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シナリオ詳細

<渦巻く因果>トラッシュボックス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●失敗は成功の母
アトリエ・コンフィーの魔法使いが手掛ける人形、ゼロ・クールは必ずしも出来が良い下僕になるわけではない。未熟な魔法使いが魔力を込めれば感情のみならず基本的動作すらままならない失敗作が生まれる。熟練の魔法使いにしても、あれこれと機能を追加しようとしては失敗する事なども茶飯事のようで、一概には言えないが、そういった失敗作の廃棄ドールは様々な過程から確かに排出されるものである。
「くそ、また失敗だ。戦闘能力は申し分ないが命令を正しく認知していない。魔王だか四天王だか名乗る奴らも現れて大騒ぎだってのに、どうしてこうも上手くいかないんだ? こいつも廃棄だな」
 男は三流とまではいかないものの、機能するゼロ・クールを作り出すにはあと一歩ほど知識が足りないようであった。彼の名はベルトラム。アトリエ・コンフィーに居を構える魔法使いの一人だ。
「苦戦しているようだねベルトラム君。君さえ良ければ僕のゼロ・クール製造のノウハウを指南してやっても良いんだぜ」
「お言葉だがね、君の知識を組み込んだ時点でそれは僕のゼロ・クールではなくなる。秀才ラージンの脳がどうなっているのか興味がないと言えば嘘だが、僕は自分のゼロ・クールに嘘はつきたくないんだ」
 ラージンはベルトラムのアトリエを眺め回し、この友人の頑固さについてため息を漏らした。
「君の信念には心から感服するよ。なに、これは嫌味といった類のものではないぜ。僕だって友人に借りを作ったら、返しても一生それを引きずってしまうだろうからな。ゼロ・クール製造に失敗は付き物さ、僕だって失敗する。しかし、今はそう言ってもいられない事態なのだよ」
「巷で話題の魔王軍、四天王のことかね。自分を過小評価するつもりはないが、正直なところ僕の戦闘用ゼロ・クールをあてにしている時点で手遅れではないのかな?」
 この世界は魔王イルドゼギアの配下によって人間の数が著しく減少している。ベルトラムやラージンのような魔法使いはゼロ・クールと呼ばれる人形を作り、生活をサポートさせている。このサポートには魔物から身を守る戦闘行動も含まれ、ゼロ・クールの多くはそういった目的で造られる。ベルトラムが製造するゼロ・クールも主にそういった用途を目指している。
「まあ聞いてくれ、先に言っておくが君が悪いわけじゃない。廃棄エリアは知っているだろう? そう、君が連日足を運ぶ所だ。あそこの廃棄ドールがどうも魔王軍に利用されているみたいなんだよ」
「よしてくれ。僕は正しい手順を踏んで廃棄したぞ。それで、どうしろと? 自分で棄てたものだから自分でどうにかしなさいと言うのが上からの通達、そしてラージン君がここに伝えに来たというわけかね」
 この男はすぐに熱くなる。ゼロ・クールに対する熱意は本物だが、職人や学者に見られる気難しさも人一倍は持っておりアトリエ内でもやや孤立した存在であった。しかしながらラージンは自分の技量に媚びへつらう事なく物を言うこの男を気に入っている。
「そうしろと言えば君はそう努力するだろう、僕が断言する。だが、被害者が出つつある以上は悠長に戦闘用ゼロ・クールの完成を待ってはいられない。僕の所のゼロ・クールも引っ張りだこさ。ここは一つあの妙な連中、お手伝いさんの力を借りようと思ってね。君の廃棄物だが、勝手に破壊しても君は怒るだろう? だからね、面倒だとは思うが一緒に彼らへ仕事を頼もうじゃないか」

