PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神の門>ゲート・オブ・サンクチュアリ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 色とりどりの花々が咲き誇る庭園の中心。ガゼボと呼ばれる西洋風の東屋でティツィオはチェスの駒を盤上に配していた。趣味に興じているというよりは、手持ちの戦力を駒に見立てて作戦を練っているといったところか。
「……ふむ。ドゥーエがやられましたかねぇ。まぁ、いいでしょう。所詮は失敗作です」
 幾つかの駒を動かしている中で唐突にナイトの駒が砕けたが、そう呟くだけで特に気にした風もない。しかし、その直後に自分の背後に感じた気配には素早く反応する。
「使えぬ駒を寄越しおって。お陰でこのザマだ!」
「これは申し訳ない、インディゴ殿」
 転移してきたのはインディゴとクワトロだった。ドゥーエとクワトロ、二名の致命者を連れて天義へと攻め入ったインディゴであったが、イレギュラーズとの戦闘によって撤退を余儀なくされたのだ。
 手傷を負わされたばかりか、主君であるルストから与えられた使命を全うできなかったことに酷く憤っている。
 怒るインディゴの言葉を慇懃な態度で受け流すティツィオは、傷を癒すために休息に入る二人を見送ると再び盤上の駒を見据えて考え込む。
「次の手は……」
 手にしたビショップとルークの駒を一手ずつ進めると、ティツィオの前に二人の致命者が召喚され跪く。
「イレギュラーズはそう遠くないうちにここへ攻め入ってくるでしょう。トレ、チンクエ、二人は彼らの迎撃に当たってください」
「畏まりました」
「ティツィオ様の仰せのままに」
 トレとチンクエ。全く同じ顔をした二人の致命者はティツィオの命令に恭しく一礼すると庭園を後にする。


 冠位傲慢ルスト・シファー一派と天義での戦いが日々繰り広げられているが、そんな中で先日、数名のイレギュラーズが敵陣へと”招待”されたという報せが入った。
 招待者の安否や具体的な同行は不明ではあるものの、ローレットは彼らの救出を優先事項として設定。そのための戦力を派遣することを決定した。
「あそこを突破しないとならないってことか……」
「どうやらそのようじゃな……」
 『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は正面を見据えるとごくりと唾を飲み、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)も同様の気配を感じたようで同意する。
 ルスト派の遂行者たちは混沌世界を地の国と呼び、別位相に作られた自分たちの領域を神の国と呼称しているらしい。そして、今回向かうのはリンバスシティからその神の国へと繋がる門である。
 遠くからでも分かるほどの威容ではあるが、そこに気圧されている場合ではない。
 招待客であるイレギュラーズは恐らく敵陣からの脱出を試みることだろう。それが成功した場合、間違いなくここを通らなければならない。それまでの間この場を確保し、無事に帰還させることがクウハたちの役割である。
 警戒しつつ巨門へと迫るクウハたち。しかし、やはりと言うべきか防備は固めてあるようだ。
「何か来る!」
 先頭を行くクウハの耳に不気味な咆哮が届くと、後続に合図を送り足を止める。頭上を見上げてみれば、赤き竜が翼を広げて旋回しており、その背中から二つの影が降りてきた。
「お前は……!」
「あら、お久しぶりですね。その節はどうも」
 天使のような翼を広げてふわりと着地した二人の内一人は、クウハやニャンタルがかつて豊穣で相対したトレであった。同じ顔をした致命者が何人かいるが、杖を持っているということは間違いないだろう。
「ここから先へは進ませません」
「おぬし、新顔じゃな?」
 そしてもう一人。そう言って巨大な鎚を構える致命者だが、これまでの報告に大鎚を武器使う者の報告はなく新たな戦力だろうとニャンタルは思い至る。いずれにせよ、ここを突破せねば帰路の確保は難しい。
 トレが指を弾き漆黒に染まった天使たちを召喚すると同時に、クウハたちもまた武器を構えるのだった。

GMコメント

●ご挨拶
本シナリオは
・『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)様
・『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)様
のアフターアクションとなります。
よろしくお願い致します。

