シナリオ詳細
<神の門>決死の新生潜水部隊
オープニング
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――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。
この神託を受け、天義に大きな混乱が起きている。
遂行者は終焉獣らを率い、各地に神の国を顕現させるべく暗躍している。
天義も黒衣を纏った騎士団に影の一団を殲滅させるが、現状は小競り合いが続いている。
それも、イレギュラーズが直接撃退を繰り返していることが大きい。
ただ、遂行者達も黙ってはいない。
『冠位魔種』、『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーも現状は余裕を見せているが、これ以上、『神』……ルスト・シファーの言葉を否定する行いを繰り返すわけにはいかない。
「白き騎士は勝利をもたらし、赤き騎士は人々を焔へと変え戦を引き起す。黒き騎士は地に芽吹いた命を神の国へ誘い、蒼き騎士は選ばれぬものを根絶やしにする」
それら四騎士を連れた遂行者らは天義を手中に収めるべく動く。
遂行者……預言者『ツロ』は数人のイレギュラーズを強引な手法で茶会に誘う。
『神の国』の『聖女の薔薇庭園』に滞在するイレギュラーズの数は10名以上。
交渉の末、2人はツロの要求を呑んで離反。残りの動向は詳しくはわからないが、現状は安全を保証されているとのこと。
「イレギュラーズも一枚岩ではないとは思っていましたが……」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)はギフトで己の心を強制的に制しつつも、この状況を淡々と語る。
一部、誘いを受けながらも帰還したメンバーがいたが、彼らは『招待状』を手にしていた。
それを有することで、聖女の薔薇庭園の道を辿ることができるとツロは告げたという。
「それは、天義教皇シェアキム六世にも届いていたようですね。ただ、人員を使って突入とはいかない事情があります」
そこに至る道……審判の門にレテの回廊は『異言』に満ち溢れており、その先にある大神殿は『原罪の呼び声』が響く。
その大神殿内部に、聖女の薔薇庭園は存在しているというが……、下手に人員を投入すれば、全員が何らかの形で魂を侵されてしまうのは必定と言える。
「ただし、元より招待されていたイレギュラーズなら、話は別です」
招致の力は多少なりとも働いているとみられ、加えて『パンドラ』を有するからこそ、簡単には魂を侵されることはない……はずだ。
ローレットとしては、この道をこじ開け、薔薇庭園に滞在するイレギュラーズの帰路を確保したい。
傲慢の魔種はこちらを侮っているのは間違いない。
その隙を突くことができれば……。
「『冠位魔種』ルスト・シファーを表舞台へと引きずり出せるはずです」
先に示した2つの目的と合わせ、もう一つ……離反したイレギュラーズの意志を確認したい。
「ローレットは神の国に向けての侵攻を行います」
アクアベルはその為の作戦について語り、立ち塞がるであろう遂行者ナーワルの撃退をメンバー達に託す。
それを聞いたイレギュラーズはリンバスシティより神の国へ。
そのまま、各々が目的地を目指して突き進むのである。
●
見た目はアリスティーデ大聖堂を思わせつつも、無数の希少金属や宝石が散りばめられ、贅を凝らした豪華絢爛な装飾が目を引くテュリム大神殿。
そこに、遂行者ナーワルは滞在し、時を待つ。
彼女は自らを売り込んで遂行者となり、その活動を手助けしていた。
神の国構築の為各地を巡り、それなりの成果を上げる傍らで、人々のネガティブな感情を我が物とすることも忘れない。
始めは好調だったが、正体を明かしてからというもの、イレギュラーズによる邪魔が増え、かなりの範囲の神の国が消え去った。
現状、『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーは何も言わない。
だが、他の遂行者らは焦りを感じており、協力者であるナーワルにも目に見える成果を上げるよう強要してきている。
(一部は面白いことをやっているんですけれどね)
まさかイレギュラーズと手を組むなんてと、ナーワルは小さく笑う。
ともあれ、遂行者としての立場もあり、ナーワルもまた迎撃に出るほかないが、敢えて動かずこの場で待機を選ぶ。
