シナリオ詳細
<クロトの災禍>最強の矛と最強の盾。或いは、軍勢の侵攻…。
オープニング
「明日、世界が滅亡しますです。
あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます」
ある日、突然に、そのようなことを告げられて。
果たしてあなたはどうするだろうか?
そんな馬鹿なと嘲笑うか? それもいい。
ついにその日が来たと諦めるか? それもいい。
自分だけは助かりたいと逃げ出すか? それもいい。
運命なんてと中指を立てて、過酷な現実に、破滅の未来に抗うか?
あぁ、それは実に、実にいい。
「皆さーん! 出番ですよ、皆さん!」
ローレットの会議室。
血相を変えたエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)が跳びこんでくる。それから、会議室に詰めていた数名のイレギュラーズを捕まえると、その背中を叩くようにして会議室から出て行った。
まるで嵐か何かのような女である。
あっという間に数名を連れて去って行ったエントマを、イレギュラーズは見送った。
「どこに向かうって? ラサの辺境。砂漠の監獄“砂城牢閣”! ラサでも指折りの犯罪者たちが収容されている監獄だよ!」
猛スピードで馬車を疾走させながら、エントマは事件の概要を語る。
いつにもまして早口だ。
その頬は引き攣っているし、額には脂汗がびっしり浮かんでいた。
「『不毀の軍勢』に牢閣が襲撃されてるんだよ! 今は牢閣の警備員たちが抑えてるけど、それだって長くは持ちそうにない……牢閣が落ちたら、せっかく捕まえた犯罪者たちが放たれちゃう」
『不毀の軍勢』
『全剣王』と呼ばれる何者かに付き従っている、人型の怪物の総称だ。
その正体は不明だが、『全剣王』については多少の情報がある。曰く、鉄帝の歴史の中で最強の皇帝と呼ばれた伝説の存在であるらしい。
「正直、私には事態の詳細も、連中の目的も、さっぱり理解できないんだけどさ……まぁ、ほっとくとヤバいことになるのは分かるよ」
だから、止めなきゃいけない。
『不毀の軍勢』も『全剣王』も。
犯罪者たちの解放も。
何もかもを止めなきゃいけない。
さもなくばヤバいことになる。
世界が破滅に近づいていく。
●エマージェンシー
ムーラン・サジャークープは疲弊していた。
全身に幾つもの裂傷を刻み、黒い衣服は血に濡れて、砂の上を転がった。
「あぁ、他愛ない」
「これでは準備運動にもならない」
ムーランを地面に転がしたのは2体の怪物。それぞれが3メートルに近い巨躯を持ち、重厚な黒い鎧を身に纏っている。
「飽きたし、そろそろ斬るか?」
1体は、黒曜石のような材質の突撃槍を肩に担いでいる。
「いいや。潰すのがいいだろう」
もう1体は、身体の全部を覆うほどの大盾を2枚、掲げている。
それぞれ『ランス』と『シールド』と名乗っていたが、きっと偽名に決まっている。
「ふざけやがって」
奥歯をきつく噛み締める。
ムーランと共に迎撃に出た同僚たち……つまり、減刑と引き換えに砂城牢閣の警備を担当している模範囚たちは、既に重症を負って撤収していた。
同僚……ルカイヤの炎の魔術は、シールドの盾に弾かれた。
同僚……ベーゼの使役する蠅たちは、ランスの刺突に薙ぎ払われた。
ムーランの扱う暴風の魔術も、2体にはまったく通用しない。盾に阻まれ、鎧に弾かれ、その身を傷つけるには至らない。
「ランスの方は【滂沱】……【必殺】……【致命】」
足元に起こした風で、ムーランは宙へ舞い上がる。
高く跳んで、ランスの頭上を跳び越えた。
後方に控えていたシールドの頭上に回り込み、手の平をその頭部へ向ける。
いかに巨大な盾だろうと、頭部までは庇えない。
そのはずだった。
暴風の刃がシールドを襲う。
けれど、しかし……。
「悪くない狙いだ。なかなかすばしっこい」
大盾を、まるで木の板か何かのように振り上げて、シールドは暴風刃を弾いて見せた。
黒い盾には傷の1つも付いていない。
「……【BS無効】か」
風による拘束も無効化されたようだ。
