PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性九龍城:冲啊、らぶりぃ幻想夜!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●再現性九龍城『花魚幇』
 練達の再現性九龍城。
 表向きは中華風の建造物が軒を連ねる地域であるが、路地を少し進めば景色は一変する。
 抜け道と抜け道を抜け道で繋いでいく内に現地人でも把握しきれない迷路となった路地が張り巡らされるのは、違法建築に違法建築を重ねて積み上げられた建造物。
 ここに真っ当な法は無く、あるのは住人達の筋道と義理と『人情』――それによって成立している『幇』と呼ばれるマフィアの派閥達が、この地域を牛耳っている。

 そのような『幇』の中でも、一風変わった『幇』がある。
 愛らしい仙女のような出で立ちの『花魚娘娘』姚・依依(ヤオ・イーイー)を中心とした『花魚幇』がそれだ。ここは依依が幇員達を率いて先頭に立つタイプではなく、幇員達がこぞって彼女を崇め世話をすることで形成されているファンクラブのような『幇』である。
 依依自身はどちらかと言えばか弱い少女なのだが、そのように崇められている少女の言葉とは常に嵐の目となるわけで――。
「今年もそろそろじゃのぅ……」
 ファントムナイトも間近に迫った頃、ベッドのような玉座にしなだれる彼女が言葉を発すれば、どこからともなく幇員達が現れて我先に意見を述べる。
「恐れながら娘娘(ニャンニャン)はそのままが至高です!! 仮装など邪道!!」
「しかし昨年の虎拳使いもよかったです!!!」
「今年は月兎などいかがでしょう」
「ケモ要素しか頭にないんか雑魚共が!!!! 豊穣風などいかがでやしょう!」
「レオタード。いいですよ」
「誰がウサ耳レオタードじゃ娘娘の玉肌を無駄に晒すとかバラしたろかアァン!?!?!?」
 何せファンの集まりなので、意見の場が文字通りの血闘になることなど日常茶飯事である。そして当の公式(依依)はそんな解釈違いの(血)濡れ場をただ眺めるのみである。この娘娘、正体は五百年を毒の海で生きてヒトの姿を得た海月という出自なのだが、長く生きすぎたせいかあらゆる物事への関心が薄いのだ。
 何ならこの喧嘩どころか、この『幇』自体どうでもいいとすら思っている。ファンが勝手に作ったに過ぎないからだ。しかし、ここにいれば衣食住には困らないためとりあえず利用されてやっている、という体たらくである。
 未だ続く血闘の空気を敢えて読まず依依が口を開くと、一同は一瞬で手と口を収める。
「確か……イベントもあるんじゃろ? 菓子を求めて練り歩く……」
「仰る通りですが、娘娘にはいつも通り我々から選りすぐりの菓子を献上いたしま」
「飽きたんじゃよぅ」
「「「「申し訳ございません!!!!!」」」」
 床へひれ伏して詫びる幇員達の姿勢にも特に反応を見せず。やがて幇員達が新たな企画を口々に考え始める中、依依は退屈そうにぼんやりとしていた。

(別に……何もかも、どうでもいい……感動するのも面倒だし、疲れるんじゃよぅ……)

