シナリオ詳細
黄金の精神。或いは、開拓は終わらない…。
オープニング
●ラサという土地
「エヴァン教授は鉄道というものを知っているか? 地面に木と鉄で組んだレールを敷いてな、その上を鉄の馬無し馬車が走るんだ。石炭を燃やして、発生させた蒸気を原動力にしてな……何十キロも、何百キロも」
ラサ南端。
港町、ポールスターにて。
広い砂漠を見渡してラダ・ジグリ (p3p000271)がそう言った。
ラダの話を聞いているのは、長身痩躯の初老の男性。名をエヴァンジェリスタ・グリマルディ……通称、エヴァン教授と呼ばれるポールスターの学者である。
「鉄道ですか。あれはいいものですね。私も昔、目にしたことがありますが……今はきっと、当時とは比べものにならないぐらいに広範囲を走っているんでしょうな」
カップに注いだ紅茶を啜って、エヴァン教授が視線を空の方へと向ける。
ともすると、若い時分に見たという鉄道の様子を思い出しているのかもしれない。
「まったく驚いたよ。うちの国は、未だに“こんな風”だって言うのに」
どこまでも広がる広大な砂漠を見つめたまま、ラダは遠い目をしていた。遠い目というか、心なしか虚無感のようなものが滲んでいる。気のせいだろうか? 気のせいではない。
「いや、まぁ……資源に乏しいからな。木材もやたら手に入らないし。難民ばかりどこからか湧いて来るしな、うん。あるものと言えば砂ぐらいのものだ」
いっそ砂が燃料になればいいのにな。
そう言ってラダは笑った。
笑い声は、すっかり渇き切っている。
「ふむ……」
顎に手を触れ、エヴァン教授は思案する。
それから、彼はこう言った。
「作れますよ、鉄道」
「……なに?」
「まぁ、この広い砂漠全域に張り巡らせるのは、何十年も時間がかかると思いますが、ポールスター内でいいのなら」
ポールスターの見取り図を、教授は手早く紙に描いた。
「ここの住人と、“アスクル学者団”を総動員すれば、割とすぐにでも形になるんじゃないですかね」
ポールスターは、さほど規模の大きな街ではない。
元々、廃墟と化していた港町を再利用する形で再建した都市だ。実際のところ、未だに改修や整備の終わっていない……または、その必要が生じていない区画というのが全体の4割近く残っている。
「作ってみますか? 蒸気機関の開発には時間がかかりますからね。とりあえずは、馬車鉄道ということになりますが」
●決起集会
「諸君。船を知っているか? 蒸気車両を見たことがあるか? 鉄道の速さと、積載量に度肝を抜かれた経験はあるか?」
数日後。
数名のイレギュラーズを呼び集めると、ラダは声を抑えて、しかし熱く語り始めた。
「それに比べてラサではどうだ? 未だに荷物を、馬車に乗せて運んでいるんだ。中には馬車さえ用意できず、人が荷を担いで運ぶこともある」
唇を強く噛み締める。
ラサの発展度合について「なんか、ちょっと練達ほどは求めていないけれど、それにしたって微妙じゃないか?」という想いをこれまで胸に抱いて来たのだろう。その想いが、ここに来てとうとう爆発したのだろう。
「海路の次は鉄道か。まるで文化の開拓者だな」
1人目はジョージ・キングマン (p3p007332)。
ラダと共にポールスターを立ち上げた同盟者である。当然、ポールスターに鉄道を敷くとなれば、彼に声がかからないはずはない。
「なんだ。また面白そうなことをやるつもりか?」
2人目はルナ・ファ・ディール (p3p009526)。豊穣や海洋への海路を開く際にも手を貸してくれた、黄金航路開拓に際しての功労者の1人だ。
「俺ぁなにすりゃいいんだ? 馬の代わりに、鉄馬車を牽くのか?」
「いやいや。まずは線路を敷くところからでは? それと、馬車鉄道用の馬車の制作も?」
3人目。エマ・ウィートラント (p3p005065)もまたポールスターの立ち上げに関わった者の1人である。
エマは、エヴァン教授が描いたポールスターの見取り図を眺め、その1点を指さした。
ポールスターの外れにある廃材置き場……土地の整備や廃屋の撤去がまだ完了していない区画である。
「思うに、ここを路線の始点とするおつもりかと」
