シナリオ詳細
<クロトの災禍>信じる者はすくわれるか?
オープニング
●神の在り方
混沌世界には神が存在する。それは絶対であり、住民たちは皆『神の存在』をどことなく感じながら生きている。
神にどのような意志があるかは不明であり、それこそ余人の計り知れぬところである。この辺りのある意味での混沌さは、天義を見てみればわかるかもしれない。
いずれにしても、神はいて、民はそれを感じている。
だが……その言葉を騙るものも、存在する、のである。
ラサ『南部砂漠コンシレラ』。覇竜領域と終焉に接するこの砂漠に、その小さなオアシス集落は存在した。
ラサでは珍しい、宗教都市、と言えた。と言っても、天義国や幻想国の教会に連なるものではない。土着宗教、といえば言葉はいいが、ある程度の偏見と誤解を招くことを承知で言えば、それは新興宗教の類であり、よりにもよって、カルトのそれに近かった。
なんでも、教祖は自然と一体になることで、神の言葉がうんぬんかんぬん、という、有体に言えば『よくあるそれっぽいこと』をよく語っていた。『よくあるそれっぽいこと』にはそれなりの力があって、それに共感する人々も、それなりに存在した。
だからこのオアシス集落には、ラサの各地から『それなり』の人間が集まって、『それなり』の質素な生活を営んでいた。だが教祖クラスになると『それなり』に豪勢な暮らしをしているのも、やっぱり『よくあるそれっぽい話』であった。
あなたが『カルト新興宗教の怪しくて反社会的な集団』というワードから想像する、理想と綺麗ごとで私腹の黒さを覆い隠す、そう言う現実をそのまま描いたような光景が、ここにはあった。なんとも非現実的な現実であり、創作のような現実である。
コンシレラが怒涛の異変に飲まれたのは、ここ最近の事だ。終焉よりの声大きくなり昨今において、この街も決して安全で朴訥な楽園とは言えなくなっていた。
あなたに一つ尋ねよう。もしあなたが本当にどうしようもないほどに腹黒いカルトの親玉で、それなりの金を信者から巻き上げていて、その上で、自分の住むしょうもない村が一つ、どうしようもないほどの外敵からの脅威にさらされたら、一体どうするだろうか?
こう思うかもしれない。『ここは腹をくくって、私有財産を守るために戦うか』と。貴方はもしかしたら善人なので、私有財産と、ほんのちょっとの同情から信者を守るべく、そう答えるかもしれない。
ただ、この街の指導者はもうちょっとクズだった。持てるだけの財をもって、とんずらしたのが昨日の事だ。そしてなぜ彼が逃げたかというと、最強を名乗る無慈悲の軍勢が、果たしてその軍靴のもとに村を踏みつぶさんと迫っていることが分かったからだった。
水天宮 妙見子 (p3p010644)が絶句するほどにうんざりした様子を見せたので、メリーノ・アリテンシア (p3p010217)は、ぽん、と妙見子の肩を叩いてやっていた。村に入ったイレギュラーズたちを迎えていたのは、一心不乱に祈りを捧げ、逃げる様子も見せない信者たちであった。
「この人たちは何を」
零・K・メルヴィル (p3p000277)が、心底の困惑の様子を見せる。
「して、るんだ?」
理解の範疇の外にあった。篤い信仰が、未だに根付いていた。
「祈っているのだろうね」
武器商人 (p3p001107)が、言った。
「なんとも――奇異に映るかもしれないけれど。
彼らは、今戦っているのさ。
祈りを神にささげ、その祈りが届いたときに、敵はうち亡ぶ。
そういうふうに、教えられてきたからね」
「だって」
メリーノが言う。
「逃げちゃったんでしょ? 教祖様」
「逃げましたねぇ」
妙見子が苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「でも、こうなるんですよ。ええ、私には何となく、分かります。
これが、誤った信仰の末路ですよ。信用の先、でもよいです。
人間、自分が長年信じてきたものを、そう簡単に疑えないものです」
知っている。自分もかつてさんざん、ニンゲンのそう言ったものをみてきたからだ。それは言葉にしなかったが、なんとなく、その説得力を仲間は感じていた。
「でも」
アルム・カンフローレル (p3p007874)が、声を上げた。
「これは――どうすればいいんだい?」
「やることは簡単でしょぉ?」
メリーノが言った。
「とにかく、この子たちの願う神になるしかないわぁ。
この子たちの祈りを受けて、敵をやっつける。そういうものに」
「神に?」
アルムが言った。
「僕らが?」
「ええ、まぁ、そうですねぇ」
妙見子が、何かを含むような表情で言った。
「説得は厳しいだろうからねぇ。