●九龍城にも ファントムナイトが 来た――
 混沌全土に魔法がかかるこの日。再現性九龍城も例に漏れず不思議な魔法がかかっていた。
 犯罪を犯してこの都市へ逃れてきた者が、幼い姿へ戻っていたり。
 強さを欲して道を踏み外した者が、魔法使いの姿になっていたり。
 特に姿の変化が無い者もいる中、イレギュラーズは依頼でこの街へ来ていた。依頼人は『花魚幇』の幇員である。
「朝からボスの姿が見えないと。ご心痛お察し致します」
「ボスじゃ無いっす娘娘っす……我々の仙女様っす……オイラこの日を楽しみに毎年生きてるんす……」
 さめざめと泣く依頼人の話を聞く『万愛器』チャンドラ・カトリ(p3n000142)。このめでたいファントムナイトで幇員達が仮装も菓子も考えつくした幇主の姚 依依が姿を消してしまい行方知れずだというのだ。
「娘娘はか弱くて……こんな所でお一人でいたら……一体どんな目に遭ってしまうか! ああぁー想像しただけで八つ裂き待ったなしっす!! まずは無様に娘娘を浚われた護衛当番から!!」
「そちらの処分はお任せするとして、ファントムナイトで娘娘の姿が変わっている可能性もあるのでは? 目印でも無いと探しようがありませんが……」
 ツッコミを受けて止まる幇員。姿が変わってしまった場合、彼にも目印の心当たりが無いようだ。
「……まあ、そのような事情だからこそ我(わたし)達を頼られたのでしょう。他の『幇』に知られるのも困るでしょうし」
「そうなんす……何もできませんけど……いや娘娘さえ探して頂けるなら御礼は必ず……!」
 目印はないが人捜しをして欲しいなどという、目的地の無いゴールを目指すような依頼。あまりにも途方の無い内容にチャンドラが溜息をつくと、その幇員はひとつ思い出したと情報を加えた。
「目印、と言うか……娘娘はとっても可愛らしくていらっしゃるので、絶対に誰もほっとかないんす……それで、『幇』では誰が娘娘のお役に立つかでよく喧嘩になるんすけど……。多分、そういう集まりのところにいるかもしれない、っす!」
「目についた諍いに片っ端から喧嘩を売れということですね。九龍城らしくとてもわかりやすいご説明に感謝を」
 なんて物騒な。しかしそういうこともある。ここは無法と無法が秩序をなす九龍城。
 そういうわけでそこかしこの喧嘩に討ち入り(トリックオアトリート)ながら、どんな姿に変わったかもわからない『花魚幇』の幇主・姚 依依を探し出せイレギュラーズ!
 なお、この九龍城にもファントムナイト用に菓子や飯を振る舞っている店もあるので巡ってみるのも楽しそうだと付け加えておこう。

(…………)
 準備を整えるイレギュラーズ達。
 その様子を少し先でじっと見る幼女の姿が、あったとか、なかったとか。

GMコメント

旭吉です。
練達がまだ何とかなってる内に九龍城やりたかったんやと供述しており。
治安の悪いトリックオアトリートやろうぜ磯野!!!
ちなみに「冲啊」は「それいけ」とかそんな意味です。

●目標
 依依を発見、身の安全を確保する

●状況
 練達の再現性九龍城外部。
 建築物に建築物を重ねた広大な迷路で、街の外観や住人のファッションは全体的に中華風。
 (ただし、ファッションに関してはこの日はファントムナイト仕様に変化しています)
 マザーの影響下にあるためモデルとなった九龍城ほどではないものの、練達の表舞台を追われた人間やチャイニーズマフィア、怪しげな売人などが根城にしているためアンダーグラウンドな部分が多い区画です。
 九龍城外部は『比較的』安全で治安が良く、そこから深部へ行くほど治安が悪くなります。

 外部地区には多くの看板や瓦屋根がひしめき合い、間に挟まるように居住区や廟、小規模な店などがあったりします。
 外から入ると内部の路地は狭く薄暗く、土地勘なしに目的地へ向かうのはかなり困難です。
 現地人や土地勘のある方と協力しながら、依依が関わってそうな喧嘩へトリックオアトリート(物理)して依依を保護しましょう。
 (九龍城在住設定の方が参加された場合、ある程度の土地勘があるものとして判定いたします)
 ここは無法がまかり通るので大概の悪いことは許されます。しかたないね弱肉強食。

 なお、ファントムナイトの菓子として飴玉と称した鉛玉とか、ラムネ菓子と称したやばいオクスリとかも普通に店にあったりします。
 しかたないね九龍城。
 依頼をこなしつつ、そんな治安の悪いファントムナイトを楽しみたい方向けです。

●敵情報
 下っ端ヤクザ×たくさん
  いかにも悪そうな下っ端っぽい奴らです。
  喧嘩を売るととりあえず拳銃やらドスやら殴る蹴るで仕掛けてきます。
  身内だろうが他所の『幇』だろうが、めっちゃしょうもないことで喧嘩します。
  理不尽に吹っ飛ばして頂いて結構です。

●味方情報
 『花魚幇』幇員
  必要であれば何人でもお連れください。道案内でも肉壁でも、娘娘のためなら惜しまず協力します。
  娘娘への解釈違いが発生すると修羅と化します。

