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シナリオ詳細

雪中合同演習。或いは、強き脚の戦士たち…。

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雪崩乗りの日常
 雪深い山の奥深くに、翼種たちの住む村がある。
「うん。よく来てくれた」
「遠路はるばる、よく来てくれた」
 彼女たち、クアッサリーとエミューの2人も村の住人だ。
 赤い短髪、長身の翼種がクアッサリー。
 長く青い髪を1本に括った長身の翼種がエミュー。
 2人とも、ショートパンツから伸びた長く強靭な鳥足を寒風に晒している。脚の指から生えた太く鋭い、鋼のような爪で雪の積もった大地を踏み締めて、肩で風を切って歩くのだ。
 吹雪の中、散歩にでも出かけるように悠々と歩く2人を追って数人のイレギュラーズが進む。吹雪となれば、普通は家の中や巣の中で寒さをしのぐものなのだが、彼女たちはそうじゃない。
 この山では、吹雪は日常的なものである。
 ことさら、騒ぐ必要はないということだ。
「さっむ……いや、来たのはいいんっすけど、何の用事なんっすかね?」
 コートの前を閉めながら、そう問うたのはエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)である。顔色は真っ白で、金の髪には雪の粒が張り付いている。
「寒いんっすけど。できれば早く建物の中に入りたいっす」
 遠くに炎の明かりが見えた。
 クアッサリーとエミューの住まう雪山の集落だ。だが、2人の足は集落とはまったく違う方向へと向いていた。
「何を言っている? 建物の中には入らない」
「建物の中では雪遊び出来ないだろう?」
 雪遊び、と2人は言った。
 そして、辿り着いたのは雪原だ。200メートルほどの距離を開けて、雪で作ったドーム状の建物が1つずつ。建物と建物の間には、雪で作った壁や、雪を掘って作ったような塹壕がある。
「雪遊び……っすか? 雪合戦?」
 夏が終わったばかりだと言うのに、なぜ雪遊びなどしなければいけないのか。
 寒暖差で風邪を引きそうだ。
「雪遊びだな。正しくは、若い戦士の訓練だ」
「私たちの集落の習わしでな。外部の戦士を招いて、雪をぶつけ合うんだ」
「懐かしいな。私たちも幼いころによくやった」
「今でも時々やるよな。今日は審判役だが」
「審判が参加しちゃ駄目なんてルールはなかった」
「うん。そう言えばそうだった」
 笑い合う2人の瞳には、闘志の炎が燃えている。
 嫌な予感がする。
「えーっと、つまり?」
「雪合戦だ」
「思いっきりやってくれ」
 そう言って、クアッサリーとエミューが手を打ち鳴らす。
 すると、雪のドームや塹壕の中から、何人かの少女たちが現れる。クアッサリーやエミューの同族たちだろう。雪深い山の中だというのに揃って薄着で、短い丈のパンツからは強靭な鳥の脚が伸びている。
「時刻は日暮れまで。或いは、どちらかの陣営、最後の1人が立てなくなれば終わりだ」
 クアッサリーとエミューの背後に並ぶ少女たちの数は8人。
 その全員が、いかにもやる気十分といった様子で、柔軟などしているのである。

GMコメント

●ミッション
鳥脚族の新人訓練に付き合おう

●NPC
・クアッサリー&エミュー
赤い短髪、長身の翼種がクアッサリー。
長く青い髪を1本に括った長身の翼種がエミュー。
2人とも厚手のコートにショートパンツといった服装をしている。
今回は審判役として参加しているが、テンションが上がると乱入して来る可能性もある。

・若い戦士たち×8
クアッサリー&エミューの同族。
十代半ばほどの若い戦士たち。
強靭な足腰を持っているが、戦闘経験、実戦経験は不十分。

●フィールド
鉄帝の辺境。
雪ぶ深き山脈を超えた先にある雪原。
雪を固めて作った半円形のドームが2つ。ドームとドームの間の距離は200メートルほど。
雪で作った壁や、雪で作った塹壕などが設けられている。
2つの陣営に分かれて雪合戦を行う。
日が暮れるか、どちらかの陣営、最後の1人が動けなくなると訓練終了。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】遭難していた
雪山で遭難していました。やっとのことで、人里に辿り着いたと思ったら、そのまま雪原に連れていかれました。

【2】エントマに誘われた
「ちょっと遊びに行きましょう」と言うことで着いていったら雪山でした。

【3】鳥脚族の集落に泊っていた
客人として集落に滞在していました。若い戦士たちを鍛えると言うことで、協力を申し出ました。


戦闘スタイル
雪合戦における戦闘スタイルです。

【1】ストロングスタイル
前進あるのみ。真正面から、若き戦士たちを迎え討ちます。

【2】トリッキー
雪壁や塹壕を上手く活用し、攪乱や奇襲を中心とした戦い方をします。

【3】サポート
雪玉の補充や、負傷者の救助などを中心に行います。拠点である雪のドームを中心に活動します。

  • 雪中合同演習。或いは、強き脚の戦士たち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月29日 22時05分
  • 参加人数4/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
芍灼(p3p011289)
忍者人形

リプレイ

●雪中演習
 ごうごうと風が吹いていた。
 雪の粒が多分に混じる暴風である。
 つまり、吹雪と言うやつだ。
「いや、これ……私もやるんっすか? マジで?」
 かまくらの入り口から顔を覗かせ、イフタフがぼやく。数メートル先さえも視認できないほどの吹雪の中、元気に準備運動などしている『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)などは一体、何を考えているのだろうか?
 雪の日というものは、暖かな家の中に籠って、暖炉の火など眺めつつ酒でも飲んでのんびりしながら過ごすものなのだ。
 決して、外に出て雪合戦に興じることに向いた天候では無いのだ。
「正気っすか?」
「呼んだイフタフさんがそれを言いますか?」
 呆れたようにオリーブは答えた。
 入念に準備運動を行った成果か、吹雪の中だと言うのにオリーブの額には汗が滲んでいる。身体はしっかり温まっているらしい。
「時勢が時勢なのでエミューと決着を付けに来たのですが……図らずも若者の教導役を仰せつかるとは光栄ですね」
「光栄っすかねぇ?」
 面倒ごとを押し付けられただけのようにも思えて来る。
 先ほどあった鳥脚族の若い衆を見ただろうか? 全員、戦士の顔をしていた。油断なく、けれど好戦的にイフタフたちを見据えて、戦いの始まりを今か今かと待ちわびている勇猛果敢な戦士そのものの顔付きだった。
 あぁ言う顔をした連中が、イフタフはあまり得意ではない。
 話し合うより、殴り合うのが好きだと言う類の連中だからだ。
 会話が成立するのなら、イフタフとしても渡り合える目がある。口八丁でその場を乗り切ることも不可能ではない。けれど、話し合うより先に戦闘が始まるとなれば口八丁など何の意味も持たないのである。
「話せば分かるで分からない連中って言うのがこの世には時々、いるんっすよね」
「雪合戦で若い戦士を鍛える。いいね!」
「……ほらぁ」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)も戦意が高い。せっせと雪玉を量産しながら、吹雪の向こう……鳥脚族たちの陣営を睨みつけている。
 吹雪が止んだら、雪合戦の始まりだ。
 開戦の時はすぐそこにまで迫っているのだ、否応なくヴェルーリアの戦意や闘志も昂ろうと言う者である。
 かまくらの前に積み上げられた雪玉を手に取り『忍者人形』芍灼(p3p011289)は告げる。
「まだまだ修行中の身、全力で頑張りまする!」
 長い髪に雪が張り付いているけれど、彼女は寒くないのだろうか。
「……いやぁ、芍灼さん、巻き込まれたわりにやる気っすね」
 芍灼はたしか、行商の途中で雪合戦に巻き込まれたのではなかったか。商売途中のはずだが、雪合戦に興じている暇はあるのだろうか。
 あるのだろう。
 無ければここに居るはずがない。
「これも修行の一環なれば、若き武人と相対するのは望むところでありまする!」
「あぁ、そっすか」
 どいつもこいつも、戦意が高くてありがたい限りだ。
 極寒の地で雪合戦など、イフタフはお断り申し上げるが。
 こうなればイフタフの味方は『玉響』レイン・レイン(p3p010586)ぐらいのものだ。のんびりしているレインであれば、イフタフの気持ちを理解してくれるはずだ。
 そんな一縷の望みをかけて、イフタフは視線をレインへ向けた。
「強いオスは生き残る力が強い……」
 だが、レインはやる気であった。
 呼び出したリスを使役して、せっせと雪玉を量産していた。
「僕は……強いオスになる……」
 こうなれば覚悟を決める他に道は無い。
 絶対に生きて帰るのだ。そう決意したイフタフは、かまくらの入り口に雪を積み上げるのだった。
 なんのために?
 雪で壁を作るのだ。
 前線なんて、出ていきたい奴が出て行けばいい。

●「試合開始!」
 雪原に女性の声が木霊した。
 エミューか、それともクアッサリーの声だろう。
 それと同時に、イフタフを残した4人が一斉に走り出す。敵陣営までの距離はおよそ200メートル。吹雪は止んだが、雪は未だに降り続けている。
 当然、視界も足元も悪い。
 もっとも、多少の足元の悪さや視界の悪さを気にするようなイレギュラーズではない。敵陣営の鳥脚族も同じだろう。
 あのしなやかなで強靭な脚で雪原を踏み締め、勇猛果敢に攻め込んでくる。
 かまくらに1人、取り残されたイフタフにはそんな未来が容易に予想できるのだった。

 斥候兼先陣の役目を担う3人の若き戦士たち。
 その眼前に立ちはだかるは、金の髪の女であった。一見すれば華奢で可憐な少女に過ぎない彼女……ヴェルーリアは、雪壁を背に佇んでいる。
 雪壁を背にしていては、いざという時に逃げられないし、隠れられない。それを承知でヴェルーリアはその位置に立っているのであろう。
 舐められている。
 侮られている。
 若き3人の戦士たちがそう思うのも無理はない。
 だから、彼女たちは雪玉を投擲した。
 逃げも隠れもする気が無いと言うのなら、そのまま的になってくれ、というわけだ。強靭な腕力で投擲された雪玉が、空気を切り裂きヴェルーリアへと飛んでいく。
 雪を固めた玉であるが、まともに当たれば骨の1つ程度は折れる。
 それほどまでの速度であった。
 だが、ヴェルーリアは雪玉を避けない。防御することもしない。
「こういう時はやっぱりストロングスタイルでしょ」
 雪玉が、ヴェルーリアの額にぶつかり爆ぜ散った。
 一瞬、ヴェルーリアの頭部が後方へ仰け反る。
 仰け反っただけだ。ほんの一瞬だけだ。
「そんな……直撃だったのに」
「人が、こんなに硬いわけない」
 ヴェルーリアに傷は無い。大したダメージを受けたような様子も無い。
 まるで不沈艦だ。
 雪壁を背にしているのは、隠れたり、逃げたりする必要が無いからだ。
「もっと投げつけろ!」
 3人による一斉攻撃。
 雪玉の集中砲火を浴びながら、悠々とした足取りでヴェルーリアは前進を開始する。
 その両手には雪玉が握られていた。
 雪玉を浴びながら、腕を振り上げる。
 そして、投擲。
「うぎゃ……っ!?」
 若き戦士の顔面に、雪玉が当たって砕け散る。

 飛び交う雪玉。
 それから怒号。
「おぉっ!!」
「はぁぁっ!」
 相対する2人。オリーブと若き戦士は“喉よ裂けろ”とばかりに叫んだ。
 互いに残りの雪玉は1発。
 投擲のタイミングは同じ。驚くべきことに、雪玉の速度もほぼ同じ。
 2人の間で、雪玉同士がぶつかった。
 雪で出来た玉同士がぶつかったとは思えないほどの轟音が響く。衝撃は、空気さえも震わせた。
 果たして、弾けて散った雪玉は若き戦士のものだった。
 半分ほどのサイズになったオリーブの雪玉は、まっすぐに若き戦士の腹部に命中。身体をくの字に折り曲げて、若き戦士が胃液を吐いた。
 どさり、と重たい音を立てて膝を着く。
「ぁ……くっ、そ」
 悔し気な呻き声を零し、若き戦士は雪の上に倒れ伏す。意識を失ったのだろう。
「勝負ありだな」
「いい勝負だった」
 どこに隠れていたのだろうか。倒れた戦士のすぐ傍へ、クアッサリーとエミューが近づいて来た。倒れた戦士の首に手を触れ脈を確認。生きていることを確認すると、オリーブの方へ視線を向けた。
「そっちはどうだ?」
「まだやれるか?」
 壮絶な戦いがあった。
 かまくら前で行われたオリーブと戦士の一騎打ち。余人の介入は無く、2人はただ死力を尽くして雪玉をぶつけあったのだ。
 オリーブとて、10や20では足りないほどの雪玉を浴びた。全身、汗と雪とで濡れているし、手や脚には幾つもの痣が出来ている。
「それとも、棄権するか?」
「セクレタリに介抱してもらうか?」
 からかうようにクアッサリーとエミューは言った。
 セクレタリ。
 クアッサリーとエミューの仲間である、鳥脚族の戦士である。血気盛んな鳥脚族の一員にしては、比較的、理性的で理知的だ。
 とはいえ、やはりそこは鳥脚族である。
 怒った時には、それなりに怖いし野蛮ではある。
「しきりにセクレタリを気にしていただろ?」
「番になりたいのか? 仲介してやろうか?」
「いや、そういうアレじゃなくて。好みのタイプだったけどそうじゃなくて」
 少しだけ頬を赤くしながらオリーブは慌てて2人の言葉を否定する。
 2人は顔を見合わせて「仕方ないやつ」とでも言いたげな目をして肩を竦めた。それから、2人は足元に積もる雪を拾い上げる。
 傷だらけの手で、2人は雪を握り固めた。
 それを見て、オリーブもまた足元に積もった雪へ手を突っ込む。
「じゃあ、今度は私たちと戦ろう」
「まだ、元気なんだろう?」
 第2ラウンドの開幕である。

 先鋒部隊がヴェルーリアを抑え込んでいる間に、残る4人の戦士たちは2人ずつの組に分かれて雪原の左右からかまくらへ向かって回り込む。
 かまくらを落とすことが目的ではないが、敵陣営の拠点を落とせば戦況は有利に動くはずだ。
 吹雪が起きた際に避難したり、敵陣営の猛攻を凌いだりするためにかまくらは設けられている。表向きの設置理由はそれである。
 表があれば裏もあるのが世の常だ。
 陣地の構築に慣れたヴェルーリアなどは気が付いているかもしれないが、雪原に儲けられたかまくらは“落とす”ことを前提として用意されたものだった。
 若き戦士たちに、拠点の襲撃を経験させるための設備がかまくらなのだ。
 今回、イフタフがそうしているように、屋根も壁もある拠点があれば、幾人かはそこに詰めるものなのだ。集合場所、休憩場所、避難場所、作戦会議の場……屋根と壁があるだけで、雪原の真ん中に安地が生まれる。そこが陣営の拠点となり、心臓部と化す。
 だから、落とすのだ。
 オリーブがそうしたように、鳥脚族の若き戦士たちもまた、イレギュラーズ陣営のかまくらを落とすのだ。
「あと何十メートルか。また吹雪はじめたな」
「慎重に行きましょう。相手は雪原の戦いに慣れていないはずだから」
 雪壁に隠れた2人の戦士が言葉を交わす。
 そっと顔を覗かせて、かまくらの方を観察すると、そこにはイフタフだけが居る。かまくらから顔を覗かせて、不安そうに周囲の様子を警戒しているのが見える。
 雪原の戦いに慣れていないのだ。
 イフタフのくすんだ金色の髪は、真白い雪原でよく目立つ。
 いい的だ。
「次に風が強くなったら、一気に攻め込むとしよう」
 雪玉を幾つか用意しながら、若き戦士がそう言った。
 と、その時だ。
「たのもう!」
 2人の頭上から声がした。
 2人の頭上に影が落ちた。
「え……?」
「……いつの間に!?」
 2メートルを超える雪壁の上に、女が1人、立っている。
 身体に張り付くような薄い衣服を纏った小柄な女だ。女の両手には2つの雪玉。
「それがし、サヨナキドリの芍灼と申す!」
 そう言って、女は雪玉を投げた。
 若き戦士は地面を蹴って、雪原の上を転がっていく。雪玉を回避し、滑りながら体勢を立て直すと、急いで足元の雪を拾った。
 片手で器用に雪玉を作ると、腕を振りかぶり狙いを女……芍灼へ付ける。
 だが、その時には既に芍灼の姿はそこに無かった。
「ご両人、名はなんと申されるので?」
 代わりに、2人の背後で声がする。
 吹雪に紛れ、芍灼はあっさりと2人の背後を取ったのである。実戦経験の差だと2人は即座に理解する。
 同じ場所に留まっていては良い的になることを芍灼は経験則として理解していた。
 そのことを、若き2人の戦士は理解できていなかった。
「キーウィだ」
「ドードゥよ」
 名乗りをあげた2人の顔を順に眺めて、芍灼は頷く。
「キーウィ殿にドードゥ殿ですね。では、いざ尋常に!」
 そう告げて、芍灼は地面に強く拳を叩きつける。
 ドン、と地面が激しく震え、辺りに雪が舞い散った。

 吹雪の中に人影が見えた。
 初めは、仲間たちが帰還して来たのだと思った。
 だが、そうじゃない。
「わぁーーーー! 来たっす! 敵襲! 敵襲!」
 接近して来るのは2人の若き戦士であった。鳥の脚で地面を掻いて、猛スピードで雪原を駆ける。
 その速度たるや、草原を走るダチョウもかくやといったところか。
「やっば! 無理っす、無理っす!」
 雪玉の用意は万端だが、悲しいかなイフタフの膂力が足りない。雪玉を投げるという行為には、それなりの技術と筋力が必要となる。
 ひゅん、と風を切る音がした。
 飛来した雪玉が、イフタフの頬を掠めてかまくらに衝突。雪の欠片が飛び散る中、イフタフは文字通り這う這うの体でかまくらの中へ避難する。
 事前に作っていた雪の塊で出入口を塞いで籠城の構えを取るが、こうなっては袋の鼠もいいところだ。雪玉の集中砲火でかまくらを崩され、あっという間に生き埋めになる未来が見える。
 事実、かまくらの中には何度も何度も、雪玉が弾ける音が響いていた。
 しかし、やがて、その音が止む。
「うぇ? なんっすか?」
 真っ暗なかまくらの中、雪の上に蹲りイフタフはぽかんと呆けた顔をするのであった。

●雪原の死闘
 桜色の傘である。
 かまくらを狙い投げつけられた雪玉を、桜色の傘が受け止めたのである。
「……なんだ?」
 雪玉とはいえ、鳥脚族の戦士の投げるそれの威力は絶大だ。しっかり握り硬め、全力で投擲したのなら、石の壁にも罅を入れるほどの破壊力は備えている。
 傘の1本程度であれば、難なく破壊できるはずだ。
 しかし、そうはなっていない。
 鳥脚族の戦士たちは、目の前の光景がまるで真昼に見る夢か何かのようにさえ思えた。
 だが、現実だ。
「よい……しょ……っと」
 傘の向こう。
 雪原に掘られた塹壕の中から、髪の長い男性が這い出して来る。
 一瞬、女性と見間違うほどに線の細い男性である。
 どこか呆とした顔をしている。
「さぁ……やろう……か」
 レインである。
 傘に着いた雪を払って、まっすぐに2人を見据えている。
「最後に……生きてる方が強いオス……」
 そう言って、レインは傘をくるりと回した。
 傘の起こす風によって、辺りに雪が舞い上がる。
 次の瞬間、レインの姿が掻き消えた。
「っ……隠れた!」
「来るぞ!」
 2人の戦士は背中合わせに位置取ると、雪原の中に視線を巡らす。塹壕に隠れたレインが、どこから攻めて来るか分からないからだ。
 暫しの静寂。
 静寂は長く続かない。
 静寂を破ったのは、雪の弾ける音だった。
 雪玉が、戦士2人の側頭部を打ったのだ。
「……え?」
 目を丸くする。
 雪玉が飛んで来た方向へ……さっきまで、レインが隠れていた塹壕の方へと目を向ける。
 レインは動いていなかった。
 塹壕に潜っただけで、ずっと同じ場所にいた。
「そんなんじゃ……生き残れない……よ?」
 うっすらと笑うレインを見て、戦士たちは激高した。からかわれたのだと理解したから激怒した。
 激怒してしまった。
 怒りの感情は、人から容易に冷静さを奪い取る。
「どっちが強いか試してみるか!」
「怪我しても文句言うんじゃないよ!」
 血気盛んな戦士たちが、一直線にレインの方へと駆けて来る。その手に握った雪玉を、ただ力任せに投げつける。
 狙いが甘い。
 動きが単調に過ぎる。
「平気……怪我の前に……再生で回復……する」
 戦士2人とレイン。
 どちらの体力が先に尽きるかは明白だった。

「若いな! そして、未熟だ!」
「負けたな! 負けを知る者は強くなるぞ!」
 8人の若き戦士が、雪原に転がっている。
 イレギュラーズVS鳥脚族の戦士による雪中演習は、イレギュラーズの勝利に終わった。
「どう? 役目は果たせたかな?」
 腹を抱えて笑うエミューとクアッサリーへ、ヴェルーリアはそう問うた。2人は目尻に浮かぶ涙を指で拭って、大きく1つ、頷いた。
「あぁ、いい結末だ」
「実戦経験の差が出たな」
 後輩たちが負けたと言うのに、2人は満足そうだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
鳥脚族の戦士たちとの雪合戦に勝利しました。
エミューとクアッサリーは満足そうです。

依頼は成功です。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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