●目標
1.トレの撃退もしくは撃破
2.チンクエの撃退もしくは撃破

●ロケーションなど
ルスト派遂行者たちの拠点である天の国へ至る道程です。
リンバスシティの中に設置された審判の門と呼ばれる巨大な門があり、そこは聖痕を持つ者でなければ通れないとされています。
招待されたイレギュラーズはここを突破して混沌世界へと帰還すると思われるので、それまでの間に敵の防衛網を崩し安全を確保しておく必要があります。
そのため、今回は審判の門のリンバスシティ側で敵防衛戦力と戦い、これを撃破もしくは撃退することが任務となります。

●エネミー
・トレ×1
 遂行者ティツィオ配下の致命者で外見的な年齢は15歳前後、中性的な容姿をしています。
 ティツィオの指示により、審判の門防衛に派遣されました。イレギュラーズとは一度豊穣にて交戦していますが、様子見でもあったその時とは異なり、今回は最初から全力で戦うつもりのため一層手強くなっています。
 ステータス傾向としては、AP、神攻、抵抗が高く、HP、防技、回避が低い遠距離神秘型となります。
 一部弱点を後述のパッシブで補ってはいますが、相殺できるほどではないようです。
 主な攻撃手段としては以下のようになります。

 『光球』
 神秘属性の光の球を撃ち出す、遠距離単体の通常攻撃です。

 『励起』
 自身を中心に、味方の力を引き出す領域を発生させます。
 【識別】【自域】物理攻撃及び神秘攻撃にプラスの補正を加える付与スキルです。

 『守護』
 味方を守り治癒させる領域を発生させます。
 【識別】【遠範】【治癒】【HP回復】【BS回復】防技及び抵抗にプラス補正を加える付与スキルです

 『???』
 現時点では不明です。

 『召喚』
 影の天使を自在に召喚することが可能です。

 『天使の翼』(パッシブ)
 反応を上昇させ、【飛行】が可能となります。

 『天使の輪』(パッシブ)
 輪から降り注ぐ加護の光がトレを守ります。
 防技・抵抗が上昇しています。

 『???』(パッシブ)
 現時点では不明です。

・チンクエ×1
 遂行者ティツィオ配下の致命者です。
 トレと全く同じ容姿をしていますが、武器が違うので判別は容易です。
 最近製造されたばかりのようですが、何らかの手法で既に他の致命者と同程度に戦えるようになっているようです。
 ステータス傾向としては、HP、物攻、命中が高く、防技、抵抗、回避が低い近接物理型です。
 後述のパッシブで一部弱点を補っているようですが、相殺出来るほどではないようです。

 『打撃』
 巨大な鎚を振るう、至近単体の通常攻撃です。

 『衝破』
 フルパワーで鎚を振るい衝撃波を巻き起こす範囲攻撃です。
 【物近扇】【崩れ系統】【足止め系統】

 『痛撃』
 自らが傷付くことすら厭わない強力な一撃を放ちます。
 【物至単】【防無】【ブレイク】【反動】

 『???』
 現時点では不明です。

 『天使の翼』(パッシブ)
 反応を上昇させ、【飛行】が可能となります。

 『天使の輪』(パッシブ)
 輪から降り注ぐ加護の光がチンクエを守ります。
 防技・抵抗が上昇しています。

・影の天使×不明
 トレによって召喚された天使の形状をした黒い影の塊です。
 剣や槍、杖など様々な装備で武装してはいますが、単体での戦闘力はそれほど高くありません。
 また、シナリオ開始時では10体出現していますが、倒すとその都度トレによって補充されます。
 数が多くトレの支援もあるため、弱いからと放置すれば被害が大きくなるでしょう。

・幻影竜×1
 赤い鱗に覆われた竜の姿をしていますが、竜種ではないようで脅威であることには変わりないものの、竜種ほど強くはありません。
 上空を旋回し、招かれざる客に対して炎のブレスで攻撃してきます。
 2~3ターンに一度、PC全体にダメージと同時に【火炎系統】のBS付与判定を行うフィールドギミック扱いとなり、撃破は不可となります。