だが、盾に比べて鎧の強度は劣るらしい。盾に傷はつかなかったが、鎧には幾つもの細かな傷が刻まれた。
高度を低くし、ムーランは駆けた。
一瞬のうちに、シールドの前から距離を取る。
シールドの盾に打たれれば【飛】や【ブレイク】、【懊悩】を受けることを理解しているからだ。2体を相手に、上手く射程を詰められない。有効打を与えられない。
「せめて2体を分断しないと……連携がうざったくて仕方ない」
もって、あと数時間ほどか。
それとも、持久戦を徹底すれば数日ほどは牢閣を守り抜けるだろうか。
どちらにせよ、ムーランは2体に勝てないだろう。
勝てないのなら、それでいいのだ。
せめて、誰かが……。
援軍が駆け付けるまでの時間を稼げれば、ムーランの役目は終わるのだから。
- <クロトの災禍>最強の矛と最強の盾。或いは、軍勢の侵攻…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月09日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●急報
ムーラン・サジャークープの耳に、肉の抉れる音が響いた。
抉れたのは、ムーランの白い肉である。
盾で殴られ、肩をランスで抉られた。激痛と熱、そして滂沱と血が溢れ出す。血と一緒に体温や生命力といった、生きるために必要な何かが零れだしていくのが分かる。
砂の地面を転がって、ムーランは口から血を吐いた。
目が霞む。
立ち上がるだけの力は既に残っていない。
だが、時間は稼げただろう。自分が時間を稼いでいる間に、砂城牢閣の警備は幾らか強化されただろうか。
ムーランの視界に鋼の爪先が映った。
2人……重たそうな鎧を着こんだ2人の騎士が、ムーランに迫る。最強の矛と最強の盾を名乗る2人の騎士たちは、ここ最近、ラサでよく聞く『不毀の軍勢』の構成員であるらしい。
砂城牢閣の存在は秘匿されているはずだ。
彼らは一体、どこで此処の噂を耳にしたのだろうか。
問いただそうにも、もはや口も満足には動かない。指先で砂を引っ掻くだけが精いっぱい。そんな有様であるムーランの眼前に、鋭く光るランスが突きつけられた。
半死半生といった様子のムーランにも、最強の矛はきっちりトドメを刺すつもりらしい。
まったく、油断も隙も無い。
自己の技量と膂力に驕り、トドメを刺さずに立ち去るような詰めの甘い連中であれば、ムーランにも生き延びる道はあっただろうに。
「最後の言葉を聞いて……いや、もはや喋れんな」
ランスの声が耳に届いた。
次の瞬間に、ムーランは命を落とすだろう。
覚悟を決め、目を閉じた。せめて無様な悲鳴を上げるような真似だけはしないようにときつく唇を噛み締める。
けれど、しかし……。
「よう久しぶり。こんな形で再会するとは思ってなかったがね」
そんな女性の声が聞こえて、ムーランの身体が宙へ浮く。
ムーランを横から連れ去ったのは『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
ラダの駆けて行く先には『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)が待機している。
「お前……たしか」
「話は後だ。お前が出てるのならサーザーは無事だな? ひとまず休んでてくれ」
放り投げるようにムーランの身体を砂上へ降ろし、ラダは砂の地面を滑る。滑りながら器用に下半身を“人”のそれへと変身させると、身体をくるりと180度反転。
片膝を突きながらライフルを構え、2人の騎士に狙いを定めた。
「ムーラン君、大丈夫かい? こんなになるまで戦ってくれてありがとう」
状況が飲み込めないでいるムーランに、アルムはそう声をかけた。
ムーランの傷は深い。何本も骨は折れているし、肩の傷は神経や筋肉を断ち切っている。
「あとは俺たちに任せて、休んでて……!」
だが、まだ間に合う。
アルムは淡い魔力を集めた両手を、ムーランの肩へと翳すのだった。
空から大地を見下ろしながら『天翔の鉱龍神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は弓を構える。
