PandoraPartyProject

シナリオ詳細

見えぬ隣の介抱人

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●その後、二人の行く末は
(お返しって何が良いんだろう)
 ミレイナがそんな事を気にし始めたのは、実はつい先日の事だった。
 イレギュラーズによって届けられたある男の手紙。
 毎日開ける家計簿が入っているの引き出しの中で、一緒に入っている手紙。
 何気無く封を開ければ、あまりの拙さに思わず口元が緩んでしまう。
 馬鹿にしている訳じゃない。そうじゃなくて、一生懸命なんだなぁと母性にも似た感情からのものだ。
 だって、何度も書き直した跡が有る。
 綺麗に見せたいなら、新しい紙に変えれば良いのに。
 とても不器用。でも、この一枚に込められた感情は本物だと思う。
 それに、イレギュラーズから口添えられた彼の気持ち。
 きっとこのたった一枚にも色々な葛藤が有ったんだと察せる。
 だから、大事に大事に仕舞っておいた。
「ミレイナ、またその手紙読んでるの?」
 自室の扉をいきなり開けられ、赤いストレートのロングヘアーが激しく揺れる。
 慌てて引き出しを閉めたからか、彼女は利き手の指を擦りながら振り返った。
「……もう、ノックくらいしてよお母さん!」
 少し、赤くなった指。それと同じくらい赤い頬。
 恨めしそうに母親の顔を睨め付けてみれば、相手は意にも介していない様子で笑っているではないか。
「ずっと大切にしておくのも良いけど、その人に返事したの?」
 あっ、と。ミレイナの口が丸くなる。
 そうだ、そうだ、お返事出さないと。
 今までに無かった経験に、少し浮かれてしまったのかもしれない。
 でも、とミレイナは引き出しを振り返った。
(これって、デートのお誘いになる……の、かな……?)
 よく、判らない。
 何せ手紙なんて貰ったのは初めてだ。
 それとなく言い寄られた事は有ったけれど、『家の事がありますから』と断って来た。今まではそれで良かった。困った様にそう言えば、後は立ち去るだけだったから。
 でもこれは手紙。目を逸らそうとしたってそうはいかない。
 それに、ミレイナの元来の生真面目さというのも有った。
「あぁ、そうだ」
 母親が何かを思い出したように両手を叩く。
「出荷の話をしに来たんだった。ほら、この前イレギュラーズの人達がモンスターを退治してくれたでしょ? 道が開通したから、また頼めるかしら」
「あ、う、うん……」
 農場仕事の話。けれど、ミレイナの頭の中は返事の内容でそれどころではなかった。
 故に、その事に気付いたのは母親が部屋を後にした直後だった。
「え、あれ!? 行くの? 私が!?」
 それって。
(手紙……とかじゃなくて、直接会うって事……!?)
 これは幻想国の、とある町、とある二人のその後の物語。
 不器用な男と、無垢な女の子の小さな物語。


