PandoraPartyProject

シナリオ詳細

器に価値は決められぬ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●罪の所在の話
 『幻想』で最初にその事例が観測されたのは、おおよそ1ヶ月前になるだろうか。
 1人で森の中へ出掛けた子供が何日も行方をくらませ、数日後に、探しに出た両親が惨殺体で発見される、という……彼らの死体のそばには、行方をくらませた子供と同じくらいの背格好の子供が立っていたという。血まみれで、だ。
 当然ながら、その子供は殺人犯としてすぐさま捕縛され、しかるべき罰を受けるべく迅速に対応が進められた。
 だが、『殺人者』は最後まで、行方不明の子供の名を名乗り、自分じゃない、この体が悪いのだ、と喚くばかりだったというのだ。
 そして、2件目、3件目と事件が続くに従い、奇妙な事実が浮かび上がってくる。

 刑に服した『殺人者』の肉体のところどころが、どうにも――行方不明者と合致するのだ。奇妙なパッチワークを見ているように、曖昧な繋がりではあるけれど。
 頭の先から、髪の先、肌の色から声の響きに至るまで。あそこが誰に、ここが、どれに、と。
 そして次の事件でも、『この体が』と殺人者は叫び続ける。
 誰のものともしれぬ、誰かの体で。

「……さて、ここまで話をしたところで聞きたいんだけど。『皿舐めた猫が咎を負う』ってモノの喩え、知ってるかい?」
 『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)の問いかけに、頷く者はそう多くない……かもしれない。あるいは全員知っていても、さもありなんと彼は頷くだろうか。
「状況証拠と証言は概ね、居合わせた子供……子供? まあ『殺人人形』とでも呼ぼうか。それが犯人だって言っている。法に則って粛々と対応すればいい話さ。問題があるとすれば、行方不明者が1人として見つかっていないこと、捕まった手合いが行方不明者の特徴を継ぎ合わせたようなナリをしている『ことがある』という2点かな。ことがある、っていうことはそうじゃないってこともあるけど。少なくとも、ココは行方不明者のものである可能性が高い」
 ココ、と公直は己の胸を掌で抑える。心臓というわけでもあるまい。心、あるいは魂と呼称されるもののことだ。
「行方不明者が急増しているのは、メフ・メフィート北西部の小さな森だ。行方不明とか、神隠しなんて事例には事欠かない場所らしいけど、それも十年に1件、あるかないか。ここんところの騒ぎは普通じゃない。普通じゃないから、あっさりと手の内がバレる。犯人は想像以上に頭の回転が遅いらしいね。悪巧みに心を砕いた結果、当たり前の道理にも気づけなかったらしい」
 馬鹿な奴だよ、と公直は頭を振る。口調から、彼――というかローレットが犯人の情報、そして所在を掴んでいるのは明らかだ。
 被害を拡大させぬためにすぐに出る、と気を吐くイレギュラーズの1人に、彼は息を吐いてから問うた。
「……数日前、行方不明者が増えた。手遅れである、ということと本人達命の危険についてはご両親にお伝えしているんだ。探せば死ぬとね。その上で、まず言っておこう。『犠牲は増えた』後だ。そのうえで、君達に達成してほしい事柄が3つある」
 公直は3つの指を立ててから手を開き、親指から折り曲げていく。
「まずひとつ。『人形師』……事件の犯人の捕縛ないし殺害。これは必須だ。彼を殺せば不幸の連鎖は起きないだろう。次に、彼のアジトに潜伏するであろう『殺人人形』の破壊。1人ではないだろう。皆殺しだ」
 言い切った彼の言葉に動揺せぬ者がいるなら、相当肝が据わっている。最後に、と続ける姿に、躊躇する様子はなかった。
「行方不明者が最低1人は、五体満足で安置されている可能性がある。『殺人人形』を皆殺しにした後のその子の様子を観察してほしい。恐らく昏睡状態にあると思うが、そうだね。10分のうちに起きないか、『人形師』が得体の知れない術式を組み上げた後なら早急に殺してくれ」
 今度こそ。誰か1人でも彼に掴みかかっていれば、まあ。『依頼を受ける前なのだからハイ・ルールは犯してはいまい』。傷つけぬ限りは。
 それもなければ、素晴らしい自制心と義務感、それとひとつまみの情報屋への信頼があってだろうか。
「既に気付いていると思うけどさ。今回の依頼には一種の実験のような趣も含まれている。『移し替えられ、人を殺した魂は罪を被るのか』『殺人人形を殺した際、魂はどこへ行くのか』の2点……ついでに言うなら『人間の価値は肉体と魂、どちらにあるのか』。ご両親にとっては後者だそうだよ」
 彼は緩く、酷薄な笑みを浮かべている。目は? 勿論。
「君達が殺すのは社会的に悪を成す者だ。社会から斬り捨てられた者達だ。祝福されない命へ見切りをつけることが悪だというのなら、そうだね。君達は『望まれぬ命』を処理する医者も悪だと言うのかな? それは傲慢と言うんじゃあないか」
 笑っていない。それどころか、殺意すら感じさせる憤怒の炎が揺れていた。

