PandoraPartyProject

シナリオ詳細

カラーギャングは終わらない。或いは、街を塗りつぶせ…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カラーギャングは終わらない
「カラーギャングって知ってるかい?」
 紫煙を燻らせ、そう言ったのはどこかチャラついた雰囲気の若い男だ。
 足元が透けているので、きっと幽霊なのだろう。
「カラーギャングには各々のチームカラーがあってな、その構成員はチームカラーのバンダナやら服やら、お揃いTシャツを着用してグループを誇示してる。まぁ、そう言うルールを持ってる不良集団ってこった」
 煙草の灰が地面に落ちた。
 男は吸い終えた煙草を携帯灰皿へ押し付けると、次の煙草を取り出した。チェーンスモーカーなのだろう。口に煙草を咥えていないと落ち着かないのだ。脳を紫煙で煙らせていないと、苛々して仕方が無いのだ。
 紫煙を吐き出す。
 もうずっと、彼は話をしながら紫煙を吐いている。まるで機関車か何かのようだが、煙草の煙も霊体であるため、幸いなことに煙たくは無い。
 エクトプラズマのようである。
「まぁ、20年ぐらい前にほとんど絶滅した不良集団だ。だがな……そりゃ生きてる連中にとっての話でよ」
 煙を黙々と吐き続けながら、男は語る。
 その表情には、抑えがたい苛立ちの感情があった。
「いるんだよ、この街には……カラーギャングをやってる霊たちがな」
 はた迷惑な話である。
 馬鹿は死んでも治らないというが、カラーギャングもそうなのだろう。
 男は無言で、表の通りを指さした。
 地面が赤と青の二色に染まっていた。まるでペンキやカラースプレーを手当たり次第にぶちまけたかのようだし、まぁ、実際にそうしたのだろう。
「生きてる人間には見えないが、霊には見える。アンタらには見えてるようだが、もしかして日頃から霊と交流があるのかね」
 もくもくと煙を吐き出しながら男は笑う。
「この街にいるカラーギャングは“赤の稲妻”と、“パーミッション・ブルー”の2つだ。2つの集団は、夜毎に闘争を繰り広げていて……まぁ、街はすっかりこんな有様ってわけだ」
 カラーギャングの闘争とは、つまり街を己らの色に染め上げることのようだ。
 過去には殴り合いの喧嘩も日夜繰り返されたらしいのだが、何しろお互いに霊体であるため一向に決着がつかず、このような闘争の形となったらしい。
「縄張りの奪い合いだな。だが、こんな風なサイケデリックな街じゃ落ち着いてヤニも吸えねぇ。そこで、アンタらの出番ってわけだ」
 煙草を咥えたまま、男は狂暴な笑みを浮かべた。
 口からもくもくと煙を吐き出しながら、彼は言う。
「俺と一緒にカラーギャングをやらねぇか? この街から、あのはた迷惑な連中を追い出そうぜ」
 結果として、この街にカラーギャングが1つ増えるだけである。
 はた迷惑な集団が、2つから3つに増えるだけである。
「俺の名前は屋仁蔵 健斗。見ての通りの煙草好きさ。連中に教えてやろうぜ。煙草のヤニは、何もかもを黒く染めるってことを……」
 肺も、鼻の粘膜も、家屋の壁や天井も……煙草のヤニは全てを黒く染め上げる。
 不運にもこの日、再現性東京に居合わせたイレギュラーズたちは、はた迷惑なカラーギャングの抗争に巻き込まれることとなったのである。

GMコメント

●ミッション
カラーギャング同士の闘争を終わらせる

●屋仁蔵 健斗
依頼主。
チャラチャラした雰囲気の若い霊。
カラーギャング同士の抗争を終わらせたいと考えており、自分が第三勢力として乱入することを考えた。
重度の愛煙家であり、機関車のごとく常にもくもくと紫煙を吐き出している。