彼らを説得するよりも、外敵を実力で排除した方が早いし確実だ」
武器商人が言う。
「というわけだ、カンフローレルの旦那。ここはひとつ、神を演じてやっておくれよ」
「神に」
そう言われてみると、何か……ざわざわとしたものが、胸中に浮かぶような感じがした。神、というワードが、アルムの胸中を、ざわつかせるような気持がしたのだ。
「で、状況は」
零が言う。
「確か、20ばかりの軍勢だったはずだ。
不毀の軍勢って奴らだよ。ほら、我ら最強~、みたいな」
「ヒヒヒ、我(アタシ)の前で不毀を謳うとは。運のない」
武器商人が言うのへ、妙見子は頷いた。
「最強騙りはさっさと追い返してしまいましょう。その後の事は、彼らの問題ですから」
住民たちに視線を向けつつ、そう言った。仲間たちも、頷く。
この地に神はいない。
ならば――我らが神になるしかない。
沙汰を残し、一路イレギュラーズたちは、迎撃態勢をととのえる――。
- <クロトの災禍>信じる者はすくわれるか?完了
- GM名洗井落雲
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年10月18日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●信心
その光景をなんと例えるべきか――。
おぞましいといえばそうであろうか。
うつくしいといえばそうであろうか。
信心、というものの発露であると、そういえた。
そのきっかけは、間違いなく、間違っているものである。
だが、その心は、間違いなく、まっすぐなものであった。
「ラサでね、あまりこういう、信心深い光景を見た記憶がないが」
『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が、何とも言えない表情でそういう。様々な感情が混ざり合ったそれ。
「いや……異国を訪れては世界は広いと思ったものだが、故国にも未だ見知らぬ土地は多い。
ある意味勉強になったよ」
そういうラダの視線の先には、一心不乱に祈りをささげる民衆の姿があった。
神は存在する。この世界に。それは間違いない。
だが、その言葉を騙るものも、確かにこの世界には存在する。
そして――その言葉を騙る者たちによって人々が集められ、できたのが、このオアシス集落である。
「宗教とか、神様とかはちっともわからないけれど。
それに縋るしかない時があるのは なんとなくわかる 気がするわ」
そういうのは、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)である。いつも通りのその表情から、メリーノの真の感情はうかがい知れない。
「でも、教主様、は逃げてしまったのでしょう?」
「間違いない。行方知れずだ。別に、探してここで土下座させようってわけじゃあないんだろ?」
ラダが言う。言外に「それで解決したならば楽だろうね」という意味合いも載せて。ラダの思う通り、それで解決などはするまい。寧ろ、妙な方向に信心が向かいかねない。
「祈るだけで救われるなら苦労はしない……を、皮肉にも逃げ出した教祖が一番理解していたんだろう。
とはいえ敬虔すぎて逆に心配になってしまう状況だよね……」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)がそういうのへ、ラダがかぶりを振る。
「それがすべてだと信じていた人間が、急にはしごを外されたらどうなるか、という見本だな。
私だって、今のこの世界の常識が急に覆されたとしたら、ショックを受けないという自信はないよ」
ラダの言葉通りだろう。これは極端な話だが、例えば地球世界の人間がその常識の礎としている『物理法則』がすべて嘘だったとして、混乱しない者はいないだろう。熱心にそれを学んでいたものほど、喪失感は大きく、正気でいられるかは定かともいえまい。
「神仏とは道具に過ぎない。
安寧を貪る為に唱えるのか、或いは、己の欲の為に揮うのか。
何方にしても『力』でしかない」
『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)が言葉を紡ぐ。
「其れは、信心もまた同様に。神が科学に化けようと、仏が人に為ろうと同じ事。
結局は――」
その視線の先には民がいる。こちらのことなどお構いないしに、ただ祈ることで『自分を守ろうという者』。
「それで、結局」
『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が言った。
「予定通り……アルムが神様役ってのやるんだろ?