●二人の魔法使い
 ラージンと名乗る男はもう一人の男を連れてイレギュラーズに今回の仕事を依頼する。
 プーレルジールに失敗作のゼロ・クールが廃棄されているエリアがあり、そこで暴走しているゼロ・クールがここアトリエ・コンフィーに近づく前に処理して欲しいとの事であった。
 ゼロ・クールは人の形をした感情を持たないドールではあるが、やはり人間のようなものが失敗作として棄てられる現状に若干の嫌悪感を覚えるものも存在した。
「君たちの考えている事は理解るよ。おいベルトラム君、きみも挨拶くらいしないか。まぁ、心を痛めない魔法使いばかりだとも思ってほしくはない。これは僕たちの知識と秘技の限りを尽くした人形だ、精魂込めても廃棄物はどうしても出てしまう。せめてゼロ・クールが自然に動作を停止するまで放っておくという目的であそこの廃棄エリアは準備されたものなのだが、魔王軍に目を付けられてしまったわけさ」
 救う術はないのかと望みをかけてイレギュラーズは問うが、ラージンもベルトラムと呼ばれた男も口を閉ざし、気まずい沈黙が流れた。
「おまえらがどれほど腕利きの戦士かは知らん。だがゼロ・クールは命令を遂行するためなら武装を解除しようが気絶させようが最善を尽くそうとする。できる事はコアの破壊だけだ、後味の悪い仕事かも知れないが……すまない」
 愛想の悪い男だったが、プライドを押し殺した心からの頼みであった。

GMコメント

●目標
 暴走ゼロ・クールの破壊

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 プーレルジール廃棄エリア
 現場に到着する頃は昼です。
 ゼロ・クールは大きな窪みの中にいます。

●敵
 暴走ゼロ・クール 5体
 寄生終焉獣に乗っ取られてしまった失敗作たちです。
 依頼人ベルトラムのゼロ・クールが2体ほどいます。
 戦闘能力はまちまち、廃棄されるなりの理由がありますが終焉獣の魔力がそれを補っています。
 対話は可能ですが、ゼロ・クールの性質や終焉獣に寄生されている事からあまり期待できません。

  • <渦巻く因果>トラッシュボックス完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
芍灼(p3p011289)
忍者人形

リプレイ

●ジャンクヤード
「世界有数の埒外の魔術師ばかり相手にしていて感覚が狂いに狂っていましたが、そうですよね! 真理の探求には失敗が付き物です」
 『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の感想はアトリエの魔法使い達の興味を引いたが、彼らなりの不文律があるようで深くは突っ込まれなかった。魔術の分野が違えば良い刺激にも成り得ないのだろうか、或いは情報の対価を警戒しているのか。魔術に関わる人間は人一倍に警戒が強いようであった。そんな人外じみた交友を持つドラマに『狂言回し』回言 世界(p3p007315)はいつものように気怠い雰囲気、そして冗談を交えて対応する。
「どんな魔術師と面識があるのやら……しかし敵が勝手に捨てたものを使うだけとは随分コスパがいいじゃないの。浮いたお金で豪華なディナーが楽しめそうだな」
 寄生型終焉獣。魔王イルドゼギア四天王が放った配下の一つ。プーレルジールを代表する人工物、ゼロ・クールに寄生する事で真価を発揮する敵。これらの討伐はゼロ・クールの破壊を意味している。
「それがしもこれはちょっと……と思っていたのですが、魔法使いの中にも同じような考えの方がいてちょっとだけ安心しました」
 本依頼において最も切り出しにくい話題に芍灼(p3p011289)が手を付けた。やや暗めの表情が多いイレギュラーズはこの話に触れる事で踏ん切りを付ける事となる。
「ゼロ・クールさん達……作られる魔術である以上、必ず成功するとは限らない。みゃー……」
「でも、生まれながらにアナタは失敗作だなんて言われたらどう思うのだろう……。ワタシがどうこうできる事ではないと思うけど、終わらせてあげなきゃね……」
 『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)と『神をも殺す』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は中でも特に重い空気であったが、ゼロ・クールを破壊して弔うと言う点において迷いはないようであった。
「事情が事情だけに何だかかわいそうですね。幸いなことに僕は妖怪ですから、人を殺すことに抵抗はないので……」
 『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)が忌むべきその仕事を引き受ける。また、鏡禍は鏡禍で遺品を持ち帰ってはどうかと妖怪とは思えない気配りを見せた。ナチュラルにドライなイレギュラーズも存在するが、本質としては鏡禍にも人の心があるのだろう。
「人で良いのか? まぁ機械だろうがドールだろうが胸糞が悪くなる前に終わらせてやらねえとな」
「ン。 正式名称 ゼロ・クール」
 『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が訂正を入れてきた声に返す。
「わかってんだよブリキ! それと、そいつらを止める方法もな」
「主ノ友 Dr.フィジック曰ク。『我々に残された最後の役目は創造主として“責任”を取ることである』 ベルトラム 少ナクトモ 責任 果タス気アルラシイ。ナラバ創造主カラノ最期ノ オーダー ゼロ・クール達 手向ケトナソウ」
 『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は出発前にベルトラムにゼロ・クールの名前を聞き出そうとした。そこに関してはベルトラムは特に渋り知る事ができなかった。彼の友人は初恋の人の名前だのと揶揄したが、初めて作ったゼロ・クールがまともに動かない悲しみ、希望に満ちた達成感からの転落、喪失感に再び触れる事になるのでそっとしておいて欲しいとの事だった。