 貨物と一緒に馬車に揺られて数時間。
 この町はいつ来ても広いなぁ。なんて思いながら、ミレイナは小さな町の端に降り立った。
 出荷先はいつもの飲食店、それに毛皮を加工する衣服店。
 そんなに時間は掛からない。
 ミレイナは手紙の内容を思い出していた。名前は、確かユード。
 正直に言うと聞いた事は無い。この町は友人を除けば、男性なら出荷先の相手の名前と顔を一致させたばかりだ。
「あ、あの」
 町の人と思うすれ違った人間に、ミレイナは声を掛けた。
「すみません、この町で……ユードって男の人を探してるんですけど!」
 声を掛けてから気が付いた。驚くほど綺麗な顔と茶色の髪。
「その方でしたら、あちらの雑貨屋に勤めている筈ですよ」
「あ、有り難う御座います!」
 急いで頭を下げて、ミレイナは指された方に駆けて行く。
 ビックリした。ビックリしてまともに顔も見ていない。
 何処かのお姫様と言われても、きっと信じてしまうだろう。
(あれ、でも、何だか……)
 何処かで会った気がしないでもない。
 そんな事を思いつつ、気が付けば目の前には『雑貨・日常品』の文字。無骨だ。
 外窓から中を覗いてみる。
 傍から見ても怪しいな、なんて自分でも思いながら、中に見えたのは一人の大男。
 他に店員らしい店員も居ない。多分、あの人なのだろう。けど。
(何だか……手紙を書くような人には見えないなぁ)
 なんて思ったのもまた事実。
 そして怪しい人影は、そんな彼女のまた後ろにも存在していた。
 町行く人に紛れ、建物の陰からこっそりと茶色の先端が見え隠れしている。
 端整な顔立ちに透き通るような青い瞳。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は陰の中でそんな宝石のような両眼をミレイナに向けていた。
 先日は少し会っただけだが、変わらず息災で何より。少し慌てていたのは気になるけど、あの様子だとトールと気付く前に行ってしまっただろう。
 二人のその後が気になって様子を見に来てみれば、そんなミレイナは雑貨屋の前でウロウロとしている。
 声を掛けるべきか?
 少し悩んで、トールは足を動かさなかった。
 それは無粋というやつかもしれない。飽くまでも、見守るだけだ。
「あ、ミレイナじゃん。何やってんの? そこで」
 耳だけ澄ませてみると、ミレイナが誰かと会話する声が聞こえる。友人だろうか。
「あ、あのさ……あのね?」
 ミレイナは声を掛けた女性へと駆け寄ると、困った様子で口を開いた。
「男の人って、花とか好きかな……?」
「花ぁ?」
 突拍子も無く聞かれた友人は、目の前で項垂れる赤毛に眉を寄せる。
「う……やっぱり……ダメ、でしょうか」
「や、駄目って事はないと思うけど」
 ミレイナと、彼女が見ていた窓の中を見比べて友人は続ける。
「何でまた?」
「……お返しをしようと思いまして」
 何故だか敬語だ。いつもはそんな間柄でもないのに。
「でも、私、そんなに高価な物とか買えないし……手紙に手紙で返すのも何だかなって」
「手紙って、手紙貰ってお返し考えてんの? アンタ」
 律儀というか、何というか。
「それで、近くの山に綺麗な花が咲く場所、在るでしょ? あれを見せてあげられたらなって」
「なるほどねぇ……」
「……あ! 品物ほったらかしだった! ヤ、ヤバ……ちょっと行ってくるね!」
 遠ざかるミレイナを呆然と見送り、友人はもう一度窓の中を見た。
 花を愛でるようなタイプには見えない。だが否定するつもりもない。人は見掛けに寄らないというし、これは彼女の気持ちの問題だろうから。
「さぁて、どうしたものかしら」
 そんな友人女性に、歩み寄る足音が一つ。
 同じ考えるなら一人より二人。二人より沢山。
 それを可能とするのが自分達なのである。