まぁ師匠たちが向いてねぇやつに押し付けることはしねぇし……前むいていこうぜ!」
ばしばし、と零が『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)の背中をたたいた。慌てたように、アルムがたたらを踏む。
「あ、強すぎたか? 大丈夫か?」
そういう零へ、アルムはかぶりを振った。
「いや、大丈夫。なんだか……すこし、頭が痛い感じがして。
でも、戦闘とかには影響ないから」
心配げな視線を向ける零へ、アルムは笑って見せた。改めて立ってみれば、祈りをささげる人々は、果たして平伏する己の信者のようにも見える。これもまた迷妄なのかもしれない。あるいはこの光景こそが、教祖を騙ったものの見た光景だ。
「神は力だ」
オラボナが言った。
「力は人を変える。況や、神とて」
「『全くもってキミがどんな神になるかは自由だとも、アルム・カンフローレル』」
そう、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が言った。
「最も、ニンゲンという隣人は基本弱く現金だ。そこは注意しないとだけど。
今なら、『キミが』神を騙れば――きっと、一も二もなく、縋り付いてくるだろうね。
彼らは限界だろうから」
そういって笑う武器商人に、『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)はうなづいた。
「信仰という物は往々にして一時的な夢にすぎません。
誰かが救ってくれる、誰かが解放してくれる。
そういった他力本願を受け止めてこその教祖であるのです」
そういって、わずかに嘆息する。
「あの愚か者は、それを投げ出しましたか。まぁ、所詮は愚物。そのようなものでしょう。
さて――アルム様。
私達、神と言う存在はそういった信用を食い物にしている者達です。
どうか私達だけでも彼らを導かねば。
しっかりしてください。
神様、やるんでしょう?なら胸を張りなさいな」
そういう言葉に、雲雀は苦笑した。
「異世界で神様をやっていた人たちの言葉は重いね」
「まぁ、我(アタシ)はカミサマなんて上等な代物じゃあないとも」
武器商人が笑う。
「いずれにしても、あまり時間はない」
ラダが言った。
「わたしたちも、協力するわ。
ひとまず、ここの人たちを安心させちゃいましょ!」
そう、メリーノが言った。万が一でも、この集落の民を暴走させるわけにはいかない。最低でも、「ここでおとなしくしていろ」とは告げなければならないわけだ。
「なんだか……変な感じだな」
アルムが言った。
「多くの人に知ってもらうこと、信じてもらうことが、俺に必要だったような……でも……」
「まぁ、気楽にいこう」
零が言った。
「メリーノも言ったけど、俺たちがサポートする。だから、大丈夫だ」
零のその言葉に、アルムはうなづいた。
意を決して、アルムは口を開くことになる。
さて、これより演ずるのは、喜劇か、悲劇か。あるいは。
●神様の言葉
「ああ、神様、この哀れな住民達をお助けしてくださるために、ここまでお越しくださったのですね」
広場に声が響く。一心不乱に祈りをささげていた住民たちが、慌てたように顔を上げた。
そこに立っていたのは、あまりにも頼りなさげに見える、一人の青年である。
「え、ええと」
青年がまごまごと口ごもるのへ、隣にいた神聖さを感じる女が遮るように声を上げる。
「我こそは、かの大神の眷属である。
かの御身は創造神としての器である、故に我らを次の世界に導くものである。
汝らの祈りを受け、ここに降臨した」
(へぇ、堂に入ってるというか)
隠れていた雲雀が胸中でつぶやく。なるほど、かつての世界では神であった、というだけのことはある。眷属を自称したのは妙見子であり、最初の女はメリーノであり、青年とはつまりアルムであるわけだ。特に妙見子は雲雀の言う通り、ずいぶんと堂に入っている。
(ちゃんとした神様ではあったんだろうな……)
雲雀の思う通りだろう。それを今この場で発揮していることを、妙見子がどう思っているかは想像にお任せするが。
「……創造神の眷属として、汝らの力と成ろう……。
我らは今こそ、汝らを救うものである……」
糸目をわずかに開き、厳かに言うのは零である。
(……これで大丈夫かな。あ、創造神の奇跡とか言って、パンを出すのは……?)
