シナリオ詳細
再現性東京202X:レベルアップババア
オープニング
●学校の怖い噂
「ねえ、レベルアップババアって知ってる?」
「うん。最近流行ってるやつでしょ? うちの弟も怖がってて、夜中一人でトイレに行けないんだよ。もう中学生も近いのにね」
希望ヶ浜市。混沌に存在するもう一つの東京、それを模したもの。現代社会を再現したこの都市と言えど、混沌に巣食う悪意から隔絶されている訳ではない。それは都市伝説や殺人鬼、妖怪といった形で認知されている。
レベルアップババアは主に学生コミュニティの中で話題になっている都市伝説、怪異だ。この手の都市伝説は細部こそ地域によってまちまちであるが、何故か主要な点が照らし合わせたかのように一致する。ポマード、赤色、トイレなどのキーワードのように、これはレベルアップという言葉が大きなインパクトを与えていた。
「でもレベルアップってなんか、ロールプレイングゲームみたいだよね」
「◯◯はゲーム好きだもんね。でも私はなんか、自己啓発って言うの? ああいう香りがするなあ。ほら、自分のスキルを磨いてキャリアがどうこうって感じ」
まるでゲームのふざけたNPCのような都市伝説だが、小学生から中学生を大いに怖がらせている。三回レベルアップという単語を口に出せば現れる、話を聞いただけで現れる、レベルアップババアの話を15歳まで覚えていれば現れると遭遇条件がアレンジされ、従兄弟の知り合いから先輩の友達まで限りなく出自、真偽不明の犠牲者が出ている。
「お前の抱負を言えーーーーーーーーッ!!」
鬼気迫る表情の老婆が廃校、年季の入った廊下を駆ける。
レベルアップババアは希望ヶ浜市◯◯高校跡地に出るといった噂があり、肝試しに向かった若者たちは不運にもそれを真実として目の当たりにする事になった。
「なんだよなんだよなんだよなんだよ! くそ、ここも開かねえよ!」
「おいもう其処まで来てるってヤバイ!! 抱負ってなんだよまだ今年はあと2ヶ月もあるんだぞ!」
彼らのリーダー的人物Yはレベルアップババアの殴打によって意識を失っている。Yは心臓の強い人物で、肝試しを提案したのも彼だと言う。お化け屋敷のギミックをからかったり、心霊スポットでソーシャルゲームの100連ガチャを実況したりとその奔放さは後輩たちの憧れ、伝説的存在でもあった。
Yもレベルアップババアに遭遇した時は動揺を隠しきれていなかったが、それに面と向かって立ち向かった。
「ほ、抱負っすか。やばくね、H?」
無理やり参加させられたHは自分を巻き込まないでくれと心から思った。しかしパニックになりかけている驚異的状況の中で、Yが何とかしてくれる、レベルアップババアに対する解答を提示してくれる事に望みを託すよりほかになかった。
「んーと……抱負じゃねえっすけど、今は早く帰りたい的な? さーせん、俺たち来たらいけない所まで入っちゃったかな。すぐ帰るん」
「不合格!!」
レベルアップババアが耳を塞ぎたくなるほどの大声をあげると同時にYの頭部を信じられない速さで殴りつけた。Yは反応する間もなく廊下から教室に吹き飛ばされ、Yにぶつかった机が大きな音を立てて倒れた。
そこからは残された数名は堰を切ったように散り散りになり、今も逃走劇が続いている。この騒音で周辺の住民が聞きつけ、警察に通報でもしてくれた方がよっぽどましだとHは思った。しかしどうにも様子がおかしい。
窓は固定されたかのように開かず、外に出るための通路は謎の壁で塞がれている。それに加えて、外の景色は奇妙にねじれている。おまけに携帯電話から壁掛け時計まで全ての時刻が狂っている。ここから逃がすつもりはないらしい。
「お前の抱負を言えーーーーーーーーッ!!」
「ぎゃああああああ!!」
●学校の怖いイレギュラーズ
「やあ、仕事だよ。キミたちはこつこつとゴブリンを倒して経験を積むタイプかい? それとも莫大な経験値をくれる強敵を探すタイプかな」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)に集められ、現地で説明を受けるイレギュラーズはだいたいの察しがついている。その強敵が、眼前の不気味な廃校に存在するとでも言うのだろう。
「今回の討伐……除霊とでも言ったほうがココではウケが良いかな? 目標はレベルアップババアという怪異だね。都市伝説の情報を集めるのはオレも結構大変だったよ。こいつは間違いなくこの廃校に出現する。そしてレベルアップのための抱負を言わないと酷い打撲傷を負って、朝に病院で目覚める事になるんだ」
この男は何を言っているのだろうか。一般人にとってのレベルアップはゲーム用語に使われる事が多いが、イレギュラーズには正しく能力が上昇する事象なのだ。若干の混乱を招いたが、何であれ自身の高みを目指すポジティブな気持ちが大事だと言う。
「例外もあるけど、この手の怪異は生のエネルギーに弱い事が多いよね。忘年会だと思って、抱負を述べてくるのも良いんじゃない?」
ダウナーなイレギュラーズや怖がり、巻き込まれ体質のイレギュラーズはそびえる廃校の不気味さに気が滅入り、熱血漢は望むところだとババアとの交戦に意気込んだ。
- 再現性東京202X:レベルアップババア完了
- ババアがあらわれた! ババアは逃げ出した!
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月06日 22時05分
- 参加人数6/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●某所
「レベルが上がると聞いて! 何?! 上がらんじゃと?!! カーーーーッ!! 計られた!!!!」
『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)が校門前で憤る。世の中に美味い話は早々に転がってはいないらしい。レベルという概念はロールプレイング・ゲームの中の物事ではなく、日々を世界を脅かす魔物と戦う事に費やしているイレギュラーズにとっては大事な実力の物差しなのである。
「何だその怪異、初めて聞いたが……? でもレベルアップはしたいな、この余りすぎた経験値をどうにかしてくれよ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)も十分過ぎるはち切れんばかりの破裂寸前パンパンなリソースを持ってこの仕事に臨んだが、まだも育とうとしているらしい。なんだこの貪欲なアーティストは。しかし、邪悪な魔種や冠位、天義の問題の種となっている遂行者を相手するにはその強さを求める姿勢は心強いものだろう。リミッターさえ取り払えば130まで上がるとぐるぐるおめめで語るイズマ、その域に達すればもう息をするだけで観客は壮大な音楽を聞き入り、スタンディングオベーションを行うんじゃないかなあ。
「やれやれ、たまには退魔師としての仕事をしないと呪力が鈍ってしまうと思えば、面倒な事になっていますね」
本職がいた。『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)はキマっている二人の傍らでaphoneを使い、今回の討伐目標であるレベルアップババアについての情報を精査する。匿名型掲示板からまとめサイト、地域安全情報まで実に無駄のない捜査で信憑性の高いもの、共通点のあるものを選り分ける。ハンサムクールで色気のある眼鏡が低俗なオカルト記事をaphoneで読み漁る光景はなかなかにミスマッチだが、イレギュラーズとして仕事に取り組む真剣さが見て取れる。
「って冥夜サン退魔師だったのかよ!? オペラ座の怪人の格好してた事があったしエンターテイナーがどうとか言ってたから元芸人とか思ってたぜ……退魔師なら冥夜サンに全部任せとけば安泰だな! なッ冥夜さん!」
『覇竜相撲闘士』オラン・ジェット(p3p009057)が大型犬のように冥夜に絡んでいる。風貌や口調がまるで正反対のような二人であるが、それなりな交友があるようだ。冥夜はオランに芸人がどうと訂正を入れようとしていたが、再会にテンションを上げるオランに押し切られてしまっていた。
