＜渦巻く因果＞未だ無き蒼茫たる穹へ

オープニング

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　遠い未来、私の一族は盛者必衰とばかりに栄え、廃れ滅びる寸前にまで陥りながらも細々と生き延びているのだという話を、来訪者たる青年は教えてくれた。
「……ふ」
　あぁ、これが笑わずにいられるか。
　宝石商がどうやって貴族の一端になる。
「そもそも、今の私はたった一人なのに」
「主人様」
「ん？　あぁ、ケイか。どうしたんだい？」
　声をかけてきたのは製造済みのゼロ・クールの一体。
　遠い記憶に異邦人が教えてくれた武士と呼ばれる屈強なる兵を模した個体だ。
　教えてくれた彼は、もうこの世にはいない。
　魔王軍に抗って、そして死んだ。
　呆気のない記憶の話だ。
　惨めに生き残った魔法使いの、遠い記憶だ。
　――あぁ、まったく。『そんなもの』を作るあたり、私はまだ、彼を忘れていないのだろう。
「ご客人です。なんでも、主人様からの招待とのこと」
「えっ？　……あぁ、そういえば、今日だったね。分かった、すぐに出るよ。ケイ、先に行っててくれるかい？」
　日付を見れば、アンネマリーはそう告げてから急いで準備を整えた。

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　マルク・シリング（p3p001309）やルーキス・グリムゲルデ（p3p002535）、ルーキスに連れてこられたルナール・グリムゲルデ（p3p002562）がアンネマリーの元へ再び訪れた時、宝石店のカウンターに彼女の姿はなかった。
　その代わりに立っていたゼロ・クールと思しき女武者が奥へと消えてからしばらく。
　一人で戻ってきたゼロ・クールは自らをケイと名乗った。
「ケイはどんなゼロ・クールなんだい？」
「隠密・索敵特化、探索用として設計されました」
　ルーキスの問いかけにケイは澱みなく答える。
　どちらかと言うと、既に設定されている情報を開示しただけのようなニュアンスがあった。
「隠密、索敵特化……か。ということは店番みたいなことをしているのは珍しいのか？」
　そうルナールが重ねてみれば、またも澱みなくケイは答える。
「そういうわけでもありません。
　主人様の設計するゼロ・クールには基礎的な接客・商交渉技能が設定されておりますので」
「あぁ、なるほど、その辺は標準装備なんだ」
　そう頷きつつ、ルーキスは思う。
「接客用だけあって会話はスムーズだけど……やっぱりどこか定型文感があるね。仕方ないんだろうけど」
「そうだな。まぁ、片言だったりしない分、聞き取りやすくて助かると考えればいいか」
　ルーキスとルナールがそう小声でやり取りをしていると、ふと奥の扉が開くのがみえた。
「こちらから呼び出して遅れて申し訳ない」
　そう言いながらカウンターに姿を見せたアンネマリーはどこかぎこちなく笑って言う。
「君達も魔王軍のよる宣言を聞いてるだろう？
『我々はこの世界を滅ぼし、君達のいる世界――混沌への渡航を決めた』だっけ。
　そのために君達を捕らえ、協力させるって話だけど――連中は、各地で虐殺を開始したらしいんだ。
　……十中八九、君達をおびき寄せる為の囮だろうね」
「それは聞いています」
　マルクが頷けば、アンネマリーは静かに頷いた。
「たしか、マルク君だったね。君は確か、ブラウベルクだとかオランジュベネだとか呼ばれる場所が見たいと言っていたね。
　改めて思い直すと、あの辺りは今、アナトリア地方と呼ばれているんだ。
　日の出処だなんて、随分な名前だろう？　たしか小高い丘が点在してる――そこには当然のように集落もある。
　連中が襲撃する可能性は大いにあるだろう」
　そう言ったアンネマリーは今度はルーキスの方を見て。
「ルーキス君、君にとっても次の冒険としては都合がいいだろう。
　あそこは言った通り、日の出処で小高い丘がある、まぁそこそこは風光明媚だ、デートにもちょうどいい」
　そう言ってルーキスとルナールを見て笑みを浮かべ。
「ケイにはもう地図はインプットさせてある。今すぐ行くといい」
　それだけ言って、アンネマリーは手を振って笑う。