●サポート参加
 当シナリオではサポート参加が開放されています。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神の門>ゲート・オブ・サンクチュアリ完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月25日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC3人)参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


 ”招待”されたイレギュラーズを無事に帰還させる。その目的のために審判の門へとイレギュラーズが集まるが、当然遂行者たちもそれは理解しており戦力を配置している。
「よう、トレ! 久しぶりじゃねェか!」
「はぁ。面倒なのが出てきたものです」
「あぁ、猫が言っていたのはあのコの事なんだね?」
 双子の天使とでも形容すべきか。瓜二つの容姿をした二人の内、杖を持った方を見て『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が軽い調子で声を掛ける。
 以前、豊穣で起きた事件の解決に向かった際、クウハはトレと対峙したことがあったのだ。
 その言葉を聞いてクウハに問いかけるのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)である。飼い猫と遊んでくれた相手であるならば、今度は自分とも遊んでもらおうと嗤う。
「クウハさんのお知り合いでしたか」
「……」
 とはいえ、仲良しの友人といった気配ではない。『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は油断することなく臨戦態勢を整え、後方で巨大な鎌を構える『ネクロマンサー』マリカ・ハウ(p3p009233)はちらりとクウハへ視線を向ける。
 なにやらクウハの事が気になるようだが、今は武器商人に任せることにしたようだ。
「ゼシュテル式だと門番が居たらぶっ飛ばせばその門は通ってイイってルールがあるんだ! 退いてもらうよ!」
「そんなルールが……。であれば、私たちも退くわけにはいきませんね」
 握り拳を突きつけた『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)に応じたのは、自分よりも巨大な戦鎚を軽々と持ち上げている二人の天使の片割れ、チンクエである。
 そんなルールなど存在しないのだが、製造されて間もなくまだ世間の常識に疎いチンクエは信じこんでしまったようである。
 それはそれとして、いずれにしてもどちらも退くことなどできない戦いである。
「ここを取るのは我らじゃ!」
「ほないっちょがんばろっかー!」
「行くぞ、皆!」
 二剣を抜き放った『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)の言葉に続き、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が大弓に矢を番える。
 そして、『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)の声によって戦いの火蓋が切られたのだった。


 今回の戦いにおけるイレギュラーズの作戦は明確だ。
 各個撃破。チンクエに戦力を集中させて撃破したのちに、トレを倒しに掛かる。しかし、全戦力をチンクエに集めれば、トレや影の天使が野放しとなって思わぬ被害が出てしまうことだろう。
 故に、それぞれに最低限の戦力が抑えに回る形となる。
「あなたたちの相手は僕たちです!」
 胸の奥より湧き出る感情を炎へと変えて解き放つ。鏡禍の炎が影の天使たちを包み込むと、その存在を脅威とみなしたようだ。
 黒い翼を広げて一斉い飛び立つと、鏡禍の周囲へと群がり始める。剣に槍、弓矢とそれぞれの持つ武器で襲い掛かる影の天使たちだが、鏡禍の纏う薄灰の霧がそれらを受け止めあらぬ方向へと流していく。
 そうして時間を稼ぎながら、自身もまた飛翔して天使の群れの中から飛び出すと鏡禍は少しずつ移動していく。
 厄介なのはトレの支援能力。その影響範囲から少しでも引き離そうというのだ。
「援護するで!」
 ほぼ全ての影の天使を引き連れた鏡禍が十分にトレから距離を取ったところで、影の天使の群れの中を無数の煌きが奔った。
 極めて高い集中状態から驟雨の如く放たれる矢は、精確に影の天使の手足を打ち抜いていきその動きを止める。これこそが彩陽の真骨頂である。
「新たに呼ばれても面倒です。できるだけ倒しきらず、この状況を維持しましょう」
「了解や!」
 彩陽が影の天使を止めた隙に、強固な物理障壁の展開を終えた鏡禍が言う。
 影の天使は倒したところで、無傷の新品があらたに召喚されるだけであることは目に見えている。そして、新たに召喚された個体をまたこちらまで引っ張ってくるのは手間だ。であれば、下手に倒さず現状維持に努めるのが最善と言えるだろう。
 なるべく致命打を与えないように気を付けつつ、鏡禍が引き付け彩陽が抑える。役割を決めて二人は影の天使たちをその場に釘付けにしていく。


