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シナリオ詳細

ホーンテッドなホテルに泊まろう。或いは、99の騒がしい者たち…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ようこそ
「ようこそおいでくださったね! 今日からここが君たちの職場だ!」
 深夜2時過ぎ。
 海洋のとある港の廃村に、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の声が木霊す。
 海から流れて来る、潮の香りの混じった霧が立ち込めている寂れた港の村である。何度か津波に飲まれたのだろう。立ち並ぶ家屋のほとんどは、元の形を保っていない。
 浸水の被害に遭っていないのはただ1つ。
 村の入り口近くに儲けられたホテルだけだ。元々は、外部からの来客を泊めておくための場所だったのだろう。3階建ての大きなホテルだ。
 1階にはエントランスホールに食堂、図書室、談話室。
 2階には客間がずらりと並ぶ。
 3階には物置や屋根裏部屋があるらしいが、そこへ至る階段は発見されていない。
 そして、ホテルの表と裏には広い庭。噴水や花壇が存在するが、全く手入れはされておらず、今やすっかり荒れ果てている。
 以上のような情報を、朗々とエントマが語る。
 それから、1つ頷いて、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「さぁさぁ、好きな場所に赴いちゃってよ! 今のところ、このホテルは誰の所有物でも無いわけだからさ! どこもかしこも、自由に歩いて、見ていいんだよ!」
 ホテルの門の前に立ち、エントマが声を張り上げる。
 エントマの前には、数人の人影。彼女が呼び集めたイレギュラーズたちである。
 真夜中に呼び出されたかと思えば、廃墟のホテルに立ち入れと言う。
 どう考えても、怪しいのである。
 イレギュラーズたちは顔を見合わせた。誰も言葉に出さないが、目は口ほどに物を言っている。「どうする?」と、アイコンタクトで意思の疎通が成っている。
 結局、誰も動かない。
 けれど、しかし……。
 暫くの沈黙の後、ギィと錆び付いた音を鳴らして重厚な鉄の門が開いた。冷たい夜の風が吹き、門から庭へ、白い霧が流れ込む。
 誰も門に触れてはいない。
 門の内側にも、人の影は無い。
「ほら! おいでって言ってる!」
 誰もいないし、何も言ってはいなけれど。
 エントマには、果たして何が聴こえたのだろうか。
「なに、怖いことなんて何もないんだよ? ただ、すこぉしだけ、ホテルの内装とか設備だとかを視察してほしいだけなんだから」

●99
 村から人が消え失せてから、もう10年は経過している。
 かつての村は津波に飲まれるリスクもあって使えないが、ホテルや、その周辺の小高い土地であれば十分に人が住むこともできるのだ。
 それゆえの村おこし。
 或いは、観光地化を画策し、エントマは行動を開始した。
 それが今回の経緯である。

 さて、ここから先は内緒の話だ。
 知っているのは、エントマと、それからごく一部のイレギュラーズのみである。
「表向きはね、村は津波のせいで滅んだってことになってるんだけどさ」
 薄暗い部屋。
 蝋燭の明かりだけを頼りに、エントマは壁にかかった絵画に視線を向けた。
 9枚の絵画。
 それぞれ、違う女性が描かれている。衣服のデザインの違いから、それぞれ違う時代に描かれた絵画であることが分かる。
 だが、どの女性の膝の上にも同じ柄の猫がいた。
 額にひし形模様のある白い猫だ。
「彼女たちも、まだ居るんでしょうね」
 独り言だろうか。
 絵画を眺めて、言葉を零す。
 咳ばらいを1つ。エントマはあなたの方を向き直った。
「さて、話を戻そっか。実はね、村が滅び去ったのは津波のせいだけじゃないのさ」
 そう言ってエントマは壁にかかった蝋燭を手に取った。
 ふぅ、と火に吐息を吹きかけ明かりを揺らす。壁に伸びたエントマの影が、踊っているみたいにゆらゆらと揺れた。
「出るんだよね。幽霊が。この村……っていうか、ホテルには公式に99体の霊が憑いているんだって」
 霊なんて存在は、人によって“居る”か“居ないか”で議論が分かれるものである。ところが、このホテルの場合は少し違う。
 公式に「99の霊が憑いている」ことが認められているというのだ。
「霊たちはいつだって退屈してるのさ。だから、人を脅かしたり、襲ったりするんだよ」
 そこでエントマは考えた。
 霊が憑いていると言うのなら。
 そして、霊を何処かへ追いやることが出来ないのなら。
「いっそのこと、霊に協力してもらえばいいんじゃないかって。時々、人を連れて来るから、滅多やたらに脅かさないでって」
 なお、少しだけ驚かす程度であれば、それはもう“不幸な事故”の範疇だろうと、エントマは語る。
 
 かくして、エントマは数人のイレギュラーズを廃墟ホテルに呼び出した。
 そのうち半数には「観光地化のために、霊の協力を取り付けること」を。
 もう半数には「観光地化のために、ホテルの安全確認」を。
 それぞれ、依頼しているのである。
 もっとも、後者のグループは、つまるところ“生贄”だ。
 退屈している霊たちが、脅かして遊ぶための“生贄”……或いは、エントマから霊たちへ向けたご機嫌取りのお土産なのである。

GMコメント

●ミッション
廃墟ホテルの安全を確認&確保する

●設定
参加者一覧の左列と右列で、事前にエントマから知らされている情報が異なります。
左列:ホテルに99の霊が居ることを知っており、霊との交渉を依頼されています。
右列:ホテルはただの廃墟であると伝えられています。安全確認を依頼されています。

●フィールド
海洋。港の廃村の外れにある洋館です。
かつては来客を泊めるためのホテルとして運営されていました。
1階:エントランスホールに食堂、図書室、談話室。
2階:客間がずらりと並ぶ。1号室~13号室まで存在する。
3階:物置や屋根裏部屋があるらしいが、そこへ至る階段は発見されていない。
ホテル(表庭):噴水や花壇、薔薇園などが存在する。手入れされておらず、雑草だらけ。
ホテル(裏庭):花壇や馬小屋、納屋などがある。手入れされておらず、雑草だらけ。

●その他
マジで99体分の霊を設定しました。大変でした。
特定の条件が揃わないと出て来ない霊も存在します。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ホーンテッドなホテルに泊まろう。或いは、99の騒がしい者たち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ジュジュ(p3p010010)
夜に這う
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●ホーンテッドなホテルへようこそ
 団子、お茶、チョコレートと、それからサンドイッチ。
 キッチンのテーブルに並べられていく食糧を見て、エントマは目を丸くしている。
「あの、それは?」
「皆が……お腹がすいた時のために、軽食……持ってきたよ」
 オーブンを覗き込みながら、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はそう言った。耐熱ガラス越しの熱が辛いのか、その眉間にはぎゅっと皺が寄っている。
 クッキーだ。
 廃墟ホテルのキッチンで、レインはクッキーを焼いているのだ。
「調べるの……体力勝負だから……甘い物が多くなっちゃったけど」
「はぁ……まぁ、いいけどね。いいけど、いいのかな?」
 うぅん、と唸ったエントマは視線をキッチンの隅へと向ける。金属製の巨大なゴミ箱からは、どうにも人の手の骨らしきものが覗いているからだ。
 ゴミ箱の中に詰め込まれていた人骨は4つ。№1、2、3、5と番号が振られているのが見える。№4だけいないのはどういうことなのか。
「安全……よし……」
 レインは焼き上がったクッキーを皿に盛り付け、食堂のテーブルへと移す。
「よし……かなぁ?」

 2階の廊下を歩いているのは、『夜に這う』ジュジュ(p3p010010)と『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の2人である。
「へぇ…立派なホテルだ、ね……? ……なのか?」 
「いやぁ、でも廃墟ですよ?」
 赤い絨毯の敷かれた廊下を2人は進む。長く使われていないホテルの割には、床板や壁はしっかりしている。
 埃が積もっているだけで、足元が抜けるような不安はどこにもなかった。
「なんだってまたそんなとこの安全を確保したいんですかねぇ?」
 そう呟いて、ベークはピタリと足を止める。キィキィと、廊下の奥から何かの軋む音がしたのだ。
 じぃ、と暗がりを見つめる2人。
 そのうち、キィキィと言う音は次第に大きくなっていき……果たして、廊下の奥の方から三輪車に乗った幼い少年が現れた。
「観光地になります? ここ」
 少年の顔は影になっていて見えない。
 戦闘態勢を取るベークとジュジュ。だが、少年の姿はすぐに空気に溶けるようにして消えていく。
 そして、やがて……。

『ふざけんじゃねぇ!』
『何十年経っても、てめぇとは話が合わねぇな!』
『ちくしょうめ! 今度こそ殺してやるぞ!』
『脳味噌入ってんのかおめぇ! もう死んでんだろうが!』
 
「……な、なんです? やっぱり、なんかいますよね、多分」
 廊下の奥から男たちの怒鳴り合う声。
 次々と怒る怪奇現象に、やはりとベークは確信した。
 やはり、このホテルには何か憑いている。
「あぁ、うん」
 一方、ジュジュは気のない返事。
 三輪車の少年にも、怒鳴り合う男たちの声にも、驚いたような様子は無い。
(そういえば交渉って、何をしたらいいのかな。言葉のやりとりはあんまり得意じゃないかも)
 ジュジュの方は、このホテルに憑いている“何か”の存在を、事前に知らされているからだ。

 ギィ、と軋んだ音がした。
 2階の奥の客室である。ドアノブに手をかけた姿勢のまま、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は難しい顔をした。
「ここを再びホテルにするのか。面白そうだが大変そうでもあるな」
 超番が錆び付いているのか。ドアが開かないのである。
 イズマが頼まれたのはホテルの安全確認だ。ドアが開かないからといって無理矢理壊してまで室内を確認する必要はない。
 だが、一応と目に意識を集中させてドアを凝視した。
 ドアを透視し、室内の様子を確認するためだ。
 それが、間違いだった。
「っ……!?」
 イズマの視界に跳びこんだのは“赤色”だった。
 真っ赤に充血した女の瞳。扉越しに、若い女がイズマを睨んでいたのである。

 ホテルには99体の霊がいる。
「99体……多いな。まるで集めてきて詰め込んだような密度だ」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が先ほど見かけた科学者らしき男性も、きっと霊だったのだろう。
 談話室の隅に座って、虚空に向かって独り言を呟いていた。関わりたくないと思って、話しかけることはしなかったけれど、どうやらアレは比較的マシな部類の霊であったらしい。
「コンプリート目指すわけではないが……なるべく多くの霊へ協力の交渉を行いたいんだが」
 剣を構えた。
 アーマデルの傍を、数人の男女が……男女の霊が駆け抜けていく。怯えた顔をして、前進から血を流し、何かから逃げているように。
 逃げ惑う霊の中には、アーマデルが連れて来た“酒蔵の聖女”も混じっている。
「お前、会話は成立するか?」
 廊下の向こうの暗がりに1人の男が立っている。
 ぼんやりとした顔をして、血塗れの斧を片手に下げた男の霊だ。

「そこの御仁。いい絵は描けているか?」
 1階廊下の窓から身体を乗り出して、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が裏庭を覗き込んでいる。
 ベルナルドが声をかけたのは、裏庭にいた1人の画家だ。どうやら、樹に吊るされている骸骨をスケッチしているらしい。
 骸骨には№4と番号が記されていた。首に縄をかけられているのが気にかかる。
「このホテルには9枚の肖像画があるそうだが、どこにあるか知らないか?」
 画家に向かって、ベルナルドは再度、質問を重ねた。
 けれど、画家からの返答は無い。
 一心不乱に、釣られた骸骨をスケッチし続けているようだ。よくよく見れば、画家の耳には包帯が巻き付けられている。
 もしかすると、彼は耳が聞こえないのかもしれない。
「まぁ、集中を乱しては悪いか」
 あの画家は自分と同じように、古い建築物に惹かれてホテルを訪れた口なのだろう。
 そう結論付けて、ベルナルドは窓を閉めて、歩き始める。
「それにしても、エントマもいい仕事を持ってきてくれたじゃないか」
 結局、彼は最後まで気が付かなかった。
 画家の足元が、半透明に透けていることに。

 虚空を炎が飛んでいる。
 人魂と言う奴だ。ふらりふらりと揺れながら、『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)と『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)を導くように飛んでいるのだ。
 話しかけても返答は無い。
 だが、ずっと、ホテルの門を潜ってからここまでの間、2人の傍から離れない。
「魂だけになっても、この場所がそれだけお好きやのね。庭も、今は荒れてしもてるけど、お手入れしたらきっと綺麗になるわ」
 そう言って蜻蛉は視線を中庭の噴水へと向けた。
 そうしながら、蜻蛉はひょいと何かを踏み越えるような仕草をした。無意識のうちの行動だろう。蜻蛉は、今しがた自分の足元を通り過ぎた何かに気付いていない。
「でも、お客さんによってはそういう類のものが好きな人もいてますし、うまいこと行くかも? っとと」
 何かを踏み越えた拍子に、蜻蛉が姿勢を崩した。
「おっと。足元に気を付けろよ」
 縁はそれを抱き留めて、何かを追い払うように虚空を蹴った。
「ありがとねぇ。さて……と、言うても“お化け屋敷”みたいには行かへんやろし。うちも、似たようなもんやけど」
 暗闇の中に目を凝らす。
 首の無い騎士がいた。
 薔薇園の薔薇が蠢いているのが視界に映る。
「お前さんが幽霊と似たようなモンだって言うんなら、俺は取り憑かれてるってことになるのかねぇ」
 ポツリ、と。
 縁が零した呟きを、蜻蛉の耳はしかと拾った。
「はい?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて問い返す。
 バツが悪いというように、縁はふいと視線を逸らした。
「……なんでもねぇよ。迂闊にそんなこと言ったら、奴さん方が気に入って、連れて行かれちまうかもしれねぇぞ?」
 そうしながら、縁は片手で蜻蛉の肩を抱き寄せた。
 空いている右手は、腰に下げた刀へと伸ばす。
 縁の見据える先……噴水から、船乗りのような恰好をした男の霊が這い出して来た。全身がびっしょりと濡れた男が、口をぱくぱくさせながら縁の方へにじり寄る。
「……そないに困ったお顔せんでも、んふふ」
 さらに、もう1体。
 薔薇園のぼうぼうに伸びた薔薇の枝の間から、赤い髪の女が顔を覗かせる。薔薇の樹と体が融合してしまっているのか。腕や脚が、変な場所から突き出ている。
 歪な姿の霊である。
 半ばほど、精霊か何かに成りかけている。
「こいつら、会話が成立するのかね?」

●ホテルを歩こう
 食堂の隅、クッキーを頬張る2人の男の姿があった。
『さっきの奴、怖がらなかったな』
 1人はぶくぶくに太った男。
『あぁ。俺らに気付いてたとは思うけど、もしかして霊だと思わなかったのかな?』
 もう1人は、ガリガリに痩せ細った男だ。
 
 まずはテーブルを手で押して、次に床を軽く踏み込み、最後に椅子に腰かける。
「安全確認……よし」
 1つひとつ丁寧に、談話室の設備を確認したレインが次に向かったのは図書館だった。
 黴とインクの匂いが充満している。
 淀んだ空気。暗闇の中、机に向かって一心不乱に読書にふける女が1人。
「ひぇっ……」
「目……悪くなる……よ?」
 怯えた様子のエントマと、女の視力を案じるレイン。
 だが、女はよほどに読書に集中しているのだろう。レインの声に耳を貸す様子は無かった。
「? ……まぁ、いいか」
「え。いいの?」
「お仕事優先……壊れてるところ……ないかな」
 そう呟いて、レインは図書室の奥へと向かった。

 斬撃が、男の胸部を斬り裂いた。
「驚かすぐらいならいいが、危害は加えるなよ。それと、殺しにかかるなら相手を選べ」
 胸を押さえて呻く男の霊に向かってアーマデルはそう告げた。
 男は斧を手に取って、苦虫を噛み潰したような顔をする。彼我の実力差を理解したのだ。
 そのまま、すぅっと姿を消して……。
「そこにいるのはアーマデルさんか?」
 代わりに、イズマが廊下の角から顔を覗かす。剣を仕舞うアーマデルを見て、訝し気な顔をしている。
「この辺りを調べていたんだな。3階にも行きたいんだが、何か見つけたか?」
「3階か……折り畳み階段という形で設置されているかもしれない」
 階段の方へ目を向けて、アーマデルはそう言った。

 隠し階段を発見し、アーマデルとイズマは3階の物置倉庫に登る。
 黴と埃の匂いが充満した暗い部屋だ。
 そこかしこに、木箱に入った荷物が放置されている。
「あれは……門のようだな」
 暗がりに目を凝らし、アーマデルは呟いた。
 トン、トン、トンと人の足音も聴こえている。アーマデルとイズマの他にも、3階には誰かがいる気配がした。
「暗いな。これじゃ何も調べられない」
「あぁ。光るか。イズマは光れるか?」
「もちろん。光ろう」
 調査のために、2人は光ることにした。
 イズマは全身から光を放ち、アーマデルはその背中に光を背負う。真っ暗だった暗い部屋に、真白い光が満ち溢れる。
 瞬間、部屋の隅で何かが瞬いた。
 煌々とした光を放つ人の影が、部屋の隅に転がっている。
「こういう趣向か」
 そこにあったのは遺体であった。
 全身を光る茸に覆い尽くされた、渇いた男の遺体である。
 ヤタラトヒカルダケに寄生され、全身の養分を吸い尽くされた哀れな遺体だ。すっかり渇いて、もはや元の人相さえも判然としない。
「動じていないな? え、ただの廃墟を念の為に安全確認する依頼だよな? あれ?」
「そう驚くな。驚き過ぎると人は死ぬからな」
「平然としている方が怖いんだが?」
 遺体に近寄るアーマデルの後ろ姿を、イズマは少し不気味そうに見つめていた。

「とはいえ古い建物だしな……しっかり調べておかないと、死体なんかうっかり見つけた日には大変だ」
 地下へ向かう階段を降りながら、ベルナルドはそう言った。
 それから、暫く階段を降りると大きな扉の前に辿り着く。
「うん?」
 扉の向こうで声がしている。
 女の声だ。それも1人や2人じゃない。
 ノックを数回。
『あら? どなたかしら?』
『どうぞお入りになって?』
 
 部屋の中にいたのは、9人の女性。
 それぞれ、アリソン、メリー、ポピー、カルメン、ハナ、ナオミ、キャンベル、サッチャー、ジーンと名乗った。9人の背後に飾られている女性たちの肖像画と同じ名前、同じ顔だ。
「どういうことだ? 貴女たちは、もう死んでいるはずじゃ……?」
 女性たちの顔と、肖像画とを見比べてベルナルドは目を丸くする。その背中には、冷たい汗が伝っていた。
 心臓の鼓動が速くなる。
『そうかもしれないし、そうじゃないかも?』
『絵具の匂い。貴方、画家の方?』
『懐かしいわね。昔、ここで絵を描いてもらったことを思い出すわ』
 そう言って女性たちは笑い合う。
 どこか懐かしそうな目をしている。
 その眼差しに、ベルナルドは魅入られた。
「嗚呼、なんだ……生きてようと、死んでようと構わないじゃないか」
 気づけば勝手に、唇が言葉を吐き出していた。
「建物だけ描くんじゃ物足りなくなってきちまった。俺も何か人物を描きたくなった。よければ、貴女たちを描かせてくれないか?」
 そう言って、ベルナルドは画材を取り出す。
 女性たちは、嬉しそうに微笑んだ。
 それから、ポツリと……。
『あの子は今も、どこかで生きているのかしらね?』
 なんて。
 そんな言葉を口にした。

●99体
 ジュジュは猫を追っていた。
 額にひし形の模様がある白い猫である。
「猫の墓? 名前が9つ並んでいるけど……」
 苔むした墓標に手を這わせ、ジュジュは「おや?」と首を傾げた。さっきまでそこにいた白猫は、いつの間にか消えている。
『その猫は9回生きて、9回死んだのである』
 首を傾げるジュジュの背中に声がかけられる。
 ジュジュが背後を振り向くと、そこには首が落ちていた。
『失礼。吾輩、ポリドール卿と申す者である』

『ふむ? つまり、貴殿らはこのホテルを再利用するおつもりと?』
「ああ、そうだ……時々、人を連れて来るから、滅多やたらに脅かさないで」
 首に向かって語り掛けているのはジュジュだ。
 男の生首……立派な口ひげを生やした、厳めしい顔つきの男である……は、ジュジュの話を聞き終えると、うぅむ、と難しい顔をした。
『そうはいっても、吾輩、首だけであるからして……体の方も、影の方も、すっかり言う事を聞いてくれんのだ』
「はぁ……つまり?」
『首や影は、勝手に驚かしにかかるのではないかな? ほら、あのように』
 そう言って騎士の首はホテルの方へ目を向ける。
 2階の廊下に人影が見えた。それはどうやら、ベークの影だ。
「あぁ。あの人は……別に脅かしていいよ」

 黒い騎士が剣を振るう。
 斬られる寸前でそれを回避し、ベークが床を転がった。
「うーん。ちょっと困っちゃいますねぇ……いや困ったってやんなきゃいけないんでどうにかするんですが」
 騎士である。
 どうにも、生きている者の気配がしない。
 古い廃墟のホテルであるので、霊の1体か2体はいると思っていたが、まさかこれほど危険で見境のない霊が彷徨っているとは予想外である。
 騎士はがむしゃらに剣を振るう。
 ベークはそれを回避して、時には腕で受け止める。
「おっと!」
 大上段から振り下ろされた斬撃を、たい焼きの姿に変わることで回避した。
 黒い騎士が舌打ちを零した気配がする。
 それから、騎士は剣を横に薙ぎ払う。まるで、魚を3枚におろそうとしているかのような斬撃であった。
「食料じゃないです」
 ベークの頬を冷や汗が伝う。
 少しだけ、焦った様子を見せながらベークは階段に向かって走る。
「他の人は大丈夫ですかね? あーもー、せめて無事に帰れればいいんですが」
 無事に帰還で来たなら、エントマには「計画中止」を進言しよう。
 背に斬撃を浴びながら、ベークはそう決意した。

 霊とはいえ、そのほとんどは元々“人”だ。
 人であるなら、会話も成立するのが道理だ。
「今日は冷やかしで来たわけやないの、折り入ってお願いがあって来たんよ」
 蜻蛉の話を聞いているのは、薔薇園にいたバラバラ死体と、水死体染みた水夫の霊、それから馬の首を抱えた男の3人である。
 なお、薔薇園の霊は蜻蛉の手により幾らか剪定されていた。
 少しの警戒心と、少しの好奇心を覗かせる3人に蜻蛉は微笑みながら言う。
「この場所をまた、ホテルとして再興させたいっていうお願いがあって来たの」
「お前さん方、退屈してるんだろ? ひとつ、俺達の提案に乗ってみる気はねぇかい?」
 あと一押し。
 そう判断した縁は、蜻蛉を援護するべく口を開いた。
「宣伝文句は、『100人目の仲間になるのは、貴方かもしれないーー』あたりで。どうだい、悪くねぇだろ?』
 霊たちは顔を見合わせ、悩んでいる。
 と、その時だ。
『いいですね! その提案、乗っからせてもらいます!』
 2人の背後で声がした。
 エントマだ。
 その後ろには、ベークとベルナルドを除いた4人が着いて来ている。どうやら、ホテルの安全確認は終わったらしい。
 レインなど、首の無い馬を連れているが、アレは一体なんだろう……。どこで見つけた知らないが、元居た場所に返してきなさい。
「いや、それよりだ」
 エントマを一瞥し、縁は腰の刀に手をかける。
 空気が、少しだけ冷えた。
「……お前さん、誰だ?」
 瞳を細くし、縁は言った。
 一瞬、エントマはピタリと動きを止めて……。
『なんでバレたかなぁ?』 
 肩を竦めて、その姿を消したのだった。

成否

成功

MVP

ジュジュ(p3p010010)
夜に這う

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にホテルの安全確認および霊との交渉は完了しました。
依頼は成功となります。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

なお、以下に今回お逢い出来た霊たちを紹介しておきます。

1:キャシー・キャット
猫の霊。他にも、キティやキキーモラなど合計9の名前を持ち、9回死にました。
裏庭の隅に墓があります。

2~10:管理人の女性たち
アリソン、メリー、ポピー、カルメン、ハナ、ナオミ、キャンベル、サッチャー、ジーン
絵画に描かれている9人の女性。かつてのホテルの管理人で、地下にある管理人室にいます。
管理人室へは、エントランスホールから移動できます。

11:ポリドール卿(胴)
前庭を彷徨う騎士の霊。

12:ポリドール卿(頭部)
裏庭に落ちている騎士の首。

14:首無し馬
首の無い馬です。動物疎通があれば出てきます。

18:案内人
案内人と呼ばれる人魂です。門のところから付いてきます。

20:ポリドール卿(影)
ポリドール卿の影です。誰かが首と会話をするとホテル内に出現します。

21~31:11人の怒れる男たち
2階奥の客間で喧嘩している男たちです。銃撃戦の果てに全滅しました。

32:ロストチャイルド
三輪車に乗った迷子の子供です。幼い外見のPLが2階で行動をしていると出てきます。

53:光る男
3階物置にいます。全身にヤタラトヒカルダケが生えています。【発光】を活性化していると出てきます。

54:屋根裏を歩く人
2階の部屋にいます。【気配遮断】や【忍び足】を活性化していると出てきます。

55:彷徨える海人
中庭の噴水に沈んでいます。海に還りたいようです。海種のPLを発見すると憑いてきます。

56:殺人鬼の霊
殺人鬼の霊です。斧を手にホテル内を彷徨い歩いています。殺人鬼系のPLがいると出てきます。

57~60:逃げ惑う霊
逃げ惑っている霊たちです。殺人鬼の霊に追われています。生前もたぶん追われたものと思われます。殺人鬼の霊が出現すると出てきます。

63~64:ファット&スキニー
太った男性と痩せた男性の2人組です。食堂で何かを食べています。食堂で休憩しようとすると絡んできます。

71:図書館の偏執狂
図書館にいる女性です。本に夢中で、こちらの話を聞いてくれません。

72~75:スケルトン№1、2、3、5
番号札を付けた骸骨たちです。№4はいません。キッチンにいます。

76:裏切者の末路
裏庭の樹に吊るされている男です。№4の番号札を付けています。

77:画家
裏庭の樹に吊るされている男をスケッチしている画家です。両の耳は包帯で塞がれています。画家っぽいPLがいると出てきます。

81:バラバラの霊
薔薇園にいる女性の霊で、薔薇の樹と融合しています。身体がバラバラになっています。植物疎通や精霊疎通などを活性化していると出てきます。

82:馬の首を運ぶ者
黒い馬の首を運ぶ男性です。馬に頼まれて、身体を探しているようです。

83:いつでも其処にあるもの
不運な人の足元を歩く半透明の小人の影です。転んだり、滑ったりします。不運はいつでも、皆さんのすぐ傍にいます。そして逃れられない。

85:エントマ・ヴィーヴィー(?)
エントマ・ヴィーヴィーの姿をした、エントマ・ヴィーヴィーではない何かです。皆さんをホテルに誘いました。100番目の霊登場フラグを踏んだ上で【罠対処】【霊魂疎通】などを活性化していると本性を現します。

93:練達の科学者
談話室にいます。練達名声が500より高いと出てきます。

96:扉のメアリー
2階の部屋を【透視】しようとすると出てきます。内側からこっちを覗いています。

100:???
100番目になろうとすると出てきます。霊魂疎通系スキルを持たない場合は「帰れ」と言われます。

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