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シナリオ詳細

千と一つの物語

完了

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オープニング

●『護衛の人』と『キャラバンの彼ら』の物語
 馬車が揺れている。廃材を組み合わせて作られた手製の馬車に緩衝装置などというものはまともに存在せず、慣れてようが慣れてまいが、貴方の体には少なからず負担がかかっていたことでしょう。
 窓の外に見える景色は代わり映えはなく、抜けるような青空とは対照的な灰色の荒野が延々と広がるのみで、時折街の残骸のようなものが星の砂にさらさらと埋もれているのを、あなたも見たことと思う。
 隊商――キャラバンの護衛として次の街まで彼らと同行してはいるものの、あなたの仕事は特にない。なぜなら、そもそも襲ってくる存在などないのだから。
 それでも、隊商はあなたを街と街とのあいだの護衛として雇っている。
 その街さえもはや街だったものと言っても差し支えない残骸だったり、あるいは人がいたとしても小さな集落程度だったりと、あなたにとっては廃墟としか思えない場所だ。
 しかし、あなたは街で護衛として雇われ、次の街まで彼らとともにある。
 そして、あなたはその道中で彼らと『お話し』するのだ。
 何故かって? あなたもお分かりのことでしょう。
     ・・・・・・
 これは、そういう物語なのですから。

●千と一つの寝物語
 夜の荒野は、昼間よりも随分冷え込んでいる。吹き付ける風はからからに乾いており、時折その風に廃墟を埋める星の砂が混ざり込んでいた。
「いたいた、護衛さん!」
 焚き火のそばに座り込む特異運命座標の側へ駆け寄る少女はミアプラという名である。隊商の中では最年少であるものの随分と荒野を旅慣れているらしい。大人たちとともに夜営の用意をテキパキとこなす姿を特異運命座標も見ていたことだろう。焚き火に照らされるミアプラの黒い髪は腰くらいの長さに整えられ、日に焼けた肌は赤く火の光を受けていた。
「あのね、今日もお話を聞かせてほしいの!」
 ミアプラはいつも、こうやって夜になると『護衛さん』の話を聞きに来る。特異運命座標の話を聞きに来ては、それを一字一句逃さぬように、とメモをする。そうしてそれらをまとめて小さな冊子にしているのだという。まるで、民話の収拾を行う学者もかくやといったような日課だった。
「ほんとのはなしでも、嘘の話でもいいの。ただ、あたしがね、あつめてね、お土産に持ち帰りたいの!」
 この隊商が目的地について、そうして帰ったら。ずっと動けない『妹』にいっぱいの土産話を持ち帰って、帰りたいのだとミアプラは笑う。
「寂しがりで、なきむしで、だからずっと待たせちゃってるから。そのぶんいっぱい、いっぱいのお土産話を持ち帰りたいの。」
 でも、この旅の実際は空虚なものである。毎日荒野を走り、野営をし、たどり着いた街で護衛が変わる。ただそれを繰り返すだけ。そんななかで話を手に入れるならば『護衛さん』の話が一番だった、というわけだ。

「泣き虫の妹(ベナト)のために、お願い!」

 ミアプラは茶目っ気のある笑顔を浮かべる。
 隊商の護衛は物語を話す。
 それは、千を超えて更に一つ。小さな夜のものがたり。
 空には星がまたたいている。


●記録のできない機械人形はかく語る
「人の記憶は劣化する、けれども媒体の記録は記憶よりも劣化しないときもある」
 『故障済の精密機器』白雲クカイはそういいながら本の一つを指先で弄んだ。
「逆もある。たとえ物語が形をなくしても、記憶の中で生きつづけるときもある」
 また別の本を一つ取り出して、また書架に戻す。その動作に意味はない。

「きみも、かれらも、そしてぼくも。此処にいた証を、どうにかして、残したいから」

 だから、証を残そう。案内人はそうやって、ペンデュラムを揺らした。

NMコメント

 眠れない夜がいっぱい、膝毛です。
 そんなよるには、お話をしましょう。

●舞台
 世界観は別シナリオ( https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3380 )と
 共通していますが、参照する必要はございません。

 『おわりのせかい』と称される場所です。
 何もない荒野、時折存在する廃墟や小さすぎる集落。
 もう焼け野原になった世界をただただ進むキャラバン。
 ――ですが、ほとんど関係ありません。
 なぜなら、夜営の間に少女に物語を語るだけですから。
 

●目標
 『物語を語る』、あるいはミアプラと夜通しお話をする。

●NPC
 『ミアプラ』
 通称はミア。十代半ばほどの見た目で、旅慣れている具合が見て取れます。

●備考
 この話では特別な指定がない限り、ミアプラと二人きりで
 夜の焚き火の前で話すというシチュエーションに固定されます。
 もし同行者がある場合はプレイング中に指定ください。

 また全1章のみで、年の瀬の前までには受付を終了する予定です。
 複数回参加も構いません。冒険は、一夜のみではないですから。

●サンプルプレイング

そうだね、なら今までの冒険の話をしようか。
ずっと旅をしてきて、楽しいことも、つらいことも、失ったものも、得たものも
本当にたくさん、たくさんあったんだ。
後悔してないか、って聞かれたら「そんなことない」って言ってたけどね。
実は、後悔もしたんだよ。これは、内緒のおはなしね。



だから、此処にいた僕らの話を、しよう。


あなたは、彼女と話をする。
 どんなことでもいい。
 選択肢よりはプレイングを優先します。
 あくまでも貴女が残したいものの、指標です。

【1】ミアプラに夜通しお話しをする
『あなたがはなし』をします。
あなたのはなしはこうして残るでしょう。

【2】ミアプラと夜通しお話しをする
『あなたとはなし』をします。
話したおもいではこうして残るでしょう。

  • 千と一つの物語完了
  • きみも、かれらも、そしてぼくも。此処にいた証を、どうにかして、残したいから
  • NM名玻璃ムシロ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年11月09日 21時35分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

 星空の美しさは、どこであろうが変わらない。
 美しい月夜だ、と『白のサクリファイス』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はミアプラの横に躊む。白の衣は暗闇の裡で焚き火の炎を受けて浮かび上がり、まるで夜空の星のようだった。

「……私の故郷では、煌めく星と星を線で結び、その流転の内に物語と運命を見立てたものだった。要するに、星座の話だ」

 貴方がたの間にも星座という概念はあるのか、と問いかければ少女は肯く。

「あたしも、妹も、名前は昔あったお星さまからとったんだって!」

 遠くを旅してしまえば、星の形も名前も違う。同じ星でも、違う国では物語も違う。だから、すっごい気になるの、と少女はルブラットの白い仮面と、その奥にあるだろう瞳をじっと見つめる。わくわく、そわそわと云った様子はどうしても隠しきれないようだった。

「故郷から遠く離れた今、同じ夜空は臨めないけれど、星座に擬えられた物語を語るだけなら充分に出来るよ。何、私も昔は占星術を嗜んでいたものでね」

 どんな話が聞きたい? 勇敢な英雄の物語もあれば、特に益体もない話もある。全部でも構わない――と言い終わる前に迷わずに「全部!」と元気な返事である。仮面越しの表情は窺いしれぬものの、恐らく聊かの苦笑交じりの声が、話を紡ぎ始めた。

 英雄の話、星詠の話、なんてことのない、話の数々。
 それらを語り終えられるような次の街までは、まだまだ遠かった。

成否

成功


第1章 第2節

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

 焚火の弾ける音がする。『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は風に揺られる炎の方を見つめたまま、口を開く。

「ある一人の、男の話だ」

 なんて変哲もないただの技術者だった。ある日そいつは、存在しない物に家族を殺されたと復讐に走った。狂った復讐の果てに、そいつも作った道具に危惧されて殺された。
 
「彼は幸せだったのだろうか」

 炎が燃える。命も、復讐も燃えて、燃え尽きる。
 ミアプラは未だ答えない。護衛の方を見れば、夜のような黒の肌が見えた。

「これもある女の話だ。彼女は自分の存在意義がわからなかった」

 姉妹がいたが、彼女たちは自分の見つけた存在意義の為に動いていた。見つけられなかった女も、ようやく自分の意義を見つけたが、大義を果たした後には何も残らなかった。

「そいつは変われない自分を隠してまで、存在意義のための理由を作った。そいつが今満たされているのかはわからない」

 近いうちに死神が来る。そう言った瞬間に冷たく強い風が吹き、黒の肌に影が落ちる。そうして伺えなかった表情は、再び照らされたときには何もなかったかのようなそれだった。

「あたしはね、分からなくていいと思う」

 納得できない『真実』よりもわからないものはわからないままでいい。それが目の前の護衛さんの求める答えかは『わからない』けれど。少女はそう答えた。
 いつか燃え尽きるだろう目の前の焚火は、パチリと弾けた。

成否

成功


第1章 第3節

安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

 夜風は冷たい。
 『君よ強くあれ』安藤 優(p3p011313)は目の前の焚火から、こちらを見つめる少女――ミアプラの方へぐぐと顔を向けた。
 優のギフト……『追憶者の図書館』と名付けられてるそれは、いわばミアプラが手ずから記そうとしているそれの完成形のようなものだ。自分たちが歩んできた軌跡が記録され、蓄積されている。
 何を思ったのか、どうしていたのか。それが記録されている。

「申し訳ございません。実は私、人と会話するのが不得手で……。よかったら、逆に聞かせていただけませんか? 例えば……あなたの妹さんについて。」
「え! あたしの――ベナトの話を、聞いてくれるの?!」

 その言葉にミアプラは嬉しそうに顔を綻ばせた。それは、ミアプラのノートには残されないだろう話。彼女の話だった。

「ベナトは、あたしたちの中で一番の末の子なの。かわいくて、寂しがり屋で……だれよりも、あたしたちを心配してくれた」

 けれど、隊商にはどうしても連れてこられなかった。一人だけ残してくるしかなかったのだ。旅に出るときも引き止められた。でもたくさんの思い出話と、本物の星を『私達の妹』に見せてあげたかったのだ。

「あたし達の希望――星だったんだ。ベナトは」

 たとえその妹が、肉体のない人工知能だとしても。この憶い出が誰かの記憶に少しでも残るのなら。

「聞いてくれてありがとう、護衛さん」

 冷たい夜の空には、遠く星が煌めいていた。

成否

成功


第1章 第4節

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

 炎が小さく爆ぜる音が暗闇に響き、二人の少女の頬を照らす。少女のうちの片方である護衛さん――『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は「故郷の、昔話、だ」とゆっくり口を開いた。

 そこには巨大な鯨が居た。大変寂しがりやだが、大きすぎてうっかり近付くもの皆飲み込んでしまい、怖くて誰も近付かない。
 独りぼっち、悲しむ鯨に魔女が魔法の歌を教えたという。夜、鯨の歌を聞いたら皆、鯨の元へ行ってしまうが、やはり皆飲み込まれてしまう。
 困った皆に魔女が魔法の歌を教える――鯨の歌が聞こえぬ程よく眠れる子守唄。
 そうして鯨の歌は眠っている人々には届かなくなり、鯨に飲み込まれる者は居なくなった。

 誰も来なくて寂しい鯨は更に大きな声で歌う。天に届くほどの歌を歌えば月が話しかけてきた。
 鯨の話を聞いた月は「一ヶ月に一度だけ歌えば鯨に会いに来る」と言う。

「それから、鯨の歌が響き月が大きく近付いて皆が子守唄で眠る夜。その日は満月と呼ばれ、魔女は満月の夜は一際魔力が強くなったそうな」
 こんな話、だ。そう締めくくった話にミアプラはきれいなお話だ、といったあとに空を見上げる。

「今日みたいな夜も鯨が歌ってるのかな」

 空には大きく丸い、お月さま。鯨のように大きな雲がそんな月の下をのっそりと泳いでいく。
 吹き渡る風に乗って、どこか遠くから歌が聞こえるような――二人には、そんな気がした。

成否

成功


第1章 第5節

 斯くして、夜が明ける。
 夜通し話したのか、あるいはそれよりも早いうちに眠りについたのかは違うだろう。しかしながら時の流れというのは平等に訪れるもので、空の上にあった月もいつの間にか西の空に薄ぼんやりとした白い姿を見せつけるだけとなり、夜のくらやみも何処かへと消えていってしまっていた。
 夜が明けたならばまた廃墟と化した世界をひたすらに進む毎日が来る。もう残骸でしか無くなってしまった焚火とは違う場所から冷たい朝の風に混ざるように良い匂い――出発前の朝餉のそれ――が漂う。これを食べたら、出立の時間だろう。

 からから。からから。
 車輪は回り、隊商は進む。

 夜が来れば、宙の星々が紡ぎ結ぶ物語を。
 夜が来れば、いつか燃え尽きる黒の話を。
 夜が来れば、あの日語った『あたしたち』の話を。
 夜が来れば、空を泳ぎ哭く寂しがりの鯨の話を。

 あの日の思い出を、話を、思い出しながらあたしたちは悠久の旅路を進む。
 それこそ、いつか燃え尽きる小さな星でしかないのだとしても、きっと誰かにこの光は届くから。

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