PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<濃々淡々>刹那を永遠に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『特別な瞬間へと戻ることが出来るカメラがある』。
 そうタレコミがあったのは、和風世界濃々淡々。この世界では妖怪と人間とが暮らしている。
 悪意を持った妖怪もいれば、自分の力で人間を惑わせたい妖怪もいるのだけれど。そんな妖怪が時々、人間の暮らす世界に不思議なアイテムを置いて行ってしまう。そういったアイテムを調査するのが、境界案内人たる絢の仕事の一つになりつつあったのだ。
 ことのはじまりは些細な噂かもしれない。けれどそれも広まれば尾ひれがつき、だれかを傷付ける原因になってしまうかもしれない。一方で、使い方を間違えることがなければだれかの心を導く一助となるかもしれない。妖怪が持つ力は不思議で、無限大で。いつかはひとと妖怪が手を取り暮らすこともできるかもしれないのだと思ったから。その道を作るために、絢は今日も歩みを止めないのだ。
「さて、おれはどんな瞬間がうつるのかな……」
 噂をたよりに、と言えば聞こえはいいが実際は長蛇の列にならびそのカメラを購入したのだ。決して安くはない出費に今後の食費が心配になるのだけれど。とにかく。押してみなければ、わからない。
 パシャリ、とフラッシュが瞬いた。
 絢の視界が、揺らいだ。


「ということで、面白いカメラを用意してみたよ」
 ひとのわざわいになるものではないだろうと判断した絢は、そこに四つのカメラを並べた。見た目はどれも同じで、特に変わった様子もない。貴方がそれを手に取れば、こほんと咳払いして絢は尻尾をゆらした。
「なかなかいいお値段がするんだよ? しっかり心の準備はしてくれるとうれしいな」
 曰く。カメラのように一瞬だけが戻るのではなく。二度のシャッター音とともに、時間を切り抜かれたような感覚が残るのだそうだ。
「一回目のシャッター音で現実とは離れて、二回目のシャッター音でここに戻ってくることが出来るよ」
 一瞬。まばたきにも満ちないような瞬間のことだけれど、たしかに心に残る何かがあるのだと絢はいった。
「おれは、大切な人の最期を、もう一度看取ってきたんだよ。もしかしたらあの時には気付けなかった何かがあるかもしれないと思っていたんだろうね」
 けして深くを語ることはなかったけれど。それでも晴れ晴れとした表情が絢の顔には浮かんでいた。
「さて。次はきみのばんだ。おれはもう済ませてしまったからね」
 楽しんでおいでよ。ゆらりとしっぽを揺らした絢は、カメラをあなたに手渡した。

NMコメント

 お久しぶりです。
 絢くんを掻くことが出来なくなる前に、一筆したためました。
 お付き合いいただければ幸いです。

●依頼内容
 妖のカメラを使用してみる。

 そのカメラは一見普通のカメラです。
 が、不思議な力が込められており、大切な瞬間を見ることが出来るのだそう。
 あなたが見た瞬間はどんな場所でしょうか。プレイングに記入してくださいね。

●世界観
 和風世界『濃々淡々』。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
 また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)

●絢(けん)
 華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
 手押しの屋台や自身の構える店で美しい飴を売り、日銭を稼いでいます。
 屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。また、店では妖怪が集まり密談をすることも。
 彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。

 必要があればどちらへでもお供します。

●サンプルプレイング(絢)
 【1】
 ここは……あの日の、家かな。
 ふふ。あなたの最期をまたこうして看取ることになるなんてね。
 猫だったおれには想像もつかないだろうけど。……さて。なにか、できることはないかな。

 以上、皆様のご参加をお待ちしております。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】過去の世界を映す
そのシャッターを押せば懐かしいあの景色へと戻ることが出来るでしょう。
家族との大切な瞬間。友人との別れ。どんなものがうつるでしょうか。

【2】未来の世界を映す
そのシャッターを押せばいつかの景色を見ることが出来るでしょう。
大人びた自分。老いぼれた自分。貴方が見たのはどんな瞬間でしょう。

【3】スローモーションの世界を映す
そのシャッターを押せば、貴方の特別な空間が再現されるでしょう。
特別な時間を大切な誰かと過ごすことが出来るでしょう。貴方の心にはなにがうつるでしょうか。

  • <濃々淡々>刹那を永遠に完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年11月29日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ


 フラッシュが瞬いた。

 大空洞の様な地下空間と日本建築式の祭壇。磔にされている白き巨人とその下で呪言を唱える人々の群れ。
 違和感に気付くのは、現状の凄惨さに狼狽えるひとが誰一人としていないことに気が付いたから。
「なんだココ、こんな場所オレの記憶には無…」
 目を見開いたのは『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)。けれど。嗚呼。
(…いヤ。確かに覚えていル)
 そうだ。しかと覚えている。このカメラはまさに、過去を映すものだと直感した。
「過去の瞬間を映すなんて聞いていたが、まさか"オレ"の生まれる瞬間を見るとはナ」
 皮肉だ。乾いた笑みが浮かぶ。
「これは"オレ"になる前の"俺"の記憶……そうダロ?」
 肉体は答えない。それでもいいと頷いた。肉体の回答なぞ求めてはいないのだから。
 母親の腹の中にいたときの記憶を覚えているなんて言うひとがいるが、この光景こそが彼にとってのそれであった。
 奥の祭壇に磔になっている白い巨人こそが、アレが[ねこ]を産む[ねこ]、第九相[つぇろる]。壱和の母親。
(ま、血の繋がりなんてねぇし、アレに自我なんてもんは存在しネェ。文字通りただの母胎ダ)
 だけれど、こんな光景を見せられては。
 本当ならあの変な儀式をしている狂信者をぶっ潰して何もかも滅茶苦茶にしてやりたくもなるのだけれど。それをしたところで現実の何が変わるわけでもないということを理解している。何せこれは映像。ほんのフラッシュの間の一瞬のことにすぎないから。
(なんなら今ココ(混沌)にオレと[つぇろる]がいる事自体が最高の仕返しになってるだろうサ。なら自分が生まれる瞬間を見るのも悪かネェ)
 はりつけにされた巨人の、その頭上から、彼らの物語のいく結末を見守る。
 白き巨人、その上半身の断面から蠢く猫の顔の様な塊。
 その中でも一際大きい塊がぼとりと鈍い音をたて千切れ落ちる。
 産まれ落ちたそれは次第に形を変え、最後には人間の胎児の形をした真っ黒な"なにか"に成った。
 これが、ねこのおう[イツワ]を納める為の器、玄野壱和が生まれた瞬間である。
 白き巨人は母のようで、父のようでもある。しなやかで女性的な腰つき、隆々とした男性的な腕つき。あれはひとでも、猫でもなく、[ねこ]なのだ。
 生まれたのは自分だ。そしてそれは変わらない事実のはずなのに。
「……?!」
 生まれたての玄野壱和はぎょろりとこちらを仰ぎ見ていた。


「ここは懐かしい、元の世界の姿見が置いてあった蔵ですね」
 ぎぃ、と古びたドアを押してみた。干渉できないはずなのに触れられる。それがうれしい。『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)はあたりを見渡して。
(以前はよくよく見ることも叶わないぐらい弱っていましたが……元気になって改めて見ると人が簡単に入ろうと思う場所ではないですね、埃だらけだし暗いし物が立ち並んでいて不気味ですし。よくもまぁいわくつきのものを集めたものです)
 なんて笑ってしまう。だけれども。
 こんなところだけれども、大事な場所なのだ。鏡禍にとっての命の恩人と出会ったところこそが、この、埃だらけの蔵なのだ。
(ということは彼女がいるんでしょう、あぁ、やっぱり)
 きぃ、と小さく蝶番が鳴った。たったった、と。幻像の鏡禍をすり抜けて、小さな彼女が鏡に寄り添った。
(僕を助けてくれた幼い純粋な女の子、名前をくれた君。……幼い君が入ってくるような場所じゃないのに、どうして君は来たんでしょうね。その紫の瞳が導いたのかな)
 愛くるしいその瞳は、一直線に鏡へと視線を注いで。
 ひんやりと冷たくて。それから物を言えぬ鏡を握った彼女のその背中を追った。
「君が僕を助けてくれた、そのお礼をずっと言いたかったんだ。
 面と向かって話す前にこっちの世界に来てしまったからこの気持ちを全然伝えられずにいたんだよ」
 届いているわけもないのに。だけれど、どうか。自己満足だって構わないから。
 触れられるのかな、どうか抱きしめさせて、お礼を言わせて。震える腕で、その小さな背中を抱きしめた。
「君のおかげで生きれいられる、別の世界でも幸せを得ることができた。
 ありがとう、僕に名前をくれた『花』の字を持つ君」
 声が上擦る。鼻の奥がつんとして、それから、目が熱くって。
「そして君の力を奪ってしまってごめんなさい。
 この右目はいつかきっとまた君に会うときまでそのままにしておくから。
 今度は分かれる前の、育った君に会えるって信じてるよ」
 吐き出したのは願いかもしれないし、呪いかもしれない。それでも伝えたかった。
 少女はただ、笑った。
「待っててね」
 それはきっと在りし日の言葉。けして今の鏡禍に向けられた言葉ではないのに。
「……うん、待ってる」
 ほろり、ほろり。溢れて止まらない涙はとめどなくて。いつかを懐かしむなんてことがあるはずなかったのに。どうしてだか、恋しく思った。


 カメラを前に、足がすくむ。『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)の義肢が小さく唸った。
(わたくしは、何を見るのかしら)
 震える手は、絢の袖口を引いた。
「絢様、絢様。少しだけ、手を握ってくださいませんか。心が、落ち着くように」
「うん。良いよ」
 繋いだ手は彼のとは違う。大きくてあたたかいのに、どこかもどかしい。
 ネーヴェの心を嗤うように、フラッシュは瞬いた。