この部屋はナーワルに与えられた一室。
さながら孤児院のような造りになっているのは、かつてアドラステイアにあったそれと同じように利用できるから。
もっとも、この場にいる者全てが造られた子供達だったが。
まず、致命者ジョエル。アドラステイアで死亡した子供の姿をそのまま利用して形作られた存在で、中身は全くの別の存在だ。
次に、影の艦隊(マリグナント・フリート)。
遂行者サマエルから少し譲り受けたそれらは狂気の旅人マリグナントの影響で生み出された者達。
そして、ナーワル、ジョエルが生み出した『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』。
狂気を強く感じされるそれらは強い力を有している。
影の艦隊、異言を話すものの両者をジョエルが取り纏め、潜水部隊を編成している。
元々はアドラステイアの子供達で編成していた部隊名。
ただ、その名を引き継いだだけで、中身は完全に別物である。
「本当はもっと戦力を増やしたかったですが、今は動けませんからね……」
新生潜水部隊も思ったよりいい形に仕上がったとナーワルは考えるが、相手はイレギュラーズ。
これでも崩されることは想定しておくべきだろう。
ナーワルはこの間連れてきたルニア・アルフェーネをすぐ呼べるよう裏の部屋に待機させていたし、最終手段だって与えられている。
「後はなるように……ですかね」
魔導書が成り行きに任せるなど、実に滑稽だとナーワルは笑う。
程なくして、駆け込んでくるイレギュラーズの一隊。
響く『原罪の呼び声』に気分が悪くなったり、傲慢の声が誘われるような気配を感じながら、彼らはここまでやってきた。
「ようやくお目見えね、遂行者ナーワルに致死者ジョエル」
夢野 幸潮(p3p010573)はちょっと真面目モードでそれらの敵と対する。
さらに、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)がナーワルを注視して告げる。
「ようやく、本気の殴り合いができそうね」
「私としては、本気の力比べは私自身が完成してからにしたいのですが……仕方ありません」
状況が許さぬのは相手も承知。
今持てる力を尽くす他ないとナーワルも諦観したらしく、彼女の部下は皆並々ならぬ殺気を放っている。
「では、始めましょうか」
ナーワルの申し出はイレギュラーズとしても望むところ。
幾度目かになるナーワルとの戦いに、メンバー達は臨む。
- <神の門>決死の新生潜水部隊完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年10月25日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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メンバーは審判の門、レテの回廊と駆け抜け、『原罪の呼び声』響くテュリム大神殿へと至る。
「ここが正義の神の国? ほんと傲慢よねー」
『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が呆れてしまう横、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が感覚を研ぎ澄ませて。
「……いるね」
ヨゾラは脇の通路奥の部屋に何者かが待機しているのを感じ取る。
挟み撃ちされる危険もあり、メンバーは部屋内部の敵と対することに。
「私の名はヴァイス☆ドラッヘ! 只今参上!」
高らかに名乗りを上げたレイリーに、部屋内部の者達の視線が集まる。
「ナーワルに、致死者ジョエル……」
孤児院のような内装の部屋に、ヨゾラは見覚えのある遂行者や致死者の姿を視認する。
それ以外には、漆黒の子供の影が多数あったが、いずれもナーワルの配下に違いないだろう。
「ナーワル、……たしかどっかで聞いた事あるような……あっいたわそんな奴」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はしばし唸り、その名を記憶から引き出す。
その間、皆この状況に不快感を示していて。
「ふーん、孤児院に少年少女ばかりを集めた部隊ねぇ……相変わらず良い趣味をお持ちで?」