●敵対カラーギャング
・赤の稲妻
15人前後の若者たち。
赤をチームカラーとしている武闘派チーム。
再現性池袋西口を拠点としている。

・パーミッション・ブルー
10人ほどの若者たち。
青をチームカラーとしている比較的、知恵の回る者たちで構成されたチーム。
再現性池袋東口を拠点としている。

●フィールド
再現性池袋。
駅の西口と東口に各チームは拠点を設けている。
お互い、駅構内から駅周辺にかけての縄張りを奪い合っている。
駅構内の喫煙所に屋仁蔵 健斗率いる新興チームの拠点が存在している。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】カラーギャングに憤っている
不慮の事故によりペンキをかけられました。怒り狂っています。

【2】屋仁蔵 健斗に誘われた
屋仁蔵 健斗に誘われ、再現性池袋駅に訪れました。冷静です。


カラーギャング対策
カラーギャングに対抗するために、あなたは以下の行動から1つを選択します。

【1】カラーギャング“タール・ブラック”に参加する
屋仁蔵 健斗率いる新興チームに参加します。駅を黒く塗り上げることで、他チームを威圧し、抗争を終わらせます。

【2】カラーギャング“赤い稲妻”に参加する
赤い稲妻の一員として行動します。チーム内の不和を煽り、内部崩壊や妨害工作を試みます。

【3】カラーギャング“パーミッション・ブルー”に参加する
パーミッション・ブルーの一員として行動します。チームの統率を見出し、構成員たちの冷静さを奪います。

【4】暗躍する
誰にも知られないよう、第四勢力として行動します。闇討ち、情報操作、駅の設備を用いたチームの分断などを行います。

  • カラーギャングは終わらない。或いは、街を塗りつぶせ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月10日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
常田・円(p3p010798)
青薔薇救護隊
Kyle・Ul・Vert(p3p011315)
風の旋律

リプレイ

●すべてを黒に
 深夜。
 終電の去った後のこと。再現性池袋駅の構内に、ポツリポツリと人の影が増えていく。
 その数は総勢で25人にもなるだろうか。
 片や赤いパーカーやバンダナ、ヘアバンドを付けた若者たち。
 片や青いジャケットやブレスレット、サングラスをかけた若者たち。
 誰もが剣呑な気配を漂わせており、そして足が透けていた。
 ゴーストである。
 それも、ただのゴーストではない。
 今は絶滅危惧種と名高い、カラーギャングのゴーストだ。

 カラーギャングの抗争に、一切の武器は用いられない。
 チーム“赤い稲妻”も、チーム“ブルーパーミッション”も、その手に持つのはペンキやカラースプレーだけだ。
 駅構内で、2つのチームが相対する。夜毎行われている恒例行事で、そして未だ決着の付かぬチーム同士の抗争である。
 一定の距離を開けて、2つのチームが睨み合う。
 開戦の時は近いだろう。
 そんなチーム同士の睨み合い……業界用語でいうところの「メンチの切り合い」を、少し離れた喫煙所から眺めている者たちがいた。
「気持ちよく散歩をしてたところにペンキを落とすとかなに考えてんだ? しかも落ちねぇし」
 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)が苛立たし気に髪を掻く。パラパラと、乾いたペンキが零れた。髪も、側頭部から伸びる捩じれた角も赤と青に染まっていた。
 抗争に巻き込まれたのだ。ペッカートは怒っていい。
「なんだ? 怒ってんのか?」
「ん、いや。別に怒ってはないよ? 怒ってないけどさぁ。ただやり返せるならさぁ、倍返しにしたいってだけ」
 屋仁蔵 健斗の問いかけに、ペッカートは笑って答えた。
 悪魔が笑っている時には、きっと碌なことは起こらない。
「黒はいいぞ……黒は全てを受け入れる色、最愛の息子の毛色だ。縄張りも人の毛並みを汚したギャングも漆黒にしてやる!
 怒っているのは何もペッカートだけではない。彼、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)もまた、怒れる者の1人であった。
 ペッカート同様、ペンキに塗れた身体を怒りで膨らませ、眉間に深い皺を刻んでいるではないか。それはまさしく、荒れた獣の有様である。
「ふっふっふー。黒が僕を呼んでいるのです! ホワイトラビットならぬ、ブラックラビットになって世界を黒に染めてやるー!」
 『青薔薇救護隊』常田・円(p3p010798)が拳を突き上げた。
 ペッカートやウェールと違い、彼はペンキを浴びていない。純粋に、健斗の呼びかけに応じてこの抗争へ馳せ参じたのだ。
 以上3人に、リーダーの健斗。
 急増カラーギャング“タール・ブラック”は、たった4人のチームであった。
「準備はいいよな? じゃあ……始めようぜ」
 そう言って、健斗は煙草に火を着けた。
 5分。
 彼が、この抗争に絶対勝つという願をかけ、煙草を絶った時間である。
 5分ぶりの紫煙を肺いっぱいに吸い込んで、天上界の甘露でも口にしたかのように目を細めた。肺を煙が満たす。五臓六腑に紫煙が染みる。
 じわじわと、鈍くなっていた脳が回転し始める。
 ぶわっ、と健斗はその口から紫煙を吐いた。まるで機関車だ。それも、石炭をくべられ、力を溜める機関車である。
「俺らで“赤の稲妻”も“パーミッション・ブルー”も、何もかもを黒に塗りつぶそう」
 走り出した機関車は、もはや何者にも止められない。

