PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<伝承の旅路>カニ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂塵の襲撃者
「くそっ……しつこいな、魔王軍との戦争真っ只中だってのにそんなものに構ってはいられないんだよ!」
「そうはいかねえな。この辺りは俺たちクラブマンの縄張りだ。お前たちがどうしても通りたいというのならサハイェルスベスベガニに忠誠を誓ってくれ」
「あんたたち頭おかしいんじゃねえの!?」
 魔王城へと進軍を続けるイレギュラーズだが、支援なしで広大なサハイェル砂漠を進むことは難しい。第一支援部隊はイレギュラーズへと食料や物資の補充を目的として、イレギュラーズの後に続く形となっていたがここで予想外のトラブルに遭遇する。
 クラブマンは砂漠周辺を根城としている、少々頭のネジが抜け落ちている集団であり、サハイェルスベスベガニという甲殻類を神からの贈り物として神聖視している。それは天義に見られる邪教徒、悪魔崇拝のような雰囲気に通ずるものがあるが、本質的にはただのカニ好き狂人としか言いようがない。
 時には争い事に発展する事もあったが、高値でサハイェルスベスベガニを売りつけようとしてきたり、聖なる誓いとしてハサミに挟まれるよう強要してきたりと呆れ返るような発端であったため、死傷者が出る事はなかった。
 しかしながら、サハイェルスベスベガニは可食部が非常に少なく、砂を食べるよりマシといった評価でしかない。厳しい砂漠地帯においても優先度の非常に低い珍味である。味も褒められたものではない。
「俺たちの頭がおかしいだのと馬鹿にするのは良い。だが、カニを軽視する事だけは許さない。さあ、カニを受け取るのか受け取らないのかどっちなんだ」
「なあ、あんたたちの……思いやりみたいなのは感謝するよ。するけどさ、ハサミの掃除を忘れるなとか毎日やさしい言葉をかけてやれとか注文が多いんだよ。それに、こいつらすぐ挟んでくるし……俺たちみたいな常人には色々な意味で重い荷物なんだ。アトリエのお手伝いさん達もこの先で待ってるし、失礼させてもらうよ」
 クラブマンのリーダーはみるみるうちに不機嫌となり、カニを模した両手のグローブで男の頬を挟んだ。
「いでででで!! おい、もうゼロ・クールを出せ! こいつらは痛い目をあわせないとダメだ!」
「申し訳ございません。私は戦闘用ゼロ・クールです。カニの収穫はプログラムされておりません。クリクス様を挟んでいる生物は両手がサハイェルスベスベガニのハサミと酷似しており、データ照合を行った所、サハイェルスベスベガニである可能性が非常に高いです。カニの収穫が必要な場合、プログラムの更新作業が必要となります」
「ポンコツバカ!!」

●届かぬ支援
「いや、すまないね。第一支援部隊は一応、戦闘用ゼロ・クールを何体か護衛につけているし、時間に遅れる事はないんだが……」
 先行しているイレギュラーズ達は何人かの魔法使い達とテントを張り、キャンプの準備を行っていた。ローレットが準備した携行食だけで事足りる問題ではあるものの、規格外の胃袋を持つはらぺこさんからすれば、ディナーは多いに越したことはない。
 そして、真面目な面々からすると支援部隊を案ずる所である。引き返すべきか議論が続けられ、やや重苦しいムードがキャンプ地に漂っていた時に斥候が到着した。
「すみません、クリクスさんが襲われました」
 イレギュラーズと魔法使い達に戦慄が走った。襲い来る終焉獣は蹴散らしたはずだが、こうも広大な敵地であれば安全地帯を切り開くといった行為はすぐに書き換えられるものだ。詰めが甘かったのだろうか。
「畜生、やったのは何だ。四天王とかいう奴らの配下だろう? せめてモンスターの特徴を伝えてくれ」
「いえ、その……クラブマンたちです」
 魔法使いと斥候は頭を抱え、状況を理解できていないイレギュラーズにこの事実を伝えるべきか熾烈なアイコンタクトで討論している。やがて、観念したようにプーレルジールが抱える恥部について説明を始めた。
 今も支援部隊の隊長、クリクスは頬を挟まれている事だろう。サハイェルスベスベガニは獲物を捕らえたら死ぬまで離さない。そんな通説は彼らの美徳であり模範なのだ。
 血の気の多いイレギュラーズが、なぜ武力行使に出ないのかと憤る。世界の危機にカニだのカニ鍋だのと騒いでいる時間はないのだ。
「恥ずかしい話だけどね、クラブマンたちは……アレはアレで役に立つ事もあるんだ。ハサミは正直、意味の分からない武器だけどね。彼らも一応は人間だし、縄張りに入ってくるモンスターを撃退してくれた事例もある。見返りとして私は一週間サハイェルスベスベガニについて学ばされるはめになったけどね」
 スケジュールには余裕がある。立ち往生している地点までもそう遠くはない。力の有り余っているイレギュラーズたちはこの問題に対処するべく、食後の運動を兼ねてクラブマンの対処へと向かう。
「あ、殴り合いになっても良いけどさ。できるだけ丸く収めてくれよ。スベスベガニは執念深いし……何より、この世界に生きる僅かな人類である事に変わりないからね」