「まさか、今度は彼女側からの依頼になるとはね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は髪を直すように、フードの先端を摘まんで言った。
「プルーにって言ったつもりだったけど、いや、確かに俺の請け負った依頼でもある。それで、依頼は『ユードへの贈り物を考える』って事で良いのかな」
「えぇ、あの子……ミレイナは山の花を見せたがってるんだけど、ちょっと問題が有ってね」
「問題?」
 何故か言い淀む友人女性の言葉をショウは待つ。
 否定するつもりもないとした以上、否定するような依頼をした事が、彼女の中で少し引っ掛かったのかもしれない。
「人に害をなす花が巣食っているんですよ」
 と歩み寄ったのはトール。
「少し調べてみましたが、ミレイナさんの目的地までのルートは単純と言えば単純ですね。西側、もしくは東側から山道に入る事ができ、二つの道は山の途中で一本に繋がってます」
「その繋がった先の崖、なのよね。花が咲いてる場所」
「……つまり」
 ショウの疑問に、トールと女性は頷いた。
 先に口を開いたのは女性。
「道が繋がった所、崖付近にモンスターが生息してるの。アタシが気付いたのはちょっと前。ミレイナは……普段、農場と町の往復しかしないから、きっと知らないんでしょうね」
 ならばそれをミレイナに伝えるのはどうか? という問いに、友人は苦く笑った。
「あの子、これまで家の事でいっぱいだったからさ。何て言うか……自分の為に何かするって、初めて見るのよね。それにあんなに考え込んじゃってさ。頭ごなしに駄目って言えなかったのよ」
 そう言った友人女性は、何かを決心した様子でもう一度口を開く。
「ここからはアタシのお願い。依頼を訂正させて。これっていわゆるデートってやつでしょ? ……二人が目的地に行くまで、見つからないように崖までの道の安全を確保して貰えないかな」
 要するに、二人で花を見るという目的を達成するまで、なるべく二人の雰囲気を壊さないようにしてほしい。との事だ。
 とはいえ、命には代えられない。
 二人が危険な場合はバレてでも助ける必要が有るだろう。もしかしたら、姿を見せる事で解決する何かも有るかもしれない。
「構わないわ。ただの希望だもの」
「当日は、二人がどういうルートを通るか決まってるのかい?」
 女性は頷く。
「西側の道がなだらかで安全だから、そっちを通ると思う。というか、アタシが西側を通るように言っとく。最初から姿を見せないなら東の道から入って頂戴。東側は少し険しくなってるけど……どっちの道も直線状で特に障害物は無いから、貴方達なら問題無いと思う」
「前日に花を退治しておくという手は?」
 今度はトールが問う。
「うう……ん。モンスターが生息してる場所だから、出来れば当日、一緒のタイミングで出発して見守って欲しいの」
 では、最終的な目的はこうだ。
『二人と同時に出発し、道中、バレないように先回りして花を退治し、安全を確保してから帰還する』
 崖に到達してからその場で見守るかどうかは、イレギュラーズの判断に委ねられる事になる。
「道を真っ直ぐ進んで行けば崖に出るから、迷う事は無いと思うわ」
「ちなみに、崖ってどのような所なんですか?」
 再びのトールの問いに、女性は目を瞑る。
「……何にも無い所よ。月は綺麗に見えるけど、辺り一面草だらけ。でもね。この時期の夜になると、その草が月に照らされて一斉に光り出すの。だからアタシ達は『花』って言ってる」
 花を見せるには、夜に崖に到着する必要が有る。出発時間はおおよそ夕方から日没になるだろう。
「ミレイナには一応、『イレギュラーズの人達に安全を確保して貰ってる』って伝えとくわ。当日も、とは言わないけど」
「贈り物の件はどうするんだい?」
「あぁ……一応聞いて回ったけど、無駄になっちゃったかもね」
「一応、見せて下さい」
 とトールとショウに、手書きで記された紙の切れ端が広げられた。
『食べ物に好き嫌いは無し。強いて言うなら肉。嫌いという程ではないが、苦手な物は甘ったるい物と雰囲気』
 それを見て、ショウは唸るように喉を鳴らす。
「……本当に大丈夫? これ」

GMコメント

●目標
マッドプラント×8の討伐
ユード、ミレイナ両名の安全確保

※二人にイレギュラーズの存在がバレても失敗にはなりません。描写が少し変わる程度です。

●敵情報

・マッドプラント×8

目的地の崖付近に根付いた花の植物系化け物。
成人男性の平均身長並みの大きさ。
蔦を鞭のようにしならせて攻撃し、相手に刺す事で体力を吸収してしまう。
移動は出来ないかと思いきや、蔦を器用に使い跳ぶように移動する。

●ロケーション
現場には夕方に到着し、そこから出発して頂きます。
ユードとミレイナは夕方に雑貨屋の前で待ち合わせをしているようですが、イレギュラーズもそこから見守るか、山中から開始するかはお任せします。

山中には灯りがなく、二人は懐中電灯を所持して登るようです。

●山道について
西側と東側から入るルートがあり、どちらも最終的には崖へと繋がる道に合流します。
西はなだらか、東は険しいですが、道中に戦闘が発生するような障害は無いでしょう。
ユードとミレイナは西側から登るようです。

西側と東側の間には木々が広がっており、片方からもう片方の道は何が有るか見えません。
一応、イレギュラーズの身体能力ならこの木々を抜けて片方から片方へ抜けるのは可能です。