杖を掲げ祈りを捧げることで領域を広げたトレの前にクウハが立ちはだかる。
「前回俺にしてやられたからって、まさか逃げるとは言わねェよな? もう一度俺と踊ってくれよ」
「……いいでしょう。敢えてその挑発に乗って差し上げます」
 魅了の魔力を込めた言葉と振る舞いで気を引くと、主たる武器商人より下賜された二つの守護にて放たれた光球を防ぐ。
 ここまでは前回とほぼ同じ展開。しかし、今回はトレ側も本気を出しており、なんらかの対策を取られていることは想像に難くない。
 これから戦いがどう転ぶのか。互いに数手先の展開を幾通りもを予測しつつも、それを感じさせないような舌戦を繰り広げる。
「オマエがご主人サマに従うのはオマエ自身の意思なのか?
同じ顔した奴の中には迷ってた奴もいたって聞いたけどな。
主人の命なんざ関係なく、やりたい事があるなら話してみろよ。
オマエがこっちに来るんなら、兄貴代わりぐらいにはなってやるさ」
「面白い提案ですね。では、私のやりたいことを手伝ってくださいますか?」
「なんだ、言ってみろよ?」
「それは……あなたの命を頂くことです!」
「チッ、それは叶えてやれねぇなぁ!」
 舌戦の最中でも放たれる光の球。そしてそれを弾いて煌めく銀の守護。
 苛烈なる命の駆け引きであるにも関わらず、星々が瞬くかのように二人の戦いが美しく彩られていく。


 開幕直後、雷鳴の如き一閃がチンクエに襲い掛かった。咄嗟に戦鎚を盾にして防いだが、思わぬ一撃に押し込まれていく。
「ほう、今のに反応するか。じゃが、これならばどうじゃ?」
「続きます!」
「っ!」
 にやりと笑ったニャンタルの後ろから斬撃が飛んでくる。ニャンタルの突撃に合わせて、ルーキスが刀を振り抜いていたのだ。
 ニャンタルを蹴とばして更に後ろへ退くと、チンクエは地面を抉りながら戦鎚を振り上げその衝撃はで斬撃を相殺したようだ。
「まだまだ!」
「ほうら、これをあげよう」
 側面に回り込んでいたイグナートが呪いに染まった右ので打ち抜く。と、同時に武器商人の放った蒼炎の槍が反対側から迫ってくる。
 イグナートが中心となって構築する一糸乱れぬ連続攻撃は、着実にチンクエを追い込んでいく。
 戦況は当初の狙い通りに推移していると言ってよく、影の天使は鏡禍と彩陽が見事に抑え、クウハもトレを釘付けに出来ていることも、武器商人はしっかりと把握していた。
「これはあとで猫にご褒美でも……」
「もう勝ったつもりでいるのですか?」
「ぐっ! これはなかなか……!」
 断続的な攻撃を受けつつもチンクエは怯むことはなかった。防ぎ切れないのならば、覚悟を決めて突撃を選択する。そんな思考回路の持ち主だったのだ。
 決して油断していた訳ではないが、反応の遅れた武器商人が戦鎚に殴り飛ばされると、すぐさま仲間たちがフォローに入る。
「お主、覚悟が決まり過ぎじゃろう!?」
「誉め言葉と受け取っておきましょう」
「ただの捨て身じゃないですか!」
 驚きつつも攻撃の手を止めることはない。
 ニャンタルの二剣、そしてルーキスの二刀。四つの刃が乱舞しチンクエを取り囲む。重量ゆえに速さには対応しきれないようだが、やはりそれは気合で耐えてどこまでも力押しで行くつもりらしい。
 振り下ろされた鉄鎚から大地を揺るがす衝撃が広がり、思わず態勢を崩したルーキスに追撃を放とうとしたその時、チンクエの腕がぴたりと止まる。
 イグナートを中心にドラムを叩くような音と共に魔力の波動が広がり、その音を聞いたチンクエは挑発と捉えイグナートに狙いを変えたのだ。
「どうやら守りには自身がおありなようですね」
「まぁね!」
 再び振るわれる鉄鎚を、腕を交差させて正面から受け止めるイグナート。確かにチンクエの一撃は強力だが、それ以上にイグナートの守りは鉄壁である。
 深く呼吸を整え体内で練り上げた気を腕に集中させれば、鋼の鎧よりも強固となるのだ。
 生身でありながら、鍛え上げられた金属を打つような感覚にチンクエの戦鎚が弾かれると、そこに仄暗い魔力が迫る。
 前衛が戦っている間にしっかりと守りを固めたマリカも攻撃に参加し始めたのだ。
 刻まれた呪いの烙印は命を蝕み死を齎すものだ。異物が体内に入り込んでくる感覚に、チンクエは不快そうに顔をしかめるが、まずは目の前のイグナートをどうにかしたいといったところだろうか。
 防御を固めるイグナートに嵐のような乱打を浴びせるが、そこに再び蒼炎の槍が飛び込んでくる。その炎は初撃よりも熱量を上げており、身をよじって回避しようとしたチンクエの肩を焼き貫いた。
 武器商人の本領は追い込まれてから。それゆえに、敢えてチンクエの攻撃を回避も防御もせずに受けに行っていたのだ。