 怒号が響く。
 カラーギャング同士が罵り合っているのだ。
 罵倒に次ぐ罵倒。そして、ペンキがぶちまけられる音がする。
 喧噪だ。
 喧噪に耳を傾けながら、『日常の奏者』Kyle・Ul・Vert(p3p011315)は鼻歌を口ずさんだ。若さの迸る喧噪は、何よりも生命力に溢れる至上の音楽(ミュージック)である。
「自由で、熱い人たちだね」
 なんて。
 そんなことを呟くKyle のすぐ後ろでは、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が幾つかのファイルを広げていた。
 黒い表紙のファイルには、過去に再現性池袋駅で起きた事件が記録されている。その中には、駅付近で事故や喧嘩、または不慮の暴力によって命を落とした者たちの記録も残されていた。
「君はさっきから何を?」
「ン。赤の稲妻 及ビ パーミッション・ブルー 死因等 資料検索」
 Kyleの問いに、フリークライが言葉を返す。フリークライが掲げて見せた資料には、数名の若者の写真が掲載されていた。
 かつて再現性池袋駅で起きた若者同士の抗争。その被害者たちである。
 その中には、眼前で争っているカラーギャングの顔もあった。
 全員がそうだと言うわけでも無いのだろうが、どうやら彼らの中には“抗争”の果てに死した者もいるらしい。

 両手にペンキのバケツを抱え、『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)が疾駆する。赤と青のペンキであった。
 疾駆するユイユの尻尾も、赤と青で斑に染め上げられている。
「ガオー!」
 跳躍。
 そして、2つのバケツを近くにいた若者2人の頭に被せた。
 ユイユは激怒しているのだ。
 今風に言うなら“激おこ”というやつである。
「うぉっ! なんだ! 直接攻撃は反則だろうが!」
「インクは“青”……パーミッション・ブルーの奴ら、抗争の掟も無視しやがったか!」
 上半身を赤や青に染めながら、2人の若者が悲鳴をあげる。
 顔を濡らすペンキを手で拭う頃には、既にユイユの姿は無かった。2人にバケツを被せたユイユは、脇目も振らずにその場を逃走したのである。
 些細なきっかけで、均衡と言うのは崩れるものだ。
「自慢の尻尾を汚した罰だよ!」
 殴り合いをはじめた2人に視線を送り、ユイユは肩を揺らして笑った。

 ペンキのバケツが並べられていた。
 赤、青、黄色、緑……それから、黒と白。それだけあれば、色は幾らでも作り出せる。
「色んな色……僕は好き……」
 右手に刷毛を、左手にローラーを構え、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は駅の壁をぐるりと見渡す。
 少しだけ、その口元に笑みが浮かんだ。
「沢山の……絵とか……模様とか……そういうのを描いて……駅を楽しくさせたい」
 レインは駅の壁に絵を描くつもりのようだ。
 さぁ、白い駅を色とりどりに染め上げよう。

