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シナリオ詳細

<神の門>聖女と踊れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女と聖女
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が行方をくらませた。
 その情報は、マリエッタに近しいものたちのも、同様にもたらされていた。
 状況から鑑みれば――たのイレギュラーズたちと同様に、遂行者たちに『招待された』と見るのが当然といえた。
「……」
 複雑そうな表情を、ユーフォニー(p3p010323)は浮かべていた。『テュリム大神殿』を進むユーフォニーの心情は、絡めとられた縄のように、シンプルにはいかない。
「悩んでるの?」
 セレナ・夜月(p3p010688)が言った。
「マリエッタの事……」
「それは」
 ユーフォニーが言う。
「……『彼女』の事を、全面的に受け入れることはできないかもしれない……と、は、」
 そう、考えを吐き出すように言った。
 マリエッタ・エーレイン。死血の魔女であった女。いや、今もまた、それは変わらないのではないだろうか?
 結局は、彼女はいまだ魔女のままであり――このまま、いずれ魔女としての本性を取り戻すのではないだろうか?
 その片鱗を、ユーフォニー感じているような気がした。マリエッタの、言動の端々から感じる、何か。こわいもの。そういうものを、ユーフォニーは敏感に感じ取っていたから、マリエッタの行動のすべてを、受け入れることはできないかもしれなかった。
「でも……!」
 対照的に、セレナはマリエッタの事を信じているともいえる。彼女は変わった。変われるのだ。だから、魔女ではない。そうはならない。
「マリエッタは、今のマリエッタなのよ……!?」
 セレナがそう叫んだ瞬間、世界が暗闇に閉ざされたような感覚を覚えた。元入り神の国。敵地である。その中でも、より深い、敵の懐へと入り込んだような感覚。
「まだ、あの魔女に騙されているのだね」
 声が響く。イレギュラーズたちは、一斉に身構えた。声の方に視線をやれば、そこには白衣の遂行者、グウェナエル・クーベルタンの姿があった。
「遂行者か……」
 ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)が声をあげる。油断せず、身構えながら。
「以前の状況から、少し時を重ねた。
 それで、彼女は、どうなった?」
 グウェナエルが言う。
「より、魔女的に――悪しき様を見せるようになったのでは?」
 その言葉に、ユーフォニーがわずかに息をのんだ。それを察したように、セレナが叫ぶ。
「そんなことはないわ! いい加減なことを言わないで!」
「挑発だ。乗るな、セレナ」
 ムエンがそういう。グウェナエルが静かに嘆息した。
「まるで盲目だ。あの魔女は、日に日に自らを取り戻し、やがて君たちに牙をむくだろう。
 間違っているのは、あれを救世主として野放しにしている世界だ。
 ……ここにいる聖女、エーレインこそが、その証拠だろう?
 彼女は、世界に、牙をむいているんだ。
 イレギュラーズとて、その性質から世界に害をもたらすことがある。
 何度か見てきたのだろう。反転であったり、狂気に陥ったものであったり。
 彼女がそうならないと、どうしていえるんだい?」
「ここで言い争っても決着はつかん」
 ムエンが言った。
「マリエッタを返せ。要件はそれだけだ」
「もちろん、返すつもりはない」
 グウェナエルが言った。
「今は、サマエル様の面目もある故に、彼女に手を出してはいない。
 だが、用が済めば、私は確実に彼女を殺す。
 この聖女とともに」
 静かにたたずむ、聖女エーレイン。その目は相変わらず、うつろに、セレナを見ている。
「何よ……どうして、わたしを見ているのよ……!」
 セレナが叫ぶが、しかしエーレインは何も言わない。ただ、つぶやくように「かえして」というのみである。
「もう一度聞こうか。本来なる、貴方たちの友。エーレインとともに歩む気は」
「ないな」
 ムエンが言った。
「ユーフォニー。迷いはあるかもしれないが、今は抑えてくれ。
 こいつらを倒さなければ、その迷いに答えを出すこともできないだろう」
「……ええ」
 ムエンの言葉に、ユーフォニーはうなづいた。
 友の場所へと至るための戦いが、ここに幕を開けようとしていた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 遂行者と聖女。これらを迎撃します。

●成功条件
 グウェナエル、エーレインの内、どちらかを戦闘不能状態に追い込む。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 友を救うため、そして遂行者たちとの因縁を絶つため、神の国へと進撃した皆さん。
 そこに現れたのは、遂行者グウェナエルと、聖女エーレインでした。
 彼らは、囚われたイレギュラーズの救助を、そしてイレギュラーズたちの神の国への侵入を妨害するために、皆さんの前に立ちはだかります。
 これを突破できなければ、この先に道がつながることはないでしょう。
 多くは語りません。敵を撃破し、先に進んでください。
 作戦結構エリアは、テュリム大聖堂廊下。
 光源はあり、周囲は充分に広いです。戦闘に注力してください。

●エネミーデータ
 『抜け殻の聖女』エーレイン ×1
 「かえして」と何事かを呟き続ける女性。アンデッドのようなもので、生命の灯りは感じられません……。
  体そのものが聖遺物といえる特殊な存在で、聖女と呼ばれた人物でした。
  そのため、元々の聖術に加え、『偽・不朽たる恩寵(インコラプティブル・セブンス・ホール)』で強化された遂行者陣営の魔術も行使します。
  非常に強力な後衛ユニットといったイメージで、特に『Mアタック』や『窒息』系列を使い、こちらのAPを減じてきたりします。
  多少の近接攻撃も行えますが、それでも得手は遠距離攻撃です。近寄って攻撃するのがいいでしょう。

 遂行者、グウェナエル・クーベルタン ×1
  遂行者の男性。魔種ですので、単純に強いです。
  剣を持った前衛攻撃タイプ。積極的に前に出て、『渾身』を持つ強力な攻撃をお見舞いしてくるでしょう。
  また、その鋭い刃による『出血』系列の付与にも注意してください。
  強力な前衛ユニットとして、エーレインの盾役としてふるまいます。『怒り』などでターゲットをコントロールされないようにご注意を。
  今回は、どちらかを戦闘不能に追い込めばいいので、盾の役割を発揮させながら、攻撃を集中させて倒してしまう、という戦法も考えられます。が、その間エーレインがフリーになってしまう可能性があるのが難点です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <神の門>聖女と踊れ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年10月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ

●聖女と踊れ
「私は、迷ってはいません」
 そう、『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は、静かにそういった。
「そうか」
 『焔王祈』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)は、優しく笑った。
「なら、行こう」
 そういって、構える。
「やはり――というべきなのだろうか」
 遂行者、グウェナエルは、嘆くように言った。
「君たちが、悪辣の徒とは思えない。
 やはり騙されているのだと、そう思う。
 それでも――あの魔女に与することをやめないのならば、私はいよいよ、君たちを許すつもりにはなれない」
 明確な――それは、敵意の発露だった。
 これまで、わずかに抱いていた同情の念のようなものを、理性で抑え込んだ様子であった。
「僕にとって、マリエッタさんはマリエッタさんだよ。
 過去にも因縁にも打ち勝ってほしい、大切な仲間の1人。
 エーレインは……見た目は似てても、僕にとっては別の人。初めましての他人さん。

 ……グウェナエル。
 似た他人を代わりにしろなんて傲慢な愚案、僕も断る。
 マリエッタさんを返せ。生かして帰せ。無傷で戻せ。死体や反転なんてお断りだ。
 マリエッタさんを殺すなら、その前に僕が貴様をぶん殴る。
 大切な仲間達や、仲間達の意志や願いの方が大事だからね……!」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は、一息にそういった。渦巻く怒りを、吐き出すように。グウェナエルはかぶりを振った。
「たとえあなたに怒りを持たれようとも――私はあの魔女を殺す」
 冷たい声だった。ヨゾラの怒りすらも、その冷たさを溶かすようなこともできぬであろう、そのような色だった。
「君の怒りのように、私の怒りもまた、滾っているのだ……」
「そうね。そうなのでしょうね」
 『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)が、あえて淡々と、言葉を紡いだ。
「出会う場所が、時間が、時代が 変わっていたなら 違ったこともあったかも知れないけれど。
 それは起こらなかったの だから ごめんなさいね」
「謝る必要はない。敵対する者同士だ」
 柔らかく、グウェナエルは言う。
「まさか――私を救ってくれるなどと思い上がらないでくれ。
 ここは傲慢の地とはいえ、ど」
「何が正しくて何が誤っているなんて、私は正直どうでもいいのよね。元の世界じゃ、帰る故郷を喪った身だもの。
 正誤も優劣もなく、後に語られるものだけが正史となる。歴史なんて、そうして勝者が形作ったものでしょうに」
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)が、澄んだ声でそういった。
「君は強いのだろう。あるいは、勝者の側にしかいなかったか、だ」
 グウェナエルは、怒るでもなくそういった。
「君の感覚は正しい。だが、そうだな。弱者が抵抗するくらいは許してくれ」
「魔であり、遂行者であるあなたが弱者を名乗るのは釈然としませんが」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が静かにそういう。
「それにしても、あなたの神のいう通り、ここが間違った歴史であり滅ぶべきというのなら、
 今を生きるあなた自身もそのご家族も間違った歴史の産物のはず。
 間違った歴史のモノを殺戮している執行者が間違った歴史のモノの仇を取ろうというのも、
 全く滑稽な話です。順番が違えば、自分で殺めていた命でしたでしょうに」
「矛盾か」
 グウェナエルは、苦笑するように目を細めた。
「結局私もそうだろうな。多くを殺戮して、自分の心地を満足させるだけに過ぎないのだろう」
「自覚しているのなら、踏みとどまりなさい。
 とはいえ、魔は世界に仇なすもの。
 生かしては、おけませんが」
 冷たく、しかし正しく、どこかに優しさをにじませながら、瑠璃が言った。
「いいや。私も結局、狂っているがゆえに」
 グウェナエルが剣を構えた。同時に、隣にいた聖女、エーレインの体に、魔と、聖の混ざり合った、不協和音のような力が巻き起こるのが分かった。
「聖女、か」
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が、そういった。
「私には、お前たちの因縁の、深いところはわからん。
 表層をなぞったとしても、それはお前たちの心には届かないだろう。
 私が届かせられるのは、拳だ。拳だけだ。
 だが、この拳が私のすべてだ。お前に、届けられる、すべてだ。
 だから私は拳を握る。全てを捨てて背水の心をもって、魔と遂行者に立ちはだかる!
 それでいいだろう?」
「有難う」
 グウェナエルが言った。
「それでいい。
 エーレイン。始めよう」
 じわり、と、エーレインの瞳にわずかな光がともった。それが、意思なのか、また違う者なのかはわからない。
「聖女エーレイン……!」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が、決意とともに声を上げる。
「確かにマリエッタは悪辣を為すようになったと思う。
 でも決して悪意あっての事じゃないわ。

 あの人は悩んでる。過去の罪に。
 あの人は苛まれてる。魔女の囁きに。
 あの人は、向き合おうとしてる。
 かつて為された全てと、これから為す全てに。

 マリエッタが悪を為すのは、それが自分の役割だって、罪深い自分が担う事だって考えてるから。
 あなたに向けた言葉もきっと、わざとそういう言葉を選んだんだって。
 それでも言い方はあると思うけど。

 わたしはそんなあの人の隣に居たい。
 ずっと傍に居るって伝えたい。

 死血の傍らに在るために、夜守の魔女はここに来た!
 邪魔はさせないわ!」
 じわり、と、エーレインの瞳に何かがともったような気がした。わたしを見ろ、夜守の魔女を見ろ、エーレイン。その心の何かを伝えて見せろ。
「……マリエッタがそちらに呼ばれて、お前も気が立っているだろう、グウェナエル。
 こちらも同じだ。マリエッタがお前らに呼ばれて姿をくらませて、私も気が立っている。
 ……この状況を奴は楽しんでいるかもしれないがな。困った魔女さまだとは私も思ってはいるからこそ、八つ当たりさせてもらう」
「いいさ。これも私の八つ当たりかもしれない」
 ムエンの言葉に、グウェナエルはうなづいた。
 刃を構える。しぃ、と、空気が緊張感を増した。
 ぱん、と何かがはじけるような音が聞こえた気がした。それが、きっと、お互いの敵意、闘気のようなものが、体を離れて、中空で衝突した音なのかもしれなかった。いずれにしても、そのように聞こえた音を合図に、一行は一気に石造りの廊下を蹴り進んだ。戦いの始まりを告げる合図は、そんな音だった。

●戦いの廊下
 この時、真っ先に戦局に反応したのは、ユーフォ―二―、次いで瑠璃である。
「連携を取らせたりはしませんよ、グウェナエルさん!」
 ユーフォニーがグウェナエルを『視る』。同時、その眼が淡く輝くや、ノーモーションで解き放たれる衝撃術が、グウェナエルを著しく後退させる!
「くっ……!」
 グウェナエルがそれを受け止める。ダメージは最小であるが、狙うのはエーレインと引き離すことである。
「まだ」
 瑠璃が小さくつぶやき、さらに踏み込んだ。ワイヤーを仕込まれた忍者刀が宙を舞う。速度を乗せた斬撃を、グウェナエルが受け止めた――その衝撃が、彼をさらに後方へと飛びずさせる!
「距離を取らせるつもりか……!」
「兵法の基本ですよ。連携などさせるものですか」
 瑠璃が継続して一撃を加えるのを、グウェナエルは振り払った。
「聖女よ、彼らの足を止めなさい!」
「――」
 グウェナエルが叫んだ刹那、エーレインは歌うように声を上げた。澄んだ音があたりに響くや、そこに聖と魔を混ぜ合わせた不協和音が、強烈にイレギュラーズたちの体をたたく。がじがじがじ、と砕けるような音が、体中から聞こえるような気がした。
「――ッ! 強烈、ね!」
 メリーノがさすがに表情をゆがめつつ、痛みをこらえた。仲間たちも相当の打撃を食らっているはずだ。
「ルチアちゃん、お願い! あなたが生命線よ!」
「まかせて」
 ルチアがその手を掲げる。歌う聖歌が光を呼び、仲間たちの体を包み込む。ルチアの歌が、仲間たちの痛みをいくらか和らげていく。
「かならず、支えてみせるわ」
 静かに――しかし決意とともに、ルチアは戦場を見やる。ヒーラーを買って出たのだ。その眼も思考も休まることはあるまい。仲間たちの消耗、戦場の移行、そして戦局を見て確実的確に仲間を癒す。その判断は指揮官的ともいえる。まさに、仲間の背中を預けられたのだ。
 そんなルチアが喉の枯れんばかりに術式を編み続けながら戦局を見れば、エーレインの抑えを引き受けるセレナが、激しい戦いを繰り広げているのが分かる。
「禍き爪よ、その聖なる衣をはがして!」
 セレナが叫びその指を掲げれば、禍の爪がエーレインを切り裂いた。その聖なる衣といえる結界を切り裂いた刹那、ため込んでいた毒素が破裂するように、エーレインの体を駆け巡る。が、彼女は反応を示さない。まるで、死んでいるかのように。
「嘘よ、あなたは死んでなんかいない。
 あなたの意志は、きっと、残っているはず……!」
 セレナに対して放たれた、魔と聖の不協和音。それを正面から受け止めながら、セレナは叫ぶ。
「お願い、教えてエーレイン!
 あなたの意思を!」
「無駄だ! 彼女もまた、魔女にすべてを奪われたのだ!」
 グウェナエルが叫び、合流を果たさんとする。が、それを止めたのは、ムエンである。
「マリエッタを誘ったのはお前じゃないとわかっている。
 だが言わせてもらうぞ『遂行者』。
 『マリエッタを返してもらう』」
 グウェナエルのふるった刃を受け止める。衝撃はムエンの体を強烈に殴りつける。が、そのその激痛をこらえながら、ムエンはその刃をたたきつけた。
「返してもらう、と言ったッ!」
 強烈な打撃を、グウェナエルは受け止めた。ずん、ととてつもない重さが、グウェナエルを押し付けるような感覚を覚える。その足を止めた刹那に、昴が一気に踏み込む!
「私には、最初から守るという選択肢がないんだ。
 徹底的に攻撃あるのみ――」
 その言葉のとおり――!
 危険を顧みぬ一打。
 防御をも無視する、痛烈なる打撃!
「立ち塞がるというのなら打ち砕く!」
 叩き、つける。拳を! 破城の一打!
「ぐ、うっ!?」
 グウェナエルが、その強打に呻きを上げた。昴の一打は、その魔の防を超え、すさまじい一撃を加えたのだ!
「だが……!」
 鋭くとがらせた刃は、しかしもろいという一面をも持つ。
 徹底的に特化した昴という刃は、魔の一打を受けるのには、脆かった。
 斬撃が、昴の体を切り裂いた。衝撃が、昴の意識を刈り取る。痛打の、代償。だが、織り込み済みの代償。
「お上品な戦い方が出来るほど育ちは良くないのでね」
 にぃ、と笑った。
 貫く、一振りの刃。
 その生き方でよい。
「グウェナエル?」
 昴が倒れるのと入れ替わるように、メリーノは突撃した。
 刃。
 つないだ道を、途切れさせぬように――。
「わたしは、最良を導きたい。その、道になるのならば――」
 斬撃が、グウェナエルを切り裂いた。
 仲間たちがつないだ道が、与えた傷が、ここに大きなそれを花開かせる。
「く、う」
 グウェナエルが、隙をさらした。
 その刹那――。
「わがままを」
 ユーフォニーが言った。
「ごめんなさい、でも――」
「お好きにどうぞ」
 瑠璃が言った。
「因縁の解消をしたいという”情”、理解できないではありません。
 とはいえ、こちらも救助に向かう身。あまり時間をかけずに頂けると助かります」
 そう、言った。
 ユーフォニーが笑う。
 そのまま、とん、とグウェナエルの胸を押して。
 諸共に、駆け抜けた。
 その一方で――。
「やるなら、今だ!」
 ヨゾラが叫んだ。
「傷も、魔力も、僕が癒す……その為に……いや、
 みんなの言葉を届けるために! それが僕が今、ここにいる意味だ!
 だから!」
 エーレインの強烈な聖魔の術式が、ヨゾラをたたいた。痛みに顔をしかめつつ、しかし、仲間のために立ちはだかる。
 それを――。
 セレナは、力強くうなづき。
「エーレイン! わたしを、見なさい!」
 そう、叫んだ。

●対話
「何を……」
 と、グウェナエルはつぶやいた。
 しっかりと、その手は、ユーフォニーのそれに握られていた。
「こうしなければ」
 と、ユーフォニーは語る。
「話を聞いてもらえないと思ったから」
 そう、言った。
「そのために――」
 私をとともに、戦場の外れまで飛び込んだというのか!
 信じられないものを見るような目で、グウェナエルはユーフォニーを見た。
 恐怖とかそういうものではない。何か、強い行動力に感服するような、そんな思いだった。
 だから、だろうか。感服というか、その行動に答えたくなったのは。
「私は」
 その思いを理解したように、ユーフォニーは言った。
「迷ってはいません。『姉妹』のことを、大切に思う。それは、変わりありません」
 その言葉を、グウェナエルは口を挟まなかった。うなづいたのだと理解し、ユーフォニーは続ける。
「以前の報告書も見ました。
 ……ごめんなさい。

 仮にも「姉妹」が貴方にしたことを……。
 魔女ではなく、「彼女の意思で」貴方の心を抉る言い方をしたのも……。
 わざとなら尚タチが悪い、と。
 ……悪を為すのは罪深い自分が担う事だと思ってるから、なんて。
 そんなのグウェナエルさんに関係ないですよね」
「言い訳は、結構だよ」
 優しく言った。
「それはあの悪辣の、本性なのだろう」
「いいえ。きっと、違う。そう思います」
 柔らかく、ユーフォニーは笑った。
「でも……貴方には、きっと関係のない、という気持ちでしょうね。それはわかります。
 それでも……いいえ、私は、姉妹のしたことを、言い訳しに来たんじゃないんです。
 グウェナエルさん、『あなた』です」
「『私』が」
 グウェナエルは、驚くように言った。
「何だと――」
「奪われた痛みは、彼女を磔にして歴史を正せば、本当に晴れますか?
 命は、痛みは、何をどれほど対価にすれば贖えますか?」
 まっすぐに、ユーフォニーはグウェナエルを見つめた。
 泣きそうにも見えた。
「答えが、見つかりません……でも、『そういう問いなのだ』とあきらめたら、ダメです。
 あきらめたら、あなたを救えなくなってしまう」
「私を……!?」
 グウェナエルは、今度こそ、心底驚いたようだった。
 目の前のこの少女は――。
 この期に及んで、魔を、私を、救おうなどと!?
「それは、傲慢だ」
 グウェナエルはいった。
「私の、歩んできたものをわからないからこそ、言える、ことだ」
「そうです。私、結構、わがままなんですよ」
 ふふ、と笑った。
「それから、自分勝手なのかもしれません……。
 遂行者とか魔種とかじゃなく、
 グウェナエルさんの心に、灯かりを。
 貴方の心を諦めたくない。
 貴方に寄り添いたい。

 そのためだけに、私はここに来たんです」
 その瞳の中に、グウェナエルは誰かを見た。
「マルセル……」
 娘の名を、つぶやいた。

 一方で――セレナは、手を伸ばした。イメージの中で。実際に手を伸ばしたのかもしれないし、心の中だけだったかもしれない。
 いずれにしても、セレナは手を伸ばしていた。エーレインに向けて。その、心に向けて。
 なぜ、わたしを見るのか。
 伝えたいことがあるのか。
「あなたは、かえして、というけれど――」
 その言葉の意味を。
「教えて――」
 気づいたら、見知らぬ屋敷の中にいた。天義様式のそれは、歴史を重ねた建物であることがわかる。
 これはイメージなのだ、とセレナは理解した。エーレインの、イメージ。かつて住んでいた、彼女の屋敷。
「手短に言いますね」
 と、エーレインは言った。
 奇遇なことに、セレナの知る姉妹と、似たような声であった。
「私は死んでいます。あなたの知る姉妹に、その血を奪われて。
 それはいいのです。私もまた愚かでした。
 恨みがないといえば嘘になります。
 でも……」
 そういって、イメージの中のエーレインは、かぶりを振った。
「いいえ、手短に、でしたね。
 私はさっき言ったように死んでいます。
 あなたの姉妹は、私の力を奪い取って、その人格をコピーしたけれど、それは私じゃないの」
 まっすぐ、そういった。
「だから、もしあの子の中に、あなたが善性を見出したのならば、それはきっと、あの子の中から生まれたものだと思うから」
 微笑む。
「支えてあげて。きっとあの魔女は、寂しがりだったんだわ」
「どうして、わたしに」
 セレナが、ようやく口を開けた。エーレインは答える。
「きっと、あなたが隣にいたから。
 それから、これは個人的なお願い。
 私を、空へ還して。
 今はもう、虚ろとなってしまったこの体を――」

「聖女よ、撤退を」
 グウェナエルの声が、セレナを、現実に引き戻した。そこにはもう、虚ろな目をした聖女の残滓しか残っていなかった。
「逃げる、のか」
 ヨゾラが言うのへ、グウェナエルはうなづいた。
「……そうだな。逃げさせて、もらう」
「ごめんね。わたしは わたしのお友達が願ったことを叶える それだけ」
 メリーノがそういうのへ、グウェナエルは苦笑するようにうなづいた。
「おかげで、少し冷や水をかけられたような気分だ」
 エーレインが、聖句を唱えた。とたん、神の国の現像がわずかにぶれ、次の瞬間には、グウェナエルとエーレインの姿は消えていた。
「よかったのですか?」
 瑠璃がそういうのへ、ムエンはうなづいた。
「ユーフォニーが選んだことだ」
「どのみち……捕縛は難しかったと思う」
 ルチアの言葉通りだろう。ここは敵のホームグラウンドなのだから。
「だが、とにかく勝った。それでいい」
 昴の言う通りだ。戦いはイレギュラーズたちの勝利に終わった。
 双方の心に、何かを残しながら。

成否

成功

MVP

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 遂行者は一時撤退。
 作戦は成功です。

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