シナリオ詳細
ゴブラ叩きしようぜぇぇ
オープニング
●いぃぜぇ
それは幻想の都市郊外に点在する農耕地帯の一つ。
小さな村となっているその地域ではそろそろ収穫の時期が近付いていた。
混沌ならではの特殊な作物もあれば、ウォーカー達にも広く知られる野菜なども獲れる。……と言っても、まだ収穫祭には早い。
この時期に獲るのは悪くなっている物や熟し過ぎた物。稀に呪われていたりモンスターになっている物は駆除を依頼する。
そして。時折畑を荒らしに出て来る害獣を追い払ったりするのだ。
「ひんぇえ~~! オラの畑が荒らされてるっぺよ!」
「こりゃひでぇや。ケイオスパンプキンが食い荒らされてらぁ!」
「見ろ見ろ! あの穴! 間違いねえ! モグラの仕業だぁ!」
その村のある農家。どうやらカボチャ畑が荒らされていたらしい。
犯人は通称モグラと呼ばれる大型犬ほどの土中生息型の獣である。その真名は『グラウンド・ドッグ』という草食獣だ。
このモグラ。こうして毎年一度はどこかの畑を荒らすのだが、その生態は主に地中の木の根を齧ったり花の根から栄養を摂っている。
しかも性質は温厚、こうして出て来られた農家は悲鳴を上げながら仕方なく自分達で追い払うのだ。
殺して食ってしまう事も昔は考えられたそうだが、どうもモグラの肉には毒があって筋張っているということから食用には出来ないという言い伝えと暗黙のルールがあった。
「まったく、今年はウチがやられっちまうとぁぬ……」
農家のおじさんは納屋から出て来ると、その肩に担いだ大きなピコピコハンマーを揺らして天を仰ぎ見る。
モグラの追い払い方は、殺すのも畑に毒を撒く事になるので基本的に流血は避ける方法を取る。
性質からしてこの獣は穴から出て来た所を適当に叩けば驚いて逃げ去る。この辺りの農家は都市で購入して来た激しくピコピコ鳴る大きなハンマーで叩く事で、追い払うようにしていた。
「そぉ~れ、出て来た出て来た!」
待ち構える事数十分。畑にもぞもぞと土が飛沫を上げたのを見て、開通したばかりの穴へ駆け付けた農家のおじさんはその手のハンマーを勢いよく振り下ろした。
ピコン!
ガッ
「……んぇ??」
「ゴォブブブ……」
まさかの白刃取り。
次の瞬間、なんか口元にアヒルみたいなクチバシを着けた緑肌のそいつはおじさんをピコピコと叩き伏せて返り討ちにしたのだった。
●モグラを叩いて撃退しよう
農家の男を前に何事か相談し終えた『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は朗らかな笑顔を見せ、卓を離れた。
少し離れた卓で待たされていたイレギュラーズは彼女の様子に首を傾げる。
「お待たせしました」
「さっきのは依頼人か?」
「ええ、皆様のお仕事です」
ミリタリアはごそごそと手元の鞄を漁ると、木鎚を出してイレギュラーズのいる卓上に置いた。
横には小さなモグラの模型だ。
「今回の依頼は王都郊外にある農耕地で『グラウンド・ドッグ』を皆様に追い払っていただきます。
通称モグラと呼ばれるこの動物は魔物とは違い、決して自ら人を襲う事は無いのですが。どうやら標的は凶暴な個体の”群れ”のようです」
模型を、二個。三個。
並べられたそれを目で追うイレギュラーズは「ふむ」と頷く。
「討伐まではしなくていいと?」
「ええ、どうやら『ハンマーで思いっきし叩けば帰るよ』との事ですので。
皆様には私の方から後で木槌を支給しますね。このくらいの大きさらしいので重いかも知れませんが、まあ皆様なら大丈夫でしょう」
ミリタリアがジェスチャーで見せた木槌の大きさは、小柄な人間一人を振り回すかのようなサイズ感だった。
訝し気に見て来るイレギュラーズへ、彼女は一言「農家の方は逞しいんですよきっと」と言って頷いて見せる。なるほど、と一同は何となく納得してしまう。
「モグラの数は推定で15体。皆様にはこれを現場の畑で迎撃、抵抗して来る個体の全てを全力で殴って下さい」
「死なないのかそれは」
「依頼人の話では思い切り殴って大丈夫との事ですし、恐らく大丈夫でしょう」
世間知らず。或いはど忘れしてしまった一同は誰もそれに異を唱えない。
簡潔に説明を終えた彼女は、最後にイレギュラーズへブレた写真を渡してから告げた。
「これがモグラの写真です。抵抗の際に戦闘のような状況になるでしょうが、そこをガツンとやって追い返してくださいね」
ふふ。そんな調子で小さな木槌で模型をコツンと叩いた彼女は卓を立った。
彼女が自身の勘違いに気付いたのは、結局この依頼が全て終わった後だった。
●どこかの洞穴の中での作戦会議
ばかな連中だ。
よくわからない獣の格好を真似て地中を掘って畑を襲えば、急に人間達は手加減をしてくるのが最近わかった。
つい最近までは女子供を襲ったり美味そうな食べ物を持った男を殺して奪っていたのだが、その度にやけに強い人間がこぞって報復に来た。
仲間もほとんどが死んでしまった中、この奇策を見出したゴブリンは今では仲間内で英雄扱いである。
【ゴブブブ……】
【GBRRR……】
腹が膨れて満足そうに眠る仲間を見てそのゴブリンはニヤと笑った。
また直ぐにあの農家の畑を襲いに行こう。冬は近いのだから。
そう考えて、カボチャをくりぬいて作った被り物を頭に被ったゴブリンは盗んで来たスコップを担いでせっせと掘り始めるのだった。
- ゴブラ叩きしようぜぇぇ完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月31日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
収穫祭も目前とした日の朝。
依頼主の畑へ集まったイレギュラーズは各々木槌を肩に担ぎ、じっとその時を待ち始めていた。
「今回はモグラ叩きのお仕事なのですね。何だかとっても楽しそうなお仕事ですが、お給金までいただいてよろしいのでしょうか」
『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)は足元のカボチャに気を付けながら、段々と離れて行く仲間へ向けてそれとなく声をかける。
それに対して肩をヒクン、と動かす者が一人。
「農家の皆様も毒をもったモグラが潜んでいては安心して南瓜を作れません、南瓜が作れなければ今年の収穫祭は盛り上がりに欠けてしまいます。
収穫祭の野菜の主役は南瓜だといっても過言では御座いません。お祭りは奇術師の舞台でもあります、そのお祭りを最大限に幻想の皆様に楽しんで頂くためにも、モグラは叩きのめします!」
熱い思いを籠めてそう宣言した『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は勢いよく木槌をスイングして見せた。
「まぁ、そんで、そいつを殺すと、毒で畑が駄目になるから、叩いて撃退しろってことだよな。モグラたたきをやれってことなんだろうが……『他人事じゃねぇ!!』」
「毒の血を持つモグラか、なれば新しいサンプルとして回収したいものだ」
ミーアキャットも穴掘り生物であるがゆえに、『小さい体に大きな勇気を』ホリ・マッセ(p3p005174)はまたもや同族討ちめいたものを感じずにはいられない。
一方で『バトロワ管理委員会』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は中々珍しい生物と聞くグラウンド・ドッグに興味が尽きない様子だ。
と、畑の中を歩いていたホリが被害に遭ったと見られるカボチャの傍に不審な足跡を見つける。
「にしちゃあ、なんか、妙だよな。別の何かが、いる予感がするぜ」
「どうやら畑にモグラと、それ以外の何かも居る様な気がします」
彼の言葉に同意を示したのは『ロストシールド』イージア・フローウェン(p3p006080)。
「この手の依頼は対象以外の敵も居るはず。そっちは処遇何も聞いてないしふっ飛ばしても構わないかしら」
『黒焔の運命に導かれし戦乙女』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)の言う通り。
どんな依頼、戦場にも、予測出来ない事はある。
例えばゴブリン退治と思ってたら他にも強盗が出たりする事もあるだろう。精霊を説得する事もあるかもしれない。
モグラだろうと慈悲は無く。モグラ以外なら更に全力で轢けばイイのだ。
「では皆様でゲームをしてみませんか? 誰が一番モグラとその他を叩けるかを競い合うというのは如何でしょう?」
「誰が一番多くモグラを叩けるか競争なのじゃー!」
「穴から出てきた所を叩く……か! なんだかこんな遊び……聞いた事があるなぁ……!
仕事だし、叩かれるモグラの事を考えるとちょっと不謹慎かもしれないが……ちょっと楽しそうだな?」
幻の言う案に一同は賛同する。
ただ黙々と畑の中心で立ち尽くしているよりも、競い合っているという明確な意識がある方がやる気は出ると言うもの。
『世界喰らう竜』ヨルムンガンド(p3p002370)や『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)だけでなく、畑のあちこちからちょっとした人間の背丈サイズ木槌をぶんぶん振り回す音が響き渡る。
なんだこいつらこええ。これから畑に顔を出すであろう者共が見ればきっと顔を引き攣らせて逃走していただろう。顔を出した時点で既に時は遅いのだが。
さて、さて。
一同ともに一様にして、それぞれある程度の間隔を空けてはモグラが出て来そうな位置を見張ろうと広がって行く。
幻は自身の近くにメカ子ロリババアを待機させて点数を稼ごうという企みだろうか。
見よ、メカ子ロリババアは木槌の重さによって首元のジョイントが悲鳴を挙げている。老婆の様な掠れた鳴き声がデジタルステレオ混じりに漏れ出ていた。
そんな事もいざ知らず。彼等が配置に着いてから暫しの間。
陽が僅かに傾き始めた頃に、不意に畑の何処かで土中を掻き分ける、くぐもった音が聴こえて来た。
刹那に反応するSuviaと幻は自らの技能によって周囲の環境を味方につけた事で、その位置を特定し。
微かに遅れてそれとなく木槌を振り被ったデイジーは高らかに周りに向けて叫ぶ。
「くっふっふー、皆の者! ヨーイ、ドンッ!」
●
ヨロヨロの一撃を受け止められたメカ子ロリババアが殴り倒されてカボチャに頭から突き刺さる。
そんな事も知ってか知らずか、見事な一撃をかます事に成功した幻はその凛とした表情に僅かな弛みを作った。
「……!」
綺麗に木槌が土中から出て来た何かの頭部に沈み、一気に穴の底へ突き落したのと同時に響き渡る、ズバァァンッ!! という炸裂音。
感触と演奏共に言い様の無い達成感を彼女は感じていた。
「なんて爽快なんでしょう!」
振り返り様にフルスイングされる木槌。ぼぐそぉん! とエグイ音と共にメカ子ロリババアの方にぽっかりと空いた穴へ『モグラ』を叩き落とす。
その際に小さく「ゴブー!?」という悲鳴が聞こえて来たのだが、最早そんな些細な事は気にしていない。
すかさず幻は大地に手を突いたのと同時に問いかける。
「ここから一番近くの貴方の中を潜って接近している動物はどっちに向かっていますか───!」
──返答は、あった。
精度にばらつきのある無機疎通、しかし『時期』が『時期』だからか。土壌に含まれる小さな彼等は一斉に指差す様に彼女への答えを示した。
幻の視線の先、十数m離れた場所で木槌を振り被るはイージア。
「運動は少し苦手ですが、頑張りますね」
モコモコモコと土中で蠢く気配を探り出す彼女はがっつり立ち回りながらそんな事を言う。
カボチャの隣をドスン。外れ。
大きなカボチャの間にドスン。スカ。
陥没した地面へドズン。ミス。
矢鱈目鱈に木槌を連打する細身のエルフ聖職者(プリースト)の絵面は非常にパワフルだが、一見してそこには彼女なりの戦略が籠められていた。
次第に彼女の周囲が穴ぼこだらけとなるのは必然であったが、同時にそれだけ打ちまくる彼女から逃れようと土中で蠢く『モグラ』は直線的に移動する。移動しているその ”音” を彼女の耳は捉えていたのだ。
「これで一点ですね」
無口そうなイージアは微かに嬉々とした雰囲気を滲ませて一っ跳びし、ひゅるんと振り仰いだ木槌を勢いよく目標へ叩き込んだ。
一体誰が運動苦手だと言うのか。土中で脳天を一撃されて瀕死になっている『モグラ』はきっとそうツッコミたいに違いない。
同じ要領で更にもう一匹轟沈させる。
イージアは半ば盛り返した土でボコボコになった周囲を見渡しながら視線を巡らせる。果たして『モグラ』の通る穴はどこまで何処と繋がっているのだろうか。
「くっふっふ、これが噂に聞くモグラ叩き! いっぱい、叩いて賢い妾が一等賞をいただきなのじゃー」
んしょ、と。小さな肩に木槌を背負うデイジーは鼻歌混じりに次に『モグラ』が出て来るであろう位置を予測して動く。
モコモコモコ、土中で蠢き盛り上がる畑の面を眺める。
「うむ、しかし農家の畑を荒らすとは困ったケダモノ達なのじゃ。ここは一つ偉大なる妾が懲らしめてやるのじゃ!」
荒れて行く畑を見て思う事がない事もない。しかし、せっせと木槌背負って駆けて行く彼女は直ぐにふぅと息を吐いて立ち止まってしまう。
「うーむ、しかし木槌とやらは中々重いのじゃ」
器用に片手で魔術書を開いたデイジーは「妾は非力ゆえな」と自身の木槌に神秘の力を込めて、のんびりと、あるいは優雅に木槌を振り上げて歩いて行く。
そこで、丁度彼女が待ち構える近くで今にもモゴゴゴ……と土中から這い出て来ようとする標的を見つけた。
「む、そこかっ!」
ドゴォッ! 出て来た『モグラ』の是非を問う間も無ければそのつもりも無く、【衝術】を纏いしトールハンマーが如き一撃が対象を殴り飛ばした。
物理と神秘が交わる時、物語は始まる。
「モグラはか弱い生き物かも知れぬ。……じゃが、妾の方がか弱く可愛い故どれだけ思い切り叩いてもおーけーなのじゃ」
ふー、と。良い仕事をした感たっぷりに木槌を一回しするデイジー。
「むむ、これは幸先の良い」
モゴモゴモゴ。彼女の背後で蠢く気配に先んじて振り下ろす木槌。
下方に向けて生じた【衝術】のエネルギーは逃げ場のない土中で暴れ回り、彼女の真下で崩落を引き起こした。
結果、派手な轟音に続いて何とも言えぬ悲鳴が更に二つ土の下で響き渡ったのだった。
土砂が撒き上げられた様子を傍目に、ヨルムンガンドは木槌を勢いよく振り下ろした。
「結界を張っておいて良かったな、モグラ撃退に集中できる……!」
カボチャを傷付ける心配が無い彼女は安心してその膂力を充分に発揮する。
例えば狙いを外しても特段、足元が陥没する事は防げた。下手に土砂が撒き上がったり、下手に気にし過ぎて動きを阻害される心配が無い。
これは例えるなら、不安要素を取り除いた状態である。
「何だか農家の話だと白羽取りされた? 時もあったみたいだけど……
もし白羽取りされたらそのまま穴から引っ張り上げて、懲りるまで叩いてやろう(にっこり」
さて、では答え合わせである。
何の答え合わせかと問えばそれは勿論彼女がいま言った『白羽取りをされたら』である。
あちこちで「点数ゲットなのじゃー」とか「いえー!」という声が聞こえて来る中、丁度移動をして獲物を捜していたヨルムンガンドの足元へ何かが蠢く音が。
「……!」
狙い澄まし、溜めに溜めた一撃が振り下ろされる。
【GORRBB……ゴブ?】
刹那に飛び出したのは何という間の悪い事に、なんと本当に白羽取りを狙っているゴブリンだった。
カボチャをくりぬいたフザケた被り物をした一匹のゴブリン。これが『モグラ』の正体だとイレギュラーズの誰が果たして気付いたのだろうか。
────ゴシャァァアッ!!
……正解はだれも気付かないし、そして彼女の一撃を白羽取りしようとしたゴブリンは壮絶な音と共に地下へ返り討ちにされた。
彼(リーダー)に続こうと思っていた仲間はスコップ片手に怒髪天も良い所の様子で飛び出すが、次の瞬間に待っていたのは後悔の二文字。
「……あ! やった、そっちから出て来るとはついてるな……!」
振り返るゴブリン。仲間に埋められて蓋をされてしまった穴。まさかの反応値ダイスが荒ぶるヨルムンガンド。逃げる前にそもそもターンは彼女のターン!
【ご、ゴブ……】
スコップは武器になると言うが、果たして自分より大きな木槌を持った相手にそれが頼りになるかと言えば、答えはノーだろう。
彼はカボチャの残骸を残して畑の一部となった……。
●
モココココ……ズドンッ!
モゴゴゴゴ……ドズンッ!
ズモモモモ……ぴこん!(口で言っただけ)
広大な畑を襲った『モグラ』の群れはその尽くが迎撃され、まともに姿を現した者など果たして何匹いたのだろう。
しかしそれはそれ。
イレギュラーズの視点で言えば結果は上々。木槌を振るいまくる一同の活躍によって畑の襲撃者は順調に出現頻度を減らしている。
「ちぇすとぉ!!」
それまで辺りを見渡していたホリも流石に埒が明かないと感じたか、丁度自身の近くでカボチャを盗ろうとしている『モグラ』を見つけた瞬間に飛び掛かって行く。
自分より大きな木槌を振り被った彼は大上段からの振り下ろしで標的を沈めた。
が……穴へ落ちる前に彼は『モグラ』の首根っこを引っ掴むと引き寄せた。【動物知識】に当てはまらない、違和感を覚えた為である。
「……これは」
罅割れた『モグラ』の体表。どうにも見覚えがある丸みのある頭部のシルエット。何だか聞いた事のある鳴き声。
何だったら所々にはみ出して見える緑の肌は。
「これ、カボチャで作った着ぐるみじゃねぇか!! しかも、入ってるのって、ゴブゴブ言ってるから……ゴブリンか!!」
【ゴブブ……】
頭部の被り物を外したり、メイクを落とせば露わとなる狡猾で知られる小鬼の魔物。
木槌を受けて瀕死となったゴブリンが出した呻き声はまるで正解を告げるかのよう。
「まあ……モグラの正体はゴブリンですの?」
「おやおや? 小鬼が紛れ込むとは。
だがなるほど、村の者に聞いたところ木槌を使うのは妙に思ったがこれはこれで都合が良し」
木槌を背中と肩、柄頭の三点を利用する事で重量を殺さずにSuviaがゴブリンを叩いたのと同時、ホリの告げた声が周りの仲間達に広がる。
だが、既にどうだろう。
これは仕留めた数を競うのではなく『叩けた数』を競うゲーム。しかもその対象は端から決めていたではないか。
「あははははははは! うふふふふふふふ!」
幻が木槌を振る! 振る!
止める理由など無い、何故なら相手はゴブリン! モグラだろうと何だろうとその手が握り締めるハンマーを振り下ろせばいいのだ!!
畑の隅でゴブリンに囲まれてバナナの皮でぶたれまくっていたメカ子ロリババアが一匹だけ蹴り倒す!
嗚呼、世に平穏のあらんことを!
「お腹が減ってるのもわかるが……ここの野菜は頑張って育ててる人が居るんだ……! 食べられたりするとその人達が困ってしまうから……君達に痛い事をして追い返さなければいけない……
お互い嫌な思いをしない為に……どうか荒らすのをやめてくれないか? この呼びかけを無視するやつはもう容赦しないからなぁ! 泣くまで叩くのやめないぞ!!」
どうやらゴブリン達は失神で涙が出るまで許されないらしい。メカ子ロリババアに群がっていたゴブリンが一匹錐揉みして吹き飛ばされる。
「ゴブリンの血が人間の血と同じ位美味しいものだったら、もっと張り切って狩るのだけどね」
ヨルムンガンドの方から飛んできたゴブリンを避けながらアリシアの木槌が横薙ぎに振るわれる。
上手く味方の動きを見ていた彼女が差し込んだ一撃は、見事メカ子ロリババアにバナナの皮ビンタしていたゴブリンを殴り飛ばし。そのままそのゴブリンはマジックロープに縛られて気絶させられる。
「モグラ以外ならばわざわざ木槌を使う必要もありませんからね」
「言われてみれば、そうね……」
イージアの言葉に頷くアリシア。
それでもやる気が出ず溜息が漏れるのは、やはりゴブリンが ”マズそう” だからだろうか。
改めて気を引き締め、半ば乱戦状態と化して来た中を彼女達は次なる『モグラ』を探して駆け出して行く。
「うふふ、何だかお仕事なのに皆様とっても楽しそうですの」
「くっふっふ。楽しい事は皆で楽しめばもっと楽しい物じゃ! あー、疲れたのじゃー。もう、木槌を振れないのじゃ~」
デイジーに誘い出されたタンコブのあるゴブリンがSuviaに更にコブを増やされる。
とっとと逃げればいい物を、手加減している馬鹿な人間とばかりイレギュラーズを勘違いしているゴブリン達は、そのまま殆どが捕まるまで『モグラ叩きゲーム』に付き合うのだった。
●ゲーム・オーバー!
土中へ逃れようとするゴブリンの尻目掛けてホリのハンマーが横薙ぎスイングで襲い掛かる。
「吹っ飛べ、大霊界!!」
【GOAGYAAAAA!!?】
BOMB! と吹っ飛ぶゴブリンはそのまま捕縛される。
気が付けば、陽は落ち空が赤く染まっていた。
ほんの少し疲れた様子を見せる面々の下へ、丁度誰かが近付いて来た。
「おうい、どうだとよ? モグラの奴等ぁ帰ったけ?」
「ええ! というよりどうやら犯人は──」
とってもスッキリした様子で微笑んだ幻が向き直り、農家の依頼主へ説明した。
捕えたゴブリンは彼等に引き渡され、後々ギルドと領主へ報告も兼ねて『一部』を引き渡すのだという話を聞かされた。
尤も、それで直ぐにゴブリン被害が無くなる保証は無いだろうとも。依頼人は少し落ち込んでいた。
「なるほど……それなら良い案があるのだが、どうかね?」
「?」
────────
────
──
【GOUBLLLッッ!!】
『くそがああッッ!!』
楽しい楽しい収穫祭の筈だったというのに、とんでもない邪魔が入ってしまった。
仲間の半数は死に、半数が捕まった。
憎し! 憎し憎し憎し! この肉染みをどう晴らしてやろうか……!
二匹の下っ端ゴブリンに肩を借りながら地中に掘った空洞を歩いて行く、リーダーとして崇める仲間は既にいない。
【グルルルル……】
こうなれば街道へ出て女子供を攫ってやろう。
濁った眼を更に赤黒く光らせて首領ゴブリンは唸り声を上げた。
【グブブ……!】
【GURE!?】
まさか。背後から響いて来た仲間の声に三匹は振り向いた。
目を凝らせば穴の向こうから駆けて来る音が聴こえて来る。仲間だ! 頭に包帯を巻かれたゴブリンが一匹逃げて来ていたのだ!
一体、どうやって? と首領ゴブリンは近付いて来た仲間を迎えて首を傾げた。
瞬間。
「冷酷だろうが下手に知恵を回す弱者程性質が悪いものは無いのでな」
ゴブリン達の頭上が突然崩れたかと思えば、灯りが差し込んで男の声が冷徹に響いた。
首領ゴブリンは土砂に塗れ喘ぎながら、頭上を仰ぎ見て叫ぶ。
【『き、貴様等はあのイレギュラーズとかいう……!!』】
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
結果、何処かにひっそりと残されていた巣穴も潰され。収穫祭まで農家の畑は誰にも荒らされなくなったという……
え? 本来のモグラ? 隣町のブルボン坊ちゃんの畑がめっちゃ荒らされていたそうな。
お見事でした。ナイス・スイング。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。これで皆様が楽しめるハロウィンが出来る事でしょう。
それでは良い収穫祭をお楽しみ下さいませ。
GMコメント
こんばんは! ちぃくわブレードです、よろしくお願いします。
以下情報。
●依頼内容
畑を荒らすモグラの撃退
●情報精度A
不測の事態は絶対に起きません。
●モグラたたき
皆様には情報屋から大型の木槌を支給されます。これを用いて殴ればゴブリンとかは半殺しになるかもしれませんが、噂のモグラは平気らしいです。
ロケーションは四方120mのカボチャ畑の中でランダムにモグラが出て来る想定です。
恐らく相手は何らかの抵抗を見せるかもしれませんが、依頼人の話によればスコップくらいしか持ってないみたいなので叩いて黙らせましょう。
※モグラ叩き判定!
【】に1~15までで好きな数字をプレイング一行目に書いておくと通常の移動とは別に、モグラの穴への距離を縮める効果を持ちます。
木槌を用いる場合に限り、戦闘時のFBの値を-10します。
以上。
収穫祭も近付いて来た所で、先ずは畑を守りましょう!
皆様のご参加をお待ちしております。
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