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シナリオ詳細

吸血鬼と夜侯爵の逸話。或いは、財産を求めろ。廃墟を探せ…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吸血鬼と夜侯爵
 幻想にある、いかにも“貴族趣味”な館が今宵の舞台だ。
 4階建ての大きな家屋。
 噴水や花壇のある広い庭。
 庭の片隅には林檎の樹が植えられているし、その近くには小さいながらも池がある。
 もっとも、家屋の手入れはされていないし、噴水は苔に塗れている。
 花壇には花の代わりに雑草が生い茂っていて、林檎の樹は枝が伸び放題。
 池には水草が蔓延っていて、泳いでいるのは得体の知れない何かの影。
 つまり、そこは廃墟であった。
「ここが、あの女たちのハウスっすか」
 夜も遅い時間になって、屋敷を訪れたのは1人の女性。イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)というローレットに所属する情報屋である。
 
 古い言い伝えがある。
 屋敷の主は“夜侯爵”と呼ばれる美しい女性であった。夜侯爵に家族はおらず、ごく少数の執事やメイドと共に屋敷を切り盛りしていた。
 屋敷から少し離れた場所に点在している幾つかの小村が彼女の領地であったと聞くが、今となっては村は1つも残っていない。
 彼女は決まって夕方の遅い時間に起きて、朝陽が昇るころに眠りに就いていた。そのように昼夜逆転の生活を送っていたこともあり、付いたあだ名が“夜侯爵”
 今となっては真偽のほどが定かじゃないが、夜侯爵は病弱であったと伝わっている。日の光を浴びぬ生活をしているのも、侯爵という地位の割に領地が酷く狭いのも、その辺りが関係していたのだろう。
 死後、長く時間が経った今となっては、真偽のほどなど確かめようもないけれど。
 さて、そんな夜侯爵には親しい友がいたという。
 艶やかな黒髪をした若い女性で、夜侯爵とはまるで恋人のように接していたとされる彼女の名前も出自も不明。そもそも実在さえ不明で、今に伝わる話の中では時折「吸血鬼」として扱われている奇妙な女だ。
 吸血鬼と夜侯爵は親しくしていた。
 だが、蜜月は長く続かない。
 ある日、2人は突然に姿を消したらしい。
 駆け落ちしたとも、吸血鬼が夜侯爵を攫って行ったとも伝わっているが、これもまた真偽のほどは定かではない。
 普通に考えれば、きっと夜侯爵は病気や寿命、事故などで命を落としたのだろうし、吸血鬼は親友が亡くなったことで、屋敷を出ていったというのが、きっと“本当”のところであろう。
 今に残る言い伝えや伝説、曰くの類というのは、多分に尾ひれや胸びれ、背びれまでが吐くだけついて、勝手に泳ぎ出してしまったものであることがほとんどだ。

「と、そこまでならちょっと不思議な昔話で済むんっすけど……さて、記録によれば“夜侯爵の有していた莫大な財産”は今も行方不明であると」
 ローレットの資料庫を漁った結果、どうにも夜侯爵が莫大な財を有していたことと、それが今も見つかっていないことの2点は、正しい情報であるということが分かった。
 正しい情報だからと言って、今も件の財産が屋敷に残っているとは限らないのだけれど。
「廃墟の調査に出向いた私も大概っすけど、許可出す方もまぁアレっすよね」
 軽い気持ちで屋敷を訪れ、あまりにも無残な状態に……見本のような廃墟具合に言葉を失っているところだ。迂闊に足を踏み入れては、怪我の危険もあるだろう。
「その道のプロを呼んで、探してもらうってのが一番っすかね」
 なので、イフタフは1度、出直すことにした。
 その道のプロこと、イレギュラーズを呼ぶために。

GMコメント

●ミッション
夜侯爵屋敷から、彼女の残した財産を持ち帰る

●ターゲット
・夜侯爵の財産
昔話に遺る不思議な女性“夜侯爵”。
彼女に家族は無く、生前に有していた莫大な財産の行方は今も知れていないらしい。
彼女の財産を手に入れ、持ち帰ることが今回の依頼の目的となる。

●伝説の登場人物
・夜侯爵
屋敷の主であった女侯爵。
病弱で、日に当たらぬ生活を長く続けていたらしい。
ある日、突然にこの世を去って、その遺体と財産は見つかっていない。

・吸血鬼
夜侯爵の親友であったとされる女性。
艶やかな黒い髪をした若い女性であったとされている。今に残る言い伝えでは、彼女は時折、吸血鬼であったとして扱われている。
夜侯爵と共に姿を消した。そのため、彼女が夜侯爵を攫って行ったのだとか、2人は駆け落ちしたのだとか、そのように言い伝えられている。

●フィールド
幻想。
夜侯爵屋敷……と言う名の広大な敷地を持つ廃墟。
人の手が入らなくなって長いのか、屋敷はボロボロ。
花壇には雑草が茂り、噴水は苔塗れ。
庭の隅にある林檎の樹は枝が伸び放題で、池は水草に覆われている。

古い屋敷であるため、外観から判断できる以上の情報が残っていない。
屋敷内の地図も無ければ、設計図も喪失している。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフに雇われた
イフタフに雇われて屋敷を訪れました。基本的には、イフタフと一緒に財産を探して屋敷を散策します。

【2】噂話を聞きつけた
吸血鬼と夜侯爵の噂を聞いて、舞台となった屋敷を見物に来ました。ちょっとだけなら入ってもいいかな? と思って侵入しました。

【3】一夜の宿を借りに来た
泊まる場所が無かったので、屋敷に宿泊していました。何やら騒がしくなってきたようです。


廃墟を行け
廃墟探索における行動の方針です。

【1】イフタフの護衛を優先する
危険な場所ですので、イフタフの護衛や進路の安全確認などを担当します。

【2】好奇心を優先する
好奇心や本能には逆らえません。心の声に従い、自由に屋敷をうろうろします。

【3】別の目的がある
財産捜索よりも優先したい目的があって来ました。

  • 吸血鬼と夜侯爵の逸話。或いは、財産を求めろ。廃墟を探せ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月18日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

●夜侯爵の屋敷
 人の立ち寄らぬ郊外に、永い間、ひっそりと建つ屋敷があった。
 かつての主の名は夜侯爵。
 今となっては、誰も彼女の本当の名を知らない。

 夜の闇にまぎれ、黒い蝶が飛んでいた。
 黒い蝶を追いかけて、雑草だらけの広い庭へ青い肌の若い女性が立ち入った。
 彼女の名は『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)。
「蝶々追いかけてたら遭難したデス、運良く廃墟があったので野宿せずに済みそうデス」
 遠路はるばる蝶々を追いかけ、すっかり道に迷った1人の迷子である。

「吸血鬼の噂を聞いてやって来ましたけど……まぁ、いかにもいそうですよね」
 門のところから屋敷を眺め『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はそう呟いた。
 暗闇の中に目をこらせば、屋敷の窓にぼんやりと紫色をした影が浮かぶ。
 人の形をしているが、どうにも重さを感じさせない希薄な存在感。マリエッタはすぐにそれが、人ではないと理解した。
「……少なくとも、ゴーストはいるみたいですね」

「なんだァ。御同輩でもいるかと思ったが、誰も住んじゃいねェじゃねぇか」
埃塗れの廊下を歩く人影は『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)だ。しかし、その足元には足跡の1つも残らない。
空気が揺らぐことも無く、ただ静々とより一層、暗くて空気の淀んだ方へ歩を進めていくのであった。

 夜侯爵の財産と言えば、知る者ぞ知る都市伝説の1つである。
 噂だけは広まっているが、その現物を見たものはおらず、その存在を確定させるだけの証拠も残っていない。
 それでも今なお語り継がれているのは、そこに浪漫があるからだろう。
 ここに3人。
 浪漫に見せられた者たちがいた。
「つーか、財産っていうならこの屋敷もそうっすよね」
「たしかに財産が今も価値ある物品だとは限らないか」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が腰の剣に手をかけた。びくり、とイフタフは肩を跳ねさせ、身を竦ませた。
「な、なんっすか?」
「あ、いや、すまない。窓のところに人影が見えた気がしてな」
「……え? 驚かそうとしてます?」
「イズマにそういうつもりは無いだろうが……何かいるのは確かだな」
『決闘者』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)も心持ち警戒心を露にしていた。
シューヴェルトの持つギフト「スピリット・イヤー」は“周囲の怨霊や心霊的存在の『声』が聞こえるようになる”という性質を持つ。
 きっと、彼の耳は何かの声を拾ったのだろう。
 もっとも聞こえて来る霊の声は1人分だけ。その他には風の音しか聞こえない。
 静かな場所だ。
 屋敷の周囲には、幾つもの霊が彷徨っていたのに、敷地内には1体もいない。屋敷を囲む柵がある種の結界になっているのか、それとも周囲の霊たちが、他の霊を追い払っているのかもしれない。
「夜侯爵の“声”じゃ無さそうだが……どこかで聞いたことがあるような気も」
 イズマとシューヴェルトの視線を受けて、イフタフはごくりと生唾を飲んだ。
 それから少し思案して、屋敷の門を踏み越える。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずっす! 行きましょう!」
 足取りは微妙に覚束ないが、それでもこの1歩はイフタフにとって重要な意味を持つものだ。財産が本当に残っているかも分からないし、危険な目に逢う可能性だって0じゃない。
 それでも1歩を踏み出さなければ、何だって手に入れることは出来やしないのだ。

「きゃぁっ!」

「っ……!?!?!?!?!?」
 屋敷の方から女性の悲鳴が聞こえた瞬間、イフタフは3歩、後退したが。

●夜侯爵はどこへ消えたか
 夜侯爵の屋敷の庭には、小さな池と林檎の樹がある。
 池の傍には、すっかり朽ちた丸テーブルと、2脚の椅子の残骸があった。かつてはここで、夜侯爵とその友人が、午後のティータイムなど楽しんでいたのだろう。
 今となっては、遠い昔の出来事であるが。
「あのリンゴ美味しそうデス」
 今となっては、鬱蒼と茂った雑草を掻き分けてまで、そんなところに近寄る者は誰もいない。今夜、アオゾラが池に近づいてきたことが特別に珍しいのだ。
 剪定や手入れもされず伸び放題の林檎の樹。
 生っている林檎の実も、市場などで売られているものに比べればあまりにも小さいし、形も歪だ。
 だが、アオゾラの目にはそれがとても美味しそうに見えた。
 なぜ、そのように見えたのかはアオゾラ自身にも分からない。けれど、確かにあの林檎の実は美味しいのだと確信できた。
 ともすると、アオゾラは“何か”に導かれていたのかもしれない。
 だから、林檎の実を捥いで、池の畔に腰を落ち着け腹ごしらえを……と、そうしている最中に、それを見つけることが出来たのであろう。
「なんデス? アレ?」
 林檎の樹の根が、一部だけ地表に露出している。
 どうやら土中に埋められている石か何かに邪魔されて、地中へ根を伸ばすことが出来なかったようである。
 さて、となれば土中に埋められている石とは何か。
 ゆっくりと近づいて行ったアオゾラは、地下へと続く階段の入り口を発見したのだ。

 屋敷の3階。
 軋む廊下にマリエッタが立っている。
 床板を踏み抜かないよう慎重に。1歩ずつ廊下の奥へ……おそらくは、夜侯爵の寝室があっただろう場所へと近づいていく。
「まだ生きていればお話でも……と思いましたが」
 半壊した扉を開けて、部屋の中を覗き込む。
 なるほど、貴族家の当主が住むにふさわしい広い部屋だ。全部の窓には、木板が貼り付けられているが、カンテラの明かりがあれば内装は見て取れる。
 天蓋付きの大きなベッドに、壁際の本棚、崩れた机。埃塗れの姿見に、化粧机、そして壁にかけられた何枚もの肖像画。
 肖像画に描かれているのは、どれも同じ女性であった。
「艶やかな黒い髪……噂に出て来る吸血鬼さんですね」
 穏やかな笑顔を浮かべた、大人しそうな女性である。
 長い年月と湿気のせいか、絵画はすっかり色あせたり、黴に塗れたりと散々な状態だったが、辛うじて“何が描かれているのか”程度であれば見て取れた。
「こんなにたくさんの絵を飾るほどですもの。きっと、大切な……っ」
 マリエッタが、絵の一枚に手を触れた。
 その瞬間だ。
 背後で人の気配がした。
 慌てて振り返ってみれば、そこには揺れる白い影。
「いつからそこに……っ!」
 白い影が敵であるとは限らない。
 だが、背後から気配も無く近づいて来る輩が、碌な存在であるはずがない。
 迎撃の準備を整えるべく、マリエッタは自身の右手首に爪をかけた。
「え?」
 刹那。
 マリエッタの姿勢が揺れる。
 ギシ、と大きな音がして、足元の床が抜けたのだ。

「きゃぁっ!」

 マリエッタの姿が消えるのは一瞬だった。
 人の住まない家屋というのは、それはもう思っている何倍も早く朽ちていくのだ。それは当然、夜侯爵の屋敷であっても例外ではない。
 マリエッタとて、歩き方には注意していた。そう簡単に床を踏み抜くようなヘマはしないはずだった。
 だが、咄嗟に戦闘態勢を取ろうとしたことにより、足元が少し疎かになった。
 背後から、そーっと近づいて、驚かせてしまった白い影……もとい、頭からシーツを被ったクウハのせいだ。
「……やっべェ」
 マリエッタの落ちていった穴を見やって、クウハは頬を引き攣らせている。
 驚かせるつもりはあったし、悲鳴を上げさせる魂胆もあった。しかし、決してマリエッタを下の階へ落としてやろうとまでは思っていなかったのだ。
 本当である。悪気はあったが。
「肝試しに来たって風でも無かったよなァ? ……まァ、いいや」
 そう呟いて、クウハはシーツを被り直した。
 それから、来た時と同じように足音も無く、寝室をそーっと出ていった。
 けれど、しかし……。
「見つけたぞ、不審な輩め! 正体を見せろ!」
 廊下に足を踏み出した瞬間、クウハの全身を強い光が飲み込んだ。
 後光を背負い、自らも光を放つシューヴェルトである。その手には刀を構えられており、すっかり戦闘準備は万端といった様子だ。
「うェ……っ!? おいおい、待てって!」
「悪霊の類か? 僕の耳は誤魔化せん」
「あァ? 悪霊で悪いか!」
 売り言葉に買い言葉とはこのことだ。
 シーツを脱ぎ去ることも忘れて、クウハがすごむ。シューヴェルトを威嚇したのだ。
 弾かれたようにシューヴェルトが床を蹴る。
 床板が砕け、木っ端が飛び散った。
 姿勢を低くしたまま一瞬でシューヴェルトはクウハの眼前に到達。
「ついでだ。夜侯爵の財産について知っているなら、教えてもらおう!」
「おォ! 俺に勝てたら何だって答えてやらァ!」
 愛用の大鎌で、クウハはシューヴェルトの刀を弾いた。
 その様はまるで死神のようだ。纏っているのは黒い外套ではなくシーツだが。
 そして、夜侯爵の財産についてクウハは何も知らない。
 こんな風にして、ちょっとした勘違いから話がこじれることもあるのだ。

 マリエッタは2階分を落下した。
 落下の衝撃で、2階の床板も砕けたためだ。
 そして1階。
 イズマが部屋に跳び込んだのと、マリエッタが天井を破って落ちてきたのはほぼ同時。
「な……待て! そのグランドピアノは!」
 1階、庭に面した1室である。
 部屋の中にあるは散らばった楽譜とグランドピアノ。夜侯爵の趣味だろうか。
 グランドピアノはすっかり埃を被っているが、イズマの目はそれがかの名ブランド“シュタインウェイ&サンライズ”のものであることを看破した。
 古いものであれば、屋敷付きの土地さえ買えると言われるほどの高級品だ。イズマだって、これまで数える程度しか現物を弾いたことは無い。
 それが今、まさに、落ちて来るマリエッタのクッションになろうとしているところだ。
「そんな馬鹿な話があってたまるか!」
 イズマにはそれが許容できない。
「ピアノは弾くものだ! 敷くものじゃない!」
 夜侯爵の残した財産、金品、そんなものに興味はないが、ピアノとなれば別である。例えば、古いものであっても、もう音が鳴るか分からないものであっても、ピアノが壊れるところを見過ごすことは出来ない。
 だから、イズマは疾走した。
 心臓が早鐘のように跳ねている。頬には冷や汗が伝っている。
 両手を伸ばす。
 床を蹴って、高くへ跳んだ。
 空中で、マリエッタの腕を掴んだ。
「着地はそっちで何とかしてくれ!」
「え、あ……はい」
 跳躍の勢いを乗せ、イズマはマリエッタを壁の方へ向かって投げた。

 ポォン、とぼやけた音色が鳴った。
 長く手入れや調律のされていないピアノの音色は、お世辞にも鑑賞に足る者とは言えない。けれど、流石は“シュタインウェイ&サンライズ”のグランドピアノだ。
 その音色には深みがあった。
「……惜しいな。もっと早くに見つけていれば」
 鍵盤に指を添えたまま、イズマが唇を噛み締める。
 それから、視線を頭上へ向けた。
「少し止めて来るよ」
 頭上から聞こえる戦闘音に眉をしかめて、イズマは部屋を出ていった。その脇に1冊の手書きの楽譜が抱えられていることにイフタフは気づいたが……まぁ、きっと大した価値も無いのだろうから、とくに咎めるようなことはしなかった。

 戦闘に巻き込まれるのは勘弁だ。
 そんな思惑により、イフタフとマリエッタは比較的安全そうなグランドピアノのある部屋で、少し待機することにした。
「じゃあ、マリエッタさんは財産に興味は無いんっすね? いるかどうかも分からない吸血鬼を探しに?」
「吸血鬼と言えば不老不死ですからね、その知識の可能性があるなら墓暴きでもしたくなりますよ」
「はぁ……長い目で見れば、そうかもっすけど」
 マリエッタの言葉が腑に落ちない。
 イフタフの目から見たマリエッタの印象は、落ち着いた物腰の女性という面が強い。
マリエッタは責任感が強く、そして世話焼きな性質である。
「不老不死っすか……ふぅん?」
 まぁ、マリエッタにも色々と事情があるのだろう。
 そう考えたイフタフは、追及を止めて話を打ち切る。そして、ふと窓の外に目を向ければ池の畔に誰かがいるのが目についた。
 3階からの戦闘音はまだ続いている。
 シューヴェルトとイズマ、それからマリエッタが遭遇したという白いゴーストが暴れているのだ。
 で、あれば。
 池の畔の人影は、果たして何者なのだろう。
「……消えましたね」
「っすねぇ。ちょっと、様子を見に行きましょうか」
 人影はまるで、地面に吸い込まれるようにして姿を消した。

●死者よ、安らかであれ
 クウハは焦っていた。
「視界が悪いのか? 反応が鈍いぞ」
「下にグランドピアノがあるのに暴れるやつがあるか!」
 シューヴェルトとイズマの2人とも、歴戦のイレギュラーズである。
 クウハとて長く戦いの場に身を置いたが、流石に2対1では辛い。おまけに被っているシーツが邪魔で、十全に鎌も振るえない。
 シューヴェルトが光っているのも目にキツイ。人が光るってどういうことだ。だが、光っているものは仕方が無い。眩しいけれど、仕方が無いのだ。
「っつーか、何で戦ってんだっけ?」
 そもそも、2人と戦う理由が無いことに気が付いた。
 慌ててシーツを脱ぎ捨てて正体を晒す。
「待て待て待て! 悪気はあったが、敵意はねェよ!」
 かくして、不毛な戦いは終わりを迎えた。

 静かで、暗い、地下室だ。
 そこにあるのは棺が1つ。それから、棺に縋りつくような形の白骨化した遺体。
 そして、部屋の隅で寝袋にくるまって横になるアオゾラ。
「うるさいデス」
 むくり、とアオゾラが上体を起こした。
 夜もすっかり遅い時間だ。健康的な生活を送りたいなら、そろそろ床に就くべきだ。
 だと言うのに、ノックも無しに地下に降りて来る足音がしていた。
 ノックと言うならアオゾラだってしていないし、そもそもここが何のための場所であるのか、棺と遺体が誰のものであるのかさえも分からないが。
「あれ? アオゾラさんっすか?」
「ここにお住まい……では、無いですよね?」
 イフタフの視線はアオゾラに。
 マリエッタの目は、アオゾラから棺と遺体へと移る。

 棺に縋りつく遺体は女性のものだ。
 髪の色は艶やかな黒色。
「……そして、棺の主は“シェリー・レファニュ”。さて」
 2人とも既に遺体だ。
 どちらが夜侯爵で、どちらが噂の“吸血鬼”なのかはマリエッタにはもう判別がつかない。
 ただ、わかることが1つだけ。
 棺の中のシェリーと、それに縋る白骨死体は、きっと親密な関係であったのだろう。
「死者のことをあれこれ詮索するものじゃないデス」
「そう、ですね……」
 吸血鬼に興味はあったが、不老不死というのはどうにも出鱈目らしい。
 そう呟いて、マリエッタは棺の傍に落ちていた1枚の書類を手に取った。
 それは、財産の全てを孤児院に寄付したことの証明書のようだ。
「じゃあ、もうここには何も無いってことっすか?」
「何もいらなかったんじゃないデス?」
 大切なのは、お互いだけ。
 お互いに手を取り合えるのなら、囁き、言葉を交わし、笑い会えているのなら、それ以外には何もいらない。必要としない。
 そんな関係性がこの世にはあるのだ。
 大切な人というものは、それだけで何より価値のある財産となり得るのである。
「じゃあ、この場所は埋めてしまいましょっか」
 イズマやシューヴェルトに助力を乞うべく、イフタフは地下室を出ていった。
 その後を、マリエッタとアオゾラも追いかける。
「……生き埋めは勘弁なのデス」
「……うちに泊まりますか?」
 このようにしてアオゾラは一夜の宿を手に入れた。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
かくして夜侯爵の財産は発見されました。

この度はご参加、ありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう!

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