●崖について
目的地となる山の崖です。
戦闘場所にもなりますが、戦闘するには充分な広さがあります。

この崖の一面に草が生えており、昼間は何の変哲も無い場所ですが、依頼のあったこの時期になると、夜にこの草達が月夜に照らされて一斉に淡い光を放ち始めるとの事。
崖側に木々も無いので、夜は月も見える綺麗な場所。
前は地元のスポットにもなっていたようですが、モンスターが生息している今、誰も来なくなりました。

●NPC

・ミレイナ
幻想国の小さな村に住む女性。20歳。
細身だが、農事仕事で意外と力は有るほう。
赤い髪の毛でロングのストレートをしている。
温和で生真面目な性格、恋愛に関しては未経験。純粋な部分も見える。

・ユード
シナリオ『心咲かすは秋口の花』にて依頼元となった男性。
ミレイナに恋心を抱いており、当シナリオでのイレギュラーズの活躍によって彼の想いが込められた手紙を渡す事に成功した。
性格は不器用で大雑把な部分があるが、根は純粋で恋愛に関してはこれが初めて。
2メートルで精悍、強面の顔。相手を怖がらせる容姿じゃないかとちょっと気にしている。

・ミレイナの友人
本シナリオの依頼人。
特にリプレイには関わってこないが、友人のミレイナの事はとても気掛かり。
黒髪のショートボブで口元にホクロが有る。

●贈り物について
最初に友人が依頼した内容ですが、本人が却下した為ここを考える必要は有りません。
フレーバー程度にプレイングにお使い頂くのは構いません!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 見えぬ隣の介抱人完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

リプレイ


「ミレイナー? そろそろ行くよー?」
 友人の声がする。
 ミレイナは、仕事のノートを開いたまま振り返った。
 部屋に流れる華やかで陽気な音楽。ミレイナがいつも聞く音じゃない。どっちかと言えば男の人が酒場で歌うような曲。
 けれど、たまらなく好きだ。
「今、行く!」
 もう彼女にはお馴染みになった隣町の宿屋の二階。
 ミレイナは、振り返って席を立つ。
 姿見の前を通り過ぎようとして、ミレイナは慌ててその前に戻った。
 少し汚れが目立ってきたエプロンドレス。裾もちょっと伸びてる。
 だけど、ミレイナはそれより自分の赤毛の髪を手早く手櫛で整えた。
「……よし!」
 うん、良い一日になりそうだ!