「こういう怪異ってアレだろ? やっていいこととやって悪いこととかあるんだろ。で、地雷踏んだら、死! とか何だろ」
「なんじゃとー!? 我は先程オムライスを食べてきたのじゃがそれは大丈夫か!? アツアツでケチャップでふわとろじゃぞ!?」
「いや知らねえけど……俺も食いてえなそれ。デミグラスもいいよな」
ニャンタルとオランがオムライストークで盛り上がるなか、『君を全肯定』冬越 弾正(p3p007105)に『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は真剣な眼差しを◯◯高校に向けていた。どうしても気が抜けてしまうが、人々の平和に影を落とす怪異である事に間違いはないのだ。
「酷い打撲傷を負って、朝に病院で目覚める……死者が出ないのはいいことだが、殺さないとは珍しい。体験談から怖いもの知らずや好奇心で来た人達をいずれ一網打尽にするのか、妖怪みたいに他者の恐怖の感情が主食やエネルギー源なのか……」
「どちらにせよ希望ヶ浜学園の教師としては、生徒達が危ない目にあう危険性を極力排除しておきたい。しかしこの歳になって抱負を考える事になるとはな。悩ましいものだ」
◯◯高校は既に廃校となっている、不要な場所だ。それでも今こうして残されているのは再現性東京の特殊な事情にある。廃校ですら練達に生きる、別世界から来た者たちにとっては思い出深いオブジェクトなのだ。そういった意味では必要、必要な不要物で、この事についてはニャンタルの頭をひどく悩ませた。
「要らんのに必要なものなのか……我には取り壊すのが面倒くさいだけに思えるがのう……」
「思い出の品って認識で良いんじゃないか、ペンダントとかそういったものが大きくなったと思うと良い」
弾正はその機能を果たしている学園の教師だ。そのワイルドな見た目からは想像し難いものであったが、このような心霊スポットにまで出歩く悪ガキの身まで案ずる姿勢は教師の鑑といって良いだろう。
「弾正サンで思い出したけどよ、一応は民間人が巻き込まれてないか気を配ってた方が良い感じよな?」
オランがその弾正と視線を合わせる事なくそう言った。彼は壁に描かれた違法アートに夢中になっている。何故かこのような廃墟に多く見られるグラフィティなそれはオランの興味を引き、自分も何か残そうかと考えたが自己主張の後に待ち受ける様々な面倒くさい出来事を察すると想像だけに留めておく事にした。
「賢明ですよ、オラン。私は退魔師兼、希望ヶ丘浜教師兼、サーカスのジャグラー兼、ホストクラブ店長。R.O.O.でも企業をしていましたが……この手のイタズラを行う者は例外なく『わからせ』られるので」
「情報量が多いんだよ!」
一般人であれば震え上がるような雰囲気の漂う夜の学校、心霊スポットであるが歴戦のイレギュラーズにとっては談話する余裕すらあった。ウェールは黙々とファミリアーを扱い、この場にイレギュラーズだけしか存在せぬよう場を操作している。よせば良いのに肝試しに来ていた若者集団がいたようだが、ウェールの機転『危ないにゃ! こっちに逃げるにゃ!』作戦によって一目散に逃げ出したようだ。危ないにゃ作戦については多くを省くが、ウェールが発した奇声ではなく猫のファミリアーがお助けマスコットを演出する作戦である事をウェールの面子のために説明しておく。一般人にとっては猫が語りかけてくる事がもう恐怖であり、それに対して逃走した形であるが結果が良ければだいたい良いものとしておこう。
「……もう少し口調を変えるべきだったか」
「いや、あれで良かったと思うぞ。あとは俺たちと怪異だけだが、一応この校舎にも保護結界を張っておこう。中々の大きさだが、レベルアップババアと交戦するエリアを中心に、都度更新する」
推定レベル130がそういう事をしていた。廃校まで残しておきたい謎の勢力へのアフターフォローもばっちりだ。
「それではそろそろ入るとするか。校舎内はここより暗いはずだ、気を……」
弾正が身体を発光させ、一歩踏み入れた時にそれは起こった。屋上よりこちらの目の前に飛び降りる影。間違いない、レベルアップババアだ。
「待っていたよイケメンボーイズ達!」
「我はボーイではないぞ!!」
●校門
ニャンタルが光の反応を見せた。レベルアップババアに3回願い事を伝えればそれが叶う、そんな真偽不明の噂。
「物攻 !物攻!! 物理攻撃上昇じゃーーーー!!!!」
「五月蝿いよニャンきち! アンタ1259もあるじゃないの! それだけありゃ十分だろうが、何だい? その59ってのは、もう少し気合いれて1260にしようって根性はないのかい!!」
ババアの張り手をニャンタルはまともに受ける形となったが、奇数野郎の烙印を押されたニャンタルも負けてはいない。1上げる事の大変さをババアに説きながらうちゅうのとんでもなくやばいけんでやばい攻勢に出ている。
ウェールは頭を抱えている。ああ、これはきっと受ける仕事を間違えたぞ。そんな弱気の虫を噛み殺し、化け物には化け物らしくぶつからねば。この調子では、犬を怖がるという噂も眉唾、いや十中八九ガセネタだろう。
「アオオォォーーーーーン! バウッ! ガウッ!!」
それでも奇跡を掴み取るのがイレギュラーズ、僅かな可能性ですら賭けねばならない。
「ちょっとアンタも静かにしな! 近所迷惑だよホント!! エサはさっきやっただろうゴンタ!!」
わかってたよ。ウェールは哀愁を漂わせながら生物兵器としての人生に思いを馳せる。
「おいババア! アンタ抱負を聞きたいんだろ? オラッ! 聞きやがれ! 俺はこの冥夜サンの経営するホストクラブシャーマナイトのNO1ホストに……いや違ェな。もっと抱負はでっかくだシャーマナイトを練達イチ。いや混沌イチのホストクラブにしてやるぜ!!」
「じゃあアタシがアンタを本指名するよ!!」
ババアは昔は美女だったと言われる類のババアではない。妖怪をメインテーマにした画家が力の限り描いたようなババアだ。それから本指名を受けてじゃんじゃんばりばり飲み散らかす姿を想像するとオランの信念が若干揺らいだ。
「やれやれ、オラン。気持ちは分かりますがそれではまだシャーマナイトを任せられませんね。ババア、いやレディ? シャーマナイトは何時でも貴方をお待ちしております」
プロだ。オランは冥夜のプロ仕草に打ちのめされたが、ここで終わるようなドリームではない。それでこそ冥夜サン、それでこそ俺の目標。オランは本指名に戸惑った自分を恥じ、眼前のレディを真剣に見つめた。
「おやおや骨のある眼鏡だね、ふん! 大口だけ叩く青ガキは嫌いだからね、しっかりやりな!」
「無論」
イズマと弾正が難しい顔でアイコンタクトを行っている。複雑な瞬きによって情報を伝達するそれは、だいたいの内容が俺たちもアレをやらないといけないのか、という点に収束していたがアレでババアの霊気、生命力のようなものが薄まった気がするのでやらねばなるまい。たぶんまともに戦ってもニャンタルのような目に合う。ニャンタルは進行形でババアにコブラツイストを受けている。
「俺から行くぞ! ババア、俺は音楽を極める! 手を抜かない、躊躇わない、孤独な地獄でも奏で続けて進むのみ!」
「うちのヒロアキもそんな事ばっかり言って勉強もせずギターを弾いていたよ! アンタはどうなんだい!!」
イズマは音楽一家の生まれだ。恵まれた環境で育った事は否定できないが、それでも道楽で続けている訳ではない。音楽は自分、自分は音楽だ。自分の奏でる音一つ一つに責任を持ち、この道を進むのみ。
「ババア! これが俺の決意だ!」
響奏撃をババアに撃ち込むイズマ。音楽家はその音楽を以てババアに語る。
「ヒロアキのやっていたロックなんざより良い音を出すじゃないかい、ボウヤ」
まだババアは生きている、渾身の響奏撃を放ったはずだ。否、これはイズマに対するババアからの賛美だ。ババアはアーティストやクリエーターへの感謝の念を忘れない、それを伝えるまでは倒れる訳にいかないという事か。
「アタシが逝ったらね、ボウヤに音楽を奏でてもらいたいねェ。アタシはアレが好きなんだ、人生の花の……」
イズマには聞き覚えのない曲であったが、人生を花に例え短い一生であろうとも、誇りを持って咲くといった内容のそれは悪くないものであった。ババアに約束しよう、トーティス流の人生の花を演奏してみせようと。
「何を良い話にしようとしているのじゃ! 我は妙な関節技でピチピチぷりちーな身体が悲鳴をあげているというのに! ええいババア! ミホコは結婚したぞ!」
よせばいいのにニャンタルが割って入る。ミホコって誰だよ。ニャンタルとババアの肉弾戦はヒートアップする。もはや男には手出しできぬ領域、女と女の意地がぶつかり合うファイト・クラブが其処に形成されている。
「ミホコって誰だい! ヒロアキがまた女の尻を追いかけているのかねえ! アンタみたいなケツの青いハナタレはヒロアキには似合わないよ!」
「我は今をときめくティーンエイジャーじゃぞ!? ヒロアキは知らぬが!!」
ミホコの事を伝えるとお年玉が貰える。その噂はババアのリバーブローとニャンタルのアッパーカットによる物理的なものとしてここに体現されている。再現性東京に降りかかる災厄、怪異である事は間違いないのだがどうもウェールは加勢するタイミングを逃した気がする。
「暴力で死にかけた経験は心の傷となる……忘れたと思ってもある日悪夢に見たりとか辛いんだぞ。ババア、お前は噛み殺す」
「ゴンタは真面目で良い子だね! なんでこんな所に来てるんだか! アンタはさっさと天義の仕事を片付けな! アンタの助けを求めている奴らがぎょうさんいるよ!」
ババアがウェールを見る目は優しかった。何なんだこいつは。ウェールは早くこの仕事を終わらせようとしたがババアの頭上にはネクスト弾正の文字が人魂で表示されている。そういう事だ。
「お気をつけ下さい、弾正様。あの御婦人は正攻法は通用しません」
冥夜が空になった洋酒の瓶を片付けながら忠告した。廃校舎で行われる一夜限りのホストクラブ、冥夜はイレギュラーズとしての戦いとホストとしての戦いを同時にこなしていたのだ。冥夜が不在の間、オランがババアの相手をしているようだったが苦戦は目に見えている。弾正が流れを変えるしかないだろう。
「何が年末や来年に強いやつと戦うだい! アンタね、明日やろうは馬鹿野郎って言うんだよ! アンタもぐずぐずしてるとすぐジジイになるんだから……」
「ご老人、少し良いか」
「来たわねハンサム・ワイルドガイ」
空気が変わった。オランはしこたま絞られていたが、朦朧とする意識の中でババアとの戦いが終局へ近付いている事を悟った。
「俺の抱負。今年のうちに成すべきと思う事。…それは、愛の告白だ。俺には恋人がいる。だが、練達では男同士で、教師と生徒という立場。一度踏み出してしまえば彼の将来を奪ってしまうかもしれない。俺も教師でいられないかもしれない。だが……終末迫るこの世界で、二人で生き抜く覚悟を決める為に、俺は踏み出す覚悟を決めよう。たとえ貴方がご老体であろうと、俺達の愛を阻むのであれば、力の限りぶつからせて貰う!」
弾正のカミングアウトは再現性東京に生きる者たちにとっては、未だ違和感の残る価値観でもある。だが、人に何を言われようと、どのような偏見を抱かれようと愛の前では性別など些細なものでしかないのではないか。真実の愛とは性によって支配されるものではない。
「へぇ……ハンサム・ワイルドガイ。アンタはイイ男だと思っていたけど、コレがいるとはねぇ」
骨ばった小指をババアが立てる。弾正は目を伏せ、静かに笑った。
「アタシは冥夜がどう取り繕おうとババアさ」
もう冥夜呼びだ、いったいこの人のホストテクはどうなっているんだとオランは恐怖した。
「だけどね、ババア一人に阻まれる愛なら其の程度の価値しかないって事さ。来な、アンタの恋人ごっこが本物かアタシが確かめてやるよ」
