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シナリオ詳細

<尺には尺を>フローズンサイレントグリーン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●コーダ村
 天義の、鉄帝との国境すれすれの山岳地帯。秋深まる山を歩き、あなたはその村へ至った。質素な村だ。村と言うより、集落と呼ぶべきか。こどもの姿はほとんどなく、年寄りが多い。枯れ葉が風と共に舞っては、さびしい通りをすべっていく。あなたは村長宅で、あたたかなシチューをごちそうになり、暖炉の周りで依頼内容を聞いた。
「ここからさらに奥に、コーダという村があってな、そこまで行ってくれないかね」
 なんのために? と、あなたが問うと、村長は人目をはばかるように、声を殺した。
「コーダ村がいまどうなっとるか、調べてほしい」
 あなたが続きを促すと、村長は顔色が悪いまま続けた。
「コーダ村には、クマですら狩ってみせる優秀なハンターがおってな。このオルド村もそのハンターに何かと助けられておった。見ての通り……」
 村長は窓の外を指さした。夕暮れ。にぎわいにかける景色がぼんやりと見える。
「年寄りだらけの村じゃ。シカやイノシシに畑を荒らされたりしても、なかなか対策がうてん、ましてやクマともなるとお手上げじゃ」
 村長は小さくため息を付いた。
「そのハンター、ヘクターという男はな。気のいいやつじゃが、とにかく手元不如意でな。仕事を増やすために、うちの村まで出向いてきてくれていたんじゃ。うちの村はそもそも働き手が少ないからな、ヘクターの存在はありがたかったんじゃよ」
 ハンターの生命線である銃弾すら買いしぶるほど、ぎりぎりの生活を送っていたらしい。ヘクターはふたつの村を行きつ戻りつしながら、害獣を駆除して礼金を受け取っていたそうだ。
「それっちゅうのも、ヘクターのとこにはな、体が不自由な子がいるんじゃよ。息子が二人おるんじゃが、その兄のほうがな、もう5年前……いや、もっと前かの。雪崩に巻き込まれて首をやっちまってねえ、生き延びたはいいけれど寝たきりになっちまったんだ」
 その子のためにも、がんばらねばならないのだと、ヘクターは笑っていたと、村長は語った。
「が、ある時期からぱったり沙汰を無くしての。とてもそんな不義理をする男ではないゆえに、うちの若い衆が先日、コーダ村まで様子を見に行ったんじゃ」
 そして、魔物を見かけて、逃げ帰ってきた。
「……残念じゃが、コーダ村はもう……魔物の餌になっとるんじゃろう……」
 もし、あなたに魔物を倒すだけの力量があるなら、死した村人のために墓を作ってやってほしい。村長はそう頼んだ。

●見ちゃった
 あなたは身を隠した。空気は冷え切っており、冷気が体の芯まで突き刺さるようだ。ちらほらと小雪まで舞ってきた。
 コーダ村は、潰れていた。巨人が地団駄を踏んだかのように、家も木々も井戸も押しつぶされ破壊されていた。そこを外敵から守るように巡回している、黒インクでめちゃくちゃに殴り書きをしたかのようなあれは、ワールドイーターというやつだ。天義を騒がせている、冠位傲慢が遣わす滅びのアークから作り出された塊だ。それに……。
 あなたは隠れ場所からその人を注視した。
 かつては村の広場だったのだろうそこは、墓地に姿を変えていた。土饅頭と墓碑だけの簡素な墓が並んでいる。そのまんなかで、こちらへ背を向けている青年、あれは、『銀の瞳の遂行者』アーノルドではないだろうか。
 花束を抱えたアーノルドはこちらに気づかないまま、ひとつひとつの墓へいつくしむように花を捧げていく。風に乗って、ひとりごとが聞こえてきた。
「……理想郷、作ったんだけど。みんなをそこに招待するはずだったんだけど」
 背を向けているから、彼の表情は読み取れない。
「なんか、なんかちがくて、さ」
 理想郷については、あなたも噂で聞いていた。遂行者が夢想する理想の大地。冠位傲慢の権能で作られた、神の国を構成する、約束の地。そこにいる「選ばれた者」は、たとえ死者であろうと目覚め、老いもせず、病も得ず、愛するものとの別れもなく、飢えることも、凍えることも、もちろん死ぬこともないまま、誰もが穏やかに永遠に平和で幸福に暮らす。……などという馬鹿げた戯言を、あなたは聞いたことがある。
 死者は還ってこない。絶対に。
「なんでちがうのか、よくわかんなくて、でもなんかちがくて、自分でもよくわかんない違和感があって、それでみんなの招待が遅れてんだけど」
 言い訳をするように、アーノルドはつぶやきつづけている。
「遂行者になって、いろいろ見たり聞いたりしたんだ。イレギュラーズっていう、おかしなやつらにもたくさん会った。へんなやつばっかだよ。ほんとに。でもなんでだろな、あいつら、なんだか、楽しそうなんだ」
 なんかさ、うまくいえないんだけど、いきいきしてて、生きてるって、感じだった。
 アーノルドがため息をついたようだった。白い吐息が口元から流れていく。
「……こんなのツロの野郎に知られたらヤバイな、僕」
 げ。
 ふいにアーノルドが踵を返したので、あなたは彼とバッチリ目があってしまった。あっけにとられた顔のアーノルドが、すぐに銀の長剣へ手をかける。
「来い!」
 強い冷気があなたを襲った。同時に、村を巡回していたワールドイーターどもがアーノルドの元へ集まる。
 一触即発。あなたも得物をつかむ。だが、アーノルドの動きが止まった。
「僕の理想郷に……侵入者?」
 いらだたしげに長剣を鞘へ戻し、アーノルドは地を蹴った。宙へ浮かび上がるその姿が粉雪の向こうへ消えていく。ワールドイーターどもが雄叫びをあげた。
「墓は荒らすなよ!?」
 空の、遠いところからアーノルドの声が届いて、それっきりぷつりと気配が消えた。
 残されたワールドイーターどもが黒いよだれをたらしながらあなたを狙う。あなたは……。

GMコメント

みどりです。ワールドイーターとどんぱちしよー。優先はあえてつけてません。AAはちゃんと受け取ってますからご安心ください。

やること
1)全ワールドイーターの撃破
A)オプション コーダ村を調査してオルド村長へ報告(字幅の関係で、リプレイでは調査するところまでになるかも知れません。その場合も報告は完了したとみなします)

●エネミー
ワールドイーター・グリズリー ✕3
 高防技高抵抗、さらに攻撃力まであります。【飛】のついた物理攻撃や、【封殺】を持つ神秘攻撃をしてきます。

ワールドイーター・ウルフ ✕6
 反応が高く、巧妙も積んでます。摩耗・MATKをメインに使ってくるうえ、連鎖行動をとります。

ワールドイーター・スライム ✕5 分裂という特殊スキルを持ち、ターン開始時に生存数✕1が追加で増えます。攻勢BS回復をもち、ステータスは平凡ですが、HPAPが高いです。

●戦場 墓地
 お墓がいっぱい並んでいます。誰かが一人で全部埋めたみたいです。
 メタ的に言うと、足場ペナルティが発生し、機動力に-1、反応に-40、回避に-25程度のペナルティを受けます。
戦場効果 アーノルドの冷気
 回避命中へ-15、反応に-40のペナルティを受けます。このペナルティは、ワールドイーターも受けます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <尺には尺を>フローズンサイレントグリーン完了
  • ちょっと寄り道
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ


 じわじわと迫りくるワールドイーターどもの圧。けれども『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は気にした風ではない。この程度で心挫けるようなタマではないのだ。それよりも気になるのは、あの銀の瞳。
「はぁぁ……」
 牡丹はぼりぼりと頭をかいた。
「馬鹿だろって言い足りなかったとはな。全く……やっぱあいつは遂行者に向いてねえよ」
 墓は荒らすな、だったか。いいだろう。そのくらいは聞いてやる。牡丹は階段を登るように宙へ至った。空は自由だ。何も問題なく動けるし、戦闘のついでに、墓地へ配慮することだってできる。牡丹は眼下を見る。簡素な墓の連なりを見る。供えられた花が、踏み潰されていくのを見る。
「おいおい、そいつはさすがに、人の心がないんじゃないのか? あ、ワールドイーターだったな!」
 牡丹が吠える。ワールドイーターどもも吠える。ふたつの吠え声がぶつかり合い、不協和音を奏でる。『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)にとって、馴染んだ音だ。
「……成程? ここはあいつの縁ある場所という事だろうか」
 暗闇色の衣が、風をまといささやかな衣擦れの音を立てる。おだやかで心地よい風をまとって、アーマデルも空へと舞い上がる。墓は荒らしたくないのだ。アーノルドの希望だからではない。アーマデルは死者と生者の協会を保つものに支え、死者の未練に寄り添うものを主神とするからだ。死者を踏みにじる真似は彼の信仰に反する。己が心の命ずるまま、アーマデルは動く。
『瑠璃雛菊の盾』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、空中で二刀をすらりと抜き放ちながら歯ぎしりをした。
「ようやくアーノルドの行方が掴めたと思えばこの状況……ワールドイーター程度でこちらの足止めが叶うと思うなよ。すぐに追いついてやる!」
 遂行者は敵だ。先日の豊穣の一件で、ルーキスは強くそう思った。魔種は討たねばならない。だが、少なくともあの時点において、彼らは被害者だった。遂行者の気まぐれで、あわや運命を捻じ曲げられそうになった二体の魔種を思うと、ルーキスの心は張り裂けんばかりだ。
『ネクロマンサー』マリカ・ハウ(p3p009233)は、暗いローブの下でその麗しい瞳を伏せていた。
(……死臭がしない。丁寧に埋葬されてる。山犬の餌になった様子もない……)
 未だ残る霊魂から伝わってくるのは、怒りでも嘆きでもなくとまどい。命をとつぜん断ち切られたことへの。
(このままだと、浮遊霊になる。そのまえに私が、声を聞いてあげる)
 ひそかに決意し、マリカは片足を引き、半身になったまま威厳の象徴でもある大鎌を召喚した。
「馬鹿野郎……」
『アネモネの花束』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は拳を手のひらへ打ち付ける。ばちんと痛そうな音がするが、彼の心のほうが、よほど痛みをかんじているようだった。
「次に会ったら一発どついてやろうと思ってたが、こんなもん知っちまったら、何も言えねぇじゃねぇか。俺は孤児だが、ど底辺なりに師匠は愛情持って育ててくれた……」
 やつは、アーノルドは、本当に独りだったんだな。ベルナルドがこぼす。
 アーノルドは揺れている。それがベルナルドの直感だった。神への信仰と、もうひとつ別の何か。ふたつを天秤にかけたなら……いや、考えるのはよそう。アーノルドは滅びのアークを受け入れたのだ。それだけは間違いない。
『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)は、ちいさなおとがいへ指先を添えて、くびをかしげた。
(お墓が…たく、さん…悲しい場所…ここもまた遂行者の、理想郷……?)
「違うよ」
 シュテルンが振り返ると、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が立っていた。優しい紫紺の瞳が、シュテルンを映している。
「ここはコーダ村。アーノルドの旦那との関係は、調査してみなきゃわからない。とはいえ、理想郷ではないと思うよ。理想郷ならば、墓は必要ないんだ。誰もがみんな起き上がると聞くからね」
「そう……よかった」
「よかった?」
「うん…だって…こんなに寂しい場所が…理想郷、だったら…悲しすぎる……から……」
「シュテルンの方は優しいね」
 君よそのままであれと、武器商人は微笑んだ。
「奴め――莫迦野郎が」
『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)はにくにくしげにつぶやく。
「貴様が『遂行者』として、理想を求める者として、演技を得意として異れば、私もおそらくは愉悦としていた……だが」
 痩身が影のように伸び上がり、ロジャーズはわめきたてる。
「さては貴様、其処等で蠢くだけの、蠢動するだけの『善人』の類ではないか? 度し難い人間め! 私は奇跡を望むほど正気ではない。重要なのは『私の力』で、筆を執ることよ!」
 同一奇譚。それがロジャーズの二つ名だ。ありとあらゆる、モザイク状の物語、あるいは設定資料とも呼ぶべきか。日々書かれ、日々語られ、日々消えゆく、有象無象の神話だ。じゅるりと粘液質な音を立て、ロジャーズは墓碑の上へかろやかに着地する。
「やあ」
「貴様か」
 宙へ生じた一般人『N』は、ノイズ混じりの笑い声を立てた。
「如何して、こんな面白そうなことにボクを誘わなかったんだい」
 一般人が嗤うたびに、ノイズが降り積もっていく。
「まさか、ボクがこんな事になってるなんて、嗤えるよね」
「――喧しい私だ。嗚呼、確かに、私こそが人間ではないか。助力をひり出すつもりか、只の紫の癖に」
「そうだね、上空から戦況を教えてあげることはできるよ。空ぐらい飛べるからね、ボクは一般人だからさ」
「なんの皮肉だ。皮と肉を付け足した、私と呼ばれる魔導書に」
「あれだよ、お墓が邪魔で全体が見えないと困るだろう?」
「私の身体は墓よりも――!」
「まあ良いじゃないか」
 一般人はいとおしそうにロジャーズを眺めた。
「誕生日さ。キミがボクらしく生きていないことこそ、素晴らしい」


 ウルフより先に、牡丹が動いた。利き手を上空へかざす。オオカミサマのアクキーが揺れた。空がゆっくりと割れていき、まっくろな真空が現れる。星の光、その輝き、牡丹は口元へ笑みを浮かべた。
「オレは神速と歌われたガイアドニスの娘だぜ?」
 ほら、来いよ。
 牡丹が利き手を振り下ろした。空に浮かんだ星星が、光弾と化してウルフへ襲いかかる。まるで葬送を歌うかのように。6500度を超えた時、炎の色は白へと変わる。銀河を飾る超高温。牡丹はその高温を、我が物にしていた。引きつけきれなかったウルフが牡丹へと牙を剥く。けれども、牡丹の片翼がはばたいた。
「一発で終わるなんて思ってるあたり、程度が知れるな! これが力量差ってやつだ!」
 輝きが生まれる、あたりを薙ぐように射出される。ウルフの目に怒りが灯る。闇雲で居るようで、それでいてどこか統率された動きへ、牡丹は着目する。
(『墓を荒らすな』、か。こいつらワールドイーター、主人の命令を律儀に守ってやがる。ケッ、墓碑を盾にしてやろうかと思ったけどよ。畜生でさえ後生大事にしてるもんを、人間様のオレが荒らすのも大人げないよな!)
 そういうことにする。自分へ言い聞かせる。本当のところは、牡丹にしかわからない。
「ハハッ、オレも馬鹿ってことよ!」
 熱が吹き荒れる、光が舞い飛ぶ。牡丹はウルフどもを磔にし、自分へと意識を集中させる。
 ロジャーズが指を鳴らした。一冊の禍々しい魔導書が宙に浮かびでた。開いた書から、謎の文字列が殴り書きされたページがざらざらとこぼれ落ち、ロジャーズの周りを巡る。鉄壁を身につけたロジャーズがワールドイーターどもへ決別を突きつける。
「獣風情が――終焉どもが煩わしい。この場に私を惹き寄せたのだ、相応の報いを与えねばならない。糞みたいに死ねと」
 強烈な後光が放たれた。ぶよぶよした肉塊、スライムどもがロジャーズを押しつぶそうとする。肉塊にたかられ、ロジャーズの姿が見えなくなる。次の瞬間、スライムは爆発したかのように吹き飛ばされた。むんずとスライムの一体を掴み、ロジャーズが地面へ叩きつける。断末魔を吐く器官を、スライムは持ち得ない。ゆえに、これから始まる殺戮へ、どのような心境で立ち向かったかなどわかるはずもなく、どれほどの恐怖を刻みつけられたかなど、当然知る由もない。
「貴様らの存在を語る舌はない。後世に遺す程、私は寛容ではない。即ち、貴様らは立ち塞がる邪魔な吐物でしかない、此処で亡びていけ」
 ふくれあがるスライムの攻撃は、魔導書からこぼれ落ちるページに遮られている。もしもスライムがそれを突破することができたとしても、すべすべした黒い肉壁を超えることができなかっただろう。
 空を切ってアーマデルが滑り込んだ。蛇銃剣から放たれるのは朱色の弾丸。血の雨のようにワールドイーターへ降り注ぐ。割いて、裂いて、咲く、血肉の華。アーマデルのいまだ幼さの残る顔へ返り血が飛ぶ。出番を待ち構えていた蛇鞭剣でもって、水平に薙ぐ。空を切る音が、身の毛もよだつ怨嗟へ変わる。上からウルフの頭蓋を狙った斬撃、アーマデルはその勢いのまま一回転し、さらに踵落としを決める。べちゃりと地面へ広がる黒い内臓。アーマデルはかまわず次の獲物へ躍りかかる。
「滅びのアーク……この混沌を蝕む陰の気。俺は屠ろう。明日への憂いがひとつでも消えるよう」
 この地に見つけたから。大切な人を。大事な存在を。もはや切っても切れない絆となって、それはアーマデルが戦う理由になっている。
「……はっ!」
 アーマデルは英霊の力を借り、短い気合とともに攻撃をねじ込んでいく。彼の動きに合わせるかのように、ベルナルドが突っ込む。雄々しい翼が、黒に彩られていく。
「くらり嗅げよニトロの味を。広範に紅斑に広がるは塔のまじない。人格を剥奪し尊厳を蹂躙し叩きのめし理解させろ、消えゆく者よ、汝、消えゆく物、収奪の結果の空虚に過ぎないと」
 絵の具を無茶苦茶に混ぜ合わせたような泥濘が、ウルフの足へ絡みつく。ぎりぎりと万力にかけたかのように、ウルフの足が歪み、ねじ切られていく。蒼穹を描くはずの絵筆が、呪いを記していく。力ある言葉を啜って不吉を撒き散らす絵筆、その鳥の装飾が穢れをしらないかのように光った。
「俺は絵師だ。三万光年向こうの希望も、キャンバスに描ききってみせる。失せろ、ワールドイーター、アンタらは役者不足だ」
 ルーキスが大きく二刀を振るった。独楽のように、ぐるり、回る。青い火花が飛び散り、稲妻に変わって刀身へ宿った。
「はああっ!」
 じゅうぶんに溜めた剣気を放つ。ウルフを、スライムを刻んでいく。すぱりすぱりとケーキでも切るかのように。ほどけて落ちた黒いプティングはぐちゃぐちゃと潰れて大地へインクをぶちまける。
「俺たちにはやるべきことがあるんだ。容赦はしない!」
 鋭い二刀がきらめきを放ち、ルーキスを青で照らし上げる。遠く遠くの地に縁を持つ二刀は、異国の地でもその切れ味を存分に発揮している。まるで自ら乞うるかのようにワールドイーターは首を差し出す。それは最後の抵抗の前触れでしかなかったのだけれど、ルーキスの刃はそれすら許さない。ワールドイーターが体勢を整えるより速く、照り輝くルーキスの刃が届くのだ。
 さらけ出された傷跡は、シュテルンが回復していく。血が流れる腕へそっとシュテルンがその手を添えるのだ。
「願いは灯し火とともに祝福かぎりなし。黄金宝石歌います、しろがねくがねを歌います。大いなるをこの身に降ろし、悲しみを火に焚べます。たとえこの祈り穢されようとも、口づけのぬくもりは嘘をつかない」
 高く澄んだ歌声がシュテルンから発せられる。流れるような調べ。やさしい和音。光がぽわりぽわりと浮かんでは、仲間の傷を癒やしていく。
「何度だって…歌う…から。みんな…安心して…」
 彼女の足元からゆるやかに風があふれだし、黒衣のすそを揺らす。それに触れると、魂が浄化されたかのように力が湧いてくるのだ。
「涙、こぼれ落ちないよう…シュテは…私は……紡ぎます…未来を、勝利を…」
 悲しい音も…きちんと…私が聞き届けるから……。
 そっとつぶやいたシュテルンは、ただ震えているだけの乙女ではない。彼女の芯を貫くは、意志。研ぎ澄まされたナイフのような真剣さでもって、シュテルンはこの場に立っている。
「私が…私でいられるように…重ねます…思いを…想いを……」
 ひたむきな視線が、いまだ戦場へ立つグリズリーへ向けられる。シュテルンの視線を、武器商人の衣が遮った。
「かわいそうだねぇ」
 ソレはゆるく微笑んだ。金の冠を、銀の冠を、身に帯びたそのモノへは、もはや何者も手を出せない。
「せめて逃げ去る知能があれば、真の怖れを知らずにいれたかもしれないのに。それすらできないのだからかわいそうだ。キミらのご主人さまに、あとすこし情けとオツムがあればねぇ」
 世界の裏側を味わってみるかい?
 3対6枚の緑翼が淡く光っている。武器商人はゆったりと宙へ腰掛け、なにもないはずの空間を軽くノックした。こんこん。ありえない音がたつ。重い重い扉が、そのモノの背後で開かれていく。吹き出す青い炎にも、武器商人は涼しい顔だ。現れた焔の少女の頬へ優しく触れ、武器商人がグリズリーへやわいまなざしを送る。
 投擲。青褪めた槍が射出される。鋭い穂先がグリズリーの肉を割り裂き、地へ縫い止めた。
 泣き叫ぶグリズリーを、マリカはうっとおしそうに視野へ入れた。そこらじゅうワールドイーターの死骸で黒く汚れているが、彼女の呼んだ骸骨は象牙のように白い。
「……来てくれて、ありがとう。みんな」
 うつむいたままの少女は皮肉の混じった笑みをじんわりとにじませる。そしてフードを下ろし、自分のかぶっていた薄衣を一体の骨へかけてやる。戴冠式のような荘厳さで。マリカの力を得た骸は、雪を思わせる静けさでもって、鋭い鎌をグリズリーの首へ押し当てた。しんしんと降り積もる不吉な予感。
「……私の代わりに、またひとつ罪を背負わせてしまうね……」
 彼女は少女で、死霊術師で、自らが戦う力を持たない。その美しい頬には血の気がなく、瞳は悲しみしかたたえていない。マリカが吐息をこぼした。それが終わりの合図だった。最後のグリズリーの首が鎌ではねられ、大量の血しぶきが吹き出し視界を汚した。

●スワンプマン
「ベルナルド」
「どうしたアーマデル」
「俺にはわからないのだが」
 そう前置きをして、アーマデルは空の向こうへ視線をやった。
「たとえば俺が雷に打たれて死んだとする」
「唐突だな」
「だがその時雷によって、シナプスまで同レベルの俺に似た生命体が合成されたとする」
「沼人の思考実験だな、何が言いたい?」
「死者は蘇らない、それが世界の理だ。だが俺にそっくりで、俺の記憶も有していて、俺と同様に振る舞う、そういう存在がいると仮定しよう。俺を大事に思う人は、どう振る舞うだろうか」
「そ、それはぁ……」
「そうだな、難しい。難問だ。俺にはわからない。だが俺は、遂行者の言う理想郷に、この問と同じ匂いを感じる」
 そっくりの、別の何か。暗い暗い沼から産まれる……それは本人と呼べるのか。触れることができる、ぬくもりすら感じ取れる、都合のいい幻覚ではないのか。
「で、どうするよ」
 ルーキスを手伝いながら、牡丹はマリカへ話を振った。
「こうする」
 マリカは大鎌でもって何かを切るかのように二度宙を払った。一気に空気が冷え込む。ガチガチと歯を鳴らしながら、牡丹はマリカを見守った。……居る。なにかが居る。見ようと思えば見ることができて、見まいと思えば見ずに済むたぐいのものだ。ざわざわと、ぞわぞわと、空気が揺らいでいる。
「ドゥアトへ連れて行ってあげる……だから、質問に答えなさい……」
 何が起きたの?
 亡霊たちへ、マリカは問いかけた。思念が飽和し、マリカへと届く。
 男だ。男が来た。まっすぐにあの子の所へ向かった。祈りに呼ばれたと言っていた。
「そう……そして気がつけば、村は潰れていた、と……そう言うのね」
 マリカはひとつひとつの霊と向き合い、冥府へと流していく。最後の霊を前に、彼女は顔をあげた。霊は、壮年の男であるようだ。肉刺だらけの手が朴訥とした容姿と相まって真面目さを感じさせる。
「……未練が濃い。ドゥアトへ送れない。……このままじゃ消滅してしまうわ、あなた」
 マリカが手を伸ばす。
「そう……そう、いいわ。機会を上げる、一度だけ。少しだけ、私の配下になることを許す。その後はドゥアトへ流す。名を名乗れ」
 風が吹いた。マリカのフードが揺れる。
「汝の名たしかに預かった。『ヘクター』」

●そして
 一行はオルド村へ戻った。村長が皆を出迎え、労をねぎらった。よく磨かれた古い板張りの床のうえ、ソファに深く腰掛けながら武器商人はゆったりと手を組んだ。
「結論から言って」
 村長はしずかに聞いている。
「コーダ村は滅びのアークに飲まれた」
 ぎょっとした村長を押し留め、シュテルンが言葉を紡ぐ。
「……あそこは、墓場になってた。…誰かが、弔ったみたい……私も祈ってきた…謝罪と…安らかな眠りを…。大丈夫、この村へは、影響はない…魔物も、倒した……」
「これを」
 ルーキスがひしゃげた猟銃をさしだした。
「ヘクターの銃です。ひとつひとつの墓に、故人の思い出の品と思われるものがありました。墓を作ったのは、村の関係者と思われます」
「そうか……」
 顔を伏せ、銃を受け取る村長。ベルナルドは、彼に一枚の似顔絵を見せた。
「この男に見覚えはあるか?」
 村長は短く息を吸い、似顔絵を奪い取った。信じられないと言わんばかりに、年老いた身体がわなわなと震えている。
「アーノルド、アーノルドじゃよ。ヘクターの上の息子じゃ。ベッドから動けんと聞いておったが……何が起きたんじゃ! あの子が何かしでかしたのか!?」
 狼狽する村長の頭を、黒い手がわしづかみにした。
「誰も居なかった」
 ロジャーズだ。いつもの三日月笑いゆえに、感情は読み取れない。読み取れたところで混沌を見るだけだろうが。
「私は盲目なのだ。何処まで何処までも、目玉が無いのだ」
 ロジャーズの手が村長をつかみ上げる。小さな老いぼれた体を玩具のように振り回し、ロジャーズはソファへぼすんと村長を投げこんだ。白目をむいた村長は泡を吹いている。
「証明するための脳髄も無いのだよ。理解るか? 理解らずとも良い。貴様の知ったことではない! 万里を超え万物は在るべき場所へと進む! 其れだけだ、Nyahahahahahaha!」

成否

成功

MVP

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

ぬまんちゅ。そろそろ答え合わせですね。

またのご利用をお待ちしております。

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