●ブレインファイト
 プーレルジールに存在する廃棄エリアはそう遠い位置ではなく、昼前には到着した。どのような手段でここまで運んでくるのかはドラマにも明かされない魔法使いの秘密の領域であるが、少し気合を入れれば引きずって来る事もできる距離だろう。そう捉える事もできる足跡を見て世界はまさかなと自省した。フラーゴラと目が合う。彼女も同様の事を考えていたようだった。
「ふむ……状態の悪い場所を想定していましたが、それなりに管理されているようですね。終焉獣が何か細工している可能性もあるので油断は禁物ですが」
「僕も色々見て来ましたが仕事に専念できそうです。四天王とかいう人達もここは重要視していないのかもですね」
 ドラマと鏡禍が偵察を終えて戻ってくる。魔王イルドゼギア配下の四天王は混沌世界に渡るため、この世界やイレギュラーズに対し宣戦布告を行った。各地で激戦が繰り広げられているが、そうして見るとここは最前線とは言えないエリアである。しかし密やかに蒔かれた種としては悪質なもので、決して無視する事のできない、世界の言う所のリサイクルが行われようとしている。
「ゼロ・クールはほとんど動いてないみたいだけど、明らかにおかしいのがいる、みゃー?」
 祝音のファミリアーが何かを見つけたようだ。廃棄物はよくわからない部品が多く、人形の墓場というイメージからやや離れたものであったが、目を凝らすとあちこちに人形であったものが見受けられる。
 芍灼が器用にゴミの山を登り、ファミリアーが戻ってくる方角をそっと覗くと歪な形のゼロ・クールが何匹か歩を進めていた。ウィッグや衣装など魔法使いの趣味が反映された部分はひどく汚れ、永らく放棄されていた事が見て取れる。それが討伐対象である事を決定づける点として、それはゼロ・クールの膨張したシルエットにある。
 終焉獣に寄生されたゼロ・クールは人として認識できるラインを超え、足の生えた粘性の脳みそに抱きつかれていると表現するよりないものであった。寄生する事に最適化された形なのだろうか、そのグロテスクさにバクルドは唾を吐いた。
「やっぱ人様の物を盗む奴はロクな見た目をしてねえな。おい、お前さん。意識とかあるんならもう少しだけ我慢しときな」
「ン。 ゼロ・クール プログラムサレタ存在。 意識=オンライント定義」
 バクルドが頭も身体もお硬い同僚に振り返ろうとした時にはもうフリークライは寄生されたゼロ・クールに向かい走っていた。戦闘用に想定されたゼロ・クールだが失敗作である故に注意するべき武装は施されていなかった。
「敵と言えるのはあの脳だけに思えます。恐らくあれがコアを隠し、ゼロ・クールの足を移動手段としているのでしょう。物理的な攻撃もまだ可能性はありますが、精神的なものに備える必要があるかもしれません」
 ドラマがゆっくりと蒼剣を構える。弾丸や弓などが飛んでくるフェーズは終わり、フリークライとゼロ・クールの間にじりじりとした沈黙が流れる。ゼロ・クールも足を止めている事からこちらを認識している事は間違いない。
「にらめっこをしていても埒が明かないですね。僕が行ってみます」
 鏡禍が妖力で思い切り殴りつける。触手や粘液による反撃程度を想定していたが、すんなりと通された。敵の反応も鈍く、あれこれ考えるよりも早く押し切った方が気が楽になるかもしれないなと鏡禍は考えた。
「生まれたてみたいな感じ……? ちょっと、何をしてくるのかワタシもわからない……」
「それがしも向かいます。何か解読できた時にはご報告を」
 芍灼もまた明鏡雪鋼を手に無防備な相手を斬りつける。終焉獣が相手なのだから何かあるはずだと身構えるも、そのぶよぶよとした生き物は無条件にこちらの攻撃を受け続けている。
「手応えがないみゃー……これが四天王の切り札なのかな? ここは囮とか……?」
「それじゃ、遠慮なくご好意に甘えさせてもらうとするぜ。仕事はさっさと切り上げねぇとな」
 芍灼にバクルド、鏡禍と次々に攻撃を行う。途中途中でフリークライが巻き込まれそうになったが本人はモンダイナイの一点張りであった。
「大事になってないから良いが、変だな? あいつらが勢い余ってフリークライなんて巨大な的に当てるものだろうか?」
 基本的にイレギュラーズが圧倒しているものの、絶妙に噛み合わない場面が世界は気になった。
「恐らく、同士討ちを狙わせる磁力のようなものが出ているのでしょう。無防備な敵に見せて優勢と思わせるのでしょうね。勝っている側は些細なミスなど気にしないものですから」
「ワタシもそんな感じで考えてた……! でも、流石にもう破綻してないかな……?」
 寄生型終焉獣の狙いは正しくそれであったが、連携のニアミスを引き起こす磁力が完全に機能していない事が圧倒される要因となっている。ドラマ、祝音、フラーゴラと魔術的な搦手に強い耐性を持つ者はそれを無意識にシャットし、それに干渉してしまったとしても向かう先は鉄壁のモンダイナイなので寄生型終焉獣にとっては実に八方塞がりの状態となっている。
「な、なるほど……それがしも今日はやけに動きが噛み合わなず、フリークライ殿が妙な位置に立っており攻め辛さを感じておりましたが、それがしが引き寄せられていたとは……不覚」
「ン。 フリック 変ナ気シテタ。 デモ大丈夫 フリック強固」
 事実、フリークライはびくともしなかった。例え装甲を吹き飛ばす程の一撃を受けようとも本人の回復力に加えてイレギュラーズの備えは万全なものがあった。
「俺の一発ですらモンダイナイだと気が滅入るんだがねぇ。まぁいい、あの気持ち悪い脳みそ野郎の手の内は知れたってわけだ」
「僕も可能な限り気を付けます。フリークライさんにはもう少しだけご迷惑をおかけするかもしれませんが」
 鏡禍は気を引き締める。戦いとは優勢な側こそ必死にならねばいけないのだ。一度戦局がひっくり返ってしまったらメンタル面で大きな差が生まれる。追う側が追い抜いた時と追われる側が追い抜かれた時、その二つには大きな違いがあるのだから。
「モンダイナイ フラーゴラ 祝音 ミテクレテル」
 ドラマが動く。種が明かされた手品など時間の無駄なのだ、そして避ける自信があろうとも意識の外、味方からの攻撃などは気分の良いものではないのでさっさと終わらせるに限る。
「終焉獣との戦闘はこれまでに何度か経験していますが、色々なタイプが居ますねぇ……これは底が知れましたが厄介な事です」
 影より生み出された無数の刃が何度も何度も脳を刺し貫く。リアクティブな力が準備されていなければ終焉獣はこれでほぼ息絶えるだろう。これを殺傷した所でゼロ・クールの暴走が止まる訳ではないので、ドラマは容赦なく脳に隠されたコアを破壊した。
「致命的な損傷を確認。システムをシャットダウンします。この問題を解決するに」
「おやすみなさい」
 ゼロ・クールはプログラムされたであろう基本的なメッセージを残そうとして、異音を放った後そのまま動かなくなった。このようなものに寄生されて尚、最後まで仕事を全うしたように感じた。ドラマはこの魔力で動く構造に興味を持ったが、ここから先は死者の領域である。安らかな眠りを願うに留めた。
「残りの終焉獣も似たようなものだな。あの力は俺が対処するからフリークライは休んでても良いぞ。言っても聞かないだろうけど」
「ソノトオリ フリック 精神攻撃 効カナイ」
 手元を狂わせる磁力は都度、世界が打ち消す事となった。この寄生型終焉獣はその能力しか持たないようで、驚異的な生命力で同士討ちが行われるまで耐える生物だったようだ。しかし、これがまともな戦闘用ゼロ・クールに寄生された場合は直接的な手段を取る事もできたのだろう。魔王イルドゼギア四天王がそこに気付いているかどうか、今後の戦いにおける雲行きの怪しさを感じた。
「ベルトラム殿の製造したゼロ・クール以外もいるのでしょうか? 敵影は5、今ドラマ殿が破壊したものを引いて4で間違いないと思われますが」
「損傷が激しいし……これといった特徴もないから難しいね。それに……あいつらでよく見えないのが鬱陶しいや! みゃー!」
 祝音と芍灼は残りのゼロ・クールに目を向ける。やはり巨大な脳みそに抱きつかれているような形で、コアを覆うワンパターンさが認めらる。戦いは容易なものになったが、ベルトラム製のゼロ・クールを見つける事は困難だった。
「ごめんね、頑張ったゼロ・クールさんたち。君たちの名前もわからないけど、安らかに眠れるよう……こいつは剥がすから」
「それがしの知識不足故に、今はこれしか出来ませぬ。介錯を務めさせて頂きます、御免っ!」
 祝音の創り出した魔剣が脳を切離し、芍灼の刀がコアを突き刺す。これより他に救う術はなかった。宿主から離された寄生型終焉獣はもがき、次の宿主を探そうと周囲を見渡しているようだった。それに無性に腹を立てたバクルドは力任せにそれを踏みつけ、機能を破壊した。
「チッ、もっと安物の靴で来るんだったなぁ」
「いや、どんな靴でもその感触を味わいたくはないが。これでまた一つ数を減らしたな」

●トラッシュボックス
「頼まれていた件は解決しました。暴走していたゼロ・クールの亡骸は祝音さんたちがお墓を作ってあげました。廃棄エリアの隅の方で、もしかするとすぐに埋もれてしまうかも知れませんが……よかったら一度祈ってあげてください」
「何から何まで悪いね。おい、ベルトラム君どこへ……全く。許してあげてくれ、彼は割とそういう所はしっかりしているんだけど、僕からも誘っておくよ。良いかい? ここからはお口チャックな話だが、頼むぜ? この後にベルトラム君に感付かれでもしたら僕が炉に放り込まれちまう。彼は幼馴染……ガールフレンドをモンスターに殺されていてね。あの気難しい男の何処に惹かれていたのか理解らないが、ともかく仲が良かったものだからその後は拗らせてしまってこの有様さ。憎しみとか無力感とか虚無とかそういった負のエネルギーを原動力にゼロ・クールを造るものだから上手くいってないんだろうな」
 祝音がラージンへと悲しそうな表情を見せる。
「みゃー……うまく言えないけど、ベルトラムさんは戦闘用のゼロ・クール、兵器以上の思い入れがあったように見えたよね?」
「そうなのだよ、薄々君たちも理解ってきただろう? 幼馴染を再現しようとか平和の為にモンスターを殺し尽くそうとかゼロ・クールに対する考えが幾層にも渦巻いていて割り切れてない、そこからミスが生じてるんだ。ともあれ、もう少しだけ彼には時間が必要かな。君たちには感謝してるよ、対策は僕も考えておく」
 ドラマはラージンから許可を得てゼロ・クールやアトリエに関する書物を読み漁る。魔術の再現に至るまでの情報は得られなかったが、基本的なものは目を通す事ができた。これほどまでに戦闘用ゼロ・クールが主流なのはそれなりの理由が存在する。プーレルジールの歴史は抗戦の歴史であり、ゼロ・クールに戦わせるよりほかに人口減少を止める手立てはないのだ。また、魔法使いも無尽蔵に存在する訳ではないので自身のように前線に立つことも稀なのだろう。魔法使い、魔術師というより町工場の職人と捉えた方がスムーズに解釈できる。
「ドラマ……さんだっけ? その、読み漁るのは良いが元の位置にちゃんと戻しておいてくれよ……!」
 ベルトラムのアトリエが散らかっていく。

「……また君を僕は死なせてしまったのか?」
 ベルトラムは廃棄エリアの片隅、瓦礫で作られた十字架の前に立っていた。何とお節介な連中だろうか、あれはただの機械だ。それなのに墓に棺桶まで作られてしまうは。これでは思い出してしまうではないか。共に魔法使いを志したあの女を。あの女を模そうとしていた事を。
「ベルトラム ココ 危険ナ可能性マダアル フリック 警戒」
「ワーーーッ!」
 廃棄エリアは見慣れたもので、妙なものが散在していようが気にもしなくなったベルトラムも流石に悲鳴を上げた。
 まさかこんな生き物が息を潜めているとは夢にも思わなかっただろう。
「その、ごめん。ワタシもいる……」
「僕は指名手配でもされているのか? まあいい、今回の件は僕の失態という形なのだからな。大方あいつに言いふらされてるんだ、後でラージンは炉に放り込んでやる」
 ベルトラムは悪態をつきながらも十字架を前に祈った。フラーゴラも完成時に簡易なものを捧げたが、その場の空気を読みベルトラム同様にそれを行う。廃棄物として処理され、魔王軍の兵として利用されかけたゼロ・クールは土の下で眠っている。その眠りが安らかなものであって欲しい。
「ワタシも最初はちょっとどうかなって思ったんだけど……ベルトラムさんたちにもそれだけの理由があるんだよね……」
「そう、その通り。僕たちは大虐殺によって絶滅すら現実的なものになっている。そこに四天王とかいう訳のわからないお山の大将に襲われているのだからたまったものじゃないね。慰めにでも来てくれたのなら僕は大丈夫だ、気持ちだけは受け取っておく」
 無理をしているなとフリークライは感じた。しかし、彼の友人が言うように今は何も干渉しないでおく事にした。

 バクルドは何をするでもなく廃棄エリアを闊歩する。しんみりとした空気は性に合わないが、それでも思う所はある。
 このような悪趣味な敵をけしかける輩はもっと悪党だ。こちら側の人間がこのようなカラクリ人形に頼るしかないという状態を知っててやっているのならたちが悪い。プーレルジールやアトリエに義理こそないものの、胸をムカつかせた野郎は一度蹴り飛ばしてやるか。
 力任せに蹴ったゴミ箱が転がっていった。

成否

成功

MVP

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!
5Gに接続される所でした。

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