弾正が武術兵装、哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式を起動する。ババアが同性愛におおらかな事は理解る、しかし弾正とババアは敵同士である。ババアは弾正の決意を確かめるべく、自ら愛の障害と成ったのだ。さすれば、ババアに全力をぶつけるのみ。
「うおぉぉおおおおおおーっ!!」
弾正の咆哮が漆黒の夜に木霊する。
「やるじゃないか、ハンサム・ワイルドガイ。アタシが十年若かったら、勝負の行方はわからなかったがねぇ」
「弾正だ。冬越 弾正」
仰向けに倒れているババアを弾正が見下ろす。互いに死力を出し尽くしたものとして、思わず名乗ってしまった。
「ババア……先程の曲だが、準備ができていない。すまない、俺は未完成の曲を貴方に聴かせたくはない」
「ウメって呼びな、青二才。へっ、ゴンタみたいに騒音を出したら近所迷惑だよ。アンタは三日坊主で辞めたりしないだろうね、しっかり音楽の練習しときな」
うわあ、何か良いムードになっているぞ。気付けば冥夜がウメを膝枕している、何処まで気が利く男なんだ鵜来巣 冥夜。
「アタシはアンタたちのバーニングハートに負けたがね、覚えておきな。未来に希望のもてないナヨナヨしたガキがいる限り、レベルアップババアは不滅だってね」
「ゲーッ! 頼むよババア! 成仏してくれ!」
オランが心底うんざりしている。割ととんでもないフィジカルで普通に戦ってもしんどかったのである。可能な限り顔を合わせたくない敵だ。
「それとゴンタ!」
「ウェールだ」
「アンタは最後の最後までくそ真面目だったねぇ。アンタは本当は優しい子だよ、アタシがお仕置きした奴らの事までしっかり考えている。アンタに何があったか知らないけど、気を張り詰めすぎだよ。もう少し気を抜きな、それじゃ疲れちまうよ。ババアからの忠告さ」
ウェールは何も言わずババアを見つめていた。
「ババア! もうくたばるのか! 我との戦いはまだ決着がついておらぬぞ! これでは我の圧勝じゃな! ガハハ!」
結構ボコボコになっていたニャンタルがよくわからないテンションでババアに語りかける。それまで鋭い目つきでニャンタルをしばきまわしていたババアが優しく微笑む。
「調子に乗るんじゃないよ物理1259が。こんな所で油を売ってないでさっさと物理攻撃力を上げな。アンタが1500を超えるまで成仏もできないからね……ずっとアン……守っ……よ」
「バ、ババアーッ!!」
レベルアップババアは天寿を全うした。その書き込み以降、レベルアップババアの目撃談は減り、創作としても使い古されたものとなった。しかし、人々が生きる熱意を失った時、ババアは現れるだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
●目標
レベルアップババアの討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ロケーション
希望ヶ浜市◯◯高校跡地 深夜
結界の気配を感じます。こわい。
●敵
レベルアップババア
老婆の姿をした怪異です。肉体派。
やたら強いですがイレギュラーズなら何とかなるでしょう。
レベルアップと三回言う事で見逃されるらしいです。
ババアの好物であるモチをあげると喜んで消えるらしいです。
ババアの前で犬の真似をすると、ババアの生前の記憶が思い出されて怖がるらしいです。
ババアは実は死神で、現れた時に誰かが死ぬらしいです。
ババアの孫娘はミホコで、ミホコ結婚シタと言うとお小遣いをくれ、ミホコ死ンダと言うと殺されるそうです。
ババアを蹴り倒したY先輩という人が友達の知り合いの従兄弟らしいです。
レベルダウンジジイという妖怪がいるそうです。
レベルアップババアを倒すとレベルアップするそうです。
●注意
当シナリオは経験値が特別高く設定されている訳ではありません。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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