「褒め言葉と受け取っておきますね」
『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が煽ると、遂行者ナーワルはそっけなく返す。
「理解っているとは思うけど褒めてないから? むしろ、地獄へ落ちろ?」
やや感情的になるラムダだったが、すぐ冷静になっていた。
「……本当に『良い趣味』してる。子供の姿を利用する奴は大嫌いなんだよ……全く」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の前にずらりと並ぶ子供……影の艦隊の少女と異言を話すものの少年の混成隊。
「見た目だけとは言え子供を使うとは、案外中々のクソ野郎っスね」
思い出した葵は、前回見た時より数を揃えていると把握する。
「アドラスティアの頃からだけれど、天義のヤバイ連中は子供を使って戦おうとするのどうかと思うな! 大人が前に出て来い!」
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がそう焚き付ければ、ナーワル自ら前に進み出る。
「ようやく年貢の納め時ですかしら」
「まるでここが正念場ってクチだな」
「さあ、どうでしょう」
『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)、葵の呼びかけにも、ナーワルは表情を変えない。
「汝ら信ぜし預言は机上の空論。根拠有らぬ妄言が故に武に依て滅びゆく運命」
そこで、『敗れし幻想の担い手』夢野幸潮(p3p010573)が語りだす。
「真に彼の語られし歴史が正しいとすれば──自ずと叶うものだろう?」
――巨なる幸潮が今更記すも馬鹿馬鹿しい程に当然な事。
――現を見るがいい、『間違っている』から『負ける』のだ。
「我──ああいや。『偶像崇拝』は、『私』であった」
幸潮はふざけた遂行者の与太話をそう否定する。
「耳が痛い話ですね……」
首を振るナーワルは僅かに眉を顰め、配下を差し向けてくる。
「相手の数が数だからね……ともあれ、お仕事の時間だ」
「オレはナーワルを抑えるよ!」
ラムダがジョエルとその指揮下の取り巻きの対応に当たると、イグナートがナーワルへと向かう。
「呼び声を断固拒否しながら、きっちり対処していかないとね」
ヨゾラは皆の身を案じつつ、注意喚起する。
できるなら、この後現れる可能性のあるシスター、ルニア・アルフェーネ出現の前にある程度片を付けたいところだが……。
「さぁ行こうか、レイリー。私の、夢よ」
「ありがとう幸潮。私の背はお願いね」
幸潮が自身に夢を見ていてくれることに、レイリーは目を細める。
――皆の夢を護るために、今を生きている人の為に、魂無き者も救うために。
レイリーは自身のやりたいことを、やるべきことをやる為にこの戦いに身を投じる。
そして、リドニア。
「リドニアさん、思う存分殴ってきてね。その為の場は整えるから」
「希望あれば僕が行動変更し合わせる」
雲雀やヨゾラの協力にリドニアは感謝しつつ、ナーワルへと向き直って。
「貴方が何をするかわかったもんじゃありませんが、何かする前に叩きのめしてあげますわ」
暴走する魔導書……遂行者ナーワルを、リドニアは仲間と共に力尽くで止めに当たるのである。
●
闇の帳を降ろす雲雀は気配を潜め、状況把握に努める。
子供用の机に身を屈め、雲雀は誰よりも早く敵陣に突撃して禁術を発動させた。
血だまりから溢れる冷たい空気が捉えた敵多くを血だまりに引きずり込む。
相手が刹那凍り付いたタイミング、数名のメンバーが攻勢に出る。
(本当、勘弁してもらいたい所なんだけどね)
些かうんざりしながら、ラムダはテンションを高めて鉛の弾丸を発する。
「白竜の騎士/偶像としてかっこいい所見せるわよ」
愛馬に跨るレイリーはジョエルだけを抑えるべく前へと進み出て。
「久しぶり。今度は私が貴方達と踊るわね」
白亜の城塞のごとく立ち塞がるレイリーは艦隊含め、ジョエルの意識を自身に向けさせる。
存在感を示し、レイリーはジョエルの視線を逸らさせない。
同じタイミング、ヨゾラも前に出ていて。
(僕も実質『未完成の、完成したい魔術』ではある……でも、ナーワルのやり方は許せない)
ヨゾラはナーワルの至近から、星空の泥を浴びせかける。
煽られる少年の影の後方にいたナーワルへ、リドニアも近づき、魔導書を起動した拳で直接空へと打ち上げる。
しかし、相手もすぐ着地して態勢を整え、激しく炎を舞わせてきた。
近くにいたヨゾラやリドニアをその炎が焼く傍、イグナートが意にも介さずに飛び込む。
「キミの相手はオレだね! 趣味の悪い部下と一緒に踊りの相手を願おうじゃないか!」
戦いの鼓動を限界まで高めたイグナートは、取り巻きと合わせて敵の気を引き、敵の砲撃、暗殺術を甘んじて受ける。
(ルニアがどこで割り込みしてくるか分からねぇが……)
姿を見せぬ刻印を刻まれたルニアの登場を葵は気にするが、今は眼前の敵の対処が最優先。
この戦場はスポーツでなく命を駆けたバトル。
鋭い眼光で倒すべき敵を見据え、葵は灰色のサッカーボールを蹴りつけ、激しく敵陣へと叩きつける。
抑えるメンバーがうまく纏めてくれていることもあり、葵はそのまま撃破を目指す。
「ああ、ああ、ああ。幾千幾万幾億の世界より選ばれた特異なる運命に紐づいた英雄達よ」
時折声を上げる幸潮はさながら聖職者を思わせるように語って。
――遥か文の先まで往くがいい。
――混沌に誘われし汝らの物語は徹頭徹尾『トゥルーエンド』と決まっている。
歌い続けるは幻想賛歌で、この場の仲間達を幸潮は鼓舞する。
「だから『後』の事など気にするな。汝らの素晴らしき偉業は私が全て書き留めよう」
――惜しくも描写より外れた全ても、『敗れし幻想』として此処に在ると。
無論、誰一人、そうなることは望むことなく、遂行者となった魔導書の活動を全力で食い止めに向かうのだった。
●
ナーワルの火炎を食い止めるイグナートは砲撃や斬撃にさらされながら、右腕で強く殴り掛かる。
「何故私がそう記せるのか、それは簡単な事」
徐に幸潮が口を開く。
「第四の壁の先、液晶越しに覗く汝は知っているだろう。この『世界』がなんであるかを」
発動させたのは、『存在混濁』。
幸潮はナーワルにプレッシャーを与え、問いかける。
「汝ら信ずる『神』は此の『世界』に於いて如何なる立ち位置であるか」
「この世界を作り替える存在ですね」
ナーワルはそっけなく答える。
まるで、無辜なる混沌がどうなってもかまわないとでも言うように。
幸潮は自分を完成させる為なら、他は……世界を含めてどうなっても構わないとさえ感じさせるナーワルの態度に刹那怪訝そうな表情をして。
「無辜ナル罪ト権利ナキ刑ノ偽典よ、『異端』なる者に裁きを」
勝利は、約束されていると宣言する幸潮。
だが、ナーワルは悠然と構えている。
そこで、聖王封界の展開でイグナートは身を固める。
そのイグナートと連携をとったリドニアが虚空から腕を伸ばしてナーワルをつかみ取った。
流れ込む毒によって、ナーワルの目蓋が降りかけたのをリドニアは見逃さない。
相手が怯んだ隙にリドニアは姿を現し、凶手による連撃を見舞う。
「貴方用にとっておいた切り札ですわ」
露骨に憎しみを籠めた拳で殴りつけるリドニアに、ナーワルはなおも炎を燃え上がらせていた。
剣戟音の中、ジョエルは鬼気迫る表情で長剣を操る。
「舞台へようこそ」
対して、念入りにとジョエルを自らの舞台へと引きずり込んでいたレイリーは上機嫌になって立ち回る。
(幸潮の描く物語に沿って、私はこの戦場で英雄の一人となろう)
夢を抱いてくれる幸潮と共に、レイリーはさながら白き竜の如く立ち振る舞う。
放たれた砲撃を、彼女は鎧で防ぐ。
白き城塞の存在感を示すレイリーはジョエルの剣戟すらも盾で受け止めて。
「さぁ、もっともっと楽しみましょ」
不敵に微笑むレイリーは実に心強い。
幾度もサッカーボールを蹴り込む葵は、艦隊が散らばるのを阻止する。
その上で、葵は動きが鈍った艦隊少女に絶対零度の氷の杭を放って壁に縫い留め、仕留める。
ラムダもジョエルを捕捉をしてはいたが、艦隊への対処が薄いと判断してそちらへと回る。
広範囲に鉛をばら撒く間にラムダは剣と魔術を合わせた攻めで、距離をとろうとする艦隊少女を攻め崩し、一気に仕留めてみせた。
そんな仲間達を横目で見ていた雲雀は、異言の少年らを多く相手取る。
明らかにジョエルやナーワルを護るように位置取っていたこともあり、雲雀は思わず呼びかける。
「無粋な真似は控えてくれるかな? ――まあ、言っても聞かないのはわかりきってるけど」
「…………!」
だが、異言少年らも全力でこちらを排除せんと刃を、暗器を操る。
(殺らなきゃ殺られるとはいえ、子供の姿をしているのを相手にするのは本当に気分が悪い……!)
戦う前のラムダの言葉を思い出した雲雀は、ナーワルに地獄の底の底まで落ちてほしいと本気で願いつつも、邪魔してくる異言少年達へと死兆星を輝かせる。
その光に異言少年1体が焼かれ、溶けていく。
雲雀はさらに炎片を舞わせ、殺陣を思わせる立ち回りで次なる異言少年を追い詰め、呪力の一撃で1人を灰燼と帰す。
ヨゾラも近場で少年らへ星空の泥を浴びせかける。
その身を崩した異言少年の真上を通り、ヨゾラはナーワルへと迫って。
直接神秘の力を叩き込むヨゾラ。
対して、ナーワルの顔からは少しずつ笑いが引いていた。
●
ジョエル、ナーワルの対処は硬直していたが、取り巻きの討伐は進む。
先程同様、ヨゾラが渾身の一撃で異言の少年を殴りつけて粉砕し、雲雀が魔術で顕現した刃で別の1体を切り裂いてしまう。
ほぼ同じタイミング、艦隊も追い込み、葵が氷の杭と、ボールによる狙撃で1体ずつ消し去っていく。
砲撃を繰り返す艦隊少女に、ラムダは無我の境地へと至った後、鋭い剣閃で最後の一体を寸断し、虚無の彼方へと消し去ってしまった。
「…………!」
新生潜水部隊も瞬く間に撃破され、ジョエルにも焦りが見える。
剣技は確かに技量も高く、気を抜けばこちらが切り裂きかねない、が。
(……見かけが子供だからといって、剣筋が鈍るとかボクも甘いということか……)
ラムダは相手の外見に惑わされ、自身の体から血飛沫が上がるのを自覚する。
すかさず、レイリーが飛び込み、ジョエルの壁になる。
表情だけ見れば、鬼気迫る表情で切りかかってくる相手を今度こそ注意をそらさせぬようレイリーが存在感を示す。
ジョエルが仲間に致命傷を与えていたが、それでもレイリーは彼へと穏やかな眼差しを剥けて。
「もう眠って良いのだからね、ジョエル」
レイリーが壁となって死角を創る。
その陰でパンドラに縋り、踏みとどまったラムダがふぅと息をついて。
「……此処からは本気で征く……」
呼吸を整えるラムダは、無念無想、無我の境地へと至って。
「……読み違えるとその首落ちることになるとだけ言っておくね?」
ナーワルの視線を感じ、前のめりに長剣を繰り出していたジョエルだ。
思わぬ位置から現れたラムダが限界突破した身体能力で繰り出す剣閃に対応が遅れ、その首を落としてしまう。
「そ、んな……」
大きく目を見開いたジョエルは、爆ぜ飛ぶように姿を消してしまった。
「……恐るべし、イレギュラーズ……ですね」
片腕とも言える立ち位置だったジョエルを失い、ナーワルの顔にもはや余裕はない。
とりわけ、目の前で果敢に攻撃を仕掛けるリドニアに向ける炎は止むことすらない。
「……碧熾の魔導書は、やはり人が使うべきではなかった」
ここまでなれば、まさに厄災。
それは、リドニア……アルフェーネ家にとって、あってはならないこと。
魔導書を起動し、拳を振りかぶり続けるリドニアは果敢にナーワルへと攻め入るが、相手も強大な力を持つ。
焔を様々な武器に変化できるナーワルは思わぬ手を講じて攻め立てる。
「これならどうでしょう」
炎を雷火と変えて放ってくる敵の一撃は、威力も伴う。
「…………っ」
ナーワルの高位魔術にしばらく耐えていたリドニアも、ここにきてついに膝をつく。
リドニアがパンドラを使って態勢を立て直す間に、幸潮が彼女を支える。
「──Phantasm Writerの『名』に於いて宣言する」
聖職者の真似事は先程の言葉で終いとしていた彼女は詠唱を続けていて。
「痛覚も、恐怖も、私の万年筆にて『描写編纂』一つにて『なかった事』だ」
これだけ詠唱を続けて癒しをもたらしていても、すでに幾度か仲間が倒れかけている。
幸潮はそれを察して、自己否定して力を強化するのと並行し、回復術を繰り返す。
――回せ、回せ、回せ、私にはそれしか能がないのだから。
――我が愛、私の夢は、『倒れない』と叫べ。
幸潮の夢は倒れることを知らない。
何故なら──完璧で究極の『白竜☆偶像』な故に。
それだけに、仲間を、レイリーを、幸潮は全力で支えようとして。
「──Ne-World存在定義概念拾伍項の『悪魔』は断言する。ルスト・シファーの預言は、成就しない」
幸潮の言葉が響き続ける。
傷つく皆を幸潮が支える前方で、ナーワルとメンバーの激しい攻防が続く。
「んなもん完成させても、何にもなる訳がねぇだろうが! アンタは未完のままレッドカードだ!」
葵はナーワルが完成するのを是とはせず、敵の炎を封じるべく氷の杭を撃ちだしつつ、直接相手を蹴りつけて仲間達の攻撃の機を創る。
イグナートがナーワルに拳を叩き込みつつ防御を高める。
ここまで、ナーワルは炎を雷火や溶岩に変えて放ってきたこともあり、イグナートはすぐに踏みとどまってから栄光の一撃を繰り出しつつ態勢を整える。
「未完成だから完成したい、だとしても……貴様の行動は許せない」
魔術紋を輝かせたヨゾラもまた、ナーワルの体を殴りつける。
かなりメンバーも疲弊していたが、このままルニアが来る前にケリをつけたいとヨゾラは渾身の力で拳を打ち付けた。
仲間がうまくナーワルを引き付けている。
「姉様が援軍に来る前にここでケリつけましてよ」
今ならと、リドニアはこの時の為にと拘束術式の解除に加え、特殊な方陣を展開しようとする。
「そっちも発動なさいな。魔導書を」
リドニアは相手を煽りながらも、PPPの発動を試みる。
……だが、何も起こらない。
今回もまたその時ではないと世界は彼女に告げているのか……。
それでも、リドニアはめげずに蒼熾の魔導書を起動させて。
「真っ向から勝負だ! 遂行者ナーワル!」
「受けて……たちましょう」
次の瞬間、荒れ狂う炎と雷が部屋の内部に巻き起こる。
ナーワルもメンバーに抑えながらも、リドニアの挑戦を受け、魔導書を発動させていた。
闇炎に閃光と真逆の力を連続して解き放つリドニア。
どちらかが倒れるまでぶつかり合う膨大な魔力。
目を覆わんばかりの強烈な光が部屋の中を覆いつくす。
それが止んだ時、押し負けたのか、闇と光を立て続けに浴びたリドニアは相手にその場に崩れ落ちる。
だが、ナーワルもただでは済まない。
全身を焦がし、白い衣装もボロボロになって全身から煙が上がっていた。
「まだ、終われません……」
歯噛みするナーワルは手にしていた骨を強く握りしめる。
刹那、骨が光を発した直後、彼女の体は光に包まれ、天井を突き破っていずこともなく飛び去ったのだった。
●
ホッとしたのも束の間の事。
ヨゾラや雲雀がその接近を感知し、全員が厳しい状況の中、禍々しい気を纏った女性がその部屋に現れる。
「少し寝ていた間に、ナーワルはどこに行ったのかしら」
現れたのは、リドニアの姉、ルニア。
ただ、そのリドニアはすでに倒れていたのに、相打ちかしらとルニアは微笑む。
「初めまして? さっきぶり? ……どっちでも問題ないけどね」
先程もその姿を視認していたヨゾラ。
ただ、ルニアはこちらのメンバーを把握してはいなかったらしい。
「飛び入り参加も歓迎よ、全て相手してあげる」
レイリーはすぐに現れたルニアを受け入れる。
直後、雲雀が突撃し、冷気を発してルニアを包み込む。
「あら、綺麗なお姉さん。どう貴方も一緒に踊らない?」
白竜舞台へと誘うことで、レイリーは相手の意識を釘付けにする。
本人はもちろん、靄すらも通さぬ構えだ。
それはイグナートも同じ。
ナーワルがいなくなったこともあり、イグナートはただルニアの侵攻を食い止めに当たる。
「ナーワルが吸収されなくてよかったというべきかな」
ヨゾラは本音を語りながらも、ルニアへと星空の泥を浴びせかける。
「僕だって魔術の端くれ……僕の我儘だけど、そういうのはお断りだよ!」
――この場で仕留めねば。
そんな気概でヨゾラは攻撃するが……。
怪しい靄がこの場を支配する。
靄は形を変え、刹那の後にヨゾラの体力を奪い去る。
抑えになるメンバーからすでに気をそらしていたルニアは濃い霧を発する。
次はどこから来るのかと感覚を働かせていた雲雀もまた気を失いかけるが、2人揃ってパンドラの力で耐えていた。
ここでも、幸潮が『英雄再興』にて支える。
「私の夢は倒るる事を知らない。何故なら──完璧で究極の『白竜☆偶像』な故に」
ラムダも靄を浴びてはいたが、絶気昂で持ち直しており、仲間とアイコンタクトをとって近接戦を仕掛ける。
「オイオイ、交代ボード無しで途中参加は反則だって聞かなかったんスか」
元サッカー選手らしい例えでルニアを糾弾する葵。
纏う雰囲気、力、全てが明らかにヤバイ奴だ。