「わっ……とと、ごめんなさい!」
 すれ違いにぶつかりそうになった小さな行商人に急いで頭を下げて、ミレイナは約束していた場所へ走った。
「……お待たせしました!」
 雑貨屋の前に現れる女性の声に、近くの庭木の中で狐耳がピクリと反応する。
 時刻は夕暮れ。町を行き交う人もまばらになっていく中、妙な沈黙が二人の間に漂っている。
「えぇと……」
 困り顔のミレイナに、ユードも困った表情でやっと口を開く。
「じゃ、じゃあ……行きましょう、か? 暮れるし……日も」
 大丈夫かしら? と思ったのはミレイナではなく、庭木に混じった狐耳から。
 歩き出す二人を確認して、庭木から飛び出すと街の外へと駆けて行く。
「……狐?」
 首を傾げたミレイナに、ユードは頬を掻きながら答える。
「あぁ……ほら、近いですからね、山」
 そう言って、夕暮れの落ちる山を見上げた。
「特に問題無く、こっちに来てるわ」
 ユードとミレイナが歩き出した遥か先、登る予定の山の麓で木の上から何者かの声がする。
 声の正体、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は狐姿のまま身軽に枝から跳び降りると、綺麗な毛並を靡かせて麓に居た三人のイレギュラーズの元へと歩み寄る。
「……他の人達は?」
 と見上げた視線の先の一つに『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の姿。
「先に山道に入ってる。偵察も兼ねてるんだろう、私達もすぐに続く」
 そう言って、モカは二人が来るであろう街の方角を見た。
 先日は互いに会った所は見ていないが、関係が無事に進んでいるようで何より。お節介をした甲斐が有ったというもの。
 今回はアフターサービス、というやつだ。一流の接客業者はケアも万全に行ってこそ、というところだろうか。
 答えた彼女の隣で、明るい黄と青の瞳を更に輝かせるようにして『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は背負った鞄を跳ねされて位置を整える。邪魔にならない程度の行商の服装。
(わぁ、わぁ……! 恋の予感! 甘酸っぱーい!)
 なんて思うフラーゴラも、恋の成就に世界平和を望むくらいには良い出逢いをしてきた様子。
 まぁ、良いか悪いかなどというのは本人の気持ち次第でもあるが。ミレイナとユードの関係を素敵だと思って張り切っている。それは確かだろう。
「二人の様子はどうだった?」
 ゆらりとそう訊いたのは『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)。
 何でそんな事を? と見上げるイナリの代わりにフラーゴラが返答する。
「うーん、ぎこちなくはあったかなあ?」
「そうか。なら、おれ達も早く行った方が良いな」
 フラーゴラとイナリが同時に小首を傾げると、ヤツェクはそれに応えるように続けた。
「単純な話だ。話しながら進むなら自然とペースは遅くなる。逆もまた然り。道中に警戒するものが無いのなら、更に速いと見積もった方が良い」
 ヤツェクは言い終わる前に、東側の山道へ歩を進める。
 その背中に、モカは頷いた。
「賛同だ。視野が広いな」
「何、新婚おじさんのお節介というやつだ」
 若い二人の恋心。若い者の死や離反を経験したヤツェクだからこそ、二人を結ばせたいという思いも在る。
 混沌世界において、この時代に別れは余りに有り触れている。もしくは彼の世界でもそうだったか。
 どれだけ有っても幸せは足りない時代。なら、小さな幸せを護るのも大切にしていきたい。
「新婚さん」
 呟くフラーゴラの歩幅に合わせるように、ヤツェクは少しだけペースを落とす。
「興味が有るなら語ろうか? 丁度夕焼けも綺麗に見える」
 それに付いて行きながら、モカは軽く頭を振った。
「依頼の後にしておくよ。聞き終わる頃には夜が明けそうだ」
 その間に入ったのはイナリ。
「先行してる人達は何処まで行ったかしら?」
「あぁ、それだったら」
 と、モカは山の上空に向けて人差し指を立てた。
 それを見ればイナリも「あぁ」と自身の鳥を召喚する。
 イナリが空に羽ばたかせた鳥。
 その行く先に、もう一羽の鳥が舞っていた。