GMコメント

 良い子も悪い子も生命倫理と哲学の時間だよ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
・『人形師』および『殺人人形』の全殲滅
・上記達成時に『人形師』がスキル『???』発動済み、あるいは非発動時に10分間覚醒しなければ行方不明者を殺害すること

●『人形師』
 魔法とそれに付随した錬金術に精通している男。治療系の魔術に長けているらしく、魂の移し替えというとんでもない行為を行ったのも彼。
 『殺人人形』は彼の作品であり、生きた人間と人形とを混在させたものであるらしい。
・中程度の回復魔術(レンジ2まで)が使えます。
・神至範、神超遠単の攻撃魔法が使用可能です。それぞれに1~2ほどのBSが付随します。
・???(神特レ・レンジ不明。溜2。戦闘には影響を及ぼさない。発動した場合、行方不明者は意識の有無を問わず速やかに殺害すること。なお、スキル発動と同時に『人形師』は昏倒し、その後の攻撃で無条件に死亡します。)

●『殺人人形』×5
 行方不明者の魂を『人形師』の作った器に移したもの。移行元の肉体の一分と、過去の行方不明者の肉体のいくつかを模倣した(あるいは継いだ)歪なデザインをしている。言動は年相応、自らの行いを否定しつつ攻撃は正確に行ってきます。
・基本レンジ2のスリングショットを扱う者が2人、残り3人はそれぞれブラックジャック、短槍、ショートハンマーで武装しています。
・スリングショットは『爆発石(物中範・火炎)』と『仕込み刃(物中単・出血)』を使用する場合があります。
・それ以外は基本攻撃のみですが、ブラックジャックは命中、短槍は物攻、ハンマーはCT率に上方補正が入っています。

●行方不明者
 直近で行方不明になった少女。発見時は昏倒状態にあり、厳密には死んでいないものと予測される。

●戦場
 『人形師』の工房。小さな洞窟を掘り返したものらしく、天井が低く奥行きがあります。
 長柄武器、大型武器の類には命中減補正(GM判断)が発生する場合があります。

  • 器に価値は決められぬLv:5以上、名声:幻想50以下完了
  • GM名三白累
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月25日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
不動・乱丸(p3p006112)
人斬り
シュタイン(p3p006461)
守護鉄鬼
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女

リプレイ

●その言葉の『真意』を
「「そうそう。確認しておきたい事があるんだけど」
 依頼の概要を聞き、1人として言葉を荒げることなく準備に取り掛かる中。
 『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)は、公直に一歩近づき、問いかける。
「万が一の時の例の子の対処、あれは肉体の生命活動の停止と同義と見ていいんだね?」
「ああ。生命維持はされてるだろうから、それを抜けばほどなく死ぬ。普通に殺しても構わない」
「もう一つ。本当に例の子の親は魂の方に価値があるって言ってたんだね?」
 アミーリアの二つ目の問いに、公直は目を細めた。それがどんな感情に由来するものなのかは、不明であるが。
「其処にない筈のものを尊ぶのは、人としての道理だよ。……それでいいかい?」
「ま、念のためだよ、念のため。お互いの認識に齟齬があっちゃいけないからね」
 諦めが籠もった言葉を聞き、彼女は笑う。目的を達成させる為なら或いは、手段を選ばぬたぐいの笑みだ。
 そして、そのやり取りを横目に見る者がいた。『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)である。彼女にとって依頼は『おともだち作り』の一環であり、それは多いほどよいものだ。
 その邪魔にならぬのなら、誰が何をしようと構わないが。少女の魂の所在を気にするのは、彼女も変わりはないということ。
(忌々しい……あの男の所業となんら変わりないではないか)
 『粛清戦機』シュタイン(p3p006461)の脳裏を過るのは、かつて自身を鋼鉄の肉体に押し込んだ狂気の持ち主の顔であった。
 魂を我が物として扱い、あまつさえそれをして神と同格であると嘯く者はどこにでもいるようで。そんな相手に行き当たってしまった事も、彼の業が招いた結果であるとすれば報われぬ。
 怒りに燃える機人、というのは傍目には……特に無力な情報屋には威圧的に過ぎた。他の面々も何かと『濃い』だけに、余計に。
 斯くして、やんわりとローレットから押し出された一同は目的地へと向かうことになる。
 少なくとも、それを拒絶する者はその場には居なかったことだけは、幸いだったと思うべきか。