 謎の幼女
  白い日傘を差した幼女。何故かイレギュラーズの先方を走り去っていく様子が頻繁に見られるでしょう。
  捕まえてもすぐに逃げようとします。
  逃げた先でよく喧嘩が勃発するようです。逃げなくても喧嘩はありますが。
  めちゃかわ。

 『花魚娘娘』姚 依依(ヤオ・イーイー)
  わがまま。めんどくさがり。どうでもいい。しかし可愛い。
  その為に周囲が放っておかないので勝手に諸々の原因になってしまう『花魚幇』の幇主。

●NPC
 チャンドラ
  特に言及がなければ描写なし。仮装は豊穣風の黒衣。
  戦闘は回復メイン。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性九龍城:冲啊、らぶりぃ幻想夜!完了
  • 「面白いふぁんとむなんとかが見たい」と君が言ったから 今日は九龍城ファントム記念日
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

冬越 弾正(p3p007105)
終音
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍
李 黒龍(p3p010263)
二人は情侶?

サポートNPC一覧(1人)

チャンドラ・カトリ(p3n000142)
万愛器

リプレイ


「不给糖就捣蛋! 吾輩のお菓子を買わねば末代まで悪戯するあるよ〜!」
「Trick or Treat! でも、悪いな、菓子の甘さじゃ満足できねぇのさ」
 開幕薄暗い物陰から飛び出してきた物騒な僵尸と黒ヘル怪人に菓子を強請られる九龍城ファントムナイトこわい――!
「いやなに、冗談あるよ冗談。ささ! イレギュラーズの嬢ちゃんあんちゃんらも景気付けに飴ちゃんを食うがよろし!」
 物騒な僵尸改め『尸解老仙』李 黒龍(p3p010263)は、衣装の広い袖口から個包装の飴玉をイレギュラーズ達に配っていく。安心してほしい。お子様が食べても無害なレインボー飴ちゃんである。
「ヘーイ! 黒龍! そこは鼻の穴だ! こっちに頼めるかい?」
 途中、どこから食わせたものか悩んだ挙げ句適当に仮面の上から飴玉を押し当てられた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)がいたり、いなかったり。この後自分で仮面をずらしてちゃんと口から放り込まれた模様だ。
「久しぶりに再現性九龍城に来ましたが……相変わらず賑やかですねぇ、ここは」
「俺は初めてだけど、一人だとぜってー迷うなこれ……」
 口内で飴玉を転がしながら、ファントムナイトに沸く再現性九龍城の道中を思い出す『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)。世界がどれほど変わっても変わらぬ賑わいには安心感すら抱いたものの、初めての九龍城となる『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)にとってはまだ不安が勝ったようだ。
「賑やかだし、慣れてないと迷いそうだし……分担とか、しっかり相談してから行った方がよさそうかも……!」
「土地勘に関しては任せてくれていいぜ。騒がしさは……あいつらも負けず劣らずのようだがな」
 一度は来たことがあるとは言え、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)も慣れていないなりに提案すると、『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)が頼もしい答えを返しつつもその視線は一人の男の方へ。
「うう……娘娘(ニャンニャン)……」
 依頼人の『花魚幇』の男だ。いかつい肉体を丸めて涙するのを宥めていたのは『君を全肯定』冬越 弾正(p3p007105)である。
「皆の気持ち、分からなくもないぞ。俺だってアーマデルの行方が分からなくなったら気が気でなくなる。あと襲いかかる悪漢がいたら粒子レベルで粉微塵になるまで擦り潰す」
「オイラも犯人見つけたら餃子の具にして包んで相手の『幇』へ売りつけてやるっす!!!」
「……心配なのはわかるが、ちょっと暑苦しい気はしなくもないな……?」
 しかも金を取るのか。喧嘩を売るという点ではある種正しいのか。色々な意味でちょっと首を捻った『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だった。
「全くな。自分のことで好き勝手に争う人間共を見ていたら、そりゃ娘娘だって気疲れもするだろうよ」
 コンレイにはこの時点で何となく犯人の予想が付いていたのだが、敢えて口にはしなかった。
「人類にはひとりで己と向き合う時間もまた必要だと聞いたことはある……。ただ、誰にも何も言わず出ていくのは不味い。何かあっても誰も分からないし 何事かあれば真っ先に責められるのは側仕えの者たちだからな」
 もっとも今の彼女にとっては、それさえどうでもいいことかも知れないが――依依の心境を思うアーマデルに、英司の陽気な声が降ってくる。
「なに、退屈したお嬢さんにゃとびきりの刺激をプレゼントだ。起きる騒動はもっとデカく、煽って煽って楽しい祭りにしてやろう!」
 いいんだろうか、それは。
 多分いいんだろう、九龍城なので怒られないと思うきっと。


 最低一人は土地勘のある者と組むようにして、イレギュラーズは4組に分かれ複雑な九龍城を探すことになった。
 各組で担当の捜索範囲を定め、組同士の情報共有は弾正のギフトによる楔やファミリアー達を介して行う――と、ここまでは計画的に定まったのだが。

 純白の幻夜の花嫁フラーゴラと漆黒の悪魔飛呂が『花魚幇』の幇員の案内で向かったのは、人が集まっていた菓子――幇員曰く全部麻薬――の屋台だった。
「おう、情報が欲しいなら出すモン出せや」
「あンだとテメコラ娘娘の一大ひでぶっ」
「そうだよね、ファントムナイトだものね! はい、お菓子!」
 すぐに喧嘩を売ろうとする幇員を飛呂が封殺(物理)し、フラーゴラが『おばけゴラのカヌレ』を配る。しかし気をよくした連中の情報によれば、依依らしき女性は見ていないようだ。ただ、一時『我先に菓子を求めに来た連中』はいたとのこと。
 一行はカラフルな麻薬を勧められるのを断りながら、その菓子を求めた連中とやらが向かった方向を目指した。
 その道中。
「なあ、解釈違いって言うけどよ。あんたの思う最高の依依さんじゃなかったら、好きじゃなくなるのか? そんなことないだろ?」
 むしろ新たな一面を知ることにならないのかと、飛呂は素朴な疑問を幇員に訊ねてみた。
「好きでいたいっすよ! でも!! 娘娘の良さがわかっとらん奴らの意見にもふわふわ~ってなっちゃうのが!!! いや勿論許せないのは娘娘じゃなくてそいつらの方で、オイラはそんな娘娘の尊さを守りたくてそれから」
 あ、これ長い話になる奴だ……と何となく飛呂が察した時、エネミースキャンに反応が。フラーゴラも少し先の路地から言い争いの声を聞いたようだ。
 駆け付けた一行が見たのは菓子を手に争う男達と、それを木箱に座ってじっと見ている日傘の幼女。幼女自身もだが、この状況で誰も幼女へ話しかけない図が違和感しか無い。
「(元が海月の旅人だっけか? 日傘がそれっぽく見えないこともないけど……)」
「(とりあえず保護して、お話……聞いてみよう!)」
 小声で短く相談すると、飛呂とフラーゴラは一旦物陰に潜み準備を整える。そしてこちらへ注意が向く前に先手必勝、鉛玉とハイペリオンがいっぱい乱れ飛ぶトリックオアトリートを見舞ったのだった。なんとふぁんしー。
 勿論幼女は無事で、倒れた男達の口に追いカヌレを詰めていくフラーゴラをじっと見ている。
「鉛玉の飴玉より、こっちがいいよね……あ、キミは大丈夫だった?」
 頷く幼女。
 良ければこの後一緒に九龍城の屋台を回らないかと誘えば、やはり幼女は頷いて付いてくる様子。幼女一人で歩かせるのも危険だからと、二人は彼女と共に幇員の案内で屋台の集まる通りへと向かうのだった。
 ――なぜか幼女は名乗らないし話さないし、特に幇員とは絶対に目を合わせなかったが。


