PandoraPartyProject

シナリオ詳細

深夜放送は突然に。或いは、夏残幽鬼ラジオ…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●僕たちは、夏の終わりを、認めない
「まだまだ暑いよね」
 事の始まりは、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の零したそんな独り言だった。
 夏の終わり、秋の始まり。
 河川敷の芝の上に腰を降ろして、エントマは茜色に染まる夕日を眺めている。西の空に太陽が沈む。燃えるような赤色が、川の流れに反射してきらきらと輝いて見える。
 遠くから、夜を知らせる古いチャイムの音がした。もう何十年、使い回しているのだろうか。音はひび割れ、ガサガサだった。
 それから、部活に励む学生たちの掛け声や、子供たちのはしゃぐ声。パトカーのサイレンの音、電車が線路を走る音。夕日に木霊すカラスの鳴き声。そして、秋の風の音。
 世界は音で満ちている。
 気にしなければ、聴こうとしなければ、気づくこともないような雑多でとりとめもない音が世界には溢れかえっている。
 ノスタルジックとは、こういう瞬間を指す言葉だろう。
 エントマは、自立可動式カメラを傍らに置いて、溜め息を零した。
 冬越 弾正(p3p007105)の目には、エントマの後ろ姿は、落ち込んでいる人特有のそれであるかのように見えた。
 夏の終わりと一緒に、どこかに元気を落っことしてしまったかのかもしれない。
「今日が終わる」
 ポツリと零したその言葉は、今日と言う日に満足がいっていないことの査証であろう。
 今日が終わって、少し眠ればあっという間に明日が訪れ……。
 明日もまた、今日と同じ風に“何事も起きないまま”に終わる。
 そのことが不安なのかもしれない。
 実のところ、人生とはいつもそんなもので、何事もなくとも時間ばかりが過ぎていくものなのだが、エントマにはそれが物足りないのだ。
 何も無いまま、時間ばかりが過ぎていくことに漠然とした不安や恐怖を感じているのだ。
 その気持ちは分からないでもない。
 少なくとも、エントマのような定命の者にとって、時間は貴重で有限だ。そんな基調で有限な時間を無為に過ごしたことに対する後悔が、エントマの心を苛んでいるのだろう。
 人には時々、無性に“そんなこと”考えてしまう瞬間が訪れる。放っておけば自然と不安が晴れるというケースもあるし、いつまでも漠然とした不安を引き摺り続けることもある。
 弾正は何を思ったのか、エントマの背後に近づくとその肩へと手を置いた。
「今日はまだ終わらない」
「……え? 終わるでしょ? もう夕方よ?」
「いいや。終わらないんだよ、エントマ殿。俺がまだ終わらせない」
 きょとんとしているエントマに向けてサムズアップのサインを示す。それから、弾正は東の方を指さした。
「ラジオを演ろう。以前にジャックした電波塔がまだ使えるはずだろう?」
 眠らなければ、今日は終わらない。
 静かで、孤独で、退屈な夜の漠然とした寂寥感を晴らしてくれるのは、いつだって深夜のラジオ番組だった。ラジオの電源を入れて、適当にチャンネルを回して、なんとなく耳を傾けるラジオ番組が“1人ではない”ことを教えてくれる。
 “私はここにいる”と電波に乗せて語りかけ、不安だとか恐怖だとか、そういった良くないものを終わらせてくれるのだ。
「何がしたい? 夏の終わり、秋の始まりに放送するべき番組はなんだ?」
「……怪談」
「……なに?」
 何かを思い出したみたいに、エントマは目を見開いた。
 それから、口を開いた彼女は立て板に水を流すがごとく語り始めた。
「怪談だね。怪談が夏の専売特許なんて誰が決めたんだろう。秋にだって、怪談を語っていいはずなのに。っていうか、霊が本当にいるとしてさぁ? 夏だけが活動シーズンみたいに扱われているのっておかしくない? 蚊じゃねぇっつーの」
「……蚊も、今年は今ぐらいの時期から増え始めるらしいが」
 今年の夏も暑かったので。
 蚊というのは、どうにも暑すぎると活動に支障が出る生物であったらしい。
「なーにが“また来年の夏にお会いしましょう”だっつーの。まだやってろよ、怪談番組! なんで夏の終わりと同時に番組まで終わらせてんだっつーの! 冷やし中華じゃないんだぞ!」
「……落ち込んでいた理由は、それなのか?」
 気に入っていた怪談番組が、夏の終わりと同時に終了したらしい。エントマの捲し立てる言葉の中から、どうにか弾正は事の経緯を推測してみせた。
 だが、エントマは止まらない。
「でも、今日を終わらせないってのはいい考えだね? やろうか、ラジオジャック」
 夏の思い出を語ろう。
 怪談を語ろう。
 それから、来る秋の展望を語ろう。
「誰が聴いてるものかは知らないけどさぁ。秋の夜長に、暗い部屋で1人きりでラジオを聴いてる寂しい奴に、夏の終わりを悲しむ奴に、私たちの声を届けてやろうじゃない!」
 得意でしょう?
 そう言われてしまっては。
 “音の精霊種”としては、口が裂けても否定や拒否の言葉は吐けない。

GMコメント

こちらは「電波塔をジャックせよ。或いは、我らは“ボイジャー”…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10146

●ミッション
真夜中ゲリララジオ番組“夏残幽鬼ラジオ”の放送を終える

●企画概要
放棄された電波塔に忍び込み、深夜ラジオ番組を放送する。
ラジオ番組の内容は、怪談を中心したものとなる予定。

●NPC
エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)
練達出身の動画配信者。
夏の間に楽しんでいた「怪談紹介チャンネル」が、夏の終わりと共に放送を終了してしまったことに落胆と憤りを感じている。
曰く「夏の終わりと同時に終わらせてるんじゃない。冷やし中華か」とのこと。

●電波塔
練達、再現性東京の外れにある錆び付いた電波塔。
設備は階段と発電設備、それから最上階にあるオフィスと放送室だけ。
使われなくなって久しい電波塔ではあるが、今なお、電波を飛ばし続けているらしい。
エントマや弾正は以前にも忍び込み、電波ジャックをしたことがある。そのため、放送機器の使い方や侵入ルートは把握できている。
放送室には、古い時代のレコードなどが蓄積されている。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】夏の終わりを認めない
まだ暑いですからね。夏の終わりを認められないあなたは、夏らしいことがしたいと考え、今回の電波ジャック企画に参加しました。

【2】俺が夏を終わらせる
カレンダーを見ろ。夏はもう終わったんだよ。
夏の終わりを認められない者たちに、夏の終わりを告げるため、今回の電波ジャック企画に参加しました。

【3】夏も秋も関係ない
夏とか秋とか、遠い昔の名前も知らないどこかの誰かが勝手に言い出しただけのものです。
楽しけりゃいいんだよ精神で今回の電波ジャック企画に参加しました。


ラジオの時間
ラジオの時間です。
ラジオ放送におけるあなたの役割をご選択ください。

【1】怪談を語る
怪談を語ります。あなたのイチオシの怪談を教えてください。

【2】夏の思い出を語る
リスナーに夏の思い出を語ります。ラジオを聞いている人の心を揺さぶる面白エピソードを期待しています。

【3】秋の展望を語る
時間は進みます。いずれ、秋がやってきます。秋の風物詩と言えば、秋の楽しみと言えば……そんな話をしてあげてください。

【4】裏方に徹する
BGMや放送機器の操作など、ラジオ放送を十全に行うための仕事に従事します。世の中では、やれ「メインパーソナリティー」だの「今日のゲスト」だのが持ち上げられがちな印象ですが、裏方がいなくてはラジオ番組は成立しません。
縁の下の力持ちってやつです。

  • 深夜放送は突然に。或いは、夏残幽鬼ラジオ…。完了
  • 俺の夏は終わらねぇ
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月27日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
冬越 弾正(p3p007105)
終音
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
紲 冥穣(p3p010472)
紲の魔女

リプレイ

●ラジオの時間
「10分前」
 淡々と、呟くような声が聞こえた。
 薄暗く、黴の匂いが立ち込めている放送室。その壁際にまっすぐ立った『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)の声だ。
 それっきり、ホーは言葉を発さない。
 少し前から1分ごとに、ホーは今が放送開始の何分前かを告げている。
 タイムキーパーなのである。
「うぉ、すっげ。本当に時間ピッタリ」
 手元の時計に視線を落としエントマ・ヴィーヴィーは驚愕する。機械で測ったかのように、ぴったり60秒でホーが時間を告げたからだ。
 とけいとホーとを見比べる。
 ホーはまるで人形みたいに、瞬きもせずにじっとしている。
「……これはこれですげぇね」
「眼球が乾燥してしまわないのかな」
棚の影から顔を覗かせ『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がそう言った。
「大丈夫なんじゃない? ねぇ?」
「…………」
 ホーは何も答えない。
 薄い笑みを貼り付けたまま、じぃっとしている。そこだけ時間が止まってしまっているかのようだ。人間であれば、ただじっとしているだけでも心臓の鼓動で胸が上下するものだが、驚くべきことにホーにはそれが無かった。
「これはこれで怪談っぽいな。イズマさん、怪談はお好き?」
「別に俺は怪談は好きでも嫌いでもないが……あのラジオは楽しかったし、またやれるなら乗るよ」
 そう呟いてイズマは棚から1枚のレコードを引っ張り出した。
 ジャケットには、今まさにステージへギターを叩きつけようとする男の写真が載っている。
「なんでその人、ギターを叩きつけてるの? 壊すの?」
「壊すんじゃないかな。大昔にはステージでギターを燃やしたり、歯で弾いたりした人もいたそうだよ。その人は今じゃギターの神様になってる」
「はぁん? すごい人がいt」
「9分前」
「…………」
 放送までの残り時間も長くない。
 エントマは機材の最終チェックへ、イズマはBGMの選定作業へ戻って行った。

 放送開始の5分前。
『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は、放送室の外にいた。非常階段の踊り場から、遠くに見える街の明かりを眺めているのだ。
大地の頭上には、そこらではお目にかかれないほど大きなパラボラアンテナがある。
「おぉ……おぉぉおお」
頭を抱えて呻いている『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)を一瞥し、シャツの襟を指で引っ張り、身体の方へ空気を送る。
「こんなクソ暑い夏ならさっさと終わった方が良くなイ??」
「情緒も感傷もない物言いだな……」
 夏もそろそろ終わりとはいえ、まだまだ暑い日は続く。
 夜になれば涼しい日も増えて来たが、当然、そうじゃない日もある。残念ながら今日の気温は後者の方だ。
 寒暖差で風邪を引きそうだった。
「しびびびびび」
「んで、弾正は何やってんダ?」
「ししししし試験放送の電波がががが」
「…………なるほど」
 悲しい話だが、大地には救えぬものである。
「お大事に。放送までには戻ってくれ」
 電波を受信している弾正をその場に残し、大地は放送室の方へと戻って行った。
 
「3分前」
 ホーの声。
 そろそろ、放送開始の時間だ。
 放送室には幾人分かの人の影。それぞれの手には、簡単な台本がある。
 即席で仕上げたものだが、どうせ今夜はゲリラ的なラジオ放送なのだから、台本なんて少し詰めが甘いぐらいでちょうどいいのだ。
「それじゃ、用意はいい?」
「もちろん。僕が夏を終わらせてあげるよ」
Vサイン。『優しき笑顔』山本 雄斗(p3p009723)が席に着く。
「夏は終わらないよ?」
「いいや、終わるよ」
 一瞬だが、エントマと雄斗の間で火花が散った。夏を終わらせに来た雄斗と、夏を終わらせたくないエントマ。ラジオ放送という“手段”こそ共通しているが、その“目的”には違いがあった。
「2分前」
 ホーの声。
「まぁ、準備できてるならいいや」
 先に視線を逸らしたのはエントマだった。
 PAルームのイズマを見やる。返って来るのはサムズアップのハンドサイン。BGMと音響周りの準備は万全のようである。
 放送室にマイクは2つ。
 まず最初にエントマと大地が、パーソナリティを務める予定になっている。
「1分前」
 放送開始は目前だ。
 と、そこでエントマは「おや?」と何かに気が付いたみたいに首を傾げた。
 弾正、大地、雄斗……放送担当者が1人足りない。
「冥穣さんは?」
 いないのは『紲の魔女』紲 冥穣(p3p010472)だ。冥穣の巨躯は良く目立つのだが、そう言えば暫く前から姿が見えない。
 手洗いにでも行っているのかと思ったが、それにしては帰って来るのが遅すぎる。
「本番10(とう)秒前……8、7、6、5秒前、4、3……」
「今更探している暇は無いか」
 エントマが手元のレバーに手をかける。
「2、1……本番スタート」
 ホーの合図に従って、レバーを倒した。
 マイクのスイッチがOnに入る。
 本番放送開始。
 と、その時だ。
「いやあぁっぁあっぁああああああああああ!!」
 放送室に冥穣の絶叫が木霊した。

 放送開始直前にまで時間は戻る。
 放送室の扉に手をかけた冥穣は、血の気が下がる音を聞いた。
 下がったのは冥穣の血だ。
 一瞬。
 ほんの一瞬、冥穣の足首に何かが触れた。ぬるりとした冷たい感触。まるで蛇か何かのような……それから、視界の端に消える白い影。
 見間違いだろうか。
 否。
 そうではない。
 冥穣の目は、確かに暗闇に浮かぶ白い影を補足した。
「な……に?」
 心臓の鼓動が速くなる。
 心臓の音がうるさい。1度は下がった血の気だったが、今は急速に身体中を駆け巡る。
 どろどろとした不安の混じった血液が。
 血管を通して、冥穣の脳に送り込まれる。
「5秒前、4、3……」
 ホーのカウントが始まった。
 放送開始まで時間が無い。今は、白い影になんて気を回している暇はない。
 冥穣が扉を開ける。
 瞬間、ぬるりと。
 冥穣の首に何かが触れて……。
「いやあぁっぁあっぁああああああああああ!!」
 悲鳴を上げる。
 奇しくも冥穣の上げた悲鳴が、オープニングの合図となった。

「やり過ぎましたの」
悲鳴を上げて放送室へ転がり込んで行く冥穣の背中を見送り、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062はそう呟いた。
 その頬には汗が一筋伝っている。

●夏残幽鬼ラジオ
「こんばんは。夏を終わらせたくないあなたに送る、夏残幽鬼ラジオの時間です」
 悲鳴と共にはじまった、放送予定にないラジオ。
 それから、先ほどの悲鳴なんてまるで気のせいだったかのように、淡々とした女性の声が紡がれる。
「夏が終わるのは悲しいことです。誰だって、夏の終わりを認めたくないものですよね。皆だって、昔はそうだったでしょう? 子供のころは喉から手が出るほどに8月32日を渇望していたことでしょう?」
 夏の終わりは訪れる。
 望もうと、望むまいと、誰にだって平等に夏の終わりは訪れる。始まりがあれば終わりがあるのだ、何事にも。
「だから、今夜は夏を終わらせないために、少しだけ夏を語ろうと思うよ」
 けれど、夏は終わる。
 エントマだって、その現実を知っている。
「でも、その後は秋の話をしよう。あぁ、夏が終わるんだって、誰にだって理解できるように。自分たちの心に“夏が終わったんだ”って現実を突きつけるために」
 季節は巡る。
 今年の夏が終わったのなら、来年まで待てばいい。
 夏には冬が、冬には夏が懐かしくなるものなのだから。
「まぁ、色んなことのあった夏だよ。大地さんはどうだった?」
 ラジオのパーソナリティは、エントマ1人では無いらしい。
 そうだな、と囁くような男の声。
「先日、再現性国分寺のとある踏切で事故があったのを知っているか? 犬が突然踏切に飛び込み、列車に跳ねられたという悲しい事故だ」
 ひゅぅ、と風の吹くようなSEが流れた。
 ひとつ、呼吸を挟んで大地は話を続ける。
「飼主はなぜ犬が飛び込んだのか分からなかったそうだ」
 偶然だろうか。
 そもそも、犬や猫と言うのは事故に遭いやすい。獣としての本能が、動いている物体を追いかけさせるせいである。
 今回も、そう言った獣の本能による不幸な事故だったのか。
 否だ。
 断じて否である。
「その話を聞いて、俺は思い出したんだ。そう言えば以前からその踏切では事故が多発していたと。犬や猫、それから人も……よく事故が起きていたことを」
 ふぅ、と吐息を零す音。
「そこの踏切脇には植え込みがあってな。犬が植え込みに首をつっこんで、何か食べている光景をよく見かけるよ」
 大地は語る。
 流れていたBGMにノイズが混じる。
 意図したものか。それとも、電波の乱れによるものか。
「事故の多発する踏切で。その脇の植え込みで……犬や猫は、一体何を食べていたんだろうな?」
 ブツン、と。
 ラジオの音が途絶えて、耳障りなノイズが走る。

「失礼しました。髮サ豕「の乱れが発生しました」
 男の声が耳朶を震わす。
 特徴の無い男性の声。抑揚のない、まるで機械で作った合成音声のような声である。耳に馴染まない、数分もすればすっかり忘れてしまいそうな声である。
 それから、軽快なBGMが流れ始めた。
「失礼、機材が古いものでな。少し電波が乱れたようだ」
 咳払いを1つ。
 次に話し始めたのは、落ち着いた低い声の男性だった。ラジオのパーソナリティか、或いは声に関する仕事に慣れているのか。
 上ずった様子もなく、一定の聞き取りやすいリズムで言葉を発している。
「ここからはこの俺、冬越 弾正と」
「山本 雄斗がパーソナリティを務めるよ」
 それから、もう1人のパーソナリティはまだ年若い少年のようだ。
 いかにも快活とした語り口。
 声の調子から、夏を満喫したことがラジオを聴いているリスナーたちにもよく伝わる。
「知ってるかな? 夏は楽しいけど学術的に夏がくなると秋や春が短くなるんだって」
 雄斗は語る。
 知識を披露することへの優越感や、ラジオパーソナリティーを務めることへの楽しさが、雄斗の声には滲んでいた。
「だから、早く切り替えなきゃね」
「まぁ、ここ暫くの間は秋がどんどん短くなっている気配があるな」
 正確に言うと、秋と春が短いのだ。
 暑い期間が少しずつ長くなっているのである。
 所謂、温暖化と言うやつだ。
「でも、楽しみだよね。秋は体育祭、マジ卍祭りに紅葉とかやること多いから」
 弾んだ声で雄斗は言った。
 話す内容から察するに、やはり彼は学生のようだ。
「いつまでも夏じゃいられないよ」
「夏も悪くはないのだがな。あぁ、だが……」
「うん?」
「いや、実はな。俺は学校で教師をやっているのだが、夏休みの間は、他の先生方との交流が深くなる」
 雄斗のような学生たちの知らない話だ。
 教師とはいえ1人の人間である。当然、教師には教師の、大人としてのプライベートの時間があってしかるべきだ。
「いつも冷たそうな印象の古文の先生が、仕事終わりの居酒屋で“生徒と会えなくて寂しい”と泣き出してな」
 笑いの滲んだ声である。
 だが、決して侮蔑や嘲笑の類ではない。
 知らない一面が見られて嬉しかったと、そう言う意図の滲んだ声だ。
「そっか。学校で忙しくなると、その分、先生たちのプライベートな時間は短くなってしまうね」
 ただでさえ、秋はイベントが目白押しなのだ。
 体育大会、文化祭、修学旅行に紅葉狩り……学校によっては、秋の季節に山登りなど行うところもあるだろう。
「あぁ。それが惜しいような……そうで無いような。いかんな。切り替えていかないと」
 夏の終わりは悲しいが、いつまでも夏休み気分じゃいられない。

 コンソールに指を走らせる。
 マイクのスイッチがOffになったのを確認し、イズマはレコードの再生ボタンを押した。
 ジングルが流れ、そのまま1曲、懐かしの楽曲を流す時間だ。
 これで放送内容は半分。
「えっと、次は……っ!?」
 キューシートに手を伸ばし、その瞬間にイズマは息を飲みこんだ。
 よく悲鳴を零さなかったものである。
 イズマの手元、PAブースの操作盤から人の顔が浮いていた。
「うわっ! 何それ!?」
 放送室から退出して来た雄斗が驚いた声をあげる。
 びっくりし過ぎて、後から出て来た弾正の腹に雄斗の肘が突き刺さる。
 ゆっくりと、操作盤から顔を覗かす少女の顔がぐるりと雄斗の方を向く。
「……ノリアさん、か?」
「え? ノリアさ……あ、本当だ。幽霊かと思った」
 操作盤から顔を覗かせている白い顔は、ノリアのものだ。
 腹を押さえる弾正をその場に放置して、雄斗が操作盤へ駆け寄って来た。
 そっと、ノリアの方へと手を伸ばす雄斗。その手を避けて、ノリアは再びイズマの方へ視線を向けた。
「幽霊の、正体見たり……ノリアさん、ですの」
 少しだけ、ノリアは笑ったようだ。
 顔の半分が操作盤に埋もれているので、笑顔はちゃんと見えないけれど。
「この曲は?」
「あ、あぁ……古い曲でね。少年と竜の友情の歌だ」
 残念ながら、ボーカルの女性は早くに亡くなってしまったが。
 亡くなっても、後の世に残るものがある。
 今もなお歌い継がれるこの曲は、確かに名曲と呼ばれるにふさわしいものだ。
「そう……いい曲、ですの」
 そう言い残し、ノリアは再び操作盤へと沈んで行った。
「……なんだったの?」
 ノリアの姿がすっかり見えなくなるまで見送り、雄斗は首を傾げて見せた。
「曲の終わりまであと40秒」
 ホーの声。
 再生時間の表示も無いのに、正確に曲の残り時間を言い当てた。
 ノリアの意図も分からないまま、そろそろラジオが再会される。

●夏の終わり
「秋の味覚のコーナーでっす!」
 パーソナリティは、再びエントマへ戻ったようだ。
 パン、と手の平を打ち鳴らす音をマイクが拾った。
「やっぱり秋は食欲の秋よね!」
 相槌を打つのは冥穣だ。
 夏を終わらせると言うのなら、せめて秋に希望があると語らなければならないのである。
 それが、夏を終わらせる者の役目だ。
 
 冥穣はよくしゃべる。
 ケラケラとした笑い声を交えながら、いかにも社交的な調子で流れるように言葉を話す。
 その様子を放送室の外から眺め、ホーは「おや?」と首を傾げた。
「うちの孫達も食欲旺盛で果物とか秋刀魚とかいーっぱい食べるのよ!」
 明るい人柄の人物であるように見える。
 社交的な人物であるように見える。
 けれど、しかし……。
「何やら陰鬱な気配が」
 時折。
 ほんの一瞬、その瞳にはほの暗い影が宿るのだ。
「ははぁ?」
 冥穣には隠し事がある。
 例えば、自身の本性とか、そう言うものを笑顔という名の仮面の下に隠している者特有の、ジワリと香る陰の気配を感じずにはいられなかった。

 まさに立て板に水である。
 饒舌に噴き出すマグマのように勢いよく、熱く、止まることない冥穣の言葉を聞きながら、エントマは“それ”に気が付いた。
 冥穣の背後。
 防音加工の施されている壁の中から、白い影がぬるりと姿を現したのだ。
 白い影……ノリアは、口元に指を押し当て「静かに」と言う合図をエントマへと送った。
 そーっと。
 空中を泳ぐようにして、足音の1つも立てずにノリアは冥穣の背後へと近づいていく。
 その小さな手をそーっと伸ばして……。
「みんなの味覚の秋といえば何かしら? アタシ? アタシは柿かしらね〜。小さい頃の話なんだけど、干している柿がどうしても食べたくってね~」
 その首筋にノリアの細い指がかかった。
 気づかないまま、冥穣は言葉を続けている。
 エントマは音響室へ視線を向けた。
 3人……イズマと雄斗、弾正からサムズアップが返って来る。
「じゃぁ、ま、いっか」
「干してる柿って渋いのよ。アタシ、それを知らなくって……って、あら? 何か言った、エントマちゃん?」
「いやぁ。どうぞお話を続けて?」
「そう? それじゃ……」
 ピタリ、と。
 ノリアの手が、冥穣の首筋に触れる。
 それから、ふぅ、と。
 ノリアが吐息を、冥穣の耳に吹きかけて……。
「ん……ぎゃぁぁぁぁああああああああ!!」
 冥穣は再び絶叫を上げた。
 瞬間、エントマは冥穣のマイクをOffにする。
「というわけで! 今宵の夏残幽鬼ラジオはここまで! 次は秋の終わりごろに逢いましょう!」
 流れ始める陽気なジングル。
 放送室に木霊す絶叫。
 混沌のうちに、夏残幽鬼ラジオは終わりを迎えた。
 
 後日、再現性東京で1つの都市伝説が実しやかに広まり始めた。
 夏残幽鬼ラジオ。
 曰く、この世に未練を残して死んだ者たちが、真夜中に送るラジオ番組であるらしい。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
夏残幽鬼ラジオはこれでおしまい。
そして、今年の夏も終わりです。

皆さん、また来年の夏にお会いしましょう。

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