 チンクエに対してイレギュラーズ五人。それだけの戦力を集中させれたことで戦況は優位なまま進んでいった。しかし、捨て身で攻撃を続けるチンクエの火力も馬鹿には出来ないもので、イレギュラーズ側の被害も相当になっていた。
 そして、そのの被害を増やす一員が更に別にもう一つ。

『おっと、また来たようだね』
「うおっ!? すまぬのじゃ!」
 危険を察知した武器商人は、声を出す間も惜しいと心の声を直接仲間に届けると共に駆けると、ニャンタルの前に立ち腕を広げる。
 直後、戦場を飲み込むほどの火炎が一瞬にして広がっていく。
「ご無事ですか?」
「あぁ、助かったわぁ」
「今はなんとかできているけど、長引くと不味いかもしれないね」
「そのためにも、早くチンクエを倒しましょう」
 鏡禍が彩陽を、イグナートがルーキスをそれぞれ庇って炎を受ける。
「面倒なものね……」
 上空を飛翔する赤き竜を見上げてマリカが呟く。自分の身体を半ば霊体にでもしているのか、炎はマリカの身体を通り抜けて傷を与えることもできない。
 しかし、一方的に攻撃を受けるというのも気に喰わないといったところだろうか。
「あれがオマエの切り札って訳でもないんだろ?」
「そうです……ね!」
 同じく障壁によって完全遮断しているクウハにも炎は効かない。地獄の業火をものともせずに軽口を叩くクウハに、無数の光球が殺到しやはり弾かれる。
 そこからも激闘を繰り広げ続けるイレギュラーズと致命者たちだが、致命者側は徐々に追い込まれつつあることは理解していたのだろう。ここに来て鬼札を切ることにしたようだ。
「待ちやがれ!」
「ふっ」
 翼を広げて上空へと舞い上がったトレを追うクウハ。
 追いながらも魔性の言葉で呼び止めようとするが、やはりトレも対策を講じていたらしい。魅惑の声をものともせずに、杖を天へと掲げその先端に鋭く突き刺すような輝きが宿る。
 光は瞬く間に肥大化していくと、弾け飛んで一帯に光の粒子が舞い散っていく。それ自体は人を傷つけるような力は持ち合わせていないようだが、何かがあることは明白。
 そしてその答えはすぐに分かる。クウハの身を守っていた守護の力が溶けるように消えていっているのだ。