「厄介事の方から押し掛けてくるの、そろそろいい加減にしてほしいね」
魔力を収束させることで形成した矢を弓に番えて、2人の騎士へと狙いを向ける。ラダを追いかけようとしていた2人の騎士は、ェクセレリァスの放つ魔力の揺らぎを機敏に察知し、一瞬のうちに陣形を整えた。
つまり、シールドが前へ、その陰にランスが身を隠したのだ。
“最強の盾”で敵の攻撃を防ぎ、“最強の矛”で敵を貫く。2人の騎士の必勝陣形。これまでに2人の連携を崩せた相手は『全剣王』のみである。
「最強の盾と矛かあ……じゃあ二人を破ったらワタシはもっともっと強い盾で矛になっちゃうかも?」
「あぁ、ムーランのおかげで間に合ったし、戦い方もわかった」
常勝の連携を崩すのであれば、こちらも連携で対応するのが一番だ。2人の騎士がェクセレリァスに意識を向けた隙を狙って『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)と『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)がシールドの前へと跳び出した。
治療を受けるムーランの周りに、1人、2人と人が集まる。
そのうち1人、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がムーランの手に水の入った皮袋を持たせる。
「久しぶりだな、ムーランさん。大丈夫か? これまた厄介な敵だが、よくここまで守ったな」
以前にも1度、イズマとムーランは逢ったことがある。もっとも、その時は敵同士だったが……昨日の敵が今日の友となるなんてことは、ラサの砂漠ではさほど珍しくはない。
「最強の矛に最強の盾ねぇ……不毀の軍勢とやらに所属している連中は大口を叩くのがデフォなの?」
機械仕掛けの刀を片手でも回しながら、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は2人の騎士たちへ目を向けている。
“最強の盾”を名乗るだけあってシールドの防御は硬かった。
フラーゴラとマッチョ☆プリンの攻撃を、2枚の大盾で巧みに防ぎ、受け流している。巨躯の割には動きも俊敏で、なるほどしっかりとした防御の技術を研鑽しているものと思われた。
ェクセレリァスも牽制に加わるが、そもそも2人が纏う鎧が頑丈なのだ。レーザーの矢を鎧で受けても、シールドは姿勢を崩さない。
「流れとしては槍と盾を分断、各個撃破、ですね。精霊さんたちにも手伝いを頼んでいますが……もう少し時間がかかりそうです」
『覇竜剣』橋場・ステラ(p3p008617)が冷静に戦況を分析する。2人の騎士がそれぞれ独立した強者であれば話はもう少し簡単なのだが、まるで2人で1つの生き物であるかのように連携が上手い。
「一撃を当てるだけでも手間だぞ?」
ムーランが呟く。
その声には不安の色が滲んでいる。
「大丈夫」
上体を起こしたムーランの隣で、イズマが腰から細剣を抜いた。
「奴等は俺達が打ち破るよ」
●孤立VS連携
巨大、そして頑丈な盾が騎士たちの姿を隠している。
マッチョ☆プリンの拳も、フラーゴラの爪も、その両方が盾によって弾かれた。
「1人で厄介な奴らを抑え込んでたのか……それも背後に守るものを背負って、守り通しながら」
盾で攻撃を弾かれた隙を突いて、ランスが死角から飛び出してくる。フラーゴラは斜めに構えた盾で、ランスの槍を受け流す。
盾の表面をランスが走り、火花が散った。
ランスの攻撃をいなすためフラーゴラが足を止める。
その横面を、シールドが盾で殴打した。
「くっ……ぅ」
フラーゴラの姿勢が崩れる。
その手をマッチョ☆プリンが掴み、盾の下へと投げ込んだ。
「あいつ、凄いな! ムーランて名前か!」
「コイツを倒せたら、アトさんもワタシを惚れ直しちゃうかも??」
鼻から血を流しながら、フラーゴラが咄嗟に姿勢を立て直す。両の手を地面について、獣のように疾走を開始。シールドの膝……鎧が薄くなっている部分へ、鋭い蹴撃を叩き込んだ。
鋼の震える音が響く。
シールドは姿勢を崩さなかったが、ほんの一瞬だけ動きが止まった。盾が邪魔で、フラーゴラの位置を見失ったのだ。
「それならやるっきゃないね……!」
フラーゴラが地面を蹴って、頭上へ跳んだ。
鋭い爪の一撃が、シールドの顎を抉る。頑丈な鎧に阻まれて、フラーゴラの爪が剥がれた。指先から血を流すフラーゴラと、兜の隙間から覗くシールドの視線が交差する。
フラーゴラとシールドの、どちらともが笑った。
「あぁ。吹き【飛】ばして……っ!」
刹那、轟音。
2枚の盾の間を縫って放たれた、マッチョ☆プリンの拳がシールドの腹部を打った。
ごう、と空気が震えた気がする。
衝撃が、砂を巻き上げる。
シールドの足が数センチほど地面から離れた。衝撃が、シールドの身体を後方へと弾く。
「俺を、浮かせただと!?」
「浮かせただけじゃない! 徹底的に押さえ込んでやる!」
後方へ弾き飛ばされたシールドが地面に転がる。その顔面を目掛け、プリンとフラーゴラが跳びかかる。
「シール……ぅおっ!?」
弾き飛ばされたシールドを、ランスは追いかけようとした。
だが、それは叶わない。
ランスの足元に、数本の触手が叩きつけられたからだ。
「飛び道具はないようだし、この間合いなら一方的に攻められるな」
足を止めたランスの頭上に声が降る。ェクセレリァスが弓を構えて、頭上からランスを見下ろしている。
「この程度、まったくダメージに……」
「そうだろうな。だが、「いかに頑強な相手でも、ずっと耐えられはしまい……!」
ェクセレリァスが弓の弦を弾いた。
リィン、と空気が震える音。
ランスの足元で空間に黒い穴が開いた。空気を引き裂き、伸びた宿主がランスの膝を殴打する。
「鬱陶しい真似を! 降りて来い!」
激高したランスが、突撃槍を頭上に掲げた。見かけ通りの膂力を活かし、突撃槍をェクセレリァスへ投擲するつもりなのだ。
しかし、その腕が突撃槍を投げることは無かった。
「さぁ、お仕事の時間だ」
ランスの耳元で声が聞こえた。
「キミ達の個人技が其れなりのものを持っているのは解るけどさ……最強を謳うのはちょーっと足りないんじゃないかな?」
ランスの手首を打ったのは、アイリスの振るう機械の剣だ。
目では軌道を追えないほどの高速の斬撃。ランスは見に纏う鎧と、斜めに構えた突撃槍でアイリスの攻撃をいなす。
火花が散った。
地面を、時にはランスの身体を蹴り付けながらアイリスが跳ぶ。疾駆する。
ランスの目ではアイリスの動きを追いきれない。
「速い程度で、最強の矛から逃れられると思うなよ」
腰を低くし、ランスは突撃槍を構えた。
一閃。
殺気を頼りに放たれた渾身の刺突が、アイリスの脇腹を抉る。あばら骨が衝撃で砕け、脇腹の皮膚は突撃槍に抉り削がれる。
血を撒き散らし、アイリスは地面を転がった。
「まぁ、ボク達もキミらを囲んでボコってる手前何を言っているんだって思うかもだけどね?」
だが、アイリスは笑っている。
銃声が鳴った。
「随分と頑丈そうな鎧を着ているな。それならきっと、いい雨音が聞こえるだろうよ!」
1発の銃声。
けれど、鎧を銃弾が叩く音は5発を超えていた。
ファニングショット。
片方の手の平を滑らせることで撃鉄を上げ、一瞬のうちにすべての弾丸を撃ち尽くすピストルの早打ち技である。ラダはこれを、ライフルでやった。
本来、両手で扱うべきライフル。それを用いて、正確に一ヶ所を狙い撃つことが出来ているのは、一重に経験と鍛錬の賜物だろう。
集中砲火を受けたランスが姿勢を崩す。
銃弾の掃射を浴びたランスの鎧……その腹部には、大きな罅が入っている。
「まずは膝をつかせるとしよう」
「膝を突くのはそっちの方だ」
ラダが弾丸のリロードに移った隙を突き、ランスは突撃槍を構えた。接近するイズマを体当たりで弾き、両の脚で地面を蹴った。
速度と体重を乗せた突撃。
だが、ランスの突撃槍がラダを射貫くことは無い。
真横から放たれた魔力の砲が、ランスを飲み込んだからだ。
砂塵が舞う。
静寂は、ほんの数秒間。
砂塵を突き破り、飛んだ突撃槍がステラの肩に突き刺さる。
衝撃により、ステラが倒れた。肩に刺さった突撃槍で地面に縫い付けられた形だ。
「少々、守りを疎かにし過ぎたかもしれんな」
砂塵を突き抜け、ランスが駆ける。
その手がステラの肩に刺さった槍を掴んだ。
「拙が倒れるのが先か、彼方が倒れるのが先か、みたいな?」
槍が引き抜かれると同時に、ステラは転がるようにして後退。だが、ランスの方が早い。ランスが槍を横に薙ぎ、ステラの膝を引き裂いた。
ステラは、もんどりうって砂上に倒れる。
その顔面へ、ランスが突撃槍を繰り出す。
「もう撃たせ……ん“っ!?」
刹那、ステラの膝がランスの顎を蹴り抜く。
「砲撃だけだとでも思いましたか、バカめ、です」
膝の傷が開いて血が噴き出した。傷口からは白い骨が覗いている。蹴りを放ち、そのまま砂上に倒れたステラを、誰かが横からさらっていった。
ステラを回収したのはアイリスだ。
砂上に血の雫を零しながら逃げる2人とランスの間に、イズマが割り込む。ランスの追撃を阻むためだろう。その隙に、アイリスはアルムの前へ辿り着いた。
「治せるかい!?」
「任せてくれ! 俺はヒーラー。皆を支えるのが仕事だからね!」
事実、ついさっきまでアルムはフラーゴラとプリンのサポートに回っていた。彼の活躍が無ければ、とっくの昔に防衛線は突破されていただろう。
そして、次はアイリスとステラの番だ。
2つの戦場を俯瞰し、駆け回るのは負担が大きい。アルムの額には汗が滲んでいる。
それがどうした。
「ふたりともありがとう! これなら、勝てるよ!」
ステラの膝に治癒の魔法をかけながら、アルムは笑う。
完璧に傷を癒してみせよう。
再び彼女を、戦場へ送り込んで見せよう。
さもなくば、何をしに此処へ来たのは分からない。
ェクセレリァスの矢が、ラダの弾丸が、イズマの飛ぶ斬撃が。
3方向からランスを襲う。
「遠くからちょこまかと! 正々堂々、かかって来い!」
十全に本領を発揮できないでいるランスが怒声を放った。
投擲しようランスを肩の位置に構え……けれど、その腕をイズマの放った魔力の砲が撃ち抜いた。
鎧が砕け、血塗れの手が顕わになる。
輝かんばかりの銀のランスは、すっかり黒く焦げていた。
「一定の集団の中では最強でも、その外側にはもっと強い者がいるんだよ」
イズマは告げる。
姿勢を低くし、走り出す。
ランスが突撃槍を構えた。槍からは、ぴしぴしという軋んだ音が鳴っている。攻撃を受け過ぎたのか、突撃槍の耐久はもう限界に近い。
ランスが駆ける。
重鎧を纏っている割に足が速い。一瞬のうちに、イズマとの距離を詰めた。
対して、イズマは細剣を腰の位置で構え、姿勢を落とす。
「だからお前達もさ……足掻いて届かぬ悔しさを知ると良い」
一閃。
空気が震えた。笛のそれに似た音が鳴る。
ランスの突撃槍がイズマの眉間の前で停止している。
イズマの放った斬撃が、ランスの腹部を引き裂いた。
ほんの4センチ。
絶命際にランスの放った、生涯最後にして最高の突貫は遂にイズマに届かなかった。
●防衛成功
シールドの盾が、フラーゴラの身体を地面に転がした。
腕が折れているのか、フラーゴラは受け身を取れない。爪の剥がれた指で砂を掻き、どうにか姿勢を立て直す。
剥がれた爪は、シールドの肘関節に突き刺さっていた。絶対防御も、重厚な鎧も、決して無敵なわけではないのだ。
「自分は『最強』、か……強く、強く、信じてるのか?」
盾を拳で殴りつけ、マッチョ☆プリンはそう問うた。
シールドは何も答えない。
「なら、言っておくぞ。自分が一番だって信じてたって、何でも出来るようにはならない。そんな暇があるなら。もっと自分を鍛えておいた方がずっと、ずっといいぞ!」
プリンの殴打は盾に阻まれ、シールドには届かない。
盾ごと身体を前進させて、シールドはプリンを後ろへ押す。プリンの体勢が崩れた。
「信じられなくなった頃にはもう遅いんだからな!」
叫ぶプリンの顔面を、シールドの盾が殴打した。
倒れたプリンの顔面へ、シールドが盾を振り下ろす。
その盾を横から撃ち抜いたのは、ステラの放った閃光砲だ。
「良かった……皆が来てくれるって信じてた!」
よろけるフラーゴラを、アルムが慌てて抱き留める。2人でシールドを抑えていたのだ。フラーゴラとプリンの傷は軽くない。
「盾自体は固いかもしれませんがそれ以外は普通みたいですし、狙うなら其方でしょうか」
ステラはそう呟いた。
その声に反応し、飛び出したのは2人。
アイリスとラダだ。
「片方はこれで何とかなるだろ」
疾走からの跳躍。アイリスは、2枚の盾のうち片方へ跳びついた。
膂力に優れるシールドではあるが、人1人分の体重が増えてはさっきまでと同じように盾を操ることは出来ない。
盾からアイリスを引き剝がしたいのだろうが、それはラダが許さない。
「この隙に横合いから思いきり殴ってくれ、頼んだぞ!」
銃声が鳴った。
もう片方の盾で、シールドはラダの弾丸を防御。
2枚の盾は、これで用を為さなくなった。
最強の盾も、盾として使えないのなら意味が無い。
「ぬ……ぅぅっ!」
がら空きになったシールドの身体を、2発の魔法が撃ち抜いた。
イズマとステラの魔力の砲。シールドの兜が破損し、砂の上に砕け散った。回避は出来ない。2枚の大盾を持つシールドの足は鈍い。
「友の仇は、貴様か!」
シールドの視線がイズマへ向いた。
2枚の盾を投げ捨てて、シールドが姿勢を低くする。
その、瞬間。
「やらせるか!」
ムーランが叫ぶ。
次いで、砂が渦を巻く。
砂嵐に飲まれたシールドは、まったく身動きが取れないでいた。
「全剣王とやらも遂行者の身内だろうけど」
そんな彼を、頭上からェクセレリァスが見下ろしている。
「奴らのいう「正しい歴史」とやら、私からすれば自分たちの思い通りにいかないで駄々こねてるだけにしか見えねえんだけど」
弦を引き絞り、矢を放つ。
魔導素粒子ェクセリオンによって形成された光の矢を、砂嵐の軌道に乗せた。
ひゅおん、と。
渦巻く風の加速を乗せた光の矢が、シールドの脳天を撃ち抜いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
シールド&ランスは討伐され、砂城牢閣は守られました。
依頼は成功です。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
『不毀の軍勢』ランス&シールドの討伐
●ターゲット
『不毀の軍勢』
『全剣王』と呼ばれる何者かに付き従っている、強力な人型の怪物。
今回はランスとシールドと呼ばれる2体が牢閣を訪れている。
どうやら、囚人たちを解放するつもりのようだ。
・ランス
身の丈3メートル近い巨躯の騎士。
黒い鎧に身を包み、黒曜石を削ったようなランスを携えている。
『全剣王』に従う者たちの中でも、自分こそが最強の矛であると自負している。
ランス:物近単に特大ダメージ【滂沱】【必殺】【致命】
乾坤一擲、一心不乱に放つランスの一撃。
・シールド
身の丈3メートル近い巨躯の騎士。
黒い鎧に身を包み、黒曜石を削ったような大盾を2枚携えている。
『全剣王』に従う者たちの中でも、自分こそが最強の矛であると自負しており、その身は【BS無効】の性質を備える。
シールドバッシュ:物至範に大ダメージ【飛】【ブレイク】【懊悩】
シールドバッシュ。攻防一体の盾戦闘術、その極地。
●NPC
・ムーラン・サジャークープ
黒い衣を纏った白い肌の女性。
砂城牢閣の囚人にして、牢閣の警備を担う警備員。
風の魔術を操る魔術師。
ランス&シールドと交戦し、重傷を負った。
1発ぐらいなら、大規模な砂嵐を起こせそう。
●フィールド
ラサ。砂城牢閣。
砂漠の真ん中にある監獄。
6階建ての岩の塔。そのすべてが監獄であり、塔内には大勢の囚人が収容されている。
今回の現場は砂上の周辺。
見渡す限りの砂の海で、視界を遮るものは無い。
死角となるのは、牢閣の背後か内部ぐらいのものである。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります
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