メンバーも疲弊した状況でそれどころではないという現状もあり、葵は氷の杭に加えてボールをシュートし、ルニアに叩きつけたが……。
「フフ、思ったより満身創痍だったですね」
涼しい顔をするルニアだが、リドニアが倒れている状況での交戦に価値を見出せなかったのか、靄の中に消えていく。
靄はすぐに晴れたが、戦いはまだ終わらないことを皆察する。
傲慢と対するその時まで。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは悩みましたが、遂行者へと思うままに呼びかけ、かつ全力で自分のできることを行っていた貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<神の門>のシナリオをお届けします。
こちらは、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者依頼と合わせ、夢野 幸潮(p3p010573)さんのアフターアクションによるシナリオです。
●概要
神の国で最も重要とされている『テュリム大神殿』が今回の舞台です。
その中で、遂行者ナーワルが孤児院を思わせる部屋で彼女は自らの手勢と共に待ち構えています。
ナーワルを含め、致死者ジョエルを追い詰める絶好の機会と言えます。
ただ、大神殿内には『原罪の呼び声』が響いており、何かかしらの異常が発生する可能性に加え、傲慢の声に誘われる可能性も……。
●敵:ナーワル混成隊
〇遂行者:ナーワル
20歳、遂行者と一目でわかる白服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
アドラステイアにて、下層の子供達にファルマコンの教えを説く一方で、潜水部隊を率いてスパイ活動を行わせていました。
その正体は「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる魔導術式が形を成した物とのこと。
自ら未完成だと自覚しており、完成の為に「他者の痛み」と「恐怖」、「憎しみ」を集めています。
戦いでは、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。
〇致命者の少年:ジョエル
アドラステイアの聖銃士を思わせる姿をした少年。長剣使いです。
これまでもかなりの失敗を繰り返していることから、汚名返上の機械と考えており、全力で当たってきます。
見た目に寄らず、刀剣を操る技術はかなり高いです。
潜水部隊を再編し、ナーワルの指示化の元、本気でイレギュラーズに立ち向かってきます。
〇影の艦隊(マリグナント・フリート)×5体
ジョエルに引きつられた者達。遂行者サマエルの客人、狂気の旅人(ウォーカー)マリグナントの影響で生み出された者達。
潜水部隊再編の為、遂行者ナーワルを介して配備されています。そのせいもあり、練度もかなり高いようです。
見た目は陰でできた人間……いずれも少女を思わせる姿をしており、装備した大砲、高射砲を生かした高火力を活かした攻撃を行います。
〇異言を話すもの(ゼノグロシアン)×5体
ナーワルによって生み出された存在です。倒すと消滅します。
こちらは少年ばかりですが、強い狂気に捕らわれており、かなりの難敵となります。
近距離戦を得手とし、異言を紡きながら暗殺者さながらの動きで体術、仕込み杖、吹き矢、小型拳銃と様々な戦術で襲い掛かってきます。
〇ルニア・アルフェーネ
リドニアさんの姉。魔種。強大な力を有しています。
『聖痕』を刻印された彼女はナーワルと活動する一方、魔導書である彼女の力を取り込もうと画策しているようです。
身体から蒼い靄を発し、底冷えのするような空気を展開して全てを自らの力に変えます。
蒼い靄は様々な攻撃に利用できるようです。
戦闘開始時は姿が見えず、その動きが気になるところです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
それでは、よろしくお願いします。
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