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シナリオ詳細

<クロトの災禍>月下の絶剣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アルムーク
 ラサ南部オアシス。コンシレラの名で知られる交易路に点在している癒やしの泉は商人や旅人の生命線である。ここアルムークはそれなりの規模をもつオアシスであり、足を休める以外にも情報や積荷の交換が行われる賑やかな地として知られている。
「それで、聞いたか? クォ・ヴァディスの奴らが慌ただしく動いてるって話だ」
「あの辺鄙な場所に取り憑かれた物好き達がねぇ。まさかタイリクスナトカゲでも見て魔種だとか喚いてるんじゃないだろうな」
 クォ・ヴァディスは終焉(ラスト・ラスト)との境界に拠点を置く少数の団体である。魔種が認知されていない時代から人々の防波堤の役割を買って出たが、当初の評価は散々なものであった。その献身的な行動は少しずつ同志を増やしていき、物好きな連中という見方は残っているものの少なくとも害はないものとして扱われている。
「ラサに深緑、覇竜方面にまであそこの化け物たちが広がってるってよ。何でまたこんな商売どきに邪魔してくれるかねぇ、大方ローレットがつついて激怒でもさせたんじゃねえのか?」
「あの何でも屋どもがさっさと処理してくれるなら構わねえが、ここは詰まる所、最前線ってワケだ。恐ろしい話だぜ。あーあ、さっさと海洋方面にでも行って羽根を伸ばしたいぜ」
 各地に現れた終焉獣は瞬く間に目撃情報が広がる事となったが、ラサの商人をはじめとしたおよそ戦闘と関わりのない者たちは何処か他人事で、まさか自分の前に現れる事はないだろうという根拠なき安心感に囚われていた。

●月明かりの下で
「何なんだこいつ! これがクォ・ヴァディスの言ってた例の化け物だってのかよ!」
 傭兵グループが二匹の異形と対峙する。真夜中の戦いであった為、惨状は目視し難いが太陽の下であったならば、白い砂と赤黒い血のコントラストが生き生きと映えていただろう。
「威勢だけは一人前か。我々は全剣王に仕える者、金の為に振るう剣など物の数ではない」
「は、はぁ? アンタ頭おかしいんじゃねえのか!? そのなんとか王ってのがなんで傭兵なんかを襲うんだよ!」
 その異形は大まかには人の形をしていたが、頭部や肩、腰から結晶のようなものが突出しており、黒き炎を纏う長剣も相まって、この世ならざる風貌であった。
「これは始まりに過ぎぬ。貴様らは即ち、呼水である」
 アルムークには傭兵が10人ほど滞在していたが、全剣王に仕える者に一方的に蹂躙され、ほぼ全滅しかけていた。
「ち、ちくしょう! さっさと殺せ! ラサの傭兵は執念深いんだ、報復に怯えて暮らしやがれ!!」
「吠えるな。貴様は明日を得た。月明かりの晩に相見えようぞ」
 生き延びた傭兵は瀕死だったが、周囲に飛び散る手足や死体の損壊具合から見るにわざと手を抜かれた形である事は明らかだった。これこそが異形の言い放っていた呼水、ローレットをこの地へ呼び寄せる挑戦状である。
 不思議な事に夜が明けると異形は姿を消し、惨状の跡を除いてアルムークに日常的な、不変の朝が訪れた。

●血の朝
 イヴ・ファルベ(p3n000206)はアルムークへ集ったイレギュラーズに今回の事件を説明する。
「普通に考えれば通り魔。だけど犯人は全剣王の手下、不毀の軍勢を名乗っていたみたい」
 全剣王。ゼシュテル鉄帝国歴代最強の皇帝、伝説的な存在である。鉄騎種や歴史学者、武芸者であれば聞き覚えもあるだろうが、大の大人がハッタリをかますには少々スケールが大きすぎる名だ。子どもがごっこ遊びで勇者や魔王を名乗るに等しい規模のそれであるが、先程行った現場検証、その惨状を見るに荒唐無稽な話でもないのではないかとアルムークの民は戦慄していた。
「クォ・ヴァディスは知ってる? 終焉を監視している、私達の味方。それが全力で捜査しているけど、まだ確かな事はわかってないみたい。アルムークも落とそうと思えば一晩で出来たように思える。けど、そうしなかった。私たちが介入するまでいたぶるつもりだと思う」
 イヴは簡素に作られた傭兵の墓に祈りを捧げる。名も声も知らぬ男たち、金のために命をかける傭兵の末路として珍しくもないものであったが、このような終わり方は誰しも望んではいなかっただろう。
 アルムークの賑やかさは少々異質なものへと変わっていった。イレギュラーズがこの地に集うという事は深刻な事態なのだ。血生臭い事件は傭兵たちが賃金の値上げを行うチャンスであるが、それを行う者が一晩にしてバラバラになったのだから商人の財布が脅かされる事は免れても、今度は異質な存在に命が脅かされている。
 この地に定住している者ですら避難を検討しているようで、他人に構っていられない余所余所しい、冷たい空気が灼熱の地に漂っていた。
「夜警だけじゃ事態を収拾する事はできないはず。これ以上被害を出さないように、ね。あなた達なら出来るよ」
 太陽が沈みかかっている。アルムークに二度目の襲撃が迫っていた。

GMコメント

●目標
【必須】不毀の軍勢の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 アルムーク・オアシス
 現場に到着する頃は深夜です。満月。
 この夜だけは一般人も避難してくれています。
 長期に渡って続ける事は出来ず、一晩で目標を達成する必要があります。
 不毀の軍勢は不意打ちする事なく正面から現れ、決闘を挑んできたそうです。

●敵
 不毀の軍勢 竜槍のベリオス
 ロングスピアを持つ異形の存在です。
 非常に反応が早く、策略をいち早く破綻させるオールラウンダー。
 速度において最強を自負しています。

 不毀の軍勢 嵐のゼイン
 二刀のシャムシールを持つ異形の存在です。
 非常にEXAが高く、瞬間火力が高いダメージディーラー。
 手数において最強を自負しています。

  • <クロトの災禍>月下の絶剣Lv:40以上完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年10月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ

●二度目の月が昇るとき
 アルムークは静まり返っている。イレギュラーズの到着に合わせ、其処で暮らす者、足を休める者を問わず可能な限りの避難が行われた。厳しい砂漠地コンシレラではそう遠く離れる事も出来ず、かといって犯行予告が行われた当日に、同様の日常を送る気にもなれなかった。
 半ば義務のように焚かれた篝火や街灯が、オアシスと当事者たちを照らしていた。
「何故このような事を……! 最強だろうと何だろうと、人に危害を加えると言うのなら……」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は心の奥底より際限なく生まれる義憤の炎に身を焦がしている。見ず知らずの犠牲者、知らない土地、それでも保安官として、ヒーローとしてやるべき事は決まりきっている。眼前の悪、ベリオスとゼインを討つ。
「何の関係も無い傭兵を甚振って俺達を呼んだのか。全剣王の名を借りる割には随分卑劣な方法じゃないか?」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が凶行に及んだ二人を睨みつける。鉄帝国の歴史に残る最強の皇帝、その配下を勝手に名乗っているのだろうか。無論、イズマは全剣王に会った事などはないがこれはオールドワンへの侮辱にも等しい。その自信が虚構であるかどうか、受けて立とう。
「戦いに崇高も卑劣も無い。在るのは結果のみ、そして貴様らと死合うのに早き道を選んだのみ」
「わざわざローレットを呼び出す為にこのような仕打ちを? ……ふざけるにも程がある」
 『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)が二本の刀に手をかける。ベリオスと名乗る男の言う通り、綺麗な争いなどは存在しないかもしれない。だが、ルーキスはこれが間違っている事だと確固たる意志で立ち向かうだろう。人の理を自ら踏み外している者の言葉に惑わされてたまるものか。瑠璃雛菊を握る手が、今日は一段と強くなった。
「成程、成程……大した圧だね……通り魔なーんて言ってた人もいたみたいだけど此れは最初から本気で征かないと厳しいかもね」
「中々厄介な御仁達でごぜーますねえ。見た目こそ大人しい相手でありんすが」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)に『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は二人の剣士を分析する。8対2の完全な包囲下にあろうと、真っ向から勝負を挑んでくる敵は戦いを知らぬか、その逆だ。エマは普段通りの柔和な表情を崩さないが、骨の折れる仕事になる事を予感していた。
「互いの死力を尽くしてこその戦。貴様ら羽虫が力及ばずとて我らが手を抜く事はない。安心して、武人として逝くが良い」
「言ってくれんじゃねえか。何が不毀の軍勢だ。自称するのは自由だが、恥ってもんも知るべきじゃないかい? 知らないなら俺が教えてやるぜ」
 『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)の全神経が加速し、臨戦態勢へと移行する。ロングスピアと拳、誰が見てもリーチや殺傷力の差は明らかだ。だが、その闘争のルールは郷田貴道というハウスルールによって覆される。圧倒的クイックネスと無尽蔵のタフネス、そこから算出される規格外の破壊力、この腑抜け野郎にヘビー級のボクシングというものを教えてやろう。悪いが、インターバルすら挟ませないぜ。
「正々堂々なのはいいっスけど、随分とナメられてる気がしないわけでもねぇっス」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はゼイン、ベリオスからの正々堂々な挑戦に苛立ちを覚えている。すっきりするものではない、これは自分たちを下に見ているからこそのフェア・プレー精神だ。葵は僅かに元の世界でのスポーツを思い出す。強豪チームが相手に向ける目線、あれは共にスポーツを楽しむ相手へのリスペクトではない。自分たちが都合よく遊ぶ為の道具にしか思っていないからこそ生まれる余裕、偽善と自信によって濁された憐れみだ。その自信を今晩へし折ってやる。
「ま、ええよええよ。そうやって油断かましてるうちが華ってな」
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)も同様に彼らの自信が気に食わなかった。戦う前から勝ったつもりでいるのだ。こんな典型的な大口叩きが武人を気取っている事は笑えてくるが、どうせ笑うなら差を見せつけてからにしてやろう。そっちの方が面白い。
「ほな、皆さんよろしゅうお願いします。あいつらの鼻っ柱へし折ってやりましょ」

●ダンス・ウィズ・デザートブレード
「アンタ達は朝帰りなんだろ? 夜明け前にここでキッチリ潰してやるよ」
 葵が真っ先に氷の杭を蹴り飛ばす。ベリオスも速かったが、余裕を見せていた側と静かに闘志を燃やしていた側の、覚悟の差がそれを上回る要因となった。先手を取れるなら敵方の先方を潰すまでだ、ゼインは後回しでも構わない。ベリオスは弓を構える彩陽やエマを狙い目と見て突進する気でいたが、自身より速く動いた物体の対処に手を焼いた。
「ホ~ウ、我々の招待に応じただけの事はある。初手から思い切りが良い、合格点をあげたい所だが、速度を出せば良いと言うものではない。お前は自身の速さを過信するあまり、狙いが甘くなっているのだ」
 絶対零度の殺人杭はベリオスの太腿を掠め、頑丈な鎧によって阻まれたかに見えた。
「アンタ程度は十分なんだよ、それで。」
「なっ……!」
 傷ひとつ付いていないはずのベリオスの動きが鈍る。毒かと瞬時に解答を出しかけたが、そうではない。肉体に到達せずとも疾さを奪う致命的な毒、それは冷気である。
「どうした? 想定してない始まり方だったか、卑怯だなんて言うなよ。商売時だからと遠慮してくれる敵ならどれだけ楽だったろうな?」
 出鼻を挫かれたベリオスの前にイズマが対峙する。思うように動けない身体でありながら、並の相手ならば反応できないほどの速度で突きを繰り出す。しかし、この程度ではイズマの想定内に入る。その突きを合図とばかりにカウンターを叩き込み、ベリオスの速度を逆手に取っているかのような巧みな攻勢へと転じる。後の先を取られ、それを好機とばかりに彩陽の穿天明星が飛んでくる。
「ほーん、俺等の狙いくらいは理解しとるんやね。まあ、まともに当たると動けなくなる事くらいは理解って貰わないとこちらも拍子抜けやけど。これを止める事はしないんで、難儀でしょうけどぼちぼち本気出してくれん?」
「クズどもがぁ……!」
 イズマを相手にしながら彩陽の矢を避ける事は至難の業であったが、致命傷だけは避けるように動き、神速の槍は守りに入ったように見えた。

「手間取っているな、ベリオスめ。こちらとしても面倒な男に絡まれているが」
 ゼインは二刀でムサシを斬り裂き、その勢いのまま後転して距離を取る。貴道にムサシ、この2名を前に足を止めて戦うことは愚策だと瞬時に悟った。
「そのような逃げ腰の斬撃などで正義は傷付きはしない! くらえ、ビームバスターッ!!」
 ムサシが追いながら目から光線を放つ。極めて奇怪な光景であるが、執拗に距離を取る相手を追い詰める為に必要な行動だ。
「お前はこの戦場に似つかわしくない、大道芸人にでもなるが良い」
ゼインは足を止めて片手でビームバスターを受け止める。大道芸と評したが、得体の知れない光線を防御する事にはリスクが伴う。事実、ゼインの右腕は損傷が激しかったがそうせざるを得ない状況が迫っていたのだ。
「取ったと思ったんだが、流石に少しはできるようだな。次は斬り捨ててやる」
「このような場所にいたとはな。死合いに臆したかと思っていたぞ、二刀の剣士として貴様を称賛しよう」
 ゼインが左手に持つ剣はルーキスの毒刃を止めていた。ビームバスターを避けていたらこれを貰っていただろう。毒とは敵を仕留める為に、念入りに準備された殺意である。これに関してはゼインと言えども慎重な対応を取る必要があった。
「称賛してる暇はないかもしれないぞ」
「その通り。両手が使い物にならねえボクサーなんぞ三下だ。くたばれ」
 ムサシ、ルーキスに続いて貴道が追い詰める。そして反応させる隙も与えぬ猛攻、ガンマクロスナイフ。
 顔面、顎、腹、肩、そしてお行儀悪く後頭部へと嵐のような乱撃を放つ。破滅的な一撃一撃がゼインの顔を歪ませるが、貴道も同様に自身への負担と、かつての手応えへの乖離を感じ顔を歪ませていた。
(こんなパンチじゃ虫だって殺せねえ。まだだ、まだ俺のガンマは完成品じゃねえ)
「さてさて参りんしょうか」
 ゆるやかにエマが動き出す。影のようにしなやかに、狙うはゼイン。虚無なる蝕みが狙うはその心の臓。
「こ、の……舐めるなカスがーッ!!」
 ゼインは相打ち覚悟のようにエマに刃を突き刺す。冷酷なイクリプスはゼインに深手を負わせたが、それでも動きを止めはしなかった。
「くふふ……それが本性でありんすねぇ……?」
 ルーキスの毒空木を警戒するあまり、とどめの一撃には成り得なかったが全剣王の名を借りるだけの事はある、返礼をエマは受ける事になった。
「良い気になりやがってボケどもが! クソボケどもが寄ってたかって群がったとこで勝てる訳はねえだろ!!」
「おお、物騒な事だ。キミ達はそっちの方が似合ってるよ、ボクが保証する。勝てるかどうかまでは保証しかねるがね」
 距離を取ったエマに代わってラムダが斬り込む。其れなりの剣客を自称するラムダから繰り出される人知を超えた極技。ゼインの首を落とす事に最適化された鋭き剣閃。怒りに任せたゼインの乱撃による防御は速度を増し、ラムダの殺人剣は事を成さなかったが、フィジカルはともあれメンタルの部分では優位に立ったと言える。
「ラムダさん! お気をつけて!」
 ムサシが叫ぶ。何事かとそちらを見れば腕を指差し、ラムダの損傷を伝える。
「……今の攻防で掠ったみたいだね。冷静な敵も嫌だけど、怒り狂った敵も考えものか」
「ブチギレてるとこ悪いけどよ、自身も誇りもさっさと捨てて汚ぇ手でも使った方が良かったんじゃねぇのか?」
 迂闊に接近戦を仕掛けれなくなったと思えば葵が割り込み、フロストバンカーを撃ち込む。咄嗟の判断でベリオスに放ったが、本来の狙いはゼインにある。最強を自負する疾さが、葵に追いついていないのだ。ともすればベリオスに続いてゼインまでもが纏わりつく死の冷気に対応できるはずがない。例え彼らが葵の言う所の汚ぇ手を使った所で、この男はそれを安々と対処しただろう。

 ベリオスにカウンターを取り続けるイズマは俄然として有利な状況下にあるが、それでも変幻自在に動く竜槍をいくつか躱しきれなくなってきている。常人であればもはや精神が破壊され尽くしている程の響奏撃を叩き込んだはずだ。
「あの小僧がゼインを狙うなら好都合、貴様の奇術がいつまでも続くと思うなっ!」
「俺達が生きる領域を土足で踏み荒らすお前達を、俺は許さない。お前達が不毀だと言うのなら俺もこの意志は絶対に揺らぐ事はない!」
 イズマの傷が癒えていく。ベリオスの攻めを無に還すかの如き光、それは善と悪のコントラストを強く引き立てる。ここから竜槍の領域に入ろうとも決して、絶対に退くことはない。
「イズマはんが頑張ってくれとるんで、俺もそろそろ当てな存在意義が怪しいんで。失礼しますわ」
 気怠げに彩陽が弓を構えたかと思うと葵の冷気にも似た。残酷な殺意が外気を冷やす。ベリオスがどのように防御行動を取ろうが、その全てに解答のある確定事項。汎ゆるシーン全てに用意された結末、必中の一矢。ついにベリオスを捉えた。
「ぐあああ!!」
 ベリオスの守りは完璧であったが、槍を貫く破滅的な一撃がそれを無下にした。
「よし、残るはゼインだ。早急に包囲しよう」

「チッ……建物を使い始めたっスね。自意識過剰みたいであんま言うの嫌ッスけど」
「チャンプってのは自信を持つのも仕事だぜ。ユーの冷気をこれ以上喰らいたくないみたいだな」
 ゼインはベリオスがやられると見ると、アルムークの建物を利用した機動戦に切り替えた。それほど複雑な地形ではないが、全ての方角から包囲する事、目標を視認しての射撃が難しくなっている。
「逃げに入った敵なんざ客も沸かねえ、さっさとKOしちまうに限る」
 ムサシが駆ける。アルムークは無人の地となっているが、やはり人々が暮らしていた場所を戦場にする事は許せない。このような状況だから良いものの、普通であればこのまま人質を取られてもおかしくない。これは保安官としてあるまじき失態だ。
「お前は絶対に逃さん! 行けッ! ディフェンダー・ファンネルッ!」
 ムサシの背部ユニットから自律式のビーム射出装置が放たれる。器用にアルムークの建物の隙間を通り、建物に損害を出すことなくゼインへと狙いを定める。ビームバスターよりも出力は落ちるが、保安官とは守るものだ。敵を討つ事に傾倒し、人々の生活を壊しては独りよがりのヒーローも良いとこだ。ゼインを討ち、アルムークを守る。この2つを同時に達成してこそ、宇宙の保安官たる肩書きにふさわしい。
「来たな大道芸人! そして性懲りもなく毒刃のガキがいるんだろうがっ」
「俺を毒だけの男と思って貰っては困るんだ」
 ルーキスはゼインの逃げ込む路地に堂々と立ち塞がっていた。執拗に追い込むディフェンダー・ファンネルを撒けば厄介な男に出くわしたものだ。ゼインには理解っている、この男は卑劣な毒に頼り切った凡愚ではない。保身に走るのであれば弓矢にでも毒を塗り込めば良いのだ、わざわざ刀で戦うというならば、驕りか、技量に裏打ちされた自信のどちらかだ。そしてこの男は後者である。
「この悪趣味な作戦は『全剣王』とやらが考えたのか? ……まぁいい、どうせ語るまい。俺たち剣士はコレで語るしかないからな」
「カッコつけてんじゃねえ! くたばりやがれアホがーッ!!」
 ゼインは力任せに二刀を振り回し、ムサシに追い込まれるようにルーキスに猛進する。
「底が知れたな」
 二刀流は永きに渡る剣術の歴史で最も特異な存在である。実利が怪しまれた失敗作、創作の範囲を出ない不完全な流派を信じ、弛まぬ努力によって磨き上げた幻の暗殺剣。二振りの刀による変化は激しいが、その多くは実用を兼ねず敵の攻を誘い出すものだ。二刀流の使い手が対峙した時、誘いは通用せず純粋な力比べとなる。どれほどに流派が離れていても最終的な決定打、フィニッシュブローは不思議と類似する。
「見せる斬撃の多くは袈裟斬り。上段からの振り下ろしを意識させ、手首による捻りで腹部を狙う形だな」
 ルーキスはそれを難なく躱し、手本を返すように鬼百合を繰り出した。
「楽しんでいるねぇ、ボクも混ぜてもらって良いかな?」
 ルーキスの前にラムダが割り込む。ラムダもまた、ゼインとの交戦に不完全燃焼を起こしている燃えさしなのだ。
「あ、ちょっ……」
 ラムダはお構いなしにゼインへ足を進めると、その見せかけの剣閃を無視し、精確に後の先を突いた。
「これくらいは味わわせてあげないと、咎人狩りとして面目ないからね」
「があああっ! 我らは全剣王に仕える剣士!! それをこんなクソどもが上回るなど認めんぞ!!」
 イズマと貴道が回り込む頃には大勢が決していた。
「良いのか? 最強の伝説の崩壊に立ち会わなくて」
「井の中の蛙もいいところだぜ。足りねえよ、話にならねえ。カスタードクリームみてえな甘さだ、俺はこんな奴らと戦う為に来たわけじゃねえんだ」
 カスタードクリームはさておいて、最強に程遠い存在である事は同感だ、とイズマは一息ついた。この男は人一倍ほど強さや戦いに思い入れがあるようだ、苛立ちをひしと感じた。せめてアルムークの建物に八つ当たりしないでくれれば良いが。
「不毀の軍勢、っすか……。全員が全員この程度なら助かるんすけどね」
 葵によって主導権を握られ続けていたベリオスとゼインであったが、速さ比べというものは僅かな差で取り返しの付かないものとなる。ベリオス以上の能力を持つ者が現れた時はこのようなワンサイドゲームにはならないだろう。気を引き締める必要があるな、と夜明けの近い空を葵は眺めた。
「くふふ、ローレットを呼んだ理由は知りはしぃせんが……相応の理由があってこそなのでありんしょう」
 深い傷を負ったエマは変わらず、穏やかに今回の騒動を振り返る。全剣王やその配下の狙いは未だ理解らない。これが陽動の類でもないのであれば、本当にただの力試し。あの愚かな二人は最期まで最強を疑わなかったが、謎に包まれたその組織の中では尖兵に過ぎないのだろう。そう考える方が自然だとエマは結論づけ、妖しく笑った。

「もっと強く絶望的な相手をしたことがある自分には最強程度では物足りない、であります! かくなる上は! ブレイ・ブレイザー!!」
「ムサシはん」
 ムサシのマフラーが巨大な炎の剣へと変貌していく。勇気の炎に包まれし正義の一撃を、今ここに。
「覚悟しろ悪党! 焔 閃 抜 刀……!」
「ムサシはん、終わったみたいです」
 彩陽が矢を回収しながらムサシに声をかける。勢い良く路地を曲がった頃にはルーキスとラムダが得物についた血を拭き取っていた。突然にして炎の剣を構えたスーパー熱血漢が眼前に現れ、マイペースなラムダでさえ面を喰らってしまった。
「あわっ」
 ラムダらしくない声が出た。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!

ふん、ベリオスは四天王の中でも最弱よ
キヒヒッ 次はオレ、オレっちにやらせて!
あらあら、美味しそうな子たちねぇ……
「5人いるー!」

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