『不味い!』
「ここは僕が!」
 そしてイレギュラーズの頭の中に響く武器商人の声。このタイミングを狙って赤竜が急降下し、火焔のブレスを吐こうとしているのが見えたのだ。
 身を守る力の消失したクウハやマリカはもとより、仲間を庇い傷を深い負っている武器商人たちにとってもこの一撃は危険なものだ。
 この窮地を脱するべく鏡禍が咄嗟に動いた。
 本来ならば広がっていくはずの炎の大部分が、鏡禍に向かって集まっていく。身を焼く炎の熱にじっと耐え続ければ、やがて限界が訪れ命を散らすだろう。
 しかし、イレギュラーズにのみ許された奇跡の力が、鏡禍の身体を修復しぎりぎりのところで踏みとどまらせる。
「はぁ……はぁ……」
「耐えましたか。チンクエ!」
「分かっていますよ」
 鏡禍が身体を張ったおかげで、イレギュラーズの被害は最小限に抑えられたが、間髪入れずにチンクエが鏡禍に襲い掛かる。
 全身に力を込めたせいかこれまでの戦いで受けた傷から鮮血が迸るものの、些末なことだと気にせず鏡禍を叩き潰さんと戦鎚が振るわれた。
 傷の回復に努めている鏡禍だが、この状態でこれを受けるのはひとたまりもないだろう。
 だが、その戦鎚が鏡禍に触れることはなかった。
 攻撃態勢に入っていたチンクエの前に『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)が割り込むと、広げた掌の先から超圧縮した膨大な魔力を解き放ったのだ。
「ご機嫌様、可愛いコ達!」
 輝かしい金髪をさっと払いながらそう言うと、チンクエとトレを同時に視界へと納める。なるほど、話に聞いていた通り瓜二つの容姿をしている。
 ルミエールとしては好みであるが、敵対する以上は戦うことに躊躇はしない。
 そして、救援に現れたのはルミエールだけではなかった。
「神を騙るなど気に喰わないな」
 万年筆を宙に走らせる『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)がそう呟くと、逆再生していくかのようにイレギュラーズの傷が癒えていく。
 同時に口ずさむ旋律が耳に届けば、容器に水が注がれるように魔力が満たされていった。
「まだまだやれるはずだ!」
 『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)が高らかにトランペットを吹き鳴らせば、さらに傷が癒えていき気力も充実していっていることが確かに感じられた。
 体勢を立て直したイレギュラーズは、反撃の狼煙となったその旋律に後押しを受けて攻勢へと転じていく。
「うむ、調子がいいのぅ!」
 最低でもチンクエはここで倒しきりたい。
 上空に逃れようとするチンクエに先回りし、上を取ったニャンタルが二剣を閃かせる。ゆらりとした構えから放たれる瞬きよりも速い三連斬は、的確に急所を狙うもので流石のチンクエも防御に回らざるを得ず、そのまま地表へと叩き落とされてしまう。
「このまま押し込みましょう!」
「ヒヒヒ! 遊びの時間は終わらないよぉ!」
 そしてその地上ではルーキスと武器商人が既に構えていた。
 呼吸を止めて全身に力を込めれば、筋肉が膨張して体格が一回り大きくなる。鬼の如き力を引き出したルーキスは、その力の全てを乗せて華々しく刀を振るう。
 そして剣閃の華を貫きながら蒼炎の槍が飛翔する。これまでに武器商人が流した血を燃料に変え、最大限の火力を引き出したそれは、周囲の景色が大きく歪むほどの熱量。
 さらに、逃しはしないという絶対の意思を体現するかのように、チンクエの周囲の空間が魔力によって断絶され、内側へと収縮を始めていく。
「がぁああああっ!」
 淀みない連続攻撃を受けたチンクエは明らかに重傷。全身が血だらけとなっており、もはや立っているのもやっとだろう。
 だが、辛うじて立っている状態でありながらも戦意は衰えておらず、むしろより燃え上がっているようにも見える。
 自分から理性を吹き飛ばし、力の限り暴れるその姿は追い詰められた獣そのものである。
 下手に近づけば、嵐のような乱撃に巻き込まれない。
「チンクエっ!」
「行かせるかよ!」
「こっちもしっかり抑え取るんで、決め手や!」
 介入しようとするトレを追ってクウハも飛び、衝撃波によって吹き飛ばす。すぐに影の天使を差し向けようとするトレだが、そちらには彩陽がいる。
 綺羅星の如く輝く矢が乱れ飛び、影の天使の転身を許さない。
 そうして時間を稼いでいる間に遠距離攻撃を持つ者が中心となってさらにチンクエに火力を集中させていく。
「……もうお終いよ」
 小さく呟いたマリカの声が戦場に不思議と響く。
 昏く淀んだ魔力が形を成す。命を刈り取るもの、或いは死神。そう形容すべきマリカの『お友達』は、音もなくチンクエの背後へと回り込み、その首筋へと冷たい輝きを宿した刃を突き立てる。