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「――つまらん、実につまらん」
　それは影であった。夜であり、歪であった。
「斯様な民を殺し尽くすだけとは、あまりにもつまらん仕事だ」
　夜とも影ともつかぬ黒に浮かぶは髑髏面。
　黄昏色の剣を携えた胡乱な男はまるで嘆くように声を漏らす。
　周囲の家々は燃え上がり、小さな集落は地獄の様相さえ呈さんとしていた。
「アナトリアの地か……憐れなものだな」
　興味が失せ切ったかのように、冷たい声で男は視線を移す。
　そこには黒い靄に包まれた女のような何かが人々の蹂躙に精を出していた。
「おい、ガラテア」
「――はい、何でしょう」
　男が声をかければ、女――ガラテアはぴたりと立ち止まり顔を上げた。
　人間ではありえないほどの急停止はまるで機械のようでさえあった。
「俺は飽きた、帰る。どうせ後は蹂躙するだけだ。後は任せる」
「宜しいのですか？　四天王の皆様も来訪者たちを捕らえよとの仰せのはずですが」
「その来訪者が来ないのだから、興も削がれるというのだ。実につまらん」
　それだけ言い捨て、髑髏面の男は闇のような身体をぐるぐると渦巻かせ、どこかへと消えていく。
　――イレギュラーズがアナトリアへと訪れ、その集落への襲撃に気付いたのは髑髏面の男が消えて少し経った頃だった。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

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　３羽の鳥が空を行く。
　広く澄んだ青い空と広々と青々とした平野が地平の向こうまで続いている。
　それらを汚すのは天へと伸びる灰や黒の梯子。
　燃え盛る建造物、燃え尽きた残骸と共にそれ以外の様々な物が焼ける臭いが鼻を衝く。
「ほぁー！　ここが異世界ブラウベルク！」
　広がる草原と穏やかな丘陵を最初こそ『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル（p3p006816）も目を輝かせていたが。
　近づいた先の景色に我に帰り、ふるふると頭を振れば、ぎゅっと杖を握りしめる。
「……じゃなくて魔王が大変で！　この世界に住む人達の生活も守らなきゃ、だね！」　
　そのままフランは空へと祈りを捧げた。
　青々とした空にやがて蜘蛛が立ち込め、雨が降り注ぐ。
　それは多数の煙を上げる集落を包み込み、広がる戦火を遮るもの。
「ここはあたし達が食い止める、だからみんな逃げて！」
　その声は人々に届いているか。
「アナトリア……僕らの世界での、あるいは未来の、ブラウベルク、か」
　ハイテレパスで人々に声をかけていきながら、『ウィザード』マルク・シリング（p3p001309）は小さな呟きを残す。
　平穏とした空気の大地を汚すのは、終焉の影。
（譬え異世界であっても、テレーゼ様に、そして僕自身に縁のある地だという事は変わらない）
　握りしめた拳をわずかに開くと共に、ワールドリンカーからキューブ状の魔力が螺旋を描いて浮かび上がる。
（今のオランジュベネは一大穀倉地帯、『豊かな実りの地』です。
　人口が増え発展してそうなる以前は、別の名で呼ばれていた時代があっても不思議ではありませんね）
　広がる景色は『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル（p3p001984）の知るものとは当然違っていた。
　プーレルジールが必ずしも混沌と同じとは限らないということはさておいても、想像できる光景だった。
（終焉獣が沢山だな……なんとかして殲滅しないとな！
　しかし敵の目的は何なのやら？　まあ、目的がわからない以上、とにかく敵を倒していこう！）
　そう首をかしげるのは『カースド妖精鎌』サイズ（p3p000319）である。
「――久しぶりに湧きたてカルマブラッド、敵をぶち抜け！」
　そのまま自分自身たる鎌を振るい、鮮血の色をまとう。
「折角プレールジールとの縁が出来たんだしそりゃあ探索するよねぇ。
　未知の土地、知らない場所、そういう話は大歓迎だ。その為に今回は旦那様も連れてきた訳だし」
　そう語るのは『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ（p3p002535）である。
　その隣に立つ『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ（p3p002562）はというと。
「毎度の事だ、解ってはいたが。うちの奥さんが関わることは結果的に荒事が多いな？？」
　広がる戦火にそう声に漏らしていた。
「邪魔者には早々におさらば頂いて、さくさくと好きなように散策をだね……ん？　ふーむ……ルナール先生、デートする？」
「うむ、場所が戦場だろうがルーキスが一緒ならデートには違いないか。
　随分と血の気の多いデートだが……細かい事は気にしない」
　いつものように２人でそう語らいながら、各々で戦闘態勢をとっていく。
「フリック達　ミンナ　助ケニキタ。芍灼ノ方ヘト逃ゲテ」
　そう声をかけながら『水月花の墓守』フリークライ（p3p008595）は敵のほうを見やるものだ。
　保護結界を張り巡らせ、そのまま霊樹たちの願いを重ね合わせた。
「それがし達、皆様を助けに参りました！　馬車で安全なところにお運びしますのでどうぞこちらへ！」
　それに繋げて『忍者人形』芍灼（p3p011289）が声をあげる。
　怯える人々が恐る恐るなれど芍灼のチャリオットへと移動していく。
　その流れに気付いたのか、作り物めいた女性のような存在がこちらを見た。
「――あぁ、その気配は」
　機械めいた淡々としたしぐさで彼女は斧槍を振るい、目の前にいたゼロ・クールを両断する。
「お初にお目にかかりますね、来訪者の皆様。
　ガラテアは、皆様のご来訪をお待ちしておりました」
　恭しく会釈して見せながら、そのしぐさもまた、決まった挙動を熟しているようにも見える。
「君達　魔王軍ナラ　フリック達　狙ッテルノダロウ」
「ええ、それが魔王様のご命令なれば」
　そうフリークライが問えば、空色の瞳に光を反射させてガラテアが応じた。
　その瞳は狂気ゆえの澄んだ色があった。
「なんと！　ではそれがし達を捕らえるために民衆の虐殺を！？
　全く関係のない人々を巻き込む非道であれば討伐にも遠慮は不要というもの！」
　その言葉に芍灼が言えば、ガラテアは細工めいた表情を崩さない。

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「おねーさん強そうだね、あたしが相手だよ！」
　そう声をかけながらフランは戦場を駆け抜けた。
　杖に込められた魔力が予備動作なしに吹きすさび、ガラテアに炸裂する。
　煽られたガラテアはズザザと土を削りながら吹き飛んでいく。
「――ふ、面白い子ですね」
「やれやれ、久々の仕事がこれとは……うむ、実にハードだな？」
　言いながらもルナールは誰よりも早く動き出す。
　愛銃に炎の魔弾を籠め、終焉の獣めがけて銃弾をぶち込んでいく。
　複数の魔弾となった炎は終焉獣たちを貫き、獣らの注意を引き付ける。
「やれやれ操られる方も大変だ――さーて、まずは嫌がらせから！」
　続けるままにルーキスは魔術を行使する。
　世界法則に穴を開き、あふれ出すのは汚泥の如く。
　終焉の獣たちを呑み込んでいく。
「……しかし寄生型終焉獣は、生身の人も操れるのですね」
　狂気に触れたように動く人々を見やり、少しばかり目を細めてリースリットはそう呟くものだ。
　ゼロ・クールを『秘宝種と同源の存在』と考えれば、『ゼロ・クールに寄生できるのなら生身の人間にも出来るだろう』というのは、驚きはあれど不思議ではないか。
　振り払った一閃が不殺の心得ある精霊光を放ち、まとめて寄生された人々を薙ぎ払う。
「ここだ！」
　サイズは魔砲用ユニットを鎌の先端に付け、魔力を注ぎ込む。
　けたたましいエラー音を無視して放った砲撃は鮮血の軌跡を描いて戦場を走り抜ける。
　射線上の終焉の獣たちをぶち抜いた鮮血のような赤き光が収まるころには数体の終焉獣が土くれのようにボロボロと綻び消えていた。
「そちらが遠距離ならば、当たらないようにするだけだ」
　マルクはワールドリンカーに魔力を通すと、終焉獣たちめがけて思いっきり魔弾を叩きこんでいく。
　複雑な軌跡を描いて飛ぶ魔弾はあまたの終焉獣たちを貫き、その体を泥のように内側から侵食する。
（フリック強固。芍灼　戻ルマデ　民衆ノ被害抑エル）
　フリークライは自らの循環率を高めれば、その究極の形を以って敵の注意を引き付ける。
　傷を受けたばかりの仲間へと術式を展開すれば、柔らかな天使の羽が戦場に降り注ぐ。
　歪な祝福が温かく傷を癒していく。
「お待たせしたでござりまする！」
　そう言った芍灼は敵陣の中心に姿を見せた。
　そのまま愛剣を逆手に風の如く放つ斬撃は狩人の乱撃。
　黒い靄をあふれ出しながら、終焉の獣たちが黒い靄を散らしながら壊れていく。

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「おねーさん強そうだけど、あたしを突破はできないと思うよ」
　高らかに、フランはガラテアへと向かい合う。
　杖に込めた魔力が大地へと循環し、花を開く。
　柔らかな魔力は独特な輝きを放ち、ガラテアがぐるりとハルバードを構えた。
「――なら、試してみましょうか、小さな守り人よ」
「うーん、今日も派手にペアダンスを踊ることになりそうだな」
　ルナールは言いながらも自らの気を巡らせて受け止めた傷を修復していく。
　すでに戦いは終盤に近いだろう――ならば、踊り続けるまで。
　愛する妻とのダンスはまだ終わるまいと。
「前線を任せられるのは大変だよねぇ、お互いに！」
　ルーキスはガラテアの眼前まで肉薄するや、そう笑いかける。
　その手には魔力を注ぎ続けた宝石の魔剣が１本。
「ええ、全くですね――私と貴女では趣も異なるように思えますが！」
　爆ぜる禍の剣を脅威とみなしたらしきガラテアの踏み込みに答えながら、ルーキスは剣を振るう。
　ぶつかり合った切っ先、炸裂する仮初の剣が暴発を起こし、受け止めたハルバードごとガラテアを薙ぎ払う。
「なるほど――これがイレギュラーズ。魔王様が、四天王の皆様が求めるのも頷けましょう」
　ガラテアと名乗る個体は静かに構え立っている。
「貴女は……その気配、魔種に類する者。終焉の使徒か」
　リースリットは静かに風神のごとき魔力を束ねながら向かい合う。
　明確な知性と人形めいたあり方は人類のそれではない。
「えぇ、そういう類とお考え頂いて構いませんが――所詮は多少口のきける兵というだけですよ」
　肉薄と共に撃ち込んだ一撃に対応してきたガラテアは驚いた様子こそ見せながらも落ち着いてみえる。
　零れ落ちる黒い靄のようなものは、終焉の気配。
「お前たちにパンドラを使うのはもったいない！」
　サイズは鮮血のような地位色の鎌を構え、幾重にも斬撃を重ねて振りぬいた。
　あまたの斬撃はそれぞれが鮮血の牙を思わせる軌跡を描いてガラテアめがけて駆け抜けた。
「貴女は何者なんだ」
　マルクはキューブ状の魔弾をその手に集約しながらガラテアへ問う。
　幾重にも重なり、集束を繰り返す魔弾はただの一発に過ぎない。
　けれど、その内側に秘めたるのは凄絶なる魔力の結晶に違いない。
「私はガラテア、それ以上でもそれ以下でもありませんが」
　放たれた魔弾に対応しようとしたガラテアの身体ががくりと崩れ――致命的な失敗と共に殲滅の魔弾が細工めいた身体を呑み込んだ。
「――なる、ほど。あの方が何故、虐殺に飽いたと評したのか、わかる気がします」
　致命傷を受ける細工めいた敵は、片膝を着きながら起き上がる。
「しからば、最期までやらせていただく」
　ハルバードを杖のようにして立ちあがりそのままハルバードが戦場を薙いだ。
「ン　フリック達　負ケナイ」
　静かに告げたフリークライは周囲の傷を癒すべく再び天使の祝福を下す。
　天冠の祝福が戦場に優しく輝いたかと思えば、再び歪な輝きが戦場を優しく包み込む。
　そこへ芍灼が飛び込んでいく。
　ようやく立て直さんとしたガラテアへの追撃は、どうしようもない完全な奇襲。
　影に生きる忍びの策を模した一撃は無防備なガラテアの腹部を貫く刺突となって一閃する。
「これで終わりでございます！」
「――あぁ、なんということか」
　そんな声の後、ガラテアはボロボロと砕け散った。

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　戦いが続き、ガラテアを倒したのとほぼ同時だった。
「――皆様、新手が参ります」
　不意にケイが声をあげた。
　空を見上げたその女性の視線の先、空にぐるぐると闇が渦を巻いた。
「――随分と遅かったではないか、来訪者よ」
　髑髏の面にブゥンと紅い光が２つ、携えるのは黄昏色の剣。
「おやおや、この間ぶり！　ちょっと遊んでいくかい？」
　そう気楽に声をかけたのはルーキスである。
「アンコールってことだな。軽い回復程度なら俺でも出来る、派手にブチかますといいぞルーキス」
　そんな調子の妻をみやり、ルナールはそう声をかけながら術式を発動すれば。
「……疲弊した貴様らをただ潰すのでは興が削がれる、見逃してやろうと思ったが。
　元気がよさそうで何よりだ。ならば少し手合わせとしよう」
　黄昏色の剣が炎をたぎらせた。
　フランはその姿を見た刹那にぞわりと全身をかける寒気のようなものを感じた。
（なんかわかんないけど、やばそーな人って事だけは解るよ！）
　思わず飛び出し、フランは騎士の前へと躍り出た。
「ほう、そのような幼さで前に立つか――その勇気、見事。
　それぐらいでなくては斬る甲斐もないというものだ」
　揺れる闇のまま、騎士がフランの前で立ち止まる。
（人ではないように見える……が、変質した人と考えると有り得なくも無いように思える）
　リースリットは初めて目にするその存在へ視線を送る。
　目の前にて静かに浮かぶ闇、その存在へと抱く印象はガラテアと左程の違いは感じなかった。
（……あるいは魔王に支配された地の、終焉に取り込まれた人々の成れの果てなのだろうか？）
　騎士の動くよりも前、リースリットは半ば反射的に神呪を叩きこんだ。
　瞬く精霊光でさえもその闇は全てを消すことはかなわない。
「闇衣の騎士が『終焉獣』にして魔王の配下とはね……その身体は、一体誰の身体なんだい？」
　マルクは闇衣の騎士へと肉薄すれば、その手に魔剣を握り、振り払う。
　旭光を描くブラウベルクの剣が黄昏色の剣とぶつかり合う。
「答える義理はないな」
　まばたきでもするような明滅を残した紅の瞳。
　黄昏色の剣と共に闇衣の騎士はゆったりと後退する。
「そも、俺の姿が何者であろうと構うまい」
　それだけ言って、騎士は剣を振るう。
　咄嗟にマルクが躱せば、騎士はそれを追わない。
「――そこなゼロ・クール、懐かしい気配だ。あぁ、気分が良い。あの男のことを思い起こす。
　だが――残念だ、今の貴様らは消耗している。これではつまらん。このあたりにしておこう」
　それだけ言って、闇衣の騎士はぐるぐると渦を巻いてまたどこかへと消えて行った。

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　戦いが終わった後、イレギュラーズはアナトリアの散策を行っていた。
　アンネマリーが言っていた通り、小高い丘陵からみる草原の景色は自然の雄大さを思い出させた。
「応急程度にはなると思うよ」
　そういうのはサイズである。
　家屋まで行くと修理といっても万全の形とは言いにくい。
「ありがとうございます、ありがうございます！」
　それでもそれを受ける人々は手を合わせながらそうサイズを拝んでくるほどだった。
「お兄さんもたまには身体動かさないと鈍るのはあっという間だぞー」
「まぁ、確かに色々鈍りそうではあったが……」
　消火活動の続きをしながらのルーキスの言葉にルナールは改めてそう先程の戦いを思い起こすものだ。
「それにしては随分ハードだった気がしないでもないけど」
「軽い運動じゃ意味ないしな、ハードくらいで丁度いいだろ
　そう笑いあいながら、２人は景色の良い場所で一休みを取っていた。
「ねぇ、ケイさんにとってアンネマリーさんってどんな人？」
　そのころ、フランはケイへとそう声をかけていた。
「主人様のこと……にございますか」
「うん、なんだかね、あたしのお友達――って言っていいかわかんない偉い人なんだけど！
　その人に似てる気がしたんだぁ」
「主人様のご子孫という……テレーゼ様でございますね。そのお話は聞き及んでおります」
　そう答えたケイはそのまましばらく沈黙して。
「――私が主人様をどう思っているのか、でございますね……わかりません。
　どうやら私には設定されていない感情なのやもしれませんね」
　そう首をかしげるゼロ・クールを見て、フランはぱちぱちと眼を瞬かせた。
（ケイ。屈強ナ兵　模シタ個体。
　デモ　戦闘用デハナク隠密・索敵＆生存特化。
　アンネマリー　二度ト死ンデ欲シクナイノダロウ）
　フリークライはその様子を見ながら、ぼんやりとそう思うのだった。
「隠密・索敵、探索用。まるで忍者のようではございませぬか！
　しかも接客・商交渉技能も持っているとのこと……サヨナキドリに欲しい人材にございまするな」
　むむっ、と悩みながら芍灼が言えば。
「えぇ、私はその忍者も基礎に設計されております。ご購入の意思がございましたら、契約も可能ですが」
　そうケイの方がうなずいてくるものだ。
「あぁいや、購入とかではございませぬが……それよりもなんと！　忍者も設計の元ネタでございまするか！　しかし、武士に忍者とは……」
　それは地球なる世界からの旅人のいう日本なる国にかつて存在したという。
「私は主人様がさる旅の方から教わった武士と忍とやらを元に作成されております。
　残念ながら、その方は来訪者の皆様が参られるより以前に魔王軍の手で討ち取られましたが」
　そうケイは淡々と述べる。
（討タレタ人ノ忘レ形見ト言うコトカ。
　トモスレバ　ケイ自身ガ　アンネマリーニトッテノ彼ノ墓標ナノカモシレナイ）
　その話を聞いて、ふとフリークライはそう思った。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。