「一刻も早く地獄に落とさんと被害者が報われない。ここは俺が先頭に立つが構わないな?」
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は洞窟の入り口に立ち、半ば有無を言わさぬ口調で問いかける。重火器を身に着けた彼が前衛を張るというのは、一般論からすれば得策ではないが。盾と接合した火器であるであることを考えれば、選択肢としては悪いものでもないか。
「まあまあ、突っ込む前に情報収集くらいはさせてほしいぜ。どうせ犠牲者の1人くらい漂ってるんだろうし?」
 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は、マカライトを含め先を急ごうとする者達をやんわりと遮り、周囲に魂が漂っていないかを確認する。『人形師』が恨みを勝ていれば、一つやふたつ探せそうなものだが。そこは、奇妙なくらいに霊の気配がしなかった。
「洞窟の中に罠がないとは限らんじゃろう。儂の使い魔に先に行かせるから、その後をついて歩くのでも構うまい?」
 『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は、背後で首をかしげるペッカートをよそに己の使い魔を洞窟内部に解き放つ。罠があればすぐに感知できるだろうし、そうでなくとも殺人人形の犠牲として彼らの居場所を突き止める役割を担うだろう。
「私達はマカライトさんに前に出てもらって、私が敵を探しつつ進む、でどうかしら。使い魔が気付けなかったところも含めてカバーしあえるでしょう」
 『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)は先を急ぐ仲間達にそう提案し、洞窟の奥に視線を向けた。
 罪を背負うべきは命を奪った子供なのか、子供が捉えられた殺人人形という器であるのか。……決まりきった問いである。神の道理から離れた以上、罪を負うべき相手に貴賤はない。
「話ィ纏まったんならとっとと人形師を殺して人形共も介錯しちゃればええ。違うか」
 『人斬り』不動・乱丸(p3p006112)は突入に慎重な者達の背を押すように洞窟を覗き込む。今や遅しと敵を斬るべく気を漲らせたその様子は、抜身の刀が振り回されているような危うさを想起させる。
 それでも辛うじて危険を回避できているのは、偏に彼も依頼の達成のためにこの場にいるから、であるが……。

 洞窟内部に配された松明と、乱丸の手にしたカンテラが洞窟の内部をわずかに照らす。
 クラウジアとシュタインの探知能力は、確かに暗がりの先に敵意を隠さぬ存在を見て取った。相手も、すでにこちらの襲撃を察しているとみて間違いあるまい。
 問題があるとすれば、行方不明者の扱いだが。彼らは人形師が持ちうる狂人なりの道理というやつを信頼していたので……結果として、正面突破を敢行することとなる。

●その魂の『在処』は
 ひゅん、と風切り音を鳴らし、その影は飛来する。鼻先まで迫ったスリングストーンを弾くようにペッカートが封印の術式を放つと、射手の少女人形はびくりと身をよじらせる。
 無論、ペッカートも無傷では済まない。弾いた石から飛び出した刃が、正確に彼の手元を切り裂いたのだ。脈動に合わせて血を吐き出す傷口は、相手の腕前の高さを示すかのよう。……だからこそ、初手で特殊弾を封じたのは僥倖であった。
 他方、マカライトは正面から飛び込んできた小鎚使いの一撃を盾でいなすが、反撃に握りしめた銃把は、至近距離にありながらあっさりと回避されてしまう。
 洞窟内での流れ弾を忌避し、行方不明者の肉体への被害を回避せんとするあまり、己の間合いで戦えていないのだ。ここに至り、彼の心に迷いが強く現れていたことが窺えよう。
「何を躊躇っちょる。ガワが子供でもこいつらはもう人じゃ無いじゃろうが」
「しかし……!」
 拮抗した両者に割って入るように、乱丸が短鎚使いに一太刀を浴びせる。首を狙った一閃はしかし、入りが浅かったか喉を僅かに裂くのみで終わる。相手の表情は、戸惑いと嫌悪感でいっぱいであるように見えた。