ひそひそ声でそういうのへ、妙見子は同じく小声で返した。
(大丈夫……だとは思いますが。今はアルム様の様子を見ましょう)
さて、当のアルムといえば、いまだ何らかの違和感をぬぐえずにいたようだった。心に浮かぶ、なにか――違和感、としか言いようのないもの。今の自分に対する、それか。
「君たちの祈りは届いたよ。後は俺たち……ゴホン、我らに任せたまえ」
意を決するように、アルムはそういった。いささか緊張から早口ではあったが、それに気づかせないように、ラダは言葉をかぶせた。
「我は、神の眷属。銃神である」
我ながら大きく名乗ったものだ、と胸中でぼやきつつ。
「その祈りに応え、敵は排除しよう。
されど、矢除けのかごは用意しておらぬ。ゆえに、建物の中にて結果を待つがいい」
――で、大丈夫か? 神話の勉強でもしておけばよかったな、などと胸中でぼやきつつ、ラダは民衆の反応を待った。とはいえ、ここまでくれば、信じたくなる、というのも彼らの思考であるといえた。
「ちゃんとあの方を信じて! みんなが信じてくれないと、あの方が本当の力を発揮できないの。
人々が信じる力こそ、神の力になり得るのよ! 私たちの祈りの力が神に届く。なんて幸せなのかしら!」
メリーノが、ダメ押しのよういそういう。なんとも、幸せな言葉だった。
「信じます」
と、民衆の一人がそういった。
「信じます、神よ。我らを守護する神よ……ついに、祈りにお答えくださった……」
(どうおもう? モノガタリ)
武器商人が小声で言うのへ、ロジャーズはうなづいた。
(欺瞞だ。そう思おうとしている。可愛いものだ)
結局のところ、自分たちのこれまでを否定しないための、保身であるともいえる。祈っていたのだから、救われたのだ。そういう、自分たちへの言い訳だ。
(とはいえ――これで充分であろう。今のアレには)
(同感だねぇ)
二人がそううなづいた瞬間。信者たちは歓喜の声を上げながら、恭しく頭を垂れた。いや、それはもはや、大地に額を擦り付けるかのような祈りである。アルムの頭痛がひどくなった気がした。違和感。
「……では、皆の者は、家へと戻り、祈りを続けるがよい」
痛みをこらえながら、アルムが続ける。
「神敵は、かならず――討伐して見せるから」
おお、おお、と住民たちはうなづきあい、ふらふらと立ち上がった。そのまま、自分たちの家やら、集会場へと消えていく。
「お疲れだ」
ラダが言った。
「とはいえ、ここからが本番だろう? カミサマ。
……顔色が悪いが、大丈夫かい?」
ラダがそういうのへ、アルムはうなづいた。
「うん、大丈夫。せっかく、神様に為ったんだ。願いは、叶えてあげないとね」
そういって、アルムは笑った。
敵はおそらく、すぐそばまで来ていた。
●迎撃
「信仰の村、と」
と、不毀の軍勢が一人が言った。
あざけるような声色である。嘲笑するような声色である。
「下らぬものだ」
と、うちの一人が言う。
「祈るだけで救ってくれる神がいるならば、このような世界は生まれぬ」
馬鹿にするように、そういった。
「そうかもしれない」
と、神は答える。
「だとしても――彼らの祈りは、愚かと断じちゃいけない、と、思う」
そう、神(アルム)はそういう。
「ローレットか」
不毀の軍勢が一人がそう答える。応ずるように、イレギュラーズたちは戦線にて構えた。
「最強たる我々の相手にふさわしい。つまらぬ行軍かと思ったが、これは好都合」
「その、最強だなんだっていうの、恥ずかしくないのか」
ラダが言う。
「まあ、いい。砂漠から出ていくといい、侵略者ども」
「その通りだねぇ」
武器商人が笑う。
「我らが神は平穏をお望みだ」
ロジャーズが言う。
「疾く失せよ。ここに貴様らの居場所はない」
「さっさと決めよう」
雲雀が言う。
「あの人たちの今後も気になる。悩みの種は、一つずつつぶさないとね」
雲雀の体躯が、わずかに沈んだ。踏み込み。そこから、いっきに速度を解き放つ。高反応。最強を騙る軍勢は、それに追いつけない――。
「速戦即決――とまではいかないけど、派手にいこう。そのほうが、きっと奇跡を夢見せられる」
たんっ、と地面をたたいた。そこから、ごぼごぼと血だまりが噴出し、その血が苛烈なる冷気を吐き出す。吹き荒れるは大紅蓮蟻地獄。八獄の寒。その絶冷にとらわれれば、いかに最強を騙ろうとも児戯――!
