍があると思います。
PCに心残りが無いよう、やりたい事や言いたい事は目一杯やってみて下さい。
●その他
・情報確度Aー
ここに明記されている情報は間違いなく正しいです。
余程の事がなければ不測の事態は起きないでしょう。
・目標達成の難易度はN相当ですが、行動や状況次第ではパンドラ復活や重傷も充分あり得ます。
☆決戦/境界特殊判定☆
●サハイェル城攻略度
フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。
●PPP判定
このシナリオでは非常に難しいです。
簡単な奇跡に関しては『携行品・死せる星のエイドス』を持ち込み、
それに可能性を込める事で起こせる場合があります。
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