(ずぅっと過去は、幸せで。でも少し前は、つらくて)

 目を開けたくはない。

(だから…幸せだった過去が、つらくて)

 見なければ何も変わらないのに。

(……でも。でも、わたくしの、大切な瞬間は、それだけではないことも、わかってはいるのです)

 幸せとは、なんだろう。

 決して遠い過去とは言えない。数か月前。一年も経っていない、あの夏のことだ。
 青い髪の彼。一緒に花火をしたのだ。
 打ち上げ花火は一緒に、見たことがあったのに。
(今にも儚くなりそうな、線香花火で…わたくしの花火が、長生きしたら…貴方の過去の話を、と、ねだったのでしたね)
 袋は開けられるかどうだろう。なんて楽し気に笑う自分たちがいた。
 そして。嗚呼。わたくしは、この先を知っている。
(わたくしの花火は先に落ちて、彼のことをまた知らないまま、共に過ごす時間だけ、過ぎていく)
 ぽとりと落ちたのは。ネーヴェの線香花火で。

「わたくしの、負け、ですね」

 負けたのだ。己の弱さに。教えてくれと願うのを、ちっぽけな勇気を振り絞ることすらも出来なくて。
(本当は、とても聞きたかったの)
 そうだ。教えてほしかった。知りたかった。
(貴方の花火が、早く落ちてくれないかと。わたくしの花火が、長く残っていてくれないかと)
 でも、叶わなかった。現に過去のネーヴェの顔は今にも泣きそうで。
(……けれど。どうせなら、2人の花火がずっと、残っていてくれたら。決着がつかないまま、一緒にいられたのに…なんて)
 そんな夢を見た。もうぽとりと落ちてしまった火種は、瞬いていた線香花火は、水でぐじゅぐじゅになって、湿って、熱を失っているのに。

「わたくし、知りたかったのだわ」
「何を?」
 絢は、意地悪だ。だからこそ彼は妖なのだと理解する。
「一緒に過ごす時間は、たのしくて、ドキドキするけれど。もっと、彼自身のことを、知ってみたかった」
「そっか。彼はもういないの?」
「いいえ。……今からでも…聞いたら、教えてくれるかしら」


「これが『カメラ』言う……お写真を撮る器械やのね」
「みたいだね。おれは西洋のものには詳しくないのだけれど」
「ふふ、うちもよ。せやけど、この前はお写真撮って貰ったけど、今日は自分で手に持って使わせて貰えるやなんて、嬉しいわ」
 ころころと笑った『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)は、その手にカメラを収めて。
「初めて触れるものは、いつになっても心が躍りますよって。今日はよろしゅうお願いします、カメラさん」
 ぱしゃり。

 過ごしてきた時間、その時その時に胸に焼き付けた景色、記憶の奥底に閉まったもの。
 実際にお写真に出来たなら。いつかを振り返るのはひとりではなくて、だれかとでも。だからきっと素敵だ。紅を差した蜻蛉の唇は柔らかく弧を描いて。

 蜻蛉が撮影したお写真は境界。この「濃々淡々」を描いた、四季折々の写真だった。
「これは……皆で一緒に桜の木から、夏の花火を見た日の、やね」
 遠い喧噪。あんなにも近くで花火を見たのは初めてだったかもしれない。特別な思い出だ。手を伸ばせば届きそうで。でも、遠くて。
(それはきっと、一緒に居た人たちが特別やったから……言うんもあるんやろうなて)
 雪の精霊の表情を見ることが出来なかった。だけれど、今ならわかる。見ずとも、彼女がどんな顔をしていたのかなんて。
 だからきっと忘れない。この思い出は、これからもずっと。

「あ」
「こっちは……初めて絢くんに飴細工をお願いした日のお写真やね。あの時作って貰った桜の飴も、写っとるね」
 まだ店の人と、お客の蜻蛉の一人の頃の姿。
「なんや初々しいわ、ふふ」
「ちょっと、おれもなんだか、恥ずかしいんだけど?」
 何となしに入った飴屋だった。だけど、きっとあの時、蜻蛉は何かに呼ばれたんやと思う。なんて溢すものだから、絢もつられて笑って。
「きっとご縁があったのやろうね。出逢うてくれて、色んなものを下さって……ありがとう」
 写真を手にしながら、思わず語り掛けてしまうのは。
 この世界で、濃くも淡くも、鮮やかな日々を過ごしてきたから。その思い出がきっと、蜻蛉の中で生きているから。
 届いた手紙の数だけ、紡いだ言葉の数だけ、桜吹雪は蜻蛉の元へと文字を重ねて。長かった髪がはらりと桜に呑まれていった。
 今日までの長い道のりを、しみじみ思いだせるから。
「この先も、こうして思い出が増えて行きますように」
「おれもだよ。会いに来てくれて、ありがとう」

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM