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シナリオ詳細

<ラケシスの紡ぎ糸>グツグツ煮込んだ滅びの五感

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝見下ろす謎の塔
「このところ終焉獣絡みの妙な事件が立て続いているけれど、今回はとりわけヘンナに染め上げるような依頼が舞い込んできたわ」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、貴方達に向かってそう切り出した。
 彼女がヘンナという色を選んだ理由が、この依頼内容の異質さにかけたものであるかはさておき。
 鉄帝の景観とはおよそ似つかわしくない巨大な塔が、つい先日なんの前触れもなく帝都周辺部のある箇所に出現したのだ。
「我は全剣王。そして我こそが真なる鉄帝の王である。我はこの塔より惰弱なる現鉄帝を支配し、その部を布くものである。
 命惜しからん者は挑むがいい。この塔には最強が在る!」
 それとほぼ同時、魔術的な力を介してなのか、この宣戦布告が鉄帝中の人々に届けられる。
 人々がそれに対し何事だと混乱するのは当然であるが、更に拍車をかけるよう、塔から湧き出た終焉獣を始めとする軍勢が、帝都に攻め込んできたらしい。
「鉄帝の気質だもの、こんな風に煽られ攻め込まれたら、心がスカーレットに燃え上がっても不思議じゃないでしょう?」
 そうして鉄帝の軍隊や腕に自信のあるラド・バウ闘士達が塔の調査兼攻略に赴いたが、中に入るだけでも容易ではなく。
 中に入れたとしても複雑な塔の中は魔術的な施しがされているようで、現在地がどこなのか攪乱され、更に階層毎異なる環境を見せる不可思議な構造に、それ以上侵攻することができない状態とされてしまっていた。
「鉄帝は、塔の調査を進めるには手当たり次第行く事ができる階層を攻略するしかないという結論に至ったの。でも彼らだけではこのダスティーな状況を変える手段がないみたいよ」
 結果鉄帝からローレットに『コロッセウム=ドムス・アウレア』と名付けられた奇妙な塔の調査依頼が舞い込んだのだという。
「今回依頼があった階層を調査していた人たちは、終焉獣だけじゃなく、謎の異臭や不気味な声に邪魔をされたと言っているわ。
 詳しくはこの調査報告書にまとめてあるから、ビビットカラーの心を失わないように気を付けていってらっしゃい」
 こうして調査報告書に目を通し、依頼を受ける事に決めた貴方は、鉄帝に赴き、謎の塔へと挑戦するのであった!


●滅びの五感
「さぁ、そろそろ次の生贄が来る頃合いじゃないかい?」
「それはいい! もっと君の死柱がおいしくなるね、ティスト! どんな舌触りになるか、今から楽しみだよー!」
「待ちなよダーチ? 料理にするのはこの僕ヒーリーが絶望の味付けをしてからだからね?」
「加減に気を付けてくれたまえ。恐怖で絶望する瞬間こそエレガント。その前に死臭に変わってしまったら、このシィメルの鼻もヘソを曲げてしまうのでな」
「イサートの目には、シィメルの鼻にヘソがあるようには見えませんが……」
 塔内部、とある階層にて。
 巨大な鍋を囲う五つの人影が、不敵に笑い合いながら呟くのであった。

GMコメント

●概要
 ここ最近終焉獣の活動が活発化しつつあり、被害範囲も世界各地へと広がっています。
 まるで世界が超終局型確定未来<D>の発生を求めているかのように――。
 突如鉄帝付近に出現した奇妙な塔『コロッセウム=ドムス・アウレア』も恐らくその影響によって生じた一つでしょう。
 突如として出現した全剣王も塔も詳細は不明、然れどもこのまま放っておくにはいかない。
 そう考えた鉄帝はローレットに塔の調査を依頼してきました。
 摩訶不思議な塔を探索し、待ち受ける試練に挑戦してみましょう!

●目標
コロッセウム=ドムス・アウレア内「五感の階層」を攻略する

●NPC詳細
 今回リプレイ内においてネームドNPCの登場はありません。
 ですが鉄帝から派遣された調査隊が階層の入口周辺で待機しているため、
 何かしら人手が必要な場合には、基本的に協力してくれます。
 (とは言ってもあまりに大規模な人海戦術などはできない程度の人数です)
 最低限の戦闘力はありますが、戦いを任せっきりにしたりすると
 やられてしまうので、あくまで人工として考えるのが無難です。


●エリア詳細
 今回は塔内部にある『五感の階層』が舞台となります。
 受ける印象としては闘技場を思わせる空間で、石造りの壁に囲まれた広い砂場に、特殊な巨大鍋が二つ置いてある形となります。
 (砂場の所々には、折れた柱のようなものが突き刺さっており、
  咄嗟の足場や身隠し場に使えそうです。
  数は相応ありますが、脆いので比較的早く壊れてしまうでしょう)
 具体的な広さは分かりませんが、直径200m以上は間違いなくあるでしょう。

【滅びの鉄鍋】
 空間の手前側と奥側に一つずつ置いてあります。
 奥側では「不毀の軍勢」と呼ばれる人型の怪物の内、
 「絶惨のティスト」が「死柱」と呼ばれる何かを煮込んでいます。
 鍋からは一定期間ごとに終焉獣が排出されます。
 どうやら終焉獣は、この空間においてティスト目線で美味しければ美味しいほど多く出現するらしいです。
 また、鍋に余計な素材が入ると美味しくなくなるのでとても怒るそうです。 

 PC目線で手前側には、同様の空鍋が置いてあります。
 鍋一つで二十~五十人前くらいは作れるでしょう。
 この階層に流れる特殊な魔力により清潔に保たれている他、
 付近には各種調理を行う設備が整っています。
 もし鍋を作る場合には、食材は携行品を持ち込むか、
 調査隊に頼んで持ってきてもらう形になります。
 (その他一般的に容易に準備できるようなものであれば、
  PCが持ち込んだとすることも可能ですが、
  その場合多くのPC/NPCの口に入ることを前提として
  食材を選んでください)

●敵詳細
 「不毀の軍勢」と呼ばれる『全剣王』に付き従う、強力な人型の怪物の一部と、終焉獣がエリア中に散らばっています。
 全て倒すか撤退させることができれば、階層を確保できるでしょう。

【不毀の軍勢】
 各個体、3mくらいの巨体です。

「絶惨のティスト」
 不毀の軍勢内で最強の味覚を持つと謳う存在です。
 滅びの鉄鍋で「死柱」と呼ばれる何かを煮込んでいます。
 調理が進むと、鍋の中から様々な形の終焉獣が飛び出してきます。
 基本は調理に集中していますが、著しい邪魔をされると調理を止め、鍋を混ぜていた巨大へらで殴りかかってきます。
 へらには絶望の力がしみ込んでいますので、当たり所が悪いと様々なBSが付与されてしまいます。
 その他、遠距離から「神秘のさしすせそ」と呼ばれる謎の魔力を投げつけて攻撃してきます。
ーーPL情報ーー
 調理が失敗すると、著しくステータスが下がります。
 イレギュラーズが作った料理を食べてしまうと、
 「可能性味」を感じて多様なBSを受けます。

「柔破打のダーチ」
 不毀の軍勢内で最強の触覚を持つと謳う存在です。
 基本的にはPC達に接近してきて、
 魔力で出来た柔らかな肌で物理攻撃を受けながしつつ、
 自身の攻撃では部位を瞬間硬質化させることで打撃攻撃を行います。
 自分より柔らかい、もしくは固いものに触れてしまうと、それを破壊することに躍起になります。
ーーPL情報ーー
 自分を超えるような柔らかい/固い触感を感じるとステータスが低下します。

「心卑のヒ―リー」
 不毀の軍勢内で最強の聴覚を持つと謳う存在です。
 主に終焉獣の相手に気を取られている存在の背後に忍び寄り、
 超音波のような音の波で物理的に攻撃してきたり、
 心に働きかける神秘的な歌声で、聴いた対象の動きが鈍ったり、
 その他不調を与えるような妨害をしてきます。
 自分以外の歌声や音楽があると、集中が乱れるので潰しにきます。
ーーPL情報ーー
 自分より”すごい”歌声を感じるとステータスが低下します。

「砲殉のシィメル」
 不毀の軍勢内で最強の嗅覚を持つと謳う存在です。
 主に弱っている人のところへ近づき、鼻息の風圧で動きを封じたり、
 異臭がする気体を投げつけてきます。気体には魔力が込められており、
 気体の影響を受けると目が見えづらくなる他、鼻が曲がるほど臭いです。
 料理なり色香なり、PC目線で香り高いものは、シィメルにとっては
 忌避感を抱くので、集中的に狙ってきます。
ーーPL情報ーー
 シィメル目線で臭いと感じる臭いをぶつけられたり、
 彼の鼻に「香り」を感じさせるとステータスが下がります。

「居狂哀のイサート」
 不毀の軍勢内で最強の視覚を持つと謳う存在です。
 階層の奥側で素早い動きで物陰に移りながら身を隠し、
 邪魔になりそうな存在を中心にライフルのような何かで射撃攻撃をしてきます。
 まれに魔力を込めた弾を放ち、この弾は通常よりも威力/素早さが高い他、
 命中してしまうと抵抗力や防御力が下がってしまいます。
 (ある意味一番まともに厄介な存在です)
ーーPL情報ーー
 身を隠せるような場所が無くなるとステータスが低下します。

「終焉獣」
 犬型(リカオン)の姿をとった物が多く点在しています。
 階層への侵入者を感知すると、率先して襲ってきます。
 4~5匹の群れで行動し、組織立って攻撃する性質があります。
 ティストの料理が調子良く進むと、どんどん増えていきます。
 但し、食べ物の香りがあるとそちらにつられがちです。
ーーPL情報ーー
 もしティストの調理が大成功すると、竜型の終焉獣が出てきます。

 敵の基本的な強さ指標は
 不毀の軍勢:PC4~5人
 終焉獣(犬):一群れに対しPC1~2人
 終焉獣(竜):一体に対しPC10人
 での対処が推奨される強さになります。
 但し、状況に応じて敵の強さは大きく上下します。

●PC状況
 基本的に、
 「ローレットで依頼を受け鉄帝へ来訪。塔内部「五感の階層」に入った場面」
 からスタートします。恐らくその後は迫りくる終焉獣に対処しつつ、
 不毀の軍勢撃破を目指す流れが想定されます。
※今回は情報屋から手に入れた情報を元にやってきているため、
 PL情報を除き、情報を獲得するような行動は必要ありません。
※特定のPC同士で一緒に行動したい場合は、【】(タグ)によるチーム表明か、
 互いにプレイング内に名称を記載頂ければグループとして描写します。


●PL向け情報
 今回の敵である終焉獣は、滅びのアークそのものともいえる存在であり、
 それを生み出したり従えている不毀の軍勢も、詳細は分かりませんがその系列に属するものなのでしょう。
 そんな不毀の軍勢は最強を謳いますが、
 あくまで「不毀の軍勢の中」で「彼らの基準において」最強だと
 「思い込んでいる」形となります。
 純粋な戦闘でも、皆様の力が集まれば勝てるとは思いますが、
 分からせるために彼らの「五感」と勝負をしても良いかもしれません。
 (単純にPC達基準の五感で上手い/良いと感じられるものは
  不毀の軍勢基準で言えば苦しくなるほど辛いものであり、
  PC基準の五感で「ほろびのうた」と思われるようなものであっても、
  その歌声は「可能性の力がこもった(伸びしろある?)滅び」ですので、
  不毀の軍勢側の足しにはなりません。
  寧ろ自分達よりある意味滅んでいるのに苦しいズルい。
  とか言ってくるかもしれません)


●その他
・情報確度A-
 ここに明記されている情報は間違いなく正しいです。
 よほどのことがない限り、基本的に不足の事態は起きないでしょう。
・一応真面目なシナリオのつもりですが、
 ギャグテイストのプレイングに対してはギャグ補正が働きます。
・目標達成の難易度はN相当ですが、行動や状況次第ではパンドラ復活や重傷も充分あり得ます。
・描写は最大で三十名程度を想定しています。

  • <ラケシスの紡ぎ糸>グツグツ煮込んだ滅びの五感完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月07日 16時45分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色


不毀の軍勢『絶惨のティスト』達が生み出す終焉獣に対処すべく、階層入口まで進軍し迎え撃つ調査隊。
 だが敵の波状攻撃を前に、敗北必至の状況へと陥っていた。
「俺達、ここまでなのか……」
 男が膝をついた。終焉獣の暴爪が迫る。
「諦めないで!」
 だがそれは純白の大盾に阻まれ、返す槍の一閃によって本体ごと消え去った。
「さぁ立って!」
 『レイリー=シュタイン』は笑顔で手を伸ばす。
「あ、貴女は……!」
「ヴァイス☆ドラッヘ! 只今参上! 安心して。今日もわたしがみーんなに楽しい夢、見せてみせるから!」
 レイリーは彼を立ち上がらせると、一歩前へ歩み出る。
「早速一曲歌わせてもらうわね! ――『Hoffnung』!」
 彼女の持ち歌の中でも、聞く者の心に夢や希望の光を灯す事に長けたナンバーは、
 調査隊達が確信しかけてしまっていた敗北の予感を打ち砕く。
「一目散に飛び出したと思ったら。ま、レイリーらしいけれどね」
 それを見ていた『イーリン・ジョーンズ』は僅かに口角を上げたが、
 戦場に目を戻すと冷静に戦局を見定める。
「はぁ。本当ならこのダンジョンみたいな塔の開拓に着手したいところだけど」
 柄じゃないとは思う。
 だが遠くから一方的に調査隊を打ち抜く『居狂哀のイサート』が目についた。
「ふむん。視覚が戦術を覆せるか――試してみましょうか」
 目的を定めた彼女は愛馬と駆け出していく。



 イーリンに続き階層へ突入した『ソア』。
 彼女の黄金に輝く瞳には、グツグツと音を立てる鉄鍋が映っている。
「怪しいお鍋。一体何を煮込んでるのかしら? まぁしちゅー? なら食べられるよね」
 軽快な足取りで鍋に向かうソアを襲う終焉獣達。
「どんな味かなー」
 しかし彼女はそれを雷撃で次々と塵に変え、飛び掛かるに至った個体も、
 人間状の腕を瞬間的に虎のそれに変化させ鋭利な爪で引き裂く。
「鍋から出てきたってことはこれもしちゅー?」
 ソアは爪に付着した残滓をためらうことなく口にする。
「うーん、お味はいまひとつだね」
 ソアを止めるべく『柔破打のダーチ』が道を塞ぐ。
「味付け前の具材を食べてしまうなんて、そのボディに違わぬワガママ具合だね。
 でもぼくの柔らかさボディの前には無力だよー!」
「ぼでぃ? わがまま? ふふん。よく分かんないけどボクの肉球だってプニップニだよ」
 プニッ。
 ソアの肉球がダーチの体に優しく沈んでいく。
(ヤダこれ……超柔肌ー?!)
 彼女の肉球に衝撃を受けたダーチの体が硬質化し。
「柔らかかった? でもキミにはこっちもプレゼントだよ」
 ソアはそれに虎の子の爪をミキサーの如く何度も突き立て欠けさせる。
 結果肌がズタボロとなったダーチは泣きながら撤退した。



 イーリンが戦場を駆け、ソアがダーチをガリガリしている間、
 『砲殉のスィメル』は調査隊が食い止めていたものの、多くの敵はパフォーマンス中のレイリーに群がる。
(大切なのは希望を信じる心! 私が歌う限り――希望の光は消させない!)
 アイドルとしての心意気を胸に歌い続ける彼女の背後に『心卑のヒ―リー』が忍び寄っていた。
「なんて耳障りな歌……! 僕が奏でる最強の歌で早く死の絶望に染めてあげないとね?」
 吸い込む息を吐き出す直前。喉元に音の矢が突き刺さる。
「ゲヘッグヘッ……誰だこの野郎!?」
 それは『イズマ・トーティス』の放った魔力弩。
「俺が相手になってやる。最強だと言うなら聞かせてみろ」
「後悔しても知らないよ?!」
 呪いが宿る歌声を彼は敢えて正面から受け止め。
 ルーンの加護が、レイリーの歌がそれを支える。
「……この程度で自惚れるな!」
 耐え切ったイズマは敢えて冷たい呪いの歌でヒ―リーの声をかき消した。
(こいつらの歌、すごすぎる?!)
「最強の音楽を志すのは自由だ。だがこんな生きる希望を奪う音楽なら話は別だ!」
 イズマの振るう細剣の軌跡が、音が変化した魔力と共にヒ―リーに刻まれていく。
 当然回復試みるも、そのための絶望はラド・バウのアイドルによって勝利への夢や希望に変えられてしまっていた。
 その後も攻撃と歌声に圧倒され、気づけばイーリンとイズマに挟まれる形となる。
「このステージにお前は相応しくない……本当の音楽を聴け!」
 ――優しさが希望に変わる時、怒りや悲しみは消え去るだろう
 ――命の響きが世界を奏で
 二つの音色が生み出す白き槍と青き剣の交わりは、希望の調和となって階層から絶望の音を消し去った。



 とてつもない速さで迫り続ける単騎兵――イーリンに、イサートは圧倒されていた。
「ぐ、狙う暇が……!」
 身の危険を感じる度、彼は新しい遮蔽へ移動するが、イーリンは戦術的分析からそれを予測。
 すぐさま遮蔽の死角へ入り込むようにして接近し、彼が再度視界に捉える頃には、遮蔽が破壊される流れが続いていた。
 これぞ機を逃さない騎兵隊総大将の真骨頂だ。
「い、行け! 終焉獣達!」
「安全が確保できなくなれば。終焉獣をけしかけ立て直しを図るのが確実」
 抗うイサートだが、事ここに及べば彼女には全て"分かって"いた。
 すかさず携行した食料樽をぶちまけ、終焉獣達の気を逸らす。
「知名な二つ名は、神が名に望む在り方を為す者だけが得るべきだと私は思うわ」
 最後の遮蔽を壊し、腰の引けた巨体へ黒剣を掲げる。
「鷹の目を名乗るには――天眼が足りないわよ、貴方」
 振り下ろす魔力剣の一射は狙撃銃のような何かを両断。
 戦意を喪失したイサートは階層の奥へと慌てて逃げ出すのであった。



 こうして触覚、聴覚、視覚の最強を謳う不毀の軍勢は姿を消した。
 終焉獣達も大幅に失われ、活気づいた調査隊達からはほとんど絶望が生まれず、
 鉄鍋も全く煮えなくなってしまう。
「これじゃあ料理が台無しじゃないか!」
「ティスト! 最早それどころではない! どうする!?」
 味覚と嗅覚の最強は判断を迫られる事となったのであった。

成否

成功


第1章 第2節

「……確かに。食材も料理を絶賛してくれる者もいないなら仕方がないね、ここは退くとしようか」
「うむ、芳醇な香りが損なわれたこの場所に価値などない。それがベターな判断であろう!」
 思いもよらぬイレギュラーズ達の介入により、既にこの階層が役割が果たせなくなっていたことは、誰の目にも明白であった。
 『絶惨のティスト』、『砲殉のスィメル』は作りかけであった滅びの鉄鍋を残し階層の奥へといち早く撤退する。
 勿論この場に集ったイレギュラーズ達も、このままみすみす見逃すことを是とはしない。
 だが、逃げる二人も曲りなりに『不毀の軍勢』と呼ばれる存在。
 この不可解な塔を創り上げ宣戦布告を行った全剣王に付き従う存在である以上、油断しなければ最低限の強さを発揮するだろうし、
 全く情報のない状況での深追いは危険過ぎた。
 問題はそれだけではない。
 ここまで終焉獣やスィメルと戦い続けた調査隊の面々の体調だ。
 イレギュラーズ達の活躍と鼓舞により絶望は感じていないものの、肉体的な疲労はピークに達していると言える。
 苦虫を嚙み潰したようなしこりは残りつつも、一行は作戦を僅かに残った終焉獣の殲滅へと切り替えざるを得なかった。

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 こうして、五感の階層と名付けられたエリアは調査隊とイレギュラーズ達によって確保された。
 階層の扱いについては議論が交わされたが、残されたキレイな鉄鍋を見て料理を始める者が現れたのをきっかけに、
 より深い階層を調査したトレジャーハンター達の情報交換が行われたり、
 有志によるアイドルライブや電撃みたいに刺激的なピリ辛カレーの食べ放題。
 不屈の精神が湧いてくるような心地よい青き音色が奏でられる等、各々が休息地として利用し始める。
 結果絶望の根源たり得た場所は、武力の国の人々に五感安らぐ憩いを提供する場となったのであった。

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