シナリオ詳細
<ラケシスの紡ぎ糸>遭難者・リーオ=ワイルド=サバンナハート。或いは、生存者と狩人…。
オープニング
●真なる黄金
「我こそが真なる鉄帝の王である。我はこの塔より惰弱なる現鉄帝を支配し、その部を布くものである。命惜しからん者は挑むがいい。この塔には最強が在る!」
ところは鉄帝。
帝都近辺に突如として出現した奇妙な塔の主は、全剣王を名乗る者である。
全剣王より発された宣戦布告の宣言を受けた鉄帝は、ラド・バウ闘士や軍人たちと協力して、塔付近に防衛ラインを敷いた。
塔より進軍して来る敵勢力の撃退と、塔そのものの攻略が目的だ。
“女騎士”リーオ=ワイルド=サバンナハートも、防衛のために呼び出された戦力の1人である。
金のくせっ毛に、鍛え抜かれた長身の身体。身に纏う白金色の鎧。背に負った巨大な十字の盾。片手に下げた無骨なメイス。
鉄帝国の各地を旅する“正義”の騎士であるリーオは、全剣王の名に興味を抱き、此度の依頼を受けることにした。
だが、リーオは生来不運であった。
外に出かければ雨に降られて、外食に出ればスリに合い、獣に逢えば襲われて、行く先々に盗賊が出る。その全てをリーオは己に課せられた試練であると思い、そのすべてを己の恵まれた肉体と武力でもって突破して来た。
「ぬぅ……っ! お前たち、まだ生きているか!?」
今回もそうだ。
リーオを含む総勢6人の調査隊は、塔の下層へ調査のために乗り込んだ後、天井の崩落により帰路を絶たれた。とっさにリーオが壁面を破壊することで簡易の洞窟を作り即死は免れたものの、一行は撤退も前進も困難な状況に追い込まれた。
「このままだとそう遠くないうちに死ぬな。ましてやここは敵地の真ん中」
メイスで瓦礫の破壊を試みるリーオだが、更なる落盤のリスクや疲労、崩落時の傷が原因で思うように作業は進まない。リーオ以外の5名も怪我をしており、現時点では戦力として数えられない状況にある。
脱出は難しい。救助を待つにも時間がかかる。
加えて……。
「そこにいるのか? お前たちも、生き残ったのか?」
瓦礫の奥から声がした。
●救助隊の結成
「リーオさんたち調査隊を救助しに行きましょう」
イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)より下された指令は、帝都付近の塔の攻略。
正しくは、塔の攻略に向かったまま消息を絶った調査隊の救助である。
「救助対象は女騎士・リーオさんとその仲間たちの総勢6名。塔の下層を探索中に、崩落に巻き込まれ消息を絶ちたっす」
一行が調査を担当していた区画は、どうやら地盤が極端に脆かったらしい。
リーオたちは、どうやらそこで全剣王の配下たちと遭遇し、交戦を開始したようだ。戦闘の中、天井が崩落し生き埋めになったと、そう言う状況のようである。
「現場付近には多数の血痕が残されていました。ですが、誰の遺体も見つかっていません」
つまり、リーオも、全剣王の配下たちも生きている。
イフタフから下された依頼内容はリーオたちの救助だ。しかし、リーオたちの救助と並行し、生存しているだろう全剣王配下の撃退または捕縛と言った工程が発生することは明白である。
「現場に残った痕跡から判断するに、敵の数は2人……斬れ味の鋭い大刀を武器として扱う剣士のようっす」
剣士たちが撤退を選んだのなら良し。
そうで無いのなら、まだ近くに潜伏している。
「戦闘の痕跡から判断するに、敵は執念深い性質みたいっす。もし生きているのなら、きっとまだリーオさんたちを狙っているはず」
獲物を完全に仕留めきるまで狩りは終わらない。
追いすがり、追い詰め、【致命】【必殺】の剣技で命を奪う。今回のターゲットはそう言う相手だ。
「リーオさんたちの救助も急がなくちゃなりません。時間的な猶予はあまり無いと思ってください」
塔の攻略は急務である。
そのためには、リーオたちの持つ調査結果を回収しなければいけない。
「なのでまぁ……遺体から記憶を抜く方法があるんなら、リーオさんたちを生きたまま連れ帰る必要って無いんっすよね」
なんて。
悔し気に奥歯を噛み締めながら、イフタフはそう告げたのだった。
- <ラケシスの紡ぎ糸>遭難者・リーオ=ワイルド=サバンナハート。或いは、生存者と狩人…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ドムス・アウレア、崩落中
暗い通路に舞う砂埃。
息を深く吸い込めば、それだけで肺を痛めてしまいそうなほどに濛々と塵が舞っている。
煙る視界に転がっている無数の瓦礫。
『コロッセウム=ドムス・アウレア』下層。特に天井や壁の脆い区画の光景である。
調査に向かったリーオ=ワイルド=サバンナハートおよび、数名の調査隊が崩落に巻き込まれ行方を絶った。
その報を受けて、数名のイレギュラーズが救助活動……無いしは、遺体の回収へ出向いたわけだが、どうにも付近には崩落直前まで、激しく戦闘を行っていた痕跡がった。
痕跡から判断するに、リーオたちと戦っていた相手の数は2人。
刀のような得物を武器としており、加えて、どうにも執念深い性質らしい。床や壁に遺った傷痕からも、それは容易に理解できる。
「崩落ですか。これはまた……ツイてないですね」
「こんなことってあるんだ……」
『こそどろ』エマ(p3p000257)と『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が顔を見合わす。
瓦礫のせいで視界は通らず、リーオたちの姿も見えない。
リーオたちを探すのなら、瓦礫を撤去して進むか、瓦礫の間を潜って進むかする必要があるだろう。
「足場はどうしようもありませんけど、敵もそれは同じはずです」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が地面にしゃがむ。床に遺った裂傷に指を這わせれば、それだけで床の一部が欠けた。
「崩落とかどんだけ安普請なのこの塔……罠の類かな? 自分の配下も巻き込むとか全剣王って超スパルタだったり?」
にぃ、と口角を吊り上げて『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が壁を叩いた。さほど力を込めた様子は無かったが、ラムダが壁を叩いた拍子に、ガラリと壁の一部が崩れて足元に落ちた。
壁面が崩落した衝撃で、積み上がった瓦礫が軋んだ音を立てる。
あまりにも脆い。
既に1度、崩落を起こしたことで崩れやすくなっているのかもしれない。ラムダは頬を引き攣らせた。その頬に冷や汗が伝う。
「……ちょっとまずいか。先を急ぐとしよう」
「そうですね。とりあえず、これ以上崩落することを防ぎましょうか」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が【保護結界】を展開した。こうもすぐに崩れるのでは、ろくな救助活動なんて出来ないからだ。
「何だこの塔は、タワーオブシュペルの模倣か?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が壁を叩いた。積み上がった瓦礫のせいで音の反響が不規則だ。やはり、そう簡単にリーオたちや敵の居場所は知れないらしい。
イズマは唇を噛んだ。
指令によれば「必要なのはリーオたちが得た情報」とのこと。つまり、最悪の場合はリーオたちが遺体となっていても問題無いのだ。
瑠璃がいれば、遺体からでも情報を吸いだすことが出来る。
「情報が必要なのは勿論だが、今の鉄帝国はその程度かと奴等に思われるのも癪だ。リーオさん達を助けるぞ」
「うん。危ない人がおるんやったら急いで助け出さなあかんね」
この場の誰もが、最悪の可能性について理解している。
見知った誰かが命を落とす瞬間を、その無力感と喪失感を知っている。
伸ばした手が届かず、救えなかった命もある。
「ほな、周囲に気を付けつつ、現場まで走らないとなあ」
イズマの言葉に首肯を返し、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が瓦礫の山に手をかけた。その手が汚れて、爪が欠けることも厭わずに撤去作業を開始したのだ。
「一人とも死なせたくないな。急ぎましょ」
「あぁ、任せてくれ。オレなら暗かろうが障害物多数だろうが見通せるぜ!」
周囲は暗い。
だが、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)の目があれば、瓦礫の撤去作業も迅速に進むはずだ。
もっとも、牡丹の目があっても撤去作業はそう簡単には終わらないだろうが。
●瓦礫隊の殺戮者
ゴトン、ガタン。
瓦礫を動かす音がする。脆いとはいえ材質は石。重さも、大きさも相当なものだ。
その様子を、少し遠い場所から見ている影がある。
影は2つ。短い刀を2本、腰に差した男と、長い刀を背中に担いだ男の2人だ。
「あの赤毛か? どの瓦礫が破壊しやすいか、先に繋がってるかが見えているらしい」
「じゃあ、アイツだけは生かしておけばいいか。残りは……先に始末するべきだ」
獲物の数が増えれば増えるほどに、狩り逃す可能性が高くなる。
で、あれば“6人”が瓦礫の撤去に集中している今のうちに、寝首を掻くのがよいはずだ。
そう判断した剣士2人は、足音も無く暗がりの中へ足を踏み出した。
瑠璃は静かに目を閉じた。
「リーオさんが調査隊と一緒に居るなら捜索は容易でしょう。彼女ならこの状況で”不屈”の意思を持たないはずがないですから」
暗闇の中、すぅと意識を研ぎ澄ませば、十数メートルほど前方。瓦礫の向こうに強い意思を感じ取る。
リーオ=ワイルド=サバンナハート。調査隊のリーダーを務める、鉄帝国の“不屈”の女騎士の名だ。
どうやら彼女は、見知らぬ場所で、瓦礫に生き埋めとなった絶体絶命的状況の中でさえ、生還を諦めてはいないようだ。
「生きてるんだろう、どこにいる!?」
瓦礫の向こうへ、イズマが呼びかけた。
十数メートル程度の距離なら、問題なく届く届く程度には大きな声だ。だが、瓦礫の奥から返事はない。
何かしらの理由で声が届いていないのか。それとも、返事さえ出来ない状態なのか。
不安が募る。
「近くにいないのであれば……っ!」
だが、近くにリーオたちが居ないことだけは確認できたのだ。で、あれば瓦礫の撤去にさほど気を配る必要はなくなった。
大上段に剣を構えて、深く息を吸い込んだ。
心頭滅却。後に真っすぐ剣を振り抜いたなら、岩であれ、硬い壁であれ、裁ち斬れぬものは存在しない。
ルーキルの剣は、そういうものだ。
「待った! 足音と……血の匂いっ!?」
だが、その時だ。牡丹が慌てた声を発した。
しかし、制止は間に合わない。
オリーブの剣が、瓦礫を斬ったその瞬間に……その場にいたほとんどの者の意識が瓦礫へ向く一瞬の隙を突いて、剣士たちが駆け出した。
人というのは、存外に不器用なものである。
基本的に2つ以上のことを同時には行えない。例えば、攻撃と防御を同時にやるのは難しい、という言い方をすれば分かりやすいか。
瓦礫が斬れて、辺りに砂埃が巻き上がる。
砂埃に紛れ、剣士たちは牡丹の背後へ近づいた。
「ひひひ」
「っ!?」
先頭を走る双剣使いが、咄嗟に頭を低くする。
その頭上を、エマの振るう曲剣が薙いだ。
同時に2つ以上のことを行えないのは、イレギュラーズも、剣士たちも同じこと。
「不意打ちがお得意のようですが、私もなんです」
奇しくも、剣士たちの狙いと、エマの狙いは同じであった。紙一重とはいえ回避できたのは、剣士たちの技量あってのことだろう。
双剣使いが、両手の剣を振り抜いた。だが、何かを斬った手ごたえはない。
「やはり生きていましたか」
「……ぐっ!? まだ隠れていたか!」
それどころか、二の腕を瑠璃に刺される始末。
砂埃で霞む剣士の視界に、瑠璃とエマ……2人分の影が一瞬、横切った。
双剣使いがエマの不意打ちを受けた瞬間、長刀使いの剣士は後方へ退避した。
奇襲が失敗した以上、少なくとも砂埃の範囲外へと退避すべきと考えたのである。
「万全を期した救助と言いたかったところだけど……時間もあまり無いみたいだったからね」
長刀使いの眼前にアイリスが立つ。
軽装甲外骨格を見に纏い、堂々と剣士の前に立っている。
「他の仲間が駆け付けるまでの時間……稼げるだけ稼ぐとしようか」
余裕綽々といったアイリスの態度が、酷く剣士の癪に障った。しかし、剣士が……アイリスもだが……感情を表に出すことは無い。
2人が地面を蹴るのは同時。
アイリスが蹴撃を繰り出すのと、剣士が長刀を振り抜くのも、まったくの同時である。
1本の矢を弓に番えた。
弦をきりりと引き絞り、彩陽は砂埃の中を凝視する。
「周囲これ以上崩したらまずいしなぁ」
砂埃の中、素早く駆け回る人影が見えた。
だが、その影が、敵なのか、味方なのかは区別がつかない。
バジリスク・サイトを装着しているおかげで、暗がりの中でもしっかり視えているし、砂埃に網膜が傷つくことも無い。
一瞬でも、姿をはっきり視認できれば彩陽は矢を外さないだろう。
「迂闊に射たない方がええよね?」
困った顔で彩陽は言った。
せっかく敵の奇襲を防衛できたとは言え、状況的には痛み分けに近い。敵の奇襲とて、半ばほどまでは成功していたのだから。
「敵も傷を負ってるとは言え、執念深くリーオ達を狙ってくるな」
ここで1人でも敵の数を減らしたい。
暗がりに目を凝らし、集中力を高めながら、牡丹はそう呟いた。
「全員をかばいきれるわけでもねえ」
瓦礫の撤去作業は今も続いているのだ。もうしばらくすれば、リーオたちも救助できるはず。そうなれば、しかし“護衛すべき対象”が増えてしまうことになる。
「ほんの一瞬、砂埃が晴れてくれればええんやけどね」
弓を引き絞った姿勢のまま、彩陽が小さな吐息を零した。
大騒音が鳴り響く。
イズマの方ったスピーカー・ボムだ。その音に気が付いたのか、瓦礫の奥から微かな人の声がした。すっかり弱った、掠れ声。イズマの耳がそれを拾った。
「急ぐぞ! そう悠長にはしていられない!」
瓦礫の撤去を進めているのは、イズマとオリーブの2人である。
「えぇ! 分かっています! 今は救出活動に専念しなければ!」
瓦礫を退かして、時には斬って、少しずつだが着実に2人は通路を奥へと進んだ。そんな2人のすぐ近くでは、真剣な目をしたチャロロが背後を警戒している。
濛々と舞う砂埃の中からは、何十回も剣戟の音が聴こえていた。エマと瑠璃の2人を相手に、双剣使いは上手く渡り合っているようだ。
リーオたち調査隊を、たった2人で追い詰めた実力はやはり本物。油断すれば、あっという間に誰かが犠牲になりかねない。
そんな極限状態は、けれど長く続かない。
「誰だ! 誰かそこにいるのか!?」
瓦礫の奥から声がした。
女性の声だ。おそらくはリーオのものだろう。
声には疲労が滲んでいる。岩を叩く音もするが、どうにも弱々しくてならない。
「見つかってよかった、オイラはあなたたちを助けにきたんだ!」
チャロロが声を張り上げた。
声を張り上げながら、チャロロは瓦礫のすぐ手間にまで駆け寄った。リーオたちが怪我をしていることは明白。ともすると、調査隊の中には生死の境をさまよっている者もいるかもしれない。
チャロロは1分、1秒が明暗を分けるような最悪の状態に備えたのである。
「瓦礫を壊すぞ、離れててくれ!」
そう叫んでイズマは細剣を鞘へ納めた。
空の手を胸の前で構える。その手の中に、ぼんやりと魔力の光が集まった。
魔力の剣だ。
イズマが、オリーブが、同時に剣を大上段へと振り上げた。
あと幾つかの瓦礫を破壊してしまえば、リーオたちに手が届く。
●調査隊を連れ帰れ
瓦礫が崩れ去った向こうに、幾人かの人影がある。
メイスを構えている女騎士がリーオであろう。その後ろには、ぐったりとした調査隊員たちの姿もあった。傷ついた身体に鞭うって、リーオは立っているようだ。
いざという時に、仲間たちの盾となるべく、血塗れの顔もそのままにして警戒を解かずにいたのである。
「どうやら、敵では……」
「まずは回復を受けて!」
リーオの言葉を遮り、チャロロが疾駆する。調査隊の治療をチャロロに任せて、イズマとオリーブは敵の警戒へと移行した。
2人が切り開いた通路の奥から、ドレイク・チャリオットを駆る牡丹がこっちへ向かって来ている。
「見つけたかっ! よし! 治療が終わったらこっちに乗せろ! 一回走りだしちまえば、そう追っても来れねえだろうしな!」
飛ぶ斬撃に足元を抉られ、長刀の剣士は踏鞴を踏んだ。
剣士が足を止めた隙に、アイリスは地面を蹴って急加速。一瞬のうちに、剣士の懐に潜り込む。至近距離から繰り出される斬撃は、正しく剣士の首を狙った。
「離れたり近づいたり、忙しない奴だな」
長刀の柄で斬撃を弾くと、足の底で地面を擦るような動きで1歩だけ後退。手首を返して、アイリスに斬撃を浴びせかけた。
回避し損ねたアイリスの肩から胸にかけてが斬り裂かれ、アイリスが地面を転がった。体勢を崩してしまえば、素早い動きも意味を成さない。
ここぞとばかりに、長刀の剣士は攻勢出た。
刹那。
ひゅん、と風を切る音がした。
砂埃が晴れていく。
「おや」
彩陽の瞳が、地面を転がるアイリスのを捉える。
アイリスに斬りかかる剣士の姿も。
苦悶に顔を歪めながら、アイリスが口角を上げた気がする。
なるほど、と彩陽は即座にアイリスの狙いを看破する。
さっきまでは、砂埃が邪魔で彩陽は矢を射ることが出来なかった。
だが、今は違う。
「まず1人」
矢を放つ。
一瞬で矢は、長刀剣士の元へと翔んだ。
剣士が矢の存在に気付くが手遅れだ。剣士から数メートルほど手前で、彩陽の矢は数を増した。その数は20……30、さらに増える。
まるで矢の弾幕だ。
「死角や反対方向にも注意を払っておくべきだったね」
アイリスが告げる。
刹那、矢の弾幕が剣士をハリネズミに変えた。
「よっしゃ! 道が空いたな!」
彩陽の横を、牡丹の駆るドレイク・チャリオットが通過する。荷台にはリーオをはじめとした、調査隊が乗っている。
「印を辿っていくとええよ!」
駆け去っていく牡丹の背中へ、彩陽はそう言葉を投げた。
姿勢を構えた瑠璃が駆け出した。
一拍遅れて、瓦礫の上からエマが跳ぶ。
前方と、右後方からの、タイミングをずらした同時攻撃。双刀の剣士が腕を伸ばして、両者に対して牽制を放つ。
瑠璃は剣を避けて跳躍。と、同時に得物を上から下へ叩きつけるように振り下ろす。
エマは着地と同時に姿勢を低くしての急加速。
「くっ……!」
急なポジションチェンジに戸惑い、剣士の反応が僅かに遅れる。ポジションチェンジの合図を送ったのはエマだろう。
剣士の背中と腹部を2人の刃が裂いた。
「ひひひ! 崩落が怖いですねぇ?」
「なにを……いや、そう言う事か」
すぐに剣士はその言葉の意味を理解する。
ついさっきまでエマが足場にしていた瓦礫が、音を立てて崩れ始めたのである。跳び下りる際に何か細工を仕掛けたらしい。
「崩れた足場に足を取られてくれれば申し分ないのですが」
崩落する瓦礫を避けて瑠璃が後方へと退避。
しかし、直後に剣士が取った行動は瑠璃の予想を僅かに超えるものだった。
瓦礫に肩を砕かれながらも、剣士は疾走を開始した。
向かう先は、エマでも、瑠璃でも無い。
「こっち追ってくんのかよっ!」
牡丹が叫ぶ。
剣士の狙いはリーオたち調査隊か。それを運ぶドレイクか。
執念深いという情報に偽りは無いようだ。1度、狙った獲物に逃げられることがどうにも我慢ならないらしい。
「ここはオイラが相手してやる!」
馬車の荷台から、誰よりも速く跳び下りたのはチャロロである。
剣士が両手の剣を振るった。
嵐のような斬撃のラッシュ。チャロロはそれを構えた大盾で受け止める。
屋根を叩く雨音に似た、絶え間ない斬撃の音が鳴り響いた。チャロロの身体が、徐々に後ろへと押されていく。
盾で受け止め斬れなかった斬撃が、チャロロの手足を斬り刻む。
けれど、チャロロは倒れない。
「あいにく頑丈さには自信があるんでね!」
「その通り! 不屈の精神こそが全てを凌駕する!」
チャロロの咆哮に答えたのはリーオだ。
「え、来ちゃったの!? なんで!?」
「騎士であり、不屈であるがゆえ!」
満身創痍。メイスを振り上げるだけで精一杯という有様ながら、その瞳には確かな戦意の火が灯る。
「戦えるんだな! よし! 敵を退け、生きて帰るぞ!」
リーオの横を駆け抜けるのはイズマとオリーブ。
立て続けに繰り出される2人の剣を、剣士はどうにか受け流す。暗闇に火花が散った。火花に混じって、血飛沫が舞う。
「右肩の負傷が大きいようです。そこを突いて攻めていきます」
オリーブの刺突が、右の肩を刺し貫いた。
その首を目掛けて放たれた剣は、イズマが弾く。
「おぉっ! 盾を構えてくれ!」
リーオが吠えた。
「っ……良し!」
チャロロが斜めに構えた盾を足場とし、その身体ごと宙へ舞う。メイスを振り下ろす膂力が無いなら、重力と体重で威力を加算すればいい。
まるで捨て身の突攻だ。
だが、オリーブに肩を抉られ、イズマに剣を弾かれた今、剣士にそれを防ぐ術はない。
「死にぞこないが!」
「死んではおらんわ!」
剣士が叫んだその直後、リーオのメイスがその頭部を殴打した。
「久方ぶりにお見掛けしましたが、不幸をものともしないサバイバビリティと正義感は相変わらずのようで」
リーオの姿を遠目に見やり、瑠璃はそう呟いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
リーオたち調査隊は無事に救助されました。
また、剣士の1人も捕縛完了です。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
リーオおよび調査隊の救助(正しくは、彼女たちの持つ情報の回収)
●エネミー
・剣士たち
おそらく2名の剣士たち。
執念深く、腕が立つことが予想されている。
現場に残された痕跡から、剣士たちは【致命】【必殺】の効果がある剣技を扱うことが判明している。
崩落に巻き込まれたことから、剣士たちも無傷ではないだろう。
●救助対象
・リーオ=ワイルド=サバンナハートおよび調査隊
白金色の鎧を纏った放浪の騎士。
メイスと十字架型の盾を武器とする。
生来運が悪く、行く先々で散々な目に逢ってきた。
現在は調査隊のメンバーと共に崩落に巻き込まれ、進退極まった状態にいる。
リーオを含め総勢6名。無傷の者はいない。
フィジカルバースト:物至単に大ダメージ、飛
十字架型の盾、あるいはメイスによる渾身の一撃。
●フィールド
『コロッセウム=ドムス・アウレア』
突如鉄帝帝都近辺に現れた、全剣王によって作られた巨大で派手な塔。
天衝くほどの巨大さですが、内部は魔術的により構成された『めちゃくちゃな空間』であるため、その見た目通りなのかは不明。
今回の舞台は下層のとある区画。
地盤は緩く、壁や天井が非常に脆い。元々は松明などの光源もあったようだが、現在は崩落により明かりが消え失せている。
また、辺りには瓦礫が積み上がっており足場、視界ともに悪い。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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