「な、に」
あえぐように、叫んだのは呪術師たちである。冷気にとらわれた彼らが二の足を踏む刹那、雲雀に率いられたイレギュラーズたちは突撃!
「多少の傷はくれてあげる。でも、貴方たちの目的は達成させない」
雲雀の言葉通り――多少の傷を受けたとしても。ここは一気呵成で貫く!
「お前たちは、鉄帝のやつらなんだったかな?」
ラダが言いながら、引き金を引き絞る。連続。間断なく、容赦なく、慈愛なき連射撃。それはさながら、砂漠の無慈悲なる砂塵のごとき弾幕を形成する。
「これが砂漠のやり方だ。鉄帝とは違うかもしれないが、あまり気にするな。最強なんだろう?」
挑発するの言葉を織り交ぜながら、休む間もなく銃弾をぶち込む。砂漠の嵐は、ラダの力をもって呼び起こされ、最強を騙る侵略者を次々と打ち貫いた。
「ぎ、あ」
断末魔と呪詛を吐き出す呪術師たち。その末期の呪いがイレギュラーズたちをむしばむ。わずかに萎えた体を自覚しつつ、しかしイレギュラーズたちは果敢にも足を踏み出した。
「悪いね。うちの新米の、初仕事でねぇ」
武器商人が笑う。飛び込んできた攻撃手の斬撃が、その体を切り裂いた。が、まるで陽炎のように、その姿がブレっと思うや、すぐに何事もなかったかのように立ちはだかる。
「付き合ってもらおうよ。ねぇ、モノガタリ」
「Nyahahaha――」
ロジャーズは笑う。盾を構えたやつらを、ぐちゃぐちゃのぐるぐるにしてやる。シンプルだ。やることは。害宇宙のようにかき混ぜてやるのだ。
「――最強、傲慢なる貴様等、殺せると宣うので在れば。
――砕いて魅せよ!」
そこにいるのは二柱の神か。二柱の怪異か。いずれにしても、ここにあれば、それは侵せざる何かであろうか。
「さて、さて、アルムちゃん! 神様のお仕事よ!」
メリーノが言った。
「精一杯、戦ってね。
あなたが唱える祝詞が、わたしたちを立ち上がらせるのよ。
それは――わたしたちじゃあなくても、きっとそう」
メリーノが、そういった。回復を頼む。その言葉。いや、きっとそれ以上の言葉。
「そのかわり、わたしが体を張ってあげる。わたしも守ってあげる。
これは練習よ、きっと。これからのための!」
メリーノが大太刀をふるう。斬撃が、硬い盾持ちの体ごと、それを断ち切った。一撃二撃では倒せない。相手は最強を騙る盾だ。では倒れるまで斬ればよい。
「そうですねぇ! 今のうちに慣れたほうがいいですよ、いろいろ!」
妙見子が叫び、その鉄扇をふるう。解き放たれた妖狐の魔が、青白き怨嗟を咆哮して飛び交った。盾持ちたちが、その呪いに脅かされる。明確に体の動きが鈍ったのを確認して、零が三撃のこぶしをたたきこむ!
「こっちは最強より凄い師匠が鍛えてくれてんだ!
早々負けるもんかよ……!」
吠える。続けざまに、隣にいた盾持ちを殴りつける。炎をまとうガントレットが、盾ごとそれを粉砕した。反撃に来た盾持ちのシールドバッシュを受け止め、痛みに舌打ちしながら、しかしここで止まることはない。
誰もが止まらない。誰もが戦っている。
誰のためであろうか。自分のためか。民のためか。
いろいろな思いが交錯するのだろう。一つだけの思い出はないのだろう。
そういうものが、人間であるのだから。
アルムは思う。
故に――自分はここに立たなければならないのだ、と。
「俺は、自分のやれることをやる。まずは、そこからだ」
頭痛はする。違和感はある。だが、回復術を編む手は止めない。仲間が傷つくたびに、その言葉は大丈夫だと紡いだ。仲間が倒れるたびに、自責の念が心を衝く。
このロールを選んだのは自分だ。その役割を持っていたのは生まれた時から。
されどいまは、誇りをもって。
「誰も、死なせない!」
回復手の誇り。そして今は、神様の誇りだ。
アルムの回復術と、妙見子、武器商人、ロジャーズの盾をもって、イレギュラーズたちは決死の攻撃を続けた。確かに傷は増えたが、命には届かない。そして、ラダの放った銃弾が、雲雀の放つ呪撃が、最後の攻撃手を貫いたときに。
カミサマの仕事は終わった。
「最強を騙るのなら、この程度の荒波を御し切ることは簡単なハズだよ?