馬車鉄道とはその名の通り、敷いた線路の上に専用の車両を設置し、それを馬に牽かせることで走らせる鉄道のことを指す。蒸気機関に比べると、速度も積載量も格段に劣るが、ごく短い距離を周回させるだけなら何の問題も生じない。
むしろ、蒸気を溜める時間が必要なくなる分、短い距離に限っては時間および燃料コストを安く抑えられるかもしれない。
当然、走らせていない間、車両を保管するスペースが必要となる。エマはそれが「未整備区画」であると当たりを付けたのだ。
「なるほど。えっと……それで、ワタシはどうして呼ばれたの?」
4人目はフラーゴラ・トラモント (p3p008825)。砂が髪に絡まったのか、先ほどからしきりに頭を掻いている。
「フラーゴラはよく滑る上質なオイルに心当たりがあると聞いた。車軸油などに使えないかと思い呼ばせてもらった」
「なるほど」
今回はラダを含めた以上5人で、ポールスターに鉄道を敷くことになる。
必要となるのは以下4点。
①車両の制作
②線路の設営
③動力の確保
④装備の決定
「人手は用意できているんだが、いかんせん木材が少ない……。廃屋を崩しても、そう多くは手に入らないだろう。その辺りを踏まえて、慎重に事を進めたい」
誰が、どの仕事を担当するのか。
協力してくれるエヴァン教授や住人たちを上手く使って、ポールスターに馬車鉄道を走らせよう。これはつまり、そういう計画なのである。
- 黄金の精神。或いは、開拓は終わらない…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年11月06日 22時05分
- 参加人数5/5人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 5 人
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参加者一覧(5人)
リプレイ
●線路を引こう
「豊かとは言えないラサだからって話も分かるが、ずっと足踏みしたままってのも腹立たしいだろう? 他国はどんどん前に進んでるのに」
空は快晴。
海から吹く風は穏やか。
ラサ南端の港町“ポールスター”の広場にて、大衆の前に立って声を上げているのは『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)。実質的なポールスターの指導者である。
思い出されるのは、鉄帝の国に走る線路の光景。どこまでも続く鉄の道を、鋼鉄の車両が牽く馬も無しに走っていくのだ。
対してラサはどうだろう。未だに主な動力と言えば馬かラクダで、時には人が荷物を背負って過酷な砂漠を旅して歩く有様である。
「とは言え私達でできる事も限られてる――だから、いい鉄道を作ろう」
鉄道が欲しい。
ついでに言うと、木材も欲しい。なぜこれほど木材が枯渇しているのかとそう問いたい。
砂漠の国にも未来があるのだと、砂に飲まれるばかりの哀れな土地ではないと、そう示したい。
「大商人達が興味を持ち、うちもやろうと言い出すような鉄道をな!」
ラダの宣言に、ポールスターの住人は湧いた。
拳を突き上げ、声を張り上げ、鉄道計画を全面的に肯定したのだ。
かくして、壮大な鉄道計画……その第一歩は、歴史の浅い港の街にて踏み出されたのだ。
「わぁっ、ラサに鉄道……?!」
『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が歓声をあげた。
「まぁた突飛な計画だが……」
「随分と壮大な計画でありんすなあ?」
『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)や『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が言うように、ラサに鉄道を引くという事業は容易に達成できるものではない。
なにしろラサは砂漠の国だ。
木材も足りなければ、そもそも鉄道関連の知識や技術も不足している。
だが、やるしかない。
熱気を放つ住人たちの輪を離れ、一行は各々の持ち場へ向かった。
「交通が確保できれば、さらに発展も早まりそうだしな。上手く行けば、海路上の島や豊穣へも展開できるだろうか」
煙草を携帯灰皿へと捨て、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)がそう言った。
「くふふ、海洋で大丈夫だったんでごぜーます。今回もきっとなんとかなりんすよね?」
「きっと流通が盛んになってもっと発展するねえ! ワタシのお宝探しもはかどるかも!」
胸に秘める思いはそれぞれ違えど、その目的は共通している。目的が共通しているのなら、同じところを目指して協力し合えるはずだ。
「長い目で見りゃ、ラサで色々興してみんのも面白れぇ話だ。その起点がラダになるっつーなら。手伝わねぇ話はねぇだろ」
海路は既に開けたのだ。
それとて決して容易じゃなかった。
だが、ラダたちは海路開拓を見事に達成してみせたではないか。
今回、ラダの提唱した鉄道事業に興味を抱いた者のほとんどは、海路開拓にも参加している。多少の無理や、危険の伴う冒険をこなす覚悟は既に出来ていた。
「さて……仕事の時間だ」
手袋をはめ直しながら、ジョージはそう告げたのだった。
●線路は続くよ
ポールスター郊外。
渇いた風が吹き荒れて、砂煙が舞い上がる中、砂漠に1人の偉丈夫が立つ。
「求めるのは、第一に、馬車を引くパワー、持久力。第二に、此方に従う従順さ」
広い砂漠をぐるりと見渡し、ジョージはそう呟いた。
視界に映ったのは数匹の獣。
1匹は大きな体躯の馬である。
もう1匹は、のんびりと砂上に寝転ぶラクダであった。
そして最後の1匹は、砂の中から目だけを覗かせ辺りを窺うワニだった。
「ドレイクが理想だが……この際、大型の種なら何でも。盗賊への威圧にもなる」
ジョージが砂漠で探しているのは、鉄道馬車の動力となる動物だ。身体が大きく、力が強く、そして人に従順なものが望ましい。
放牧予定地は既に準備出来ている。
「ふむ……」
ドレイクに跨ったまま双眼鏡を覗き込む。
鉄道馬車の動力にするなら、1匹だけでは数が足りない。捕獲するなら複数頭……そのためにも、群れを探しているようだ。
「……向こうか」
暫くの間、双眼鏡を覗き込んでいたジョージだが、どうやらめぼしい群れを発見したらしい。降ろした双眼鏡をしまうと、手綱を握ってドレイクの腹を踵で蹴った。
ぐるる、と唸ったドレイクがゆっくりと翼を羽ばたかせ、その大きな身体を浮き上がらせた。
ポールスターの外れには、廃材ばかりを積み上げた“この世の終わり”のような場所がある。
元々、ポールスターは壊滅した港町だった。
当然、長く人の手も入っていなかったため、家屋などの多くは破損し、修復もままならないような状態だったのである。
今でこそ、人が住める環境が整い、船も何隻か用意できているわけだが……つまり廃材置き場には、ポールスターの各所から搔き集められた“使い道の無い素材”が山と積まれているのだ。
「さて、今回は試験的なものでありんすが……うぅん、どの辺りを使いましょうかね。金属部品は、これ油を刺さなきゃ使えないですね」
廃材置き場に転がっていた鉄の破片を手に取って、エマは眉間にしわを寄せる。鉄道馬車や、それに取りつける武装を作る程度の素材は見つかりそうだが、選定には手間がかかりそうに思えてならない。
「あ、そっちは任せて」
「そっちって……油でありんす? 何か伝手でも?」
「うん。実は鉄帝でオイルで有名な地域のレスリングの大会で優勝したことがありまして。オイルはそれを使おう」
鉄帝のとある街で行われているオイル・レスリング大会がある。
数年前、フラーゴラはそれに出場し、見事に優勝してみせた。その伝手を使えば、上質なオイルも手に入るだろう。
「それと、廃材の目利きは任せて! 『鑑定眼』があるからね!」
「ふむ。では、ここは任せていいですか?」
「いいけど、どこに行くの?」
「ちょいと魔物の骨を取りに……砂漠を旅する馬車となれば、馬や車両にも装甲を付ける必要があるでしょう?」
そう言い残して、エマは居住区の方へと歩き去っていく。
その背を見送ったフラーゴラは、早速とばかりに廃材の選定作業に取り掛かった。
ポールスターの住人を、ラダが幾つかのグループに分けた。
「完成すれば皆の仕事が捗りもっと儲けられる。賃金だって上がる。頼むぞ!」
住人たちはラダの音頭に合わせて拳を空へと掲げる。
苦難上等、労働万歳。
ポールスターという港町を、1から作った住人たちだ。気合と覚悟が、そこらの砂漠の民とは一味違うのである。
「最終目標は街一周だがだがまずは未整備区画と港・倉庫を繋げ。その後、資材と時間が許す範囲で伸ばしていこう」
住人の半数は普段通りの生活……つまり、ポールスター関連の仕事を。
半数ほどの住人は、ラダと共に線路事業を。
そして、アスクル学者団には、エマの手伝いへ向かってもらった。
それぞれの持ち場へ迅速に散っていく住人を見て、ラダは満足そうに頷く。
同日、深夜。
材料の調達も終わり、その日の作業は終了となった。
暑い中、必死に働き住人たちはすっかり疲れ切っているのだろう。いつもなら夜の遅くまで賑わう飲み屋街も、その日ばかりはシンと静まり返っていた。
そんな真夜中、ひっそりと廃材置き場に集まったのはルナを始めとした、数人の荒くれ者たちだった。
「よぅ、最近腕なまってんじゃねぇか? 物足りなくねぇか?」
ラサの砂漠には盗賊が多い。
まったく、どこからこんなに湧いて来るのかと言いたくなるほどに、狩っても狩っても盗賊が減る気配は無いのだ。
「周囲の安全確保かねて、ちょっくら外回りしてこようぜ。連中がため込んでた資金。装備。それにもしかすりゃパカダクラなり馬なりもつれてるかもしれねぇ」
廃材置き場は街の外れだ。盗賊たちにとっては、忍び込みやすい立地である。
そこに“使い物になる”資材が山と積まれたのなら、それはもう盗みに行かなきゃ嘘である。
「いただきゃ、一石二鳥だ」
ミイラ取りがミイラに、の例えもある。
ルナと荒くれ者たちは、廃材を盗りに来た盗賊を逆に狩ってしまうつもりなのである。
翌朝。
廃材置き場を訪れたエマとフラーゴラの前には、木箱に詰まった武器や資材が転がっていた。
「これは……さて、どなたからのプレゼントなのやら」
「わぁ! 色々入ってる! ちょっと質は良くないけど、まだ使えそうだよ!」
木箱の中身を確認しながら、エマとフラーゴラは顔を見合わせた。
次々と箱の中身を取り出しながら、エマはにぃと頬を緩める。
「おぉ、信号弾に照明弾まで。仲間を呼ぶ時や、夜間運用時に役に立つでありんすね」
頻繁に使う物ではないが、何事にも“万が一”がある。
いざという時に「無い」で困るぐらいなら、信号弾や照明弾の1つや2つ、積んでおいた方が得と言うものだ。もしもずっとそれらを使わずに済んだのなら、それに勝る幸運は無い。
「となれば、後は武器と……武器は学者たちに渡して整備してもらうとして」
今のところ、鉄道馬車の運用はポールスター内と予定されている。だが、将来的にはもっと長い距離を走らせることになるだろう。
そうなった時に慌てて武器を用意するのでは遅すぎる。
そう考えて、エマは既にフラーゴラへ「座席下の武器格納庫」の設計と制作を依頼していた。
1つ2つと予定を指折り数えたエマは、首肯し工具を手に取った。
「急ぎ、装甲を準備しないと。特に馬は装甲で全身を纏わせたいでありんすが……大丈夫でごぜーますかね?」
装甲の材料となる魔物の骨は昨日のうちに用意している。
後はそれを、装甲の形に加工すればエマの仕事は完了だ。
地面に置かれた設計図には、おびただしい量のメモ書きが残されていた。
フラーゴラが作製予定の車両は2台。
1台は動力部となる馬車車両。もう1台は人や物資を運ぶための貨物車両となる予定だ。
「車輪は鉄製でしっかりしたものを……支柱は鉄骨、大部分は木材で。人を乗せる馬車の天井は最低限でも幌を被せて」
設計図を覗き込み、ブツブツと独り言を呟いている。
少し思案した後に、フラーゴラは貨物車両のサイズを少し削ることにした。積載量と速度を天秤にかけて考えた場合、後者を優先すべきと言う答えに至ったためだ。
「ところで、そちらは?」
作業の手を止め、エマが問う。
指さしているのは、フラーゴラの背後に置かれた大きな袋だ。
「ゴラぐるみクッションだよ! いい香りのポプリを付けて、座席部分に敷こうかなって」
馬車というものは存外、激しく揺れるのだ。
つまり、乗り心地があまり良くない。
加えて、今回フラーゴラが作製予定の鉄道馬車は、強度の関係であまりサスペンションが効かない設計である。
「せっかく肉屋のゴラの看板を飾らせてもらうんだから、乗り心地のいいものにしたいかなって」
そのためならば、多少の手出しは許容範囲内である。
広告費というものは、存外、高くつくことをフラーゴラは知っているのだ。
と、そんな中、町の方からラダが歩いて来るのが見えた。
「2人とも調子はどうだ。エマ、学者団は暴走してないかい?フラーゴラにはオイルも世話になるな」
ラダの背後には木材を抱えた住人たちの姿がある。
いよいよ線路の設営を開始するらしい。
作業開始から数日が経った。
「そう言えば、ジョージが帰って来ないな」
果て無く続く砂漠を見やって、ラダはそう呟いた。
数日の間、ジョージは砂漠を旅していた。
正確に言えば、野生の馬を捕獲するべくドレイク・チャリオットに乗って砂漠を走り回っていたのだ。
砂漠の馬は用心深く、そして非常に強靭な脚を持っていた。
広い視野と、優れた聴力でジョージの接近を察知すると、あっという間に逃げ出すのである。捕獲に難儀するのも当然であると言えよう。
だが、ジョージとて数日間を無駄に過ごしたわけではない。
馬の行動パターンを観察し、少しずつだがポールスターの方へ誘導していたのである。
「一時は海神アルタルフに協力を仰ごうかとも思ったが」
海神アルタルフ。
ポールスターから、他国への海路を開くにあたってラダやジョージが知り合いになった海の神の名前である。現在も時々、ポールスターに遊びに来ては、だらだらと茶菓子を食べて帰っていくのだ。
なお、廃材置き場に積まれていた樽はアルタルフが用意したものである。
「アレに頼むと、ポールスターを海老や蟹が走り回ることになりかねんからな」
海老や蟹よりは、馬の方が使い勝手がいいはずだ。
「行くか。そろそろ動力を確保しなくてはな」
数日の間、追いまわされて馬の群れは疲弊している。
交渉用の餌も十分に用意している。
弱ったところで餌を持ち出し、餌付けと言う名の交渉に持ち込むつもりなのである。
「おぉ、やってんな」
濛々とした砂埃を遠目に見やってルナが言う。
砂埃を立てているのは、ジョージに追われる馬たちだ。この分なら、今日中に馬の捕獲は完了しそうな勢いであった。
「でもまぁ、捕獲してすぐには使えねぇよな。馬やらってのは、馴らすだけでも時間と労力がかかるかんな」
「捕獲できるのなら何でもいいさ。それより線路だが……長く行き来すると蹄を痛めそうだな」
「あー、そっか。馬にゃ蹄があるんだったか」
現在、ルナとラダは仮に引いた線路の上を走行中だ。2人の腰には縄が結び付けられており、その先には廃材を積んだ馬車が繋がっている。
今のところ、大きな問題は発生していないが、やはり距離を歩くとなると脚にかかる負担がなかなか大きくなりそうな予感がしていた。
「砂利を敷いてみるか。動力の動物も幾分楽になるはずだ」
「んじゃ、その間は暇になるわけだな。俺ぁ、コースの下見に行くぜ」
「うん。それでじゃあ」
「応。任しといてくれや」
互いに手を叩き合い、2人はそれぞれの仕事へ向かう。
●鉄道開通
ざわざわと人が騒いでいる。
ポールスターの住人たちが、線路を囲んで歓声を上げているのである。
喧噪に耳を傾けながら、5人は顔を見合わせた。
「ジョージ。馬との交渉は上手くいったのかよ?」
「あぁ。ラサの気候では、群れ単位での十全な食料確保は難しいだろうが、ここでなら俺が責任を持って用意すると言ってな」
「そうか。もし逃げたら俺に言いな。馬だろうと、俺の足からは逃げられねぇ」
言葉を交わすジョージとルナの眼前には、立派な場体の馬がいる。
その数は2頭。鼻息も荒く、己の出番を今か今かと待っているようだ。
「その時は頼むよ。ところで……なんだか、物騒じゃないか?」
馬の纏う装甲……魔物の骨を加工し作った馬具を見て、ラダがそう呟いた。
馬具と言えば聞こえはいいが、要するに骨で出来た鎧である。
どうにも、少し、禍々しさが拭えない。
「盗賊にやられるよりはマシでありんしょう?」
「……それは、まぁ」
エマが苦労して造った馬具だ。
鉛弾や矢の数発は、容易に弾くだけの強度を誇る一級品である。おまけに魔物の骨を材料としているからか、強度の割には非常に軽い。
「馬車の方も禍々しいんだが」
骨の装甲は、馬車の各所……特に破損しやすい車輪の周辺にも装備されていた。
「乗ってみたーい! 開通式だね!」
「まぁ……そうだな。線路を馬車で走るのは、きっと風が気持ちいいだろう」
「装甲とか信号弾と照明弾の試射も念の為やっておきんしょうか」
鉄道馬車は完成したのだ。
住人たちも、それが走り出す瞬間を今か今かと待っている。
フラーゴラを先頭に、次々と馬車へ乗り込んだ。
エマ、ルナ、フラーゴラの3人は幌を外した貨物車両へ。
ラダとジョージが御者席に座る。
試運転の準備はこれで整った。
万雷の拍手と歓声。
雨のように降るそれを浴びながら、ラダは笑った。
それから、徐に手綱を握ると住人たちの顔を順に見まわした。
誰の顔にも疲労の色が濃く滲んでいる。
けれど、誰もが笑っていた。
期待に瞳を輝かせ、胸の前で硬く拳を握っているのだ。
「終わったら風呂と酒を振舞って宴会だ。良いワインもあるぞ!」
パシン、と手綱が打ち鳴らされた。
そうして、ゆっくりと。
ゆっくりと、線路の上を鉄道馬車が走り始めた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
この度は、シナリオのリクエストおよびご参加、まことにありがとうございます。
ポールスター内に限定したものではありますが、一旦、鉄道馬車は完成し、走り始めました。
依頼は成功となります。
●馬車スペック
※A~Eの5段階評価です。
攻撃力:C
防御力:A
スピード:B
キャパシティ:C
オリジナリティ:B
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
ポールスターに馬車鉄道を走らせる
※設計、開発、試走まで完了させる必要があります。
●今あるもの
①砂:砂です。そこら中にあります。
②瓦礫:石や煉瓦の残骸です。頑丈です。
③廃材:鉄や木材です。大きさも品質もバラバラですので、よく目利きしなければいけません。
④樽:誰かが溜め込んでいる樽です。なぜか幟が刺さっています。
※作業拠点はポールスターの外れにある廃屋や瓦礫、廃材が放置されている区画。通称、未整備区画。ここにある材料を使って線路や車両を制作し、馬車鉄道を走らせることが目的となる。
また、未整備区画が馬車鉄道の保管場所となる予定。
●用意しないといけないもの
①車両:素材は何か。何両用意するのかなど決める必要があります。
②線路:素材は何か。瓦礫置き場からどこまで線路を敷くのかを決める必要があります。
③動力:馬車鉄道の動力を決めなければいけません。場合によっては動力の捕獲も必要です。
④装備:ラサは過酷な土地です。自衛用の武器や装甲が必要となるでしょう。
●鉄道馬車
完成した車両には以下パラメーターが(独断と偏見で)設定されます。
攻撃力:?
防御力:?
スピード:?
キャパシティ:?
オリジナリティ:?
●協力者
※各グループにつき、1つの仕事を割り振ることが可能です。
・アスクル学者団
エヴァンジェリスタ・グリマルディ教授率いる学者集団。
紆余曲折あり現在はポールスターに定住している。
体力はないが、設計や計算などは得意。
・ポールスター住人
ポールスターの住人たち
主に港の管理や荷運びなどに従事しており、体力と筋力に優れる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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