●抗争デッドヒート
 ペッカートは回転していた。
 両手で持ったペンキのバケツを、回転しながら振り回す。吐瀉物のかくやといった勢いで振り撒かれる黒いペンキが、カラーギャングたちの身体を真っ黒に染めた。
 その様はまるで、暗黒色の散水機。
「ウェール! ブキをくれ!」
 空になったバケツを投げ捨て、ペッカートが叫んだ。
 駅構内、エレベーターの上にいるペッカートを塗りつぶすべく、2人の若者が駆けていく。その頭上を飛び越えて、ウェールが何かを投擲した。
「おぉっ! 受け取れ!」
 ウェールが投げたのは、黒いカラースプレーだ。
 “夜より黒い”がキャッチコピーの、少々、値の張るスプレーである。世間的な評価としては、黒いカラースプレーの現時点での最高到達点と噂される逸品だ。
「助かるぜ!」
 シャカシャカと数度、スプレー缶を上下に振ると、ペッカートは親指で缶の蓋を弾き飛ばす。そして、スプレートップに指を置くと、眼前のカラーギャング目掛け、黒いインクを吹きかけた。

「助かるぜ!」
「なに、走り回るのは任せろ!!」
 ペッカートにスプレー缶を手渡すと、ウェールは再び空へと飛んだ。
 数人のカラーギャングが、頭上を過る影に気付いて足を止めた。
「あれは、なんだ?」
「人が飛んでる? そんな馬鹿なことあるか!?」
 自分たちが霊であることを横に置いて、カラーギャングたちが口々に困惑の声をあげる。
 だが、やがて彼らは気が付いた。
 ウェールが両手に下げているのは、黒いペンキでは無いか。
「あいつらか! 黒いペンキなんぞ撒きやがったのは!」
 黒いペンキは、赤にも青にも染まらない。黒いペンキを塗られた場所は、侵略不可能な“タール・ブラック”の領地と化すのだ。
 あの空飛ぶ男を止めなければ不味い。
 その場に居合わせた数名の若者は、即座にチームの垣根を越えて手を組むことを決めた。
 けれど、しかし……。 
「うぉー! やったるぞー!」
 背後から円の強襲を受け、若者たちの顔面には黒い「×」が描かれた。
 視界を黒に塗りつぶされた若者たちが、慌てて腕を振り回す。前も見えないまま、そんな真似をすれば、振り回した腕が互いの身体を打ち合った。
 姿勢を崩し、若者たちが床に転んだ。
 奇しくも、ウェールが撒いた黒インクの上へ。トレードマークの赤や青のアクセサリーが、一瞬のうちに黒に染まった。
「……こんな感じでいいんだよね?」
 地面を滑りながら円が急停止。
 その手には、黒いインクがたっぷりと含まれた刷毛が握られている。
「ばっちりだ。その調子で頼む」
「はいはーい。あ、怪我した幽霊さんはこっちで治療しますよー!」

「あ、怪我した幽霊さんはこっちで治療しますよー!」
 怪我をした若者たちを、円が端へと引き摺って行く。
 カラーギャング同士の抗争は激化していた。暴力沙汰こそあまり起きてはいないものの、互いに激しくペンキやスプレーを振り撒いているのだ。
 当然、何かしらのアクシデントにより怪我をしてしまうものもいる。ペンキに滑って、頭から床に転倒するなどがそれである。
「でも、何かおかしいような?」
「……たぶん、アレだろうな」
 壁を擦り抜け、円の隣に現れたのはウェールであった。その顔や手は、黒いペンキで汚れている。
「あれ?」
「あぁ、あれだ」
 ペンキ塗れの指でウェールが指し示した先には、抗争の真ん中を駆け回るユイユがいた。