できないならその二文字は返上した方がいいんじゃないかい?」
静かにそういう雲雀に、しかし反論をできるものは存在しまい。
「さて、この後は後処理だが」
ラダが言う。
「……私は現実的なことを言ってしまいがちだから、裏方に回ろう」
「助かるよ。なんだかんだ、彼らが生きるのはこの現実だからねぇ」
武器商人がそういった。
「まずは、私が、彼らを『呼ぼう』」
ロジャーズが言った。自分の領地に、彼らを誘うつもりらしい。
「その上で――如何する、貴様」
アルムに、尋ねる。アルムはうなづいた。
「まずは、神様と偽ったことの謝罪と。
それから……助けられるなら、俺の領地に誘うよ。
……なんだろう、今日の仕事で、一つ、鍵が外れた、ような」
「鍵……?」
零が困惑した様子を見せるのへ、妙見子が笑った。
「自覚まではまだ時間がかかりそうですね。まぁ、ひとまずは、それでもいいでしょう」
「じゃあ、行きましょう? カミサマ」
メリーノがそういって笑って見せた。
信じる者は救われないかもしれない。
ただ、それでも、手を差し伸べようとする者はいるのかもしれない。
たとえば、貴方たちのような人が、いるのだとしたら。
たぶん、それはきっと、よいことなのだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
これは蛇足なのですが、この仕事より後、集落よりしばし離れた砂漠で、魔物に襲われたと思わしき男たちの死体が見つかったそうです。
彼は大量の金品を持っていたそうですが、あの世まではもって逃げられなかったようですね。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
偽りを、少なくとも実存に。
●成功条件
すべての敵の撃破。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
ラサ、南部砂漠コンシレラに存在する、とある集落。そこは、とあるカルト教団が作り上げた、宗教集落でした。
昨今の情勢変化により、終焉よりの敵性存在、『不毀の軍勢』の標的となってしまったこの集落。代表である『教祖』は、しかし抵抗を試みることもなく、姿をくらませました。
残されたのは、信仰篤き信者たちのみ。
彼らは、教祖の教えをかたくなに守り、ただ神に祈り、今回の危機を脱しようとしています。
むろん、それが叶えられることはないでしょう。皆さんの働きがなければ。
思う所は色々あるでしょうが、皆さんはこの集落に派遣されたイレギュラーズです。集落の外で、この集落を狙う不毀の軍勢を迎撃し、この村と、信者たちを守らなければなりません。
守った後、皆さんがこの村をどうするかはお任せします。説得が通じるかはわかりません。放っておいて去るのもそれはそれでいいでしょう。
作戦決行タイミングは昼。戦闘エリアは砂漠地帯になります。特に戦闘ペナルティは設定されていません。
●エネミーデータ
不毀の軍勢 ×20
終焉より現れた、『最強』を騙る軍勢です。内訳としては、
『絶対不滅を騙る盾役』×6
『絶対破壊を騙る近接攻撃手』×9
『絶対呪縛を騙る呪術師』×5
で構成されています。
盾役は、その騙りの通り、非常に高いHPとEXFを誇ります。強力な攻撃や、必殺を持つ攻撃で速やかに撃退し、攻撃手や呪術師への攻撃を通せるようにしましょう。
攻撃手は、渾身属性を持つ高威力の攻撃を行う近接アタッカーです。盾役の後ろから攻撃を行ってくるイメージです。釣り出して引っ掻き回してやったり、ダメージを効率よく与えて、全力の渾身を使わせないようにすると吉です。
呪術師は、いわゆるデバッファー。様々なBSを付与してくることでしょう。回復を厚くして対抗したり、真っ先に狙って黙らせてやるのが一つの手です。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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