 腹が減っては戦(※比喩ではない)はできぬということで、英司は捜索の合間に黒龍が絶品だと推す屋台飯を貪っていた。ちなみにここまでの捜索は玄関から鍵開けでダイナミック你好したり、窓からダイレクトに『幇』の談合をブッチしたりと、なかなかにワイルドな方法を展開しているので体力勝負なのだ。
「いやぁ、腹が減りすぎてブラジルまで開通してたトコだぜ! お? これイケるなおい! 辛みマシマシで! なぁ、そっちのもくれよ」
「激辛四川料理を食らうがよろし」
 絶対に空腹にぶち込んではいけない味なのだが、そこはきっと腹まで怪人化しているに違いない。かなりガッツリいったところで、黒龍は異様に首を振ってアピールしている緑の蛇に気付いた。連絡用に預かってきた飛呂のファミリアーだ。
 少し前に出くわした『花魚幇』の幇員から聞いたところによると、別の地区で海月に見えなくもない日傘を差した幼女が発見されたらしい、とのことだったが。
「どうしたある。汝も飯が欲しい……では無さそうあるな。依依嬢あるか?」
 めっちゃ頷く蛇。どうにか動きから情報を読み取ろうとしていると、別の屋台から騒ぎが聞こえてくる。振り向けば、嫌でも目に入る――日傘の幼女。
「よし! 俺らも混ざってくるか!」
 そのことを英司へ伝える前に、英司がその辺にあったピニャータ片手に割り込んでいく。そして挨拶代わりに騒ぎのど真ん中へシュートしていった。挙げ句の果てには黒龍を指して「あちらのお客様からです!」である。
「はあ!? 冗談じゃねえある――」
「そら黒龍、月は好きかい?」
 かと思えば、騒ぎの矛先が向く中で堂々と黒龍を姫抱きに抱え上げ屋台の屋根へ跳び上がる。
 幼女(かんきゃく)の視線は確保済み。おっけ!
「何一つおっけじゃねーある! 吾輩はまだ要介護じゃねえあるよ!!」
「介護じゃなくてエスコートですよ、ジジィ?」
「離せ! ひとりで逃げれるある! おいこら怪人てめえ!!」
 無駄に近い距離で無駄に囁く英司を全力拒否する黒龍。無駄にエエ声と息遣いで「レディ」みたいに「ジジィ」とか言われてもちっともときめかなかった。幼女にはガン見されてる気がする。
「くそっ、あのBL営業いてこましたれ!」
 そうこうしている内に騒ぎを起こしていた男達が本格的に襲いかかってくる。断じて営業とかではないが、黒龍がワールドエンド・ルナティックを見舞えば勝手に身内(?)同士で喧嘩を始めたようだ。
「さて、そっちのレディは俺達と一緒に来るかい?」
「幼女を誘う前に降ろせある」
 英司が誘えば、幼女はぴょんぴょんと跳ねて付いてくる。話はしてくれなかったが、『花魚幇』の幇員と会わせてみればきっとわかるだろう。それで今度こそ解決だ。


「本当にあちこちで喧嘩をしているのか……再現性環境の薩摩化が懸念されるな」
 道中で出会った幇員から、気になる行動をする日傘の幼女の話と、他所の地区で活動(トリックオアトリオート)中のイレギュラーズの話を聞いたアーマデルの感想である。再現性九龍城に誤チェスト(笑)はありそうだが切腹文化は無いと思う。そんな彼は、今日は弾正と二人でテックニンジャ師弟の装いだ。情報収集と言えばニンジャである。
 ちなみに当然のように弾正に同行していた謎のスーツの好青年は、なんと辻峰 道雪だった。ファントムナイトコワイ! しかし流石の《隠者》、この地にも信者のいる彼の情報網は確かなものだった。弾正に整理された情報を渡しひと仕事終えた今は、『万愛器』チャンドラ・カトリ(p3n000142)と何やら楽しそうだ。いちゃいちゃ……というより、チャンドラが大ウケしているのだが。
 コワイついでに、アーマデルはついさっきパンドラが消し飛ぶ危機だったことも加えておこう。情報収集に付き合わせている『冬夜の裔』の仮装をあれこれ提案しただけで彼に壁ドンされたのである。壁は死んだ!
(ばにーでもアオザイでも……くろくてはねがはえたむがいなとうやのすえでも……俺は悪くないと……)
『今度は顔面にぶちこんでやろうか?』
「はっ 何故思考を読まれて」
 とても可哀想なことに、術者の想像力とっょぃ願いがうっかりご都合よく及んでしまったため、今の『冬夜の裔』はくろくてはねがはえたねこたん+バニー(耳以外)なのである。ローブの解除は断固拒否られたが、逆にローブ越しで耳の動くねこみみ師兄が爆誕してしまった。お前のせいだアーマデル。