 西側を飛ぶ二羽の鳥のやや斜め下で、薄い光が灯っている。
「こちらの道中に問題は無さそうですが……」
 東側の道。山道にはみ出た草木を払うのは『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)。
「そろそろ暗くなって来る頃合いですね。お二人とも、移動には気を付けましょう」
「……ん……大丈夫……」
 小さく答えたのは、桜色の傘に乗って飛ぶ『玉響』レイン・レイン(p3p010586)。
 トールも。とまた小さく付け加えると、空から注ぐ日没の光が強くなった気がして反射的に見上げた。眩しい。
 七色に光る事が出来るレインの髪に、もう一色が染めこまれていくようで。
 眩しくて溶けてしまいそうだ。
 それでも、あの二人が仲良くなるかも、と考えるとレインまで嬉しくなってしまう。
 そんな二人が初めて互いの事を知れる日。その場所の安全は早い内に確保しておきたい。頑張らねば。
「えぇ、こちらも問題は無いです」
 途中、少し斜面が急になる坂道に足を掛け、『淡い想い』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は答えつつ小さく鼻で呼吸する。
「危険も無さそうですね。これならお二人も、真っ直ぐに崖に来られるかもしれません」
 目指す地点に咲く花。正確には花ではないようだが、ジョシュアにとってもそれを贈ったり一緒に見られたりしたら嬉しく思う。
 二人の事を知ると、何だか応援したくなってしまう。恋仲になるのかどうかは彼ら次第ではあるけれど。
 相手を想う、ふわふわとした気持ち。ユードとミレイナも、今はこんな気持ちなのだろうか。
 夜道となれば、心配するのはやはりミレイナとユードだ。
 先日の依頼からどうなったか、何も無かったかはトールにも判らないが、二人が互いに気持ちの通じる距離となったのは幸いだ。
 二人の初デート道の守護。そんな超重要任務なら気合も入ろうというもの。
 思ったより早く話が進んでる、と思ったのはその上空から崖に向かう『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)である。
 まぁ、前回の手紙を読んだ面々ならそう思うのも致し方が無い。
 何処か他人事とは思えないのか、レイテは心の中で一つ大きな安堵の息を吐いては目的地の崖方角に視線を向ける。
 今回の依頼はミレイナの目的地。前回がユード側なら今回はミレイナの側。
(……ん?)
 レイテは改めて首を捻る。
(んん?? ……あれ? もしかしてユードさん、あれから何もアクション起こしてないって事です??)
 実際の様子を見てはいないが、見れば多分その疑問は確信に変わるだろう。
 その考えに行き着いて、今度は口から「はあ~……」と大きなため息が出た。
「本当、良く進みましたねこの話し!?」
 と、レイテは脳に反応を感じて山の隙間に身を隠すように飛行した。
「もうちょっと!」
 その下で、跳ぶようにフラーゴラが中間地点に到着。勿論、響かない程度に声は潜めている。
 その後を追うように合流するのはヤツェク。
 山道手前で二手に分かれた彼らは、そのまま東側を直進する。
「向こう側、大丈夫かなあ?」
「まぁ、あの姿ならバレる心配も無いだろう。気配も上手く隠しているしな」
「そのモカさんからの信号です」
 ヤツェクらの前方で先行するトールとジョシュアの元に、モカの視界から唯一見えるレイテが情報伝達の橋渡しとして降りて来る。
「『二人が西側に入った』だそうですよ」
 一方で、西側の先を確認していたイナリとモカは西側の道を見渡して念入りに探る。
「話の通り、特に障害になる物はなさそうだけど」
 鳥から見える情報にも敵は無い。だがそれは、飽くまでイレギュラーズとしての視点からなるものかもしれない。
「誰も来なくなったスポット、か。整備もされて久しいようだな」
 例えば、モカの傍らの少し草木が低い部分。獣道に見えなくもない。イナリが見た鳥からの視点ではその先は急斜面。
『……流石に、少し暗いですね』
 麓の方からそんな声が聞こえた二人は、手早く近くの草木を寄せ集めて獣道を塞いでいく。
 これで迷う心配も無い。後は、自分達がどれだけ早く事を済ませられるかどうか。
「あぁ、そこを右だ」
 東側ではヤツェクが皆と別の方向を指し示す。
「右? 遠回りじゃなくて?」
 フラーゴラが問い掛けると、ヤツェクは手元の木々を一つ撫でた。
「高所に行くにつれて木々同士の枝が絡まる植物だ。迂回した方が速い」
「じゃあ、あの絡まってる先が……」
 二人が見上げたその前方。
「ここが……」
「目的地、ですね」
 空中より同時に到着したレイテは周囲を見渡す。
 聞いた通りに何も無い。ただ、一面の草が風に揺れている。
 そこに確かな何かの気配を感じ、トールは保護の結界を張ると共に夕日に輝く剣を抜いた。
「他の方々はもう少し掛かりそうですが……」
 ジョシュアは背後に気を配りながら構える。
「あのお二人は大丈夫でしょうか?」
「……これ……」
 とレインは背負ったリュックを持ち上げて示した。
 中に入るのは医療器具と治療薬。そんな事は起きるべきじゃない、けど。
「万が一……わるいもし、起こっても……大丈夫……それに……」
 レインが飛ばした鳥の視覚からも、二人に不都合は起きていない。
「では……」
 そうトールが構えた先。
 崖の両脇から、明らかに草とは違う赤と紫の禍々しい花が起き上がって来る。
 レインも結界を展開し、ジョシュアの聖弓に光が集っていく。
「早々に、退場して頂きましょう!」


 演算、即座に最適な弓の狙撃。
 狙うなら飛び上がった直後だ、とジョシュアの狙撃が邪悪な花を貫く。
 同時に速攻を掛けるのはトールの輝剣。
 これまでの間に合わせとは一線を画す極大の光をその刀身に纏い、振り下ろされるのは暗雲さえ断ち斬る刃。
 放たれた光が虹色に変わり、レインの振り下ろす軌跡がそのまま花へと叩き落される。
 その眩さ故か単純に攻撃された怒りか、花はレインへと狙いを付けた。
 その上空を飛び越し、レイテは崖の方へ。
「そこからボクに当てられる?」
 レイテが羽ばたくのは崖の外だ。
 もしかしたら崖に飛び込んでくれるかも、と薄い期待は有るが、花は攻撃が届かないとみるや否や少し身じろぎしながら三人の方へと蔦を使って跳び退いた。
「あまり動き回らないでいただけますか」
 それを淡々とジョシュアは撃ち抜いていく。トールの極光剣が狙うのは着地の瞬間だ。
 花が崖に寄らないと見たレイテもそのままデバイスを展開し、蝙蝠を模した口部から音波砲を撃ち出していく。
 レインはそのまま花の群れと距離を取りながら虹色を振るう、と、彼の虹に重なる影が一つ。
「こっちだよ……! 手のなる方へ!」
 崖に到着、するなり現状を把握したフラーゴラがレインの真横に着地する。
 俯瞰視点で確認はした。このままで大丈夫。草に被害が及ばず、且つ戦闘に向いている位置。即ち中央寄り少し崖際。ここだ。
 少し足元に不安が残るが、それも彼の一言で覆る。
『勇気もて、友よ』
 力強い言葉と共に馳せたヤツェクに奮い立たせられれば、続く詩人としての助言に力が漲ってくるようだ。
「間に合ったようで何よりだ」
「あら、私達も意外と速いと思ったんだけど」
 言葉が聞こえたと思えば、ヤツェクの隣を一匹の狐と一つの影が駆け抜けた。
 跳躍、そのまま空中で狐から元の姿へ変化を解いたイナリが奇跡の力を自身に降ろし、続け様に瞬間的な移動を繰り返しながら花達に呪いの術式を繰り出す。
 もう一方の影から放たれたのは黒豹を象る気功術。
「二人はもうすぐ半ばだ。手早く片付けるとしようか」
 モカの放つ黒豹が、崖際に集まる花達に鋭い牙を立てて喰らいつく。
 彼らの攻防は花如きが太刀打ち出来るものでは無かった。
 フラーゴラが踏むのは常に最適な位置だ。
 崖際という不安定にも思えるこの場所は花の攻撃から身を守り、皆を回復しながらもそのまま防御の手段に直結している。
「ワタシはタフだからね……! これくらい耐えるよ……! 皆、がんばれえ……!」
「中々、しぶといですが……!」
 絡み取らんとする蔦をトールは軽く薙ぎ、逆にその蔦を握り返す。
「こうしてしまえば!」
 身動きの出来ない怪物花。その胴体に刺さるのはジョシュアの聖弓から放たれる矢。
「えぇ、遥かに狙い易い!」
「ふむ、しぶといか。まさに、だな」
 詩より攻め、と判断してヤツェクも前方へ詰めると、普段の飄々とした姿からは想像出来ぬ闘志を身に纏う。
 その闘気から放たれる魔光。続けて混沌の泥が花を漆黒に染め上げていく。
 漆黒はすぐさま紫となり、レインが降ろす帳へと変貌を告げる。
 花の蔦はフラーゴラとレイテを強かに打つも、今更これに怯む彼らでもないだろう。
 数が減ったのを見計らい、モカが繰り出す連撃の嵐。
 連打、連打、連打。
 もう日が沈み掛けている。時間は無い。視界は皆良好。
 暗くなった崖の中で、イナリの金色の瞳が強かに光る。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら~、って奴かしらね」
 繰り出されるのは、更に強化を重ねた呪術。
 もっとも、今回蹴るのはイレギュラーズ。馬車馬のように働くところまで、まるで……とは言うまい。
 馬も蹴れば狐も蹴る。狐も蹴るなら狼も蹴る。
「二人の恋路を邪魔するならワタシが蹴っちゃう!」
 言いつつ、フラーゴラが繰り出すのは混沌の泥。
「蹴……?」
 とレイテが疑問符を浮かべると「いやっそのっ」と慌てた様子で訂正を試みる。
 その傍らで、輝剣から凄まじい光が立ち昇った。
 止めどなく溢れるオーロラが剣へ伝い、やがてその刀身は細長く煌めき。
「終わりです」
 閉じられていたトールの瞳が静かな宣告と共に開かれる。
 振り抜かれたのはこの景色すら切断せんとする一撃。
 煌めく残響が、星の夜空に舞い散った。


「ここです! 着きまし……あら?」
「ど、どうかしました?」
 到着するなり不思議そうな顔を浮かべるミレイナにユードは問う。
「何だか、前に来た時より凄く……綺麗」
 一面に光る幻想的な光。
 阻む物の無い月夜の光に照らされて、崖の隅々までが薄明かりに包まれている。
 風が吹けば光も揺れ、二人の周りを舞うように飛ぶ。
 皆による事後の片付け、それにジョシュアのギフトによる栄養剤。
 その甲斐有って、一層の輝きを増したようだ。
 この輝きを見たのは、帳に気配を隠したジョシュアだけではある。
「私は、ですね……?」
 ミレイナが口を開いたところで、ジョシュアもそこから背を向けた。
 もうここに危険は無い。
 後は、二人だけの時間としよう。
「二人を見守りたい……見たいけど~~っ我慢!」
 唸りながら林に紛れて下山するフラーゴラに、トールは微笑する。
 もし次に来る機会が有るのなら、誰かと来ようかな。そんな二人の爽やかな甘さ。
「けれど、これって一体どういう性質なのかしらね?」
 と、イナリは懐から草を一本取り出した。
 モカの「私も持ってきたぞ!」と「それってさっきの花の方ですよね……?」というレイテのやり取りを横目に、それを一本揺らしてみる。
 後日の話にはなるのだが、この草、その珍しさから一部では薬草と信じられているのだとか。本当にそんな効能が有るのかは定かでは無い。
 草の情報を調べるなら、育てる以外の方法も必要になりそうだ。
 トールは一度だけ、少しだけ振り返って二人の居る所に優しく微笑んだ。
 どうか、思い出に残るような素敵な時間を過ごせますように。


 部屋の中に陽気な音楽が流れている。
 彼女の出て行った後に入った友人は、彼女にしては珍しい曲だなと思いながら部屋に入った。
 目に入ったのは開きっぱなしのノート。仕事用のノートだ。
「あら、これ……あの崖の?」
 草が、一枚挟まっている。
 それを見て微笑すると、後ろから慌てた声。
「見……見た!?」
「見た」
 後ろに立つのは赤毛の少女。
 それと同じくらい赤い顔をして、恥ずかしそうに立っている。
「ほら、あんな所に行って汚れちゃったから、新しい服買いに行くんでしょ? お洒落なヤツをさ」
「……馬鹿にしてない?」
「してないよ。はい、行こう行こう!」
 開かれたノートの一ページ。仕事の内容より、日記みたいに書き綴られた文字。
 子供の頃に見た時よりずっと素敵な光景。
 まるで誰かが魔法を掛けてくれたみたい。奇跡か、それか妖精の仕業だ。
 だから、色々書いたノートの最後はその誰かに感謝するように、やっぱりこの一文で締め括られていた。

『とっても、素敵な時間でした!』

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼完了、お疲れ様でした!
このままスッとはいかんのかい! というラストです。
一歩進んで二歩、そんな感じですが、徐々に進展はしていってるのでしょう。
それはそれとして、最近殺伐とした依頼ばかり出しておりましたので久々にほんわかしたお話と、皆様のプレイングに触れさせて頂きました。
お話を書く機会を下さり、誠に有難う御座います!

二人の今後、また何処かで出せれば良いなぁと思っております。
では、またの機会にお会い致しましょう!

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