「忌々しき我が鋼鉄(からだ)! 砕いてみせい!」
 シュタインは高らかに叫ぶと、正面から真っ直ぐに人形師に向かって前進する。行く手を遮るように振り下ろされたブラックジャックを無視し、片手銃を構え人形師へと一撃を放つその動きに迷いは全く見られない。人形師も彼を警戒し、射撃術式で応じるが……覚悟と狙いの正確さの違いか、被害は明らかに人形師のほうが上回っている。
「ちぃ、判っておったことじゃが攻撃が激しいのう」
 クラウジアは戦局を見据え、思い通りに行かぬ現実に頭を抱えた。頭一つ抜けて前進するシュタインの被害が大きいのは無論のこと、短鎚使いを抑えるマカライトと短槍使いを相手取る絵里とメリンダの被害のほども馬鹿にできない。むしろ、遊撃を企図して格闘術式を振り回すアミーリアの被害が少ないくらいである。
 その手に握った長剣が魔術由来のものでなければ、苦戦は必至だったであろうが。なかなかどうして、取り回しの効くものであるようだ。
 結果から述べるのであれば、クラウジアは仲間を思う反面、回復手としてセンシティブ過ぎたともいえるだろう。結果、飛来するスリングストーンを捌ききれぬ距離に踏み込んでしまったのだから。
「血を流して、血を啜って、力に変えてまた流す。ひとりじゃないって素晴らしいのです」
「ひ、……っ!」
 絵里の表情には狂気が色濃く宿っていた。『そうでなかった』事が少ない彼女のことだ、正気と狂気の境がどこであるかなど、常人の判別のつくところではないのだが。短槍使いも、彼女を相手取りながら同様の色を濃くしていた。
 体が勝手に相手を殺そうとしている恐怖。それでも、自分より傷ついている相手が、この肉体の血を吸ってより輝いて見えるのだから救えない。
 相手に防戦を強いているはずなのに自分が消耗していく、理解不能の恐怖。そこにメリンダによる接近戦を挑まれれば、彼女の外見も相まって恐怖を覚えるのは当然である。
 ……そも、ここで既に、両者の戦意の差は明白だったのだ。
(少女の姿が見当たらない……人形師より奥に隠されているということですか。厄介な)
 とはいえ、メリンダに焦りがなかったか、といえばそれも否だ。最初に少女の身柄を確保して一計を講じようとした彼女であったが、敵意なき少女の位置までは把握できなかったと見え、結果として思い通りに動けなかった、という点はどうしても存在する。
 それでも、即座に戦闘へと意識を傾け、十二分に戦えていることは評価に値するのだが。

 全体を俯瞰すれば、戦局は一進一退と言えるだろう。
 決意と個々の能力でイレギュラーズが押してはいるが、細部の詰めに甘さがあるゆえに攻めきれていない。安全策を打つ者と自己犠牲を厭わぬ者との意思疎通がちぐはぐであったのは少々厳しい要素ではあったが、それでも各個撃破を意識した行動、そしてシュタインの己を的にかけた前進が結果として殺人人形達の敵意を分散させ、押し切るに至らなかったというのも大きいだろう。
 ……それが果たして、人形師の目にはどう映ったものか。
 彼のその行動は、イレギュラーズの想定よりもずっと早く。奇妙な呼吸を以てなんらかの術式の準備を始めた彼に、一同は警戒を強くする。
 止めようとするイレギュラーズ、させまいと動く殺人人形、そして否定を声高に叫ぶ『殺人人形の魂達』。
 混沌を極めたその状況で、果たして術式の完成を妨害できる要素は何一つなく――。

●そして誰もいなくなった
 指先から腕に、爪先から足に、そして心臓がひときわ強く拍動するのと同時に、『それ』は意識を取り戻した。正確には『得た』と定義づけるべきであろうか。
 未だ魔力と争いの痕跡が色濃いこの場所から体よく逃げ出すには、襲撃者を欺くか混乱に乗じて姿を隠すかの二択しかない。
 空っぽの器を敢えて生き永らえさせたのだ、対価としてこの肉体を好きに使うことになんの疑問があろうか?
 少女の肉と皮を被ったそれは、体の感覚を思い出すように上体を起こし。
 次の瞬間、飛来した魔力の弾丸に喉を撃ち抜かれていた。
「……ッ、――」
 声も上げることすら叶わず、少女の肉体は膝をつく。喉が潰されたのだから当然だ。射手はクラウジア。眼前に翳すように突き出された掌から打ち出された魔術弾は、少女一人を殺すには過当な殺傷力を持ち合わせていた。
 尤も、器は少女であろうとその中身はおぞましきシリアルキラーなのだが、正体がどうあれ、彼女は撃っただろう。
「チ、他人のおこぼれなんぞ殺し甲斐も無(な)ァわ」
「なに、こういうのは年長者の役割じゃろ? 硬いことを言うでないわ」
 乱丸は業物の鯉口を切り、今ぞ斬りかからんとしていたところだが、機先を制される形となった。刀を納めつつ憎まれ口を叩く彼に、クラウジアも気楽に返す。
 まあ、それは空元気にすぎず。彼女は直後、張り詰めた糸が切れたように倒れ込んだのだが……。
「……救えなんだか」
 シュタインが、息絶えたその肉体に歩み寄る。見開かれたまぶたを鋼鉄の指で押し下げると、自らの力不足を――或いは己の嘆願に応じない運命の強制力を――呪った。
「やー、終わったー?」
 少女の死体を前にした3名に向かって、アミーリアがことのほか朗らかに声をかけてくる。片手で人形師の肉体を引きずってきた姿に一同は眉根を寄せるが、彼女は気にしたふうでもない。
「魂の入れ替えかと思って、こっちにそこの子の魂でも入ってるかと思ったんだけど。違うみたいだね?」
 繰り返し乱暴に頬を叩いたが、反応はなかったと彼女は語る。
「彼女の魂が『それ』に入っていたなら……いいえ、それは憐れすぎるわね」
 メリンダは洞窟内の資料をひとところに集め、燃やそうとしているところだった。横目で人形師の肉体をみやり、魂なきあとも生きようと呼吸を続ける肉体を憐れむように目を伏せる。
「感謝する、と言うべきなのだろうか」
 マカライトの言葉には戸惑いの響きがあった。
 最悪、少女を手に掛けるのは己の役割だとばかり思っていた。子供を殺すのは気が進まないが、今しがた、そして最後にも、やるべきであると腹を括っていた。
 だから、『人形』ではなく『少女』を殺す必要がなかったことは、一線を踏み越えなかったことと同義だろうか、と。
「あー……生命倫理とか哲学はよくわからんが、要はアレじゃ。例えどの様な相手であろうと善悪関係なく斬らねばならん者は斬る。それが儂のぽりしーという奴じゃ」
 乱丸の言葉の説得力は、言わずもがな。いざとなればなんであろうと平然と斬って捨てるのだろうという確信を覚える笑みであった。
「新しい『お友達』がもう1人くらい増えると思ったんですが。魂がここに居ない? むむむ」
 絵里は首を巡らせ、『お友達』を数え直す。死んだ少女のがいないということは、死を迎えること無く魂が消えてしまった、ということか。死んだ時の強烈な思念がなければ彼女のギフトに引っかからないのは、なるほど道理である。
「こっちは後片付けも終わったよ。で、どうする?」
 ペッカートは、血で染まった両手を払いながら問いかけてくる。今しがた、人形たちの肉体を継ぎ接ぎし、もとの肉体に近づけんとしていたところだ。その言葉に合わせるなら『後片付け』だが、仕上げをどうするかまでは考えていなかったらしい。


 ……そして、洞窟から一同が出てくるのに追いすがるように、細い煙が背後から伸びてくる。
 資料ともども燃やしてしまおう、とメリンダ。
 念のために人形師は持ち帰ろうと、アミ―リア。
 結果として、人形たちは元の姿に近い状態で火葬されるに至ったのである。
 数日後、意識を取り戻さぬ人形師の肉体は『意識のないまま』処刑されたのだが、それはまた別の顛末である。

成否

成功

MVP

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

状態異常

メリンダ・ビーチャム(p3p001496)[重傷]
瞑目する修道女
不動・乱丸(p3p006112)[重傷]
人斬り
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)[重傷]
宝石の魔女

あとがき

 お疲れ様でした。人形師は肉体、精神ともに死亡、殺人人形は全滅。成果としては上々だと思います。
 スキル『???』の詳細は「魂の『移し替え』」でした。ドンピシャで当てられて目が点になりましたがそれはともかく。
 戦力的にはかなり充実していたと思いますが、細かいところで惜しいなと思う点は多く、若干被害値は増大しています。それでも意志補正が大きかったので十分戦えたと思います。
 パンドラ使用者があと1人少なかったら正直滅茶苦茶やばかったと思うんで、もっと遠慮なくパンドラ使っていいですよマジで。
(人形師がスキル発動を焦ったのも、結果的に敵戦力ダウンになって殲滅力向上に繋がったので結果オーライと見れなくもないです。詠唱中はなんもできないわけですから)
 MVPは皆さんに一長一短あったので難しいところですが、最序盤にスリングショット使い1人を半ば無力化したペッカートさんが妥当と思います。
 射程の関係で無傷とはいきませんでしたが、それでも範囲攻撃と出血のリスクが減ったのは上々の成果です。

 こんなサイコパスは二度と書きたくないなぁ(フラグ

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