 もはや趨勢は決したと言っていいだろう。
 チンクエは斃れ、影の天使も使い物にならない。他の場所でも戦いが繰り広げられ、そのほとんどがイレギュラーズの優勢で進んでいる。ここでトレがいくらか粘ったところで大勢に影響はない。

『危うくなれば退きなさい』

 トレの脳裏にティツィオの言葉が響く。
 ここから逆転の目はない以上、ティツィオの指示通りに退くしかない。翼を大きく広げるとトレは天高く飛翔した。
「行かせると思うのか?」
「えぇ、そうです。あなたたちは私を逃がすほかないですから」
「なんだと? ……まさか!?」
 クウハが追いすがるも、トレは余裕の表情でそう返す。
 その反応を疑問に思うクウハだが、ある一つの報告を思い出した。
死したはずの致命者が動き出し、最後の力を振り絞って時間を稼いだと。咄嗟に振り返った瞬間、クウハの視界に映る世界が爆ぜた。


「けほっけほっ! とんでもない置き土産を残したもんじゃな……」
「皆さん、無事ですか!?」
 予めなんらかの術式が仕込まれていたらしいチンクエの身体が爆発したのだ。
 その威力はかなりのものであり、瓦礫の下から出てきたニャンタルが辟易とした様子で溜息を吐く。
 報告を聞いて備えていたのはクウハだけではなく、なにが起きてもいいように備えていたため、攻撃の規模に反してイレギュラーズ側の被害は軽微だったのだ。
 その証拠に、ルーキスの声に無事だという返事が聞こえてきた。
「傷の具合はどうでっか?」
「なんとか……。もう少し休めば動けるようになると思います」
 竜の息吹を一身に浴びた鏡禍も、その後すぐに治療が行われたお陰か、自爆に巻き込まれつつも耐えきることが出来たようだ。しかし、回復しきるまでにはまだまだ時間が掛かるだろう。彩陽が肩を貸し、少しでも楽な体勢で休めそうな場所へと連れていく。
「頑張った猫ちゃんにはご褒美をあげようねぇ」
「慈雨……」
 一人でトレと対峙し続けたクウハの負担は大きかっただろう。
 最終的にトレは逃がしてしまうことになってしまったが、それまでの健闘は十分に評価に値する。武器商人が優しく頭を撫でつければ、目を細めて気持ちよさそうにしていた。
 気の抜けたやりとりをしているように見えるが、状況は予断を許さないことは二人も理解しており何が起きてもすぐに動けるようにはしている。
「あとは脱出を待つだけね?」
「そうだね。せっかくここまで戦ったんだ。最後まで気を抜かずにいこう」
 聳える壮大な門を見つめマリカが呟けば、隣に立ったイグナートが続く。ここから遂行者陣営が更に反撃を仕掛けてくることは無いと思うが、万が一もあってはならない。警戒は怠るべきではないだろう。
 招待された者たちが戻ってくるその時まで、イレギュラーズは門の前で待ち続けるのだった。

成否

大成功

MVP

鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾

状態異常

鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾

あとがき

トレの撃退、チンクエの討伐に成功し、無事に門前を占拠することが出来ました。
お疲れさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM