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シナリオ詳細

<クロトの災禍>星に願いを、愛し子に安寧を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●希望の箱、あるいは希望の人
 あの日、空中庭園で神託の少女と出会った者ならば、そのような言葉を耳にしたことがあるはずだ。
「近い将来、世界は滅亡するでごぜーます」
 ある者は、この世界で生を受け日常を謳歌していたかもしれない。
 ある者は、異世界から招かれ理不尽だと感じていたかもしれない。
 その少女の言葉を、神託を耳にして、あの日のあなたはどのような心境になり、どんな感情を抱いただろうか。
 冗談だろうと笑った?
 物語の始まりに興味を抱いた?
 それとも、絶望に嘆いた?
 どのような思いを抱いだとしても――滅亡は『明日』ではないかもしれないけれど――絶対に外れないという神託のとおり、この『無辜なる混沌』には着実に終局の足音が迫っている。
 それは、冠位の襲来を含む滅びを望む者共の活動からよくわかるだろう。

 この<混沌>は貪欲で、理不尽で、あらゆる世界を内包する。
 だからこそ、滅亡は食い止めなければならないのだ。
 <混沌>が滅ぶということは、この世界だけでなく、内包するすべての世界の破滅も意味する。
 それは、この世界に生を受けた者はもちろん、異世界から招かれた者とその故郷も滅ぶ。
 大切な友も愛する人も喪うことを意味するのだから。

 そうして、世界はまた滅びへと一歩近付く。
 終焉に隣接する三国、すなわちラサ、深緑、覇竜。
 これらに、終焉獣(ラグナヴァイス)が姿を現わしたのだ。

●それでも世界は廻る
「皆さんお仕事の時間ですよ!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、イレギュラーズたちを前に依頼の詳細を話し始めた。
 事の発端は『影の領域』の活動が活発になったという報告だった。
「終焉獣の話は知ってる人も多いと思うですが、その出現が確認されたです」
 滅びのアークそのもので作られた獣達は、神託を実現せんとばかりに活発に活動を始めた。
 既に対処に動き始めてはいるが、その中でも頼みたいことがあるのだとユリーカはいつになく真剣に皆へと声をかけたのだ。
「今回皆さんに依頼したいのは、深緑での事件なのです。終焉に近い迷宮森林に、先の獣が出現しているのですが……そこでハーモニアの女の子が姿を消したのです」
 終焉獣が現れたときにはもう少女の姿はなく、加えて現地では獣への対処で手一杯なのだ。
「依頼主は彼女の父親で、行き先には心当たりがあるそうなのです」
 キャロルという名の少女は『星を見に行く』と書き置きを残していたのだ。
 本当なら父親自ら探しに行きたかった。しかし、彼の妻もまた病でずっと療養につとめている。
 自分が娘を助けに行くか、イレギュラーズに頼むか。
「今の深緑はとても危険で、結果として皆さんに依頼した方が娘さんが助かる可能性が高いと判断されたようなのです」
 現地では少女キャロルの保護、そして終焉獣の撃退両方が求められるだろう。
「とても危険だと思いますが、皆さんの無事を祈ってるです!」
 イレギュラーズたちへかけらるユリーカの言葉には、確かな信頼があった。

●迷宮森林西部メーデイアにて
 ――流れ星に三度祈れば願いは叶う。
 ハーモニアの少女キャロルは、以前訪れたイレギュラーズたちがそう話していたことをよく覚えていた。
 美しい星空が広がる夜、彼女はそっと家を抜け出して森へと足を踏み入れたのだ。
 深緑ことアルティオ=エルムに生を受けたキャロルにとって、森は常に彼女に寄り添い、導いてくれる存在だった。
 大樹ファルカウからは遠く離れた集落ではあったけれど、その加護はいつだって、どんなときでも彼女の側にあったのだ。
 彼女が目指すのは、少し前寿命を迎えた大木が倒れた場所だった。それ自体はとても悲しいことだったけれど、でもそのおかげでぽっかりと小さな広場が生まれたのだ。
 倒れた木をよりどころとして、いずれ緑は芽吹き、そう遠くない未来にはまた美しい枝葉を伸ばす日が来るはずだ。

 そうして小さな広場にやって来た少女は、服が汚れることも厭わずに倒木の側に腰掛けると、ただ夜空を見上げ流れ星を見つけては一心に祈る。
「どうかママの病気が、よくなりますように」
 手が白くなるほど握りしめて祈る少女は、だから気がつかなかった。
 その背後に迫り来る、終焉獣の気配に。

 それは紅い焔を纏っていた。
 翼を動かす度に、小さな火の粉が宙を舞う。
 半人半鳥のハルピュイアは、憤る精霊を引き連れて見つけた『獲物』へ鋭い鉤爪を伸ばしたのだった。

GMコメント

はじめまして、あるいはこんにちは。
瀬戸千智(せと・ちさと)と申します。
皆様と共に物語を紡ぐことができれば幸いです。

●成功条件
・『終焉獣』の撃退
・少女『キャロル』の救出

 キャロルは皆様に保護された直後はパニックに陥っていますが、以降は皆様の指示に従います。

●フィールド情報
 深緑の『迷宮森林西部メーデイア』が舞台となります。
 大樹ファルカウからは離れており、迷宮森林の中でも特に奥まった場所に位置します。

 時刻は夜。
 森林ゆえに周囲は木々が多いですが、幸いにも少しだけ開けた空間(半径10m程度の円形空間)で戦うことが出来ます。
 別途持ち込まない限りは、光源は月と星明りのみ。
 敵味方問わず開けた空間にいる限り、視界にペナルティはありません。
 しかし暗視に類するものや光源を持たず一歩森に踏み入れば、途端に姿を見失うことでしょう。

 また、深緑において『炎』を扱うことは歓迎されていません。
 今回は人命がかかっているため『照明』程度は大丈夫ですが、くれぐれも火の取り扱い、
 特に『森林火災』にはお気をつけ下さい。

●シチュエーション
 書き置きと足跡を辿ることで救助対象はすぐにみつかります。
 そのため捜索プレイング自体は不要です。
 事前に準備したいことなどがあればご自由に。

 現場に到着した皆様の目の前で、今まさにハーモニアの少女が『終焉獣』に襲われようとしています。
 しかし、今ならばまだギリギリ間に合う――その瞬間からはじまります。

●エネミー情報
・『ハルピュイア』×10
 見た目は半人半鳥のモンスターですが、滅びのアーク由来の終焉獣に違いありません。
 夜の中でも空を飛び攻撃を仕掛けることができます。
 鉤爪による近接攻撃と、炎系の神秘魔法による遠距離攻撃を行ないます。

・『大樹の憤怒』×5
 何かに憤る精霊です。黒いもやのような存在をしています。
 目の前にいる存在に対して酷く憤っており、周囲に無差別に攻撃を仕掛けてきます。
 炎の魔術に特化しており【火炎】などのBSが周囲に付与されます。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

以上です。
それでは良い旅を!

  • <クロトの災禍>星に願いを、愛し子に安寧を完了
  • GM名瀬戸千智
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ファニー(p3p010255)
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ

●星、ひとつ
 それはただ、幼く純粋な願いだった。
 長く床に伏す母に、ただ元気になって欲しかったのだ。
 少し前までは散歩に出かけることも出来たのに、いまではすっかりベッドの住人となってしまっている。
 もちろん一緒に出かけたり、いつか大樹ファルカウを間近に見て「大きいね」と笑う日が来れば良いなとキャロルは考えていたのだけれど。

 ふと森がいつになく静かに、それでいてざわめく気配に彼女が気付いたときにはもうすべてが遅かった。
 振り向いた彼女の視線の先で、静かに接近していた終焉獣ハルピュイアの鋭い爪が、少女へ迫る。

 たすけて。

 声にならなかった祈りは、森の闇へ溶けていく。
 ――はずだった。
 しかし、現実はそうならない。

 間一髪、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の援護を得て飛び込んできた『君を全肯定』冬越 弾正(p3p007105)が終焉獣とキャロルとの間に割って入り、その隙に『温もりと約束』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)に抱えられ難を逃れることができたのだ。

「父親が心配している。早く帰るぞ」
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)がそう声を掛け、励ますように後方へ避難させられたキャロルの頭を優しい手付きでひと撫でする。
 彼女が見据えるのは、立ち塞がる終焉獣たちだ。
「驚かせて悪いが、落ち着いてほしい。君を守ってくれと、君の父親から依頼されて来た」
 本当ならば父親自らがこの場に駆けつけ、娘を抱き留めたかったはずだ。
「必ず、無事に家に帰すよ」
 その上で彼はイレギュラーズたちへ、愛し子の未来を託したのだ。
 この状況で混乱しているであろう少女へ、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がつとめて優しい声色で言い聞かせるように声を掛ければ。
 キャロルはただ「わかった」と今にも泣き出しそうな声で言う。
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が少女を連れて離脱を試みる。
 少女を狙う鉤爪を細剣で受け流して、
「さあ俺たちのお相手を願おうか」
 イズマが終焉獣――ハルピュイアたちの注意を引く。
 逃れようとした個体は、すかさず放たれたジョシュアのジャミル・タクティールが、その行動をゆるさなかった。

●星、ふたつ
 ここに来るまでにふと見上げた夜空は雲ひとつなく、とても綺麗だった。
 森に慣れ親しんだハーモニアならば、恐れることなく家を抜け出してもおかしくない。
 そう思えるほど、星を観るには絶好の機会だった。

 しかし、その好機は戦場と化した闇の中へ消えてしまった。
 少女と森を護らんとばかりに幾重にも張られる保護結界を『Star[K]night』ファニー(p3p010255)自らも展開し、素早く戦況を俯瞰し分析する。
「その願いを邪魔しようなんざ、無粋にも程がある。さぁ、覚悟はいいか?」
 イズマがハルピュイアたちを引きつけているが、その後方では大樹の憤怒がその抱えた怒りにまかせ、炎を生み出している。
「させないぜ」
 降りしきる星屑が、すかさず大樹の憤怒の行動を引き止めるのだ。
「イズマ、こっちは任せてくれ」
「ああ頼んだ」
 短く言葉を交わす二人と仲間たちを守るように、『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は注意深く位置取っていた。
 敵と味方の消耗度合い、そして戦況を観察し、適切な手段でその戦いを後押しする。

 イレギュラーズたちは飛行するハルピュイアよりも、大地に根ざす大樹の憤怒の撃破を優先していた。
 直ぐさま作戦を立てた仲間たちは、速やかにそれぞれの持ち場へ散ったのだ。
「何に怒っているのかはしらんが、貴様らの好きにはさせん!」
 荒々しいまでの闘氣を纏った昴の拳が、大樹の憤怒へ叩き込まれる。
 その彼女の攻撃を、エクスマリアが後押しする。
 彼女の手がリンとナイトベルの音を響かせる。
(しかし、いくら怒り狂っているとはいえ……)
 森が、森を愛する子を、まして炎で燃やすことなどあってはならないはずだ。
 しかし、大樹の憤怒がはたして何に憤っているのかさっぱりとわからないのだ。
 エクスマリアがその意思を探っていると、断片的にその感情が伝わる。
「どうして……?」
 ただ困惑するしかないその『感情』をひとまず頭の片隅によせ、彼女は戦いに集中するのだった。

 撃破の優先順位は変わらない。
 ファニーとイズマの両名が引きつけた敵へ、弾正のジャミル・タクティールが降り注ぐ。
「アーマデル」
 弾正がその名を呼ぶよりも早く、森の闇へ紛れたアーマデルが大樹の憤怒へ奇襲を仕掛けたのだ。息の合った連携で一体を討ち取って、すかさずアーマデルが距離を取る。
 可能な限り敵を巻き込み、再び弾正の攻撃が降り注ぐのだった。
 互いが次にどんな行動を取るかなんて考えるまでもない。

 それはジョシュアも同じだった。
 イズマは敵の全てを引きつけようと移動する。
 怒りに駆られた大樹の憤怒やハルピュイアたちは、彼を可能な限り狙うはずだ。
 けれどたった一体、冷静になったハルピュイアが空高く飛翔しようとする姿を彼は目にする。
「させません」
 強く地面を蹴って跳躍し、放たれたラフィング・ピリオドがハルピュイアの翼を撃ち抜いたのだった。
 地面に叩きつけられたそれを、昴は逃さない。
「群れたところで大差はない」
 確実に数を減らすため重い一撃を叩き混み、彼女は次の敵へと足を向ける。
 昴には、他者を守れるだけの力も技術もなかった。
 けれどただひとつ、この破壊する力だけは有り余っているのだ。
「全てを駆逐してやろう」
 この敵を全て仕留めることでこそ、成し遂げられることもあるはずだから。

「あとはハルピュイアだけだ」
 戦闘が続く中、戦場全体の俯瞰を続けていたファニーがそう叫ぶ。
 最後の大樹の憤怒が倒れ、ちろりと下草を炎が舐めるのを見て、イズマは呼び起こした水で一気に消火を実行した。
「あと少しで、終わりだ」
 ずっと敵を引きつけていた彼の傷を癒やして、エクスマリアが仲間を鼓舞する。
 空へ逃れようとする個体は撃ち落とされ、地上に近い個体は各個撃破され、戦況はイレギュラーズたち優勢に一気に傾いた。

●星、みっつ
 そこからは時間の問題だった。
 次第にその数を減らしていく中、昴の武技が最後のハルピュイアを捉えた後、敵が一掃された森は元の静寂を取り戻す。
 幾重にも張られた結界により、どうにか炎による延焼といった被害をも防ぐことができていた。
 闇夜の中でも歩ける者たちが、残党や万一の残り火がないか確認へ赴く中、エクスマリアは、
「そうだ、皆気付いたことはないか?」
 戦闘中、彼女が大樹の憤怒の意思を探っていたとき、断片的に伝わった感情について問いかけた。
 その時強く感じたのは、深緑を襲ってくる脅威への憤り。
 酷く苛立ちを感じさせる木々のざわめきだった。
「あれはどちらかといえば、森が怒っている……どうもそう感じてな」
 例えるならば、ファルカウが怒っている。ファルカウを護る為、というように。
 その意思が真実であるならば、何故、森に属するものが森を燃やす行為に手を染めるのだろうか。
「ひとまず、ローレットへ持ち帰って相談しましょうか」
 真意は未だわからないけれど、イレギュラーズたちの情報を集めれば何かわかるかもしれない。
 ジョシュアがそう提案した時、少女のすすり泣く声が耳に届いた。
 どうやら張り詰めた緊張の糸が、ぷっつりと途切れてしまったのだろう。
 恐ろしい敵の攻撃が自身に迫る――ローレットに所属している者ならば依頼で日常茶飯事だが、一般人から見ればそんな話ひとつでさえ立派な冒険譚となる。
 まして、年端もいかない少女であるならば。
「もう安全だ。早く両親を安心させてやろう」
「そうですね。キャロル様のご両親はとても心配していましたから、気を付けて帰りましょう」
 危険なことはもうなにもないのだと言い聞かせるような昴とジョシュアの言葉に、涙をこぼしながらキャロルはうなずくのだった。

「少し遠くまで見てきたが、残党はいなかった」
「俺も帰路を見てきたが、キャロルさん、安心していいよ」
 そこに四方に散っていたイズマとファニー、アーマデルと弾正合流するのだった。
 いずれも敵影も残り火も見つからなかった。
 少なくとも今この場においては、安全が確保されていた。
 そう断言できる程度には。

「……成程。母親の病気が治るように、星に願いをかけていたわけか」
 涙を流すキャロルが落ち着くのを待つ過程で、今回の発端、つまり彼女が星に願いをかけにきていたのだと聞かされて、ファニーはなるほどなあと小さく呟く。
「しばらくは、一人で出歩くのは避けること、だ。全てのかたが着けば、また今まで通りにも、できるだろう」
 どうも森の様子がおかしいから、出来る限り気をつけてと優しくエクスマリアは言い聞かせる。

 だから。
「俺に秘策がある」
 そう切り出したのは弾正だ。
 この日を逃せば、彼女はきっと暫く出歩くことはできないだろう。
「要は三回祈れば願いが叶うんだろう。これだけ人数がいれば、キャロル殿も安全に星を見れる」
「遠い星にかける誰かの為の祈りは、きっと誰かの元へ届くだろう」
 アーマデルがその言葉を引き継いで続ける。
 彼の故郷では流れ星は凶兆だったが、イレギュラーズから聞かされたのだとしたら、吉兆だと思われるのもよくわかる。
「それなら一緒に祈ろうか、キャロルさん。そうだ、祈りが届くように、ベルを鳴らしてみる?」
 イズマがそっと彼女の手にラメント・ジンクを握らせて、皆が一様に空を見上げた。

 夜空を一条に流れる星をひとつ、見つけて。
「どうかママの病気が、よくなりますように」
「キャロル様の願いが叶いますように」
 ベルの音が響く中、各々がそれぞれの言葉で、少女のために祈りを捧げたのだった。
 どうかその願いが叶いますように。
 この無垢な祈りがあの星々へ届きますようにと。

 帰路は、往路を考えればとても穏やかな道のりだった。
 各々が手に灯りを持ち、あるいはリンと夜闇にベルの音を響かせて、
「俺の幸せを分けてあげよう」
 内緒だと弾正がハーブバタークッキーをそっと与えたり、心細くならないようにそれぞれのやり方で励ましながらキャロルの家へ向かう。
 途中疲れた彼女を昴が背負ってやり、そのタイミングで一行は帰宅を急いだ。

 よほど心配していたのだろう。
 家の外にはキャロルの父だけでなく母もおり、集落の人も集まっていて、イレギュラーズたちを出迎えるかたちとなったのだ。
「パパ、ママ!」
 両親に気付いた少女が声を上げて、
「足元に気をつけろ」
 キャロルをそっとおろした昴はその背に言葉を投げる。
 軽やかな足取りで少女は走り出し、両親は娘をしっかりとその腕で抱きしめている。
「俺たちに彼女を任せてくれてありがとう」
 イズマの言葉に、キャロルの両親は涙ぐみながら、
「こちらこそ、娘をありがとう」
 と、繰り返し繰り返しイレギュラーズたちへ感謝を述べたのだった。

 一夜明けて。
「一番良く知るのはやはり同族の医師だろうけれど……」
 アーマデルに呼び出されたイシュミル・アズラッドは、キャロルの母の病状を確認していた。
 キャロルの父曰く、元々彼女は病弱だったのだという。
 すぐに生命が脅かされるわけではないが、ここ最近はずっと床に伏せていることが多かったのだという。
 実際ジョシュアの目から見ても、彼女はとても弱っているように見えた。
(僕もより一層薬作りに励まなくてはいけませんね)
 そうすれば、病に苦しむひとを救えるだろうから。
 そう心に強く刻んだのだ。

「だから……キャロルも焦って無茶をしたのでしょう」
 父親の向ける眼差しの先では、キャロルがエクスマリカから貰ったドロップスを口にして、イレギュラーズたちへ外の物語をねだっている。
「あくまで私の見立てなので、他所の医者なら違う見解もあるだろうけれど」
 そう断った上でイシュミルは、自分が知る病名を幾つか告げる。
「食事や生活習慣に気をつけた上で根気よく服薬を続ければ、時間はかかるけど日常生活に支障は無くなる、かな?」
 夜がやがて朝を迎えるように、この病だって完治する時は遠からず訪れる。
 キャロルの相手をしながらファニーはそのやりとりをそっと記憶に留めるのだった。
「大丈夫さ、お星さまへあれだけ祈ったんだ。きっと願いを叶えてくれる」

●安寧の時はすぐ近く。
 これはしばらくあとの話だ。
 この日を境にして、キャロルの家には定期的に匿名の誰かから病状に会わせた薬が届くことになる。
 幾度か処方が変わるにつれ、ずっと伏せていたキャロルの母は起きていられる時間が増えるほど良くなっていた。
「ローレット? にお礼のお手紙を出せば届くかなあ?」
 日当たりの良い場所で母の膝に甘えながら、キャロルはあの夜の冒険をそっと思い出すのだ。
 きっとこの優しい贈り物は、あの誰かからだろうと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆様の活躍により、キャロルは無事に家族の元へ帰ることが出来ました。
星に願うこともできて、依頼は成功です。
ご参加ありがとうございました。

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