GMコメント

●目標
【必須】第一支援部隊をキャンプ地まで無事に連れて行く
【努力】クラブマンをどうにかする

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 サハイェル砂漠 夕方
 砂漠地帯です。障害となるものは見当たりません。

●敵
 クラブマン 5人
 両手にハサミ状のグローブを装着しているごろつきです。
 カニが大好き。辺鄙な所を縄張りにするだけあって、まあまあ強いです。

 グレーター・サハイェルスベスベガニ
 クラブマンたちの切り札。めちゃくちゃデカいです。
 非常に堅牢な外殻を持ち、動きも機敏です。
 右ハサミに広範囲を攻撃する炸裂榴弾砲が取り付けられています。
 左ハサミに近づく者を斬り刻む大鉈が取り付けられています。

●味方
 クリクスさん
 クラブマンに頬を挟まれています。
 クラブマンは人質に取るつもりはないようですが、頬を挟まれています。

 ゼロ・クール シェリル
 カニの収穫はプログラムされていません。
 対峙している物体は96%の確率でサハイェルスベスベガニと認識しています。

  • <伝承の旅路>カニ完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

リプレイ

●地獄の蟹々モンスター
 広大な砂漠の地に蟹と複数の人間が立っている。此方は我らがイレギュラーズ。彼方はサハイェルスベスベガニを中心に、一人膝をつく男を取り囲む暴漢たちである。頬を挟まれているクリクスという男性はよもや自分の生命が危機に晒されるとは思っていないが、この馬鹿馬鹿しい人質の立場に甘んじていれば照りつける日差しによって、馬鹿馬鹿しい日射病を抱え込む事になるだろう。
「なんだお前たちは。ここはクラブマンのハサミだぜ?」
 独特すぎる男たちに『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)は頭が痛くなったが、おそらくハサミとは縄張りの事を指しているのだろうと、どうでも良い考えごとをする事で気を紛らわした。
「えーと、お前たちがクラブマンか。何かカニを無理やり渡して食べさせるのだったか……?」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が不思議な生き物を見るような視線と共に、両手にカニのハサミを模したグローブを付けている男たちへ問いかける。
「誰が食わせるかコラ! 育てるんだよ!! 最強のサハイェルスベスベガニを決める祭典、クラブチャンピオンに出場できるチャンスだぞ。お前たちもどうだ」
 何かまた新情報が出たな、とエーレンは聞き流す事にした。武芸者にはカニのことはわからないのだ。
「砂漠に住むカニだから食べるならサソリ料理とかが参考になるかもしれないわね……可食部が少ないから素揚げして殻ごとカリカリと食べる方法が定番だけど……あ、絶食もさせないと……」
「イナリさんまずいですって!」
 レイテが止めようとしたが『狐です』長月・イナリ(p3p008096)のクッキングトークはクラブマンたちの耳、彼ら流に表現するならクラブマンたちのハサミに届いてしまったのだ。
「よくわかった、お前たちは悪魔だ!!」
 体格の良いクラブマンがイナリにカニグローブを向け、威嚇のようにカチカチと音を鳴らしている。イナリには全く効果がなく、調理法の考察に勤しんでいる。『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は金属音の鳴るカニグローブを見て鉄か何かで作られているな、と悪夢のような光景から現実逃避を行っていた。
 この昼は暑く夜は寒い地獄のような環境で、下手をしたら自分たちすらカニと思い込んでいるような狂人を相手にしているのだから胃に受けるストレスは半端なものではないだろう。
「おいお前ら、ちょっと態度が悪過ぎるぜ。サハイェルスベスベガニを軽視されるのが許せないらしいが、その原因が自分たちにあると疑っ」
「ない」
 世界は無表情で『無尽虎爪』ソア(p3p007025)にバトンタッチする。リアクションがないあたり心情を察する。
「ボクたちの連れを離してもらえるかしら? カニを受け取ればいいなら、ここはボクたちが運ぶよ? これからは買い取ればいいならそれも考えるから」
「獣人にしては物分りが良い奴だな。だが、クラブチャンピオンに使うカニを食おうとしている奴の仲間であれば、そうですかと騙される訳にはいかねぇよ」
 クラブマンは先程と同様にハサミをカチカチと鳴らしたが、ソアも面白半分で真似を行った所、垣間見える獰猛さに若干クラブマン達も気圧されていたように見える。
「秋はクリよりもカニだよなぁ~!!」
 イナリとの味覚トークに盛り上がっていたらしい『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)がたまらず大声を出す。これは究極の賛美のようでクラブマンたちと鈴音の間では決定的な違いがある。到底許される失言ではない。
「クリっ!オレたちはたすけにきたクリーっ。山の幸vs海の幸、サルかに合戦!負けるわけにはいかないなっ」
「何いってんだこいつ……」
「おい、キミたちが素になるのは反則だよ」
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はこれまでのやり取りを、うんうんと頷き、何やら変な作戦をひねり出そうとしている。ディープシーにカニの習性や弱点などを伺うのも安直なものではあるが、この怪人たちを前に僅かな活路を見出せそうなイレギュラーズはノリア、そして『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)と希少なのだ。
「皆様は、カニが、元は、海の生きものだというのは、ごぞんじでしょうか…? 生きものが、故郷を、はなれているということは、故郷を、追いやられたということですの」
「出たな過激派め。カニは陸の生き物だ、邪教徒はすぐに起源を書き換えようとする。騙されるものか、ハサミに誓って」
「ハサミに誓って!」
 ノリアは『あーそういうタイプね』と珍しく渋い、知的かつ諦めに近い表情を見せた。間違いなくレアなシーンである。
 潮は年配者として何とか諭そうと頭を働かせていたが、道徳を説いた所でハサミがどうこう言われるだけだろうな、と難題を突き付けられていた。潮はどうしたものか、ポチなる鮫を何気なく見つめた。クラブマンの鳴らす金属音に少々怖がっているようで、相変わらずの小心者じゃなと優しく撫でてあげた。
「痛い目を見せる、というのも好ましくはないんじゃがのう」
「それはそれで話が早くて助かるの。ふっふーっ、ボクからは虎の魅力をたっぷりその身体に教えてあげる」
 鈴音はカニトラ合戦とトラカニ合戦のどっちが響きが良いか、多数決を取りたくなったが急に素を出してくるクラブマンに二敗する訳にはいかず、ぐっと堪えた。トラカニの方が良いかなあ。
「カニトラだ。なぁに身内贔屓でトラの方を先に持ってきてンだよ!!」
「クリっ!? 読心術クリ!?」
 気に入ったんですか鈴音さん。
「ボクが先じゃダメっていうの?」
 ソアがしゃっしゃっと爪で空を切る。
「い、いや良いけどよぉ……! 良くねえ! お前たち、こいつらをやっちまうぞ!!」
「ハサミに誓って!」

●かになべ
「そう、わたしは蟹の起源を海と主張する、異教徒。なれど、海に生きるものとして、そこを譲ることはできません。これは、いわば陸と海のたたかい。しかし、過酷な砂漠で、力をつけた今……陸なんていう、ちっぽけな場所なんかに、おさまっていて、いいのでしょうか…!?」
 ノリアがゼラチン質の尻尾を見せつけ、びちびちと跳ねる。
「で、でもよぉ……海の生き物かもしれねえって俺、時々思うんだよな」
「惑わされるんじゃねえ! 撃て! 撃て!」
 激怒したクラブマンのハサミから火が吹き出た。すいすいと泳ぐノリアには威力、そして高度すら足りない陳腐な武装であったが、ひとまず何人かのクラブマンはノリアを狙うことになった。世界はこのままクラブマンも海に帰ってくれないかなと淡い希望を抱いたが、とにかくキレやすい若者のようで、ノリアに届かないと悟るや否や、こちらに矛先が向くだろうなと苦労人の勘が働いていた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。悪いがこの巨大ガニの勇姿はまたの機会に見せてくれ!」
 エーレンがグレーター・サハイェルスベスベガニに安物の刀を向ける。業物であろうともこのカニを斬り裂くには一苦労だろうが、エーレンはそれを難なくやってのけるだろう。
「破壊砲、発射!!」
 クラブマンがエーレンを指差し、グレーター・サハイェルスベスベガニに指示を出すと銃口を向ける。
「破壊砲ってもう少し良い名前はなかったのか……? いや、この威力はそう表現しても良いか」
 驚異的な速度で破壊砲から逃れるエーレン。カニは追撃するべくエーレンへ向かって猛追した。なんと直進できるカニだ。
「クラブマン! さん! 僕がお相手します! クリクスさんを解放してください!」
「てめぇが挟まれるってのかよ! えぇ!?」
 クラブマンは何が何でもレイテを挟もうとグローブを振り回す。びっくりするくらい相手しやすい生き物だ。クリクスはささっとソアが救出し、縄をほどいたが、その間もクラブマンはレイテを挟もうとしていた。もう普通に殴れば1発か2発はレイテに当たっただろうが、扱いにくそうなグローブで常に頬を狙うものだからレイテは傷ひとつ付いていないのだ。
「うん、とりあえずクラブマンをぶっ飛ばして大人しくさせるわよ!」
 イナリが動く。だいたいの調理工程が決まったらしい。
「甘いぜクソ女! こいつをくらいな!!」
 クラブマンはサハイェルスベスベガニに食欲を見せるイナリにひときわ厳しい。何と二つのカニグローブを投げ捨て、両手を一つの巨大なカニグローブへと突っ込む事で攻撃力を倍増させた事になっている。そして両手で操作されるグローブをイナリに向けた後、頭を3回ほどぶん殴られて気絶した。
 ワンハンド・カニグローブにどのような利点があったのかはイナリの速攻によって永遠に解らなくなってしまった。多分めっちゃ弱いのだ。
「チョキはグーに勝てるはずがないのだっ!!」
 ここぞとばかりに鈴音が昏倒したクラブマンに追撃のげんこつを御見舞する。しかし、闘志がクラブマンの身体を動かし鈴音の拳を掴む。チョキがグーに勝てるはずはない、それはクラブマン達にとって生涯をかけて挑戦しなければならないものである。彼らのチョキは、グーを断つ為に存在する。そして、もう片方の鈴音のげんこつが入り、クラブマンはノックアウトされた。
 結局の所、ど根性と珍妙な鉄製武器によって戦う一般人なのでイレギュラーズのほぼ全てに遅れを取るのがクラブマンなのだ。
「シェリルとやら! キャンプ場までのルート教えろやあ! ここから、逃げれる、確率を!?」
「0%です」
「0%!?」
「しかし、キャンプ場まで凱旋する確率は高いでしょう」
「上等っ!!」
 ゼロ・クールは腫れ上がったクリクスさんの頬を氷水で冷やしていた。こっちがカニ男と暑苦しい戦いを繰り広げているのに。あとで絶対キンキンに冷えた飲み物を、カニカマで一杯やってやろう。
「今までお主らにカニについて話を聞かせてほしいと自分から訪ねてきた者に心当たりはあるかのう……少ない、そもそも無いならそれはやり方が間違っておるという事じゃよ」
 潮がゴンゴンとカニグローブで殴られながら諭している。現代社会に生きるものであればサメマンVSカニ男などといったタイトルを付ける所であるが、潮は自身の打撲を癒やしながら、クラブマンに残る人間性に訴えかけている。彼らも海の生き物を愛する者、困難な道であろうとも必ず、心を通わせる事ができるはずだ。
「クソッ! サメだからって調子に乗りやがって! カニだぞ!!」
「なあ、アンタ等が馬鹿な行動を取れば取る程、クラブマンの周りからの評価は下がる。そうなると当然クラブマンが崇拝するカニも相応に低く見られちまうもんだ」
 すかさず世界が体力面でも精神面でも援護に回る。サメとカニの論争でサメの味方に付く経験をしたイレギュラーズは世界ただ一人だろう。
「カニは……! カニは……!!」
「もうよかろう、わしはお主の気持ちも、カニの気持ちも十分に理解ってあげているつもりじゃ」
 クラブマンの下っ端と思われる若い男が、涙を浮かべながら潮にしがみついた。極悪非道なクラブマンが見せた涙、それは潮が引き出した感情なのだ。
「ククッ……クラブチャンピオン優勝候補のチームがこのザマかよ」
 リーダー格の男が周囲の戦況を一瞥し、つまらなそうに呟いた。
「どうするの? ボクは暴れ足りないんだけど、降参する?」
「トラ女、クラブマンのことわざを一つ教えてやる。山に月登ればカニ」
「ごめん全然わかんない」
 リーダーは黒光りするカニグローブを装着する。下っ端が装備する赤錆びたカニグローブとは違う、明らかに手の込んだ装備だ。
「でも、最後までやるつもりってのはわかるよ」
「俺にはそういう生き方しかできねえんだ」
 一方で、エーレンはグレーター・サハイェルスベスベガニにまだ追われていた。引き付けている間に、潮とカニの間に友情めいたものが生まれていたのでこの巨大カニを駆除する事が本当に正しいのか、若干の迷いが生じた。絶対正しいと思うが。
「クラブチャンピオンを目指す事はわしにはわからんがのう……大好きなカニにあんな物騒なものを付けるのは、わしは可哀想じゃと思う。あんなものを付けているから、ほれ、剣で斬られて傷付いておるではないか」
「うっ、潮さん……! おれ、キャサリンを助けてあげたい!!」
「キャサリンのために身体を張れるかの? 今なら、まだ間に合うかもしれぬぞ」
 潮を発生源としてなんともいえない空気が漂っていた。とりあえず破壊砲の脅威に晒されているエーレンはグレーター・サハイェルスベスベガニ(キャサリン)を駆除する権利くらいはありそうなものだが、イナリやソアは『あ、これやらない方がいい空気だ』と察する所である。
「ぐ、うおおおっ!! キャサリン、下がれ! 霧江詠蓮とかいったな、俺が相手だ!」
「あ、いや。降参してくれるなら俺はそれで良いんだが……」
「潮老師!! 見てて下さい、俺の、俺のキャサリンへの愛を! うおおおおおおっ!!」
 びっくりするくらい変な方向に話が進んでいる。潮も少しエーレンに悪いと思ったのか、ポチの世話をして誤魔化している。
 キャサリンを守るべくエーレンに突進する男はもう信じられないくらい遅かった。カニグローブが重いのもあるし、人間を超えているレベルで疾いエーレンにとってはカニどころかカメが体当たりしてくるようにしか見えない。
 こんなのを殺傷すると夢見の方が悪そうだ、とエーレンは適当に相手をしてあげた。
「くっ……俺は、気絶していたのか」
 鈴音にげんこつをくらっていた男が飛び起きた。イナリを相手に力の差を見せつけられ、一瞬で峰打ちを受けたはずなのに顔面が殴られたように痛む。真犯人はゼロ・クールと何か軽妙なやり取りを行っている所だが、そういうムードなので一応はイナリが相手をする事となった。
「サハイェルスベスベガニを食べる気は本当にないのね……。絶食させる事で内容物や砂抜き、煮込んで出汁を取ったり、素揚げしたり、そんな感じで調理すれば、きっと美味しいのに」
「アンタに負けた俺は何も強制させる事はできねぇけどよ、わかってくれ。サハイェルスベスベガニは俺だ、俺なんだ。そして俺はサハイェルスベスベガニだ。アンタたちがこの砂漠で食うものに困ったらそれを行って良い。だが、俺たちは死を選ぶだろうな」
 その男はカニグローブを沈みゆく夕日に向け、ふっと笑った。イナリは徹頭徹尾なにを言っているのか理解できなかったが、まあサソリ料理とかもあるし良いかと、いいかんじの話に落ち着く事にした。この調子ではスコーピオンマンとかもいそうではあるが、プーレルジールの地に変人ばかりいるとも限らない。
「えっと自分達が良いと思う事を人に勧めたい気持ちは解りますよ? でもそれを強要したり実力行使で押し付けるのはダメですよ。例えばボク達がこれはとても良い事だからってスベスベガニを目の前で解体、貴方達に無理やり食べさせたら嫌でしょ? それと同じです」
「お前の言う通りだな……これは俺からの詫びだ。受け取ってくれ」
 レイテに叱られていた男は右手のカニグローブを脱ぎ、レイテに差し出す。
「えっと、これ押し付けてるんですけど……」
「すまない、この期に及んでまだ我が身が可愛かったようだ。これを」
レイテに叱られていた男は左手のカニグローブを脱ぎ、レイテに差し出す。
「もう少し、彼らには道徳を教えてやらんといかんのう……」

「なかなかやるじゃない……ボクの雷を受けて立ってられるカニはキミだけだよ」
 ソアは意外と良い勝負をしている。殺傷しないように加減はしているが、クラブマンのリーダーは全力で戦っても出オチのようにやられはしない程度には強いようだ。
「これでも俺はクラブチャンピオンのジュニアユースでね。ソアとかいったな、お前は良いクラブトレーナーになりそうだ。お前になら……カニを託しても良いかもしれないな」
「ボク育てるとか全然わかんないんだけど!」
 ソアの爪が執拗にクラブマンを追い込むが、ぎりぎりの所でカニグローブで防がれる。カニについて話しながらの命がけの攻防、これはトラとカニのプライドファイトである。
「ひとまず、クリクスさんは返してもらうからね?」
「そうだクリ! 私達を解放するクリ~!」
「何いってんだこの人……?」
 クラブマンたちは鈴音に冷たい。ふてくされたように鈴音はカニカマを噛みちぎった。
「そろそろ決着と行こうじゃねえか、ソア。俺の全身全霊のハサミを受けてくれ」
「ふふん、臨む所だよっ!」
 ソアの周囲に電気がパチパチと走り、リーダーは腰を落としてハサミを構える。エーレンは男の構えに、居合のようなルーツを感じた。
「あの男……なかなかやるな。もっと良い得物を持てばいいものを」
「いや、俺にはわかる。あいつは絶対アレしか使う気はないぞ」
 世界の名推理が光る。
「その辺でお開きにしときなさい。お嬢ちゃんも遊び足りんとは思うがのう……キャサリンが泣いておるぞ。これ以上、人が傷つくのは見とうない、と」
 其処にいる全員が息を呑んだ。グレーター・サハイェルスベスベガニからこぼれ落ちた一筋の涙。それは今にして思えば体液だったのかもしれない。しかし、サハイェル砂漠に消えた幻の一滴は、この戦いの終止符を打った。

「カニは、これから 正しい歴史を 歩むことになるのでしょう」

成否

成功

MVP

海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!
クラブチャンピオンは2053年10月20日の午後6時からサハイェル砂漠で開催されます。
シード権が付与されたイレギュラーズは自慢のカニを持ち寄ってください。

PAGETOPPAGEBOTTOM