 さて、他のイレギュラーズが暴力に躊躇いがない中、この一行は努めて平和的な交渉をしていた。
 人にものを尋ねる時はちゃんとトリート( ‘ᾥ’ )をするし、クスリに飢えてそうな人類にはおいしい胃薬(スムージー)を渡すし、イカサマ麻雀にだって付き合った(ここは残念ながら最終的にトリック:怨嗟とか、トリック・タクティールとかで解決した)
 人間だけでなく、無念の亡霊に事欠かないこの地を活かして死霊や精霊、更に猫神様の力を借りて道行くネコチャンにだって幼女の行方を尋ねたのである。霊廟の前でアーマデルが後光を発すれば、生前に新興宗教の信者だった死霊達などイチコロである。
 それらの情報を総合すると――どうも、幼女は人通りが多く、食べ物を扱う場所に現れる事が多いとか。早速他のイレギュラーズにもその情報を弾正のギフトで送り、一行も最寄りの屋台通りへ出てみる。

 はたして日傘の幼女は、あまりにもあっさりと見つかった。男達の喧嘩もセットで。
 彼らに関しては追い払ってしまうのが幼女のためと判断、やはりトリック(暴力)無双が断行されたのだった。結局ここでは暴力が全てを解決してしまう……いや、彼らは実際かなり平和的ではある。最終手段としているだけ。
 弾正が異形創神で声を確かめようとしたものの、幼女は口を聞きたがらない。依依殿かと問えば、幼女は頷く。帰りたくないのかと問えば、日傘を握りしめてやはり頷く。
「まっすぐ帰ってこいとは言われてないし、トリック&トリートしながら帰らないか?」
「幇員達から隠れたいなら、俺の仲間達にだけ事情を伝えることもできる。もっとたくさん遊んでから帰ろう!」
 アーマデルと弾正に誘われれば、幼女はまた頷いた。
 なお、道中密かなトリックとしてアーマデルが弾正をつついていたのを幼女は不思議そうに見ていたし、弾正はとても楽しそうに受けていた。


「ていやー」
「ぎゃー!」
 ちょっと喧嘩してただけなのに空からめっちゃつよいネコ(チェレンチィ)の強襲(ルビ:ターリエント)で吹っ飛ばされ。
「おう、それなりの額溜め込んでんじゃねえか。俺のためにありがとよ」
「俺のお小遣い!!!!」
 屋台通りでちょっとイチャモンつけたらやっぱり強いガチっぽい竜(コンレイ)に斬り付けられた上にカツアゲされる。
 この組ちょっとどっちが悪いかわかんないな――。

 ともあれ、彼女(?)達もしっかり依依を探している最中である。
 他の組からの情報と、チェレンチィの肩に止まっている小鳥(フラーゴラからのファミリアーである)の反応を元に、屋台通りを中心に日傘の幼女を探しているのだ。
 ……時々、通りに面したお宅を解錠してこんにちはもしつつ。冷静に考えればやはり怖いのだが、誘拐されて閉じ込められている可能性も全く無いわけではないので仕方の無いことである。これもまた九龍城の日常。多分。
 そういったアンダーグラウンドでクライムなところから目を逸らせば(逸らしてはいけない)、九龍城のファントムナイトはこの街ならではのうるさいくらいの賑やかさに満ちてはいるのだ。屋台の売り上げとかは大体どこぞの『幇』へ流れていったり、利益の関係で屋台を出す場所やショバ代などで揉めたり、それでよく流血とか人死にとかもあるのだが、まあそれは今回気にしなくていい問題である。それもまた九龍城の日常。
(なんぞ、人攫いにあってもどうでもいいと拐われていきそうな娘娘だ。早急に安全だけは確保しときたいが)
 仲間からの情報では、コンレイがチェレンチィと今いるこの地区に幼女がいる可能性が高いらしい。立派にカツアゲまでしていたコンレイではあるが、これでも急いでいるのである。
「コンレイさん、少し前にこの辺りで乱闘騒ぎがあったそうですよ。日傘の女の子もいたと」
「少し前ってことは……もう収まった後か。その女の子はどっちに行ったって?」
 通行人からの聞き込み結果を伝えたチェレンチィが、情報にあった方向にあった路地へ案内する。彼女自身に土地勘は無いため、コンレイも並んで路地へと急ぐ。
 何もしなくても何かの原因になってしまう依依なら、すぐに別の騒動に巻き込まれても何の不思議も無い。それが暗い路地なら、なおさら安全は保証できない。
 細い路地を駆けていくと、薄紅の日傘の幼女はとても目立ってそこにいた。
「そこまでだ、『小妹妹』」
 振り返った彼女が逃げないよう、コンレイは真っ先にその手を握る。これでひとまず確保だ。
「いいか。この九龍城じゃそんな小綺麗な格好のガキは目立ってしょうがねえんだ。積極的に死にてえわけじゃねえだろ?」
 幼女はだんまりのまま、しかし何となく「どうでもいい……」とでも言いたげな視線だ。
「俺も『仕事』があるから、別にすぐさま元居た場所に帰そうってわけじゃねえよ。アンタが気晴らしできる程度にゃ時間がかかるだろうさ。だから逃げんな」
「……今日はのぅ。色々見てきたんじゃよぅ、コンレイ殿」
 幼女は――姚 依依は、コンレイ相手にようやく幼女ぶるのをやめて口を聞いた。
 初めは、自分に菓子をくれるという男達が争って。次は、屋台でご馳走してくれるという者達がやはり争った。次も屋台通りを通りがかっただけで争いになった。少し前も、ファントムナイトの玩具を買ってやろうということでやはり。
 自分のための争いは、もう見飽きた。いっそ誘拐でもされれば面白みもあろうが、それすら「誰が浚うか」の争いになってしまう。もう生きてるだけでめんどくさい。死ぬのもめんどくさい。
「ところで今日は、不思議な者がいたんじゃよぅ。わらわのお願い、争わずに聞いてくれるのじゃ」
「それ、多分俺らだと思うぜ?」
「あ、皆さん」
 コンレイが答えた時、チェレンチィが路地の入口を見ると他のイレギュラーズ達が集まっていた。これまで他の地区で依依に会った者達は、彼女の頼みで別の地区まで彼女を送り届けていたのだ。もちろん送っただけで完全に別れることはせず、ここまで影ながら見守ってきたのだが。
「えへへ~……屋台巡り、ワタシは楽しかったよー♪ パンプキンパイとか、かわいいお洋服とかオーナメントとかあったよね!」
「案内の幇員さんに黙っとくのちょっと大変だったけどな。変なセンサーとかで気付かれなくて良かったぜ」
 道中の屋台を思い出すフラーゴラと、苦労を思い出す飛呂。
「祭りは楽しんで貰えたか? アンコールの希望があればいつでもいけるぜ!」
「アンコールでもBL営業はイヤある。屋台巡りなら付き合ってやるあるよ」
 滅茶苦茶自信満点一万点の英司と、断固拒否の黒龍。
「さて、どこから寄り道したい。あ、それとも俺達が一緒だと邪魔か?」
「しかし、その体で一人にするのはやはり危険だからな……余計な争いを起こされるのもやはり面倒だろう?」
 依依を気遣いつつも、やはり一人にはできない弾正とアーマデル。
「ボク個人としては、もっとこの街の屋台を楽しんでみたいですね。依依さんは詳しいのでしょうか?」
「多分いちいち覚えてねえだろうな。ま、あてもなくブラブラすんのもいいんじゃね?」
 チェレンチィとコンレイが訊ねると、小さな依依は首を傾げつつ。
「屋台は……覚えておらんのじゃよぅ。ものはちょっとだけわかるかもじゃ。わらわ、今日は帰りたくない……朝まで付き合ってくれんかのぅ」
「そいつは我儘が過ぎるってもんだ、娘娘。一通り終わったら、ちゃんと帰ってやれ」
「うぅ」
 依依はしばらく「いやじゃよぅ」「めんどくさいんじゃよぅ」と駄々を捏ねていたが、コンレイをはじめとするイレギュラーズが説得するとしぶしぶ承諾する。

 『花魚幇』の一大騒動は、これにてようやく終幕するのだった。

成否

成功

MVP

ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍

状態異常

なし

あとがき

長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
九龍城でのファントムナイト、如何だったでしょうか。
悪依頼でもないのに合法的にカツアゲできるシナリオはここです。
依依は心からの感動というものを忘れて久しいですが、皆さんの対応をそれぞれ楽しんだことでしょう。
解釈違い幇員はあれです、めんどくさい過激派強火原理主義オタク的なそれです。
ものによっては公式が解釈違いとかで苦しみそうなタイプ……こわいね……。
称号は依依が「ちと気になるんじゃよぅ」と思った方へ。
ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM