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シナリオ詳細

<神の門>監視者、ハルジオン。或いは、極秘任務発令…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●監視者、ハルジオン
 イレギュラーズを侮ってはいけない。
 これまでの戦績を思えば、その事実は明白である。
 きっと彼らは、多くの犠牲を払いながら、数多の障害を乗り越えながら、それでもいずれは神の国へと足を踏み入れるだろう。
 そう判断した“元少尉”ハルジオン・ランチは独自に、そして秘密裏に行動を開始した。
 率いる部下の数は数名。
 かつて、アサクラ隊に所属していた頃より共にある、選りすぐりの仲間たちである。
「少尉殿。奴ら、やはり既にレテの回廊への進行を開始しています」
 回廊のどこか、巧妙に偽装された隠し部屋にてハルジオンは部下から以上の報告を受けた。部屋に集まっているのは、黒い軍服を身に纏った5人の男たち。
 アサクラ隊“特殊”斥候部隊の面々である。
 彼らの存在は決して記録に残っていない。彼らの部隊に目立つ戦果は存在しない。
 なぜなら、彼らはいつ何時も影に中に身を潜ませ、誰にも知られないままに任務に従事し、それを完遂して来たからだ。
「少尉殿……」
 部下の1人が、ハルジオンに声をかけた。
 黙したままハルジオンは片手を挙げて、部下の言葉を止める。思案しているのだ。怨敵イレギュラーズに対し、自分たちの取れる手段は何かを、どうすればイレギュラーズに最も痛手を与えることができるかを。
「我らはたった5名の部隊。真正面から戦ったとて勝ち目は薄い」
 静かに、ハルジオンはそう告げた。
 部下たちは何も言わない。ハルジオンの言葉が本当であると知っているからだ。
 だが、誰もが悔しそうに拳を握り絞めていた。
 勝ち目が薄いからと言って、黙ってイレギュラーズの進行を許すのか、と内心で憤っていた。狂いそうになるほどの怒りを胸に秘め、ただハルジオンの命令を待っているのだ。
 それが可能な程度には、部下たちはハルジオンを信頼していたし、個々の練度も高いのである。
「幸いにして、我らには【姿を消す】術がある。気配を消す術がある」
 銃火器は使わない。
 火薬の匂いで、居場所がバレるかもしれないからだ。
 人数を5人から増やすこともしない。
 頭数が増えるほど、隠密行動がしづらくなるからだ。
「ひっそりと近づき、敵の情報を抜く。ひっそりと歩を進め、敵の本拠地に忍び込む。ひっそりと忍び込み、敵の指揮官を暗殺する……いつも通りだ。いつも通り、これしかあるまい」
 静かに、ハルジオンは言う。
 そうして彼が腕を上げると、その場の全員の姿が消えた。
 かくしてハルジオン少尉率いる精鋭たちは、秘密裏に作戦行動を開始したのである。

●誰も知らない攻防戦
『ちょっと相談があります。誰にも気づかれないように、地下倉庫に来てください』
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)より、以上のように書かれた手紙を受け取って数人のイレギュラーズは地下の倉庫へと訪れた。
 暗い部屋には、ランプの明かり。
 石の壁が音を吸収する地下倉庫で、イフタフは声を潜めて語る。
「見られているッす。たぶん、すぐ近くまで……審判の門の辺りまで、誰かに接近されています」
 そう言ってイフタフが差し出したのは1枚の写真。
 写っているのは、首を掻き切られた男性の遺体だ。
「門の傍で発見された傭兵の遺体っす。どうやら、イレギュラーズとは別口で回廊を進行していたみたいなんっすけど……まぁ、チーム6人のうち3名の遺体が発見されました。きっと、残りの3人も」
 もはや傭兵部隊の6人は、1人も生きていないだろう。
 今回、発見された遺体とて巧妙に偽装され、人に見つからないよう遺棄されていたという。
「1人は【必殺】【致命】付きの刃物で即死。1人は【廃滅】性の毒で。もう1人は【狂気】【呪い】による自死っす。全員、刃物で刺された痕跡があり、抵抗した痕跡はありません」
 暗殺技術を有した者に殺されたのだ。
 ひっそりと背後に近づかれ、刃物で刺されて命を落とした。
 ともすると、彼らの中には自分が死んだことにも気付いていない者がいるかもしれない。
「今のところ派手に動いていないのは、こちらの出方を観察しているから……もしかすると、イレギュラーズの大部分が回廊に進行するのを待っているのかも」
 敵がいるのは確実だ。
 敵に監視されていると考えてもいい。
 だが、敵の最終的な目的が読めない。
「読めないからって、じっとしていていいはずはないので……まぁ、見つけ出して、仕留めましょうとそう言う話っす。忙しいところ悪いんっすけど、手を貸してもらえますか?」

GMコメント

●ミッション
姿の見えない敵勢力を殲滅すること

●ターゲット
作戦開始に辺り調査を行った結果、皆さんは以下の敵部隊情報を知ることが出来ました。

・“元少尉”ハルジオン・ランチ
アサクラ隊元少尉。
斥候部隊を率いており、公の記録には存在が残されていない。
ハルジオン・ランチの名前さえも、捕虜としたアサクラ隊隊員から聞いたものである。
自身および対象の【姿と気配を消す魔術】を行使することが可能なようだ。

・ハルジオン部隊×4
ハルジオンの部下たち。
アサクラ隊入隊前は暗殺者を生業としていた模様。
ハルジオンの魔術で姿を消して行動中。
各々装備が微妙に異なり、以下のスキルのうち1つを有する。

暗殺:物至単に特大ダメージ、必殺、致命
急所を狙った刃物による攻撃。

毒殺:物近範に中ダメージ、廃滅
毒物を塗布したナイフや針による範囲攻撃。

狂乱工作:神遠単に中ダメージ、狂気、呪い
呪具による遠距離攻撃。

●フィールド
審判の門付近のレテの回廊。
聖痕を持つ者しか通ることを許さないとされる審判の門とその奥に存在するレテの回廊。
荘厳な門を抜けた先にある回廊付近が今回の戦場となる。
回廊の周辺には幻影竜が飛び交っているが、今回のフィールドは回廊入り口付近であるため幻影竜の姿は見えない。
物資や回収して来たアイテムの類が箱詰めになって放置されている他、目立つ障害物は存在しない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神の門>監視者、ハルジオン。或いは、極秘任務発令…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月25日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
一条 夢心地(p3p008344)
殿
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

リプレイ

●姿なき監視者
 “元少尉”ハルジオン・ランチ。
 かつてアサクラ隊に所属していた、斥候部隊の隊長の名だ。
「姿が見えなかろうが、やりようはあるでしょう。あたし達は沢山の戦いを乗り越えてきたのだもの」
 ハルジオンが、イレギュラーズを監視している。
 その報を受け『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)はそう言った。
「連中に、それを見せてあげないとね」
「あぁ、まったくもってやりがいのある相手じゃないか。さて……どうしていくか……一手一手詰めて行こう」
 『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は肩をくっくと揺らして笑う。
「とはいえ、敵は手練の様子。不覚を取らんよう、慎重に立ち回った方が良さそうですの」
 『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)も同意を示した。
 聞くところによれば、ハルジオン隊の人数はたったの5人程度。手練れであろうが、正面切っての戦いであればイレギュラーズが遅れを取ることは無いだろう。
 当然、ハルジオン隊もそれは重々に理解している。
 だからと言って、時間をかけるわけにはいかない。既に数人が、ともするともっと大勢が、ハルジオン隊に討ち取られているかもしれないのだから。
「もう、やられてしまったヤツら、か……そうだ、そうだよな。これはイレギュラーズやローレットだけの戦いじゃないんだ」
 『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が拳を握る。
 既に失われた誰かの命に。
 名も知れぬ誰かの冥福を祈り、静かに瞳を閉じるのだった。

 ハルジオン部隊の潜伏場所はある程度だが絞られている。
「気配を消して暗殺するのはボクも良くやりますが、あくまでも気配のみ。姿を消せるのはなかなか便利そうで羨ましく……」
「ボクも似たような事出来なくもないけどやられる分にはたまったものじゃないね……はてさてどうしたものか」
 『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)と『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)。隠密、暗殺任務に向いた2人が知見を持ち寄ったところ、審判の門付近が怪しいということが判明したのだ。
おそらく、ハルジオン隊は姿を隠して審判の門を潜る者たちを監視している。
 そして、狙いやすいと判断した者をひっそりと襲って、その命と情報を奪い取っているのだ。

「襲撃の手口からも、相当な手練れの部隊だと推測出来るが……」
「麿レベルのお殿様ともなると、敵対勢力の忍者に命を狙われた経験も豊富。姿を隠したくらいで暗殺できると思うたら大間違いじゃ。なーーーっはっはっは!」
 身を潜めているチェレンチィとアイリスに対し、『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)と『殿』一条 夢心地(p3p008344)の行動は“派手”の一言に尽きた。
 2人は用意していた血糊や塗料を、回廊のそこかしこへとぶちまけはじめた。

 血糊や塗料をばら撒く2人を、物陰から見る者たちがいた。
「どうやら、我らの存在に気が付いたようだ」
「2人だけか? それとも、もっと大勢が隠れているのか?」
 声を潜め、言葉を交わしている者たち。ハルジオン部隊の隊員である。
 姿を隠し、気配を殺し、2人は少しずつルーキスと夢心地の方へと距離を詰めた。最初はルーキスたちが何をしているか理解できなかったが、距離を詰めれば2人の目的は明確になる。
 塗料を地面に撒くことで、ハルジオン部隊の居場所を突き止めようとしているのだ。
「浅知恵だな」
「こんな子供だましに引っかかるはずもない」
 言葉を交わし、2人は懐からナイフを抜いた。
 黒く塗られたナイフ……暗殺者の持つ得物として、これほどに確実で頼りになるものはない。黒い塗料が光の反射を抑え、武器を持っていることさえもを視認させない。
 そうっと、ゆっくり。
 距離を詰めるのは慎重に。
 そして、一気呵成に襲い掛かって喉笛を切り裂く。
 いつも通りの楽な仕事だ。
 鍛え抜いた暗殺技は、こういう時にこそ輝くのだ。
 けれど、しかし……。
 2人のナイフが、ルーキスと夢心地に届く、その刹那。
「此方に暗殺を仕掛けてくる敵ってなかなか居ませんが、こうしてやられると結構厄介なものですねぇ」
「だが、無事に釣り上げは成功したようだ。それじゃあ、お仕事と征こうか」
 黒く塗られたナイフがルーキスたちを斬り裂くことは無かった。
 チェレンチィとアイリスが、自身の武器でナイフを食い止めたからだ。

●暗殺者VSイレギュラーズ
 アイリスの瞳は、全てのものを看破する。
 生き物であれば、何者だって彼女の目から逃れることは叶わない。
「残念ながら死人でもない限りボクの瞳からは逃れることはできないよ……まぁ、位置位しかわからないのが玉に瑕だけどね」
 一閃。
 アイリスの振るった剣は、正確に隊員の首筋を薙いだ。
 咄嗟に敵が後方へと跳ばなければ、アイリスの剣は正しくその首を切断してみせただろう。
 姿の見えぬ敵を追って、アイリスが駆ける。
 薄暗がりの中、剣とナイフがぶつかり合って火花を散らした。
 
 1人は撤退を選択し、もう1人は前進を開始した。
 1人がアイリスとルーキスの注意を引き付けているうちに、もう1人が夢心地を始末するためだ。
「……そこか」
 だが、動けない。
 夢心地の目が、まっすぐに姿を隠したもう1人の方を向いていたからだ。
「姿が見えないだけで、実体はそこにあるし、敵意や体温、行動音まで消せる訳では無いですからね」
 そして、もう1人。
 チェレンチィが地面を滑るように疾走を開始した。一瞬のうちに隊員との距離を詰め、両手に握ったナイフを振るう。
 隊員は地面に伏せることでチェレンチィのナイフを回避。
 地面に背中を付けたまま、足を跳ね上げチェレンチィの腹部を蹴った。軽いチェレンチィの身体が虚空へ浮いた。
 その喉へ向け、ナイフを投げる。
「甘いの」
 だが、届かない。
 横から差し出された夢心地の刀が、隊員の投げたナイフを弾く。
 やはり、正確な位置が割れている。
 姿を隠していることに、もはや何のアドバンテージも存在しない。少なくとも、夢心地とチェレンチィの2人に対してはそうだ。
「一旦退くぞ! 隊長に報告だ!」
 弾かれたナイフを拾い直して隊員が叫ぶ。
 と、その時だ。
「そうはいきませんよ」
 チェレンチィの腕が閃く。
 懐から零れた何かをナイフで斬り裂いたのだ。
「っ……これは!?」
 隊員の顔に振りかかったのは、蛍光色の液体だった。

 敵の数は2人。
 初めはそう思っていた。少なくとも、アイリスの目が捉えた敵の数は2人だけだった。
 だが、いつの間にか敵の数が増えている。
 姿の見えない敵を追いかけているうちに、ハルジオン隊の誰かが合流したのだろう。
「気を付けて。もう1人、その辺りに隠れているよ」
「助言、感謝します。しかし、だからといって引き返す理由にはならない」
 足を止めたルーキスが、2本の刀を顔と胸の前で構える。
 瞬間、空気を斬り裂く音がした。
 守りを固めたルーキスは、敵の攻撃を全て捌ききるつもりでいたのだ。
「立ち塞がるのなら、推し通るまで! ……っ!?」
 だが、そう上手く事は運ばない。
 ルーキスの腕や肩に、幾つものナイフや針が突き刺さる。1本1本の威力は低く、ダメージとしては微々たるものだ。
 だが、数が多い。
「っ……たぁ」
 庇いきれなかったナイフの幾つかが、アイリスの脚にも突き刺さっていた。
 近くに隠れているのは分かるが、正確な居場所が把握できない。
「せめて位置さえ把握できれば」
 刀を構え、ルーキスは唸る。
 じりじりと摺り足で移動し、背後の壁に背中を付けた。
 と、その時だ。
 ひゅん、と風の鳴る音がした。
 次の瞬間、ルーキスの眼前、およそ10メートルほどの場所に突如として無数のナイフや針が現れる。
 投擲された暗器は、10メートルの距離を一瞬で0にする。
 再びの痛みに備えるルーキス。
 だが、彼の身を痛みが襲うことはなかった。
「っとと。間に合いましたかの」
 支佐手がその身を盾にして、ナイフや針を受け止めたのだ。
 身体に無数のナイフや針を生やしたまま、支佐手は片手でサインを出した。
「恩に着ます!」
 高めた闘志を解き放つ。
 目には見えない闘志の波は、確かに隠れた敵の心を揺さぶった。高まる闘志に支配され、もはや敵がこの場から逃げることは叶わないだろう。
「……面倒な術を使いますの。どうやら、こん者から黙らせた方が良さそうです」
 剣を構え、腰を落とす。
 剣を地面に引き摺るように、支佐手が疾走を開始した。

 審判の門を潜った先には、リアとマッチョ☆プリン、そしてシャルロッテが控えている。
「さて……情報は一つ一つチェックメイトへ向けて積み重なっている。このままだと時間はこちらの味方だよ」
 シャルロッテは地面に描いた見取り図の中に、幾つかの小石を並べた。
 1つ目は夢心地とチェレンチィのいる場所に。
 2つ目と3つ目の小石は、門からだいぶ離れた位置に。こちらはアイリスとルーキス、支佐手がいる場所だ。
 加えて、門の近くには、足の踏み場も無いほどに塗料や血糊がばら撒かれている。
「さて、リア君はどうするべきだと思うかな?」
 シャルロッテはそう問うた。
 リアは胸の下で腕を組んだまま、不機嫌そうに鼻を鳴らすとこう答えた。
「姿が見えないのなら、無理に探す必要はないでしょう?」
「ほう? それはどういうことだろう?」
「警戒はしているけど存在には気付いていない……そんなか弱い修道女が隙を見せてあげるわ」
 シャルロッテは笑みを深くした。
 リアの解答が、概ねシャルロッテの考えていた事柄と一致していたからである。
 現在、ハルジオン隊は焦っていると予想できる。
 索敵に出していた部下2人は交戦中。さらに援軍として1人をルーキスの相手に充てた。
「ボクたちの存在にも気付いているだろう。車椅子に乗ったボクと、か弱い修道女と、子供の3人……外見がすべてじゃないけどね」
 狙うにはちょうどいい相手だろうね。
 声を潜めて、シャルロッテはそう呟いた。
 そして、彼女は車椅子を前へと進ませ両手を広げる。

 ハルジオン部隊に殺められた傭兵たち。
 既に死人である彼らから、マッチョ☆プリンは話を聞いた。彼らのうち1人たりとも、自分たちを殺した相手を見ていなかった。
 故に、死人から聞き取れた情報は無いとも言える。
 故に、情報が得られないほどに暗殺に長けた相手であることが理解できる。
「だけど、やり様はある。音、臭い、空気の味。色んなものに気を配っていれば見つけられる」
 敵は姿を消しているだけだ。
 その体はそこにあり、身体が“物質”として存在している以上は動くたびに音が生じる。いかに気を配っていても、体臭は完全には消せない。
 事実として、夢心地とチェレンチィは敵の体温を頼りに居場所を突き止めて見せた。
「例えば、こういう方法もある」
 そう言って、シャルロッテはその両の手に光を灯した。間近で見れば目を開けてはいられないほどに強い光で、周囲の暗がりを照らして見せる。
 暗がりの中、何かが動いた。
 ほんの一瞬だけ、影が揺らいだような気がした。
「そこに1人……かな?」
「いいえ。2人よ」
「持久戦ならとことん付き合ってやるぞ!」
 マッチョ☆プリンが腕を交差し、飛来する何かを受け止めた。
 禍々しい気配を纏った、錆びたナイフのようである。
 おそらくは、ハルジオン部隊が扱うという呪具だろう。
「あたしが敵を引き付けていれば、あのふざけた白塗りちょんまげとかが倒してくれるでしょ」
 次いで、幽かな足音がした。
 一瞬のうちに間合いを詰める何者かの姿がリアの目には見えていない。
 見えて居なくとも、問題が無いのだ。
「だから、アンタ達にはしっかりあたしを見ていてもらうわよ!」
 細剣を胸の前で捧げ持つ。
 刹那、リアの周囲に火花が散った。
 ごう、と渦を巻く業火が辺り一面を飲み込んだ。

●ハルジオン部隊の落日
 防戦一方。
 チェレンチィと相対している隊員の置かれた状況を、端的に言い表すならそれである。
 右へ左へ細かく動き、死角から急所に向けてナイフを振るう。
 蛍光塗料を浴びせられ、透明化のアドバンテージを失った今、頼りになるのは技量だけ。正面切っての切り合いであれば、チェレンチィの方に分があるのは当然のことだ。
「自分で言うのもなんですが、ちょこまか動きながら戦うのは得意ですよ」
 チェレンチィの回し蹴りが、隊員の手からナイフを弾いた。
 焦る隊員。
 手を伸ばしても、弾かれたナイフには届かない。
 さらに……。
「あーさーくーらー!」
 まっすぐに、夢心地の瞳が隊員を捕らえた。
 大上段に構えた刀が振り下ろされる。
 武器を失ったうえ、姿ももはや隠せていない。
 迫る刃を、ただ黙って見つめることしか出来ないでいた。

 広範囲にばら撒かれる無数の刃。
 ナイフや針……暗器の雨が降るようだ。支佐手とルーキスの全身は、ほんの数分のうちにすっかり傷だらけになった。
「そちらも決死の覚悟だろうが、此方にも譲れぬものがある。どちらの意地が勝つか……いざ、勝負!」
 何度目かの攻撃。
 ナイフを肩に突き刺したままルーキスが駆ける。
 正直なところを言えば、お互いにもう余力が無いのだ。可能な限り、速く勝負を決めたいのだ。
 ナイフがルーキスの胸部に刺さる。
 ルーキスの剣は、隊員の身体を斬り裂かないまま地面を打った。
 けれど、しかし……。
「焦ったらあかんでしょう」
 隊員の喉を、支佐手の剣が貫いた。
 攻撃に移った一瞬の隙を、支佐手は見逃さなかったのだ。
「さて……後は、傭兵連中の遺品を回収しといてやりましょう」
 息絶えた隊員の遺体を見下ろし、支佐手は額の血を拭う。
「帰りを待っとる人間に何もなしっちゅうんは、少々気の毒ですからの」
 ハルジオン部隊に殺められた傭兵は6人。そのうち半分は未だに遺体も見つかっていない。せめて遺品の1つぐらいは持ち帰ってやりたいと、支佐手はそう思ったのである。

「さて……他はどうなったかな」
 壁に背中を預けたまま、アイリスはそう呟いた。
 腹部に突き刺さったナイフが、アイリスの身体から血を失わせる。
 元居た場所からはいつの間にか随分と遠くへ離れてしまった。ともすると、アイリスを門の辺りから遠ざけることが、隊員の目的だったのかもしれない。
「だとしたら、君の勝利と言えるかもしれないね」
 道の端に転がる遺体へ声をかけた。
 当然のことだが、遺体は何も答えない。

 ハルジオン・ランチに取って、マッチョ☆プリンはやりづらい相手だった。
「そっちだって戦う理由があるんだな。でも、こっちだって勝ちに来たんだ」
 見た目は子供。
 しかし、硬い。
 皮膚を裂いたはずなのに、まるで重金属の鎧を叩いたような音がした。ナイフを通して伝う反動がハルジオンの手を痺れさせる。
「引く気なんてない。勝って……押し通っていくぞ!」
 加えて、隙を見て放たれる超高速の殴打。
 辛うじて直撃は避けているが、まともに喰らえば大ダメージは避けられない。
 分が悪い。
 この分では、仲間たちも既に倒されてしまっただろう。
 素直に撤退を思案する。
 撤退する前に、1人ぐらいは命を奪ってしまえればいいが……。
「判断を迷ったね。致命的だ」
 そんな声が耳に届いた。
 シャルロッテが笑っている。ハルジオンの背後を指さしている。
 反射的にハルジオンは背後を振り返った。
 果たしてそこには、顔を白く塗った奇妙な男が刀を構えて立っていた。

 胸部に感じる激痛で、ハルジオンは目を覚ます。
「ぐ……おぉ」
 苦悶の声を零しながら、ハルジオンは身を起こした。意識を失う寸前まで、自分が何をしていたのかを瞬間に思い出したのだ。
 だが、起き上がれない。
 身体がすっかり痺れていて、満足に手足に力が入らない。
「目が覚めたみたいね」
 ハルジオンを見下ろしているのはリアだった。
 彼女は血で汚れた手を拭きながら、ハルジオンの胸元へ痛み止めの薬を落とす。
「なぜ、助けた。拷問されたとしても、情報は吐かんぞ」
「期待していないわ。あたしは聖職者だもの。誰であれ怪我人は放っておく訳にはいかないの」
 己の職分に従って、リアはハルジオンを治療したのだと言う。
 戦いの中で失われる命については仕方がない。
 だが、救える命なら余さず救ってしまって誰が困るというのか。
「ある程度動けるようになったら、手を引いてさっさとどっか行きなさい」
 ハルジオンの隣には、意識を失った隊員が転がっている。
 その数は1人。
 残る3人の隊員は、戦いの中で命を失ったのだろう。
「次は無いわ」
 囁くようにそう言って。
 リアはその場を立ち去っていく。
 身動きのとれぬハルジオンは、ただ悔しそうにその最中を見送った。

成否

成功

MVP

一条 夢心地(p3p008344)
殿

状態異常

ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇

あとがき

お疲れ様です。
皆さんの活躍により、ハルジオン隊は撤退しました。
門の周辺の治安が少し良くなりました。
依頼は成功となります。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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