 話は5分ほど前にまで遡る。
「こいつだ! 見つけたぞ!」
「どっちのチームでもねぇみたいだな。流れのカラーギャングか?」
 柱の影に身を隠しながら、カラーギャングたちにちょっかいをかけていたユイユ。だが、遂に彼は見つかった。
 ユイユの周囲を囲むのは、怒り心頭といった様子の若者たち。それぞれ、手にはペンキやカラースプレーを構えている。
 ユイユを赤と青の2色に染め上げねば、彼らの怒りは鎮まらないだろう。
「こんなところに隠れてやがった。随分と駅の構造に詳しいじゃねぇか」
「なっ……ず、ずっと迷ってた訳じゃないんだからね!
 否定する声は上ずっていた。
 さもありなん。再現性東京の大きな駅というのは、まるでダンジョンのような造りをしているのだ。一説によれば、再現性新宿駅や再現性渋谷駅などでは、年間に数百人の遭難者が出るらしい。
 ともすると、カラーギャングたちの中にも、再現性渋谷駅で遭難し、命を落としたものがいるかもしれない。
「どうだっていいさ。お前もカラフルにしてやるよ」
「っ……ちくしょぉぉう!!」
 悔し気な絶叫を発し、ユイユはその場を逃げ出した。
 その後をカラーギャングたちが追いかける。
 これが今から5分前の出来事。それから今まで、ユイユはずっとカラーギャングたちから逃げ続けているのであった。

 静かな歌が聴こえていた。
 静かに、そして楽し気に。
 レインは壁に絵を描いていた。
「なぁ、あんた……そこにいると巻き込まれるぞ?」
「あ、あぁ……どいてくれねぇかな。俺ら、壁に色を塗りたいんだが」
 レインの背後には2人の若者。“赤い稲妻”と“パーミッション・ブルー”の構成員だ。敵対している2人だが、何も無関係のレインにまで絵具をぶちまけたいわけではない。
 困惑したように2人の若者は視線を交わす。
 だが、レインはそんな2人を意にも介さないまま、刷毛とローラーで壁一面に大きな絵を描いていた。
「……あ」
 絵も完成に近づいたころ、レインが作業の手を止める。
 ペンキがすっかり無くなったことに気が付いたのだ。足りない色は“赤”と“青”。
 少し考え、レインは背後を振り向いた。
 やっと話を聞いてくれる気になったのか。若者2人は安堵した。
 だが、その安堵は一瞬のこと。
「色が足りなくなったから……貰うね……」
 2人の手からレインはカラースプレーを取り上げる。そして再び、レインは絵を描く作業に戻る。
 顔や髪を色とりどりの絵具で汚し、いつも通りのぼんやりとした顔で。
 けれど、その横顔はどこか楽し気であった。
「……できた」
 やがて、壁一面には大きな絵が描き上がる。
 それは夕暮れ時の青い海を漂う、色とりどりのクラゲの絵。輪になって漂うクラゲの絵は、なぜだか笑っているかのように見えたのだった。

 青く塗られた梟の石像がある。
 その横を通り過ぎ、フリックとKyleは駅から少し離れた空き地へと向かう。
「こっちに何があるんだい?」
「コレ。幽霊ナッテル理由 決着ツケタイカラカモダケド」
 フリックが指差したのは、排気ガスで黒く汚れた石碑であった。
 文字は掠れてよく読めないが、どうやらそれは慰霊碑のようだ。
「迷惑者トシテキチント弔ワレナカッタカラノ可能性モ有リ」
 フリックの調べによれば、この慰霊碑はかつて池袋で起きた大きな事件の被害者たちを弔うためのものであるらしい。
 大きな事件……ヤクザ同士の抗争に、カラーギャングや浮浪者たちが巻き込まれ、大勢が命を落としたと言う傷ましいものだ。
 初めのうちは、慰霊碑に花や菓子を添える者もいた。
 だが、年月が過ぎるうちにそう言ったことは少なくなり、今ではすっかり“ただそこに存在するだけ”の石の塊と成り果てている。
 手入れをする者が居なければ、墓や慰霊碑というのは存外に速く傷むのだ。
「……そうか。もしかすると」
「モシカスルカモ。弔イ 墓標整備等スル」
 フリックとKyleの手には、水の入ったバケツとブラシ。
 誰も知らない。誰も見ていない。
 そんな夜の闇の中、2人は慰霊碑の掃除を開始するのであった。

●カラーギャングよ永遠に
「なんだ? カラーギャングどもの数が減ってないか?」
 最初に異変に気がついたのは健斗であった。
 黒く塗りつぶされた駅の構内を、悠々と歩きながら健斗は周囲に視線を巡らせている。さっきまで喧々諤々と言い争いながら、ペンキやカラースプレーを振り回していた若者たちが、いつの間にやら半分ほどにまでその数を減らしているのだ。
 足を止め、健斗は煙草に火を着ける。
 カラーギャング同士の抗争は、そろそろ終わりを迎えていた。この分なら、勝者は健斗率いる“タール・ブラック”で決まりだろう。
 何色にも塗りつぶせない黒をチームカラーとしたのが勝因である。
「ふぅ」
 すぼめた唇の隙間から、細く紫煙がたなびいた。
 結局、一仕事を終えた後の煙草が一番美味いのだ。
 そうして、じっとしていると喧噪の隙間に何かの音色が流れているのに気が付いた。
「……音? これは……鎮魂歌か何かか?」
 
 バイオリンを弾きながら、Kyleはそっと目を閉じた。
 耳を澄ませば、遠くから人の行き交う喧噪が聞こえる。駅の方からは、まだ少しだけ怒声や罵倒が聞こえている。
 街は音で満ちている。
 それから、色も。
 今は夜だから、街の大部分は黒に染まっているけれど、日が昇って光が差せば、そこかしこに10や20じゃ利かない数の色が満ちるのだ。
「音も色も、雑多だね」
 騒がしい渋谷の街が、Kyleは存外、嫌いじゃなかった。

「あぁ、もう朝だ」
「俺ら、そろそろ消えますわ」
 そう言って、2人の若者たちはそれぞれ、西と東へ去っていく。
 小さくなるその背中へ向け、レインは言葉を投げかけた。
「また……一緒に、絵を描こう……ね」
 レインの背後には、2人の若者と共に描き上げた海の絵がある。
 その隅には小さくR&B&Rのサインが書き記されている。一夜にして突如、渋谷の駅に現れた海の絵は、後に謎の路上アーティスト“R&B&R”最初の作品として、インターネットの一部で話題になるのだが、今はまだ、誰も知らない話である。

「で、結局、あいつら何だったんだ?」
 喫煙所の前で、首を傾げているのはペッカートであった。
 その隣にはウェールが並ぶ。
「さぁな。若さゆえの暴走というか、過ちと言うか、まぁそんなものだろう」
 若者はいつの時代も抑圧されて、耐えているのだ。
 そんな話を、ウェールは以前にどこかで聞いたことをふと思い出した。
「まぁ、いいじゃねぇか。これで、ここらも少しは静かになるだろうよ」
 2人に煙草の箱をそっと差し出しながら、健斗は言った。
 仕事終わりの一服は、さぞ格別に美味いのだろう。

「なぁんか、納得いかないよね」
 すっかり汚れたユイユが駅を出て行った。
 追いかけ回され、疲弊して、しかしそれ以上に大勢を絵具で塗ってやった。ついでに駅の出口も見つけた。
 駅で迷っていただけで、全身がもう絵具塗れで、べたべたしていて。
 なんとも、納得のいかぬ話なのである。
「これ、何が起こってたのさ?」
 駅を出てすぐのところに、フリークライと円がいる。どうやら2人は、何らや談笑しているようだ。
 そう言えば、今日はやけにイレギュラーズを多く見かけた。
「はぁ、まぁ、いっか」
 トボトボと重い脚を引き摺りながら、ユイユは家に帰るのだった。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
かくして、カラーギャングの抗争は終わりを迎えました。
皆さんの勝利です!!

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